超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回は区切りの都合上、いつもよりもちょっと短めです。
それでは、 繋いだ手 はじまります


繋いだ手

「わたし、パパとママ、ずっといっしょにいたい!! でも、わたしはパパのこと、けしちゃう!! いやなの!!」

 

 夢人が入院している病室の前に来たわたしの耳に、そんなアカリの声が聞こえてきた。

 

 昨日は結局目覚めることがなかった夢人の様子を確かめに、わたしは朝一で病院にやって来た。

 

 すでに話は通してあったようで、面会時間外でも受付の人に許可をもらうことができた。

 

 夢人が起きていたら、ネプギアとユニちゃんが大変なことはもちろん、ナナハちゃんからお願いされたようにわたしの思ったことを夢人にぶつけてやる。

 

 ……でも、いざ病室に入ろうとした時、わたしの頭の中は真っ白になってしまった。

 

 扉に伸ばしかけた手が動こうとしない。

 

 いつかの再現のようだ。

 

 わたしが夜中にミナちゃんの話を盗み聞きした時と同じ。

 

 あの時も、わたしはミナちゃんの言葉を信じたくなくてその場から逃げ出してしまった。

 

 お姉ちゃんが負けちゃって捕まったなんて、絶対に認めたくなかった。

 

 すぐに部屋に入ってミナちゃんに確認すればよかったのに、それができずにずっとロムちゃんにウソをつき続ける原因になった事件。

 

 ……逃げたい。

 

 聞こえてきたアカリの声と、あの時のミナちゃんの声が重なる。

 

 信じたくない、認めたくないから逃げてしまいたい。

 

 今にも元来た道を戻ろうとしてしまう自分の足に従ってしまいそうになる。

 

 聞かなかったことにすれば、またいつも通りのわたしでいることができる。

 

「……そんなの、ダメッ!」

 

 震えている足を睨み、わたしは奥歯を噛みしめた。

 

 ここで逃げてしまえば、またわたしは大切な人にウソをつき続けてしまう。

 

 もうあんなことはしたくない!!

 

 だから、逃げない!!

 

 わたしは震える手を何とか動かして、病室への扉を開けた。

 

「……どう言う、こと?」

 

 怖くて声が震えてしまった。

 

 ……でも、教えて。

 

 わたしはもう知らないふりなんてしたくない。

 

 アカリの言葉の意味、どうして夢人がいなくなるのかを……

 

 

*     *     *

 

 

 ラムちゃんをラステイションに残して、わたしとお姉ちゃん、そしてネズミさんはルウィーへ帰った。

 

 その日の夜、ゲイムキャラから話を聞き、赤い目玉、犯罪神と呼ばれた物を見た。

 

 不気味に赤く光るそれはちょっと怖かったけど、見ていてどこか不思議な気持ちが湧いてきた。

 

 これに似た光をどこかで見たことがある?

 

 怖いだけじゃなくて、見ていると安心してしまう。

 

 結局、その場では思い出すことができなかった。

 

 犯罪神は教会の方で保管するらしく、ミナちゃんが持っていってしまった。

 

 あれが本当の犯罪神かどうかもわからない以上、危険かもしれないらしい。

 

 ネズミさんに話を聞いても、あれが本当に犯罪神かどうかはわからなかった。

 

 わからないことだらけだから、後日皆で話し合うらしい。

 

 今はネプギアちゃんとユニちゃんを探すことを優先する。

 

 翌日、わたしは日本一さんとがすとさんと一緒に街に捜索に出ていた。

 

 少しでも情報を集められたらいいと思っていた。

 

「わたしは、あっちを探すね。2人はそっちを探して」

 

「わかった。何かあれば、連絡してね」

 

「何もなければ、後でここに集合ですの」

 

「うん(こくっ)」

 

 街の中心にある噴水を集合場所と決めて、わたし達は別れて捜索を始めた。

 

 ルウィーの街の中なら、わたしは2人よりもよく知っている。

 

 さすがに街中で危なくなることはないだろう。

 

「ネプギアちゃん……ユニちゃん……」

 

 2人の名前をつぶやくと、わたしは泣きそうになった。

 

 2人がどうしていなくなったのかわからない。

 

 今何を考えて、何をしているのかわからず、心配になってしまう。

 

 ……見つけたら、お話聞かなくちゃダメ。

 

 いなくなったことには、ちゃんと理由があるはず。

 

 何も聞かずに怒るだけじゃ、絶対にダメ。

 

 そんなことしたら、ラムちゃんに酷いことを言った時と同じだ。

 

 何も聞かずに、ただ裏切られたと思って傷つけてしまった。

 

 ラムちゃんが黙っていたことには、ちゃんと理由があったのに。

 

 だから、今回は間違えない。

 

 2人を見つけて、いなくなった理由をちゃんと聞く。

 

 そのために、早く2人を見つけなくちゃいけないんだけど……

 

 わたしが2人を見つけてからのことを考えながら探していると、着信音が聞こえてきた。

 

〔ロム様!? 今ユニ様を見つけたですの!? 急いで来て欲しいですの!?〕

 

「っ、わかった!! どこに行けばいいの!!」

 

〔商店街の方ですの!! 今は教会の方へ向かっているですの!!〕

 

 わたしは返事をする間もなく、着信を切り走り出した。

 

 商店街の教会側の入り口なら、ここから走ればすぐに着く!!

 

 わたしが商店街の入り口付近に着くと、こちらに向かって走ってくる黒い髪の女の子の姿が見えた。

 

「ユニちゃん」

 

 いつものように髪を縛っておらず、帽子を被っているユニちゃん。

 

 わたしが呼びかけると、顔を歪めて立ち止まった。

 

「……ロム」

 

「お話、聞かせて」

 

 逃げないで、ちゃんと聞かせて欲しい。

 

 わたし達は友達なんだから……

 

 

*     *     *

 

 

「……アカリ、夢人、さっきの言葉、どう言う意味なの?」

 

「ら、ラム? どうしてお前がこんなところに……」

 

「いいから答えて!! さっきの言葉はどう言う意味なの!!」

 

 突然病室の扉が開かれ、震えていたラムの姿があったことに、夢人は慌てた。

 

 自分がいるところはラステイションの病院だと思っていたのだ。

 

 ブレイブと決闘をしたミッドカンパニーはラステイションのダンジョン。

 

 それならば、必然的に自分がいる病院はラステイションであるはず。

 

 しかし、実際に病室にやって来たのはルウィーの女神候補生であるラム。

 

 眠っている間にルウィーに運ばれたのかと錯覚してしまったのだ。

 

 そんな風に混乱している夢人に、ラムは表情を険しくしながら詰め寄った。

 

「アカリが夢人のことを消しちゃうとか、どう言う意味なの!! 答えて!!」

 

「お、落ち着けって!?」

 

「落ち着けるわけないじゃない!! 夢人もどうして自分が消えちゃうかもしれないのに、そんな風に言ってられるの!!」

 

「ほら、アカリは今不安なんだよ。アカリから聞いたけど、ネプギアとユニの2人がいなくなったから、俺までいなくなるって怖い夢を見ただけ……」

 

「違う!!」

 

 ラムは力強く顔を何度も横に振りながら、夢人の考えを否定した。

 

「アカリは夢のことなんて言ってない!! わたしにはわかる!! 本気で言ってる!!」

 

「そんなことわからないじゃないか。寝ぼけて夢と現実を混同しているだけかもしれないし、ラムも1度落ち着けって」

 

「誤魔化さないで!! 夢人もわかってるでしょ!! アカリの言葉が本当だってこと、わたしよりもわかってるじゃない!!」

 

「……ラム」

 

 夢人の様子に、ラムはアカリの言葉が寝ぼけて出たものではないことを確信した。

 

 夢人が自分に何かを隠していることを察したのである。

 

「どうして慌てないの!! アカリの様子を見れば、本気で言ってることがわかるじゃない!!」

 

「だから、これはアカリが怖い夢を……」

 

「違うよ!! アカリは本気で怖がってる!! 今だって泣いてるじゃない!!」

 

「……パパ」

 

「……アカリ」

 

 アカリはラムが部屋に入って来てからも、ずっと夢人に泣きながらしがみついていた。

 

 先ほどから夢人が背中をなでて宥めようとしているのだが、一向に泣き止む気配がない。

 

 それどころか、しがみつく力が段々と強くなっていっている。

 

「いくらアカリが怖い夢を見たって言っても、夢人がいることがわかれば安心するはずでしょ!! それなのに、アカリはまだ怖がってる!! 夢人ならわかってるでしょ!!」

 

 ラムは夢人に抱きついているアカリの姿を見て、泣いている自分を抱きしめてくれたことを思い出した。

 

 夢人が消えてしまう夢を見たのであれば、アカリはもう泣きやんでいるはずだ。

 

 経験から来る考察で、ラムはそう判断した。

 

(不安な時、誰かの温もりを感じると、自然と気持ちが温かくなった)

 

 夢人に抱きしめられて気持ちが和らいだことを知っているラムだからこそ、アカリの言葉が真実だとわかる。

 

(アカリが全然泣きやまないのは、それが本当だってことくらい、夢人にもわかってるはず)

 

 今のアカリの姿は、嘘をつき続けた頃の自分の心、そのものだ。

 

 好きな人、大切な人と一緒に居ることが辛いんだ。

 

 一緒に居ることで傷つけてしまうのに、離れたくないと思っている。

 

 ……そのことは、夢人が1番よく知っている。

 

「ねえ、夢人はわかってるんでしょ? アカリの言葉の意味が」

 

「……それは」

 

「教えて……教えてよぉ……わたしも夢人に消えて欲しくないよぉ……」

 

 眉間にしわを寄せて言い淀む夢人を、ラムは瞳に涙を浮かべて見上げた。

 

 その姿を見て、夢人は考えるように1度目を閉じた。

 

「……これは俺の推測だぞ。当たってる保証なんてどこにもない……それでも、聞くか?」

 

「……うん、聞かせて」

 

「……わかった」

 

 目を開けると、真剣な眼差しでラムを見つめて、夢人は口を開く。

 

「アカリは、ゲイムギョウ界を救いたいと思っていないんだ」

 

 

*     *     *

 

 

「……話すことなんて、何もないわ」

 

 ユニは悲しみで顔を歪めたまま、ロムの言葉を拒絶した。

 

「ダメ。お話聞かせてもらうまで、逃がさない(びしっ)」

 

「……嫌よ。アタシのことなんて、放っておいてよ」

 

「いや。ユニちゃんは、わたしの友達。だから、放っておけない」

 

「っ!? アタシ達は友達なんかじゃない!!」

 

 傷ついたように顔をしかめたユニだったが、すぐにロムを険しく睨んだ。

 

「アタシとアンタ達は友達なんかじゃない!! ただ一緒に居ただけよ!! 同じ女神だからと言って、勝手に友達認定しないでよ!!」

 

「ううん(ふるふる)。友達だよ」

 

「違うって言ってんでしょ!! アタシ達はただお姉ちゃん達を助けるために、一緒に居ただけじゃない!! それのどこが友達だって言うのよ!!」

 

「わたしは、ユニちゃんのこと、好き!!」

 

 ユニの言葉に泣きそうになっていたロムだったが、それを打ち消すように力の限り叫んだ。

 

 それはまるで自分に気合を入れるように見えた。

 

「っ、何を言って……」

 

「ユニちゃんは、わたしのこと……わたし達のこと、嫌い?」

 

「あ、あああ……」

 

 勢いをそがれたユニは、自分に向かってゆっくりと近づいてくるロムに恐怖した。

 

 ロムが一歩一歩近づいてくるのに合わせて、ユニは逃げるように後ずさっていた。

 

「そ、そんなの、嫌いに決まって……」

 

「本当? 本当に、嫌いなの?」

 

「っ、嫌いよ!! 皆、大嫌い!!」

 

 念を押すように尋ねてくるロムに、ユニは躊躇いを見せながらもはっきりと答えた。

 

 ……しかし、その姿はロムとはあまりにも違い過ぎた。

 

「ウソ。ユニちゃんは、ウソをついている」

 

「う、嘘なんかじゃない!! アタシはアンタ達のことなんて大嫌いな……」

 

「夢人お兄ちゃんのことも?」

 

「っ!?」

 

 ふいに出された人物の名前に、ユニは固まってしまった。

 

「ナナハちゃんのことは? ノワールさんのことは?」

 

「……嫌、やめて」

 

「わたし達のことは嫌いでも、3人のことは好きなんでしょ?」

 

「……言わないで」

 

「嫌いなんて、ウソつかないで。お願い、ユニちゃん」

 

「うるさいっ!!」

 

 ロムの言葉をこれ以上聞きたくなかったユニは、両手で耳を押さえて座り込んでしまった。

 

 その体は何かに耐えるように震えていた。

 

「それ以上、勝手なこと言わないで!!」

 

「ユニちゃんが、ウソをつくのをやめるまで続ける」

 

「アタシは嘘なんてついてない!! 皆嫌いなのよ!!」

 

「違うよ。ユニちゃんは、夢人お兄ちゃんのことも、ナナハちゃんのことも、ノワールさんのことも、大好きでしょ」

 

「っ、好きじゃない!!」

 

 3人の名前が出る度に、体の震えが強まる。

 

 耳を塞いでいようとも、ユニは完全にロムの言葉を聞かないようにはしていなかった。

 

(ユニちゃんは、怯えているだけ)

 

 ロムはユニの姿に、自分がラムと喧嘩した時に引きこもっていた姿を重なって見えた。

 

 素直に謝ることができずに、1人で震えていた。

 

(ユニちゃんは、1人じゃない!)

 

 ロムは夢人とネプギアに背中を押してもらったことで、部屋から外へ出ることができた。

 

 だからこそ、今のユニの力になりたいと強く思っていた。

 

 ロムはゆっくりとユニの側に近寄ると、両耳を押さえている手にそっと触れた。

 

 手が触れたことで、ビクッと体を大きく震わせたユニだったが、抵抗するそぶりを見せなかった。

 

 ただ涙を流しながらロムを見つめるだけである。

 

「話を聞かせて」

 

「……できない」

 

「できるよ。ユニちゃんがしないだけで、ちゃんとお話しできる」

 

 ユニが辛そうに視線をそらしても、ロムは諦めない。

 

 真っ直ぐにユニを見つめてお願いし続ける。

 

「皆悲しんでる。ユニちゃんが急にいなくなって。夢人お兄ちゃんだって、起きたら絶対に悲しむ」

 

「っ、夢人!? 夢人がどうかしたの!?」

 

 固く口を閉ざしていたユニであったが、夢人の名前が出たことで慌ててロムを押し倒す勢いで尋ねた。

 

「戦い終わって、夢人お兄ちゃん倒れちゃった。でも、無事だから、大丈夫」

 

「よ、よかった……」

 

「ふふ、やっぱり、ユニちゃんは夢人お兄ちゃんのこと、大好きだね」

 

「っ」

 

 夢人が無事であることを知れて安堵していることをロムに指摘されてしまい、ユニは頬をわずかに染めて唇を噛んだ。

 

「ねえ、どうして夢人お兄ちゃんに会えないの?」

 

 ロムはここで尋ねなければ、ユニがまた口を閉ざしてしまうと感じた。

 

 だからこそ、ナナハから聞いた疑問をユニにぶつけることにした。

 

「好きなのに、どうして会えないの?」

 

「……好きだから、もう会えないの」

 

「え?」

 

 観念したように口を開いたユニは、涙を堪えるように目を細めて言葉にした。

 

「アタシは、夢人を否定した……夢人はネプギアのことを好きなんじゃない」

 

「……どう言うこと?」

 

 ロムにはユニの言葉の意味がわからなかった。

 

 夢人がネプギアのことを好きなのは、一緒に旅した仲間なら知っていることだ。

 

 知らなくても、察することができる程度に、夢人がネプギアに気があることはわかっているはずである。

 

 それなのに、ユニは夢人がネプギアのことを好きじゃないと言ったのだ。

 

「だって、ネプギアは……あの女は、いつも逃げてるんだから」

 

 ……その2人、後ろで見守っている日本一とがすとも含めて4人の姿を、陰から見ていた人物がいることに、気付く者はいなかった。




という訳で、今回は以上!
ついに次回に核心に迫るわけですが、それだけじゃない。
いろいろと次回は場面を動かして、章のラストへと近づいていきます。
ゲイムキャラの話は、女神通信の方に回させていただきました。
それでは、 次回 「言葉にしなければわからない」 をお楽しみに!

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