超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

135 / 184
はい、皆さんこんばんわ!
今回もまた遅れてしまい申し訳ありません。
文量が多いうえに、場面が動かず会話が続くと本当に書きづらいです。
それでは、 心の答え はじまります


心の答え

「俺の……答え?」

 

 目を見開いて驚いている夢人の顔に、わたしは怒りが湧いてきた。

 

 もしかしてと思っていたけど、さっきのような答えが本当の答えだと思っていたらしい。

 

 そんなの絶対に認めないんだから!!

 

「夢人はわたし達と一緒に居られなくなっても平気だって言うの!!」

 

「い、いや、そうではないけど……」

 

「だったら、どうして消えるなんて言うのよ!! この馬鹿!!」

 

 戸惑いながらもわたしの言葉を否定すると言うことは、夢人は本当は一緒に居たいってことだ。

 

 なら、どうしてそんな答えになるのよ!!

 

「だが、俺が居れば、ゲイムギョウ界の修復ができな……」

 

「そんなのわからないじゃない!! アカリの力を使う以外にも方法があるかもしれないじゃないのよ!!」

 

 確かに、夢人が居ればアカリの力でゲイムギョウ界を修復することができないかもしれない。

 

 でも、それ以外にも方法があるかもしれない。

 

 夢人は答えを1つに決めてしまっているだけなんだ。

 

「夢人が消えないで済む方法!! それを見つければいいだけよ!!」

 

「そんな都合のいい方法、簡単に見つかるわけがないだろう。第一、あるかどうかもわからない方法を探すなんて……」

 

「逃げるな!!」

 

「っ!?」

 

 わたしの叫び声に、夢人は息をのんで固まった。

 

 今の夢人は逃げている。

 

 アカリの力と言う確実に成功すると同時に、わたし達を不幸にする選択しか見えていない。

 

 いや、見ようとしていない。

 

「夢人がしようとしていることは、全部の責任をアカリに押し付けようとしているだけよ!! それで本当にいいって言うの!!」

 

「っ、違う!! 俺は責任を取って、皆のために……」

 

「それが間違いなのよ!! わたし達のためを思うなら、ここに残りなさいよ!!」

 

 夢人はわたし達のためと言い訳しながら、無責任に全てを放り出そうとしている。

 

 わたし達はそんなことを望んでいない!!

 

 責任を取るのなら、最後までわたし達と一緒にいてよ!!

 

「そもそも夢人は1人で全部背負い過ぎなのよ!! ゲイムギョウ界のこととか、アカリのこととか、ブレイブ・ザ・ハードの時だってそうよ!!」

 

 昨日のブレイブ・ザ・ハードとの対決、わたし達には何にも知らせないで勝手に一騎打ちをし始めていた。

 

 1人で問題を抱え込んで勝手に行動していたのだ。

 

「ブレイブ・ザ・ハードを助けるために1人で戦うって、どうしてわたし達には教えてくれなかったのよ!!」

 

「……言っても反対されると思っていた。敵を助けるだなんて……ましてや、俺なんかがブレイブと戦うことを」

 

「当然よ!! 今でもわたしは怒ってるんだからね!!」

 

「……ごめん」

 

 夢人が申し訳なさそうに視線を落とすが、わたしが謝罪してほしい所は違う。

 

「勘違いしないで。わたしは別に夢人がブレイブ・ザ・ハードを助けるために戦ったことや、1人で戦ったことを怒ってるんじゃないのよ」

 

 わたしの言葉が信じられないのか、夢人は目を丸くして口もポカンと開けていた。

 

 その表情が間抜けに見えて、わたしは少しだけ頬が緩んだ。

 

「わたしが怒っているのは、わたし達に内緒にしていたこと、それだけよ」

 

「……それだけ、なのか?」

 

「当たり前でしょ。夢人が誰かを助けるために頑張ることなんて、皆知ってるよ」

 

 わたしだって夢人に助けられた1人だ。

 

 今更夢人が誰かを助けるために無茶することをとやかく言うつもりはない。

 

「でも、1人で全部しようとしないで。わたし達も手伝うから」

 

「わ、わかった」

 

「あ、その顔はウソついてるでしょ?」

 

 固まった表情のまま気のない声で言われても説得力無いわよ。

 

「ち、違うって!? これはラムの勢いに驚いてだな……」

 

「ぶー、何よそれ。まるでわたしが虐めてるみたいじゃない」

 

「そ、そんなことは思ってないって!?」

 

「……ぷっ、ウソよ、ウソ」

 

 わたしが拗ねたように頬を膨らませると、面白いように夢人は慌てた。

 

 そんなに慌てなくてもいいのにね。

 

 わたしが笑って冗談だと言うと、夢人は安心したように深く息を吐いた。

 

「はあ、まったく。ラムには振り回されっぱなしだな」

 

「ふふーん、夢人がわたしに勝とうなんて100年早いのよ……それに、少し落ち着いたでしょ?」

 

「っ、ラム、お前……」

 

「落ち着いた頭で考えてみてよ。夢人は、わたし達を残して居なくなって平気なの?」

 

「それは……」

 

 わざと冗談を言うことで場の空気が少しだけ軽くなった気がする。

 

 こんなことしかできないわたしだけど、夢人の力になれたかな?

 

 わたしが尋ねると、夢人は悔しそうに顔を歪めて俯いた。

 

「……俺も皆とずっと一緒に居たい」

 

「なら、一緒に居ようよ」

 

「でも、それだとゲイムギョウ界が……」

 

「馬鹿ね。それを何とかするのがわたし達でしょ」

 

 わたしは、まだうじうじと悩んでいる夢人の顔を両手でつかんで無理やり上げさせた。

 

「前とは逆だね」

 

 今にも泣き出しそうであった夢人の顔は、まるで初めて会った頃のわたしのようであった。

 

 だったら、今の夢人に必要なのは、ほんのちょっとの勇気。

 

「夢人が勇気を出せないなら、先にわたしのお話を聞いてくれないかな」

 

「……話?」

 

「そう、夢の話なんだけどね……」

 

 

*     *     *

 

 

『……どう言う意味だよ』

 

『言った通りだ』

 

 ……あれは不思議な夢だった。

 

 最初にわかったのは、普段よりも何倍も低い声で話す夢人の声と知らない男の人の声。

 

 目の前には知らない男の人が椅子に座っており、机の上には1枚の紙が置かれていた。

 

『お前の学力ではその大学に行くことはできん。大人しく他の志望先を探せ』

 

 男の人は、わたしに渡すようにテーブルの上にあった紙を滑らせてきた。

 

 えっと、大学って学校のことよね?

 

 わたしは別にそんなところに行こうなんて思ったことないんだけど……

 

『ふざけるな!! いきなり何言ってやがる!!』

 

 夢の内容に戸惑っていると、いきなりわたしの視界が激しく揺れた。

 

 目に映る自分の腕だと錯覚してしまう位置から伸びてきた謎の腕がテーブルを強く叩いて視界が狭まったのだ。

 

 ……今の声は夢人の声?

 

 それじゃ、さっきの腕は夢人のものなの?

 

 視界が狭まったのは、多分目を細めて男の人を睨んでいるからだと思うけど……これって、本当に夢よね?

 

 夢人の声がまるで怒っている時のお姉ちゃんみたいで怖い。

 

 そんなわたしの疑問を置いてけぼりにして、今まで聞いたことがないような夢人の声が響いていく。

 

『俺は本気でこの大学に行きたいと思っているんだ!! 変えるつもりなんてない!!』

 

『自分の学力を考えてみろ。お前がいくら頑張ろうとも、今から勉強して合格するはずがないだろう』

 

『やってみなければわからないだろ!!』

 

 話の内容はわからないけど、夢人が無理をしようとして、男の人がそれを止めようとしていることくらいはわかる。

 

 でも、今はその無茶をしようとする夢人の声が怖い。

 

 大きな声なのに、どうしても弱く聞こえてしまう。

 

『今まで何も言わなかったくせに、急に出てきて指図するな!! なんと言われようとも、俺はここに……』

 

『そこに行って何をするつもりだ』

 

『っ!?』

 

『何をするつもりだと聞いているんだ』

 

 男の人の鋭い視線に、夢人の声が詰まった。

 

 男の人の声の方が小さいのに、夢人の声よりも力強く感じる。

 

『お前はその大学に行って、何をしたいのかをちゃんと考えているのか?』

 

『っ、そんなことは別にいいだろ。俺は自分のやりたいことを見つけるためにそこに行きたいんだよ』

 

『悪いとは言わん。だが、お前は大学に在籍している4年の間でやりたいことを見つけることができるのか?』

 

 ……何となく、何となくだけど、男の人は夢人のことを心配しているんだと思う。

 

 声色は硬いけど、そこには優しさがあるような気がする。

 

『お前が考えているよりも、大学での4年間はあっという間に過ぎていくんだぞ。その短い間に将来のことをしっかりと考えられるのか? そうでなければ、そこではなく技術系の大学に……』

 

『うるさいっ!!』

 

 男の人の声を遮って、夢人の声が大きく響いた。

 

 でも、わたしにはその声が泣いているように聞こえた。

 

『そんなこといちいち言われなくてもわかってる!! 父さんに言われなくても、俺も考えてるんだよ!!』

 

『夢人!!』

 

『俺は志望先を絶対に変えない!! 今更俺の進路に口出しするな!!』

 

 夢人の叫び声が消えると同時に、急に視界がブレ始めて今度はどこかへ歩いていくように動き始めた。

 

『中途半端なお前に何ができる!! 頭を冷やせ!!』

 

『うるさいって言ってんだろ!! やり遂げてやるよ!!』

 

『なら、もういい!! 勝手にしろ!!』

 

『勝手にするさ!!』

 

 わたしは泣いていないのに、段々と視界がぼやけてきた。

 

 ……泣いてる。

 

 夢人が泣いているんだ。

 

『……馬鹿息子が』

 

 後ろから聞こえてきた男の人、夢人のお父さんのつぶやきが、やけに鮮明に聞こえてきた。

 

 

*     *     *

 

 

「……ってな感じの夢を見たのよ」

 

 ラムは柔らかく笑みを浮かべながら、夢人に夢で見た内容を話した。

 

「まさか、ラムも俺の記憶を……」

 

「あれって、夢人の記憶だったの?」

 

「あ、ああ、多分な」

 

 夢人はラムもユニのように体内に吸収されたホワイトディスクから自分の記憶が流れ込んだのだと思った。

 

 自信が持てないのは、自分にはその記憶がないからである。

 

「ふーん、それじゃ、今の話を聞いた夢人にクイズよ」

 

「き、急に何を言いだすんだ?」

 

「いいから答えなさいよ。夢の中の夢人は、ダメなことをしていました。さて、それは何でしょう?」

 

 ラムが急にクイズと言いながら尋ねてきたことに、夢人は戸惑ったが、やがて顔を暗くして答えた。

 

「それは、俺が父さんの言葉を無視して勝手なことをしようとしたことだろ」

 

「はっずれー! 全然違うわよ!」

 

「え、違うのか?」

 

 夢人は今の会話の流れで、自分勝手な行動を取ったことが答えだと思っていた。

 

 しかし、ラムはにこにこと笑いながら否定した。

 

「もー、こんな簡単なクイズなのにどうして答えがわからないのよ?」

 

「じゃ、じゃあ、話の途中で部屋から出て行ったことだ。それしかない」

 

「違いまーす! もっとよく考えてみなさいよね」

 

「ほ、他にあるはずが……」

 

「あるよ。夢人が答えたことよりも、もっと大切なことが」

 

 ラムは答えがわからずに焦る夢人を優しく見つめた。

 

「答えは、自分の気持ちをちゃんと話さなかったことだよ」

 

「自分の気持ちを……」

 

「そう。夢の中で、夢人はちゃんと自分の気持ちをお父さんに伝えてなかったでしょ?」

 

 意外そうな顔をする夢人に、ラムは諭すようにゆっくりと言葉を続ける。

 

「どうしてその大学に行きたかったのかを話してなかったでしょ? 夢人の考えを少しもお父さんに伝えてなかったじゃない」

 

「……ああ」

 

「そんなことじゃ、誰にも気持ちなんて伝わらないよ。ちゃんと話さなきゃ、わからないんだよ」

 

 ラムは夢人の頬に当てていた手を滑らせながら、指を鼻先にくっつけた。

 

「もう1問だけクイズを出してあげるわ。今度はちゃんと答えなさいよね」

 

 夢人はラムがどんな問題を出すのか予想がついていた。

 

 それをどう答えればいいのかも……

 

「夢人1人では解決できない問題があります。そんな時、夢人はわたし達になんて言えばいいんでしょうか?」

 

 夢人は憑き物が落ちたように、スッキリとした顔で答えた。

 

「……助けてください」

 

「正解!」

 

「あだっ!?」

 

 夢人が照れくさそうに答えを口にすると、ラムは鼻先にくっつけていた指を思いっきり押した。

 

 その痛みにより、夢人は瞳に涙を浮かべて鼻先を押さえながら苦笑した。

 

 ……しかし、その涙は痛みによるものだけではなかった。

 

「まったく、素直にそう言えばいいのよ。次は、アカリね」

 

 ラムは夢人の様子に満足そうに頷くと、未だに夢人にしがみついていたアカリを背中から抱き上げた。

 

「アカリ、よく聞いてね」

 

「ひぐっ、ひぐっ」

 

「ほらほら、泣かなくてもよくなるから」

 

 ラムは泣いているアカリをあやすように、頭を撫で始めた。

 

「アカリは夢人を消したくないのよね?」

 

「……うん」

 

「でも、ゲイムギョウ界を修復しなくちゃいけないってこともわかってるんでしょ?」

 

「っ、うん」

 

 ラムの問いに、アカリは再び涙が溢れてきた。

 

 自分の好きな父親とゲイムギョウ界、どちらかを選ばなければいけないからだ。

 

「アカリはどうしたいの?」

 

「わ、わたしは、パパとママ、みんなでずっといっしょにいたいよぉ……」

 

「だったら、それでいいじゃない」

 

「え?」

 

 アカリは目をパチクリさせて自分を抱きしめるラムを見上げた。

 

 ラムは柔らかく笑みを浮かべながら、アカリの頭を撫で続ける。

 

「アカリはどっちも選びたいんでしょ?」

 

「う、うん」

 

「なら、両方選べばいいのよ」

 

「え、あ、うん……うん?」

 

 アカリはラムの勢いで頷いたのだが、すぐに首を傾げて考えだした。

 

 そんな中、夢人は口元を緩めて2人の様子を静かに見守っていた。

 

「夢人もゲイムギョウ界も、どっちも守っちゃえばいいのよ」

 

「そ、そんなことできるの?」

 

「できるかじゃなくて、するのよ」

 

 不安そうに見つめてくるアカリに、ラムは安心させるように優しく言い聞かせた。

 

「アカリも夢人も、1人で解決できないなら、わたし達を頼りなさいよね。はい、アカリもちゃんと言葉にしなさい」

 

「え、えっと……たすけて?」

 

「うん、そうよ。1人じゃ無理でも、皆と一緒ならできるんだから。そんな時は、ちゃんとわたし達に助けを求めるのよ」

 

「うん! たすけて!」

 

 アカリはラムの言葉で勇気が湧いたのか、見る見るうちに瞳に力が漲って来た。

 

 泣き顔から笑顔に変わったアカリを見て、ラムは嬉しそうにほほ笑むと、夢人へと視線を向けた。

 

「わたし達……わたしも助けてもらってばかりじゃないんだからね。わたしだって夢人達のことを助けられるんだから、今度からはちゃんと助けを求めなさいよ」

 

「……ありがとう、ラム」

 

 夢人は自分に念を押すように言ってくるラムに感謝すると同時に、ここにはいない父親にも感謝した。

 

(父さん、あなたとラムのおかげで俺は自分のやりたいことを中途半端に投げ出さないで済みました)

 

 記憶にはないが、ラムの夢の中に出てきた自分を思ってくれた父親の姿に、ゲイムギョウ界に戻ってくる前に送られた言葉の意味を改めて胸に刻み込んだ。

 

(もう中途半端な真似はしない。俺は最後まで、ゲイムギョウ界を平和にするまでこの世界で生き抜く)

 

「……話は終わったようね」

 

「ノワール?」

 

 夢人が新たな決意を胸に刻み込んでいると、病室の扉が開き、ノワールが苦笑しながら入って来た。

 

 手には、鞄とブレイブとの対決で夢人が使った剣を持っていた。

 

「それにしても、あまり病院で騒ぐんじゃないわよ。あなた達の声が廊下にまで響いていたわよ」

 

「う、ウソ!? も、もしかして、全部聞かれてたの!?」

 

「当然じゃない。特に、ラムの声なんてよく響いて……」

 

「い、いやああああああ!?」

 

 入り口に持っていた剣を立てかけたノワールがからかうように笑いかけると、ラムは顔を真っ赤にしてベットに顔を隠してしまった。

 

「まあ、それはさておき。はい、これ」

 

「これは俺に?」

 

「そうよ。あなたの着替えと伝言を預かって来たわ」

 

「伝言?」

 

 ノワールが持ってきた鞄の中には、夢人の私服が入っており、それを届けたある人物からノワールは伝言を預かっていた。

 

「【今度ふざけたことを考えたら、冥界に叩き落とすわよ】、だそうよ」

 

「……それは怖いな」

 

「私も同じ気持ちよ。あなたにはもう、勝手に消えるなんて選択はさせないわ」

 

 夢人が着替えを届けてくれた人物の優しさに感謝して頬を緩めていると、ノワールは顔を引き締めて忠告してきた。

 

「あなたはすでに理想に向かって踏み出したわ。後戻りできない道を進むしかないのよ。どう、怖い?」

 

「……怖いさ。でも、俺は1人じゃない、そうだろ?」

 

「当然よ。同じ理想、ゲイムギョウ界を平和にするために進むんだから。ラムに助けられたわね」

 

「本当にな」

 

「う、うううぅぅぅ」

 

 夢人は未だにベットの中に顔を隠しているラムの頭を優しく撫でた。

 

 隠れて顔は見えないが、ラムは嬉しそうでいながら、どこか恥ずかしそうに声を漏らしていた。

 

「アカリも、変なところでパパに似なくてもいいのよ」

 

「うん!」

 

「素直でいい子ね……どこかの誰かさん達にも見習って欲しいわ」

 

「あ、あはは……」

 

「パパ」

 

 ノワールに横目でチラリと視線を向けられると、夢人は恥ずかしそうに頬を掻きながら乾いた笑い声をあげた。

 

 アカリはノワールの言葉に元気良く頷くと、真っ直ぐに夢人のことを見上げた。

 

「わたし、パパとママ、みんなまもる! ゲイムギョウかいもまもる! ぜんぶまもるよ!」

 

「ああ、皆で一緒に全部守ろうな」

 

「うん! パパ、わたしのこと、たすけて!」

 

「助けるよ。アカリも、俺のことを助けてくれ」

 

「まかせて!」

 

 アカリは満面の笑みで頷くと、今度はノワールへと顔を向けた。

 

「にょわーるも、わたしのこと、たすけて!」

 

「にょ、にょわーる!? わ、私はノワールよ! ノワール!」

 

「にょわーる!」

 

「……わ、私の名前って、言い難いのかしら」

 

「まあまあ」

 

 夢人は名前を間違えられて涙目になりながら落ち込むノワールを苦笑しながら宥めると、アカリを抱き上げて柔らかく目を細めた。

 

「俺達を助けてくれ、ノワール」

 

「たすけて!」

 

「……まったく、こっちが恥ずかしくなるようなことを馬鹿正直にするんだから」

 

 夢人達の言葉を聞いて目を丸くしたノワールだったが、すぐに口元に笑みを浮かべた。

 

「ええ、約束するわ。私はあなた達を必ず助ける。代わりに、あなた達も私のことを助けてよね」

 

「ああ」

 

「うん!」

 

「よし」

 

 約束を交わした3人が顔を綻ばせていると、ノワールはここに来た目的を話し始めた。

 

「それじゃ、早速助けてもらうわね。行方がわからなくなってたユニの居場所がわかったの。ユニを連れ戻すのを手伝ってくれないかしら?」

 

「当然だ。それで、ユニはどこに居るんだ?」

 

「ルウィーよ。今は教会に居るらしいから、着替え終わったらすぐにでも向かうわよ」

 

「了解」

 

 そう言うと、ノワールはベットに隠れていたラムの首根っこを掴んで引きずりながら病室を後にした。

 

 アカリも夢人の中に戻ってしまい、1人残された夢人は病室の入り口に立てかけられた剣を見て、消えてしまったブレイブに思いを馳せた。

 

(ブレイブ、俺はお前を救うつもりで、お前に救われたよ。お前のおかげで、俺は皆と共に生きていくことができる。ありがとう)

 

 ブレイブが自分とアカリを救ってくれたのだと、夢人は感謝すると決意を新たにした。

 

(俺はお前が認めてくれた絆の正義を貫く。必ずゲイムギョウ界を平和にしてみせる……だから、お前の魂も一緒に連れていく。一緒に行こう、友よ)

 

 覚悟を決めた夢人はベットから起き上がると、真剣な顔で着替えを始めた。

 

 着替え終えると、夢人は剣を腰に携えて、病室を後にした。

 

(何があったか知らないけど、待ってろよ、ユニ)

 

 

*     *     *

 

 

「……して欲しかったことなんて、何にもないわよ」

 

「ウソ。ユニちゃんは、ネプギアちゃんに、して欲しかったことがある」

 

 気まずそうに視線をそらしたユニちゃんの姿に、わたしは確信を強めた。

 

 ユニちゃんは、ネプギアちゃんにして欲しかったことがある。

 

「教えて、ユニちゃん」

 

「だから、何にもないわよ!! アタシがあの女にして欲しかったことなんて……」

 

「だったら、何で戦おうとしたの?」

 

 強く否定してくるユニちゃんに、わたしは聞き方を変えて尋ねた。

 

「どうしてネプギアちゃんと戦おうとしたの?」

 

「そ、それは……」

 

「ネプギアちゃんが、嫌いだから?」

 

「違う!! ……あ、そうじゃない。そうじゃないのよ」

 

 ユニちゃんは慌てて自分の言葉を否定しているけど、わたしは安心した。

 

 ユニちゃんは、本当の意味でネプギアちゃんを嫌っていない。

 

「じゃあ、どうして戦おうとしたの?」

 

「……アタシがアタシになるためよ」

 

「ユニちゃんが、ユニちゃんに?」

 

「そうよ。夢人のように、アタシも自分の道を踏み出すために、あの女に挑んだの」

 

 辛そうな顔で話を続けるユニちゃんの顔は、わたしには泣いているように見えた。

 

「いつもアタシの前を行くあの女と戦えば、アタシも少しは前に踏み出せると思ったの」

 

「それで、どうだったの?」

 

「……負けちゃったわ」

 

「ユニちゃんが勝ったんじゃないの?」

 

 今までの話から、ユニちゃんが勝ったと思っていたけど、違うのかな?

 

「勝負はアタシの勝ちよ。でも、アタシは踏み出せなかったの」

 

 ユニちゃんは勝ち負けよりも、自分が踏み出せるかどうかが大切だったらしい。

 

 試合に勝って勝負に負けた、みたいなものだと思う。

 

「アタシは夢人みたいに強くなれなかったの。前に進むことすらできずに転んじゃったのよ」

 

「……ユニちゃん」

 

「間抜けな女よね、アタシ。最初からあの女の本性がわかっていれば、こんなことで皆に迷惑をかけなくて済んだのに」

 

「違うよ(ふるふる)。ユニちゃんは、勘違いしている」

 

「え?」

 

 意外そうに目を見開いて驚くユニちゃんに、わたしは自分の気持ちを伝える。

 

「ユニちゃんは、ちゃんと前に進めてる」

 

「……嘘。そんなこと、あるわけないわ」

 

「ううん、転んでも前に進めてる。夢人お兄ちゃんも、言ってたでしょ?」

 

「っ!?」

 

 わたしはリゾートアイラン島での夢人お兄ちゃんとアイエフさんの話を思い出しながら言葉を続けた。

 

「ユニちゃんは、立ち止まってない。前に進めてるよ」

 

「……違うわ、後ろに転んじゃったのよ。前に進めてないわ」

 

「違うよ。ユニちゃんは、ネプギアちゃんに近づくことができた。前に転んだんだよ」

 

 ユニちゃんが、ネプギアちゃんについていろいろ言えるのは、ネプギアちゃんに近づいたおかげ。

 

 距離が縮まるのは、前に転んだ時だけだよ。

 

「わたしには、ユニちゃんが言ってることが正しいかどうかはわからない。ネプギアちゃんに聞けない今、ユニちゃんしかわからないことなんだよ」

 

「……アタシにしか、わからないこと」

 

「うん。ユニちゃんにしかわからないネプギアちゃんの姿が見えてるでしょ?」

 

「……うん」

 

 目を閉じたユニちゃんは、多分ネプギアちゃんの姿を想像しているんだと思う。

 

 わたし達の知らないネプギアちゃん。

 

 ネプギアちゃんが何を考えていたのかなんて、わたし達にはわからない。

 

 でも、そんなネプギアちゃんに今1番近い位置にいるのは、ユニちゃんだと思う。

 

「ネプギアちゃんのこと、嫌い?」

 

「……嫌いよ。あんな女、大嫌いよ」

 

「どうして?」

 

「……ずっとアタシ達を騙してきたのよ。そのくせ、ずっと笑ってたなんて……」

 

「じゃあ、どうしてネプギアちゃんは、アタシ達を騙してたの?」

 

 今のユニちゃんは、ラムちゃんと喧嘩してた時のわたしだ。

 

 ラムちゃんがどうしてウソをついていたのか知らずに勝手に裏切られたと思っていた頃のわたし。

 

「ネプギアちゃんが、わたし達を騙していたのなら、その理由がちゃんとあるはずだよ」

 

「……そんなの、逃げるためのただの言い訳でしょ」

 

「言い訳も理由の1つだよ。ちゃんとお話しなくちゃ、わからないことがある」

 

 勝手にネプギアちゃんを決め付けたら、ダメなの。

 

 ネプギアちゃんの口から、何を思っていたのかを聞かなければわからないんだよ。

 

 だから、ユニちゃんも立ち上がらなきゃいけないんだ

 

「ユニちゃんに聞いて欲しい夢人お兄ちゃんの話があるの」

 

「……夢人の?」

 

 夢の中の夢人お兄ちゃんの話、今のユニちゃんに必要な話を聞かせてあげるね。

 

 

*     *     *

 

 

 わたしが夢を見ていると自覚したのは、目の前に自分とは違う足があったからだ。

 

 俯いていたのか、わたしの視界には誰かわからない人の足が動く様子しか見えなかった。

 

 ……これって、何だろう?

 

 わたしは当然疑問に思った。

 

 わたしの足でも、ラムちゃんと合体したホワイトシスターの時の足でもない足が、まるで自分の足のように見えてしまった。

 

 自分が自分でなくなっていた夢、泣きそうになるくらい怖かった。

 

 やがて、足が動きを止めると、視界が広がって目の前に扉が見えた。

 

 誰かがその扉を開くと、木でできている靴箱や他にも靴がいっぱいあったから、多分どこかの家の玄関だったと思う。

 

 誰かが靴を脱ぎながら家の中に入ると、奥の方から見知らぬ女の人が歩いてきた。

 

『おかえりなさい』

 

『っ』

 

 女の人がほほ笑みながら挨拶をすると、急に視界が狭まりだした。

 

 そのまま急に激しく見える景色が動きだした。

 

 誰かが急いで動いているんだと思う。

 

『あっ』

 

 後ろの方から女の人の悲しそうな声が聞こえてきたが、誰かの動きは止まらずに、どこかの部屋の中に入って行った。

 

 誰かが扉を閉めると、部屋の電気も点けずに扉にもたれかかるように座り込んでしまったと思う。

 

 バタンって音が聞こえたと思ったら、急に後ろにぶつかるような動きをしたからだ。

 

『……クソッ』

 

 わたしは聞こえてきた声に驚いてしまった。

 

 知っている声よりも低かったけど、その声は夢人お兄ちゃんの声だった。

 

 ……もしかして、この体は夢人お兄ちゃんのものなのかな。

 

 わたしがそんなことを考えていると、視界が水の中に居る時のように変化してきた。

 

 わたしは夢人お兄ちゃんが泣いているのだと気付くのに、少しだけ時間がかかった。

 

 どうして泣いているのかがわからなかったからである。

 

 でも、次に聞こえてきた声で全てがわかったような気がした。

 

『……ごめん、母さん』

 

 夢人お兄ちゃんは、泣きながら謝っていた。

 

 多分、さっきの女の人が夢人お兄ちゃんのお母さんだったんだと思う。

 

 わたしには、どうして泣いて謝っているのかはわからない。

 

 でも、夢人お兄ちゃんがしたいことはわかる。

 

 それは、あの時のわたしと同じなんだから。

 

 

*     *     *

 

 

「……アタシだけじゃ、なかったんだ」

 

 ユニはロムの話を聞き終えると、目を見開いて驚きを隠せなかった。

 

 ユニはロムが話したことが、夢人の記憶であることを察したからである。

 

 そんなユニの様子を疑問に思うロムであったが、それよりも大切なことがあるので、後で聞くことにした。

 

「ユニちゃんは、夢人お兄ちゃんがしたかったこと、わかる?」

 

「……わからないわ」

 

「夢人お兄ちゃんがしたかったことは、今のユニちゃんと同じだよ」

 

「アタシと、同じ?」

 

「うん、ユニちゃんは、ネプギアちゃんとお話ししたかった。ネプギアちゃんに、近づきたかったんだよね」

 

 ユニは一瞬頭の中が真っ白になってしまった。

 

 しかし、すぐに目の前が真っ赤になるくらいに怒りが湧いてきた。

 

「違うわ!! アタシはあんな女に近づきたいなんて思ってない!!」

 

「ウソはダメだよ。ユニちゃんは、ネプギアちゃんに近づきたいと思ってる」

 

「思ってない!! 勝手なこと言わないで!!」

 

 頭を激しく振ってロムの言葉を否定するユニは、この場に居る全員には無理をしているように見えた。

 

 必死に否定する姿が、弱弱しく映ったのである。

 

「騙して笑っていた女になんて近づきたく……」

 

「じゃあ、戦う前はどう思ってたの?」

 

「っ、それは……」

 

「ユニちゃんが言っていることは、戦った後にわかったことだよね? 戦う前は、ネプギアちゃんこと、どう思ってたの?」

 

 ロムの問いに、ユニは勢いを削がれてしまった。

 

 ユニは口にすることを躊躇うかのように、表情を険しくした。

 

 やがて、小さくつぶやくように話だした。

 

「……憧れ、だった。ライバルで、目標にした相手だったし、アイツの立っている位置にいつも嫉妬してた」

 

 ユニは少しずつ気持ちを吐き出していくように、ネプギアに対する思いを並べていく。

 

「憎んだこともあった。アタシができないことを簡単にすることができるアイツにいつだって劣等感が抱いていた。初めて会った時から変わらない実力差に絶望を感じた」

 

「ネプギアちゃんこと、嫌いだった?」

 

「……嫌い、じゃなかった」

 

 我慢していたものが流れるかのように、ユニの目から涙が流れだした。

 

「アタシは、そんなアイツでも、嫌いになれなかったっ!! 何でかな、嫌な奴だって、思ってたのに、アタシと似ているって、思っちゃったのっ!!」

 

「どんなところが似てたの?」

 

「甘えて、逃げようとしていることっ!! 今だって、アタシ、皆に甘えてるっ!! 本当は、一緒にいちゃいけないのに、助けて欲しいって思ってるのっ!!」

 

「ユニちゃんも、一緒に居ていいんだよ」

 

「駄目なのっ!! アタシは、もう夢人に会えないっ!! アイツを……夢人を否定したアタシは、もう会えないのよっ!!」

 

「会えるよ。ううん、ユニちゃんは、夢人お兄ちゃんに会わなきゃダメ(びしっ)」

 

「何でよ!! 夢人だって、こんなアタシに会いたくなんて……」

 

「ねえ、ユニちゃんは覚えてる?」

 

 自分を傷つけるように叫び続けるユニに、ロムは優しく語りかけた。

 

「ネプギアちゃんが、夢人お兄ちゃんのことを避けてた時のこと。ユニちゃんも、知ってるでしょ?」

 

「……うん」

 

「今のユニちゃんは、あの時のネプギアちゃんと同じだよ。ユニちゃんは、夢人お兄ちゃんのことも、決めつけてる」

 

「っ、そんなこと……」

 

「あの時、ユニちゃんは、ネプギアちゃんがどうすればよかったのか、わかってるでしょ?」

 

「……話さなきゃ、何も始まらないのよね」

 

「うん(にこっ)」

 

 ユニの答えに、ロムはにこりと笑って頷いた。

 

「ユニちゃんも、ネプギアちゃんも、わたしの大事な友達。ちゃんとお話しできるように、お手伝いするよ」

 

「……友達、でいいの?」

 

「ユニちゃんは、嫌?」

 

「……嫌じゃない。でも、本当にいいの?」

 

「聞かなくても、わたし達はもう友達だよ(にこにこ)」

 

 ユニは体を震わせながら俯いた。

 

 すると、ユニの手を優しく包んでいたロムの手に水滴がぽたぽたと落ち始めた。

 

「……本当は、自信が欲しかったの」

 

「うん」

 

「……アタシとアイツとの距離なんて、大したものじゃないって思いたかったの」

 

「うん」

 

「……アイツのように、夢人の横に立てるように、本当のアタシを始めたかったの」

 

「うん」

 

「……でも、アイツに逃げられちゃった。アタシとアイツとの距離が全然変わらなかったの」

 

「なら、ネプギアちゃんのこと、追いかけなくちゃね」

 

 ユニの手を優しくさすりながら、ロムは柔らかい笑顔を浮かべた。

 

「逃げられたら、捕まえるために追いかけなくちゃダメだよ」

 

「……夢人が言ってたことよね」

 

「うん。逃げられたなら、もっと速く近づいて捕まえるの」

 

 ユニはゆっくりと顔を上げて、涙でくしゃくしゃになった顔で笑みを浮かべた。

 

「アタシに、できるかな?」

 

「できるよ。ユニちゃんは、ネプギアちゃんのこと、嫌いじゃないでしょ?」

 

「うん、嫌いになれない」

 

「だったら、ネプギアちゃんに近づこう。わたしだけじゃなくて、皆手伝ってくれるよ」

 

 ユニが周りを見渡すと、ブラン達も口元を緩めながら安心するような笑みを浮かべて頷いていた。

 

「アタシ……アタシは、もう1度ネプギアとちゃんと話したい!! 今度こそ、本当のアタシを始めるために!!」

 

 ユニの発言に、ロム達は顔を綻ばせて喜んだ。

 

 不安の色は残していても、前を向き始めたユニの姿が嬉しいのである。

 

「酷いこと言って傷つけたけど、本当はアタシ、ネプギアと……っ!?」

 

 突然、ユニの言葉を遮るように部屋の外から大きな音が響いてきた。

 

 まるで壁が破壊されたような音であった。

 

「いったい何が!?」

 

「とりあえず、音がしたところに向かうわよ!!」

 

 ブランを先頭に、ロム達はすぐに音がしたところに向かって駆け出した。




という訳で、今回はここまで!
ようやく、ようやく! 次回で動きがあるシーンが書けるのですが、予定としては次回でこの章のラストです。
この章、全く動きらしい動きを見せていません。
……本当にどうしてこうなった。
それでは、 次回 「剣と盾」 をお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。