超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
予想以上に導入話が長引いてしまい、昨日は投稿ができませんでした。
すいません。
ですが、今日ようやく新章に移れます。
それでは、 炎上 はじまります
炎上
「……うん、やはりおかしいね」
椅子に座っている1人の女性がモニターに映る映像を観て、口元に指を当てながら眉のあたりにしわを寄せていた。
女性が手に持っていたリモコンを操作すると、モニターに波が発生し映像が戻り始める。
映像を巻き戻した女性は再びモニターを凝視し始め、目当ての物が映っているシーンになると映像を止めた。
睨むように映像を見つめていた女性であったが、しばらくすると諦めたように肩を落としてため息をついた。
「僕だけでは判断できないか……」
集中していた思考を無散させるように頭を左右に振ると、女性は椅子から立ち上がり、モニターとは逆の方向に歩き始めた。
そこには部屋に備え付けられていた通信機があり、女性は慣れた手つきでどこかへと連絡を取り始める。
〔はい、こちらルウィーの教会ですが、ケイさんですか?〕
「ああ、そうだよ。突然の連絡で申し訳なく思うのだけれど、少々頼みたいことがあってね」
女性、ケイが連絡を取ったのはルウィーの教会であった。
連絡を受けたミナであったが、その声に驚きは含まれておらず、普段の柔らかい声とは違い、固い声で尋ね始めた。
〔もしや、例の件で何か進展でもありましたか?〕
「その確信を得るために、ルウィーの人間に確かめて欲しいことがあるんだ。手配を頼んでもらえないだろうか?」
〔……わかりました。私の方で調査隊を編成してラステイションへ送らせていただきます〕
ケイの要求にミナは考え込んだが、応じることを決めた。
「助かるよ。それと、そちらの方の調査はどうなっているんだい?」
〔現在はチカさんに協力してもらって調査を続行しているのですが、あまり進展がありません〕
「……だとすると、イストワ―ルにも協力を依頼するしかないね」
〔ええ。ですから、先ほど私もケイさんのように協力をお願いしました……これで解決してくれればいいのですが……〕
「あまり楽観視はしない方がいいかもしれないね。確実にわかっているのは、リーンボックスだけなんだから」
〔そうですね……それでは、これから手配致しますので準備が整い次第、こちらから再度連絡を入れさせていただきます。それでは失礼します〕
「よろしくお願いするよ。それでは……ふぅ」
通話を終えると、ケイは天井を仰ぎみて大きく息を吐いた。
「……まったく、厄介な事態にだけはならないで欲しいよ」
ケイは1人、疲れたようにつぶやくと目を閉じた。
しばらくして、一時停止していたモニターの映像が再び動き出す音を聞こえ始めるまで、ケイはその場を動くことはなかった。
* * *
……アタシは何やってるんだろうな。
「うーにゅ、できた!」
「どれどれ……うん、上手に描けてるじゃない!」
「アカリちゃん、上手く描けてる(にこ)」
「くひひっ、わたしとパパとママ、かけた!」
目の前で白い画用紙にお絵描きをしているアカリとロム、ラムがいる。
アカリが自分の描いた絵を2人に見せながら嬉しそうに笑ってるわね。
ここからじゃ肌色と髪の色、服の色しかよくわからないけど、自分と夢人、そしてネプギアを描いたらしい。
「ママみて! どう?」
「うん、とっても上手に描いてもらってママも嬉しいよ」
「くひひひっ、ママもいっしょにかこう!」
「わかったよ。それじゃ、ママもアカリちゃんのことを描いてあげるね」
「あ、じゃあ、わたしの使いなさいよ。ほら」
「ありがとう、ラムちゃん」
描いた絵を見て、ネプギアもにこにこと嬉しそうにほほ笑みながら、アカリの頭を撫でている。
それが嬉しいのか、アカリは笑みを深めてネプギアにも一緒にお絵描きに参加してもらうように頼みだした。
ネプギアも了承し、ラムのお絵描きセットを借りてアカリの絵を描こうと……って、何でアタシはこんな光景を見せられなければいけないのだろうか。
「暇しているなら、ユニも参加してくれば?」
「遠慮しておくわ……それより、さっきから何を読んでるのよ?」
「恋愛小説……平凡な青年が宇宙からやってきた美少女や幼馴染達といちゃいちゃするラブコメもの」
「……何てもの読んでるのよ」
アタシは隣で本を読んでいたナナハに声をかけたのだが、コイツもなんて本を読んでるんだか。
……アタシ達は今、プラネテューヌの教会にあるネプギアの部屋に集まっている。
リーンボックスの1件が終わり、犯罪組織と同じ名前を持つ女性マジェコンヌと共にプラネテューヌに来ていたのだ。
表向きはマジェコンヌの監視。
夢人が『再誕』の力を使いこなすために、マジェコンヌに師事しているのだけど、アタシ達は完全に信用したわけではない。
だから、もしもの時が起こった場合、夢人を守るためにアタシ達が集まっていると言うわけだ。
お姉ちゃん達は、気心の知れたアタシ達候補生が護衛に相応しいだろうと判断してくれたのである。
そして、もう1つ理由がある。
この場にいるアカリ以外の5人に関係していること……夢人のことを異性として好きであると言うことだ。
どうしてもネプギアが自分の気持ちを知ってもらいたいらしく、ルウィーにいたロムとラムも呼んで話を聞かせてもらった。
……もちろん、アタシ達全員で気持ちを確かめ合ったのだ。
皆夢人のことが好きですか……って、女同士の告白大会みたいな感じになってしまったの。
正直、自分の気持ちを話すのは恥ずかしかったけど、それ以上に他の皆が何を考えているのかを知れてよかったと思う。
特にネプギアとナナハの気持ちを……
「それ、面白いの?」
「あんまり……主人公の好きな女の人がメインヒロインじゃないことは嬉しいんだけど、どうにもそのヒロインも好きになれないんだよね。なんて言うか、天然過ぎて」
「……歪んでるわね」
「自覚はあるよ。自分でも捻くれてるって」
アタシの質問にナナハは本から目を離さずに答えた。
面白くないと言っても、目が離せないほどには熱中しているのね。
それにしても、そのヒロインに対する感想はどうにかならないの?
「そのヒロインを通して、誰かさんを見てんじゃないわよ」
「それはわかってるんだけど、どうしてもこの八方美人な所とか、天然お花畑な思考回路とか読んでると、誰かさんにそっくりでちょっとイラッてくるんだよね」
「現実とフィクションを混同させてるんじゃないわよ……まあ、その気持ちはわかるけど」
「だったら、ユニも読んでみる? ちょうどそっくりなツンデレの子が出てるから、ユニも気に入ると思うんだけど……」
「遠慮しとくわ。それと、アタシはツンデレじゃないわよ」
今は強くツッコム気力すらない。
いろいろと考えさせられて、頭がパンクしそうなのだ。
こんな状態でナナハが読んでる本なんて呼んだら、きっと内容に怒りだして途中で投げ出してしまうだろう。
「何か悩みでもあるの? 私でよければ聞くけど?」
「……アンタ達のことで悩んでるのよ」
「私達? ……ああ、さっきの話か」
ようやく本から顔を上げたナナハは、心配そうにアタシを見てくる。
でも、悩みの種から心配されても、余計に頭が痛くなるだけだ。
「正直、アタシはアンタやネプギアみたいな考えを持ってなかったのよ。ただ夢人のことが好きで、どうやったら振り向いてもらえるんだろうな、ってくらいにしか考えてなかった」
気が付けば、アタシは自分の気持ちをナナハに告白していた。
今更ナナハに隠していても仕方ないことだし、誰かに聞いてもらいたいと思ったからだ。
「でも、アンタ達はその先を考えてた……何ていうか、こう女として敗北感を味わった気分だわ」
「別にいいんじゃないのかな。私やユニは挑戦者側だし、まずは試合に勝つことを優先してもおかしくないと思うよ」
「勝負に負けたら意味がないのよ。ただでさえチャンピオンが強敵なのに、その気持ちがアレなんだから」
「……まあ、そうだよね」
アタシの言葉に、ナナハも疲れたようにため息をついた。
ブラックディスクに入っていた夢人の記録を見たアタシだからこそ、余計にネプギアとナナハに劣等感を感じてしまう。
過程と目的、アタシはその先を見ていなかったのだ。
きっと夢人も同じ思いを抱いたんだろうな。
「なに2人で話してるの?」
「ちょうどいいところに来たね。ラムも一緒に考えてくれないかな?」
「う、うん、別にいいけど……大したことは言えないわよ?」
「思ったことを言ってくれればいいのよ。今はいろんな考えが知りたいんだから」
ネプギアと交代してきたラムにも会話に参加してもらおう。
まあ、今は愚痴をこぼしているだけみたいな感じだから、そんなきょとんとするんじゃないわよ。
アタシは隣に座って目を丸くするラムに、早速尋ね始めた。
「ラムはネプギアとナナハの考え、どっちが正しいと思う?」
「……それって、さっき言ってた【未来】か【今】かって話?」
「そう、ラムだったらどっちがいいと思う?」
ラムは眉間にしわを寄せて、唸りながら口を開いた。
「……うーん、わたしはよくわからないんだけど、どうしてユニちゃんやナナハちゃんは夢人が死んじゃうなんて思ったの?」
「そのことね……まあ、簡単に言っちゃえば、夢人が悪いのよね」
「そうだね。夢人がネプギアのことを好きなのが問題なんだよ」
「ど、どう言う意味なの?」
アタシはラムとは逆方向にいるナナハに確認を取るように視線を送ると、すぐに返してくれた。
ラムはわからないみたいだけど、ここはアタシ達の共通認識だろう。
夢人が死ぬ原因は、決してネプギアだけの問題でなく、その気持ちにも関係している。
「夢人がネプギアのことを特別視しているのは知ってるでしょ?」
「う、うん」
「そのせいで、夢人はネプギアを過剰評価しているんだよ」
「それはちょっと違うんじゃない? アタシは過剰評価って言うより、ネプギアが夢人に嫌われないように逃げているせいだと思うんだけど」
「間違ってないと思うけど、それだとネプギアが夢人の気持ちに気付かないのはおかしいよ。いくら鈍いと言っても、あんなにわかりやすいんだから」
「そうなのよね。ネプギアも、夢人の気持ちがわかれば逃げる必要はないし、過剰評価もされるはずがないのよね」
「でも、ユニの言う通り、ネプギアは夢人に背を向けている気もするし、その逆も考えられるんだよね」
「そこが厄介なんでしょうよ。何であの2人、アレで両思いなのよ?」
「わからないよ。別にお互いのことを見ていないわけじゃないのに……本当に理不尽だと思う」
「まったくよ。だいたい、夢人はネプギアの……」
「もー! 2人だけで話をしないでよ!」
アタシとナナハが、夢人とネプギアの関係の歪さにうんざりしていると、蚊帳の外になってしまったラムに怒鳴られてしまった。
「わたしにもわかるように話してくれるんじゃなかったの! 2人の話、全然わからないよ!」
「ごめんごめん、ちょっとユニと確認するだけのつもりだったのに、改めて考えこんじゃったよ」
「悪かったわよ……そうね、ラムにもわかる言い方だと、2人はお互いの背中を追いかけている、ってことかしら?」
「うん、概ねそんな感じだと思うよ」
「背中を追いかけてる? それって、おかしくない?」
いろいろと考えていたけど、2人の関係は表現するなら、こんな風になると思う。
ラムはそれでもわからないみたいで……って、当たり前よね。
こんなおかしな関係をすぐ理解できたなら、さっきまでの会話で察しがついているはずだ。
「2人が言うには、夢人はネプギアの背中を、ネプギアは夢人の背中を追いかけてる、ってことなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「でも、それって無理だよね? 背中を追いかけるのなら、どっちかが前にいないといけないのに、2人とも相手が前にいると思っているんでしょ?」
「そこが厄介なのよ。2人は本気で相手が前にいると思って、相手に追いつこうとしているのよ」
「そのくせ、思いが通じ合っているんだから、余計にややこしいんだよね」
アタシは思わずため息をついて、アカリとロムと一緒にお絵描きをしているネプギアをジト目で見つめてしまう。
……多分、わかってないのは本人達だけなんだろうな。
「気持ちは向かい合っているのに、その相手の背中しか見えてない。私が話した限り、ネプギアは夢人のことをしっかり見ている」
「それは夢人も同じよ。アイツはずっとネプギアのことを思い続けてきたんだから、勘違いしているはずがないわ」
「……え、えっと、ちょっと待って。じゃあ、2人はどうやってお互いの背中を見れるの?」
ラムは頭を抱えて困惑した様子で、アタシ達に尋ねてきた。
まあ、当然の反応よね。
2人はお互いをしっかり見ているはずなのに、その背中しか見ていない。
普通なら気持ちが通じ合っていれば、正面から向かい合うことができるはずである。
……それなのに、2人は相手の背中しか見れない。
「私達は2人がその場でグルグル回っているんじゃないかって思っているんだ」
「その場でグルグル?」
「えーっと、猫が自分の尻尾を玩具だと思って追いかけてる感じかな?」
「微妙に違うような気がするわ……単にその場で動いてないだけよ」
ナナハは人差し指をグルグルと回してラムに説明するけど、アタシに言わせてもらえば、その例えはちょっと違うような気がする。
アタシには、2人が進んだり戻ったりを繰り返して停滞しているように思える。
「別に進んでないとは思わないんだけどな。私は2人でグルグルと回っている輪が、少しずつずれていっているように見えるんだけど」
「そうかしら? アタシは柱を中心に、その周りを2人でグルグル回っているような関係だと思っているんだけど……うーん、よくわかんないわね」
「まったくだよ。しかも、本人達は無自覚でしょ? 追いかける私達の身にもなって欲しいよ」
「本当よ……はあ、どうしてこんな恋をしちゃったんだろうな」
「それは言わないお約束だよ。ほら、好きになった方の負けってことで、頑張らないとね」
「わかってるわよ、それくらい。でも、少しくらいは言わせて欲しいわ。アンタ達はいったい何をやっているんだって」
夢人に恋しているアタシ達からすれば、2人の関係は本当にもどかしい。
文句の1つでも言いたくなるくらい、2人の関係に苛立ちや呆れ、羨ましいとも思ってしまう。
「それで、結局どっちが正しいの?」
「悪いんだけど、私達にもどっちが正しいのかわからないんだ。もしかしたら、もっと複雑な関係なのかもしれないし……」
「グルグル回ってる関係が、1番シンプルってのもおかしいけどね。とりあえず、どうして背中しか見れていないのかはわかったわね?」
「うん、何となく」
「それで充分よ。それじゃ、最初の疑問に戻るわよ。どうして夢人が死んじゃうのかよね? ……グルグル回ってる関係だと、夢人が前に踏み出せないからよ」
これはアタシとナナハの共通認識。
だからこそ、アタシ達はネプギアに対して怒りを覚えた。
「夢人は理想を叶えるために【未来】に踏み出そうとしているわ。でも、今のネプギアとの関係じゃ、前に踏み出すことができずに足踏みするだけで終わってしまう」
「しかも、リゾートアイラン島でも言っていた通り、夢人は転んでも前に進もうとする。私達は何度もその姿を見ているでしょ?」
「……うん」
「だから、夢人は何度も転んでもがいて立ち上がって前に進もうとしても、本当は一歩も進むことなく理想に近づけなくなってしまうんだよ」
アタシ達の説明を聞いて、ラムは顔を暗くして俯いてしまった。
ラムもそんな姿を知っているからこそ、ただ傷つくように生きる夢人を想像してしまったのだろう。
「だったら、夢人がネプギアのことを追いかけなければいいじゃない!」
「無理だよ。それを言ったら、私達が夢人を諦めるのと同じことを、夢人に強要してしまう」
「っ、そっか……そうだよね」
打開策だとばかりに強気で言い放った言葉もナナハに返されてしまい、ラムは悲しそうに顔を沈めてしまった。
「皆追いかけているから、誰も捕まらないんだよね?」
「そうだね。私達も夢人もネプギアも、追いかける立場でしか考えてないから、誰も重ならないんだ」
「誰かが立ち止まれば、その背中にぶつかって皆止まって重なることができるかもしれない……でも、誰もそれを望んでないのよ」
少なくとも、アタシ達と夢人は歩みを止めようとは思わない。
アタシ達は夢人に振り向いてもらおうために進むことを止められないし、夢人は理想を叶えるために足を止めることができない。
だったら、ネプギアはどうなのかって言うと……はあ、これも問題なのよね。
「仮に全員が同じ場所で重なった場合、夢人とネプギアは対面してしまう。つまり、晴れて2人は恋人同士になって、アタシ達の恋は終わってしまうってわけ」
「自分勝手だってわかってるけど、私達だって夢人と恋人になりたい……だから、ネプギアよりも早く夢人と重ならないといけないんだけど、2人の間に割り込めないんだよね。本当の位置関係がわからない私達は、夢人を追うことしかできないんだよ」
「どうして? 間に割り込むなら、簡単にできるんじゃないの?」
「それが難しいのよ。あくまでグルグル回っているような関係は、そう見えるだけで本当はもっと複雑だったり、もしかしたら真っ直ぐだったりするかもしれないのよ? そんな中に割り込めるわけないじゃない」
2人の位置関係がわからない以上、アタシ達は割り込むことができない。
強引に割り込んだとしても、的外れな場所に着地してしまう可能性だって充分ある。
かと言って、何もしないわけにもいかない。
だから、アタシ達が現状でできる最高の一手は、ひたすらに夢人を追うことだけ。
ネプギアを追いかけようとする夢人に追いつくことが、アタシ達の恋を叶えるために必要なプロセスである。
そこからどうなるかはわからないけど、とりあえず夢人を捕まえなければ話にならない。
「そうだね……まったく、ネプギアがあの時【今】じゃなくて【未来】を選んでくれていれば、もっと簡単だったのに」
「いつまでも引っ張るんじゃないわよ。一応、ネプギアの考えに納得はしているんでしょ?」
「理解はしているけど、今でも納得はしてないよ。だって、ネプギアの考えは結局現状維持に近いんだよ? 納得できるわけないよ」
「……どう言う意味? どうしてナナハちゃんは【今】じゃ納得できないの?」
「別にその考えが悪いわけじゃないんだけど、ネプギアがそれを選ぶことをちょっと認められないんだ」
ナナハは自嘲気味に軽く口元を緩めて、眉根を下げて口を開いた。
「この関係がずっと続いていけばいい、そんな風に思う気持ちは私にもわかるよ。でもね、それじゃいつまで経っても夢人が報われないんじゃないかって思うんだ。夢人とネプギアはお互いの背中を見続けて、私達はそんな2人の関係を傍観しているしかできない……私はそんなの堪えられないよ」
ナナハは目を細めて、今にも泣き出しそうな顔で言葉を続けた。
「私は夢人の1番になりたい。ラムやユニだって同じ気持ちでしょ? 好きな人に自分のことを見て欲しい。でも、好きになった人には1番がいて、気持ちが通じ合っているのに一向に近づく気配がない。なら、私達の気持ちはどうすればいいの? ……今の関係を壊してでも、無理やりにでも夢人と重なるしか方法がないよ」
「……それがナナハちゃんの考える【未来】なの?」
「うん。でも、強引に割り込んだところで夢人の気持ちが私に向くとは思ってない。だから、ネプギアにも【未来】を選んで欲しかった。そうすれば、少なくとも私達も同じステージに立つことができたのに」
「今更そんなこと言ってんじゃないわよ。アタシ達とネプギアじゃ、どうしても目線が違うんだから」
俯こうとするナナハを励ますつもりで、アタシは慰めの言葉を送った。
ネプギアとアタシ達とじゃ、夢人を中心とした位置関係も違ってくる。
前にネプギア、後ろにアタシ達だ。
もし仮に、ネプギアが前に踏み出すことを決めていたら、夢人との関係は一直線になる。
グルグル回っている関係から、ネプギアが先頭になって抜け出す形になっていただろう。
そんな一直線の関係なら、ナナハもネプギアが立ち止まろうとしても何も言わなかっただろう。
アタシ達にも夢人に追いつくチャンスがあるからだ。
……でも、これはすべてイフの話になってしまった。
ネプギアは【今】を選んだのだから。
「アタシ達はアタシ達なりに、夢人を振り向かせるしかないでしょ? アンタも言ってたじゃない、アタシ達は夢人の気持ちもネプギアの気持ちも否定しちゃいけないってさ」
「わかってるよ。でも、時間がないかもしれないのに、緩やかな変化を待っていられるほど、私の心は強くないんだよ」
「人間の寿命に加えて、夢人がバグになる可能性ね」
ナナハがどうして【未来】、急激な変化を望んでいるのかは理解しているつもりだ。
夢人は人間で、アタシ達女神よりも先に寿命が尽きてしまう。
さらに、夢人がゲイムギョウ界に居られなくなってしまうかもしれないって話を聞いたら、時間がないと焦るのも仕方ないかもしれない。
「でも、バグの方は皆でどうにかすれば……」
「どうにかできなかった場合はどうするの? 明日には、また夢人が目の前から消えなくちゃいけなくなってしまうかもしれないんだよ。タイムリミットが見えないのに、悠長に構えてなんていられないよ」
「それは悲観しすぎよ。今はアカリの力でなんとかなっているんだから、少なくとも『再誕』の力がすべてなくならない限りは、夢人はゲイムギョウ界にいるわ」
「だったら、アカリの力は後どれくらい残っているの? アカリが赤ちゃんの姿をしているのは、力が不足しているからなんでしょ? 不確かな保証なんて、余計に不安にさせるだけだよ」
「落ち着いて、ナナハちゃん。確かに不安な気持ちもわかるけど、1つずつ解決していくしかないじゃない」
「そうよ。今だって夢人がマジェコンヌに師事しているのは、その『再誕』の力をコントロールするためなのよ。それができれば、この世界で生きていくことができるかもしれないわ」
「……ごめん、2人とも。神経質になり過ぎてたよ」
ナナハは顔を手で覆いながら、疲れたように脱力してつぶやいた。
気持ちはわかるけど、ネガティブに考えすぎよ。
「夢人のことを信じてないわけじゃないんだけど、胸の中の不安が消えないんだ。夢人を見ていると、シャボン玉が割れるみたいに、突然消えてしまうんじゃないかって思う時があるんだよ」
「……考えすぎ、ってわけでもないわね。夢人には前科があるし、懸念材料は他にもあるわ。そうでしょ、ラム?」
「うん、最初はゲイムギョウ界にいることを諦めてたもん。夢人はアカリが世界を修復できないなら、自分は消えた方がいいって考えてた」
「つくづくこっちの気持ちを考えないで突っ走る男よね……アタシ達はそんなに頼りないかしら」
「そうじゃないと思う。ただ頼り方がわからないんじゃないのかな……男のプライドとかいろいろ邪魔してさ」
「……本当に救えないわね」
アタシ達は女だから、男のプライドなんてわからない。
でも、夢人にとって譲れない一線と言うのもあるのだろう。
その結果がギョウカイ墓場のことや、ブラックディスクに記録されていた機械のような夢人だ。
ここでそれをくだらないと言うのは簡単だけど、理解できないからと言って否定していいものではない。
「でも、そう考えているなら、よく告白の返事を急がなかったわね。本当はすぐに聞きたかったんでしょ?」
「それは、ね。ネプギアじゃなくて、告白をした私を見て欲しいって思うよ……でも、今はきっと無理。夢人はゲイムギョウ界を救うことしか考えてない。女の私の気持ちなんて、これっぽっちも汲んでくれない」
「中途半端じゃなくて、ゲイムギョウ界を救う勇者になる、か……確かに、夢人にとって今は色恋どころの騒ぎじゃないのかもね」
「それは私達にも言えるんだけどね……でも、駄目だな。私は女神としての立場よりも、ナナハとしての恋を優先したいと思っちゃう」
顔を覆っていた手を退けると、そこには苦笑しているナナハの顔があった。
しかし、その瞳は潤んでおり、目尻には光るものが見える。
アタシはその顔を見て、ナナハが本気で言っているのだと察することができた。
同時に、最初に会った時と本当に変わったんだと実感することができた。
「アンタ、本当に変わったわね。初めて会った時は、何に対しても関心を持ってないような印象だったのに、今では夢人に執着している……本当、別人のようだわ」
「これが本当の私だよ。夢人が見つけてくれたから、私は変わること……ううん、戻ることができたんだ。ずっと生きている振りをして、何もしなかったことを後悔することができた。だから、精一杯踏み出して前に進むよ。もう何もせずに後悔なんてしたくないから」
「……それ、わかる気がする」
ナナハの言葉に思うところがあったのだろう、ラムが目を閉じて両手で胸を押さえながら口を開いた。
「わたしもロムちゃんにずっとウソをついていて辛かったのに、本当のことを言う勇気が持てなかった。ウソがばれちゃって、どうすることもできない時に勇気をくれたのは夢人の温もりと心臓の音だった……上手く言えないんだけど、ちゃんとごめんなさいが言えた時……ロムちゃんと仲直りできた時、本当に嬉しかったんだ」
「それを言うなら、アタシだって同じよ。自分を信じられなくて、お姉ちゃんになるために消えなくちゃいけないと思っていたアタシを信じてくれたのが夢人だった。信じろ、その言葉だけでアタシは自分を取り戻すことができた。お姉ちゃんじゃない、アタシがここにいてもいいって言われた気がしたわ」
「……2人も同じようなことがあったんだね。全然知らなったよ」
「言えるわけないでしょ。こんな恥ずかしい記憶、もう黒歴史よ、黒歴史」
「そうそう、そんなのをさらけ出すのは夢人だけで充分なんだから」
「それもそっか……ふふっ」
好き好んで自分の情けない話をしたいわけがないじゃない。
夢人を引き合いに出すことで、少しだけ和んだ空気の中、ラムが柔らかく笑みを浮かべて答えを出した。
「わたしにはナナハちゃんとネプギアの考え、どっちも正しいなんて思えない。わたしはまだ子供だから、急いで答えを出したくないし、このままでいいとも思えないんだ。でも、全部終わって大人になったら、わたしはナナハちゃんやネプギア、ユニちゃんやロムちゃんにも負けたくない! それだけは決めてるの!」
「そっか。だったら、ラムが大人になる前に夢人の1番になってないとね」
「ふふーん、そんな風に余裕なのも今のうちだけなんだから。わたしが大人になったら、ホワイトシスターのようになって夢人を夢中にさせるんだからね」
「……それはアタシへの当てつけのつもりなの? ねえ、ラム?」
「ちょっ!? そんなつもりは……痛い痛い痛い!? やめてよ、ユニちゃん!?」
自信満々に胸を張って自分の成長を期待するラムの姿に、アタシは大人げなくてもカチンと来てしまった。
思わずラムのこめかみをぐりぐりと指で押してしまった。
どうせアタシの成長は打ち止めですよ。
むしろ、『変身』するといろいろと縮んでしまうわよ。
そんなに脂肪の塊や母性の象徴が偉いのか!!
……ぐすっ、アタシだって少しくらい成長するわよ……多分、おそらく、お願いします。
「まあまあ、ユニもそれくらいにしなよ。あっても肩がこったり、可愛い下着をつけられなくなったりで大変なんだよ?」
「嫌味か!? それは、アンタよりも小ぶりなアタシに対する嫌味なの!?」
「そんなつもりはないけど……とりあえず、牛乳を飲んでおけばいいんじゃないのかな?」
「アンタねえ!! いいわ、そこまで言うなら、アタシがその胸をもぎ取って……」
「ねえねえ! 3人とも見て見て!」
にこやかにアタシを馬鹿にしてくるナナハに我慢の限界を迎え、その胸についている無駄なものをむしり取ってやろうとした時、ネプギアが瞳を輝かせてやって来た。
その手には、1枚の絵が握られていた。
「これアカリちゃんが新しく私を描いてくれたんだよ! すごく似ている思わない?」
「ネプギア、今は……」
「特にこの髪飾りと外にはねてる髪の所なんて、私そっくりで……」
「……ネプギア」
「うん? どうかした……って、いひゃひゃひゃひゃ!?」
「……ああ、やっぱりね」
アタシは怒りの矛先を邪魔をしたネプギアに変更すると、その頬を思いっきり引っ張ってやった。
外野の声が聞こえた気がするけど、アタシにはネプギアの姿しか見えてない。
本当、こっちはいろいろと悩んでいると言うのに、娘とのスキンシップですか?
羨ましいくらいですわね、おほほほほほほ……って、なるわけないわよ!!
無自覚で惚気てくるんじゃないわよ!!
「やみぇてよぉ!? ひょひょがいひゃいよぉ!?」
「あーら、なに言ってんのかさっぱりだわ。もっとちゃんと話してくれるかしら?」
「ひひょいよぉ!? ゆにゅちゃんにゅばきゃ!?」
「誰が馬鹿ですって!!」
「聞こえてるじゃない。まったく、ユニちゃんったら怒りん坊さんなんだから」
「ユニだから仕方ないよ」
「そこの2人もうるさいわよ!!」
頬をつまんでいるネプギアの目に涙が溢れてきたけど、馬鹿って言ってきた相手に力を緩めてあげるほど、アタシは優しくないわ。
このまま餅のように引きのばしてやろうかしら。
「ネプギアちゃんを虐めちゃダメ(めっ)」
「ママをはなして!」
「ろみゅちゃん、あひゃりちゃんっ!」
ロムがアカリを抱っこしてこっちに近づくと、アタシを非難してきた。
ネプギアは感極まったように嬉しそうに顔を綻ばせるのだが、そうは問屋が下ろさないわよ。
「2人とも、これはネプギアが先に悪いことをしたのよ」
「そうなの?」
「そうよ。だから、これは悪いことした罰。アカリも悪いことしちゃ駄目だってことくらいわかるわよね?」
「うにゅ、ママがわるいの?」
「ち、ちひゃ……いひゃひゃひゃひゃ!?」
アタシの言葉に首を傾げる2人に、ネプギアは必死になって訴えかけようとするのだが、アタシは頬に爪を立てて邪魔をする。
「だから、大人しくしておきましょうね。ネプギアが反省するまで、少し待っててちょうだい」
「わかった。ネプギアちゃん、ちゃんと反省してね」
「ママ、わるいことしちゃだめだよ!」
「しょ、しょんにゃ……」
絶望したように顔を青くしたネプギアを見て、アタシはほくそ笑みながらささやきかける。
「覚悟はいいかしら?」
「みゃ、みゃっちぇ!?」
「待たないわ。さあ、アタシの怒りを思い知り……」
「夢人はここ!?」
「きゃっ!?」
「みゃっ!? ……いったーい」
アタシがネプギアの頬をべろんべろんにしてやろうとした時、突然扉が開いて驚いてしまい指を離してしまった。
ネプギアは痛そうに赤くなった頬を押さえて涙目でアタシを見つめてくるが、どうやらそれに構っている状況じゃないらしい。
やってきたアイエフは、息を切らせながら部屋を見渡して夢人を探している。
「夢人なら、隣の部屋でマジェコンヌと一緒ですよ」
「えっと、どうかしたんですか? そんなに慌てて……」
「理由はこれを読んでおきなさい!! 私はすぐにこのことを夢人に知らせた後、イストワ―ル様にも確認を取らなきゃいけないんだから!!」
そう言うと、アイエフはすぐに部屋を飛び出していってしまった。
……1枚の紙をナナハに手渡して。
「……えっ」
アイエフの慌てた様子に呆然としていたナナハであったが、紙に視線を落とすと今度は口を開けて固まってしまった。
すると、頬を引きつらせながらアタシ達にも見えるように紙を見せてきた。
「教会から夢人を追い出せって書いてある」
『え、ええええええ!?』
ナナハの衝撃の一言により、アタシ達は慌てて紙に書いてあることをよく読むために近づいた。
そこには、【勇者を語る変質者から女神様を守るのだ!!】って見出しと共に、夢人の顔写真が貼られていた。
なにがどうなっているのよ!?
という訳で、今回はここまで!
予定以上に長くなったことと、実は一回作りなおしたことにより遅くなってしまいました。
本当なら、夢人とマジェコンヌのくだりも入れる予定でしたが、次回に回させていただきます。
それでは、 次回 「フィクション」 をお楽しみに!