超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
……うん、書くネタがないので早速本編にいきましょうか。
それでは、 フィクション はじまります


フィクション

「ふぅ、やっと終わったわね」

 

「お疲れ様です」

 

 プラネテューヌの街にある一軒の建物から出てきたアイエフは疲れたように肩に手を置き、ほぐすように回しながらため息をついた。

 

 隣を歩いているコンパが苦笑気味に労うのだが、アイエフの顔は疲労のせいで覇気がない。

 

「ありがとう、コンパも付き合わせちゃって悪かったわね」

 

「わたしのことは気にしないでいいです。好きで手伝ってるんですから……それにしても、どうしていーすんさんは急にこんなお願いをしたんでしょうか?」

 

「それはわからないわ。でも、本当に何でプラネテューヌの学者達をルウィーに送るのかしら?」

 

 アイエフは疲れた顔から一変、コンパが投げかけた疑問を考えるために顔を引き締めた。

 

 彼女達が今までしていた仕事は、プラネテューヌの学者達にルウィーへの調査隊を編成してもらうことであった。

 

「工学系の分野なら技術交換のために派遣すると言うことも考えられるけど、あの人達の分野じゃ無理よね」

 

「地質学者さん達でしたよね? 化石とか発見する人達でしたっけ?」

 

「それは考古学の分野ね。まあ、私も詳しくは知らないし、広い意味では同じなのかもしれないけど」

 

 アイエフは1度立ち止まり振りかえると、今まで自分達が訪れていた建物を怪訝に思いながら見つめた。

 

「地質学者なんて人達をわざわざルウィーに送る理由なんて、普通に考えたらありえないわよね」

 

 アイエフは、先ほどまで交渉していた学者達の研究分野を思い出し、イストワ―ルから任された仕事の疑問を深めた。

 

(飾られていた研究資料とかも、全部プラネテューヌに関係するものだった。それなのに、ルウィーに送るわけは何?)

 

 建物の中には学者達の研究成果が目に見えるような形で貼り出されていたり、展示されたりしていた。

 

 しかし、そのどれもがプラネテューヌに関係するものであり、アイエフには彼らをルウィーに送る理由がないように思える。

 

 彼らはあくまでプラネテューヌでは専門家だが、ルウィーでは素人同然である。

 

 そんな彼らを送ったところで、ルウィーの学者達の邪魔になるだけのように思っていた。

 

「……はあ、これは直接イストワ―ル様に聞いた方がいいわね」

 

「ですね。帰ったら早速聞いてみるです」

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

「はいです」

 

 悩んだ挙句、アイエフは答えが出せないと判断した。

 

 疲れのせいで頭が回らないのか、考えを放棄すると肩を落として脱力しながら、見つめていた建物に背を向けた。

 

 ため息をつきながらイストワ―ルに直接尋ねることを決めたアイエフは、自分が立ち止まったことで同じように歩みを止めていたコンパに声をかけて再び歩きだした。

 

 しばらく無言のまま歩き続ける2人であったが、途中コンパがアイエフに先ほどとは違う疑問を尋ねた。

 

「そう言えば、あいちゃんはどう思ってるんですか?」

 

「何をよ?」

 

「夢人さんの理想についてです」

 

「……ああ、そのことね」

 

 コンパの言葉を聞いたアイエフは、どうでもいいと言わんばかりに適当な返事を返した。

 

 夢人達がプラネテューヌに帰って来てから、2人とイストワ―ルはネプギアから直接失踪した理由を聞いていた。

 

 そして、1人で考え抜いたネプギアの気持ちも3人は聞いていたのだ。

 

「ギアちゃんはああ言ってましたけど、直接聞いたあいちゃんはどう思ってるんですか?」

 

「【今】か【未来】って奴ね……正直、どうでもいいわ」

 

「え、どうしてです?」

 

 コンパは、手をブラブラと振りながら気の抜けた声で答えるアイエフを見て、大きく目を見開いた。

 

「あの子達はいろいろ考えてるみたいだけど、誰の理想だか本当に理解しているのかしらね」

 

「どう言う意味です?」

 

「結局はあの馬鹿の考える理想ってことよ。行き着く先は決まってるようなものじゃない」

 

「理想の行き着く先、ですか?」

 

「そうよ……まあ、あれこれ考えるのも仕方ないかもね」

 

 隣を歩くコンパが首を傾げながら自分を見つめているのを感じながら、アイエフは少しだけ口角を上げて空を見上げた。

 

「本当、あの馬鹿のどこがいいんだか」

 

 アイエフは青空に浮かぶ雲を眺めながら、夢人のせいで頭を悩ませているであろう5人の少女達の姿を思い浮かべた。

 

 本人達は辛いだろうけど、アイエフにとっては可愛い悩みである。

 

 よく考えれば単純で、答えが出ているような悩みであるからだ。

 

「あいちゃんはそれがわかってるですか?」

 

「当たり前よ。私だけじゃなくて、がすととファルコムにフェル、多分5pb.もわかってるんじゃないかしら?」

 

「そ、そんなにいるんですか? わたしには全然わからないんですが……」

 

「まあ、日本一とケイブもわかってないだろうし、あまり気にする必要はないわよ」

 

 コンパは自分がわかっていないのに、アイエフ以外にも4人も悩みの答えを理解している人物がいることに焦り出す。

 

 親友の気持ちが沈んでいるのをフォローするように、アイエフは落ち込むコンパを苦笑しながら慰めた。

 

「で、でも、わたしも夢人さんと長く付き合っているのに、何にもわからないのはちょっと悔しいです」

 

「付き合いの長さでわかるものじゃ……そ、それよりも早く帰りましょうか。さっきの件についてイストワ―ル様に聞かなくちゃいけないし」

 

「あっ!? 今誤魔化したです!? 酷いですよ!?」

 

 泣きそうになりながら悔しがるコンパをフォローする言葉が見つからず、アイエフは目を泳がせながら速歩きで教会への道を進み始めた。

 

 突然アイエフが自分を追い抜かして行った姿を見て、コンパは慌てて隣に並び歩くように足を速めた。

 

「も、もしかしてわたし鈍いですか!? 鈍感さんだと思われているですか!?」

 

「そ、それは……」

 

「教えてください、あいちゃん!? わたし、鈍くないですよね!?」

 

「あ、あははは……とりあえず、落ち着きなさいよ」

 

「で、でも……」

 

 涙目で詰め寄ってくるコンパの言い分に、アイエフは何も言うことができず、ただ乾いた笑い声をあげるだけであった。

 

 その笑い方が自分の疑問を肯定しているようで納得できないコンパであったが、苦笑いのアイエフが何も答えてくれないだろうとわかり、声を小さくして俯いてしまった。

 

「わたし、どちらかと言えば鋭い方だと思うですよ。それなのに、何でわからないですか?」

 

「コンパが鋭い、ね……ま、まあ、看護師だもんね。機敏に動かなくちゃいけない時もあるわよ、きっと」

 

「何で自分に言い聞かせるように言うですか……」

 

「ふ、深い意味はないわよ?」

 

「……むぅー、あいちゃんが虐めるですぅ」

 

 聞かされる主張に、アイエフはコンパのことをまともに見ることができなくなってしまう。

 

 わざとらしく視線をそらすアイエフの姿に、コンパは悲しそうに眉を下げながら拗ね始めた。

 

「もういいです。絶対にわたしは鈍くないです……答えがわかるのは、あいちゃんが夢人さんにラブラブしているからって勝手に納得してやるです」

 

「はあ? 何言って……」

 

「で、でも、そうなると、がすとちゃんやファルコムさん、5pb.ちゃんも……ま、まさか、フェル君も!? だ、駄目ですよ!? お、男同士の禁断の愛なんて不健全です!?」

 

「……そう言うところが鈍いのよね」

 

 勝手に暴走し始めるコンパに、アイエフは疲れたようにため息をついてしまう。

 

 まさかそんな発想をされるとは思っていなかったので、余計に頭が痛くなってしまったのである。

 

「はいはい、馬鹿なこと考えてないで、さっさと帰るわよ」

 

「で、でも、あいちゃんの恋のライバルが強敵過ぎて辛いですよ!?」

 

「だから、私は夢人のことなんて……ん? 何かしら、アレ?」

 

 ベールに弄られて以来、何かにつけて勘違いされているアイエフは呆れたように手で顔を覆いながら否定した。

 

 付き合いきれなくなったアイエフが先を急ごうとした時、視界の端に妙な人だかりを発見した。

 

 まるで演説をしているかのように、中心には頭一つ抜き出ている鉢巻とタスキをかけた男性が何かをしゃべっている。

 

「何をやってるのかしら?」

 

「選挙……じゃないですよね?」

 

「それはわかってるけど……近づいて聞いてみましょう」

 

「あ、待ってくださいですっ!」

 

 思考が混乱していたコンパも正常に戻ると、その人垣が何の集まりなのか疑問を抱いた。

 

 気になったアイエフは演説が聞こえる位置まで移動しようとコンパに呼びかけ、集団に近づいていった。

 

「遠くからじゃわからなかったけど、結構人が集まってるわね」

 

「でも、本当に何の集まりなんでしょうか……すいませーん、これって何の集まりなんですか?」

 

「ん? ああ、もしかしてまだ署名用紙を貰ってなかったんだね」

 

「署名用紙、ですか?」

 

 コンパが集まっている男性の1人に声をかけると、男性はにこやかに笑いながら2人に紙とペンを手渡した。

 

「はい、これね。ちゃんと記入して係りの人に渡してね」

 

「あ、ありがとうございますです」

 

「どれどれ……って、何よこれ!?」

 

「どうしたですか?」

 

「コンパも早く読みなさい!? とんでもないことが書いてあるわよ!?」

 

「え、えっと【勇者を語る変質者から女神様を守るのだ!!】……あ、あいちゃん、大変です!?」

 

 受け取った用紙を見て慌てるアイエフに、コンパは首を傾げながら尋ねると、自分も書いてあることを読み上げて驚いてしまう。

 

「事態は把握できたようね。早くこのことを夢人やイストワ―ル様に報告……」

 

「夢人さんの偽物がいるです!? ねぷねぷやギアちゃん達が大変です!?」

 

「って、そうじゃないわよ!? その顔写真をよく見てみなさい!!」

 

 コンパの的外れな言葉に崩れそうになったが、アイエフは用紙を突き付けて載せられている顔写真を指さした。

 

 そこには、紛れもなく夢人の顔が映し出されていた。

 

「これは間違いなく夢人のことよ!! 理由はわからないけど、このままじゃ大変なことになるわ!!」

 

「はわわわわわわ!? ど、どうしてこうなっちゃったです!?」

 

「わからないわよ!! とにかく急いで教会に……」

 

〔お集まりいただき、誠にありがとうございます!!〕

 

 2人が集団を抜けて教会に急いで向かおうとした時、中心にいた男性が口を開き始めた。

 

 男性は土台のようなものに乗っているのか、集まっている人達を見渡すと、拡声器を使って声を響かせ始めた。

 

〔我々は、女神様達を汚すこの御波夢人を語る変質者の排除に全力を尽くす所存です!! どうか、皆様も我々にお力をお貸しください!! 我らの女神様を守るために!!〕

 

『うおおおおおおおおおおお!!』

 

「……本格的にまずいわね。急ぐわよ!!」

 

「はいです!!」

 

 男性に扇動され、集まった人達が賛同するように大声をあげるのを聞き、アイエフは事態の重さに顔をしかめながらコンパの手を引いて教会に急ぎ戻るのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 アイエフ達が急ぎ教会に戻るために走っている中、渦中の人物である夢人は座禅を組んでいた。

 

 ネプギアの部屋の隣、本来なら使われていない部屋でネプテューヌとマジェコンヌに見守られながら、冷たい床の上で足を組んでいたのだ。

 

 自分の太ももに足の甲を乗せている体勢が辛そうに見え、ネプテューヌは夢人を心配してマジェコンヌに座禅の意味を問い始めた。

 

「ねえねえ、どうしてゆっくんは足を組んでるだけなの? 『再誕』の力をコントロールするって言うから、もっと剣や魔法の特訓みたいに派手なことをすると思ってたんだけど」

 

「『再誕』の力を使いこなすのに、そのような派手な特訓は必要ない。大事なのはイメージだ」

 

「大事なのはイメージ……それって……」

 

「うん? どうかしたの?」

 

「い、いや、何でもない」

 

 足の痛みに顔を歪めていた夢人であったが、マジェコンヌの口から出た一言に驚き目を見開いてしまう。

 

 それをネプテューヌに指摘されるが、夢人は咄嗟に誤魔化すように顔を左右に振りながら答えた。

 

(今の言葉、フィーナの言ってた言葉とまったく同じだ……やっぱり、トリックやジャッジ・ザ・ハードが言っていたフィーナは、あのフィーナなのか?)

 

 トリックやジャッジ・ザ・ハードが言っていたフィーナと言う『再誕』の女神。

 

 ネプギアと一緒に行った温泉旅行の帰りに出会った黒ロリファッションのフィーナと名乗った少女。

 

 マジェコンヌの言葉により、夢人の中で両者の姿が重なり始めた。

 

 元々、同一人物ではないかと予測はついていたが、今の一言により、よりその姿が重なって見えたのだ。

 

(でも、それならどうして俺にアドバイスを……)

 

「まあ、いい機会だな。貴様らは『再誕』の力がどのような力かわかるか?」

 

「え? それって『再誕』の女神、アカリちゃんの力ってことは知ってるけど……」

 

「……俺もよくわからない。ただゲイムギョウ界を救うために必要な力だってことくらい、かな」

 

 考えこんでいた夢人であったが、マジェコンヌはネプテューヌの質問を聞き、『再誕』の力についてどの程度の認識があるのかを確かめ始めた。

 

 詳しいことを知らないネプテューヌはマジェコンヌから視線をずらし、夢人に無言で尋ねる。

 

 しかし、その夢人自身も『再誕』の力に関する知識は皆無に等しいので、眉間にしわを寄せながらマジェコンヌを見つめた。

 

「ネプテューヌには期待してなかったからいいとして、勇者の言っていることは力の目的だな。私がこれから話すことは、力の根本的なものだ」

 

「ちょっと待って!? 今ナチュラルにわたしを馬鹿にしなかった!?」

 

「……さて、そもそも『再誕』の力とは……」

 

「無視しないでよ、マジェっち!?」

 

「誰がマジェっちだ!?」

 

 流れるようにスルーされたネプテューヌが怒りをあらわにすると、マジェコンヌは涼しい顔で説明を続けようとした。

 

 しかし、その無視もネプテューヌのいきなり付けられたあだ名に反応してしまう。

 

「ええい、邪魔をするな!! 大人しくそこで座って見ていろ!!」

 

「むっかー! わたしだって『再誕』の力について知りたいんだからいいでしょ! マジェっちのけちんぼ!」

 

「誰がけちんぼだ!! いつの時代もプラネテューヌの女神にはふざけた奴しかいないのか、まったく!!」

 

「そんなことないよ! わたしはいつだって真面目で可憐な美少女女神として有名……もがっ!?」

 

「話が進まないから、ちょっと黙ってような」

 

「もがもが」

 

 夢人は2人の言い合いを呆れたように見つめていたが、このままでは本題に入れないと悟ると、座ったまま少し無理をして上体を伸ばしながらネプテューヌの口を塞いだ。

 

 口を塞がれまともに話せないネプテューヌは、もごもごと口を動かすのと同時に頷くことで、夢人の言葉に両省のいを示した。

 

 それを確認すると、夢人は未だに怒りに顔を歪めるマジェコンヌへと視線を向け、困ったように笑いかけた。

 

「すいません、続きをお願いします」

 

「……わかった。結論から言えば、『再誕』の力とは情報を統括する力だ」

 

 怒りを無散させるように眉間を指でぐりぐりと押すと、マジェコンヌは真剣な顔になり語り始めた。

 

「そもそも女神の卵にはなんの情報も入っていなかった。しかし、その卵に様々な情報を入れることで力を発揮できるようになったのは知っているな?」

 

「あ、はい。アカリがネプギアに似ているのは、ネプギアの情報が入っているからなんですよね?」

 

「その通りだ。まず自分が活動できるようにするために、女神の身体データを入手する。それが女神の卵の起動条件だ」

 

『起動条件?』

 

 マジェコンヌが平然と話す内容に、夢人とネプテューヌは口をそろえて顔をしかめた

 

 それを見ているにもかかわらず、マジェコンヌは淡々と説明を続けていく。

 

「次に重要になってくるのが、各国にいるゲイムキャラからその土地の情報を入手することだ。これにより、女神の卵は十全に力を発揮できるようになり、勇者と言う殻を破って『再誕』の女神が降臨する……そうなるはずだったのだが……」

 

「俺がアカリを卵の状態の時に起こしちゃったんですよね?」

 

「そうだ。本来ならすべての情報が集まらなければ起動しないはずであった女神の卵が、貴様の影響で不完全ながらも起動してしまった……その結果が今の状況だ。女神の卵は砕け散り、『再誕』の女神は2人になってしまった。しかも、その1人は充分に力を発揮できない。すべて貴様のせいだ」

 

「……はい」

 

 感情を感じさせないマジェコンヌの視線を受け、夢人は自分が責められているように感じた。

 

 実際に、マジェコンヌは夢人を責めているだろう。

 

 しかし、その瞳は何の感情も映しておらず、誰もその心を察することはできない。

 

 ただ今の状況を招いてしまった夢人は責任を感じて、顔を俯けてしまった。

 

「ふん、自覚はあるみたいだな……まあいい、これから貴様にはその責任を取って、『再誕』の力を完全にコントロールしてもらうのだからな」

 

「具体的にはどうするの?」

 

「簡単なことだ。これから勇者にしてもらうことは……」

 

「夢人!?」

 

 ネプテューヌの疑問にマジェコンヌが答えようとした時、部屋の扉が乱暴に開かれ、アイエフが夢人の名前を呼びながら慌てて入ってきた。

 

「アイエフ? いったいどうし……」

 

「いいから、これを読みなさい!!」

 

「おっと……ええっと、なになに……は、はああああああ!?」

 

 突然入室してきたアイエフに目を白黒させていた夢人であったが、手渡された署名用紙に目を通すと大きな声で驚きの声を上げてしまった。

 

 その声を聞き、ただ事でないと察したネプテューヌとマジェコンヌも夢人の脇から用紙を覗き込み、口をあんぐりと開けて呆然としてしまう。

 

「状況はわかったようね……もうコンパがイストワ―ル様に報告しているはずだから、早速対策を立てるわよ!!」

 

「わ、わかった……で、でも、待ってくれ」

 

「何よ? どうかしたの?」

 

 緊急事態だと理解したにもかかわらず、待ったをかけた夢人をいぶかしむように見つめるアイエフであったが、次に耳にした言葉を聞いてジト目になってしまったのは仕方ないことであっただろう。

 

「あ、足が痛くて、上手く立てないんだよ」

 

 情けなく顔を引きつらせながら夢人は口を開いた。

 

 その足はぴくぴくと痙攣したように動いていて、余計に情けなさを誘うように見えた。

 

 

*     *     *

 

 

「このような事態になったのは、すべて私達の見通しの甘さのせいです。本当に申し訳ございませんでした」

 

 足の痛みがある程度消え、夢人がぎこちなく歩けるようになった頃には、すでに広間にはイストワ―ルとコンパ、ネプギア達が全員集まっていた。

 

 遅れてやってきた夢人達が到着すると、イストワ―ルは申し訳なさそうに顔を歪めて夢人に謝罪をし始めた。

 

「本来なら、このような事態になる前に何か手を打つべきでしたのに、ここまで大きくなるまで動きを察知できませんでした。夢人さんには謝って済む問題ではないとわかっていますが、本当に申し訳……」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? そんなに頭を下げないでくださいよ!?」

 

 広間に入って来て開口一番にイストワ―ルから頭を下げながらの謝罪を受け、夢人は逆に恐縮してしまった。

 

「いーすんさんは、どうしてこんなことになったのかわかるんですか?」

 

「ちゃんと説明してよ。どうして夢人が偽物の勇者みたいに言われてるの?」

 

 言葉は柔らかいが、ネプギアとナナハのイストワ―ルに尋ねる口調は固いものであった。

 

 その言葉に賛同するように、ユニ達もイストワ―ルを見つめる視線が鋭くなった。

 

「……わかりました。コンパさん、皆さんに見せてください」

 

「はいです。これがこの事態の原因です」

 

 頭を上げたイストワ―ルの顔は暗いままであったが、この事態の原因を説明するために、コンパに持ってきてもらったあるものを全員に見せた。

 

 ……しかし、それを見た途端、全員の動きが固まってしまった。

 

「え、えっと……これって、ツッコミ待ち?」

 

「そんなわけないでしょ……でも、さすがにそれはないんじゃないでしょうか?」

 

「いえ、お2人の気持ちもわかりますが、事実これが……この作品が今回の騒動の原因なんです」

 

「……ま、マジ?」

 

 硬直が解けたネプテューヌとアイエフが冗談だと笑い飛ばそうとするが、イストワ―ルは真剣な声ではっきりと断言する。

 

 その声を聞き、全員が真実であると理解することができた。

 

「嘘でも冗談でもなく、今回の騒動の原因はこの作品……『それゆけ! ゆうしゃくん』が原因なんです」

 

「嘘だそんなことおおお!?」

 

 悲しげに語るイストワ―ルの説明を聞き、夢人はひざから崩れ落ちた。

 

 四つん這いのような態勢になり、認めたくないと言わんばかりに拳を強く握って床を強く叩いた。

 

「そ、その……どうしてそれが今回の事態に繋がるんですか?」

 

「それは、この本の最後の部分を読んでもらえばわかります」

 

「それじゃ、読ませてもらうです」

 

 いきなり叫び出した夢人を心配しながら横目で見つめているネプギアだったが、疑問を解消するためにイストワ―ルに話の続きを促した。

 

 それに頷いて応えたイストワ―ルは、本を持っているコンパに目線で合図を送り、最後の部分を読み上げてもらう。

 

「【この作品はフィクションです。実在の登場人物や団体・役職・事件などには関係ありません】と書かれているです」

 

「……つまり、そう言うことです」

 

 コンパの朗読が終わると、イストワ―ルは再び沈痛な面持ちになり、悲しそうに俯きながらつぶやいた。

 

 しかし、この場にいるネプギア達は未だ理解に及んでおらず、当人である夢人も事態を把握できていなかった。

 

「な、何で今のが原因になるの?」

 

「フィクション、作り物、実在とは関係ない……あっ」

 

「わ、わかったのか、アイエフ?」

 

 イストワ―ルにくわしく説明してと頼もうとするネプテューヌをよそに、1人ぶつぶつと考えこんでいたアイエフが何かを思いついたように声を漏らした。

 

 夢人はその声に不安なものを感じるが、アイエフを見上げながら尋ね出した。

 

「夢人、この物語は作りもので、登場する人物は架空の存在なのよ」

 

「あ、ああ。で、でも、それがどうして……」

 

「だから、この主人公も架空の人物で、勇者も想像上の職業なのよ」

 

『……あっ』

 

 アイエフの順を追った説明に、全員が声をそろえて何が言いたいのかを理解することができた。

 

 その中で、夢人はアイエフの言葉に冷や汗が止まらなかった。

 

「ま、まさか、俺って……」

 

「そうよ。アンタは……いえ、御波夢人と言う人間は……」

 

 恐る恐る自分を指をさしながら顔を強張らせる夢人を見て、アイエフは辛そうに目を伏せながら事実を口にした。

 

「ゲイムギョウ界では、存在しない人間になっているのよ」




という訳で、今回は以上!
ここで告知で、実はエイプリルフールネタで嘘予告なんてものを書こうかななんて思っていたのですが、昨日、いや、これを投稿しているときはおとといになっているか、とりあえず、番外編で嘘予告を今週末に2本あげる予定です。
せっかく設定を考えたので、このまま埋もれさせるのはもったいないですからね。
まあ、本編を優先して余った時間で作る予定なので期待しないで待っててください。
それでは、 次回 「名前を勝ち取れ」 をお楽しみに!

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