超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今年は2月に雪が降った影響なのか、今の時期の花粉がすごくきついです。
目がかゆいし、くしゃみが……
それでは、 怨恨 はじまります


怨恨

「……な、何言ってるの?」

 

「聞こえなかった? ネプギアは夢人のこと、本当は好きでも何でもないって言ったんだよ」

 

 私は信じられないと言うように目を見開くネプギアに、冷たく言い放った。

 

 自覚は……あるわけないよね。

 

 だから、自分が何を言っているのかわからないんだ。

 

 ネプギアの立場から、絶対に私達に投げかけてはいけない言葉が出たことを。

 

「確認するよ。ネプギアはユニと本気で戦ったんだよね?」

 

「う、うん」

 

「全力で?」

 

「と、当然だよ」

 

「……ふーん、当然か」

 

 私は胸の内が冷たくなってくるのを感じる。

 

 当然、ネプギアにとっての当然ってその程度なんだね。

 

「じゃあ、どうして【次】って言ったの?」

 

「……え」

 

「教えてくれる? 何が【次】なの?」

 

 怯えて震えだすネプギアを目にしても、私は尋ねるのをやめない。

 

 ユニが……ううん、私達が1番許せないのは、ネプギアがそれを口にしたからだ。

 

「だ、だって、私達は仲間だし……」

 

「仲間だから? 仲間同士だから、次があるとでも思っているの? それは真剣に勝負を挑んだユニに対する侮辱だよ」

 

「ち、違うよ! 私が言いたいのは、負けないように私も強くなるって……」

 

「負けないように? それって、負けたことを受け入れてないってことだよね? 自分を正当化しようとしている言い訳じゃない」

 

 私はネプギアの態度に怒りが湧いているのに、頭は怖いほど冷静だ。

 

 ユニもきっと同じ気持ちを味わったに違いない。

 

 ……いいや、ユニは当事者だし、私よりももっと憤ったのだろう。

 

 ネプギアはそれがわからないから、火に油を注ぎこむようなことしか言えないんだ。

 

「ネプギアはユニと再戦したいと思っているのかもしれないけど、そんな機会は2度と来ないよ」

 

「ど、どうして!?」

 

「当たり前だよ。例え、2人がもう1度戦ったところで、それは別の戦いになる。同じ戦いなんて、もう2度と起こらないんだよ」

 

 ユニの覚悟は、あの戦いだからこそあったものだ。

 

 ミッドカンパニーに行く前、ユニは今じゃなきゃいけないと言っていた。

 

 あの時にネプギアと戦うことが、ユニにとって大切だったんだ。

 

「ユニにとって大事な1度きりの戦いだったのに、ネプギアは【当然】だと言って【次】を望んでいたんだよね。それは負けた人の言葉じゃない、勝者が敗者を見下す言い方だよ」

 

「っ、私はそんなこと思ってない!!」

 

「だとしら、もっと性質が悪いよ。無意識にユニを下に見ていたってことなんだから」

 

「そんなことない!! 私はユニちゃんのこと、大切な友達だって思ってる!! だから……」

 

「いい加減にして!!」

 

「っ!?」

 

 これ以上、ネプギアの醜い言い訳を聞きたくなかった私は大声を上げて遮った。

 

「ネプギアの言う友達って、ただ慣れ合うだけの存在なの? それとも、自分の思い通りに動いてくれる人達のことを言うの?」

 

「違うよ!! 私は友達のことをそんな風に思ってなんかいない!!」

 

「じゃあ、教えて? ネプギアにとっての友達って何?」

 

 私は叫んでしまいたい気持ちを抑えて、ネプギアに淡々と尋ね続けた。

 

 聞かなければいけない。

 

 私もネプギアのことを大切な友達だと思っているからこそ、心の内をちゃんと知りたい。

 

「一緒に笑ったり、泣いたりできる人達。喜びをわかち合ったり、悲しい時には支え合える存在だよ」

 

「ネプギアらしい優等生な答えだね……でも、それなら私とユニは友達になれないよ」

 

「っ、そんなことないよ!? ナナハちゃんもユニちゃんも、私の大事な友……」

 

「だって、笑えないもの」

 

 私とユニがネプギアと友達になれない理由は簡単だ。

 

 きっとロムとラムとも友達になれはしない。

 

 だって、それをネプギア本人が口にしたんだから。

 

「私はネプギアと一緒に笑えないし、泣いたりなんてできないよ。ましてや、喜びをわかち合ったり、悲しい時に支え合うなんて、絶対にできないよ」

 

「何で!? どうしてそんなこと言うの!? 私達は今まで一緒に楽しかったことを経験したり、悲しかったことを乗り越えてきた!? それなのに、どうして私達は友達になれないの!?」

 

 悲しみに顔を歪めてネプギアは涙を流しながら叫ぶが、私の気持ちは変わらない。

 

 でも、私もユニと同じようにネプギアにチャンスをあげることにする。

 

「だったら、答えて。ネプギアは夢人のことが好き?」

 

「っ!? そんなこと、今は関係な……」

 

「大事なことだよ。さあ、答えてもらうよ……ネプギアは夢人のことが好きなの?」

 

 確かに、私達はいろんなことを一緒に経験してきた。

 

 時には一緒に笑い、泣き、支え合ったこともある。

 

 それでも、私達はネプギアと友達になれない。

 

 その答えが今の問いに込められていることに、ネプギアは気付く様子がない。

 

 今も何かを口にしようとしては、唇を動かすだけで何も答えてはくれない。

 

「どうしたの? なんで何にも答えないの? ネプギアにとっても夢人は大切な人のはずでしょ? なら、簡単に答えられるでしょ?」

 

「で、でも、今は……」

 

「関係あるよ。ネプギアが夢人のことをどう思っているのか、今すぐに答えてよ」

 

「わ、私は……」

 

 私が何度尋ねようとしても、ネプギアの行動は変わらない。

 

 夢人のことを好きとも嫌いとも何とも言わないのだ。

 

 ただ口を小さく動かそうとして、すぐに唇を閉じてしまう。

 

「ねえ、何で答えてくれないの? やっぱり、ネプギアは夢人のことが嫌いなの?」

 

「そんなことない!! 私は夢人さんのことが……」

 

「夢人のことが何なの? もっとはっきり言ってくれないとわからないよ」

 

 私の言葉を否定した時は威勢がよかったのに、段々と小さくなっていく声に、私の我慢も限界を迎えようとしていた。

 

 このままだと、同じことを繰り返すだけで、何の解決にもならない。

 

 ネプギアにはしっかりと自覚してもらわないといけないんだ。

 

「どう答えていいのかわからないなら、好きか嫌いの2択で答えてくれる? それなら簡単でしょ?」

 

「そ、それは……」

 

「悩む必要なんてないでしょ? ほら、今すぐ私の前で答えてよ」

 

 こうして答えを待っている私だけど、実際はネプギアがどう答えるのかはもうわかってる。

 

 ……いや、答えないのをわかっていると言うのが正解だね。

 

 ネプギアは絶対に答えられない。

 

 今も辛そうに顔を歪めて唇を噛んでいるだけで、口を開こうとすらしていない。

 

 理由はとっくにわかってる。

 

 ……ここには私がいるんだもの。

 

「あ、もしかして、私の答えから聞きたいのかな?」

 

「っ、ち、違うよ!? そんなこと……」

 

「だったら、私が先に答えるね。私は夢人のことが大好きだし、愛しているよ」

 

「っ!?」

 

 制止の声をわざと無視して私の気持ちを伝えると、ネプギアの顔は傷ついたように凍りついてしまった。

 

「さあ、次はネプギアの番だね。夢人のことが好きなのか嫌いなのか、はっきり答えて」

 

「も、もう……」

 

「うん? なんて言ったの?」

 

「もうやめてよ!? そんなことを聞いて何になるの!? 私はどうして友達になれないのかって聞いているのに、夢人さんのことは関係な……」

 

「本当にそう思ってるの?」

 

「っ!?」

 

「本当に夢人のことが関係ないだなんて、馬鹿なことを考えているわけじゃないよね」

 

 ネプギアは顔を左右に激しく振って話題を変えようとするのだが、私はそれを許さない。

 

 低い声を出して尋ねると、ネプギアの両肩がビクッと反応した。

 

 ネプギアだって本当はわかってる。

 

 わかってるからこそ、私やユニの前で答えられなかったんだ。

 

「答えられないなら、質問を変えるよ。ただし、次はちゃんと答えてね」

 

「わ、わかったよ」

 

 固い声だけど、安心したように息をついたネプギアを見て、私はわずかに目を細めた。

 

 安心するのはまだ早いよ。

 

 今ネプギアは次の質問にちゃんと答えるって返事をしたんだ。

 

 なら、どんな質問にもちゃんと答えなければならない。

 

「私以外で夢人のことを好きな子の名前、わかる範囲で全員答えてくれるかな?」

 

「っ、そ、それに何の意味があるの?」

 

「いいから答えてよ。間違ってても構わないからさ」

 

 私は気楽に答えてもらうように、口元を緩めて笑みを浮かべた。

 

 でも、内心ではまったく笑えない。

 

 私の予想では、ネプギアは……

 

「え、えっと、ナナハちゃん以外だと、ユニちゃんとロムちゃんしかわからないよ」

 

「え? 本当にわからないの?」

 

「う、うん」

 

「へえ、そうなんだ……だったら、やっぱりネプギアは夢人のことが好きじゃなかったんだね」

 

「なっ!? なんでそうなるの!?」

 

 慌てて私に詰め寄るように前のめりになるネプギア。

 

 でも、こうなることを予想していた私は慌てたりしない。

 

「だって、ネプギアは他に誰が夢人のことを好きなのかわからないんでしょ?」

 

「だから、それでどうして私が夢人さんのことを好きじゃないってことになるの!? 人の気持ちなんて見えないんだから、わからなくても……」

 

「でも、私にはわかるよ。ラムも夢人のことが好きだって」

 

「っ、ラムちゃんも!?」

 

 私の言葉を聞いて、ネプギアは目に見えて驚きを隠せないようだ。

 

 予想はしていたけど、やっぱりラムの気持ちにも気付いていなかったんだね。

 

「気付いてなかったの? ラムが夢人に向ける目、私達に向けるものと違うものが混じっていることに」

 

「そ、そんなのわからないでしょ? それだけで、ラムちゃんが夢人さんのことを好きだなんて……」

 

「わかるよ。だって、私と同じ目をしているもの……夢人のことを好きだって目を、ね」

 

 直接聞いたわけではないけど、私もユニもラムが夢人のことを好きだってことを理解している。

 

 まあ、多分聞いたら面白いくらいに顔を真っ赤にして慌てるだろうな。

 

 だって、ラムってユニにどことなく似ているからね。

 

 ……実はもう1人だけいるんだけど、ここでは言わなくてもいいよね。

 

 今でさえいっぱいいっぱいなのに、その人の名前まで出してしまえば、きっとネプギアはもっと混乱してしまう。

 

 それは私にとっても不都合なことだ。

 

 私の目的は、ネプギアをただ虐めることじゃないんだから。

 

「そ、それだけ? それだけで、ラムちゃんが夢人さんを好きだって言い切れるの?」

 

「言い切れるよ。逆に聞くと、それだけじゃ駄目なの?」

 

「だって、それだけじゃわからないよ。同じ目をしているから好きだなんて、ただの決めつけだよ」

 

「違うよ。同じ所があるからこそ、相手の気持ちを察することができるんだよ……例えば、ネプギアが心の中で夢人のことを好きだって思ってることとかね」

 

「っ、そんなこと……」

 

「ないって言えるの? 本当にそう言っていいの?」

 

 納得していなかったネプギアだったけど、私が尋ねるとまたしても口を閉ざしてしまった。

 

 こうも頑なだと、怒りを通り越して呆れが来るね。

 

「まあ、ネプギアの言う通り、心が見えないんだから、わからなくても別に問題ないよ」

 

「……え? あ、そうだよね」

 

「じゃあ、今度は逆で考えようか……ネプギアは夢人が誰のことを好きなのか知ってる?」

 

 気を緩めたネプギアの顔が、再び固まってしまった。

 

 私が質問する度に同じような表情をするんだから、これは相当根が深い。

 

 だからこそ、私はネプギアやユニ、夢人のためにも問い続けなければならない。

 

「……夢人さんの……好きな人……」

 

「まさか知らないなんてことないよね? あれだけわかりやすいんだもの。ほとんど皆知ってるよ」

 

「だ、誰なの!? それっていったい……」

 

「ん? 何でそんなに気にしているの? ネプギアには別に関係ないことでしょ?」

 

「っ、関係なくはないよ!? だって、私は……っ」

 

「私は? ネプギアはいったい何なの? 黙ってたら何にもわからないよ」

 

 知りたがる癖に自分の気持ちを口にしないネプギアは、俯いて掛け布団を強く握りしめるだけだ。

 

「それよりも、早く答えてくれないかな? 夢人が誰を好きなのか、当てずっぽうでもいいよ。とりあえず、誰かの名前をあげてみてよ」

 

「……わからない」

 

「答えが違うよ。私は名前を言って欲しいんだ……夢人の好きな人の名前……」

 

「わからないよ!!」

 

 私の声を遮って、ネプギアは大声を出すとともに両耳を塞いでしまった。

 

「夢人さんの好きな人なんて、私にはわからないよ!! だから、もう聞かないで!!」

 

「わからなくてもいいよ。ほら、ネプギアも言ってたでしょ? 【人の気持ちは見えない】。だから、私も妥協案として勘でもいいから誰かの名前をあげれば、この質問はやめてあげる。ほら、誰でもいいから名前を言ってみてよ」

 

「そんなの……言えるわけないよ」

 

「どうして? 別に正解を当てろと言っているわけじゃないんだよ? 適当に答えてもらえれば、それで満足なんだから」

 

「……だって、その人に失礼だし……」

 

「へえ、夢人に好かれることって失礼なことなんだ……それって、夢人を馬鹿にしているって気付いている?」

 

「っ、ち、違う!? そんなこと……」

 

「いいや、違わないよ。ネプギアは今、夢人のことだけじゃなくて、夢人のことを好きな私達のことも馬鹿にしたんだよ」

 

 必死に言い訳を取りつくろうとするネプギアを見て、私はそろそろ本題に入るべきだと判断した。

 

 今までのは単なる確認作業。

 

 これから話すことが本題だよ。

 

「そうそう、ネプギアは知りたがってたよね? どうして夢人を殺しちゃうのかを」

 

「……え、あ」

 

「だって、ネプギアは前に進もうとしてないんだもの」

 

 これこそ、ネプギアが夢人を殺してしまう理由。

 

 他の言い方もあるけど、きっとこの言い方が1番ネプギアにはわかりやすいはずだよね。

 

 だって、比較対象がいるんだから。

 

「私が……前に進もうとしていない? ……そんなことないよ。私は皆と一緒にゲイムギョウ界を救うって……」

 

「ああ、目標とかそう言うことじゃないよ。私が言いたいのは、もっと単純なことなんだから」

 

「単純なこと?」

 

「そう。簡単に言っちゃえば、ネプギアは今が1番居心地がいいと思っているから、それを変えたくないんだよね」

 

「ど、どう言う意味なの?」

 

 言葉を砕いて説明しても、ネプギアはわからない……いいや、これはわかろうとしていないのかもしれない。

 

 わかってしまえば、もう戻ることができないから。

 

 無意識のうちに、私の言葉を理解しようとしていないのかもしれないね。

 

 ……でも、そんなことは絶対に許さない。

 

「例えばの話だけど、ネプギアが夢人のことを好きだとして、それから何をしたい?」

 

「え? きゅ、急に何を言い出すの?」

 

「あ、そうだったね。ネプギアは夢人のことを好きでも何でもないんだから、こんな質問しちゃ【失礼】だよね。ごめんごめん、やっぱり答えなくて……」

 

「そ、そうじゃなくて!? え、えっと、その、なんて言うか……」

 

 ネプギアは私の様子を窺うようにちらちらと視線を向けてくる。

 

 それでも躊躇うように口をもごもごと動かすだけで、はっきりと答えずに俯いてしまう。

 

「答えないなら、私が勝手に予想しちゃおうかな……そうだね。夢人とネプギアは互いに好き合って、幸せになろうとする。ここまではいいかな?」

 

「う、うん」

 

「その後は……ネプギアが夢人の足を引っ張り続けて、夢人を殺しちゃうね」

 

「な、何でそうなるの!? 私は夢人さんの足を引っ張るなんてこと……」

 

「だって、夢人は前に進もうとしているもの」

 

 言葉にはしないけど、ネプギアと違ってね、と目線で伝えるため、私は目を細めてネプギアを見つめた。

 

 ここからが重要なんだから、質問は全部話し終わった後で受け付けるよ。

 

「ネプギアも覚えてるでしょ。リゾートアイラン島での、夢人とアイエフさんの会話……いや、それよりも前に見たワンダーに残された記録映像でもいいかな」

 

 リゾートアイラン島でのことは、この間のことだから当然覚えているだろうし、ワンダーに残された記録映像なんて忘れようとしても忘れられないはずだ。

 

 この2つには、共通して夢人の望むものが含まれている。

 

「そのどちらでも、夢人は【未来】を目指そうとしているんだよ」

 

「【未来】……」

 

「ギョウカイ墓場で消えるとわかっていても、私達の未来の方が大切だと言って夢人は消えていった。アイエフさんに頑張る理由を聞かれても、夢人は理想を叶えるために前に踏み出すと言っていた……どちらでも夢人は【未来】を、前を見据えて動こうとしているんだよ」

 

 夢人が本当に前を向いているかなんて、私にはわからない。

 

 でも、夢人が【未来】を大切にしていることは理解している。

 

 そうでなきゃ、夢人はギョウカイ墓場で消えたり、理想を口にしたりなんてできないはずだ。

 

 何より、このことはユニも証言している。

 

「ミッドカンパニーに行く前、ユニも言ってたよね。ブレイブ・ザ・ハードと一騎打ちをすることが、夢人が前に踏み出す一歩だって……そして、自分もネプギアと戦って前に踏み出すって」

 

「あ、あああ……」

 

「夢人もユニも【未来】に踏み出すために、それこそ自分の全てを賭けて戦いに挑んだはずだよ……それなのに、ネプギアは【当然】だと言って【次】を求めていた」

 

「違う……違うよ……そんなことないよぉ……」

 

「違わないよ。2人と違って、ネプギアは【未来】なんて求めていない。ネプギアが欲しいのは、【今】がずっと続くことなんだから」

 

 ようやく理解したようで、ネプギアは弱弱しく頭を左右に振るが、私はさらに核心に迫る言葉を言い放つ。

 

 2人と違って、ネプギアは【今】を1番大切に思ってる。

 

 それが今までの会話でも充分理解できた。

 

 だからこそ、【未来】を目指す夢人の足枷になってしまう。

 

 夢人を【今】に固定しようとする足枷に……

 

 そんなことをしてしまえば、前に進もうとする夢人はずっと転んだままで死んでいるようなものだ。

 

 これがネプギアが夢人を殺す理由。

 

「知らないままや何もしないのは楽でいいからね。ネプギアは変わらない【今】の状態が好きなんだよ」

 

「そんなこと……」

 

「周りの変化に鈍感であれば、自分の知っている【当然】の【今】を継続できる。だから、ネプギアは夢人について私に何も言えない。私が夢人のことを好きだから、自分がどう思っているかなんて口に出せないんだよね……下手なことを言って、私との【今】が崩れてしまうのが怖いから」

 

「っ!?」

 

 ネプギアが夢人のことを好きなのに、正直に答えられない理由はこれだ。

 

 前に進むことで変化する私達の関係を変えたくない。

 

 どうしようもなく、ネプギアの中で友達のナナハでいて欲しいと願っているんだ。

 

「さっきの例え話の続きを話そうか……もし仮に夢人とネプギアが付き合ったら、私達はどうなるのか。気になるでしょ?」

 

「い、嫌!? 聞きたくなんて……」

 

「ネプギアに拒否権なんてないよ。全部聞いてもらう」

 

「っ、は、離して!?」

 

 私は両耳を押さえようとしたネプギアの腕を掴み、俯こうとした瞳を覗き込んだ。

 

「恨むよ。殺したいほどネプギアのことを憎む。私がなりたかった夢人の1番になったネプギアのことを、ずっと憎みながら生きていくよ」

 

「っ!?」

 

「私の方が夢人のことを好きなのにって思って、2人のことを祝福しない。代わりに呪いの言葉をあげるよ……何であなたなの、ってね」

 

 このままのネプギアが夢人と付き合ったなら、私は100パーセントネプギアのことを恨む自信がある。

 

 好きな人を奪っただけじゃなく、殺そうとする女のことなんて、私には到底許容できない。

 

「私の方が絶対に夢人のことを先に好きになったのに、どうして横から奪っていくの? 後から好きになったくせに、どうして私よりも幸せになるの? ……そんなことを考える私がネプギアの傍で笑えると思う? 無理だよ、絶対に無理。だから、私はネプギアと友達になれない。ユニだって同じ気持ちだから、ネプギアにお願いしたんでしょ? 【夢人の前から消えて】って……私も同じこと言ってあげるよ。夢人のことを何とも思っていないなら、今すぐに夢人の前から姿を消して」

 

「あ、あああ、あああああ……」

 

 覗きこんだ瞳に新しい涙の粒が浮かび上がって来た。

 

 ネプギアは私のことが怖くて堪らないんだよね。

 

 でも、泣いたからと言ってやめるわけはないんだよ。

 

 これがもし私じゃなかったら、ネプギアに優しい言葉を投げかけてすぐに元の関係に戻れるのかもしれないけど、今の関係が嫌な私は止めない。

 

 むしろ、完全に壊してしまいたい。

 

「どうする? 私やユニ、夢人のために、ネプギアは姿を消してくれるかな? それとも、恨まれたり憎まれたりしても夢人の隣にいたい? どっちがいい?」

 

「な、なんで……何で、そんなこと……」

 

「必要なことだよ。【今】しか見えていないネプギアには関係ないのかもしれないけど、私も【未来】を目指しているんだから……私は夢人の1番になりたい。それこそ、ユニやロム達を蹴落としても、夢人の隣に居続けたいよ」

 

 ネプギアには悲しく思えるかもしれないけど、それが恋って物だと思う。

 

 誰かの幸せの陰で、誰かの涙がある。

 

 皆が笑うハッピーエンドなんて、用意されていないんだよ。

 

 少なくとも、私は夢人の1番じゃなければ笑うことができないんだから。

 

「まあ、今のは例え話だし、そんなに深く考える必要はないよ。でも、頭の片隅に入れといて。私は【今】の関係を全て壊してでも、【未来】の幸せを手に入れたい。そのせいで嫌われたとしても、私は全部受け入れるよ」

 

「受け入れるって……そんなこと、できるわけ……」

 

「見くびらないで。私は周りを不幸にしてきた悪魔のような存在、『転生者』だったんだよ。今更、1人や2人不幸にしたところで変わらない。それでも、私は幸せを掴んでみせる」

 

「そんなこと言わないでよ……ナナハちゃんはもう誰かを不幸にする必要なんてないのに、どうしてそんなこと……」

 

「それはネプギアが【今】のままでいたいからでしょ。勝手に決め付けないで」

 

 私が両腕を離すと、ネプギアは力なく腕をベットの上に落として、私を見上げるように見つめてきた。

 

 まるで見捨てられた子犬が拾って欲しいとねだっているようにも見えて、私は不愉快になった。

 

「その目は何なの? まさか誰かに助けてもらいたいと思ってるの?」

 

「そ、そんなことない。私は助けて欲しいだなんて思ってないよ」

 

「ふーん、私はてっきり夢人に助けてもらいたいって考えているんじゃないかって心配したよ」

 

 私の言葉に、ネプギアの瞳が大きく揺れ動いた。

 

 嘘をつけない性格って、こう言う時に本当に損だと思う。

 

 目で嘘ついていますって言っているようなものだからね。

 

「じゃあ、これで最後にしてあげるね。別に答える必要はないから、ただ静かにしていてくれればいいよ」

 

 多分、これから私がすることはネプギアにとって1番辛いことになるだろう。

 

 逃げることもできない選択肢を与えてしまうんだから。

 

 私はポケットから携帯を取り出して、とある人物へと通信を入れる。

 

『はい、もしもし?』

 

「あ、夢人?」

 

「っ!?」

 

 視界の片隅でネプギアの体が大きく揺れ動いたのが見えた。

 

 でも、私はネプギアをいないものだとして、会話を続けていく。

 

「ナナハだけど、デートの約束、ちゃんと覚えてるよね?」

 

〔ナナハ? あ、うん、それはしてたけどさ……〕

 

「突然で悪いんだけど、明日デートしたいからリーンボックスに来てちょうだい」

 

〔はああああ!? おい、ちょっと待て!? 何を急に……〕

 

「そう言うことだから、じゃあね。詳しくはメールするけど、遅れちゃ駄目だよ」

 

 私は夢人の返事を聞き終える前に、デートの約束を取り付けた。

 

 当然、傍にいたネプギアも同じことを聞いていた。

 

 ネプギアは唇を震わせて焦点の合ってない目で私の方を向いていた。

 

「聞いてた通りだよ。私は明日夢人とデートする……そして、もう1度告白してくるよ」

 

「っ!?」

 

「それでもいいって思うなら、ネプギアはこのままこの部屋で不貞寝でもしてなよ。帰ってきたら、ネプギアの言うような一緒に笑える友達になってあげるから……ただし、私が夢人の隣にいてもいいならね」

 

 私はベットから降りると、ネプギアに背を向けて部屋を出て行こうとする。

 

 これ以上、ネプギアに話すことなんて何もない。

 

 それよりも、明日のデートの服を決めなくちゃね。

 

 でも、最後に一言言っておきたいこともあるから、私は背中を向けたままネプギアに言葉を残しておく。

 

「それが嫌なら、デートの邪魔をするなり、告白の邪魔をするといいよ……当然、私に嫌われる覚悟があるのならね」

 

 私はそう言うと、振り返らずに部屋を後にした。

 

 ネプギアがどうなっているかなんて、もう私にはわからない。

 

 後は、全部ネプギア次第なんだから。

 

「……よぉ、随分ときついこと言うじゃねぇか」

 

「リンダ……」

 

 私が部屋の扉を閉めると、すぐ横にリンダが壁に寄りかかりながら立っていた。

 

「たまたま通りかかったら、テメェらの話声が聞こえちまってよ。全部聞いちまったぜ」

 

「別に構わないよ。聞かれても対して問題のないことだしね」

 

 やれやれと言った風に肩をすくめるリンダだけど、偶然通りかかるなんてできないことに気付いているかな?

 

 通りかかったなら、そのまま素通りしてもいいはずなのに、リンダは服に皺ができるほど壁に寄り掛かっていた。

 

 それに、リンダには監視がつくはずなのに、それがないのはきっと私を心配してくれたベール姉さんがリンダに頼んだんだと思う。

 

 リンダとベール姉さんの気遣いに少しだけ感謝する。

 

 ……今は1人でいたくないから。

 

「それよりも、あんな風に言ってよかったのか?」

 

「ネプギアのことなら、あれでも軽いくらいだよ。本当はもっと言ってやりたいことがあるんだから」

 

「おお、怖い怖い……それで、テメェは本当にそれでいいのか?」

 

 おどけた態度から一変して、リンダは私に真剣に尋ねてきた。

 

「クソチビ女神に言ったこと、どこまでが本心なんだ?」

 

「全部だよ」

 

「嘘つくんじゃねぇよ。憎まれようとしている奴が、そんな平然としているわけねぇだろ。特に、テメェはもう知ってるはずだろ? 今のクソチビ女神が何をし……」

 

「リンダ」

 

 私はリンダの言葉を遮った。

 

 真っ直ぐにリンダを見つめて、柔らかく笑みを作った。

 

「それ以上言わないで。決心が鈍っちゃうから」

 

「……ったく、テメェも損な性格だこって」

 

「そんなの最初から理解しているよ……この恋心を自覚してから、ずっとわかってたことなんだから」

 

 リンダは呆れているけど、私は誇らしいんだよ。

 

 夢人のことを好きな気持ちがあるから、今の私がいるんだから。

 

「惚気んなっての……それで、もしもクソチビ女神がこのまま塞ぎこんでいるんなら、テメェはどうするつもりなんだ?」

 

「その時はその時だよ……ネプギアが夢人にとって邪魔な足枷になるのなら、私が取り外す」

 

 現状、夢人にとってネプギアはいい意味でも悪い意味でもいなくてはならない存在なのが悩ましい。

 

 しかも、その本人が無自覚だから尚更困難な問題だろう。

 

 ……まあ、リンダの言う通り、このまま邪魔な足かせになるのなら、私はネプギアに容赦しない。

 

「今の夢人がネプギアに夢中なら、明日のデートで私に夢中にさせてみせるよ……必ずね」

 

 今のネプギアに負ける理由がない。

 

 むしろ、私の方がネプギアよりもキラキラと輝いている。

 

 だから、私は明日もう1度夢人に告白する。

 

 さあ、ネプギアはどうする?

 

 私を止められるのなら、止めてみなよ。

 

 ……ただし、それ相応の覚悟を持って、ね。




という訳で、今回は以上!
最近は2日に1話のペースになってきましたね。
ここまで来たら、伏線の回収も考えないといけないので、慎重に執筆してます。
読み返していただきますと、この後の展開が読めてしまうかもしれませんので、そうならないように展開の方も工夫させていただきますね。
それでは、 次回 「尾行」 をお楽しみに!

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