超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
ちょっとリアルで忙しいことがあったのに加えて、文量が予想以上に多くなったことで、昨日は投稿ができませんでした。
申し訳ないです。
それでは、 言葉にしなければわからない はじまります


言葉にしなければわからない

「ネプギアちゃんが……逃げてる?」

 

 ロムは首をかしげながら、ユニの言葉を繰り返した。

 

 唐突に言われた言葉の意味がわからなかったのだ。

 

「ええ、そうよ。あの女は、いつだって逃げてるのよ。夢人からも、アタシ達からも……ずっと逃げっぱなしなのよ!!」

 

「ゆ、ユニちゃん、落ち着い……」

 

「あんな奴だとは思わなかった!! あんな奴だと知ってたら……アタシは……アタシは!!」

 

「ユニちゃん!!」

 

「っ!?」

 

 感情を爆発させたかのように叫び出すユニを、ロムは強く手を握って呼びかけることで止めた。

 

 叫ぶユニの目から涙が溢れていたからだ。

 

「ここじゃ、ゆっくり話せないから、教会に一緒に行こう?」

 

「……うん」

 

「よかった(にこっ)。2人もついて来て」

 

「わかったよ。ほら、ユニも掴まって」

 

「さすがにここでは、話を全部聞くことができないですの……お騒がせして申し訳ないですの」

 

 ロムの提案を受けた日本一とがすとの行動は早かった。

 

 日本一は座り込んでいたユニに手を差し伸べて立ち上がらせた。

 

 何事かと遠目に見ていた見物人に視線を向けたがすとも、周りに頭を下げながら謝罪した。

 

 そんな2人が行動している中、ユニは静かに涙をぬぐっていた。

 

「……ごめんなさい」

 

「謝らなくていいよ……っと、ふらふらじゃない。しっかり掴まってて」

 

「……本当にごめんなさい」

 

 手を握っていても、ふらふらと足元がおぼつかないユニは暗い顔のまま日本一へともたれかかるように倒れてしまいそうになる。

 

 日本一が受け止めたことで倒れはしなかったが、ユニは俯いて謝罪し続けた。

 

 そのままユニは、日本一に運ばれるような形で教会への道を歩いていった。

 

 3人は心配そうな顔を向けるが、謝ることしかしないユニに何も言えなかった。

 

 ……4人は後ろからつける人物に注意をさく余裕など微塵もなかったのである。

 

 

*     *     *

 

 

「……アカリが……ゲイムギョウ界を救いたくない?」

 

 夢人が話す推測に、ラムは目を丸くした。

 

 今のアカリの状態と、それがどう関係しているかわからないのである。

 

「どう言う意味よ。アカリは『再誕』の女神で、ゲイムギョウ界を修復するんでしょ?」

 

 ラムの知っているアカリは『再誕』の女神と呼ばれ、『転生者』によって発生したバグを修復する存在である。

 

 ゲイムキャラ達から聞いた話では、今のアカリの姿は不測の事態であるが、能力そのものは変わらない。

 

 何故なら、実際にリゾートアイラン島の砂浜を修復する姿を目撃しているのだ。

 

「それがどうしてゲイムギョウ界を救いたくないだなんて思うのよ?」

 

「……俺のせい、かな」

 

「夢人の?」

 

 ラムはますます意味がわからなくなった。

 

 どうして夢人のせいで、アカリがゲイムギョウ界を救いたくなくなるのか。

 

「アカリは変化、変わることを恐れているんだと思う。だから、今までもゲイムギョウ界を修復しようとしなかった」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。変わることを恐れてるってどう言う意味?」

 

「アカリが自分の意思でゲイムギョウ界を修復したのは、この間のリゾートアイラン島しかないんだ」

 

 自分を置いてけぼりにして推測を語っていく夢人に、ラムは焦ったが、夢人は止まらない。

 

「本当なら、ラステイションの時やルウィーの時も同じように修復することができたはずなんだ……でも、アカリはしなかった。それどころか、見向きもしていなかったと思う」

 

「……それは、その土地の情報がなかったからじゃないの?」

 

 夢人の口が止まるのを見計らい、ラムは自分の中の疑問をぶつけた。

 

 修復をするためには、その土地の情報が必要になる。

 

 今現在、女神の卵に集まっていた情報は、それぞれの欠片へと分散してしまっている。

 

「多分、情報があろうが無かろうが、アカリは修復することを拒否していたと思う……唯一の例外は、この間の一件だけだ」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「ラムも、アカリが愚図るのを見たろ? あれが答えだよ」

 

 夢人は未だ自分にしがみつくアカリの頭を優しくなでながら言葉を続ける。

 

「アカリにとって、あそこは自分の知っている世界で、壊したくない世界だったんだ」

 

「知ってる世界? それに、壊したくない世界?」

 

「……そうだな。簡単に言えば、アカリは自分の好きな世界だけを守りたいと思ってる」

 

 理解していない様子のラムに、夢人は言葉を変えながら説明していく。

 

 その顔には、困ったような笑みが浮かんでいた。

 

「アカリは海での1日が楽しかったから、砂浜を元に戻した。好きになった世界が壊れるのを恐れたんだ」

 

「……それが、変わることを恐れるってこと?」

 

「その通りだ。自分の目の前で好きになった世界が、違う姿になってしまったことに堪えられなかったんだ」

 

 リゾートアイラン島の砂浜は、ジャッジとの戦いで無残な姿になってしまった。

 

 元の姿とあまりにもかけ離れた姿を目の当たりにして、アカリはまた遊べるようにするために修復をしたのだ。

 

 夢人の推測では、その裏にはアカリの恐怖があったのではないかと考えている。

 

「アカリは、俺を含めた皆で一緒に居る世界は守ろうとしていると思う。アカリにとって、ゲイムギョウ界の全ては、俺達がいる世界なんだ」

 

 推測を半信半疑で聞きながらも、ラムは1番重要なことを聞こうとした。

 

 どうして夢人をアカリが消さなければいけないのかだ。

 

 ラムの中では、今の話とそれがどうしても繋がらない。

 

「で、でも、それなら、どうして夢人を消しちゃうとか言うのよ? 皆で一緒に居る世界を守ろうとするなら、そんなこと必要な……」

 

「それは、俺がこの世界にいちゃいけない存在だからだ」

 

 ラムが躊躇いながらも尋ねると、夢人は眉間にしわを寄せながら苦悩するような表情で言葉を遮った。

 

「アカリがゲイムギョウ界の全てを修復するためには、俺が邪魔なんだよ」

 

 

*     *     *

 

 

「まずは無事でいてくれてよかったわ、ユニ」

 

「……ごめんなさい、ブランさん」

 

 ルウィーの教会に一室に案内されたユニは、椅子に座って俯きながら対面に居るブランに謝罪した。

 

 テーブルの上には紅茶が用意されているが、誰も手をつけておらず、ユニに視線が集まっていた。

 

「謝るってことは、勝手にいなくなったことで心配をかけたと言うことは自覚しているようね……辛いだろうけど、理由を聞かせてくれないかしら?」

 

 ユニが発見されたと聞いた当初、安堵して笑みを浮かべていたブランであったが、直接会ってその気持ちが消えてしまった。

 

 ユニのあまりにも疲弊している姿に、強く責めることができなかったのである。

 

 できるだけ優しくブランが尋ねると、ユニは俯いたまま小さな声で話し始めた。

 

「……アタシが悪いんです……アタシがあの女の本性に気付いていれば、こんなことにはならなかったんです」

 

「あの女……ネプギアのことかしら?」

 

 小さくて聞きとりづらい声であったため、ブランは部屋に居る全員の顔を見渡して1度頷くと、代表して聞き返した。

 

 部屋に居たユニを連れてきたロム達に加えて、ミナとワレチューも同意を示すように視線を向けたからである。

 

「……そうです……あの女は、いつも逃げてばかりいて、アタシ達のことなんてこれっぽっちも見ていなかったんですっ!!」

 

 俯いてシュンとしていた態度から一変して、ユニは怒りを思い出したかのように顔を険しくした。

 

 声にも怒気が溢れ、歯をむき出しにして言葉を吐き続けた。

 

「アタシは許せないっ!! 逃げてるアイツが許せないんですっ!! アイツは必ず夢人を殺すっ!! そんな奴が夢人の側に居ることが許せないんですっ!!」

 

「お、落ち着きなさい!? ちゃんと1から説明を……」

 

「夢人のこともちゃんと見れてないくせに、好きだなんて言わせたくないっ!! 夢人も、あの女の本性を知ればきっと……」

 

「だから、落ち着けって言ってんだろうが!!」

 

「ひゃい!?」

 

 噴火する火山のように怒鳴り散らすだけで説明になっていなかったユニの言葉を、ブランがテーブルを強く叩いた。

 

 突然の音にびっくりしたユニは肩をビクッと震わせた。

 

「んな要領が得られねえ説明されても、何にもわかんねえんだよ!! ちゃんと1から説明しやがれ!!」

 

「は、はい!? ご、ごめんなさい!?」

 

「ったく……それじゃ、1つずつ聞いていくわ、いいわね?」

 

「も、もちろんです!?」

 

 ブランの鋭い眼光と怒鳴り声に、ユニは完全に委縮してしまい、身を縮こませて大人しく頷いた。

 

「まずは、ネプギアが逃げているってどう言うことなのかしら?」

 

「……あの女は、自分が傷つくのを怖がってるんですよ」

 

「傷つくのを怖がる?」

 

 ブランだけでなく、この場に居た全員がユニの言葉に首をひねった。

 

 肉体的に傷つくのを恐れているのなら、戦うことなんてできないはずだ。

 

 だから、必然的にユニの話は精神的な話のことを言っているのだとわかるが、それでも疑問に思う。

 

「わたしにはそう言う風に見えないのだけど、ユニはどうしてそう思ったの?」

 

「……簡単ですよ。あの女、アタシと戦い終わった後、負けたのに笑ってたんですよ」

 

 ユニは顔を強張らせて、悲しそうに目を細めた。

 

「おかしいですよね。負けたなら、悔しくて恨みごとの1つでも吐いてくるかと思っていたのに、笑って次は負けないって言うんですよ」

 

「でも、彼女ならそう言いそうでは……」

 

「だから気付かなかったんです。あの女の本性、いつも傷つくことから逃げていることに」

 

 ブランが眉をひそめながら、自分の知っているネプギアならそう言いそうであり、別段おかしいとは思わなかった。

 

 しかし、ユニはその考えを否定し、自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「本気で……全力で戦って負けたのに、悔しそうな顔1つ見せないんですよ。普通じゃ考えられません」

 

「それは、彼女が優しいからじゃ……」

 

「あんなの優しさなんかじゃない!!」

 

 話を聞いて、ブランはネプギアが互いの健闘を称えるために言ったのではないかと考えた。

 

 2人は仲間なのだから、別におかしいところはない。

 

 それでも、ユニはブランを睨みながら血を吐くように叫んで否定した。

 

「優しさだって言うなら、あの女は自分のことしか考えてない!! 自分に甘いだけなんです!!」

 

「……この話は平行線のようね。次の質問にしましょう」

 

 ユニの様子からブランは目を閉じて考えた。

 

 これ以上話を聞いていてもずっと同じことの繰り返しになると判断したブランは、次の話題に移ることにしたのだ。

 

「次は……そうね、どうしてネプギアが夢人を殺すのかについて話してちょうだい」

 

「……わかりました」

 

 睨んでいた眼差しを下に落として、ユニは悔しそうに顔を歪めた。

 

 膝の上に乗せられている両手にも力がこもっており、小刻みに震えていた。

 

「夢人とあの女が、正反対だからです」

 

 

*     *     *

 

 

「夢人が邪魔って……どう言うこと!? どうして夢人がゲイムギョウ界を修復するのに邪魔なのよ!?」

 

 いつもより目を開いて信じられないと言った風に、ラムが俺に詰め寄って来た。

 

「夢人はアカリの力でゲイムギョウ界に戻って来たんでしょ!? それなのに、どうして邪魔になんてなるのよ!?」

 

「落ち着け、ラム。確かに、俺はアカリの力でゲイムギョウ界に戻ってくることができた」

 

「そうよ!? それがどうして邪魔になんて……」

 

「俺が別世界の人間だからだよ」

 

「……え」

 

 傷ついたような表情で俺を見上げてくるラムに、胸が痛む。

 

 でも、俺の推測が正しければ、それが理由なんだ。

 

「この世界において、俺はイレギュラーな存在なんだよ」

 

 今なら、どうして女神の卵に選ばれた勇者が死んでしまうのかがわかる。

 

 死ななければいけない理由があったのだ。

 

「この世界の人間ではない俺は、存在するだけでこの世界に悪影響を与え続ける。それがこの世界を狂わせてしまう」

 

「ま、待ってよ。それじゃ、まるで……」

 

 ラムは唇を震わせて何かを言おうとするのだが、言葉にすることができない。

 

 信じたくないだけで、答えはわかってるようだ。

 

「ラムの考えの通りだ……イレギュラーな俺と言う存在から、この世界に『歪み』が発生する。この世界にとって、俺はバグなんだよ」

 

 かつての『転生者』、フェルやナナハ、レイヴィスと同じような存在に俺はなってしまっている。

 

 俺はこの世界に悪影響を与えるバグなんだ。

 

「そ、それなら、アカリの力でバグじゃなくなれば……」

 

「それはできない」

 

「っ、どうしてよ!? どうしてしようとしないの!?」

 

「しないんじゃないんだ……できないんだよ」

 

 俺は3人のようにアカリの力でバグじゃなくなることができない。

 

 俺と3人は決定的に違うことがある。

 

「ナナハ達がどうしてバグだったのか、ラムはわかるか?」

 

「え、それは『転生者』って言う存在だったからじゃないの?」

 

「『転生者』と言っても、3人はこの世界で生まれた存在だ。その中に前世の記憶が入ったことで歪んでしまったんだと、俺は考えている」

 

「何が言いたいのよ? そんなこと言われても、わからないよ」

 

「言葉は悪いが、3人は生まれながらに欠陥を持って生まれたから、アカリの力で修復することができたんだ」

 

 俺の考える『転生者』は、例えば壊れた部品が内蔵されている機械だ。

 

 壊れている部品があるから、機械が正常に作動することができず、使用者が上手く扱えない。

 

 それにより、使用者に悪影響を及ぼす。

 

 この場合、使用者とはゲイムギョウ界そのもの。

 

 『転生者』を許容する世界そのもののことである。

 

「アカリの力はその欠陥を正常な状態に戻すことで、『転生者』をバグじゃなくすることなんだ」

 

 機械の例でいえば、壊れた部品を新しいものに取り付け直すことだ。

 

 そうすることで、機械は正常に作動する。

 

 よって、『転生者』はこの世界で生きていくことができるようになったのだ。

 

「でも、俺の体には欠陥がない。修復する箇所がない、万全の状態なんだ」

 

 ……これが俺と3人の大きな違い。

 

 俺は普通の状態でこの世界に悪影響を与える。

 

 壊れた部品がまったくないのに、狂ってしまっている機械なんだ。

 

「3人はあくまで体の中にあった欠陥を修復することで、バグではなくなったんだ。でも、俺には修復すべき欠陥が存在しない。むしろ、存在そのものがこの世界にとって欠陥と言える」

 

「そ、そんなのおかしいじゃない!?」

 

 俺の推測に、ラムが血相を変えて叫び出した。

 

「だったら、どうして夢人は平気でいられるのよ!? わたしにはよくわからないけど、存在そのものがバグなら、すぐにでも悪影響が出るはずじゃない!?」

 

「それは多分、アカリのおかげかな」

 

 ラムの言う通り、存在そのものがバグの俺は本当なら、この世界に戻って来てすぐにでも『歪み』が発生するはずだった。

 

 フェルが家族を殺され、ナナハが親から捨てられ、レイヴィスが愛していた世界に裏切られたように、俺にも何らかの影響が起こっているはずだ。

 

 しかも、俺は3人のように1部に欠陥があるのではなく、存在全てが欠陥品のようなもの。

 

 その影響力は、3人に比べて大きいはずなのにも関わらず、一向にその影響が出ないのは、一重にアカリのおかげだと思っている。

 

「アカリが俺の体の中に居るのは、俺を守っているからだと思うんだ」

 

「守る?」

 

「そう。バグである俺がこの世界から弾き出されないように、自分と1つになることで存在を隠しているんじゃないかと思う」

 

 この世界で異物扱いされている俺を隠すために、アカリは無理やり俺の体の中に入り込んだのではないかと考えている。

 

 そう考えると、アカリと言う存在の中に俺が吸収されているとも言えるだろう。

 

「アカリはゲイムギョウ界にとって必要な『再誕』の女神。そんなアカリが居る場所である俺もまた、必要な存在であると誤認させているようなものだ」

 

 例えるなら、アカリは狂っている機械に愛着が湧き、捨てられずにいる状態なのだ。

 

 この場合のゲイムギョウ界、母親がどれだけ捨てろと言っても、駄々をこねて捨てられない子どもと同じなのである。

 

 執着心が強い子どもらしいと言えば、子供らしいだろう。

 

「つまり、アカリが体の中に居るおかげで、今現在はゲイムギョウ界に悪影響を与えていないんだと思う」

 

「だったら、それでいいじゃない!! アカリが夢人の中に居れば、それで何の問題もないじゃないのよ!!」

 

「いいや、問題ならある。俺の中に居るせいで、アカリはゲイムギョウ界の全てを修復するための力を発揮することができない」

 

 世界全体を修復する、言葉にすれば簡単だが、どれだけの力が必要になるかなんて予想がつかない。

 

 でも、俺を隠している状態では、絶対に不可能だと言える。

 

「俺と言うバグを隠すために、アカリは自分の力を使っているはずだ。そうでなきゃ、ずっと赤ちゃんの姿でいることに説明がつかない」

 

 アカリが赤ちゃんの姿をとっているのは、自分の力を常に使っているせいではないかと予想している。

 

 何故なら、アカリはすでにいくつもの欠片を取り込んで少なからず力を取り戻しているのだから。

 

 いつまでも赤ちゃんの姿で居たら、この世界を修復することなんて不可能だ。

 

 それなのにもかかわらず、アカリは俺の体から離れずに赤ちゃんの姿をしているのは、全部俺のせいだ。

 

「今のアカリは力を取り戻しているのに、ずっと赤ちゃんの姿のままだ。本来なら、ネプギアに似た姿になるってことはラムも知ってるだろ?」

 

「う、うん」

 

「それなのに、一向にアカリは成長しない。俺は、それがアカリが俺を守るために力を使い続けているせいだと思っている」

 

 力を使い続けているからこそ、赤ちゃんの姿から成長することができない。

 

 常に力を消耗している状態なのだ。

 

「アカリが全ての力を使わなければ、ゲイムギョウ界全体の修復なんてできない。だから、アカリはこの世界を救いたいと思っていないんだ」

 

 世界を修復するためには、全ての力を使わなければいけない。

 

 それはつまり、俺と言うバグを世界にさらけ出すこと。

 

 当然、邪魔な存在である俺は世界から弾かれてしまうだろう。

 

 しかし、アカリはそれを望んでいない。

 

 自惚れかもしれないが、父親と慕ってくれる俺のことを大切に思ってくれている証拠だ。

 

「でも、俺を守っていれば、いずれゲイムギョウ界は崩壊してしまう」

 

 すでに『転生者』が生まれたせいで発生した『歪み』は、この世界に爪痕を残している。

 

 それを修復しなければ、この世界は崩壊してしまう。

 

 しかし、修復しようとすれば、俺は世界から弾き出される。

 

 アカリの足枷になっている俺は邪魔な存在なんだ。

 

「アカリはブレイブが死ぬところを見て、いずれ俺が消えてしまうことを予感してしまったんだと思う。俺を守ろうとすれば世界が、世界を守ろうとすれば俺が消えてしまう」

 

 今のアカリは板挟み状態なのだ。

 

 俺と世界、どちらを取るかで悩んでいる。

 

 俺を取れば、自分の大好きな世界が壊れてしまうことを恐れている。

 

 世界を取れば、父親と慕う俺が消えてしまうことを恐れている。

 

 目の前で消えてしまったブレイブの姿は、アカリにとって大きな衝撃を与えた。

 

 ずっと先送りにしていた悩みを、突き付けられたようなものだと思う。

 

 これがもし、アカリの知らない人が消えたとしたら、何も感じることはなかっただろう。

 

 しかし、アカリはすでにブレイブの存在を知っていた。

 

 自分の知っている世界が崩れてしまう光景を目の当たりにしたのだ。

 

「アカリが1番に望んだことは、今の状態を維持することだった。でも、それができないことを悟ってしまったんだ」

 

「……なら、夢人はどうするの?」

 

「俺は元々この世界の人間じゃないんだ。悩む必要なんてない」

 

 俯きながら尋ねてくるラムに、俺は迷いなく答えることができる。

 

 ギョウカイ墓場に向かった時と同じだ。

 

 俺は大好きな人達が生きていられるなら、自分がこの世界に居られなくなっても構わない。

 

 俺がいなくなっても、アカリにはママが、ネプギアがいる。

 

 悔しいけど、ネプギアが好きな相手と一緒になって、その人が新しいアカリのパパになってくれればいい。

 

「俺が消えれば、それで全て解決……」

 

「するわけないでしょ!! この馬鹿!!」

 

「っ!? ラム!?」

 

 今までベットの横に立っていたラムが、いきなり俺の上に乗り上げてきた。

 

 額がくっつきそうになるくらい詰め寄って来たラムの顔は、涙で濡れていた。

 

「自分にウソついてまでかっこつけるな!! この馬鹿夢人!!」

 

「お、落ち着け!? とりあえず、降りてくれ……」

 

「嫌よ!! 今まで我慢してたけど、もう我慢しない!!」

 

 涙目で睨んでくるラムに、俺はどうすることもできない。

 

「ちゃんと自分の気持ちを、夢人の答えを聞かせてよ!!」

 

 

*     *     *

 

 

「正反対……そうかしら? わたしには、ある意味で似た者同士のように見えるのだけど」

 

「……アタシも、最初はそう思ってました」

 

 あの女も、夢人と同じで他人のために自分が傷つくことを厭わずに行動できる奴だと思っていた。

 

 だから、悔しいながらもお似合いだと思っていたこともある。

 

「でも、あの女は夢人とは違うんです。あの女のすることは、自分のためになることだけ」

 

「自分のため?」

 

「あの女が1人で何かをしたことって、本当は何にもないんです」

 

 あの女は1人で何かをしたことがない。

 

 常に誰かが側にいて、助けてもらっている。

 

「皆さん、正直に答えてください。夢人のこと、最初はどう思いました?」

 

 いまいち理解が得られていないようなので、アタシは思い切って尋ねてみることにした。

 

「夢人のことね……正直に言えば、変態だと思ったわ。ギョウカイ墓場では、話す機会もよく見る機会もなかったから、本当の意味での初対面は、縄で縛られた彼の姿だったもの」

 

「私は街の人達からの通報で、ラムがさえない男に誘拐されたって聞いていたので、恥ずかしながら誘拐犯だと思ってしまいました」

 

「うーん、アタシはダンジョンの清掃員かな。どう見ても勇者って雰囲気してなかったからね」

 

「さえない馬鹿な男だと思ったですの。がすとの言葉を勘違いして、いきなり掴みかかって来そうになった乱暴な男性ですの」

 

「おいらの顔を火の魔法を使って殴った野蛮な男っちゅ。でも、殴られたからこそ、愛しの天使こんぱちゃんに出会えたっちゅ。そう言う意味では、恩人かもしれないっちゅね」

 

「わたしは、ラムちゃんとはぐれた時に話しかけてくれた、お姉ちゃんみたいな感じがする不思議な人、だと思ったよ」

 

 いい印象よりも、悪い印象の方が多いのは、夢人らしい。

 

 アタシは少しだけ口元が緩んだ。

 

 不謹慎ながら、他人から見た夢人を知れて嬉しいのだ。

 

「じゃあ、次にあの女……ネプギアはどうでした?」

 

 いつまでもにやけてはいられない。

 

 こちらの方が重要なのだ。

 

「わたしはネプテューヌに比べて、素直に真面目でいい子だって思ったわ。本当は、姉妹が逆なんじゃないかって疑ったくらいよ」

 

「礼儀正しくて、他人を心配することができる優しい子だと思いましたね」

 

「姉を助けるために立ちあがった勇敢な女神様の妹、かな。こうして皆と一緒にいられるようになったのは、ネプギアの噂を聞いたからだしね」

 

「がすともだいたい日本一と同じですの。ゲイムギョウ界を救うために、旅をしていた女神だと思ったですの」

 

「うーん、あまり印象はないっちゅ。こんぱちゃんの近くに居る女神ってことくらいっちゅかね?」

 

「最初は、ルウィーのシェアを奪うために来たと思った。でも、すぐに誤解だって気付いて、優しくしてくれた」

 

 ワレチュー……ってか、何でここに居るのかわからないけど、元々敵であった奴以外は、概ね好印象のようね。

 

 でも、それこそがアタシの求めていた答えでもある。

 

「おかしいと思いませんか? どうして夢人には否定的な意見が出てきたのに、あの女にはまったく出てこない。むしろ、皆いい印象しか持ってないですよね?」

 

「……確かにそうね。でも、それはネプギアが皆に優しかったからではないかしら?」

 

「なら、夢人にだって同じことが言えるはずです。アイツがこれまでしてきたことは、あの女がしてきたことと何ら変わりがありませんし、ギョウカイ墓場ではアタシ達を助けてくれた立役者でもあります」

 

 夢人とあの女が似ているのなら、夢人の印象ももっとよいものになっているはずだ。

 

 アタシだって、夢人のことを最初は口先だけのやかましい奴だと思っていた。

 

 でも、それこそが夢人の優しさなのだ。

 

「夢人は相手に嫌われていても優しくしていました。アタシなんて、初対面の時にいきなり奴隷呼ばわりしたのに助けてくれたんです」

 

「ど、奴隷? ……深くは聞かないでおくけど、ネプギアだって同じ立場になれば……」

 

「いいえ、あの女は絶対になりません」

 

 若干引いたような目でこちらに尋ねてきたブランさんの言葉をアタシははっきりと否定した。

 

 あの女が夢人と同じ立場になることなど、絶対にありえないのだ。

 

「あの女は、絶対に夢人と同じことはできません。何故なら、嫌われないからです」

 

「嫌われない? それは別に悪いことではないし、むしろいいことじゃない」

 

「ええ、アタシもそう思いますよ」

 

「だったら、どうして?」

 

「でも、それって女神としてですよね? あの女本人としては、不自然です」

 

 女神としてなら、あの女のあり方は理想的なものであろう。

 

 誰からも好かれる信仰の対象。

 

 これ以上ないってくらい理想的な女神様だ。

 

 ……なら、それ以外ならどうなる?

 

「あの女が自分から嫌われるような行動を取ったことってあると思いますか?」

 

「……わからないわ」

 

「そうですよね。アタシにもわかりません。じゃあ、他の皆さんはどうですか?」

 

 ブランさんは目を閉じて考えた結果、思い当たる節がなかったらしい。

 

 アタシは他の皆ならと思い、見渡すが誰も答えはしなかった。

 

「なら、夢人はどうですか?」

 

 今度は夢人のことについて尋ねてみる。

 

 ブランさんは夢人との付き合いが短いからわからないかもしれないけど、他の皆は違う。

 

「街中で変態的な行動を取っていたと報告を聞いたことがあります。でも、それはロムとラムを守るためだったとも聞きました」

 

「リーンボックスで指名手配になっても、犯人を逮捕するだけじゃなくて、自分達をはめたユピテルの皆を許してたよね」

 

「それを言うなら、ナナハ様のことだってそうですの。あの時、夢人は気持ち悪い女装をしていたのに、ナナハ様を助けようとしていたですの」

 

「敵であるおいら達を信じるって言ってくれたっちゅ。普通なら、お前らに対する裏切りと取られてもいい行動を平気でしていたっちゅね」

 

 答えなかったブランさんとロム以外の皆が、心当たりがあると答えた。

 

 ……そう、これが答えなんだ。

 

「ありがとうございます。つまりは、そう言うことなんです」

 

「……どう言うことなの」

 

 目を細めて睨むようにアタシを見るブランさんだって、本当はアタシの言いたいことがわかっている。

 

「あの女は嫌われたくないから、他人に優しくしていたんです」

 

 夢人は好かれるために優しくしていたのではない。

 

 そこが夢人とあの女の大きな違い。

 

 夢人が他人のために優しくなれていたのなら、あの女は自分のために優しい振りをしていたのだ。

 

 本当に優しいのなら、全力を出して負けたのに、あの言葉が出てくることがおかしい。

 

「あの女って妙に聞きわけがいいんです。思い当たる節がありませんか? あの女がわがままを言っているところを見たことがありますか?」

 

「……少なくとも、わたしはネプギアにわがままを言われたことはないわ。多分、ネプテューヌだけじゃないかしら、そんな彼女の姿を知っているのは」

 

「それは、ネプテューヌさんがあの女を嫌わないって確信しているからです」

 

 あの女が甘えるのは、今のところ2人だけだと思う。

 

 1人は姉であるネプテューヌさん。

 

 もう1人は夢人だ。

 

「アタシは夢人に対しても同じことが言えると思います。無意識に甘えて、あの女は確実に夢人を殺す」

 

「……そこがわからないわ。どうしてそれが夢人を殺すことに繋がるの?」

 

「当たり前じゃないですか。夢人とあの女は居る場所が違うんですから」

 

 例えるなら、高いところからアタシ達を見下ろしている雲があの女だ。

 

 アタシ達が決して辿り着けないところから、優しさと言う雨をアタシ達に降らせる。

 

 でも、その逆はどうだ?

 

 夢人がいくら雨粒を雲に返そうとしても、決して雲には届かない。

 

 他の言葉で言い変えるのならば、高嶺の花だ。

 

 崖の上に咲く綺麗な花であるあの女の美しさを、アタシ達が見ているだけなんだ。

 

 どちらも、決して届くことがない位置からこちらを見下ろしているだけなのだ。

 

「あの女は常にアタシ達とは違う場所に自分を置いているんです。最初の話に戻りますけど、そこにアタシ達が近づくのを恐れていつも逃げているんです」

 

「なるほど。でも、それはあなたの勝手な想像だわ」

 

「でも、否定できませんよね。実際に、あの女はアタシの前から逃げ出したんです」

 

 もしもアタシの勝手な想像だったのなら、あの時あの女は逃げ出すことはなかったはずだ。

 

 アタシの言葉なんて否定して、夢人と一緒に居るべきだったんだ。

 

「あの女は今どうしていますか?」

 

「……行方不明よ。あなたと同じで、勝手にいなくなったわ」

 

「そうですか。なら、アタシの考えは当たってますよね」

 

 あの女はアタシの言葉を何1つ否定することなく、夢人の前から消えたのだ。

 

 アタシが夢人の前から消えてとお願いしたから、行方不明になっているんだと思う。

 

「あの女は自分が嫌われたくないから、本当の自分をさらけ出すことを恐れた。だから、いつもアタシ達から逃げているんです」

 

 最初に会った時に感じたあのどうしようもない距離感は、あの女がアタシから離れていたから感じたものだったんだ。

 

 初めから知っていれば、アタシもあんなことを思わなくてもよかったのに……

 

「夢人があの女を追いかける限り、夢人は幸せになれない。決して埋められない距離の間で、あの女はただ笑って甘えればいいだけ。それを埋めようと傷つきながら進む夢人は、いずれ死んでしまう」

 

「……つまり、あなたはネプギアが夢人を、わたし達を騙しているとでも言いたいわけね」

 

「そうです。あの女はアタシ達を騙していいように利用して……っ!?」

 

 アタシが言葉を続けようとした時、頬に痛みが走った。

 

「ろ、む?」

 

 いつの間にかアタシの近くに来ていたロムが、眉間にしわを寄せて睨んでいた。

 

「ユニちゃんは、間違ってる(めっ)」

 

「っ、アタシは間違ってない!!」

 

「ううん、間違ってる。ユニちゃんは、大切なことを忘れてる」

 

 アタシが睨み返しても、ロムは毅然とした態度で返してきた。

 

「ユニちゃんが本当に怒っていることは、夢人お兄ちゃんのことじゃない」

 

「何を言って……」

 

「話さなきゃ、わからないことがあるんだよ」

 

 ロムはそう言うと、アタシの両手を優しく包んで柔らかい笑いかけた。

 

「ユニちゃんは、ネプギアちゃんに、どうして欲しかったの?」




という訳で、今回は以上!
……この章、後2話です。
前回次でラストみたいなこと言っていましたが、予想以上に今回の話が長引いてしまって、前章のバトルパートのような感じになりました。
これでも予定としては、1話にまとめようとしたものの半分です。
もう半分は次回にまわして、その次でこの章のラストです。
それでは、 次回 「心の答え」 をお楽しみに!

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