超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
だいぶ遅れましたが、最新話あげさせてもらいます。
それでは、 関係 はじまります


関係

 テーマパークから出て行った夢人さん達を探すのには、少し時間がかかった。

 

 2人は……ううん、ナナハちゃんは多分私の尾行に気付いていて、わざと複雑な道を通っていたと思う。

 

 気が付けば街の外にいて、私は林の中に入って行った2人を見失ってしまった。

 

 見つけられたのは、ナナハちゃんの声が聞こえてきたからだ。

 

「私、女神やめるよ」

 

 短い言葉だったけど、私の耳にははっきりと聞こえてきた。

 

 それだけナナハちゃんの思いが込められていたに違いない。

 

 声が聞こえてきた方に少し歩くと、そこには夕陽を背景に向かい合っている2人の姿が見えた。

 

「本気だよ。私はずっとこのままでいるよりも、好きな人と一緒に生きて、一緒に死にたい……夢人、愛しているよ」

 

 ナナハちゃんの告白は、私の予想とは違い、悲壮感が漂っているように思えた。

 

 確かに、私達と夢人さん……女神と人間は一緒の時を過ごせない。

 

 私達は夢人さんを時の中に置いていってしまう。

 

 今まで私はそんなことを考えたことがなかった。

 

 でも、ナナハちゃんは違った。

 

「夢人と一緒に年を重ねて生きていきたい。そのためなら、私は女神をやめて、ただのナナハとして寄り添いたいんだ」

 

 ナナハちゃんは夢人さんの胸に頭を当てると、告白の続きを静かに、それでいて心に響いてくるように告げた。

 

 ナナハちゃんが夢人さんのことをそんなに深く愛しているなんて思わなかった。

 

 私なんかの思いよりも、ずっと深い愛情を目の当たりにして、私はようやく覚悟を決めることができた気がする。

 

 悩みの答えと気持ちがようやく1つになった。

 

 これが私の答えだって、胸を張って言える。

 

「ナナハ、俺は……」

 

「んっ」

 

 ようやく定まった思いに、私が軽く笑みを浮かべて胸を押さえていると、いつの間にか2人がキスをしようとしていた。

 

 ……って、キス!?

 

 何で!? どうしてキス!?

 

 もしかして考え事をしているうちに、夢人さんも告白の返事をしちゃったの!?

 

 そうじゃなくても、夢人さんが何かを言おうとしているから、告白の返事と共にキスするつもりかもしれない!?

 

 慌てて混乱した私は冷静に考えることができず、ただ自分の気持ちに従って体を動かしていた。

 

「駄目えええ!!」

 

「ぶごっ!?」

 

 ナナハちゃんの肩に手を置いて、キスをしようとしていた夢人さんを思いっきり突き飛ばしていたのだ。

 

 ……ご、ごめんなさい、夢人さん。

 

 後で全部謝りますから、今は……

 

「ナナハちゃん」

 

「……何、私の邪魔をしに来たの?」

 

 乱れた呼吸を整えながら、私はナナハちゃんの方を向いた。

 

 ナナハちゃんは私を睨むように見つめながら、低い声で尋ねてきた。

 

 ……当然だよね。私はナナハちゃんの邪魔をしたんだから。

 

 でも、今の私は罪悪感に潰されない。

 

 それよりも、もっと大切なことを伝えなくちゃいけないんだ。

 

「聞いてもらいたいことがあるんだ」

 

「……何を言うつもりかわからないけど、ネプギアは自分がしたことを理解しているの?」

 

「うん、全部わかってる。だから、私の気持ちを知ってもらいたいんだ」

 

 ここに来るまで自信が持てなかったのが嘘のように、私は自分の気持ちを口にすることができた。

 

「私はナナハちゃんやユニちゃんのように、【未来】には踏み出さない……私は【今】を大切にするよ」

 

 私はナナハちゃんの心に届かせるように、真っ直ぐにその瞳を見つめて宣言した。

 

 ……今の私の気持ちを知ってもらいたいから。

 

 

*     *     *

 

 

「……なに……言ってるの……?」

 

 私はネプギアの口から出た言葉が信じられなかった。

 

 いや、認められなかった。

 

「何度でも言うよ。私は【未来】に踏み出さない。【今】を大切に生きていきたいんだ」

 

「……本気、なの?」

 

「本気だよ」

 

 私が確認するように尋ねても、ネプギアは力強く肯定した。

 

 聞き間違いじゃなかったんだね。

 

 私はこれ以上、ネプギアのことを直視していられず、思わず顔を伏せてしまった。

 

 ……私が伝えたかったことは、何ひとつネプギアには伝わらなかったんだ。

 

 知らずに握った拳に力がこもり、肩が震え始めた。

 

 ネプギアに対して、強い怒りの感情が湧いてくるっ!!

 

「だったら……だったら、何で邪魔をしたの!! 私の告白を!! 私の【未来】に踏み出すための一歩を!!」

 

 ネプギアはすでに理解していると思っていた。

 

 【未来】に踏み出す一歩がどれだけ大事なのかを。

 

 ユニの一騎打ちと同じで、私の告白も自分の運命を切り開くための大事な1度きりのチャンスだったのにっ!!

 

「私は言ったよね!! 【今】を全て壊しても【未来】の幸せを手に入れたいって!! それなのに、ネプギアは【今】を壊したくないから、私の【未来】を壊すって言うの!! ふざけないで!!」

 

 ネプギアの言葉は、私にはそう聞こえた。

 

 結局、ネプギアは【今】が1番幸せだから、それを壊したくないだけなんだ。

 

 ……何でわかってくれないの。

 

 その生き方は、【未来】に向かおうとする夢人や私達の足を引っ張るだけなんだよ。

 

 その言葉は、私達に対する侮辱と同じなんだよ。

 

 その考えは、私達を見下ろしている……私達のことをちゃんと見ていないことなんだよ。

 

 その気持ちは……夢人の愛への裏切りなんだよ!!

 

「大体、どうして邪魔なんてしたの!! ネプギアは夢人のことを何とも……」

 

「私は!!」

 

 私の怒声を大声で遮り、ネプギアは柔らかく笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「私は夢人さんのことが好きだよ。ナナハちゃんと同じように、1人の男性として愛している」

 

「……え」

 

「嘘や冗談やその場しのぎなんかじゃない。私の本当の気持ちだよ」

 

「……う……そ……」

 

 ネプギアから放たれた言葉に、私は耳を疑った。

 

 ネプギアの口から、夢人のことが好きだって言うことが信じられなかった。

 

 絶対に言えないと思っていたからだ。

 

 何で……何でネプギアは私の前で言えてるの?

 

 私は目の前で起こった有り得ないことに、目を見開いて固まってしまった。

 

「昨日は答えることができなかったけど、今ならちゃんと答えられる。私はナナハちゃんに負けないくらい、夢人さんのことが大好きです」

 

「っ、それでも、【負けない】なんだね」

 

「うん、【負けない】だよ」

 

「……そっか。なら、やっぱりネプギアの言葉は信じられない。【今】を選ぶあなたを絶対に認めない!!」

 

 【負けない】と宣言するネプギアに、私の思考は呼び戻された。

 

 【負けない】……それってつまり、勝ちもしないってことだよね?

 

 勝ちも負けもない、ずっと引き分けの状態。

 

 変化しない状況を望んでいると言う意思表示だ。

 

 ……そんなの、絶対に認めない!!

 

 私は【今】を変えて、【未来】を手に入れる!!

 

 夢人のことが好きなだけで満足しているネプギアに、私の愛が劣るはずがない!!

 

「好きならどうして【今】を選ぶの!! 夢人と恋人になりたいと思わないの!!」

 

「なりたいよ。夢人さんの隣で一緒に笑っていたい」

 

「なら、ネプギアの言葉は矛盾しているよ!! 変化を求めているのに、どうして【今】に固執しようとしているの!!」

 

「怖いからだよ。もし夢人さんに振られたら……それに、皆との関係を壊したくないよ」

 

「……なんだ、結局のところ、ネプギアは自分の気持ちを何ひとつ理解していなかったんだね」

 

「そんなことない! 私は自分の気持ちを……」

 

「もう黙って!!」

 

「っ!?」

 

 私はネプギアの答えに乾いた笑みを浮かべたが、繰り返されそうになる言葉に再び苛立ちが募ってくる。

 

 目に熱いものを感じるが、今はそんなことどうでもいい。

 

 目の前で目を見開くネプギアに、もう1度思い出してもらわなくちゃいけない。

 

 【今】を選ぶことで、何を失うのかを……

 

「忘れたの!! 夢人は【未来】を選んでいるんだよ!! 【今】を選ぶネプギアじゃ、絶対に隣にいられない!! それどころか、言ってることがちぐはぐなあなたの言葉なんて……」

 

「だからだよ」

 

 私の糾弾に、ネプギアはほほ笑みながら遮り、その決意を言葉にした。

 

「夢人さんが【未来】を選ぶなら、私は【今】を選ぶ……もう2度と夢人さんを失わないために」

 

 ……その予想外の言葉に、私は言葉を失ってしまった。

 

 

*     *     *

 

 

 私の決意はやっぱり意外だったようで、ナナハちゃんは目を丸くして固まってしまった。

 

 私自身、あの夢……ううん、あの出来事がなければ、こんなこと思わなかったとはずだもの。

 

「……夢人が【未来】を選ぶから、ネプギアは【今】を選ぶって言うの?」

 

「うん、そうだよ」

 

「……意味がわからないよ。どうして一緒に【未来】を選ばないの?」

 

 ナナハちゃんは考えるように、眉間にしわを寄せながら尋ねてきた。

 

 怒鳴られるよりもこういう風に聞かれた方が、精神的に楽なんだね。

 

 私は口元に笑みを浮かべながら、自分の気持ちをナナハちゃんに伝えた。

 

「だって、一緒に【未来】に踏み出したら、他に何も見えなくなっちゃうから」

 

 夢人さんはナナハちゃんの言うように、確かに【未来】に進んで行くと思う。

 

 リゾートアイラン島で聞いたあの決意に嘘はないと信じている。

 

 ……でも、私はあれを聞いて怖くなってしまった。

 

「私は夢人さんの理想……実は反対なの。そんな風に前を向いて欲しくないんだ」

 

「ど、どうして!? 何でなの!?」

 

「前だけを見つめて走った結果を知ってるから、かな」

 

 ちょっと理由としては曖昧かもしれないけど、これ以外に言葉が見つからない私は苦笑するしかない。

 

「逆に聞くけど、ナナハちゃんは夢人さんの理想をどう思う?」

 

「え、あ、うん、そうだね……夢人らしい理想かなって思ったよ。初めて会った時、邪険に扱ったのに私を救ってくれた夢人らしい【未来】への希望だって思ったんだ」

 

「そっか。私も夢人さんらしいって思ったよ……でも、だからこそ、私はそんな【未来】にしたくない」

 

「っ、理由はもちろんあるんでしょ? 聞かせてくれるよね?」

 

「うん、むしろ聞いてもらいたいんだ」

 

 夢人さんの理想について尋ねると、ナナハちゃんは戸惑ったようだったけど、すぐに顔を引き締めて答えてくれた。

 

 その内容には、私も同意見である。

 

 しかし、そんな夢人さんの目指す【未来】だからこそ、私は絶対に認めたくない。

 

 それを今から、私を睨んでいるナナハちゃんに説明する。

 

 ……ううん、夢人さんと同じように【未来】に踏み出そうとしているナナハちゃんに知ってもらいたい。

 

「ギョウカイ墓場から帰って来て、ワンダーさんに残されていた記録映像を観たでしょ?」

 

「うん」

 

「あの時の言葉を聞いた時から思ってたんだ……私は【未来】よりも【今】がいいって」

 

「どうして?」

 

「夢人さんが言ってた【未来で笑えないなら、忘れてもらっても構わない】って言葉、あれってすごく残酷だよね」

 

 忘れたくない大切な人から、自分のことを忘れてくれって言われたんだ。

 

 悲しくないわけがない。

 

 それに、そんなこと言われたら、余計に忘れられるわけがない。

 

「勝手に1人で満足して忘れてくれなんて、無責任だと思わなかった?」

 

「思ったよ。1人で全部背負い込んで、勝手に消えちゃった夢人のことを許せないとも思った」

 

「私も同じ。【大事なのは、過去じゃなくて未来なんだ】って、それじゃ、自分の未来は大切じゃないのかって思ったよ」

 

 記録映像で、夢人さんはゲイムギョウ界の明日がなくなることが怖いって言っていた。

 

 でも、私は夢人さんを犠牲にした明日、【未来】なんていらない。

 

 ずっと一緒にいる【未来】がよかったと思ったんだ。

 

「でも、待って。それは私も知っている話だし、単純に私とネプギアで考え方が違うだけで【今】を選んでいるわけじゃないんでしょ?」

 

「そうだよ。本題はここから……なんだけど……」

 

「どうかしたの?」

 

「え、えっと、これから言うことは冗談とか嘘とかじゃないんだよ? それだけはわかって欲しいんだけど……」

 

「だから、何なの? 私はどうしてネプギアが【今】を選ぶのかの理由と根拠が知りたいんだよ。別に全面的に認めないってわけじゃないんだから、ちゃんと聞くよ」

 

 察しがよかったナナハちゃんは説明の続きを促してきたのだけど、私は口ごもってしまった。

 

 何故なら、今から話す内容は実際に体験……体験って言うのかな?

 

 と、とりあえず、私しか知らないことで、他の人からすれば、ありえないって思われてしまうことだから。

 

 これまで真剣に聞いてくれていたナナハちゃんなら、多分大丈夫だと思うけど、どうしても不安になってしまう。

 

 ……もしかしたら、私の気にし過ぎなのかもしれない。

 

 そう思うと、どうしても口を開くのを躊躇ってしまう。

 

 でも、ナナハちゃんの言葉に少しだけ背中を押されて、私は話すことができるようになった。

 

「う、うん、話すよ……じ、実は、夢を見たんだ」

 

「……夢? 夢って、寝ている間に見る夢のことだよね?」

 

「う、うん、その夢だよ」

 

「え、えっと、その見た夢が【今】を選ぶ理由、なの?」

 

「そ、そうだよ」

 

「そっか……夢、か」

 

「ど、どうかしたの?」

 

「……ううん、何でもないよ。それじゃ、その夢の内容を教えてくれるかな?」

 

 私は気まずくなり、今まで通りにナナハちゃんを真っ直ぐ見れなくなってしまい、視線を横にさまよわせてしまった。

 

 でも、ナナハちゃんは思ったよりもあっさりと続きを話して欲しいって、私の顔を覗き込んできた。

 

 その顔は真剣そのもの。

 

 もっと疑われると思ったんだけど、そうでもなかったみたいで少しだけホッとした。

 

 ……でも、何かを考えるようにしてた気がするんだけど、きっと気のせいだよね。

 

「記録映像を観たその日の夜なんだけど、本当におかしな夢を見たんだ。気が付けば、知らない場所に立っていて、男の人に絡まれていたら、夢人さんが助けてくれた夢」

 

「……なにそれ、もしかして惚気話? 私、そんな夢見たことないんだけど、自慢しているとか?」

 

「ち、違うよ!? それに、どうしてそんな話になるの!?」

 

 話し始めた私をジト目で見始めたナナハちゃんには驚いたけど、決して惚気話なんかじゃないんだよ!?

 

 いや、まあ、その……そこまではよかったんだけどね。

 

「ううん、気にしないで。こっちの話だから」

 

「な、なんかすごい気になるんだけど……」

 

「いいから、ネプギアはその夢の続きを話してくれないかな?」

 

「う、うん……夢人さんに助けられた後、私は公園に連れてこられたんだ。そこで話した内容が、私が【今】を選ぶ理由だよ」

 

 何となく釈然としないけど、私は夢の続きを話すことにした。

 

 ここからが本題なんだから、ちゃんと聞いてもらいたい。

 

「私を助けてくれた夢人さん、まったく私のことを覚えてなかったんだ」

 

「え、それって、どう言うこと? ネプギアのことを夢人が忘れちゃったってことなの?」

 

「うん。それどころか、自分のことやゲイムギョウ界のことも全部忘れちゃっていたんだ」

 

 あの夢で会った夢人さんは、今の夢人さんよりももっといろいろな記憶を失っていた。

 

 今はゲイムギョウ界のことを思い出しているけど、あの夢人さんはそれすら覚えていなかった。

 

「それに、夢人さんは私に酷いことを言ってきたんだよ」

 

「夢人がネプギアに酷いことを言った?」

 

「あ、その顔、疑ってるでしょ?」

 

「いや、だって夢人だし……それに、ネプギアのことを助けたのに、酷いことを言ったって意味がわからなくて」

 

 信じられないと言った風な顔で驚くナナハちゃんに、私は少しムッとした。

 

 やっぱり、信じてもらえないのかと思ってしまった。

 

 でも、ナナハちゃんは苦笑しながら理由を話してくれんたんだけど、その理由にも何か引っかかりを感じてしまう。

 

 ……どうしてそこで夢人さんだからって理由が来るんだろうか?

 

 っと、いけないいけない。

 

 考えが横道にそれちゃったよ。

 

「……夢人さんは記憶を失っても、記録映像と同じことを言ってたんだ」

 

「同じことって、つまり……」

 

「【大事なのは過去じゃなくて未来だ】って言って、私達のことを思い出そうとしなかったんだよ」

 

 あの時は本当にショックを受けた。

 

 夢の中だとしても、生きていた夢人さんが過去を……私達のことを忘れたままでいいって言ったことに。

 

「そのくせ、私のことを助けた理由が記憶を失う前と同じだったから、余計に悲しくなったんだ」

 

「……ちなみに、その理由って何?」

 

「男だから、困ってる女の子を助けるのは当たり前……って、なにその顔? 私、もしかして変なこと言ってる?」

 

「そんなことないよ……ただちょっと妬ましいなって思っただけで、別に他意はないよ」

 

「何でそうなるの!?」

 

 ナナハちゃんが目を細めて微かに口の端を上げた。

 

 その顔は笑っているはずなのに、目が全然笑ってなくて、絶対零度の眼差しってこんな感じなのかなって思……って、そうじゃない!?

 

 どうして理由を話しただけで妬まれなくちゃいけないの!?

 

 私からしてみれば、ナナハちゃんだって充分羨ましいんだよ!?

 

 私だって、夢人さんとデートを……って、また思考が違うところに飛んじゃったじゃない!?

 

「もう、真面目な話なんだから、ちゃんと聞いてよ!!」

 

「ごめんごめん……それで、話の続きは?」

 

「……ナナハちゃん、もしかして私のことをからかってる?」

 

「そんなことないよ。私は真剣にネプギアの話を聞いてるから。ほら、続きを早く早く」

 

「……本当かな。じゃあ、続きを話すよ」

 

 疑うように視線が鋭くなってしまったのは仕方ないと思う。

 

 告白の邪魔をしたことは怒っているだろうけど、ちゃんと聞くって言ったんだから、最後まで真面目に聞いて欲しい。

 

 私は今度は邪魔されないように、最後まで一気に話してしまおうと決めた。

 

「記憶を失っても【未来】を大事にする夢人さんの姿を思い出して、私はそれが夢人さんの目指す理想の終着駅のように思えたんだ」

 

「……また夢人がいなくなるって言うの?」

 

「ちょっと違うかもしれないけど、夢人さんが夢人さんじゃなくなってしまうんじゃないかって思ったんだ」

 

 【未来】に、理想に踏み出す夢人さんが、いつの日か夢で見た姿のように、何もかも失ってしまうんじゃないかって心配になってしまう。

 

 後ろを振り返らない夢人さんは、落としたものなんて気にしないで前に向かって走り続ける。

 

 勝手な想像だけど、そんな風に思えてしまう。

 

「【未来】を目指す夢人さんは、きっとどんどん前に向かって行く。でも、そのせいでたくさん傷ついて、大事なものを落としてしまうかもしれない」

 

「それは夢人も覚悟しているはずだよ。だから、アイエフさんに自分の考えを貫くと宣言していた」

 

「確かに、アイエフさんは納得していた様に見えたけど、私はあれじゃ納得できない……【未来】だけを見ている夢人さんの考えに賛成なんてできないよ」

 

 大好きで大切な人だから、傷ついていく姿を見たくない。

 

 夢人さんの理想は、進むだけで傷つく茨の道だ。

 

 そんな道を歩くことを決めた夢人さんの考えなんて、絶対に認めたくない。

 

「私は夢人さんが傷ついたり、変わってしまうことを認めたくなんてないんだ。仕方ないで諦めちゃったら、夢人さんがいなくなっちゃうよ」

 

「それはネプギアのエゴだよ。人は生きていくうちに良くも悪くも変わっていく。私達だって、少し前までは知り合いでも何でもなかったのに、今はこうして同じ人のことを思って話をしている。過去の私達からすれば、そんなの知りもしないことだったんだよ」

 

「わかってるよ。この考えが、私の身勝手なわがままだってことくらい。それでも、好きな人が変わってしまう【未来】なんて欲しくないよ」

 

「じゃあ、夢人の意思を曲げてでも【未来】を否定するの? それこそ、夢人が夢人じゃなくなってしまうんじゃないの?」

 

「違うよ。ただ私は【未来】よりも先に、もっと大事なものを夢人さんに見て欲しいんだ」

 

「……それが【今】だって言いたいんだね」

 

「そうだよ。【未来】を選んで変わってしまう夢人さんを守りたいから、私は【今】を大切にする。だから、私は【未来】に踏み出さない」

 

 ナナハちゃんやユニちゃんのように【未来】に踏み出してしまえば、消えてしまった時の夢人さんと同じで自分だけ満足してしまうだろう。

 

 私はあんな思いを2度としたくない。

 

 勝手なことをされて悲しい思いをするのは、いつだって置いてけぼりをくらった人なんだから。

 

「【今】を選ぶネプギアが【未来】の夢人を守れると、本気で思ってるの?」

 

「守るよ。そもそも夢人さんやナナハちゃん、ユニちゃんも急ぎ過ぎなんだよ。もっと歩く速さを遅くしてもいいと思うんだ」

 

「無理だよ。ゴールが見えているのに、どうして足を遅くできるの? 多少無茶をしてでも、早くゴールを目指したいよ」

 

「どうして無茶をする必要がないのに傷つこうとするの? 回り道をしてでもゴールを目指そうとは思わないの?」

 

「そんなことを考えているうちに時間切れになったらどうするの? 夢人は人間で、女神じゃないんだよ。私達のように長い間生きられるわけじゃないんだから、遠いゴールを目指すには傷ついてでも最短距離を走らなくちゃ、絶対に理想を叶えられないよ」

 

「そんなことはないよ。それは、ゴールが遠くにあるって錯覚しているだけ。もっと周りを見れば、傷つかなくても理想を叶えられる道が見つかるかもしれないのに……」

 

「だから、【今】なの? それはご都合主義が過ぎるよ。少なくとも、私の【未来】は時間制限があって、速く走らないと手に入らなくなっちゃうんだ」

 

「……女神をやめて、夢人さんと一緒に生きるのがナナハちゃんの目指す【未来】なの?」

 

「そうだよ。私が望んでいる【未来】は、遠回りもできなければ、自分や他人を傷つけずにはいられない道なんだよ」

 

 私とナナハちゃんの考えは平行線をたどっていた。

 

 お互いの主張を認めることができないのである。

 

 そんな中、ナナハちゃんは自分の目指す【未来】を取り上げてきた。

 

「好きな人と生きようとするのは、そんなに罪なことなの? ネプギアだって、夢人の隣にずっといたいって思うでしょ?」

 

「うん」

 

「だったら、ネプギアは【未来】を否定できないよ。私と同じ【未来】を望んでいるのに、【今】を選ぶことなんて絶対にできない」

 

「ううん、私は夢人さんと一緒にいたいから【今】を選ぶんだよ」

 

「そんな矛盾が通ると思ってるの? だとしたら、ネプギアはただ答えを先送りにしているだけだよ」

 

「そうかもしれない。けれども、時間をかけるおかげで見えてくる物がきっとあるはずだよ」

 

「それで手遅れになったら本末転倒だよ。だから、急ぎ過ぎと言われようとも、【今】を壊して【未来】を手に入れる必要があるんだ」

 

「それは自分のことしか考えていない悲しい考え方だよ。ナナハちゃんも言ってたでしょ? 【皆を幸せにする女神になる】って」

 

「じゃあ、私の幸せは全て捨てろって言うの? だとしたら、尚更女神なんて願い下げだよ。女神って生き方に縛られて、私と言う個人を失くしたくなんてない」

 

 ナナハちゃんは苦しそうに顔を歪めて両手で胸を押さえた。

 

「そんな生き方、ただの操り人形と同じだよ。周りの期待に応えるって言えば、聞こえはいいかもしれないけど、そんなの生きてるって言わないよ」

 

「ナナハちゃん、それは……」

 

「私は『転生者』で前世の知識があるし、ネプギア達のように生まれながらの女神と言うわけじゃないから、こんなことを考えるのかもしれない。でも、どうしてもこの考えを捨てられない。女神と言う殻に自分を閉じ込めたくないんだ」

 

 ……そうだった。

 

 誰にも言えない不安を抱えていたナナハちゃんだからこそ、誰よりも自分の幸せを求めているのかもしれない。

 

「それを間違ってるなんて誰にも言わせたくない。ネプギアにも、ベール姉さんにも……夢人にだって」

 

「でも、それで本当にいいの?」

 

「いいに決まってる。私の運命を決めるのは、いつだって私だよ。他人の指図を受け入れて、本当の幸せを逃したくなんて……」

 

「ナナハちゃん!!」

 

「っ!?」

 

 私は苦しそうに言葉を続けるナナハちゃんの頬を叩いた。

 

 これ以上、ナナハちゃんに悲しいことを言わせなかったから。

 

「意固地になり過ぎだよ。もっとよく考えてみてよ。ナナハちゃんは、本当に【未来】で笑えるの?」

 

「……でも、私は【未来】でないと……」

 

「ベールさん達を悲しませて、ナナハちゃんは本当に笑えるの!!」

 

「っ!?」

 

 叩かれた頬を押さえて、目を見開いていたナナハちゃんに私は優しく問いかける。

 

 それでも、ナナハちゃんは視線を落として俯きそうになりながらも、言葉を続けようとした。

 

 私は思わず大きな声を出してしまった。

 

 だって、今のナナハちゃんは【未来】なんて見ていないんだもの。

 

 本当はナナハちゃんの方が矛盾しているような感じがしているように思えるんだ。

 

「ナナハちゃんが女神をやめたら、残されたベールさんはどうなるの? あんなにナナハちゃんのことが大好きなベールさんを悲しませて、本当に【未来】で笑えるの?」

 

「……して」

 

「ベールさんだけじゃない。私やユニちゃん、ロムちゃんやラムちゃん、他の皆だって、ナナハちゃんがいなくなったら泣いちゃうよ。それでも、ナナハちゃんは自分の幸せのために【未来】を目指そうと……」

 

「いい加減にして!!」

 

 ナナハちゃんは思い切り目を閉じて、私の言葉を遮るために大声をあげた。

 

「だったら、夢人のことはどうでもいいの!! 【未来】に向かう夢人は1人寂しくいなくなっちゃうかもしれないんだよ!! 私達は変わらないのに、夢人だけ変わっていって……ネプギアはそれでも平気なの!!」

 

「平気なわけないよ!! でも、だからと言って、ナナハちゃんまで一緒にいなくなったら、もっと悲しくなっちゃうよ!!」

 

「それは私達の側からの話だよ!! 夢人が1人でどんな思いで年を取っていくのか、女神のネプギアには理解できないよ!!」

 

「確かにわからないよ!! 私はまだ見た目通りにしか生きていないし、大切な人との別離なんて経験したこともない!! それでも、ナナハちゃんが間違ってる!!」

 

 私だって、夢人さんと別れてしまうのは辛い。

 

 アイエフさんやコンパさん達も一緒にいなくなってしまうだろうけど、きっと夢人さんと離れてしまうのが1番悲しいと思う。

 

 優劣をつけるわけではないけど、愛する人がいなくなる悲しみはきっととてつもなく深いはずだ。

 

「何でなの!! どうしてわかってくれないの!! ネプギアの言葉は、いつだって上から目線で優等生発言じゃない!! そんなに正しいことが正しいの!!」

 

「そんなこと思ってない!! 私はただ、【未来】を決め付けているナナハちゃんを止めたいだけだよ!!」

 

「それが上からの発言だって気付きなよ!! 他の誰でもない、ネプギアにそれを言われることが、どれだけ私のことを傷つけているのか理解しているの!!」

 

「意味がわからないよ!! ナナハちゃんだって、私がどれだけ悩んで【今】を選んだのか知ってるの!!」

 

「それこそ知ったことじゃないよ!! 私は【今】じゃなくて、【未来】を選ぶんだから!! 夢人と一緒に生きる【未来】を……」

 

「だったら……だったら、夢人さんはナナハちゃんの【未来】で笑えるの!!」

 

 私とナナハちゃんは、互いに怒鳴り合いながら自分の考えを口にした。

 

 途中で、どうしてナナハちゃんが私のことを言ったのかはわからなかったけど、それは重要なことじゃない。

 

 今は暴走しているナナハちゃんを止めることが、私の【今】に繋がる。

 

「夢人さんが本当にナナハちゃんの目指す【未来】で笑えると思ってるの!!」

 

「私が幸せにする!! 私が夢人を笑顔にするんだよ!!」

 

「他の人を悲しませているのに、夢人さんが本気で笑えると思ってるの!! だとしたら、ナナハちゃんの方が夢人さんのことを見ていないよ!!」

 

「うるさい!! そんなの……そんなの最初からわかってるよ!!」

 

 ナナハちゃんは大粒の涙をぽろぽろと零しながら、声がかれてしまうんじゃないかって思うくらいの声を出して叫んだ。

 

「夢人が私のことを思って笑えなくなることくらい、最初からわかってるよ!! それでも、私は夢人の隣にいたいって思っちゃう!! ……少しでもいい。私が夢人を支えられれば、それだけで満足なんだよ」

 

「ナナハちゃん……」

 

「本当はあんな告白したって、夢人の1番になれないってことはわかってた。それでも、万に1つでも私のことを見てくれるなら、【今】を壊しても構わないと思ってる」

 

「……焦り過ぎだよ。夢人さんがナナハちゃんのことを好きになるかもしれないのに、どうしてそんなに答えを急ごうとしたの?」

 

「うるさいよ。半分……いいや、9割以上ネプギアのせいなのに」

 

「えええ!? 何で私のせいになるの!? ちゃんと説明してよ!?」

 

「絶対に教えてあげないよ……絶対に、ね」

 

 そう言ったナナハちゃんの顔は、少しだけ柔らかくほほ笑んでいるように見えた。

 

 

*     *     *

 

 

 ……参ったな。

 

 自分のことながら、こんなに熱くなるなんて思わなかったよ。

 

「意地悪しないで、ちゃんと教えてよ!?」

 

 先ほどまで強気で私と言い合っていた姿が嘘のように、ネプギアは情けない声を上げていた。

 

 まったく、どうしてこうなったんだか。

 

 本当なら、私はネプギアにも【未来】を選んでもらうつもりだった。

 

 それなのに、あろうことか【今】を選ぶだなんて……

 

「やだよ。ネプギアには絶対に教えてあげない」

 

「何でなの!? 理由もなく私のせいにしないでよ!?」

 

「理由なら、ちゃんとあるよ。結論、ネプギアが全部悪い……はい、この話は終了!」

 

「終わらないでよ!? 全然納得できないよ!?」

 

 詰め寄ってきたネプギアの目は若干潤んできており、このままだと泣いてしまうんじゃないかって不安になってしまう。

 

 こんなことで泣かれてもすごく困るんだけどね。

 

「ほらほら、泣かない泣かない」

 

「泣かないよ!? って、そんなことよりも理由を……」

 

「いいから、今度は私の番だよ……ネプギアの気持ちを聞いたから、今度は私の気持ちを聞いて欲しいんだ」

 

 私がそう言うと騒いでいたネプギアの大人しくなり……ううん、渋々と納得したって感じかな?

 

 ちょっと無理やりな話題の変換だったから、ネプギアは難しい顔をしている。

 

 ……まあ、そんな顔をしても理由は話さないんだけどね。

 

「私はやっぱり【未来】を選ぶよ。ネプギアの気持ちを聞いても、それだけは譲れない」

 

「っ、でも……」

 

「はい、話は最後まで大人しく聞いてよう、ねっ!」

 

「イタッ!?」

 

 口を挟もうとしたネプギアのでこを指で弾いて止めた。

 

 これでさっきの平手打ちとお相子にしてあげるよ。

 

「私はネプギアのように【今】を選べるほど、心に余裕がないんだ。緩やかな変化よりも、劇的な変化を望んでいるんだよ」

 

 緩やかな変化である【今】だと、いつまで経っても夢人のことを夢中にさせられない。

 

 劇的な変化をする【未来】だからこそ、私にも可能性が見えてくるはずだ。

 

「でも、私はネプギアの言いたいこともわかってる。【今】を……ベール姉さんや皆とずっと一緒にいたいって気持ちもあるよ」

 

 これが究極の選択って奴なのかもね。

 

 愛する男性か、大好きな家族かの2択。

 

 この場合、両者を選べないのが本当に辛いところだよ。

 

 そう言う意味では、【今】が1番心地よいのはネプギアじゃなくても納得できる。

 

 ……でも、それじゃ満足できない自分がいるんだ。

 

「だから、夢人に選んでもらおうよ。ネプギアの言うような【今】がいいのか、私の言うような【未来】がいいのか。どっちがいいのかをね」

 

 私達だけで答えを出しても仕方がない。

 

 ここは当事者である夢人にも参加してもらわないとね。

 

「……うん、そうだよね。勝手に私達だけで盛り上がっても仕方ないことなんだよね」

 

「まあ、ネプギアが駄々をこねなければ、もっと簡単に答えを出せたんだけどね」

 

「そ、そんなことないよ!? それを言ったら、ナナハちゃんが私の考えを認めないからじゃないの!?」

 

「あ、そう言うこと言うの? 私より後に考えたんだから、妥協するならネプギアの方じゃないのかな?」

 

「違うよ!? ここは急ぎ過ぎてるナナハちゃんが私の考えに賛成する流れだと思うよ!?」

 

「いいや、絶対ネプギアが妥協すべきだよ」

 

「ううん、ナナハちゃんが考えを変えるべきだよ」

 

「ネプギア!」

 

「ナナハちゃん!」

 

「絶対ネプギア!!」

 

「絶対ナナハちゃん!!」

 

『うううううう…………プッ、ハハハハハハ』

 

 顔を突き合わせて互いの名前を言い合っていると、何だかすごくおかしな気分になってきた。

 

 ネプギアも同じようで、思わず笑ってしまった。

 

「ふふ、後は夢人次第だね」

 

「そうだね。夢人さんがどっちを選ぶのかだよね」

 

 私は何となくスッキリした気持ちの中に、言い知れない不確かなものを感じた。

 

 これがきっとネプギアと私の違いなんだろうな。

 

 同じ人を思っているのに、考え方やあり方が違うのは、きっとその関係が違うからだ。

 

 以前から感じていたネプギアとのステージの違いもここにある。

 

 ネプギアが【未来】を選んでくれれば、同じステージに立つことができたんだけどね。

 

 でも、今はそれで構わない。

 

 同じ土俵で戦うつもりなんて、さらさらないんだから。

 

 私は私の舞台でキラキラと輝いてみせる。

 

 それでネプギアよりも夢人を夢中にさせてみせるよ。

 

「それよりも、ネプギア言っちゃったよね?」

 

「何を?」

 

「夢人がいるのに、夢人のことが好きだって……私と同じように告白しちゃったじゃない」

 

「……告白? ……私が? ……夢人さんの……って、あわわわわわわわわ!? そうだった!? こ、ここには夢人さんがいたんだった!?」

 

 今更そんなに慌てなくてもいいような気がするんだけどね。

 

 今までのことだって、夢人は……あれ?

 

「ど、どどどどどうしよう!? こんな感じで自分の気持ちを伝えたくなかったのに!? ま、まだ心の準備が……」

 

「ねえ、ネプギア」

 

「ひゃい!? にゃに、にゃにゃひゃちゃん!?」

 

「ナナハね。それよりも、夢人はどこにいるの?」

 

「夢人さんならそこに……って、あれ?」

 

 ネプギアは指をさして柵の方を向くけど、そこには誰の姿もない。

 

 ……うん、すごく嫌な予感がしてきた。

 

 ずっと夢人が黙って見ていたなんて都合のいいことを考えていたわけじゃないけど、せめて気絶しているだけって落ちであって欲しかった。

 

「……も、もしかして、私やっちゃった?」

 

「……うん、間違いないと思うよ」

 

「ゆ、夢人さーん!?」

 

「夢人!?」

 

 私達は柵から身を乗り出して、斜面から下を覗き込んだ。

 

 斜面には何かが転がり落ちた痕が……絶対に夢人落ちちゃってるよ!?

 

 何やってるの、ネプギア!?

 

 

*     *     *

 

 

「……デートって、いったい何だったんだろうな」

 

 転がり落ちた夢人は、視界の天地が逆転しているのも気にせずにつぶやいた。

 

 転がり落ちた影響で、背中を地面につけて足を木に寄り掛からせていると言う奇妙な態勢でいたのである。

 

 また、体のあちこちが砂埃で汚れているが、それだけで済んでいるのは幸運とも言える。

 

 転がった場所が緩やかな斜面であったことと、咄嗟に地面に激突する際に風の魔法をクッションがわりにしたことが功を奏した。

 

 ……しかし、今の今までずっと目を回して気絶していたのだが。

 

「イタタタ、早くナナハの所に戻るとする……」

 

「見つけたぞ、勇者」

 

「へ……って、お前は!?」

 

 夢人が体を起して服に着いた砂を払っていると、突然背後から声が聞こえてきた。

 

 振り返った夢人は、そこにいた2人組の存在に驚き固まってしまう。

 

「ジャッジ・ザ・ハード!? それに、マジック・ザ・ハード!?」

 

「無駄な抵抗をしなければ、こちらは何もしない。ただ我らについて来てもらおうか」

 

 ジャッジはポールアックスで、マジックは鎌で、夢人の動きを制限するように挟み込んだ。

 

 2人の武器の刃が輝くのを見て、夢人はどうすることもできず、ただ立ち尽くして乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。




という訳で、今回は以上!
まあ、本編を読んでもらった通り、まずは1段落と言ったところです。
実際に問題は解決していませんけど、とりあえず2人だけの会話は終わりかな?
後は、ユニを交えて話さないと、彼女が置いてけぼりに……
でも、多分次章に持ち越しになるかもしれませんけどね。
それでは、 次回 「復活」 をお楽しみに!

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