超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日は指が思った以上に動いたので、1話完成させることができました。
それでは、 告白 はじまります


告白

 まったく、人が壊した壁を直していたのに、こうも無駄に大きな穴を開けるとはな。

 

 ……まあ、吾輩の自業自得なのだが、今はそんなことはどうでもよい。

 

 今は目の前の2人に用がある。

 

「……ほう、大した自信だな。死に損ないの分際で、随分とでかい口を叩くものだ」

 

「言ったであろう。今までの吾輩と同じだと思っているのなら、痛い目を見ることになるぞ」

 

 睨んでくる脳筋バトルジャンキー、ジャッジに何を言われようとも吾輩の自信が揺らぐことはない。

 

 何故ならば、吾輩は犯罪組織マジェコンヌに所属していた時と違うのだ。

 

「ふん、体内から犯罪神の欠片を奪われた貴様の力など、たかが知れている。フィーナ様から賜った新たな力を持つ私に本気で敵うと思っているのか?」

 

「貴様こそ、何を勘違いしているのだ?」

 

「何?」

 

 ジャッジの奴はフィーナからもらった力に自信があるらしく、吾輩の言葉により鋭く目を細めた。

 

 吾輩に言わせれば、フィーナからもらった力など何の足しにもならない。

 

 そのような力、何の意味もないのだからな。

 

「吾輩は生まれ変わったのだ。今までの犯罪神に仕えていた時や、貴様のようにフィーナに尻尾を振っていた時とは違うのだよ」

 

「貴様!! フィーナ様を愚弄する気か!!」

 

「ハッ、簡単に洗脳された奴に言われたくないわ!!」

 

 激怒するジャッジを鼻で笑い飛ばし、吾輩はいつ戦闘が始まってもいいように持っていた木材とトンカチを手放した。

 

 最後にヘルメットを脱ぎ捨てて、戦闘準備は完了。

 

 舌の湿り気も問題なし、万全の態勢だな。

 

「貴様にはわからんのか!! この吾輩の体から通して出る力の波動が!!」

 

「……何を言っている?」

 

「洗脳された所で、やはり貴様は脳筋だな。この力を感じ取れないとは、悲しい奴め」

 

 どうやらジャッジは本気で吾輩の手に入れた新しい力がわからないらしい。

 

 警戒しているようで、わずかにポールアックスを握る指が動いたのが見えた。

 

「特別に教えてやろう。吾輩の新しい力の正体を、それは……」

 

『それは……』

 

 いつの間にかジャッジだけでなく、その後ろにいたロム達も吾輩に注目していた。

 

 全員……いや、まったく動きを見せないマジック以外の面子が固唾を呑むのがわかると、吾輩は力強く宣言した。

 

「それは、幼女の加護だあああ!!」

 

『……はっ?』

 

 全員が間抜けな声を出した気がするが、とりあえず無視しよう。

 

 そう、今の吾輩はロムやラム、がすとと言った幼女の加護を得ているのだ!!

 

「幼女の加護を得た吾輩は、言わばトリック・ザ・ハードmk2と言ったところだな。洗脳されても脳筋が変わらない貴様などとは違うのだよ!! 貴様とはな!!」

 

 幼女の加護を得た吾輩は今までのトリック・ザ・ハードではない。

 

 よく考えてみて欲しい。

 

 通常の状態を前までの犯罪神やフィーナに仕えていた頃だとすると、今の状態は穏やかな心を持ちながら真の愛に目覚めた紳士なのだ!!

 

 だって、犯罪神やフィーナは幼女ではないのだからな!!

 

 今の吾輩は女神の味方になった。

 

 つまりは、ロム達のような幼女を守る存在になったのだ!!

 

 幼女を守るためならば、吾輩は体のリミッタ―の1つや2つ……いいや、限界を超える力を発揮することができる!!

 

 フィーナなどと言う、幼女以外の力を得たジャッジに負けるわけがない!!

 

「さあ、どこからでもかかって……」

 

「ならば、その力試させてもらうぞ……行くぞ、マジック」

 

「……了解」

 

「……へ?」

 

 吾輩が不敵に笑いながら構えようとした時、ジャッジの口から不吉な言葉が漏れだした。

 

 思わず固まってしまったが、目の前にはポールアックスを構えるジャッジと、鎌を構えるマジックの姿が見える。

 

 え、えっと、まさか……

 

「貴様の得た力と私のフィーナ様から賜った力、どちらが上か白黒つけようぞ!!」

 

「ま、待った待った!? まさかと思うが、2人がかりで来るつもりか!?」

 

「当然だ。今の私が優先すべきことは、フィーナ様の命令を遂行すること……その障害を全力で排除させてもらう!!」

 

「貴様はそれでいいのか!? そんなことでフィーナからもらった力を証明できるはずが……」

 

「油断も慢心もせん。行くぞ、トリック・ザ・ハードmk2とやら!!」

 

 吾輩の言葉に聞く耳を持たないジャッジは、マジックと共に吾輩ににじり寄ってくる。

 

 ま、まままマズイ!?

 

 いくら幼女の加護を受けたとはいえ、さすがの吾輩と言えども2人を相手に戦えるわけがない!?

 

 ど、どうにかしなければ、せっかく拾った命が……そうだ!!

 

「……う、うおおおおおお!? 急に背中の古傷が疼いてきた!? このままでは全力で戦えないぞ!? ど、どうすればいいんだ!? せっかく白黒つけようとしたのに……そうだ!? 後日再試合といこうじゃないか!? うん、そうしよう!? それでは、吾輩はここで……」

 

 背中には手が回らないので、腹を押さえながら吾輩はクールに去ろうとした。

 

 フッ、この完璧な演技ならば、きっと脳筋のジャッジは必ず騙され……

 

「下手な芝居をするな!!」

 

「なっ!?」

 

「もういい!! 貴様など、一瞬で始末してくれる!!」

 

 吾輩の完璧な演技を見破ったジャッジは、明らかに先ほどよりも殺気を増した。

 

 その足取りも荒々しくなって……って、こんなことを冷静に解説している暇はない!?

 

 早く何とかしなければ……仕方ない、最終手段だ!?

 

「さあ、覚悟……」

 

「勇者はリーンボックスにいますですはい!?」

 

「……なに?」

 

 吾輩に向かって振り下ろされそうになっていたポールアックスが動きを止め、ジャッジは睨むように尋ねてきた。

 

「それは本当なのか?」

 

「ほ、本当だとも!? 吾輩のこの目が嘘をついているように見えるか!?」

 

 吾輩は自慢の1つであるつぶらな瞳を潤ませて、ジャッジに嘘ではないことを証明した。

 

 事実嘘ではないのだ。

 

 これで駄目なら、吾輩は……

 

「……まあいい。勇者がいないなら、ここに用はない。行くぞ」

 

「……了解」

 

 ジャッジは今まで放っていた殺気を全て消し去ると、マジックと共に吾輩の横を通り過ぎて行った。

 

 横を歩かれた時は本当に生きた心地がしなかったが、どうやらジャッジは言っていた通り、フィーナの命令を最優先しているようだな。

 

 前までの奴なら、ここで吾輩を殺してから行くはずだ。

 

 それなのに、興味を失くしたようにこの場を去るのは、フィーナが勇者を欲しがっているからであろう。

 

 ……理由はわからんが、勇者も難儀な奴だな。

 

 フィーナなんて幼女じゃない存在に狙われているなんて……

 

 吾輩は同士の不幸を悲しく思いながらも、一仕事終えた気持ちでロム達に向かって親指を立ててサインを送った。

 

「まあ、吾輩にかかれば、あんな奴らこのように……」

 

『アホー!!』

 

「ぐえっぷ!?」

 

 さわやかな笑みを浮かべて吾輩の体に5つの衝撃が襲い掛かってきた。

 

「テメェ、何してんだよ!!」

 

「あんなに自信満々だったくせに、何敵に情報与えてるのよ!!」

 

「このままじゃ、アイツら夢人の所に行っちゃうじゃない!!」

 

「何がmk2なの!! 少しでも期待したアタシの気持ちを返してよ!!」

 

「それに幼女の加護って、何ふざけたことを言っているんですの!! そんなものあるわけないですの!!」

 

 衝撃によって仰向けに倒れた吾輩を見下ろす5つの鬼……いや、その内の2つは天使か。

 

 って、そんなことよりも、ラム達は吾輩の活躍に不満を持っているようだ。

 

 ここは吾輩の軽快なトークで場を紛らわすしかないな。

 

「ま、まあ、落ち着け貴様ら。ほら、吾輩は舌での攻撃が自慢であろう?」

 

「……それが何?」

 

「戦わずして勝つ、まさに舌先の魔術師!! ……なんちゃって」

 

『ふ、ふざけるな!!』

 

「お、おうふっ!?」

 

 冗談を言った瞬間、周りに集まっていた5人から踏まれ始めた。

 

 痛い痛い痛い!? ……あ、でもラムとがすとに踏まれていると思えば、気持ちよくなってしまう!?

 

 吾輩、新しい扉を開きそうだ!?

 

「トリックちゃん」

 

「ろ、ロム?」

 

「夢人お兄ちゃんに迷惑をかけちゃ、めっ(ぷんぷん)」

 

「おうふっ!?」

 

 目の前にやってきたロムが頬を膨らませながら、吾輩を指さして罵倒してきた。

 

 こ、こここれはもう堪らん!!

 

 吾輩、昇天してしまう!!

 

「って、こんなことしている暇はないわ!! 早くユニと夢人に連絡しないと!!」

 

「それに、ベールにも連絡入れとかないと……本当に変態は碌なことをしないわ」

 

 吾輩を踏むことに満足したのか、ラステイションとルウィーの年増女神は蔑むような目線で吾輩を見下ろしてから教会の奥へと走って行った。

 

 それに伴って、ラム達も奥へと戻って行き、吾輩は1人転がった体を起き上がらせて教会に開いた新しい穴と、散らかされた部屋を見渡した。

 

 ……もう少しラムとがすとには踏まれていたかった。

 

 残念に思いながらも、ここにいても仕方ないと考え、吾輩は自分の開けた穴を修復する作業に戻ろうとした。

 

「……これは何事ですか」

 

 吾輩が動きだそうとした時、後ろから何かが落ちる音が聞こえた。

 

 振り向くと、そこにはルウィーの教祖である眼鏡年増とネズミがいた。

 

 その横にはビニール袋が落ちていることから、買いものから帰ってきた後なのだろうと予測する。

 

「トリックさん、私は壁を直しておいてくださいと言いましたよね?」

 

「は、はい!?」

 

「それなのに、どうしてこんな穴まで開けてしまったんですか? 何で私のお願いを聞いてくれないのですか?」

 

 眼鏡年増は俯くと、前髪で目が隠れてしまっているが、吾輩を恐ろしく冷淡な瞳で見つめてきた。

 

 矛盾しているようだが、吾輩はそう感覚的に悟ってしまったのだ。

 

 今逆らえば死んでしまう。

 

 先ほどのジャッジの殺気など生温いほどの悪寒を感じてしまっているのだ!?

 

「私の言いたいこと……わかりますよね?」

 

「ただちに全ての壁を直してきます!?」

 

 吾輩は慌てて投げすてたヘルメットを被り直し、トンカチと木材を拾い上げた。

 

 ……トホホ、本当は吾輩がしたことじゃないのに、どうしてしなくてはいけないのだ。

 

「トリックさん」

 

「はい、すぐに行きます!?」

 

 考えていたことを読まれたように、吾輩は急いで壁の修復をするべく駆け出した。

 

「……何やってるんでちゅか、まったく」

 

 呆れたネズミの声が聞こえたが、吾輩は反論する気力もない。

 

 ……そんなこと、吾輩の方が聞きたいわ。

 

 

*     *     *

 

 

 ルウィーで大変なことが起こっている時、リーンボックスでデートしていた夢人とナナハはと言うと……

 

「……夢人、大丈夫?」

 

「……うん、大丈夫だ」

 

 夢人は疲れた様子で椅子に座りながら、テーブルに突っ伏していた。

 

 ナナハの心配の声にも力なく答える様子から、相当疲れているようにも思える。

 

 2人がいる場所は、テーマパーク内にあるフードコーナー。

 

 白いテーブルとチェアーがいくつも並ぶそのスペースでは、2人以外にも多くの来場客が食事を楽しんでいる。

 

(……これが本当にデートなのかよ)

 

 心の中でデートに対しての不満を吐き出す夢人は、その原因がいるテーブルの方へ顔を向けた。

 

「ここのプリンも美味しいね! いやあ、最初は疑っちゃったけど、ベルベルが勧めるだけはあるよ!」

 

「ふふ、当然ですわ。このテーマパークは、いずれリゾートアイラン島に開発する娯楽施設のテストケースとして設立された場所なんですもの。他にもこだわりが……あ、リン子、そのパフェをひと口くださいませんか?」

 

「ああ、いいぜ。ってか、マジうめぇな。これならもっと高くてもいいんじゃねぇか?」

 

「安さの秘訣は、それだけ集客率を望めるからなんですわ。他のテーマパークとは違い、低価格で食べ物を販売することで、リピーターの増加も期待できますわよ」

 

「よっ、ベルベル太っ腹!」

 

 一際目立つ4人組の集団がテーブルで談笑しながらデザートを食べていた。

 

 ただ話しているのは3人だけで、もう1人は恥ずかしそうに俯いている。

 

「ほら、ユーニンもいつまでもそうしてないで、プリン食べなよ? 本当に美味しいんだよ?」

 

「……その名前で呼ばないでくださいよ、ネプテューヌさん」

 

「何言ってるの? わたしはネプテューヌじゃなくて、ネプリンだよ。そんなどこかの超絶美少女女神じゃないよ」

 

「聞き捨てなりませんわね。それではまるでネプテューヌが1番優れているように聞こえますわ。本当に優れている女神はベールに決まっていますわ」

 

「まったまた、冗談を言うのもほどほどにしなよ。廃人ゲーマーな女神が1番なわけないじゃん」

 

「あら、ぐうたらですぐに仕事をさぼる女神よりはマシですわよ」

 

 ネプリン? とベルベル? が互いにほほ笑んでいるのに重苦しい雰囲気を出していることから、ユーニン? は俯いている顔をさらに深く沈ませた。

 

「まあ、なんだ。疲れてるなら、甘い物食って元気出せや」

 

「……ありがとう」

 

 涙を浮かべていたユーニン? は隣にいたリン子? に慰められながら、ちょびちょびとパフェをつまみだした。

 

 夢人はそんな4人組を見て、内心激しいツッコミを入れていた。

 

(何やってんだよ、アイツらは!?)

 

 夢人は彼女達の正体を知っていた。

 

 と言うよりも、考えなくてもすぐに正体はわかる。

 

 黒い眼鏡をかけているネプリンがネプテューヌ。

 

 赤い眼鏡をかけているベルベルがベール。

 

 いつも被っているフードを下ろしているリン子がリンダ。

 

 魔法少女の恰好をしてポニーテールにしているユーニンがユニ。

 

 ユニ以外は本当に変装する気があるのかと疑ってしまう。

 

(ユニの様子から、デートについてくるだろうなって思ってたけど……なんだよこの保護者同伴デート)

 

 4人は夢人とナナハが行く所には必ず現れ、邪魔をすることもなく……いや、夢人は4人の存在に気を取られてアトラクションを充分に楽しめていなかった。

 

 ジェットコースターでは後ろの席に座ると大きな声で騒ぎだし、お化け屋敷では順路通りに歩いていると後ろの方から悲鳴と共に何かが壊れる音が響いてきた。

 

 他にもあるのだが、夢人は4人のことが気になり、デートを楽しめておらず、むしろ疲労が溜まっていた。

 

(それに……)

 

「……ジー」

 

 夢人は今度はネプテューヌ達とは反対方向に顔を向けると、そこには恐竜のお面を被った少女が電柱の陰からこちらを観察するように見つめていた。

 

 当然であるが、電柱で体全体が隠せるはずがなく、少女の姿は丸見えである。

 

(ギアラスヘッドの次は、ギアラスマスクですか……ネプギア)

 

 少女、ネプギアは被っていた恐竜をモチーフにしていた被り物ではなく、今度はそのキャラクターのお面をつけていた。

 

 ちなみに、被り物の方はネプギアが持ち主に頭を下げながら返したことを夢人達は知らない。

 

(近づくと逃げるし……かと言って、このままにしておくわけには……)

 

 実を言えば、夢人はネプテューヌ達4人よりもネプギアの方が気になって仕方がない。

 

 入場した時と同じように、何度か追いかけてみたのだが、何度も逃げられてしまった。

 

 その内、ネプギアがある一定の距離で自分達を観察するように見ていたことに気づいて、夢人は好きなようにさせることを決めた。

 

 逃げられて行方不明になられるよりはましだと思ったのである。

 

 しかし、いつまでもネプギアにそんな風に見られてて、平然としていられるほど夢人の胸中は穏やかではなかった。

 

(もしかして、ナナハと恋人同士だと誤解されてるのか?)

 

 夢人は以前行った温泉でも、自分とロムが恋人同士だと誤解したネプギアなら、今のデートをしている自分達を見て誤解しているのかもしれないと思っている。

 

 ネプギアのことが好きな夢人にとって、好きな子に誤解されたままで居たくないと思うのに、それを訂正しようとすると逃げてしまうネプギアに頭を悩ませていた。

 

(ああ、何で俺はデートをしているのに、こんなに悩まなきゃいけないんだよ!? デートって言うのは、もっとこう楽しい物じゃなかったのかよ!? ……したことないけど)

 

 自分を取り巻く状況に夢人の頭は混乱状態に陥っていた。

 

 乗り気でなかったデートだとしても、夢人自身もナナハと楽しもうとする気持ちはある。

 

 しかし、周りの状況がそれを許しはしなかった。

 

 自分を避けるように動くネプギア、隠れる気もなく後を堂々とつけるネプテューヌ達、デートの雰囲気などぶち壊されてしまっていたのである。

 

「あ、そうだ……ほら、夢人」

 

「うん? どうし……」

 

「はい、アーンして」

 

「は、はい?」

 

 疲れたように顔をあげる夢人の前に、ナナハは笑顔でスプーンを突き出していた。

 

 そのスプーンにはアイスクリームが乗せられており、夢人はその対処に困ったように動きを止めてしまった。

 

「ほら、ボーっとしてないで口を開けてよ……アーンって」

 

「な、ナナハ、さすがにそれは……」

 

「アーン」

 

「……アーン」

 

 ナナハが何をしたいのかはわかっているが、ネプギア達の見ている前ですることに躊躇いを覚えた夢人は拒否しようとした。

 

 しかし、有無を言わせぬナナハの雰囲気に押されて、諦めて口を開けてしまった。

 

 その口にナナハは嬉しそうにスプーンを入れ、アイスクリームを夢人に食べさせて満足そうにしていた。

 

 夢人は口の中に広がるアイスクリームの冷たさと甘さを感じながら、今の普段とは違うナナハの様子にも頭を痛ませた。

 

 ナナハはデートが始まってから今まで、まったくネプギア達のことを気にせずに無視していたのだ。

 

(気付いてない……ってことはないな。理由はわからないけど、敢えて無視しているみたいだし……)

 

 行く先々で、ナナハはネプギア達を敢えて視線から外している。

 

 目の前を横切ったりしても、話しかけることもなく、ただ通り過ぎるだけなのだ。

 

(やっぱり、デートだからか? デートだから、他の奴じゃなくて、自分を見て欲しいって言うアピールなのかもしれない)

 

 夢人はナナハの不自然な行動を、デートの最初に言われた【自分だけを見て】と言う言葉から、アピールのようなものだと解釈していた。

 

 事実、ナナハは今日のデートに気合を入れている。

 

 他の理由が思いつかない夢人には、それしかわからない。

 

(でも、だからと言って、あんな露骨な真似をするわけが……)

 

「じゃあ、次は夢人が私に食べさせてよ」

 

「……え?」

 

「はい、早く私にも食べさせてよ……アーン」

 

 夢人が考えに没頭していると、ナナハはスプーンとアイスクリームを差し出して、目を閉じて口を開け出した。

 

「そ、それは勘弁……」

 

「アーン!」

 

「だ、だから……」

 

「アーン!」

 

「……アーン」

 

 夢人はわずかに頬を引きつらせながら、今度こそ拒否しようとしたのだが、ナナハはしてくれるまでずっと口を開けているぞとアピールするかのように、アーンっと言葉を繰り返した。

 

 夢人は仕方なく、スプーンからアイスクリームを少量すくい取ると、ナナハの口へと持っていき食べさせた。

 

「うん、美味しいね」

 

「……よかったね」

 

 食べさせてもらって嬉しそうにはにかむナナハを見て、夢人は乾いた声しか出せなかった。

 

 衆人環視、特にネプギアに見られながらすることに、夢人はすでに諦めの境地にいた。

 

(ネプギアの誤解、加速しただろうな……本当、どうしたら……)

 

「ねえ」

 

「……うん?」

 

 夢人が沈んだ気持ちで肩を落としていると、ナナハは浮かべていた笑みを消し去り、顔を引き締めて口を開いた。

 

「これから行きたい場所があるんだ……ついて来て」

 

 

*     *     *

 

 

「ここ、私のお気に入りの場所なんだ」

 

 私は夢人を連れてテーマパークを出ると、ベール姉さん達を撒くために、複雑な道を通りながら目的地に着いた。

 

 ちょっと街から離れた場所にある小高い丘の上、その緩やかな斜面の近くから見る星空が綺麗で、私は何度もここに足を運んだことがある。

 

 今はまだ夕暮れ時だから、あんまり星は見えないけど、誰も来ない場所だから都合がいい。

 

「それで、どうしてここに?」

 

「慌てないで……その前に謝らせてよ。ごめんなさい」

 

 疲れたように尋ねてきた夢人に、私は頭を下げて謝った。

 

「な、何でナナハが謝るんだよ?」

 

「だって、夢人は今日のデート、全然楽しめなかったでしょ? 元々、私のわがままで急な約束をしちゃったし、迷惑をいっぱいかけたからね」

 

 慌てる夢人に、私はさらに申し訳なく思ってしまう。

 

 夢人が今日のデートを楽しめていなかったことは気付いていた。

 

 理由は、私やベール姉さん達、ネプギアにあるだろう。

 

 私は無視していたけど、夢人はすごくネプギア達のことを気にしていた。

 

 まあ、当然だよね。

 

 夢人はネプギアのことが好きなんだから、気にかけるのも無理はない。

 

 ……でも、私は今日でそれを終わらせたい。

 

「でも、今日のデートの最後に、夢人に絶対に聞いてもらいたいことがあるんだ」

 

「聞いてもらいたいこと?」

 

「うん」

 

 私は斜面から落ちないように建てられている柵に手をかけて、沈んでいく夕陽を見ながら言葉を続けた。

 

「夢人は知ってるかな? 私達、女神の力を持ってる女の子の寿命……実はないんだよ」

 

「寿命が、ない?」

 

「うん。正確に言うとちょっと違うけど、私達女神はシェアエナジーがある限り、よっぽどのことがない限り老いることも死ぬこともないんだ」

 

「そ、そうだったのか?」

 

 夢人は初耳だったようで、驚いたような声が聞こえてきた。

 

「だから、例え夢人がおじいちゃんになっても、私達は今の姿のまま……力を最大限発揮できる姿を維持したままなんだよ」

 

 私は横にいる夢人に視線を戻して、ほほ笑みかけた。

 

 ……もう覚悟は決めた。

 

 これから言う言葉は、私の偽らざる本音。

 

 私の運命を切り開くための……私の出した【未来】に踏み出す答えだよ。

 

「私、女神やめるよ」

 

「なっ!? 何言ってんだよ!?」

 

「本気だよ。私はずっとこのままでいるよりも、好きな人と一緒に生きて、一緒に死にたい……夢人、愛しているよ」

 

 目を見開いて驚く夢人に私は本気だと伝えるために、真っ直ぐにその瞳を見つめた。

 

 元々、この2度目の人生が奇跡のようなものだったんだ。

 

 私はキラキラと生きていた憧れた人達の様に生きたいと願って転生した。

 

 私の見つけたキラキラ……それが夢人を愛することだったんだ。

 

 恋して変わった私は、きっと夢人がいなくなってしまえばキラキラと輝けなくなってしまう。

 

 だから、私は長く生きるよりも夢人と一緒に短い間でもキラキラと輝いていたい。

 

 それが北条沙織であった私の望みであり、ナナハとして生きる私の願いだ。

 

「夢人と一緒に年を重ねて生きていきたい。そのためなら、私は女神をやめて、ただのナナハとして寄り添いたいんだ」

 

「で、でも、それは……」

 

「急にこんな話しちゃって悪いんだけど、ちゃんと答えて欲しいんだ……夢人は私と一緒に生きるのは、嫌?」

 

 私は夢人に近づくと、その胸にこつんと額をくっつけて尋ねた。

 

 ずるい言い方だってことはわかってる。

 

 ネプギアのことが好きだってわかっているけど、夢人には私を選んで欲しい。

 

 ずっと変わらないネプギアよりも、一緒に変わっていくことができる私のことを……

 

「答えて……私じゃ、駄目なの?」

 

「ナナハ……」

 

「少しでも私のことを好きな気持ちがあるなら……ここでキス、して」

 

 私は夢人を見上げると、静かに目を閉じて唇をわずかに突き出した。

 

 少しでも私を思ってくれている気持ちがあるのなら、今は黙ってキスをして欲しい。

 

 ここまで言わせた私に恥をかかせないで欲しい。

 

 ネプギアよりも、必ず夢人のことを夢中にさせてみせるから……

 

「ナナハ、俺は……」

 

「んっ」

 

 私は肩に置かれた手に身じろぎするが、黙って夢人に身を任せた。

 

 目を閉じていてわからないけど、きっと夢人はネプギアよりも私を……

 

「駄目えええ!!」

 

「ぶごっ!?」

 

 ……ん? 何やら誰かの大きな声がしたと思ったら、夢人の短い悲鳴と共に肩に乗せられていた温もりが消えてしまった。

 

 不審に思った私が目を開くと、そこには肩を上下させているネプギアの姿があった。

 

「ナナハちゃん」

 

「……何、私の邪魔をしに来たの?」

 

 私は知らずうちに低い声を出して尋ねていた。

 

 ネプギアが邪魔をしに来ることはわかっていたけど、何も今でなくてもいいじゃないか。

 

 もう少しで私は夢人と……

 

「聞いてもらいたいことがあるんだ」

 

「……何を言うつもりかわからないけど、ネプギアは自分がしたことを理解しているの?」

 

「うん、全部わかってる。だから、私の気持ちを知ってもらいたいんだ」

 

 ネプギアは1度目を閉じると、片手を胸に当てて唇を閉じた。

 

 次の瞬間、目を開いて飛び出した言葉に、私は驚愕してしまった。

 

「私はナナハちゃんやユニちゃんのように、【未来】には踏み出さない……私は【今】を大切にするよ」




という訳で、今回は以上!
多分この章は後2話ほどになると思います。
ゲームをするほかにも、リアルでの用事があるのでちょっと更新が遅くなりそうですが、とりあえず3月中に次章に移れそうで、なんとなく満足です。
それでは、 次回 「関係」 をお楽しみに!

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