超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回から新章、予定としては最終話までこの章含めて残り3章です。
私の中では終わりが見えてきたので、この章も頑張りますよ!
それでは、 友達 はじまります


女神やめます!? 勇者のデートパニック
友達


 ギョウカイ墓場にある黒い塔、その一室でマジックは片膝をついて頭を下げていた。

 

 その姿は、まるで命令を待つ犬のように微動だにすることはない。

 

 反して、対面の玉座に座るフィーナは呆れたように目を細めてマジックを見下ろしていた。

 

 その手でトリックの体内から取り出された黒い球を弄りながら、フィーナは熱を感じさせないような無機質な声で口を開いた。

 

「……これは回収してきたのに、犯罪神の方はしてこなかったわけね」

 

 フィーナから侮蔑にも似た言葉を投げかけられていると言うのに、マジックは頭を下げたまま何の反応も示さない。

 

 フィーナは舌打ちをして、忌々しげにマジックを睨みながら命令を下す。

 

「っち、下がりなさい」

 

「了解」

 

 命令を受け取ると、マジックは無表情のまま立ち上がり部屋を後にした。

 

 その後ろ姿をフィーナは頬づえをつきながら、つまらなそうに見つめていた。

 

「……融通が利かないお人形さんね」

 

 フィーナがマジックに下した命令は、トリックが背信行為をした際に黒い球、犯罪神復活の鍵を取りだすこと。

 

 トリックが自分に忠誠を誓っていないことに気付いていたフィーナは、元々始末する気でいたのだ。

 

 自分が取り逃がした赤い目玉を奪ってくるように命令したのは、ただの保険である。

 

 フィーナ自身は赤い目玉にさほど興味はなく、ただ単に気にくわなかっただけである。

 

 奪ってきたとしても、すぐに破壊しただろう。

 

「まあ、アイツら側に残したとしても何の問題もないんだけどね」

 

 マジックが持ち帰ったのは、犯罪神復活の鍵のみ。

 

 それは当然であろう。

 

 マジックは赤い目玉の回収は命令されていなかったのだから。

 

 洗脳を施して命令に従順になった代わりに、対応の柔軟性を失ったマジックには命令されたこと以外の行動は許されていない。

 

 先ほどのように、命令されるまで動こうともしないのだ。

 

「ジャッジ・ザ・ハード」

 

「ハッ、何でございましょうか」

 

 マジックがいた時から、ずっと後方で待機していたジャッジは、フィーナに見えなくても胸に手を当てて頭を下げた。

 

「新しい鎧は完成しているかしら?」

 

「もちろんでございます。フィーナ様から賜ったキラーマシンを使い、すでに強化を終えております」

 

「そう。なら、早速あなたの力を使わせてもらうわ」

 

「ハッ、ありがたき幸せにございます。それで、何をすればよろしいのでしょうか?」

 

「うふふ、そろそろアイツから私の大切な人を返してもらわないとね」

 

 フィーナはこれからのことを考え、口元を緩めて笑いながらジャッジに指示を出した。

 

「父様をここに連れてきなさい。そして、アイツを……『再誕』の女神を騙るあの女を殺してきなさい」

 

「御意に! 必ずや成し遂げて参りましょう。失礼します」

 

 1度深く頭を下げると、ジャッジはフィーナに断りを入れて部屋から退室しようとした。

 

「待ちなさい」

 

「何でございましょうか?」

 

「あのオバサンも連れて行きなさい。使い潰して構わないわ」

 

「ハッ、了解しました。それでは、失礼致します」

 

 立ち止まったジャッジは、フィーナの言葉を了承すると頭を下げて、今度こそ部屋から出て行った。

 

 1人になったフィーナは椅子の背もたれに体を預け、笑みを浮かべながら天井を見上げた。

 

「もうすぐ、もうすぐですよ、父様。あなたは本当の意味で、ゲイムギョウ界を救う勇者になれます……私と一緒にね」

 

 

*     *     *

 

 

「と言うわけで、今まですまなかった」

 

 ルウィーの教会にて、トリックは大仰な態度で頭を下げながらブラン達に謝罪した。

 

 ブラン達はそれを微妙な顔で受け止め、唯一ロムだけがトリックの横でにこにことしていた。

 

「吾輩、これからは心を改めて幼……じゃなかった、ゲイムギョウ界のために貴様らと一緒に戦わせてもらいたく思う」

 

「……今絶対幼女って言おうとしたよね?」

 

「そ、そそんなことはない!? 吾輩はゲイムギョウ界に生きる全ての幼……ではなく、人達のために力を使いたいのだ」

 

「……隠すつもりが皆無ですの」

 

 下心を隠しきれないトリックの様子に、ブラン達は頭が痛くなると同時にため息をついた。

 

「トリックちゃん、これからよろしくね(にこっ)」

 

「任せておけ。吾輩がこうして女神達に受け入れられているのは、全てロムのおかげなのだ。その期待に応えられるように頑張らせてもらおう」

 

「うん」

 

 嬉しそうに笑うロムと胸を張るトリックの姿に、ブラン達は顔を見合わせた。

 

「……誰かツッコミなさいよ。あなたを受け入れたわけじゃないって」

 

「……そう言うのはノワールの役目でしょ。ほら、いつものように照れながら言ったらどうかしら?」

 

「誰がそんなことするものですか!? それに、私はそんなこと言わないわよ!?」

 

「ツンデレ乙、と言う奴ね」

 

「あなたね!!」

 

 小声でブランに怒鳴ると言う器用なことをしながら、ノワールは眉をぴくぴくと動かしていた。

 

 大声で叫んでしまいたい衝動を必死に抑えているのだ。

 

 ブランは涼しげな表情で受け流しているつもりだが、口元がひくひくと痙攣しているように動いていた。

 

 ブラン自身もトリックの言葉を否定したい気持ちを我慢しているようである。

 

「で、でも、あのロムちゃんの嬉しそうな顔を見てたら正直に言えないよ」

 

「敵を改心させるなんて、さすが女神様……って、言いたいところなんだけど……」

 

「……さすがにアレはアウトですの」

 

 ブラン達は揃ってトリックへと向き直ると、そこにはロム相手にデレデレと舌を垂れている姿が目に映った。

 

「そ、それでな、ロムに1つお願いがあるのだ」

 

「わたしに?」

 

「う、うむ。吾輩もロム達の仲間になったと言うことだし、この喜びを一生の記憶に残すためその体をペロペロさせて……」

 

「ロムちゃんに何しようとしてんのよ!!」

 

「ぐえっぷっ!?」

 

 体をくねくねさせながら何やら不吉なことを願い出ようとしたトリックの顎を、ラムは思いっきりジャンプして蹴り上げた。

 

「いきなり何しようとしてんのよ!! この変態!!」

 

「こ、これは吾輩なりのスキンシップと言う奴でな、親睦を深めると言う意味で是非にペロペ……」

 

「言わせないわよ!! 逃げましょ、ロムちゃん!!」

 

「う、うん」

 

 変態的な願望を口にするトリックから、ラムはロムの手を引いてブラン達の後ろまで逃げ出した。

 

 トリックはそれを追いかけようとしたが、目の前に立つブランの鋭い眼光に睨まれて立ち止まってしまった。

 

「……そこまでよ。これ以上妹達に変態的な行動を取ると言うのなら、今ここであなたを潰すわよ」

 

「は、はい」

 

 ブランが本気で言っていることに気付いたトリックは、背筋に冷たいものを感じて素直に従った。

 

 せっかく命が助かったのに、こんなことで散らすことはトリックとしても避けたかったのである。

 

「わかればいいのよ、まったく」

 

「まあまあ、ブランも落ち着きなさい。コイツには聞かなきゃいけないことがあるんでしょ?」

 

「……そうね。わたし達に不足している情報を何か知っているかもしれないし、潰すのは全部聞き終わってからにしないと駄目ね」

 

「どの道潰されてしまうのか!?」

 

「黙りなさい」

 

「は、はい!?」

 

 ブランが怒りを堪えるようにこめかみを押さえながら口にすると、トリックは目を見開いて慌てた。

 

 しかし、それもブランの冷たい一言で収まってしまった。

 

「まず、フィーナとはどんな存在なのか教えてくれるかしら? わたし達はアカリと同じ『再誕』の女神としか知らないのよ。あなたの知っていることを教えてちょうだい」

 

 ブランは半眼でトリックを睨むように見ながら質問を開始した。

 

 アカリとは違う、もう1人の『再誕』の女神であるフィーナがどんな存在なのかを直接会ったことがあるトリックに尋ねることで、情報を得ようとしたのである。

 

「知らん」

 

「……は?」

 

 しかし、トリックの返事は簡潔であった。

 

 その答えに、思わずブランだけでなく、聞いていたノワール達も頭の中が真っ白になってしまった。

 

「吾輩はフィーナのことなんて何にも知らんぞ」

 

「そ、それは本当なの?」

 

「嘘なんてついていないぞ。突然ギョウカイ墓場に現れたと思ったら、いきなり自分のことを吾輩達の主だとか抜かしたいけすかない奴だ」

 

 ブランは思わず顔に手を当てて俯いてしまう。

 

 トリックなら、ワレチューとは違ってもっと詳しい情報を知っていると思っていたから、肩すかしをくらった気分なのである。

 

 しかし、眉をひそめながら語るトリックの姿から、今まで以上の情報を得ることができないかもしれないと察してしまった。

 

「そう言えば、フィーナは本当の名前ではないぞ? アイツの本当の名前はデルフィナスと言うらしい」

 

「……デルフィナス、それがフィーナの本当の名前なのね?」

 

「ああ。アイツはその名前が気にくわないらしくて、自分からフィーナだと名乗ったのだ」

 

 ブラン達の空気を読んだのか、トリックは考え込むように顎に手を当てて自分の知っている少ない情報を開示した。

 

 その言葉に反応したブランは顔を少しだけ上げて、目を細めて頭の中で情報を整理し始めた。

 

(デルフィナス……悪魔と言う単語同様、フィーナに何らかの関係があるのかもしれないわね)

 

 ゲイムキャラから聞いた情報にあったフィーナが異常に反応した単語、悪魔と本当の名前がどう関係しているのかはわからないが、特別な意味を持つようにブランは感じ取った。

 

 キーワードだけでも、フィーナについて調べられる糸口が増えたことを喜ぶべきだと思考を切り替え、次の質問へと移ろうとした。

 

「それで、次の質問なんだけど……」

 

「ちょっと待った!」

 

「な、何?」

 

 質問に移ろうとしたブランをトリックが真剣な顔で制した。

 

 驚きのあまりきょとんとしてしまったブランに、トリックは固い声で尋ね始める。

 

「吾輩からも質問させてもらおう……アカリとはどのような存在なのだ?」

 

「アカリ? アカリは『再誕』の女神で、今は……」

 

「そんなことはどうでもよい!」

 

 ブランが当たり障りのないことを言葉で説明しようとすると、トリックは拳を強く握りしめて力みながら言葉を続けた。

 

「幼女なのかと聞いているのだ!!」

 

「……はい?」

 

「だから、アカリとは幼女なのかと聞いているのだ!! これは吾輩にとって大事なことなのだぞ!!」

 

「アカリちゃんは、赤ちゃんだよ?」

 

「赤ちゃん……だと……!!」

 

 あまりにも真剣な表情で尋ねてくることがくだらな過ぎて、ブラン達は2度目の思考停止状態に陥った。

 

 そんな中、1人だけ無事であったロムが首をかしげながら答えると、トリックは驚きのあまり固まってしまった。

 

 だが、すぐに変化が起こる。

 

「アクククククク、吾輩の選択は間違ってはいなかったのだ!! フィーナを裏切って大正解だった!!」

 

 トリックは喜びに体を震わせながら頭上を見上げて叫び出した。

 

「赤ちゃん……つまりは幼女!! 同じ『再誕』の女神と言えども、幼女とそれ以外では天と地ほどの差がある!!」

 

 赤ちゃんが定義的に幼女に当てはまるかどうかはさておき、トリックの中では未成熟のアカリを守備範囲内だと判断したのである。

 

 フィーナが幼女ではなかったため、よりアカリに対する期待が膨らんでいるのも原因の1つである。

 

 未だ対面したことがないアカリの姿を想像し、トリックは締まりなく笑い始めた。

 

「アククククク、どんな子なのかな? やはり、吾輩好みに可愛らしい幼女なのだろうな。あー、早く会いたい! そして、あわよくばペロペロと……」

 

「いい加減にしやがれ!!」

 

「ぷげらっ!?」

 

 よからぬ妄想に突入しようとしたトリックの体を、ブランはハンマーで力の限り横殴りにしたのだ。

 

 その一撃を受けたトリックは面白いように吹き飛び転がりながら壁に激突した。

 

「やっぱり潰す!! テメェみたいな悪影響の塊は今ここで頑固な染みにしてやるよ!!」

 

「や、やめて、お姉ちゃん!? 」

 

「そ、そうよ!? 私もムカついたけど、ここは抑えなさい!?」

 

「うるせぇ!! 離しやがれ!! そして、あの変態を潰させろ!!」

 

 殺気溢れるブランは、壁に激突した影響で気絶してしまっているトリックを睨みながら暴れ始めた。

 

 慌ててロムとノワールが押さえていなければ、ブランはすぐにでもトリックを言葉の通りハンマーで潰さんとしていただろう。

 

「気持ちはわかるんだけどね」

 

「……変態は撲滅すべきですの」

 

「がすともなの!?」

 

 傍観していた日本一だが、隣のがすとも毒を吐きかけていることに気付いて少しだけ距離を取ってしまった。

 

 ロムとラムの陰に隠れていたが、かつて自分のことを幼女呼ばわりしたトリックに身の危険を感じていたのだ。

 

 がすとは内心でブランの応援をしながら、暗く口を歪めた。

 

「ブラン様、頑張るですの。がすとは応援しているですの」

 

「お願いだから正気に戻って!?」

 

 日本一は怖くなり、涙目になりながらもがすとに訴えかけるが、その笑みは歪むばかりで効果は薄い。

 

 そんなもう質問するような空気じゃなくなった部屋の中で、ラムは1人だけここにいない人物に意識を向けた。

 

「……夢人、もう起きたかな」

 

 

*     *     *

 

 

 アタシは今、ルウィーの教会の医務室的な部屋で夢人が起きるのを横に座って待っている。

 

 トリック・ザ・ハードとの戦闘を終えた夢人は、疲れが原因で倒れてしまったらしい。

 

 今ベットでとても安らかな寝顔で眠っている。

 

「……こうして見てみると、ちょっと可愛いかも」

 

 惚れた弱みなのか、アタシには夢人の寝顔が可愛く見えてしまう。

 

 男の人の寝顔を可愛いなんて言うのはちょっとおかしいかもしれないけど、アタシの知らない一面が知れたようで嬉しい。

 

 でも、こうして見ていると悪戯したくなる気持ちが湧いてきてしまう。

 

 ちょっと頬でも突いてみようかしら?

 

「起きないわよね?」

 

 アタシが恐る恐る夢人の頬を指で突くと、頬が少しだけ動いて指を弾こうとする。

 

 その度に口元がぴくぴく動くのが面白い。

 

 ちょっとくせになるかも……

 

「……ん、んん? あ、あれ、ここは……」

 

「きゃっ!?」

 

「……ユニ、か?」

 

 突きすぎたようで、夢人は眠りから覚めてしまい、薄く目を開けたままアタシとバッチリと目が合ってしまった。

 

 思わず椅子から転げ落ちそうなくらい驚いてしまったが、どうやら夢人はまだ寝ぼけているようで助かった。

 

 アタシが悪戯していたことがばれたんじゃないかって、一瞬焦ったけど大丈夫そうだ。

 

「お、おはよう」

 

「おはよう……ここはルウィーの教会か?」

 

「そうよ、よくわかったわね」

 

「前に1度お世話になったからな」

 

 完全に覚醒した夢人は目をこすりながら上半身を起こして、アタシに苦笑しながら視線を向けた。

 

 前に世話になったって、何があったのだろうか?

 

「それより、俺はいったいどうしてここで寝てたんだ? 確か、トリックを助けた所までは覚えているんだけど、それ以降がまったく記憶にないんだ」

 

「アンタはトリック・ザ・ハードを助けた後、倒れちゃったのよ。まあ、ブレイブ・ザ・ハードと戦った後だったし、きっと疲れが溜まっていたのよ」

 

「うーん、そうなのかな?」

 

 夢人はどこか納得していない表情で返事をしていたが、それ以外考えられないだろう。

 

「でも、夢人が無事でよかった」

 

 アタシは夢人の手に自分の手を重ねて目を閉じた。

 

 もう2度と会えないと勝手に決めていた思い人に、こうして触れられているのだ。

 

 嬉しくないはずがない。

 

 でも、ただ甘えるだけじゃ駄目なの。

 

 ちゃんとごめんなさいして、アタシも始めなきゃいけない。

 

 アタシは辛いけど、目を開けて真っ直ぐに夢人を見つめた。

 

「ごめんなさい、夢人」

 

「どうして急に謝るんだ?」

 

「……アタシは、夢人のことを否定したの」

 

「俺のことを否定した?」

 

 口にするのには、やはり抵抗がある。

 

 認めたくないことを認めてしまうような、そんな気持ちに流されてしまいそうになる。

 

 だけど、ここで立ち止まったりなんてしない。

 

「夢人がネプギアのことを好きな気持ちを否定したの」

 

「ブッ!? な、何言ってんだ!?」

 

「誤魔化さなくていいよ。夢人がネプギアのことを好きだってことくらい、皆知ってるよ」

 

「ま、マジかよ」

 

 落ち込む夢人を見て、アタシは少しだけ気持ちが軽くなった。

 

 アレで隠しているつもりだったのかと、少しだけ間抜けに見えた夢人の姿に緊張が解れた。

 

「アタシ、ネプギアが夢人に相応しくないって思ったの。一緒にいても幸せになれないって思っちゃったのよ」

 

「……それが負けた理由か」

 

「うん。アタシはアンタを裏切ったのよ」

 

 認めた上で、アタシは前に進む。

 

 夢人がネプギアのことを好きでも、アタシは自分の恋をもう諦めたりなんてしない。

 

 ネプギアよりも、アタシのことを好きにさせてみせるんだから。

 

「でも、今はちょっと考えが変わったわ。アタシはネプギアのこと、何にも知らなかったのよ」

 

「うん」

 

「だから、アタシはネプギアのことを知りたい。もっと近づきたいの」

 

「そうか」

 

 夢人は嬉しそうに口元に笑みを浮かべながら、アタシの言葉に頷いた。

 

 その笑顔は、まるでアタシのことを許してくれているように見えた。

 

「……怒らないの?」

 

「何をだ?」

 

「夢人の信頼を裏切ったこと」

 

「ユニは怒られたいのか?」

 

「ち、違うわよ。でも、アタシは……」

 

 言い淀むアタシの手に、夢人は自分の手を重ねて柔らかくほほ笑みかけてきた。

 

「ここに来るまでに何があったのかは、ラムとノワールから大体聞いている。ユニはネプギアと戦って、何かを感じたんだろ?」

 

「……うん、そのせいでネプギアにも酷いこと言っちゃった」

 

 夢人の前から消えてなんて、本当に酷いことを言ってしまった。

 

 自分が言われたらと考えただけで、体が恐怖で震えてしまう。

 

「だったら、謝るのは俺じゃなくてネプギアだろ? 謝って、ユニはネプギアに近づけたらどうしたいんだ?」

 

「……友達、になりたい」

 

 今更かもしれないけど、アタシはネプギアと友達になりたい。

 

 互いを認め合う、対等な友達になりたいんだ。

 

 だから、アタシは逃げているように見えるネプギアが許せなかった。

 

 真っ直ぐにぶつかって来て欲しいと思っていたんだ。

 

「なれるかな?」

 

「なれるさ。ユニが友達になりたいって思うのなら、ネプギアにどんどん近付いていけばいい」

 

「酷いこと言って傷つけたのに、そんなアタシでも友達になってくれるのかな?」

 

「友達なら喧嘩ぐらいするさ。お互いに納得のいくまでぶつかり合うのも、友達の形だと思うぞ」

 

 夢人の言葉を聞いて、アタシは勇気が湧いてきた。

 

 ネプギアと話す前から諦めたら駄目なんだって、背中を押された気分だ。

 

「ありがとう、アタシ頑張るよ」

 

「おう」

 

 ネプギアと友達になる。

 

 譲れないことはぶつかってでも譲らずに、お互いにとことん喧嘩しまくる。

 

 そんないつも隣にいるような関係を築けるように、アタシはネプギアに近づく。

 

 本当のアタシを始めると同時に、本当のネプギアを知るために。

 

 知った上で、アタシはネプギアに勝つ。

 

 女神としてだけでなく、夢人の隣の席もね。

 

「そう言えば、夢人も負けたって言ってたけど、あれってどういう意味なの?」

 

「ああ、それはな……ん?」

 

 これからすべきことを再確認することで余裕が出てきたアタシは、トリック・ザ・ハードと戦う前に夢人が言っていた言葉の意味が気になった。

 

 そのことを夢人が口にしようとすると、机の上に置かれたNギアから電信音が響いてきた。

 

「ちょっと取ってくれるか?」

 

「わかったわ、はい」

 

「サンキュー……はい、もしもし?」

 

 ベットの上で寝ている夢人に代わってアタシがNギアを取った。

 

 でも、ちょっとタイミングが悪いわよね。

 

 もう少しで夢人の話も聞けたのに……

 

「ナナハ? あ、うん、それはしてたけどさ……」

 

 通信の相手はナナハらしい。

 

 でも、夢人は会話の内容に困惑しているようで、眉をハの字にしている。

 

「はああああ!? おい、ちょっと待て!? 何を急に……って、切りやがった」

 

「どうしたの?」

 

 急に大声を出したかと思えば、疲れたようにため息をついた夢人を心配して声をかけた。

 

「……明日、ナナハとデートすることになった」

 

「ふーん、そうなん……デート?」

 

 はああああああああああ!?

 

 明日夢人がナナハとデートするですって!?

 

 いったい何を考えているのよ、ナナハ!?




という訳で、今回はここまで!
章の導入話でこの文量は初めてではないでしょうか?
まあ、前々章から続いている感じがありますから、こんな風になっているのですけどね。
さて、次回の投稿なのですが、多分今日は本編の方を投稿できません。
今日はホワイトデー用の記念小説を投稿するので、そちらの方をお楽しみに!
それでは、 次回 「傷心」 をお楽しみに!

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