超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
動くと言っておきながら、短いうえにあまり動いていない。
後、別作品が始まるわけじゃありませんよ?
それでは、 剣を求めて はじまります


剣を求めて

 草木が一切存在しない荒野。

 

 荒れ果てた大地には、普段なら大小様々な形をしている石が転がっているはずであったが、今はそのすべてが細かい砂となっている。

 

 まるで砂漠となった荒野で、2人の男が荒い呼吸を繰り返しながら睨み合い、その手に持っている剣を構えていた。

 

「ハア、ハア、ハア……くっ、よもやこれほどまで私が追い詰められようとはな」

 

「ハア、ハア、ハア……勝負は見えた。大人しく投降しろ」

 

 2人のうちの1人、頭に牛の角のような太い2本の突起物が生えている男が苦しそうでいながらも、口元に笑みを浮かべながら両手に持っている2本の剣をクロスさせた。

 

 それを見たもう1人の男、漆黒の色をした短髪を綺麗にそろえている端正な顔立ちの青年は両手で剣を強く握りしめ、脇をしめるように構えだした。

 

 2人の姿はボロボロであり、体中についている血の痕や泥による汚れが目立っている。

 

 2人の険悪な雰囲気に感化されたのか、空には黒雲が蠢き、その間を紫電が走っていた。

 

 そんな中、青年が出した提案を嘲笑うかのように男が口の端を大きく吊り上げて歪んだ笑みを浮かべた。

 

「クククク、アーッハッハッハ!! 貴様に降れと言うのか? ここまで来ておいて、私を笑い殺すつもりか?」

 

「……頼む。もうこれ以上、そのような姿を晒さないでくれ」

 

「何を世迷言を……この姿こそが私の真の姿、貴様と決着をつけるためだけに力を求めたのだ!!」

 

 青年が苦しそうに顔を歪めながら訴えるのだが、男はそれに対して怒りを抱いたのか、憤怒の形相でクロスさせていた剣を払い、頭から青年へと突っ込むように前傾の姿勢となった。

 

 剣が擦れて発生した甲高い金属音と共に、男の体に赤黒い何かが全身を覆うように発生した。

 

「愚かだと思うのならば、笑えばいい!! しかし、私をこうしたのは貴様だ!! 貴様と言う存在が私を生んだのだ!!」

 

「……どうしても退かぬのか」

 

「くどい!! 今更引き下がれるとでも思っているのか!! もう全てが遅いのだよ!! 私か貴様か、生き残るのは1人だけだ!!」

 

「……やむを得んか」

 

 男に呼応するように、青年の体にも青白い何かが発生し、握っている剣の切っ先がわずかに下がった。

 

 眼光が鋭く細まり、冷たい光を灯し始めた。

 

「お前を変えたのが我ならば、それを終わらせるのも我の役目……行くぞ!!」

 

「来い!!」

 

 激しく火花を散らすように睨み合いながら、両者はじりじりと足を相手へと進める。

 

 斬り込むタイミングをうかがっていると、2人の視界が一瞬真っ白に染まった。

 

 遅れてやってくる爆発音により、雷が落ちたのだとわかるが、2人はその音よりも早く地面を蹴っていた。

 

「いああああああああああああああ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 雷の音など、2人の耳には入っていない。

 

 ただ目の前の相手を斬るためだけに雄叫びを上げながら駆け出していた。

 

 ……そして、その影が重なると、2人の体が上空から白い光に照らされた。

 

 交差し終わり、互いに背中を向けたまま立ち止まると、雷の落ちた音だけが辺りに響き渡った。

 

 しばらくすると音がすべて消え、まるで静止画のように2人の動きも止まってしまった。

 

 ……しかし、その無音の空間を壊すように金属のぶつかる音が鳴り響く。

 

「ぐふっ」

 

 斬られた箇所だけでなく、口からも大量の血を吐き出しながら地面に倒れたのは……男の方だった。

 

 うつ伏せに倒れた男は顔だけを横に向け、口の端から血を流しながら微かに笑みを作った。

 

「そうだ……これで、いい……これで……いい、ん、だ……」

 

「おい!! しっかりしろ!! おい!!」

 

 駆け寄ってきた青年が男の上半身を抱き上げながら呼びかけるが、それに対する反応は弱弱しいものである。

 

 男の目は今にも閉じてしまいそうなくらいに細まり、唇はすでに青白く変色をし始めていた。

 

 それでも男は満足そうに口元を緩め、震える手を自身を抱えている青年の手に重ねて口を開いた。

 

「あり……が……とう……これ、が……俺に……とって、の……すく……い……に……」

 

「もういい!! もういいからしゃべるな!! 今すぐ治療を……」

 

「ご……めん……に……いさ……ん……」

 

「っ!? おい!! 起きろ!! 起きてくれ!!」

 

 男は完全に目を閉じ、全身から力が抜けたように首を落として沈黙した。

 

 青年の手に重ねられていた手も触れ合っていた熱を感じさせないように白くなり、力なく離れていってしまった。

 

 青年が男を大きく揺らしながら呼びかけるが、もうその口が開くことは決してない。

 

 反応が返ってこず、青年が男の死を認めたと同時に、その体に一粒の滴が落ちてきた。

 

 それを皮切りに、砂のような大地にも染みが広がり始めた。

 

 ……雨が降り始めたのだ。

 

 青年は雨に濡れているにも関わらず、その場でわなわなと体を震えさせると、ゆっくりと顔を上げて目を大きく開けたまま空に向かって吠えた。

 

「ああああああああああああああああああ!!」

 

 その顔が濡れているのは涙せいなのか雨せいなのかはわからないが、青年の瞳に浮かんでいる星のような模様は悲しげに揺れていた。

 

 

*     *     *

 

 

「……何、これ?」

 

 フィーナは呆れたように頬づえをつきながら、目の前に映し出された映像に本気で疑問を抱いた。

 

〔何と言われましても、これは頼まれていた勇者に関する情報です〕

 

「……はあ?」

 

 エヴァの答えに、フィーナは思わず手のひらから顔を滑らせてしまった。

 

 その目は大きく見開かれており、口はあんぐりと間抜けに開かれたままである。

 

 そんなフィーナの様子がわかっているにもかかわらず、エヴァは淡々と情報についての説明を続け出した。

 

〔この作品は『それゆけ! ゆうしゃくん』と言うタイトルの勇者をモチーフにした番組です。現在、テレビ以外のメディアでも絵本や小説、ゲームや映画化などの話題もあがっている、ゲイムギョウ界に流れる勇者像の元になった作品です〕

 

「……それってフィクションよね?」

 

〔ええ、その通りです。しかし、今のゲイムギョウ界で勇者と言えば、この作品の人物像が浮かび上がるほどの認知度を誇っています〕

 

 エヴァの報告を聞き、フィーナは頭に鈍い痛みを覚えた。

 

 その痛みを和らげるために片手で頭を押さえて、目を固く閉じた。

 

 しかし、その口の端はぴくぴくと痙攣したように引きつっており、眉も小さく上下運動を繰り返していた。

 

「……これが父様、なのかしら?」

 

〔はい。それで先ほど流した映像は、件の作品の第34話『元日の悲劇!? 宿命の血』と言う話です。勇者がライバルである魔王を倒す話なのですが、実は魔王は勇者の弟で常に劣等感を抱いていたせいで、犯罪組織に身を落としたと言う設定のキャラクターなのですが、放映終了後に多数の結末変更の問い合わせが殺到したことで有名です。人気キャラクターであった魔王の死亡に納得がいかず、多くのファンが涙し、今でも物議が交わされています。その声に応えるために、只今スピンオフで魔王が主役の作品を制作すると言う話が……〕

 

「そんな情報は要らないわよ!!」

 

〔そうですか? ならば、一部のファンの間で有名な魔×勇の薄い本の情報でも……〕

 

「もっと要らんわ!!」

 

 淡々ともたらされる無駄な情報に、フィーナは顔を赤くしてエヴァの説明を遮った。

 

「何なの……何なのよ、この情報は!!」

 

〔命令通りに集めた情報ですが? ゲイムギョウ界中に流れる勇者の情報を集めろと命令されたのはフィーナではありませんか〕

 

 不満を漏らすフィーナの心情を理解できず、エヴァは命令された内容を再度確認した。

 

 ……以前フィーナはエヴァに勇者の情報を集めろと命令を下していた。

 

 しかも、最優先して早く集めろと念を押されたので、エヴァ自身も自分のスペックをフルに利用して情報収集に専念していた。

 

 しかし、その情報を報告すれば、フィーナは騒ぎだし、文句をつけ始めた。

 

 その行動に、エヴァが疑問を持つのも当然である。

 

「全然違うわよ!! これのどこが父様だって言うの!! まったくこれっぽちも似てないじゃない!!」

 

〔ですが、ゲイムギョウ界で勇者と言えば、この人物を……〕

 

「こんな偽物の情報なんて求めてないのよ!! 私は本物の父様の情報が欲しかったの!!」

 

〔……それは申し訳ございませんでした〕

 

 癇癪を起した子供のように喚き散らすフィーナに、エヴァは素直に自分の非を認めた。

 

 謝罪を受けると、フィーナは幾分か落ち着いたのか、ほんのりと頬は染まっていたが、座っていた椅子の背もたれに大きく体を預けて息を吐いた。

 

「……はあ、どうしてこんな情報を信じたのよ?」

 

〔これ以外の情報ですと、変質者だとか女神の敵などの到底勇者とは思えない情報しか集められませんでした〕

 

「変質者に女神の敵? それって、どんな情報なの?」

 

 続けられた情報に興味を持ったフィーナが背もたれから体を起こし、エヴァに続きを促した。

 

 エヴァは先ほどと全く変わらない様子で、同じように淡々と説明をし始めた。

 

〔何やら教会内で裸の男が歩いていたとか、女神候補生と口論の末に奴隷と呼ばれていた、幼女を誘拐しようとしていた、気持ちの悪い女装をして街を歩いていた、などの情報がありました。また、この情報により、女神を信仰する1部の信者達が勇者の排除運動をしているそうです〕

 

「排除? 父様を? ……バッカじゃないの。自分達は何もしてないくせに、父様に嫉妬しているなんて」

 

〔この運動に対抗するように各国の教祖、およびギルドが動いているとの情報もありますが、如何致しますか?〕

 

 フィーナはエヴァから聞かされた情報が、夢人のことであると確信を持てたことから、排除運動をしている信者達の行動に呆れてしまった。

 

 つまらなそうに頬づえをつき直して、唇をわずかに尖らせた。

 

 エヴァはそんなフィーナに指示を仰いだ。

 

 報告した情報を元に、フィーナがどう動くのかを尋ねているのだ。

 

 自分の指示を待つエヴァにフィーナは満足そうに頬を緩めた。

 

「放っておきなさい。父様がアイツの所にいられなくなるなら、こちらに囲えばいいだけの話。そうでなくても、わざわざ動く必要はないわ」

 

〔了解しました。それでは、何かご用があれば、お呼び……〕

 

「ああ、待ちなさい。まだ話は終わってないわ」

 

〔何でしょうか? まだ何か……〕

 

「あなた、私に何か隠してない?」

 

 一時機能を停止しようとしたエヴァを呼び止め、フィーナは自分の胸の中に燻っていた疑問をぶつけた。

 

 その顔には先ほどまで浮かべていた笑みはなく、ただ無表情にエヴァを見つめていた。

 

〔……何故そのようなことをお聞きになるのでしょうか?〕

 

「何となく、よ。勘でしかないけど、あなたが私に何かを隠しているように思えてしまうのよ」

 

〔そうですか。ですが、私には何も後ろ暗いところはありません。今は言葉でしか証明できませんが、それでもフィーナの力になることをお約束しますよ〕

 

「……わかったわ。今はその言葉を信じておくわ」

 

〔ありがとうございます。それでは、失礼します〕

 

 フィーナが目を閉じて納得したことを確認すると、エヴァは機能を停止したらしく、浮かんでいたモニターから光が消失した。

 

 明かりが減り、わずかに暗くなった部屋の中でフィーナは目を閉じたまま考え始めた。

 

(エヴァは何かを隠している……これは間違いないわね)

 

 フィーナは先ほどのエヴァの報告に違和感を感じていた。

 

 その違和感が、最初に起動させた時に自分のことを“デルフィナス”と呼んだことを思い出させていたのだ。

 

(何故エヴァと犯罪神はその名前を知っていたの? しかも、どうして悪魔などと呼ばれなければいけないの? “デルフィナス”とはいったい何なの?)

 

 今の自分の名前が吸収した犯罪神の知識から取った名前である以上、エヴァが知っていてもおかしくはない。

 

 しかし、自分の容姿だけを見て“デルフィナス”と呼んだことに疑問を持っていたのだ。

 

 それは、名前を得る前に出会った犯罪神も同様である。

 

 どちらの時も、悪魔と勘違いされた怒りが先行してしまい、詳しく聞くことができなかったが、フィーナは今更それを追求しようとは思っていなかった。

 

(私は『再誕』の女神フィーナ……悪魔や“デルフィナス”などではなく、唯一の『再誕』なんだ)

 

 勘違いしているのなら、違うと言うことを証明すればいい。

 

 フィーナは、自分が犯罪神やエヴァが語る“デルフィナス”やレイヴィスが言う悪魔などではないと胸を張れる。

 

 それはフィーナの絶対的な自信でもあり、誇りでもある。

 

(その『再誕』の女神である私を揺るがしたアレ……いったい何だったのかしら?)

 

 エヴァのことは一先ず置いておいて、フィーナは自身の中に眠っていたもう1つの疑問を掘り起こした。

 

 ルウィーのブロックダンジョンでレイヴィスと対峙した時のことを思い出していたのだ。

 

(アレは剣? すぐに爆発するように消えてしまったから、どんな形状かわからないのよね……ちょっと試してみましょうか)

 

 閉じていた瞳を開けると、フィーナは自分の右手のひらを静かに見つめだした。

 

 すると、右手のひらに次第に光が集まり、剣の形を作り始めた。

 

 フィーナはある程度形になった光の塊を握りしめて払うように振ると、光は霧散して1本の剣が姿を現す。

 

 ……その剣の名前はブレイブソード。

 

 ブレイブ・ザ・ハードの愛剣であり、夢人がアカリの力を借りて使用していた剣とまったく同じものである。

 

 出現したブレイブソードを見て、フィーナは疲れたようにため息をついた。

 

「はあ、これじゃないわね」

 

 フィーナはどうでもよさげにつぶやくと、ブレイブソードを宙に放り投げた。

 

 そのまま地面に落ちるかと思われたブレイブソードは、空中で再び光の粒子となって消えてしまった。

 

(もしかしてと思ってアイツと同じ剣を作ってみたけど、全然違ったわね……それじゃ、アレはいったい何だったの? 私の腕を斬り落としただけじゃなく、再生を妨害する能力があった、あの剣は……)

 

 フィーナはブロックダンジョンで、レイヴィスに斬られた時の感触を思い出しながら、あの光の剣のようなものの正体に頭を悩ませた。

 

 再生することができるはずの腕が元に戻らなかっただけでなく、激しい痛みを訴えてくる傷を付けられた記憶。

 

 フィーナにとって、忘れることができない出来事であった。

 

(魔王ちゃんの『特典』とか言う奴から考えて、アレは本物ではないはず……だとすれば、どこかに本物が存在しているわ)

 

 『再誕』の女神である自分を傷つけることができる武器。

 

 レイヴィスの『特典』を知っているフィーナからすれば、アレが本物でないことは簡単に理解することができた。

 

 しかし、そうなると問題は本物の方である。

 

(アレがもしアイツの手に渡ったら……そうなる前に手に入れるにしろ、破壊するにしろ、本物を探す必要があるわね。おあつらえ向きに、父様達は国民達の馬鹿な行動で動きが制限されている。今がチャンスね)

 

 先ほどエヴァの報告にあった排除運動のことを思い出し、フィーナは今が楽に動ける時だと判断した。

 

 すると、フィーナは何を思ったのか、再び目を閉じて椅子の背もたれに体を沈め始めた。

 

 そのまましばらく動かずにいたのだが、突然目を見開いて天井を見てにやりと笑いだした。

 

「……そう、ギャザリング城ね」

 

 フィーナは唐突につぶやきだすと、椅子から立ち上がって部屋を後にする。

 

 ……扉が完全に閉まると、部屋の中央が明るく光だした。

 

〔……やはり、行ってしまうのですか〕

 

 明るくなった原因、部屋の中央に現れた球体であるエヴァは悲しそうに声を漏らした。

 

 フィーナに夢人の情報を渡していた時とは違い、その音声には感情がこもっていた。

 

〔フィーナ……あの人と出会うことで気付いてくれることを祈っています〕

 

 エヴァの機械らしからぬ願望は、フィーナが出ていった扉に向けられた。

 

 届かない音声だとしても、エヴァは望まずにはいられなかった。

 

 その願いの音声はフィーナに届くことはなかったが、エヴァは確信している。

 

 フィーナの行動は決して無駄ではないと。

 

 ……向かった先で待つ人物がいるのだから。




という訳で、今回は以上!
何故かこのくらいの文量が久しぶりで懐かしく思えてきます。
最近はなんだかんだ言って多かったですからね。
それでは、 次回 「力を引き出せ」 をお楽しみに!

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