超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
前回はお伝えできませんでしたけど、この作品の通算UAが70000を突破していました!
読者の皆さんには本当に感謝の言葉しかありません。
ありがとうございます!
それでは、 復活 はじまります
夢人がリーンボックスの街外れにある林の中でジャッジとマジックに武器を突き付けられている頃、ルウィーの教会で異変が発生していた。
『……ようやくここまで回復したか』
教会の保管庫に保管されていた小瓶から、断続的に強い赤い光が発生していた。
さらに、小瓶の中に入っている赤い目玉からくぐもったような声が保管庫に響きだす。
保管庫には人影はなく、まるで赤い目玉がしゃべっているように感じられるほど異質な光景が広がっていた。
『トリックが言っていたな。勇者はリーンボックスにいると』
思案するような声を出す赤い目玉が昼間に保管庫の壁を修復していたトリックがこぼしていた愚痴を思い出すと、断続的だった光がより強い光を発光しだした。
次の瞬間、小瓶の中を埋め尽くすように赤い煙が充満し始め、赤い目玉を隠してしまったのである。
『では、行くとするか……』
煙に隠された赤い目玉の声が遠のいていくと、小瓶に充満していた赤い煙が次第に蓋から漏れ出した。
全ての煙が小瓶から抜け出ると、その中には赤い目玉の姿は残っていなかった。
漂っていた赤い煙が霞のように空気に溶け込むと、保管庫は元の静寂を取り戻し、誰も異変には気付かなかったのであった。
* * *
林の中でジャッジとマジックに見つかった夢人は、ジャッジの先導の元で林から抜け出して草原を歩いていた。
先頭を歩くジャッジと後ろに位置するマジックに、夢人は逃げ出す機会をうかがっていた。
しかし、自分の胴体とジャッジとの間に後ろから歩いているマジックの鎌があるため、下手に動くことができずにいる。
そのため、夢人は黙ってジャッジの後ろをマジックの鎌に注意しながら歩いていたのであった。
(いったい俺はどこに連れて行かれるんだ? それに、コイツらの様子もおかしいし……)
夢人は連れて行かれる中で、2人の様子に疑問を感じていた。
ジャッジとマジック、共に夢人は対峙した経験がある。
しかし、今の2人はかつて相対した時とまるで違う様子であることに困惑していた。
夢人は未だリンダとワレチューから詳しい話を聞いていなかったため、2人の、特にマジックの変化に戸惑っていたのである。
(前に会った時は、マジック・ザ・ハードの方が上の立場のような気がしたのに、今はジャッジ・ザ・ハードに素直に従ってる……なんて言うか、無機質になってる?)
以前はマジックから放たれていた殺気にも似た威圧感を、夢人は背後からまったく感じていなかった。
それどころか、後ろにいるのかすらわからなくなるほど存在感が薄いと思ってしまう。
(昨日もトリックがやられるまでいたのがわからなかったけど、今も鎌がなければいるのかどうかすらわからない。もしかしたら、後ろに下がれば逃げられるんじゃ……やめとくか、運よく逃げだせたとしてもジャッジに追いつかれるのが目に見えてるし……クソッ、助けを待つしかないのかよ)
自分1人の力では2人から逃げられないことを悟り、夢人は歩きながら奥歯を噛みしめて顔を歪めた。
なまじ、ブレイブとの決闘やキラーマシンを倒したことで力がついたと思っていたから、夢人は余計に悔しい思いを抱いた。
(やっぱり、俺は……って、そんなこと考える場合じゃない! 今は何とか時間を稼がないと……)
夢人はネガティブになりそうになった思考を振り払うと、時間を稼ぐために前を歩くジャッジへと声をかけた。
「なあ、俺はどこに連れて行かれるんだ?」
「ギョウカイ墓場だ。我らの主が貴様を招待しているのだ」
「主?」
律儀に返事を返されたことに少しだけ拍子抜けする夢人であったが、ジャッジが口にした言葉に首を傾げた。
「主って、犯罪神のことか?」
「違う。我らの主は犯罪神などではない。我らの真の主は『再誕』の女神フィーナ様だ」
「フィーナが……『再誕』の女神……?」
夢人はトリックの口から出たフィーナの名前が、ジャッジからも聞くとは思っていなかったため、目を見開いて驚いてしまった。
(確かに、フィーナはネプギアにそっくりだったけど……アカリと同じ『再誕』の女神だったのか?)
かつて出会ったフィーナの姿を思い出し、夢人は眉をひそめた。
そして、もっと詳しい話を聞こうとした時、前を歩いていたジャッジの足が止まり、夢人の方を振り向いた。
その夢人を見下ろす瞳には、静かな怒りが込められていた。
「訂正しろ、フィーナ様だ」
「……フィーナ、様」
「そうだ。いくらフィーナ様が所望しているとは言っても、あまりにも不敬だと判断した場合は痛い目を見てもらうぞ」
「……わかった。ただ、これだけは教えてくれ」
ジャッジの言葉が本気であると悟った夢人は息をのむが、最後の抵抗とばかりに1つの疑問を投げかけた。
「マジック・ザ・ハードは、どうしてさっきから何も話さないんだ?」
「くだらない質問だな」
「いいから答えてくれ」
呆れたように言うジャッジに、夢人は険しい目つきで答えを促した。
夢人にとって、この場で1番聞いておきたいことはマジックのことだ。
先ほどからジャッジと会話しているにも関わらず、何の反応も示さないマジックを不気味に感じていたのである。
「なに、単にフィーナ様の従順な人形になっただけだ」
「人形……だと……?」
「そうだ。愚かしくもフィーナ様に盾突いた報いを受けただけだ」
ジャッジは夢人に説明しながらマジックへと視線を向けた。
その視線には侮蔑が込められているにも関わらず、マジックは微動だにしない。
ただ虚ろな目のまま立ち尽くしているのであった。
「まったく馬鹿な奴だ。大人しくフィーナ様に従っていれば、こんなことにはならなかっただろうに」
「お前っ!! マジック・ザ・ハードは仲間じゃなかったのかよ!!」
「仲間だと? フン、笑わせるな。元より仲間意識など持ち合わせていない。ただ我らは犯罪神の元で自由に暴れたかっただけだ」
夢人の怒声を鼻で笑い飛ばしながら、ジャッジは口の端を大きく吊り上げた。
「利用し利用されるだけの関係だった。その女は私を犯罪神のために利用しようとした。ならば、今度は私がフィーナ様のために奴を利用する。これの何が悪い? 因果応報だと思わないか?」
「確かにその通りかもしれない……けどな、今のお前だって同じだろ!! 結局はフィーナに利用され……」
「貴様っ!!」
「うぐっ!?」
笑みを浮かべていたジャッジであったが、突然顔を怒りに染め上げると夢人の首を片手で絞めあげるように持ち上げた。
夢人は苦しそうにもがきながら、自分の首を絞めるジャッジの腕を叩いたり、足を大きくばたつかせたりするのだが、拘束は緩むことなく、次第に顔の色が変化し始めた。
「2度もフィーナ様を呼び捨てにするなど、よほど痛い目にあいたいらしいな」
「は……な……せ……」
「フィーナ様の命令は貴様をギョウカイ墓場に連れてくること。だから、殺しはしない。大人しく寝ていてもらうぞ」
口調は冷静に聞こえるが、隠しきれない怒りの影響でジャッジは首を掴む手に力が入り、夢人を絞め落とそうとする。
満足に呼吸ができなくなっていく夢人は、段々と瞼を開けているのがきつくなってきたのか、口をパクパクと動かして目を閉じようとしていた。
(ごめん、俺もう……)
「パンツァーブレイド!!」
「エアリアルスラッシュ!!」
「ぐおっ!?」
「っ!?」
「っ!? ……ゴホッ!? ハア、ハア、ハア……ネプギア、それに、ナナハ?」
目を閉じようとしていた夢人であったが、突然ジャッジの拘束から解放されて地面に落とされてしまった。
首元を押さえて荒い息を繰り返しながら前を向くと、そこにはネプギアとナナハの後ろ姿が見えた。
* * *
「大丈夫、夢人?」
「あ、ああ、何とかな」
私は後ろにいる夢人を守るように、撫子をジャッジ・ザ・ハードとマジック・ザ・ハードに油断なく構えていた。
……崖から転落した夢人を探していたら、ジャッジ・ザ・ハードに首を絞められている夢人の姿を見つけたからだ。
私とネプギアは急いで武器を構えると、ネプギアはジャッジ・ザ・ハードを、私はマジック・ザ・ハードをそれぞれ攻撃した。
ジャッジ・ザ・ハードは夢人しか見えていなかったせいで、ネプギアは簡単に夢人を助けることができたのだけれど、私の方はそうではない。
私が近づいても、マジック・ザ・ハードは何の反応も示さなかったのだ。
ただ風を纏った撫子の一撃に吹き飛ばされるマジック・ザ・ハードに、私は言葉にできない恐怖を覚えた。
今もむくりと何事もなかったように起き上がる姿を見て、本当に怖いと思ってしまう。
……リンダが言っていたのはこのことだったんだね。
以前、1度だけアンダーインヴァースであった時とはまったく違う様子のマジック・ザ・ハードの姿に、私はリンダとワレチューが頼んできた本当の意味を知ることができた。
「ごめんなさい、夢人さん。私が崖から突き落としてしまったばっかりに……」
「い、いや、今はそんなことを気にしている場合じゃ……」
「まったくもってその通りだよね。やっぱり、今日のデートが最悪だったのもネプギアのせいだよ」
「な、ナナハ? 何を言って……」
「そ、それは関係ないでしょ!? 私は2人のデートを邪魔した覚えなんて……」
「充分邪魔してたじゃない。何がギアラスなの? あんな変な格好しちゃってさ」
「だ、だから、今はそんなことを……」
「ひ、酷いよ!? わ、私だって、好きであんな格好してたわけじゃないんだよ!?」
「その前なんてもっと酷かったじゃん。あんな変質者紛いの恰好、怪しんでくださいって言ってるようなものだよ」
「やっぱり気付いてたの!? って、気付いてたなら、わざと見せつけてたんでしょ!?」
「あ、やっとわかったの? まあ、ニブチンのネプギアだし、気付いただけでも褒めてあげるよ。偉い偉い」
「ば、馬鹿にしないで!? それに、私は鈍くなんてないよ!?」
「ね、ネプギアも、そこまでに……」
「そもそも、ナナハちゃんが私に意地悪するからでしょ!?」
「それはネプギアがはっきりしなかったからだよ。人のせいにしないで」
「それはこっちのセリフだよ!?」
「ああもう!! いいから落ち着いてくれ、2人とも!!」
私とネプギアが言い争っていると、夢人が間に入り仲裁しようとした。
熱くなってたのは認めるけど、まだ収まりがつかないよ。
「夢人は黙ってて。夢人だって今日のデート、ネプギアのせいで楽しめなかったでしょ?」
「い、いや、だから今はそれどころじゃ……」
「止めないでください、夢人さん。ナナハちゃんこそ、夢人さんに迷惑かけてばっかりのくせに」
「ネプギアも、何を……」
「へえ、何が言いたいの?」
「夢人さんの都合も考えずに勝手にデートの約束を取り付けて、いい迷惑でしたよね?」
「べ、別に迷惑ってわけじゃ……って、だから目の前に……」
「夢人は迷惑に思ってないみたいだよ。やっぱり、私とのデート楽しみにしててくれたんだよね。それをネプギアが台無しに……」
「そ、そんなことないもん!? 夢人さんもはっきり言って下さい!!」
「お、俺!?」
「そうだね。はっきり言ってあげなよ。ネプギアのせいで今日のデートが台無しになっちゃったって」
「違います!! 勝手にデートの約束をされて迷惑したんです!!」
「お、お2人さん、いい加減に……」
『さあ、早く答えて(ください)!!』
「だ、だから、あのさ……」
「いい加減、そのまま事をやめてもらおうか」
ヒートアップしていく口論を夢人に決着をつけてもらおうとしていた時、横から水が差された。
声のした方を向くと、そこには私達を睨むジャッジ・ザ・ハードと無表情に見つめてくるマジック・ザ・ハードの姿が……あ、忘れてた。
今、2人もいたんだっけ。
ネプギアと夢人しか見えてなかったよ。
律儀に声をかけてくれたジャッジ・ザ・ハードに感謝しつつ、自分の頭を冷やしていく。
危ない危ない。もし不意打ちされてたら、ちょっとまずかったかもね。
「いきなり出てきた邪魔したかと思ったら、今度は勝手に仲間割れ……ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけてないよ。私達にとって大切なことを話してたんだから、そっちが邪魔しないでよ」
「そうです。それに、これ以上夢人さんを傷つけさせません!」
私とネプギアは一時休戦して、いつでも戦闘が行えるように構えだした。
でも、正直3人じゃきついかもしれないね。
「フン、たかが女神候補生が2人と勇者で私に勝てると思っているのか?」
「おーっと、3人だけじゃないんだよね、これが!」
状況が不利だと思っていたら、後ろから誰かが近づいてくる音と声が聞こえてきた。
そう言えば、デートの最中にもいたよね。
「こちらは8人、そちらはお2人……数は倍以上ですわよ」
〔それは私も含めているのか?〕
「当然ですわ。何か問題でもありますの?」
〔いや、私もカウントしてくれるだなんて嬉しいものだなと……感謝する、リーンボックスの女神よ〕
「ベールとお呼びくださいまし、ワンダーさん。さあ、ここからはわたくしの華麗な活躍を……」
「ちょ、ちょっとちょっと!? わたしを置いて話を進めないでよ!? 先に声をかけたのはわたしなんだから、そう言うかっこいいセリフはわたしが言うべきでしょ!?」
ベール姉さんとワンダーが話していたら、ネプテューヌさんが慌てて会話に入り込んできた。
……うん、さっきまでの私達が言えた立場じゃないけど、そんなことはどうでもいいと思いますよ?
「あら、そんなことはどうでもいいじゃありませんか。早い者勝ちですわよ」
「ずるいよ! ここは主人公のわたしがバシッと決めるところだったのに……それじゃ、もう1回最初からやり直しを……」
〔いやいや、そんなことをしている暇はないぞ〕
「ワンちゃんまで……じゃあ、いいよ! ここから始めるから……あー、あー、あー、んんっ! そこまでだよ!! このわたしが来たからには、これ以上勝手な真似は……」
「時すでに遅しですわよ。まったく、少しは空気を読んでもらいたいものですわ」
「それをベールが言う!? 2度も邪魔しておいて!?」
〔だから、2人とも落ち着いてくれ〕
……なんかさっきまでの私達を見ているようで、少しいたたまれない気持ちになってしまう。
冷静になると恥ずかしいな。
ネプギアも同じように感じているのか、少しだけ頬を染めて視線を横に向けている。
時々、私の方を見ては視線が合ってしまい、慌ててそらす……って、こんなこともしている暇もないんだよね。
「まったく、ネプテューヌさんとベールさんは……」
「そうだよね、ユーニン。今は戦闘中なんだから、気を引き締めないと」
「ユーニン言うな!? ってか、アンタがこんなところに夢人を連れてくるから、探すのに時間がかかっちゃったじゃない!!」
そう言えば、ネプギアはついてきたのに、ユニ達はついて来れなかったよね。
「ここに来るまで何やってたの?」
「……着替えたり、2人が喧嘩したりして大変だったのよ」
「それはご愁傷様だね。でも、魔法少女の服は可愛くて似合ってたよ。ねえ、ネプギア?」
「うん、とっても可愛かったよね」
「うるさい!? と言うより、いつの間に2人はそんなに仲良くなったのよ!?」
ユニが顔を赤くして私達を指さしてくるけど、そんなことはない。
私とネプギアが仲良くなんて……
「そんなことないよね?」
「うん。ユニちゃんの勘違いだよ」
「……もういいわよ。それより、ネプギア」
私がネプギアと顔を見合わせて確認し合うと、ユニは呆れたように顔を手で覆ってため息をついた。
その態度は失礼だと思うんだけど。
だけど、ユニはすぐに顔を引き締めてネプギアを見つめた。
「後で話があるから、絶対に逃げるんじゃないわよ」
「……ユニ、それ死亡フラグだぞ」
「夢人もうるさい!? そんなもの立ててないわよ!?」
夢人に指摘されると、また沸騰したように顔を真っ赤にしたユニが慌ててネプギアに詰め寄った。
「いいわね!? 絶対に、ぜーったいに逃げんじゃないわよ!?」
「わ、わかった!? わかったから離して!?」
「ほら、ユニもそこら辺にしておきなよ。ネプギアも困ってるよ」
「アンタにもあるからね!? 自分だけ無関係を装うんじゃないわよ!?」
ユニは私にも話があるみたいだけど……ああ、デートのことかな?
それとも、もしかしてミッドカンパニーで言ってた夢人のことを頼むってことかも。
……でも、ちょっとからかってみようかな。
「……ごめんね、ユニ」
「な、何謝ってんのよ!?」
「私、もう……」
「え、嘘、も、もしかして……」
「これからはちゃんとユーニンって呼ぶから、怒らないでくれるかな?」
「だあああもう!? なに意味深な空気を出して変なこと言いだすのよ!? この馬鹿!!」
ユニは顔を青くしたり赤くしたりと忙しいね。
今度は私の方に詰め寄ろうとしたユニを、ネプギアが背後から羽交い絞めにして押さえた。
「ゆ、ユニちゃん、落ち着いて!?」
「これが落ち着けるか!! 人をおちょくってそんなに楽しいのか!!」
「うん、ユニって反応が素直だからすごい可愛いよね」
「ふざけないでよ!! その笑顔がムカつくのよ!!」
「お、抑えてよ!? ナナハちゃんも余計なことを言わないで!?」
だって、ユニも変なこと言っていなくなっちゃったから、別にいいと思うんだけどな。
まあ、これで行方不明の件と変なことを言った件は許してあげよう。
「私は本当のこと言ったまでだよ。夢人もそう思うよね?」
「ここで俺に振るのか!?」
「だって、所在なげにポツンとしてるんだもん。ほらほら、ユーニン可愛かったよね?」
「いや、だって会話に入れなくて……まあ、うん、可愛いかったのは可愛かった」
「っ!? 夢人は思い出すな!? 今すぐ忘れなさいよ!?」
「む、無茶言うなよ!?」
夢人が顎に手を当ててユーニンを思い出して感想を言うと、ユニは本当に爆発しちゃうんじゃないかって思うくらいに顔がすごい真っ赤になってしまった。
本当に恥ずかしがり屋なんだから、もっと普段から可愛い服を着ればいいのに……
「貴様ら!! いい加減無視をするな!!」
『……あっ』
ジャッジ・ザ・ハードの怒りに震える叫び声を聞いて、私達はようやく今が戦闘前だってことを思い出すことができた。
また存在を忘れてたよ。
でも、ジャッジ・ザ・ハードも本当に律儀だよね。
2度も注意を促してくれるなんて。
「そちらの人数がいくら増えようが、私にはこの新しい鎧がある!! この鎧は今までの貴様らの戦闘データを全て分析し、キラーマシンの装甲で作り上げた最高の鎧だ!! さらに、フィーナ様から賜った力を備えた私に敵うと……」
「はいはい、そっちもわかりやすいフラグを立てるね。ただ着せ替えしただけで強くなるなんて、ゲームの中だけなんだよ」
「同感ですわ。自分から説明口調になるなんて、倒してくださいと言っているようなものですわよ」
〔……私が言えた義理ではないが、確かにやられるフラグに聞こえてしまうな〕
「それに、そんな鎧の光を赤くしただけで強くなったと思ってるの? アタシ達を馬鹿にしてるんじゃないわよ」
「そうそう、その戦闘データよりも、今の私達はもっと強いんだから」
鎧を自慢し始めたジャッジ・ザ・ハードに、私達は次々とツッコミを入れた。
その鎧でいくら強くなろうとも、私達は負けるわけにはいかない!!
「……皆切り替え早いよな」
「……あ、アハハ、ですよね」
夢人とネプギアは私達の様子を見て呆れたようにつぶやいていたけど、そんなの当たり前だよ。
今までのおふざけモードから一転して、真面目になった私達は犯罪組織なんかに負けはしない。
2人もいつまでもボーっとしてないで、早く戦闘準備を……
「よし、俺達も負けてられないな。行くぞ、ネプギア!」
「はい、夢人さん! ……って、何でそんな目で見るの?」
「……だって、ねえ?」
「……ええ、そうよね」
『こんな時にいちゃつかないでよ』
「い、いちゃついてないよ!?」
いいや、絶対にいちゃついてたよ。
思わずユニと2人でジト目になっちゃったもん。
それに、夢人も赤くなった頬を気まずそうにかいてるし、状況を考えて欲しいよね。
……まあ、私達が言えたことじゃないけど。
「……マジック様」
そんな時、今まで1度も口を開いていなかったリンダがマジック・ザ・ハードにゆっくりと歩きだした。
* * *
今、アタシの目の前に変わってしまったマジック様がいる。
その虚ろな目がどうしてもアタイを悲しくさせてしまう。
……こんなマジック様、見たくなかった。
「マジック様……アタイがわかりますか?」
近づきながら声をかけても、マジック様は何の反応も返してくれなかった。
ただここじゃないどこかを見つめているように、アタイの存在を無視する。
「お願いします……返事をしてくださいよ、マジック様」
歩いている足が震え、目の前も霞んできやがる。
クソッ、情けないなあ、アタイは……
「無駄だ。コイツはすでにフィーナ様の人形になった。貴様の声など……」
「うっせえんだよ!! テメェはすっこんでろ!!」
横からジャッジ様が何かを言ってきたが、アタイは声を荒げて遮った。
今のアタイにとって1番重要なことは、マジック様に元に戻ってもらうことだ。
だから、諦めるわけにはいかねぇンだよ!!
「マジック様、アタイです。リンダです……あなたに助けてもらって、あなたのために働く部下のリンダです……思い出してください」
1人でこの世界を恨みながら、全てを諦めていたアタイを救ってくれたのはマジック様だ。
ただの気まぐれだったのかもしれない。
でも、その姿にアタイは憧れた。
強い意志が燃えているように見えたその瞳が、諦めて何も見えなかったアタイの目に強い光を灯してくれた。
だから、アタイはあなたに従ってたんです。
そんなあなたがあの時のアタイのような目をしないでください。
「お願いします。前の……アタイの憧れたマジック様に戻ってください!! マジック様!!」
何度も懇願するが、マジック様はまったく動かなかった。
……アタイじゃ、駄目なのか。
アタイじゃ、マジック様を元に戻せないのかよっ!!
「マジック様!!」
「……いい加減うるさいぞ。やれ」
「……了解」
あともう少しでマジック様に触れられる距離までたどり着くことができると思った時、急にアタイの顔に影が差した。
マジック様の鎌の影だ。
マジック様はそのままジャッジ様の命令通り、その鎌をアタイに……
「させるかよ!!」
鎌がアタイの首を刈り取ろうとした時、1人の人物が鎌を受け止めて、マジック様を蹴り飛ばした。
「……勇者気取り」
「無茶すんじゃねえよ、リンダ」
腕を凍らせて刃のようにした勇者気取りが、にかっとアタイに笑いかけてきた。
「事情はまだ全部わかんないけど、マジック・ザ・ハードを助けたいんだろ?」
「……ああ」
「だったら、諦めんなよ。絶対に助けるぞ」
アタイは思わず目を見開いてしまったが、勇者気取りは真っ直ぐにマジック様を見つめていた。
「ほら、いつまでも泣いてないで、さっさとやるぞ」
「っ、泣いてなんかいねぇよ!? このバーカ!!」
アタイは袖で強く目をこすり、勇者気取りの横に立った。
「テメェこそ、偉そうなこと言っておいて、助けられませんでした、なんてことになったら、ただじゃおかねぇからな!!」
「わかってるさ」
「なら、いいさ」
それ以上、言葉は必要なかった。
コイツと一緒にいるのは、リーンボックスで特命課に所属していた時以来だけど、今は信頼しといてやるよ。
……マジック様を助けるまでだけどな。
* * *
「……なーんか、わたし達って空気読めてなかった?」
「今更ですわよ。それにもう充分みたいですし、後はマジック・ザ・ハードを助けて、ジャッジ・ザ・ハードを倒すだけですわ」
「それもそうだね。よーし、一気に決めちゃうよ!」
リンダ達の様子を見ていたネプテューヌは気まずそうに眉を下げてつぶやいたが、ベールのフォローにより、すぐに元の顔に戻して戦闘準備を始めた。
次の瞬間、ネプテューヌとベールから光の柱が伸び、『変身』を完了させた。
「さて、ここからが本番よ。覚悟してもらうわ」
「ここからは本気モードといかせてもらいますわよ」
それぞれ刀剣と槍を構えて、いつでも戦闘ができるように構えだした。
「私達もいくよ」
「当然じゃない。夢人達にだけいい格好はさせないわよ」
ネプテューヌ達に続くように、ネプギアとユニも『変身』を完了させるが、ナナハは1人だけ真っ直ぐにリンダを見つめていた。
「……リンダ、今度は私が助けるよ」
短く決意を言葉にすると、ナナハも『変身』の光に包まれ、その体にプロセッサユニットが展開される。
しかし、今までの《スプライト型》とは異なる物であった。
白を基調としていることは変わらないが、緑色のラインを縁取るように金色のラインが引かれている《トゥインクル型》に変化していた。
「ワンダー、私に力を貸してくれるかな?」
〔ああ、緑色のボタンを押してくれ〕
「わかったよ」
〔CHANGE MODE TORNADO〕
ナナハがハンドルの横に付けられている緑色のボタンを押すと、ワンダーは宙に浮き上がり、その車体とタイヤに分離させ変形させていく。
プロセッサユニットのウイングが増設されるようにワンダーの車体と合体し、より大きな翼に変化した。
さらに、ウイングに合体しなかったタイヤが撫子の先端を挟むように装着されると、タイヤが回転を始め、緑色の刃が発生した。
これがナナハ専用になるワンダーの変形パターン、トルネードモードである。
ウイングによる最大加速と、撫子から伸びる巨大な刃による火力で一撃必殺をコンセプトにした変形パターン。
しかも、今回は『変身』した状態であるため、ウイングの出力も底上げされている。
「はああああああ!!」
「ぬぐっ!?」
ナナハはジャッジをマジックから大きく引き離すように、撫子の巨大な刃の腹でジャッジを吹き飛ばした。
ポールアックスで防御に成功したジャッジであったが、そのスピードと火力により、重たいはずの鎧姿が宙に浮き上がり、ナナハの目的通りにマジックから引き離すことに成功した。
「ジャッジ・ザ・ハードは任せて。夢人とリンダはマジック・ザ・ハードを」
「……ありがとうな、ナナハ」
「お礼はいらないよ。しっかり恩返ししてあげなよ」
「っ、ああ!!」
ナナハのほほ笑みに照れくさそうにしていたリンダであったが、続けられた言葉に目を丸くした。
それはかつてリンダがナナハに言った言葉であった。
それを聞いたリンダは口元に力強い笑みを浮かべ、瞳に力を漲らせてマジックを見つめた。
「それと、夢人はこれを!」
「おう! 助かるぜ!」
ナナハはリンダの様子に安堵の笑みを浮かべると、夢人にワンダーに収納されていた1本の剣を投げ渡した。
夢人はそれを受け取ると、鞘から引き抜き目を閉じた。
……その剣はブレイブソードに変化したはずの、錆びた剣であった。
* * *
俺はナナハからブレイブとの戦いに使った剣を受け取った。
確かにこの剣はブレイブソードに変化したはずなのに、今は元の錆びた剣に戻っている。
……アカリ、いけるか?
『うん、だいじょうぶ!! いつでもいけるよ!!』
頭の中に響くアカリの力強い声に、俺は剣を握りしめイメージを固める。
もう1度、お前の力を貸してくれ。
手のひらから熱が伝わってくる。
目を閉じていても剣から強烈な光が放たれているのがわかる。
……お前もジャッジ・ザ・ハードのように利己的な考えしか持っていなかったのかもしれないけど、俺から言わせれば違う!!
「ブレイブソード!!」
俺が目を開くと同時に剣の名前を叫ぶと、錆びた剣に集まっていた光が弾け飛び、ブレイブソードが姿を現した。
その切っ先をこちらを無表情に見つめているマジック・ザ・ハードに向けて構える。
……お前の仲間を、一緒に救うぞ!!
という訳で、今回はここまで!
……はい、例によって分割ですよ。
この後の戦闘描写も多くなりそうですので、戦闘前で一区切りとさせていただきました。
次回で本当にこの章の本編は終了ですので、予定通り3月中に次章に移れる……はず。
それでは、 次回 「魔女」 をお楽しみに!