超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
やはり、昨日は分割して正解でした。
今回の戦闘シーンも結構長引いてしまいまして……
この章の本編の締めくくり、いきますよ!
それでは、 魔女 はじまります


魔女

 リンダは隣にいた夢人の手に現れた剣を見て、驚きを隠せなかった。

 

「テメェ、それはブレイブ様の……どうしてそれをテメェが……」

 

「話は後だ。今はマジック・ザ・ハードを助けるぞ」

 

「お、おう」

 

 夢人はブレイブソードの切っ先をマジックに向けたまま両手で持ち、脇をしめるように構えた。

 

 驚愕が抜けきれないままであったリンダだが、夢人の返答に納得はしないまでもこの場で追及するのをやめることにした。

 

 今、やらなければいけないことはマジックの救出。

 

 それがこの場でリンダが1番望んでいることだから。

 

 夢人がブレイブソードを構えるのと同じように、リンダも刀を構えだす。

 

「ええい!! 勇者を捕えろ!! 邪魔する奴らは殺しても構わん!!」

 

「……了解」

 

「絶対に勇者を逃がすな!! いいな、これは命令……」

 

「そろそろ黙ろうか……いい加減うるさいよ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 ジャッジが命令を下すと、今まで夢人達を無表情に見つめるだけであったマジックが鎌を構えだした。

 

 武器を向けられているにもかかわらず、マジックの瞳には夢人の姿しか映っていない。

 

 マジックに下された命令は、あくまで夢人の捕縛である。

 

 だからこそ、マジックはリンダには目もくれずに夢人へと飛翔し始めた。

 

 その様子を見て、ジャッジはさらに叫び声をあげながら命令を下そうとするが、ナナハにより阻止されてしまった。

 

 ナナハはワンダーのトルネードモードにより強化された撫子の一撃をジャッジへと再び叩きこんだ。

 

 攻撃に反応できなかったジャッジであったが、ナナハはその鎧に傷1つつけることができなかった。

 

「……さすがに自慢するだけはあるのかな」

 

 ナナハは自分の攻撃で傷がつかないジャッジの鎧の強度に、冷や汗をかきながらも口の端を吊り上げた。

 

 それはナナハなりの強がりの現れである。

 

(今の一撃、結構本気で打ち込んだのに……)

 

 トルネードモードにより跳ね上がった速度と威力を乗せて放った一撃。

 

 決して手加減したわけでもない攻撃が、ジャッジに対して有効な一手になっていないことを目の当たりにしてナナハは焦りを感じていた。

 

「それで全力か? ならば、次は私の……」

 

「させません!!」

 

「させないわよ!!」

 

「ぬぐっ!?」

 

 砂埃を払うようにナナハに攻撃された箇所を払う仕草をすると、ジャッジはポールアックスを上段に構えてナナハへと振り下ろそうとした。

 

 しかし、その動きはナナハの両脇から伸びてきた2つの光の波によって阻止されてしまう。

 

「ナナハちゃん!!」

 

「っ! ありがとう!!」

 

 最初は自分の横から伸びてきた光に戸惑っていたナナハであったが、自分の名前が呼ばれたことで正気に戻り、その場を上昇することで退避した。

 

「ぐ、ぐおおおおおおおおおお!!」

 

 2つの光の波に押され気味であったジャッジであったが、ポールアックスを振り払い光をかき消してしまう。

 

 その鎧は強烈な光が直撃したにもかかわらず、無傷のままであった。

 

「まったく、今の攻撃も効かないなんて思わなかったわ。ちょっと自信がなくなっちゃうかも」

 

「でも、私達は絶対に負けられない」

 

「誰が諦めるだなんて言ったのよ。当然よ、アタシが必ず撃ち貫いてやるわ」

 

 ジャッジを攻撃していた光の発生源、そこにはM.P.B.L.を構えたネプギアとX.M.B.を肩に担ぐようにしていたユニの姿があった。

 

 ジャッジの鎧の強度に呆れたように口を開くユニに対して、ネプギアは凛とした表情でM.P.B.L.を握る手に力を込めた。

 

「ネプギア、ユニ」

 

「1人で勝手に突っ込んでんじゃないわよ」

 

「私達は仲間だよ。皆で力を合わせよう」

 

「……うん!」

 

 上昇して難を逃れたナナハは、ネプギアとユニの位置まで下がった。

 

 2人はナナハが近づいてくるのがわかると、柔らかく笑みを浮かべてほほ笑みかけた。

 

 そんな2人の自信とも取れる笑みと態度に、ナナハも自然と頬を緩めた。

 

「さあ、行くよ、2人とも!」

 

「わかった!」

 

「アンタが仕切るな……って、勝手に飛び出してんじゃないわよ!!」

 

 撫子を1度払うように振ると同時に、ナナハは再びジャッジへと突撃していく。

 

 その後ろを遅れてネプギアが追う姿を見て、ユニは思わず叫んでしまった。

 

「……ああもう!! しっかり援護してあげるから、好きなように動きなさい!!」

 

 2人の勝手な行動に驚いたユニだが、すぐに振り切るようにX.M.B.をジャッジへと向けて構えた。

 

「目標捕捉、狙い撃つわ!!」

 

 X.M.B.から散弾のようにビームがジャッジへと放たれた。

 

 一撃一撃の威力は低いが、そのビームのシャワーが次々にジャッジへと当たっていく。

 

 強力な一撃よりも、避けるのが難しい攻撃に晒され、ジャッジは鬱陶しく思いながらもその場で動きを止めていた。

 

 それだけ鎧の耐久力に自信があることと、自分に向かってくるナナハとネプギアの攻撃に備えるためである。

 

「せいっ!!」

 

「ぬんっ!!」

 

 撫子の先端から伸びる緑色の刃が振り下ろされるのを見て、ジャッジはビームに撃たれながらもポールアックスの刃で受け止めた。

 

 攻撃を受けとめられたナナハであったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

 何故ならば……

 

「はあああああああ!!」

 

 上段から攻撃しているナナハとは対照的に、ジャッジの体を下から斬り裂くようにM.P.B.L.を振り上げようとするネプギアの姿があるからだ。

 

 このままM.P.B.L.から伸びる光の刃が鎧を斬り裂くかのように見えたが、突然ジャッジはポールアックスを握っていた片手を離した。

 

「はっ!!」

 

「うぐっ!? げほっ!?」

 

「ネプギア!?」

 

「貴様もだ!!」

 

「っ、きゃああああああ!?」

 

 鎧を斬り裂くため、浮きあがろうとしてくるネプギアをジャッジはポールアックスを離した拳で横へと強襲した。

 

 ネプギアの体はジャッジの手の甲に当たり、苦しそうな声を漏らして地面に叩きつけられた。

 

 慌てたナナハはジャッジを攻撃する力を緩めてしまった。

 

 ジャッジはその隙を逃さず、片手で持っていたポールアックスでナナハを大きく打ち上げた。

 

 ネプギアを心配していたナナハは、空中で踏ん張ることができずに悲鳴を上げて大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「あ、あうう……」

 

「まずは1人……」

 

「どこ見てんのよ!!」

 

「ぬおっ!?」

 

 ジャッジは地面に叩きつけられた影響で意識がはっきりしないネプギアに狙いを定め、ポールアックスで串刺しにしようとしたが、横から強烈な圧力が襲いかかってきたため動きを止めてしまった。

 

 圧力の正体は、ユニの持つX.M.B.から放たれている極太のレーザーであった。

 

「ぬぬぬ……ふんっ!!」

 

「っ、嘘っ!?」

 

 当たっていたレーザーを手のひらで遮るように腕を上げたジャッジがその拳を握ると、レーザーは霞のように霧散してしまう。

 

 レーザーが消失した反動により、X.M.B.の銃口が浮き上がってしまい、ユニは思わず仰け反りながら目を見開いた。

 

「今度こそ……ん?」

 

 ジャッジが驚いているユニからつまらなそうに視線を戻すと、そこにはトドメを刺そうとしたネプギアの姿はどこにもなかった。

 

「ハア、ハア、ハア……ありがとう、ナナハちゃん」

 

「お礼を言うのは早いよ……まだ終わってないんだから」

 

 ジャッジが視線を少し上にあげると、そこにはナナハに支えられているネプギアがいた。

 

 息を荒くしているネプギアはナナハの肩に腕を回して、辛そうに顔を歪めていた。

 

 ネプギアを支えているナナハも息は乱れていないが、その顔には疲労の色が見てとれた。

 

「散々馬鹿にしたわりには、何とも情けない姿ではないか」

 

「……返す言葉もないね」

 

「今からでも遅くはない。大人しく勇者を差し出せば、貴様らは見逃しても……」

 

「そんなこと……絶対に、しません!!」

 

 ジャッジが妥協案とばかりに、夢人を差し出すように要求するが、ネプギアはそれを強く否定した。

 

「私達は、我が身可愛さで夢人さんを差し出したりは絶対にしません!!」

 

「そうだね。それに、まだ負けたわけじゃない!!」

 

「……フン、強がりは止せ。貴様ら程度の力で私に敵うはずが……」

 

「いいえ、絶対に勝つわ!!」

 

 ジャッジの背後から、ユニは睨むようにX.M.B.を構えて叫んだ。

 

「アンタなんかに、アタシ達は絶対に負けない!!」

 

「……やれやれ、馬鹿な女神候補生どもだな……まあいい、そこまで言うのなら……」

 

 ジャッジは3人が諦めずに自分に挑むと宣言されたため、肩をすくめたように脱力した。

 

 しかし、すぐに握っていたポールアックスを地面に突き刺して目の前のネプギアとナナハを見つめた。

 

「全員まとめて死んでもらおうか!!」

 

 そう宣言したジャッジの口の端は大きく裂けるように吊り上っていた。

 

 ……その嗜虐的な笑みを浮かべたまま、ジャッジはネプギアとナナハへと大きく一歩踏み出すのであった。

 

 

*     *     *

 

 

「ぐっ!?」

 

 一方、マジックは無表情のままで夢人へと鎌を振るい続けた。

 

 その攻撃は急所を狙わず、常に嫌らしく夢人の動きを制限しようとするものである。

 

 右に避けようとする動きを阻害するため、マジックは刃ではなく、持ち手の部分で夢人の腹を払おうとする。

 

 後ろに逃げようとすれば、即座に刃の内側に夢人を閉じ込めようとするため、前傾姿勢で鎌を大きく薙ぐ。

 

 そのどれもが、夢人を捕縛しようとする命令の通りに動く結果である。

 

 夢人も自分で脱出口を確保するため、ブレイブソードで鎌を弾いて逃げようとするのだが、マジックの連続する動きの前ではその行動も無意味なものになっている。

 

「デュアルエッジ!!」

 

「シレットスピアー!!」

 

 夢人を助けるため、ネプテューヌが刀剣で斬り込んだり、ベールが魔法陣から巨大な杭のようなものをマジックへと放つ。

 

 しかし、そのどれもが鎌で阻まれてしまう。

 

「あああああっ!?」

 

「ネプテューヌ!? なっ、かはっ!?」

 

 斬り込んだネプテューヌは刀剣を鎌で受け止められ、その腹を横に蹴られて吹き飛ばされてしまう。

 

 その様子に驚いているうちに、マジックは夢人ではなく、ベールへと詰め寄り、鎌の柄の部分で鳩尾を強打されてしまった。

 

 そのままうずくまるように倒れ込むベールの首を刈るため、マジックは大きく鎌を振り上げた。

 

「させるか!!」

 

 振り下ろされそうになる鎌とベールとの間に夢人が割り込むと、マジックはその動きを止めてしまう。

 

 命令の通り、夢人を殺せないためである。

 

 動きの止まった鎌をブレイブソードで弾くと、夢人はマジックの視線を引き付けるようにベールから離れた。

 

 その目論見の通り、マジックはうずくまるベールに見向きもせず、夢人へと再び向かって行った。

 

(クソッ、本当にどうすりゃいいんだよ!?)

 

 夢人は鎌を防ぎながら、内心で舌打ちしながら打開策を模索した。

 

 マジックを助ける明確な方法がわからない以上、無力化して捕縛するしか方法はない。

 

 しかし、ネプテューヌとベールが2人がかりで押さえ込もうとしても、マジックは夢人を追う片手間で対処してしまう。

 

 3年前、1人で女神4人とネプギアを圧倒した実力は洗脳された今であっても健在であった。

 

(どうにかして隙を……)

 

「マジック様!!」

 

 夢人が歯噛みしながら鎌を打ち払うと、その隙をついてリンダがマジックに背後から飛び付いた。

 

 羽交い絞めのような形で取りついたリンダは、振り落とそうともがくマジックに向かって叫びながら呼びかけた。

 

「もうやめてください!! ジャッジ様の……フィーナなんかの命令を聞かないでください!! お願いします!! 元のマジック様に戻ってください!!」

 

「やめろ、リンダ!? 早く離れろ!?」

 

「そんな死んだ目でいないでください!! あの燃えている目を取り戻して……っ!?」

 

 夢人の焦った忠告も無視して、リンダはマジックにしがみ付きながら叫び続けた。

 

 しかし、それも長くは続かず、リンダは振り落とされ尻もちをついてしまった。

 

 リンダが痛みに顔を歪めて閉じていた目を開けて上を向くと、そこには無表情のまま鎌を振りかぶるマジックの姿が見えた。

 

 今度はベールの時と違い、夢人に割り込ませないために、マジックは大きく横から薙ぎ払おうとしていた。

 

「っ、マジック様!! もうやめて……」

 

「危ないっ!!」

 

 涙を浮かべてマジックに呼びかけるリンダを救うため、夢人は後ろからぶつかっていった。

 

 夢人がぶつかった影響で体勢を崩したマジックの鎌は首を刈り取ることはできず、刃でない部分がリンダの髪を掠る程度に終わった。

 

 体勢を前傾に崩したマジックであったが、すぐに元の姿勢に戻り、再び夢人へと迫りだした。

 

「チッ、どうすりゃ……っ!?」

 

 ……突然、自分に向かって迫ってくるマジックの姿に舌打ちをする夢人に異変が起こった。

 

 その手に持っていたブレイブソードを手放し、頭を押さえるように片膝をついてしまったのだ。

 

 地面に落とされ、甲高い金属音を放ったブレイブソードは、次の瞬間には何かが弾けるように光だし、元の錆びた剣に戻っていた。

 

 

*     *     *

 

 

 マジック・ザ・ハードが迫って来ていると言うのに、俺は突然頭に強烈な痛みが走り、ブレイブソードを手放して膝をついてしまった。

 

 この感覚は、前にも経験したことがある。

 

 ブレイブとの決闘で、魔法を使い過ぎた時と同じ感覚だ。

 

『パパ!? しっかりして、パパ!?』

 

「っ、なんだ……これ……」

 

 頭の中でアカリの叫び声が聞こえてくるが、俺にはそれに返事をする余裕がない。

 

 むしろ、アカリの叫び声がより痛みを増加させる。

 

 ……クソッ、何だってこんな時に!?

 

 何故魔法を使っていないのにも関わらず、あの時と同じ痛みが走っているのかはわからない。

 

 でも、冷静に分析している暇なんてない。

 

 今の目の前で、俺に向かって鎌を振り下ろそうとするマジック・ザ・ハードの姿が……

 

「ぐっ!? ……がはっ!?」

 

 転がって避けようとした俺の後頭部に、鈍い痛みが襲いかかった。

 

 一瞬、意識が飛んでしまい、気がついた時にはすでにうつ伏せの姿勢で地面に転がっていた。

 

「あ……ぐっ……あああああああ!?」

 

 立ち上がろうとした背中の中央をぐりぐりと何かが押す痛みに、俺は無様に悲鳴を上げてしまった。

 

 ここからじゃ見えないけど、マジック・ザ・ハードが鎌の柄の部分で俺を押さえつけているのだと思う。

 

 背骨が砕けてしまうんじゃないかと思うほどの力が込められており、俺は叫びながらもがくことしかできない。

 

「ゆっくん!? はあああああああ!!」

 

 ネプテューヌの声が聞こえてきたと思った時、急に背中から痛みが消えた。

 

 だが、次の瞬間大きな金属のぶつかる音が真上で聞こえてきた。

 

「くっ!?」

 

「……ごはっ!?」

 

「ゆっくん!? っ、きゃあああああ!?」

 

 俺はネプテューヌがマジック・ザ・ハードの注意を引いている間に逃げようと這いずるが、突然わき腹に衝撃が走り、今度は仰向けに転がってしまう。

 

 衝撃はおそらくマジック・ザ・ハードに蹴られたせいだろう。

 

 俺の悲鳴に驚いたネプテューヌは、俺の真上でマジック・ザ・ハードの鎌に押し切られてしまった。

 

 悲鳴を上げながら吹き飛んで行くネプテューヌを心配していると、今度は臍のあたりに重いものが圧し掛かってきた。

 

「がふっ!?」

 

 自分の中から全ての空気が吐き出されてしまうように、マジック・ザ・ハードは俺の腹を思いっきり踏み抜いていた。

 

 そのせいで呼吸困難に陥った俺は、目を開けているのも辛くなり、次第に瞼が重くなっていくのを感じた。

 

 気絶しちゃ……駄目なのに……

 

 思考も段々と遠くなり、俺は意識を手放しそうになった。

 

『しっかりしろ!! こんなところで気絶するな!!』

 

 ……っ、あなたは!?

 

 目の前が暗くなっていく中で、突然アカリじゃない声が頭の中に響いてきた。

 

 その声は、トリックを助けた時に聞いた声であった。

 

『どこでもいい!! 早くマジックに触れろ!!』

 

 声の指示に従い、俺を踏みつけているマジック・ザ・ハードの足へと手を伸ばした。

 

 しかし、腕は上手く動いてくれず、俺の意識ももうなくなってしまいそうだ。

 

『マジックを助けるのではなかったのか!! このまま気絶してしまえば、貴様はこれから先もずっと中途半端なままだぞ!!』

 

 ……っ!?

 

 声の叱咤する叫びに、遠くなっていた意識が少しだけよみがえってきた。

 

 ……そうだ、俺は中途半端で終わらせるわけにはいかないっ!!

 

 ……俺は……俺はっ!!

 

「俺は……勇者だっ!!」

 

 わずかに復活した意識を眠らせないよう、俺は大きく叫びながらマジック・ザ・ハードの足を掴んだ。

 

『よくやった……後は任せろ』

 

 頭の中で優しく声が響くと、見上げていたマジック・ザ・ハードの体の周りから靄のようなものが漏れだしてきた。

 

 その靄は赤黒く、見ているだけで不快な気分になるような色をしていた。

 

「……っ……は……っん!」

 

 赤黒い靄が段々と晴れていくと、マジック・ザ・ハードは苦しそうにうめき声をあげ、両手で頭を抱えながら俺から足を退けて後ろへと下がっていった。

 

「ハア、ハア、ハア……いったい、何が起こって……」

 

「夢人さん!? 平気ですか!?」

 

「あ、ああ……なんとかな」

 

 俺が腹を押さえながら上体を起き上がらせると、ベールが様子のおかしいマジック・ザ・ハードを警戒するように寄ってきた。

 

 ベールも俺と同じように腹を苦しそうに押さえながらも、手に持つ槍をマジック・ザ・ハードへと向けている。

 

「いったい何をしたの?」

 

「実は俺にもさっぱりで……」

 

 俺とベールの背後から、ネプテューヌの固い声が聞こえてくるが、振り向くほど余裕はない。

 

 本当にマジック・ザ・ハードはどうなってしまうんだ?

 

「……あっ」

 

「っ、マジック様!?」

 

 体全体を覆っていた赤黒い靄が全て消え去ると、マジック・ザ・ハードは短い声を上げて前のめりに倒れてしまった。

 

 その様子を見たリンダが慌てて駆け寄るが、俺達は何が起こっているのかわからず、動くこともできない。

 

 ……アカリ、何かわかるか?

 

『ううん、わたしにもわからない。でも……』

 

 ……でも?

 

『わたしのちから、パパじゃないだれかがつかったの』

 

 ……アカリの力、『再誕』の力を誰かが使った?

 

 確実に『再誕』の力を使ったのは、あの声の主だろう。

 

 でも、いったい誰なんだ……

 

『そう焦るな、今目の前に現れてやる』

 

 ……っ、また声が聞こえた!?

 

 声が聞こえた瞬間、俺達の目の前に赤い煙が突然現れ始めた。

 

 そして、その赤い煙が晴れると、そこには……

 

 

*     *     *

 

 

「ハッハッハッ!! どうしたどうした!! 全然効いておらんぞ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 夢人達の目の前で不思議な現象が起きている時、ネプギア達と激しい戦闘を行っていた。

 

 ……いや、ジャッジに弄ばれるように翻弄されていたのだ。

 

 ネプギア達は体中に大きくはないが、数多くの傷を負っているのに対して、ジャッジの鎧は新品のような輝きを誇っていた。

 

 ネプギアのM.P.B.L.による斬撃と砲撃も、ユニのX.M.B.による強力な砲撃も、ナナハのワンダーの力を借りた撫子の刃すらも、ジャッジの鎧を傷つけることはできなかった。

 

 今も斬りかかってきたネプギアのM.P.B.L.をわざと受けるように受け止め、余裕の態度でポールアックスを振り回していた。

 

「マズイね……何か方法は……」

 

「そんなのがあったら苦労なんて……っ、そうだ!! ナナハ、今すぐワンダーのモードを変えなさい!!」

 

 ネプギアがジャッジのポールアックスを避けている間に、ナナハはユニに打開策がないかどうかを尋ねた。

 

 最初は険しい目つきでジャッジを睨みつつ、何の方法も見出せなかったユニであったが、突然何かを閃いたようにナナハへと手を伸ばした。

 

「ワンダーを……わかった!! お願い、ワンダー!!」

 

〔了解した!!〕

 

 一瞬目を丸くしたナナハであったが、ユニの真剣な目を見て、すぐに顔を引き締めてトルネードモードを解除するようにワンダーに頼み込んだ。

 

 撫子からタイヤ、プロセッサユニットのウイングから車体が分離し、ワンダーはユニの目の前で元のビークルモードへと戻ったのである。

 

 ユニはすかさず、ハンドルの横にあった黒いボタンを押し、ワンダーを違うモードへと変形させる。

 

〔CHANGE MODE BLASTER〕

 

 すると、ワンダーの車体が再び浮き上がり、ユニの肩に着地すると、巨大なバズーカのような形へと変形した。

 

 かつて、ユニが『変身』できなかった時に使用したブラスターモードであるが、今回は少し形が変化している。

 

 以前はなかった何かを接続するような出っ張りがあるのだ。

 

〔そこにX.M.B.を差し込め!!〕

 

「わかったわ!!」

 

 ユニはワンダーの指示通り、その出っ張りの部分にX.M.B.の銃口を接続すると、目の前に現れていた緑色のスコープに表示されていたゲージが急速に上昇を始めた。

 

 それに合わせて、ブラスターモードに備え付けられているランプが次々に点灯していき、すぐに全てのランプに強い光が灯った。

 

 ブラスターモードは、ユニが『変身』時に使用することでX.M.B.との連結が可能になっている。

 

 接続することで、本来ならチャージに費やされる時間が大幅に減少し、すぐに最大火力の砲撃を行うことが可能であった。

 

「ナナハはネプギアのことを!!」

 

「わかってる!!」

 

 砲撃の準備のため動けないユニに代わり、ナナハはネプギアを救出するために最大加速でジャッジへと飛翔した。

 

 その速さはトルネードモードを利用していた時と比べれば遅いが、すぐにジャッジの目の前に躍り出ることができた。

 

「スピニングブラスト!!」

 

「なにっ!?」

 

 ネプギアに注意がいっていたジャッジは、突然目の前に現れたナナハの持っている撫子の先端に渦巻く風のドリルに驚きの声を上げた。

 

 だが、すぐに冷静になり、自ら風のドリルへと自信の頭をぶつけに行った。

 

 すると、風のドリルとジャッジの頭に伸びている3本の角の1つがぶつかり合い、風のドリルがかき消されてしまった。

 

「フン、こざかしい真似を……ムッ?」

 

 風が霧散していく先を睨んでいたジャッジであったが、そこには自分を攻撃したナナハの姿がないことに思わず唸ってしまう。

 

「ファントムダイブ……忘れたわけじゃないよね?」

 

 ジャッジは自分の足の付近から声が聞こえてきたとわかると、すぐに視線を下に下げた。

 

 そこには勝ち誇ったように笑みを浮かべるナナハと、その手が繋がれている困惑した顔のネプギアがいた。

 

 ナナハは風のドリルを撫子の先端から分離させ、自身は霧散した風と共にネプギアの救出を成功させていたのだ。

 

 ネプギアも、突然現れたように自身の手を握るナナハに困惑していたが、すぐにすべてを任せるように強く手を握り返した。

 

「ユニ!!」

 

「最大火力、吹き飛べえええ!!」

 

 ナナハはネプギアを連れてその場で急速に上昇すると、ブラスターモードが火を吹いた。

 

 ナナハ達がいた場所の後ろから、ジャッジの体全体を飲み込むほどの巨大な光が放たれたのだ。

 

「ぬっ、ぬおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

 避ける時間すらなく、ジャッジはその極大の閃光の中に姿を消してしまう。

 

 一方、上昇して難を逃れたナナハ達は、その様子を見ても油断なく武器を構えていた。

 

 ブラスターモードの火力であっても、今のジャッジに効くかどうかがわからないためである。

 

 やがて、ブラスターモードからすべての光が放たれ終わると、再びジャッジはその姿を現した。

 

 ……その姿は、鎧に煤のような汚れが付いただけで、どこも破損しているようには見えなかった。

 

「……嘘でしょ、今のでも駄目なの……」

 

 ユニは目を見開き、呆然とジャッジを見つめてつぶやいた。

 

 今の3人の最大火力は間違いなく、先ほどのユニの攻撃であった。

 

 しかし、それを持ってしてもジャッジの鎧に傷1つつけられないと言う現実に、3人の頭の中で絶望がよぎってしまう。

 

「……今のは少々危なかったが、今度は私の……っ!?」

 

 ブラスターモードの一撃を耐えきったジャッジが、ポールアックスを大きく振るおうとした時、その腕から異音が発生した。

 

 金属が軋むような音が聞こえだすと、ジャッジの腕が震えだし、握っていたポールアックスを手放してしまった。

 

「……なるほど、まだ調整が不十分であったか」

 

 ジャッジは震える手のひらに視線を落とし、握りしめようとするのだが、上手く指を動かすこともできない。

 

 これは決して3人の攻撃がジャッジに対して効いていなかったわけではない証拠である。

 

「だが、私にはフィーナ様の命令を遂行すると言う崇高な使命が……」

 

〔ジャッジ・ザ・ハード〕

 

「っ、フィーナ様!?」

 

 震える腕で構えだす鎧の中で、ジャッジの耳にフィーナの声が聞こえ始めた。

 

 その声は通信機を使ったようなものではなく、ジャッジだけに直接語りかけるような声であった。

 

〔今日の所は戻って来なさい〕

 

「し、しかし、まだ勇者の確保が……」

 

〔いいから戻って来なさい。私にあなたを捨てさせないで〕

 

「……フィーナ様、わかりました。只今より帰還いたします」

 

 フィーナの懇願にも似た命令に、ジャッジは胸中で涙を流しながら素直に従うことにした。

 

 特に、【捨てさせないで】と言う言葉がジャッジの胸に響いたようで、自身がフィーナに望まれているのだと強く認識し、より一層の忠誠を誓おうと再び心に決めたのである。

 

「命拾いしたな、女神候補生ども。しかし、次はこうはいかんぞ」

 

「……あら、逃げるのかしら?」

 

「挑発なら自分達の力量を上げてからするべきだな……では、さらばだ」

 

 ジャッジはユニの負け惜しみのような挑発に聞く耳を持たず、踵を返して3人から遠ざかっていった。

 

 その無防備な後ろ姿を見ても、3人はジャッジに攻撃することはできず、地面にへたり込んでしまったのだ。

 

「……はあ、何なのよ。アイツの強さは」

 

「……前に戦った時と全然違った」

 

 地面にへたり込むと同時に『変身』が解けた3人は、今にも寝転がりそうな体を腕で支えながら大きく息を吐いた。

 

「……でも、どうして急に帰っちゃったんだろう」

 

 疲れたようにつぶやいたネプギアの問いに答える声はなく、ただ3人はすでに見えなくなってしまったジャッジの姿を思い出すのであった。

 

「帰る前に、フィーナ様がどうとか言ってたよね?」

 

「そのフィーナって奴の命令ってこと? ……何でそんな命令をしたのよ?」

 

「それはわからないけど……勝てなかったね、私達」

 

「……そうね。負けちゃった」

 

 ジャッジの帰った理由を推測していると、ユニとナナハは顔を暗くしてしまった。

 

 最後の最後で、見逃されるような形になってしまったことが悔しいのである。

 

「……大丈夫だよ」

 

「ネプギア?」

 

「次に戦う時までに強くなって勝てばいいんだよ。それまで、私達は負けてない」

 

 2人とは違い、ネプギアは瞳に闘志を燃やし、力強く宣言した。

 

「諦めない限り、私達は絶対に負けない。そうでしょ?」

 

「……まったく、これだからネプギアは」

 

「……そうだよね。まさかそんなことを言われるなんて思わなかったよ」

 

「え? 私何か変なこと言っちゃった?」

 

 ネプギアは2人の反応が思っていたのと違うことに目を丸くして驚いてしまった。

 

 2人は顔を見合わせて苦笑し合うと、ネプギアの方を向いて柔らかく笑みを浮かべた。

 

「次に戦って勝つのはアタシ達に決まってるでしょ」

 

「わざわざ言葉にする必要ないってことだよ」

 

「……え、えええ!? 私は2人が落ち込んでるんだと思って励まそうとしたのに……」

 

「そんなの必要ないわよ……アンタじゃあるまいし」

 

「そんな風にネガティブになるのは、ネプギア1人だけで充分だよね」

 

「な、何それ!? 私はそんなに暗くならないよ!? もう、酷いよ、2人とも!?」

 

 涙目になるネプギアを見て、ユニとナナハは顔を綻ばせて地面に背を預けて空を見上げた。

 

 ……空には一際輝く3つの星が並んでいるように見えたのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 夢人達の目の前に現れた赤い煙がすべて晴れると、そこには小さな人影が存在していた。

 

 大きさはイストワ―ルと同じくらいであり、流れるような銀髪を伸ばした女性が宙に浮いていたのだ。

 

 女性の服装は、見た目はネプテューヌ達女神が着けているプロセッサユニットのような素材でできているように見え、その大きさながらも女性の美しさを際立たせているように思えた。

 

「ようやくこうして出会うことができたな。今代の女神、そして勇者よ」

 

「……あなたは、いったい」

 

「私か? そうだな、私は……」

 

 呆然と自分を見つめていた夢人の問いを聞き、女性は肩にかかっていた髪を払う仕草をして口を開いた。

 

「今の私は魔女、古の魔女マジェコンヌだ……まあ、貴様達の敵である犯罪組織マジェコンヌで神として崇められていた犯罪神でもあったのだがな」

 

 女性、マジェコンヌは妖艶な笑みを浮かべながら宣言した。

 

 ……その笑みは、どこか自嘲的なようにも見えたのであった。




という訳で、今回は以上!
ようやくこの章の本編も終わりましたね。
予定よりも文量が多くなった時にはどうなるかと思いましたよ。
でも、これで予定通り明日に女神通信、明後日に次章の導入話でをあげられそうです。
それでは、 次回 「きりひらけ! 女神通信(ベール編)」 をお楽しみに!

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