超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回の女神通信で長かったこの章も本当におしまいです。
それでは、 きりひらけ! 女神通信(ベール編) はじまります


きりひらけ! 女神通信(ベール編)

 ごきげんよう、皆様。

 

 今回の女神通信を担当させていただきます、リーンボックスの女神グリーンハートことベールでございます。

 

 さてさて、皆様におきましては……っと、どうかしましたか、フェル君?

 

 ……え、何か様子がおかしい?

 

 そうでしょうか?

 

 最近プレイしたゲームの中で、わたくしに似たキャラクターがおりましたので、その真似をしてみただけなのですけど……

 

 ……理由ですか?

 

 言わなきゃ、駄目でしょうか?

 

 ……はい、実は最近になってナナハの気持ちがまたよくわからなくなってきましたので、その、えっと、ゲームでシミュレートしてみようかなって思いまして……って、引かないでくださいまし!?

 

 え、もう本編に入るんですの!?

 

 も、もう少しだけでいいですから、話を聞いてはもらえないでしょうか!?

 

 ……はい、では本編に合わせてわたくしの悩みを聞いてください。

 

 それでは、 きりひらけ! 女神通信 ベール編 始めますわ。

 

 

*     *     *

 

 

「明日、夢人とデートすることになったから」

 

「……はい?」

 

 呆然としてしまったわたくしをどうか許して欲しいですわ。

 

 ネプギアちゃんの様子を見に行ったナナハがリンダさんと共に帰ってきたと思ったら、開口一番にそんなことを言われました。

 

「じゃあ、そう言うことだから、今日はもう休むね」

 

「……ちょ、ちょっと待ってくださいまし!?」

 

「うん? どうかしたの?」

 

 にこやかに明日の予定を告げて自室へと帰っていこうとするナナハを見て、わたくしはようやく正気に戻ることができました。

 

 なんとか服の袖を掴んで呼び止めることができましたが、本当に何を言っているんですの!?

 

「ど、どうしてデートをすることになっているんですの!?」

 

「あれ? ベール姉さんも知ってるでしょ? 元々、夢人とデートの約束をしていたし、明日しても問題ないと思うんだけど……」

 

「確かにそうですけど……あ、いや、わたくしの言いたいことはそうじゃありませんわ!?」

 

 夢人さんが帰ってきた時に開いたパーティーでナナハがデートの約束をしていたのは覚えていますわ。

 

 ですが、それでどうして明日になるんですの!?

 

 ナナハは今までネプギアちゃんの所にいたのに、どうして急に夢人さんとデートすると言うことになるんですか!?

 

「ネプギアちゃんはどうしたんですか!? ナナハは今までネプギアちゃんの所に……」

 

「それ込みでのデートなんだ……と言うわけで、明日着てく服とか選びたいから邪魔しないでね」

 

「理由になってませんわ!? ……って、ナナハ!?」

 

 にこっと可愛らしく首を傾げて笑ったナナハは、袖を掴んでいたわたくしの手を優しく解くと、背を向けて自室へと歩いていってしまった。

 

 その足取りは軽く、今にもスキップをしそうな勢いである。

 

 その背中に呼びかけても、わたくしの方を振り向くことはなく、真っ直ぐに自室の方へ……本当に意味がわかりませんわ!?

 

 どうしてネプギアちゃんの所に行って、明日夢人さんとデートすると言う結論になるんですの!?

 

「ナナハ……」

 

「……まぁ、そのなんだ、元気出せよ」

 

 わたくしが壁に体を預けてへたりこむと、ナナハと一緒に帰ってきたリンダさんが心配そうに顔を覗き込んできました。

 

「……リンダさんは理由をご存知ですか?」

 

「あー、うーん、まあ、一応な」

 

「教えてはもらえないでしょうか?」

 

「……わりィんだけど、そいつは言えねェや。ただナナハにとっても、あの引きこもってるクソチビ女神にも大事なことだし、アタイが勝手に口にしていいことじゃねぇからな」

 

「……そうですか」

 

 リンダさんは気まずそうに頬を掻きながら視線をさまよわせていましたけど、はっきりとナナハの行動の理由を話さないと言いましたわ。

 

 ナナハにとっても、ネプギアちゃんにとっても、明日のデートが大切なこと、ですか。

 

「あ、後、今はクソチビ女神は1人にさせといてやれよ。ナナハが言うには精神的にかなり落ち込んでるし、特に勇者気取りには絶対に会わせるなって話だ」

 

「夢人さんに?」

 

「そうだ。そもそも、行方不明になった理由が勇者気取りに会いたくないってことらしいからな……それじゃ、アタイも失礼させてもらうぜ」

 

 言いたいことを言い終えたリンダさんは、軽く手を振りながら歩き去ってしまった。

 

 おそらく方向的に、リンダさんにお貸しした部屋へと戻っていったのだろう。

 

 ……ネプギアちゃんが夢人さんに会いたくないと言うのに、明日デートするんですの?

 

 ナナハはいったい何を考えているんですか?

 

 ……この場にチカがいれば、ナナハに詳しく尋ねられたかもしれませんが、今となっては遅いですわね。

 

 チカは今、他の国の教祖の方々といろいろと連絡を取り合っているみたいですし……まあ、夢人さんにしたら幸運だったのかもしれませんけど。

 

「……ナナハ」

 

 わたくしは1人、妹の考えがわからず、事の成り行きを見守るしかないのでしょうか。

 

 本当に不甲斐ない姉ですわね。

 

 ……その数分後、ネプテューヌから通信が来て、明日のデートがただでは終わらないことを確信したのですわ。

 

 

*     *     *

 

 

「ナナハ!! 出てきなさいよ、ナナハ!!」

 

 ナナハが普段はしないようなお洒落をして出かけて行った後、教会の扉が乱雑に開かれると、そこには表情を険しくしたユニちゃんがいましたわ。

 

「ど、どうしたんですの?」

 

「ベールさん!!」

 

「は、はい!?」

 

「今すぐナナハに会わせてください!! 今すぐに!!」

 

 睨むような目つきでこちらに詰め寄ってきたユニちゃんに、思わず委縮してしまいました。

 

「な、ナナハはもう出かけてしまいましたわ!?」

 

「なっ!? お、遅かったって言うの……」

 

 もう出かけてしまったことを伝えると、ユニちゃんは目を見開いてわなわなと体を震わせながら、俯いてしまいました。

 

 その仕草が怒りに震えているように見えて、正直すごく怖かったですわ。

 

「くっ、こうなったら今から後を……」

 

「待ってくださいまし!!」

 

「うぐっ!? いったい何を……」

 

「いいからちょっと来てください!!」

 

 苛立ちながら教会の外を睨むユニちゃんが飛びだそうとした時、わたくしは服の襟を掴んで止めましたわ。

 

 ……何故なら、わたくしの後ろの方から誰かが走ってくるような音が聞こえてきたからです。

 

 わたくしは急いでユニちゃんと一緒に柱の陰に隠れると、奥の方から走ってきた人物がそのまま外へと行ってしまいましたわ。

 

「……今の、ネプギア?」

 

 ユニちゃんが驚いたようにつぶやいたのを聞いて、どうやらネプギアちゃんがここにいるのを知らなかったようだと推測しました。

 

 ……ですが、わたくしはユニちゃんとは別の意味で驚いていましたわ。

 

 部屋に閉じこもっていたネプギアちゃんが、今日になって外へ飛び出した理由は1つしかありませんわ!!

 

「行きますわよ!!」

 

「え、ちょ、ちょっとどうしたんですか!?」

 

「決まってますわ!! ネプギアちゃんの後を追うんですわ!!」

 

 ネプギアちゃんは、きっと今日のナナハと夢人さんとのデートを知っている。

 

 ならば、外へ走って出て行った理由はナナハを追うため。

 

 これ以外に考えられませんわ!!

 

「あん? どうしたんだよ、そんなに慌てて……」

 

「リンダさんも来てください!! ネプギアちゃんを……ナナハを追いますわよ!!」

 

「って、おい!? 引っ張んじゃねぇよ!?」

 

「離してくださいよ、ベールさん!?」

 

 おそらく外へ出かけようとしていたのだろう、教会の入り口に来たリンダさんも連れて、わたくしとユニちゃんはネプギアちゃんを追うことにしましたわ。

 

 2人の腕を引いて、わたくしは急いで教会を後にしましたわ。

 

 ……ナナハとネプギアちゃんの真意を確かめるために。

 

「自分で走りますから、腕を離してください!?」

 

「何でアタイまで!?」

 

 

*     *     *

 

 

 その後、ネプテューヌもリーンボックスに来ると言うことを思い出し、彼女と合流したわたくし達はナナハと夢人さんのデートを尾行するネプギアちゃんを尾行することにしましたわ。

 

 ……なんだかすごくややこしいですわね。

 

 尾行の尾行って、そこまでいったらネプギアちゃんと合流してもいいのではないかと思いましたわ。

 

 でも……

 

「……アレはないですわ」

 

「……うん、わたしもアレはないと思う」

 

「……なに考えてんのよ」

 

「……さすがに無理があるだろう」

 

 わたくし達4人はネプギアちゃんの変装を見て、全員同じ反応をしてしまいました。

 

 帽子にサングラス、マスクと体全体を隠す上着……声をかけるのも躊躇ってしまうような服装に、わたくし達は引いてしまいましたわ。

 

「……ネプテューヌ、あなたネプギアちゃんに何か変なことでも教えたんじゃないですの?」

 

「わ、わたし!? そんなことあるわけないよ!?」

 

「本当ですか?」

 

「ユニちゃんまで疑うの!? わたしがそんなこと……あっ」

 

「おい、心当たりあるのかよ」

 

 わたくし達でネプテューヌにネプギアちゃんの奇行の理由を尋ねると、最初は慌てていたのに、途中で何かを思い出したようにぎこちなく視線をそらしました。

 

「……確認するんだけど、ネプギアはゆっくんに会いたくないからいなくなったんだよね?」

 

「ええ、そうですわよ」

 

「だったら、多分自分だとわからなくするために、顔や体を隠そうとした結果、ああなったんだと思う」

 

「……アレで、ですか?」

 

「うん」

 

「……マジかよ」

 

 今もナナハと夢人さんが入っていったテーマパークに入ろうとして係員に止められているネプギアちゃんを、わたくし達は信じられないような目で見つめました。

 

 確かに、確かにですよ?

 

 変装としては及第点かもしれませんわ。

 

 誰にも話しかけられず、尾行する相手も積極的に関わろうとはしない服装でしょう。

 

 ……ですが、何かずれてますわ。

 

 アレでは逆に目立ってしまい、尾行にはならないですわよ。

 

「……あ、全部脱いで入ってた」

 

「まあ、当然だよな」

 

 ネプギアちゃんはその場で変装を解くと、係員に頭を下げながらテーマパークに入場していった。

 

 ……でも、確かに尾行をするなら変装も必要かもしれませんわね。

 

 幸い、このテーマパークには貸衣装部屋が確かあったはずですし、わたくし達もナナハ達に気付かれないように変装する必要がありますわね。

 

「さあ、わたくし達も急いで後を追いますわよ」

 

 わたくしは先頭に立って、テーマパークの中に入っていった。

 

 まず向かう場所は、貸衣装部屋ですわ!!

 

 

*     *     *

 

 

「……それで、何でアタシだけこんな恰好なんですか!?」

 

 貸衣装部屋から出たユニちゃんが一言目に漏らしたのは、変装に対する不満でした。

 

 ……そんなにおかしいでしょうか?

 

 とっても可愛くて似合っている思うのですけど……その魔法少女の恰好。

 

「だいたい、ベールさんやネプテューヌさんは変装しないのに、どうしてアタシだけ服をレンタルしているんですか!?」

 

「何を言っているんですか? わたくし達も、ほら」

 

「うん、これでバッチリだよ」

 

 ユニちゃんは高度な変装を理解できないようですけど、しっかりとわたくし達も変装をしているんですわよ。

 

 それなのに、ユニちゃんは頬を引きつらせてわたくし達を震える腕で指さしてきました。

 

「そ、それのどこが変装なんですか?」

 

「見てわかりませんか? ほら、ちゃんとこうして眼鏡をかけているじゃありませんか」

 

「それだけですよね!?」

 

 ユニちゃんは信じられないと言った風にわたくし達に言うのですけど……別におかしくないですわよね?

 

「何かおかしいことでも?」

 

「おかしいことしかないですよ!? それでばれないと本気で思っているなら、ネプギアと同レベルですからね!?」

 

 ユニちゃんはどうやら、わたくし達の変装が気にくわないみたいですわね。

 

 ……仕方ありませんわ。

 

 ここは1から説明してあげませんと。

 

「ユニちゃん、よくお聞きになってくださいまし……わたくし達は今から誰の尾行をするのですか?」

 

「え、それはネプギア、ですよね?」

 

「違いますわ。わたくし達はネプギアちゃんだけでなく、ナナハと夢人さんの尾行もしないといけないのですわよ」

 

 わたくしが顔を引き締めて話し始めると、ユニちゃんは数度目を瞬かせ、きょとんとしてしまいました。

 

 実はこの時、横にいたネプテューヌも同じ反応をしていたのを横目で見てしまいましたわ。

 

 ……まったく、あなたもわかっていなかったのですか。

 

「3人の内、夢人さんが確実にここにいるとわかっている人物がいます……それが誰だかはすぐにわかりますわよね?」

 

「……アタシですよね」

 

「そうですわ。夢人さんはユニちゃんが確実にリーンボックスにいることを知っていますわ」

 

 尾行の途中で、ユニちゃんが夢人さんと一緒に来たと聞いていたから、これは確実ですわ。

 

「ですから、ユニちゃんはその格好をしなければいけないのですわ」

 

「で、でも!? どうしてベールさん達は眼鏡だけで……」

 

「理由は簡単ですわ。ナナハ達はここにわたくし達がいることを知りませんもの」

 

 ユニちゃんとわたくし達の大きな違いは、この場にいることを知られているかいないかである。

 

 ユニちゃんは夢人さんに知られていますが、わたくし達は3人に知られてはいません。

 

 この違いが、変装が大きく異なる最大の要因ですわ。

 

「考えてもみてください。変装というのは大きなリスクを背負うものなのですわ」

 

「リスク、ですか?」

 

「ええ。変装すると言うことは、即ち自分を誤魔化すことと同じですわ。ですが、それは逆に周囲から浮いてしまう危険性もはらんでいるのですわよ」

 

 ネプギアちゃんがいい例でしょう。

 

 あの変装も周りから浮いてしまっていたから、わたくし達はありえないと思ってしまったのです。

 

 もし仮に、周りの人がネプギアちゃんと同じ格好をしている場所なら……想像したくありませんわね。

 

 では、改めて……もし、ネプギアちゃんが周りに溶け込むような変装をしたのなら、きっとあんな風に目立つことはなかったはずですわ。

 

 それに、眼鏡は結構馬鹿にできない変装道具なのですわよ。

 

 顔とは、それだけ強い印象を与える部分なのですから。

 

「3人に知られていないわたくしとネプテューヌ、リンダさんは周りに溶け込む変装を、ユニちゃんは逆にユニちゃんだとわからなくするための変装をする必要がありますわ」

 

「で、でも、それで何でこんな恰好を……」

 

「その格好を見て、すぐにユニちゃんだとわかる人はいませんわ」

 

 まさかユニちゃんが魔法少女の恰好をするなんて、誰も思わないでしょう。

 

 そこがポイントですわ。

 

「それとも、ユニちゃんは普段からそんな恰好をする女の子なのですか?」

 

「違います!? こんな恰好、普段は絶対にしません!?」

 

「でしたら、変装完了ですわ……さあ、いつまでもこうしていないで行きますわよ!」

 

「そうだね。いつまでもリンダだけに尾行を任せてはおけないからね」

 

 だいぶ時間を使ってしまいましたけど、早くリンダさんと合流しませんと。

 

 1人でナナハ達を尾行しているリンダさんに悪いですわ。

 

「……あれ? アタシがおかしいのかな? あれ?」

 

 わたくし達に遅れて、ユニちゃんは納得いかないように首を傾げながらついて来ます。

 

 ……上手く誤魔化せたでしょうか?

 

 本当は、別に魔法少女の服装じゃなくてもよかったってことを……

 

 実はネプテューヌから、ユニちゃんが魔法少女の恰好をしたと言うことを聞いて見てみたいと思ったんですわ。

 

 えっと、なんでしたっけ? 確か、マジカルヴィーナスノワルンでしたっけ?

 

 そんな感じになったノワールと一緒に魔法少女をしたと聞いたので、是非に拝見したいと思い着替えさせちゃいましたわ。

 

 ……ナナハに着せて、わたくし達もノワール達のようにコスプレを楽しみたいですわね。

 

 姉妹でおそろいのコスプレ、考えるだけでとても楽しみになってしまいますわ!!

 

 別に魔法少女じゃなくても、わたくしが嵌っているネットゲームの衣装でもいいですわね!!

 

 ああ、夢が広がりますわ!!

 

 

*     *     *

 

 

 リンダさんと合流したわたくし達は、楽しそうに夢人さんを連れまわすナナハと、それを変なお面を被って後を追っているネプギアちゃんの尾行を再開しました。

 

 ……何故、お面なんてつけているのでしょうか?

 

 ユニちゃんには不評でしたけど、わたくし達の変装は完璧ですわ。

 

 なにせ、ナナハ達の近くに寄ってもまったく気付かれることがなかったのですから。

 

 ジェットコースターでは、すぐ後ろの席に座って楽しんでいたと言うのに、見向きもされませんでしたわ!

 

 さらに、お化け屋敷でも、後ろの並んでいるにも関わらず、夢人さんの腕に自分の腕を絡ませて顔を綻ばせるナナハを間近で見ることができましたわ!

 

 ……で、でも、最近のお化け屋敷も大したことありませんでしたわね。

 

 せ、せっかく、わたくしがゲームで鍛えた銃さばきを見せて差し上げようと思いましたが、またの機会にさせてもらいますわ。

 

 こ、これは別に銃が支給されなかったからではありませんわよ!?

 

 わ、わたくしの腕にかかれば、ナイフ1本で並みいるお化けどもを駆逐することが可能なのですからね!?

 

 本当ですわよ!?

 

 ……こほん、少々取り乱してしまったようですわね。

 

 とにかく、わたくし達の変装は完璧だったと言うことがわかってもらえれば充分ですわ。

 

 ……ですけど、ちょっと悲しく思いますわね。

 

 ナナハなら、どんなわたくしでも必ずわかってくれるのではないかって期待もしていたのですけど、前を素通りされてしまいましたわ。

 

 いくら変装が完璧だと言っても、ナナハなら……もしかして、わたくしはナナハに必要とされていないのではないでしょうか。

 

 今回のデートのことも、わたくしに何の説明もなく勝手に決めてしまいましたし……

 

 リンダさんが言うには、ナナハにとって大切なことらしいのですけど……それでも、一言声をかけて欲しかったですわ。

 

 わたくしはナナハの姉なのですわよ?

 

 妹の助けになりたいのに、その気持ちがわからなくなってしまいましたわ。

 

 ……ネプテューヌがネプギアちゃんの変装の理由を推測できたのが、本当に羨ましいですわ。

 

 まだまだナナハと本当の姉妹になるのは、遠い道のりになりそうですわね。

 

 

*     *     *

 

 

 ジャッジ・ザ・ハードを退けたナナハ達がボロボロの状態でわたくし達の所までやって来てしばらくすると、ユニちゃんが意を決したように口を開きましたわ。

 

「……ネプギア、戦いの前に言った話なんだけど」

 

「うん、なに?」

 

「ごめんなさい!!」

 

 ネプギアちゃんが柔らかく笑みを浮かべながら応えるのを見て、ユニちゃんは辛そうに顔を歪めながら頭を勢いよく下げて謝罪し始めましたわ。

 

「あの時、アタシはアンタの気持ちなんて何にも知らないのに、勝手なことばっかり言ってアンタを傷つけた!! 本当にごめんなさい!!」

 

「ユニちゃん……」

 

「謝って済む問題じゃないってわかってる!! でも、受け入れてもらえなくても、アタシは謝りたいの!! 本当にごめんなさ……」

 

「もういいよ」

 

「ネプギア?」

 

 頭を下げ続けるユニちゃんの肩に手を置いて、ネプギアちゃんはほほ笑みながら言葉を続けましたわ。

 

「私がちゃんと自分の気持ちを答えられなかったから、ユニちゃんは怒ったんだよね?」

 

「う、うん」

 

「だったら、私の方が悪いよ。ごめんなさい、ユニちゃん」

 

「あ、アンタが謝ることないわよ!? 元はと言えば、アタシが……」

 

「ううん、私が悪いの……だから、聞いてくれるかな? 私の気持ちを、あの時答えられなかった答えを聞いて欲しいんだ」

 

「……うん。だったら、アタシもアンタにもう1度聞いてもらいたい。今のアタシの気持ちを……そうしたら……」

 

 見つめ合っていた2人でしたけど、ユニちゃんは恥ずかしそうに頬を染めてもじもじと視線を外しました。

 

「友達……アンタのことを知って、友達になりたいの」

 

「ユニちゃん!」

 

「か、勘違いしないでよ!? こ、これは別に友達になることが目的なんかじゃなくて、アンタの気持ちを知ることのついでみたいなものだから……」

 

「ユニちゃん!」

 

「うわっぷっ!? 急に抱きつくな!?」

 

 ネプギアちゃんは感極まったように瞳を潤ませながら、顔を真っ赤にしているユニちゃんに抱きつきました。

 

 ……仲直りできたようで、本当によかったですわ。

 

「私もユニちゃんと友達になりたい! だから、ちゃんと話そうね!」

 

「わ、わかった!? わかったから離れなさいよ!? 暑苦しいのよ!?」

 

「ええ、いいでしょ?」

 

「鬱陶しいのよ!?」

 

「あうっ」

 

 ユニちゃんは無理やりネプギアちゃんを引き離すと、肩で息をしながら胸を押さえてしまいましたわ。

 

 恥ずかしがらなくてもいいと思ったのは、わたくしだけではないと思いますわ。

 

 見ていてほほ笑ましい光景でしたもの。

 

「友達ができてよかったね、ネプギア」

 

「何を言ってるの? ナナハちゃんも大切な友達の1人だよ」

 

「……私も?」

 

 ネプギアちゃんの言葉が意外だったのか、ナナハはきょとんとしながら自分を指さして……あら、どうしてそんな反応をするんですの?

 

 もしかして、ナナハはネプギアちゃんと友達じゃなかったんでしょうか?

 

「当然だよ。ナナハちゃんもロムちゃんもラムちゃんも、皆大切な友達だよ」

 

「……ふーん、そうか。友達なんだ」

 

 にこにこと笑うネプギアちゃんに、ナナハは頬を緩めて嬉しそうにはにかみました。

 

「でも、ネプギアの言う友達ってアレでしょ? だったら、私は嫌だな」

 

「えええ!? そんなこと言わないでよ!?」

 

「……ふふ、冗談だよ。【今】は友達だものね」

 

「もう! これからも友達だよ!」

 

「それはわからないよ。誰も【未来】はわからないもの」

 

 ネプギアちゃんは少し怒ったような態度で言い合っていますけど、ナナハはどこかからかっているように見えますわ。

 

 だって、ずっと楽しそうに笑っているのですもの。

 

「【未来】でも私達は友達だよ! だって、【今】が友達なんだもん! これからも変わらないよ!」

 

「それを言っちゃうの? まったくネプギアは物覚えが悪いよね。やっぱり、もう1度考え直して私のようになりなよ」

 

「違うよ! ナナハちゃんが考えを改めるんだよ!」

 

「……アンタら、本当に仲良くなったわね」

 

『そんなことないよ』

 

「嘘だ!! だったら、何で同じこと言ってるのよ!! アタシにも教えなさいよ!!」

 

 ナナハとネプギアちゃんの会話を面白くなさそうに見つめていたユニちゃんだったけど、2人の間に割って入るように歩み寄っていきましたわ。

 

 本当、わたくし達の妹達は仲が良くて嬉しいで……

 

「いつまで私を無視するつもりだ、貴様ら!!」

 

『……あっ』

 

 いえいえ、無視していたわけじゃなくて、ちょっと現実逃避をしていただけですわよ?

 

 この場に突然現れた銀髪の小柄……大変小さいサイズの女性、マジェコンヌと名乗った女性が険しい目つきでわたくし達を睨んでいましたわ。

 

「まったく!! いつの時代でも女神どもは変わらんのか!! 人が真面目に話そうしているのに、おちょくるように無視するなんて……」

 

「お、落ち着けって。別にネプギア達も悪気があったわけじゃ……」

 

「ええい!! すべては貴様が悪いんだ、勇者!!」

 

「お、俺!?」

 

 頭が痛いと言わんばかりに額を押さえていたマジェコンヌを宥めようとしていた夢人さんでしたけど、急にすべての元凶扱いをされてしまいましたわ。

 

「貴様が『再誕』の力を上手く使いこなせていれば、私がこうして出向く必要などなかったのだ!! そして、女神どもに無視されることもなかったはずなんだ!!」

 

「む、無茶苦茶だろ!?」

 

「黙れ!! いいか、貴様にはこれから『再誕』の力を完全にコントロールしてもらう!!」

 

 マジェコンヌは一方的に夢人さんに『再誕』の力を使いこなすように強要……どうして夢人さんなのでしょうか?

 

「しっつもーん! どうしてアカリちゃんじゃなくて、ゆっくんなの?」

 

「それはこの男が勇者だからだ。他に理由などない……さて、貴様はどうする?」

 

 わたくしが疑問に思っていたことをネプテューヌが尋ねてくれましたが、答えになっていませんでした。

 

 マジェコンヌは試すように目を細めて夢人さんに笑いかけました。

 

「このまま中途半端に勇者として持て囃されたいのか? それとも、本当にゲイムギョウ界を救う勇者になりたいのか? どちらを選ぶ?」

 

「……正直、俺はまだあなたの正体に納得がいってない」

 

 夢人さんの言葉は、わたくし達の気持ちの代弁でしたわ。

 

 マジェコンヌは自分を古の魔女、そして犯罪神だと言いました。

 

 その言葉が本当なら、彼女はわたくし達の敵……本当ならラスボスと言うことになりますわ。

 

 そんな相手が夢人さんを助ける理由がありませんもの。

 

 納得がいかなくても仕方ありませんわね。

 

「でも、あなたはトリックを助けようとした俺に力を貸してくれた。さっきも、気を失いそうになった俺を救ってくれたのはあなたの言葉でした……だから」

 

 夢人さんはマジェコンヌに勢いよく頭を下げながら頼み込んだ。

 

「俺に『再誕』の力の使い方を教えてください!! 中途半端じゃない、ゲイムギョウ界を救う勇者になるために!!」

 

「……ふん、いいだろう。ただし、弱音は一切は貸せないぞ。それに、私を疑っているのなら、いつでも排除してくれて構わん」

 

 マジェコンヌは一瞬眉を動かしたと思うと、自信に満ち溢れた笑みを浮かべてわたくし達に忠告を発した。

 

 明らかに後半は、わたくし達に向けられたものでした。

 

 ……この女性、本当に信じてもいいのでしょうか。

 

 

*     *     *

 

 

 ……以上が今回の出来事でしたわ。

 

 突然のデートに始まり、犯罪組織の襲撃、おまけに謎の女性の出現。

 

 正直、今でもマジェコンヌと言う女性を信じることができませんわ。

 

 犯罪組織の名前と同じ名前を名乗っている彼女、自らを古の魔女と言いながらも犯罪神でもあると言った彼女の真意を推し量ることができませんもの。

 

 ただ、わたくし達が謎に思っている『再誕』の力を知る唯一の人物と言うことは確実ですわ。

 

 敵、しかもラスボスに勇者が鍛えられるだなんて、どこぞのRPGかと思いますわ。

 

 でも、それを頼るしかないのが歯がゆいところですわね。

 

 夢人さんは助けられたと言うことで、師事することを決めたようですけど、本当に大丈夫なのでしょうか?

 

 ……考えても仕方ありませんわね。

 

 わたくし達はマジェコンヌが不審な行動を取らないよう、しっかりと注意を払っておくしかありませんわ。

 

 ですが、少しだけ気になることがありますわ。

 

 どうしてマジェコンヌは一瞬とはいえ、あんな表情をしたのでしょうか。

 

 それとも、夢人さんの言葉を聞いて悲しそうに瞳を揺らしたように見えたのは、わたくしの気のせいだったのでしょうか?

 

 

 …………

 

 

 今回の撮影はここまでですわね。

 

 教会に帰ってからナナハに尾行のことがばれていたことを聞いた時は、少しだけホッとしてしまいましたわ。

 

 ナナハにとって、完璧な変装をしていてもわたくしだとわかることに、姉妹の絆を感じますわ。

 

 ……え、それはない?

 

 ど、どう言うことなのですか!?

 

 ……あんな変装、誰だってわかる?

 

 そ、そんなことありませんわよ!?

 

 木を隠すなら森の中と言いますし、人ごみに紛れるなら目立たないように眼鏡をかければ……

 

 ……次の話題に移る?

 

 ま、待ってくださいまし!?

 

 確かにそのことも大事ですけど、変装の件も……ううう、わかりましたわ。

 

 実を言えば、ナナハから夢人さんへの告白について聞きましたわ。

 

 そして、女神の力を捨てるかもしれないと言うことも……

 

 わたくし個人としては、ナナハとずっと一緒に生きていきたい思いますわ。

 

 ですが、この生活が永遠に続いていくわけがないことも理解しているつもりでしたわ。

 

 ……そう、つもり、でしたわ。

 

 いろいろと考えて、わたくしはナナハの考えを尊重することを決めました。

 

 あの子に付けた名前の由来の通り、彼女にたくさんの幸せが訪れますように……ナナハの幸せを応援したいですわ。

 

 ……本当は、何かいい解決方法が見つかればいいのですけど、そんな都合よく思いつかない頭が悔しいですわね。

 

 だから、夢人さん。

 

 どんな決断をするにしても、しっかりとナナハを見てあげてください。

 

 そして、できることならば、わたくしでは思いつかない方法を見つけてくれることを願っていますわ。

 

 勇者である前に、1人の男性として。

 

 ……あなたを思う女の子達に応えるためにも。




という訳で、今回はここまで!
……もう本当に終わりが見えてきました。
後、2章です。
2章でこの物語、ひとまずの区切りがつきます。
いろいろと謎を残している部分も明らかになりつつ、夢人君がどんな決断をするのかも楽しみにしてくださいね。
それでは、 次回 「炎上」 をお楽しみに!

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