超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
今日から新章突入! ……って、毎回これ言ってますね。
では、さっさと本編に入りましょう。
それでは、 反逆 はじまります
反逆
アタシは列車に揺られながら、窓から覗く景色をただ眺めていた。
いつもはツインテールに縛ってある自慢の髪も、夢人にリボンを預けていたために全て下ろしている。
加えて、変装用に目深に帽子を被っているので、本当に親しい相手にしかアタシが女神候補生だと言うことはわからないだろう。
……そう、アタシは今1人。
あの時、ネプギアと決闘し終えたアタシは、ナナハに通信を入れた。
* * *
アタシはネプギアが走り去った後、ふらふらと歩きながら通信機を手にとってとある人物に連絡をした。
〔ユニ?〕
アタシが連絡をした相手は、ナナハだ。
これから頼むことは、夢人やお姉ちゃん達ではなく、ナナハにしか頼めない。
「お願い、ずっと夢人の側にいてあげて」
言葉にはしないけど、ずっと夢人のことを好きでいて欲しい。
ナナハに夢人の恋人になってもらいたい、そんな思いを込めて口にした。
ロムやラムには悪いけど、ナナハ以上に適任はいない。
好きだって告白しているし、夢人もそれを満更でもなさそうに受け止めている。
どちらも相手を好意的に思っている証拠である。
それに、2人はアタシの大切な人達だ。
夢人は初めて好きになった男性だし、ナナハも素直に言えないけど大切な友達。
そんな2人が幸せになれるのなら、アタシもきっと諦めることができる。
……この初恋を終わらせることができるはずなんだ。
〔……何言ってるの? ちょ、ちょっと待ってよ。どうしてそんなことを言うの?〕
通信機からは焦っているようだけど、優しくナナハが尋ねてくる声が聞こえる。
アタシの様子がおかしいことに気付いて、そんな風に気遣ってくれるのだったら嬉しい。
そんな優しいナナハだからこそ、夢人の1番近くに居て欲しい。
「夢人といつまでも幸せでいてね。アタシはもう夢人に会えないから」
アタシはもう夢人に会うことはできない……ううん、会ってはいけないの。
アタシは夢人を否定しちゃった。
夢人の気持ちを……1番大切な気持ちを間違いだと否定してしまった。
夢人がネプギアのことを好きな気持ちは間違いだ。
抱いている全ての思いは偽物だって思ってしまった。
だってネプギア、あの女は……
〔そんなこと言われて、私が嬉しいと思ってるの!!〕
言葉の裏にある思いに気付いたであろうナナハが怒鳴ってくるが、私にはもう何も言うことができない。
言ってしまえば、アタシはこの気持ちを捨てられなくなる。
ナナハだからアタシは許せるんだよ。
アタシのために怒ってくれるナナハだから、夢人がこれから歩く道でも支え合うことができる。
……アタシにはできないことをしてくれる。
だから、最後に言いたいことがある。
「ありがとう……さよなら」
〔ユニ? ちょっと待っ〕
アタシは一方的に通信を切って、握っていた通信機を見つめた。
すると、通信機にぽたぽたと水滴が垂れてきた。
……アタシ、泣いてたんだ。
そこで初めて自分が涙していることに気がついた。
体が痛むわけでも、悲しいわけでもないのに、涙を止めることができない。
ただぽっかりと胸の中に穴が開いたように、何も感じることができないでいた。
* * *
通信を終えたアタシは街に戻ると、まずは片側だけ縛っていた髪を解き、変装用に帽子を購入した。
少しでも夢人達に見つからないようにするための変装だ。
これくらいの変装で完璧に騙せるとは思っていないが、時間稼ぎくらいにはなる。
ラステイションから出てしまえば、後は足取りを掴ませないようにすればいい。
そうすれば、もう2度と夢人に会うことはない。
「……ごめんね、夢人」
口にするだけで、胸の中にジワリとした何かを感じた。
捨てきれない思いは、これからずっとアタシを苦しめるだろう。
でも、それでいい。
これを感じる度に、アタシは夢人とナナハを思い出すことができる。
大切な2人の姿を忘れない。
「……ごめんね、お姉ちゃん」
いっぱい迷惑をかけたできの悪い妹だったのに、見放すことなく愛情を注いでくれて。
アタシを優しく見守ってくれる、あの温かい眼差しを受けることはもうない。
ゲイムギョウ界を救うために、女神として夢人と一緒に居るだろうお姉ちゃんとももう会えないんだね。
……できることなら、最後にもう1度だけ抱きしめて欲しかった。
「……さよなら、皆」
窓から雲1つない綺麗な青空を眺めて、アタシは別れの言葉をつぶやいた。
……こんなアタシと一緒にいてくれて、今までありがとう。
* * *
ミッドカンパニーからラステイションの病院にゆっくんを搬送したわたし達は、今ラステイションの教会に居る。
ゆっくんの怪我は酷かったけど、大事には至らなかったらしい。
ただしばらく入院生活を余儀なくされると診断された。
本来ならゆっくんが無事でよかったと安堵の空気が流れるはずだが、わたし達の空気は重い。
「確認させてちょうだい。ミッドカンパニーに続く道の途中で、ユニはネプギアに戦いを挑んだのよね?」
「ええ。自分も夢人と同じように踏み出すためって言ってたわ」
「今だからこそ、その言葉の意味がわかりますわ。ユニちゃんにとってネプギアちゃんの存在が、夢人さんにとってのブレイブ・ザ・ハードと似たような存在だったんですわね」
「……だから、戦いを挑んだのね。でも、何で勝手にいなくなろうとするのよ、あの馬鹿」
ゆっくんにとってブレイブ・ザ・ハードを救うために戦うことが理想を実現するための第一歩だとしたら、ユニちゃんにとってネプギアに挑むことが前に進む方法だったみたい。
……でも、その結果、2人は姿を消してしまった。
「あの2人にいったい何があったって言うのよ」
「誰も2人の戦いを見ていないのだからわからないわ。でも、少なくともユニに関しては連絡があったんだから無事と言うことだけはわかってる」
「問題は、何も言わずに消えたネプギアちゃんですわね」
わたしは両手で握っているNギアを見つめた。
もしかしたらわたしがマナーモードとか消音モードにしているから、通信が来たことに気付いていないだけかもしれないと思っていたけど、そんなことはなかった。
Nギアにはネプギアからの着信は来ていなかった。
もしかしたらいーすん達の方には連絡が行ってるかもと思ったけど、そちらにも来ていないみたい。
……ネプギア、今何をしているの?
ネプギアがわたしに黙っていなくなるなんて、初めてだよね。
わたし、わたし達に迷惑をかけたことなんて1度もないネプギアが勝手にいなくなるなんて、今でも信じられないよ。
「元気を出してくださいまし。ネプギアちゃんもきっと無事ですわ」
「……ありがとう、ベール」
心配そうに声をかけてくれたベールには悪いけど、元気は出そうにないよ。
ネプギアのことが心配でたまらない。
「ネプテューヌさん、ノワールさん。ネプギアとユニのこと、私達に任せてくれませんか?」
「ナナハ?」
わたし達が重たい空気を漂わせていると、ナナハちゃんが真剣な顔で言ってきた。
「多分、2人はルウィーかリーンボックスのどちらかに居ると思うんです」
ナナハちゃんの推理では、2人はルウィーからリーンボックスのどちらかに居るらしいが本当なのかな?
まだラステイションに居たり、プラネテューヌに居たりもするんじゃないの?
「どうしてそう言い切れるの?」
「簡単です。2人は理由は違うと思いますが、共通して私達から逃げているんです」
逃げてる……まあ、ユニちゃんはゆっくんに会いたくないって言ってたらしいから、逃げているのかもしれないけど、ネプギアもゆっくんを避けてるのかな?
「そう考えると、すぐに見つかってしまうプラネテューヌとラステイションは除外されます。2人ともそれぞれの国の女神候補生で有名なんですから」
「なるほど。2人の間にトラブルがあったからいなくなったと考えれば、ユニがプラネテューヌに行くことも、ネプギアがラステイションに残っている可能性も低いってわけね」
「はい。だから、私達に任せて欲しいんです」
いつの間にかナナハちゃんの両隣りには、ロムちゃんとラムちゃんが立っていた。
私達って、3人でってこと?
「ネプギアちゃんも、ユニちゃんも、大切な友達。だから、わたし達で見つける(きりっ)」
「リーンボックスは私が、ルウィーはロムが探します。2人のことは心配でしょうが、私達に……」
「って、ちょっと待ってよ!? 何でロムちゃんだけなの!? わたしもいるわよ!?」
ナナハちゃんの言葉に、ラムちゃんがギョッとした表情で驚いていた。
あ、あれ? 打ち合わせとかしてたんじゃないの?
あまりにも自然に3人が並んでいたから、てっきり最初から決めていたことだと思っていたのに。
「ラムには夢人のことを見ててもらうよ。よろしくね」
「な、何でよ!? わたしも一緒に探すわよ!? そんなお留守番みたいに言わないで!?」
「ラムちゃん、夢人お兄ちゃんのこと、よろしくね(ぺこ)」
「ロムちゃんまで!? 頭下げてまで頼まないでよ!?」
3人のやり取りを見ていて、わたしは少しだけ口元が緩んできた。
重たい空気がいつの間にかなくなり、元気が出てきた。
……気を遣われちゃったかな?
「そこまでにしときなさい、ラム。目を覚ました夢人に状況を説明することも必要なことよ」
「お姉ちゃんまで!?」
「ルウィーなら日本一とがすとにも協力してもらいましょ。4人で探すわよ、ロム」
「うん(にこにこ)」
ブランがほほ笑みながら、ロムちゃんとラムちゃんの頭をなでている。
「なら、こちらは5pb.とケイブに協力をお願いしましょう。2人とも喜んで手を貸してくださいますわ」
「そうだね。絶対に2人を見つけ出そう」
「当然ですわ……そうですわ! ユピテルの皆さんにも協力を……」
「……それはやめとこう。シュンヤ達は今ツアーの真っ最中だって言ってたから」
ベールも口元を緩めて、ナナハちゃんと一緒に2人の捜索をどうするのかを話しあっている。
残されたわたしとノワールはそんな2組の姉妹を見て、嬉しくて頬が緩んだ。
「……いい友人達に恵まれたわね」
「……うん、本当によかったよ」
ネプギア達がどんな出会いをしたのかは知らないけど、心配してくれる友達と巡り合えたことは本当に嬉しい。
「よし、だったら私は、フェルとファルコムと一緒にラステイションを探してみるわね。可能性が低いとはいえ、いるかもしれないだし」
「それならわたしだってプラネテューヌであいちゃんとコンパと一緒に探すよ! 皆で絶対にネプギア達を見つけようね!」
ようやくわたしも調子を取り戻すことができた。
うんうん、いつまでもシリアスモードだと肩が凝っちゃうもんね。
「ラムちゃんも、ゆっくんのことよろしくね!」
「無茶しそうになる夢人のこと、しっかりと見張っとくのよ」
「な、何で皆して!? ……ああもう!! いいわよ!! 夢人が無理しないようにちゃんと見とくわよ!! それでいいんでしょ!!」
ラムちゃんが顔を真っ赤にして叫ぶ姿に、わたし達はそろって笑いだした。
「わ、笑わないでよ!?」
「ごめんなさい。だから、許し……ん? わたしの通信機に着信?」
今にも暴れ出しそうなラムちゃんを困った顔で宥めようとしたブランだったが、怪訝そうな顔をして通信機を取り出した。
もう、その通信相手は空気読めてないな。
ここは2人を探すための士気を上げる場面なのに、こういう風に水を差すなんて。
ブランがマナーモードにしてなかったら、もっと台無しになってたよ。
「ミナ? いったい何の用なの? ……何ですって!?」
連絡相手はミナさんだったらしいが、どうにもブランの様子がおかしい。
急に叫んだと思うと、苦虫を噛んだように顔をしかめた。
「……わかったわ。そのまま教会にいてもらってちょうだい。すぐにわたし達も行くから」
「……何があったんですの?」
「……ゲイムキャラから報告があったらしいわ。キラーマシンが全て復活した、と」
き、キラーマシンが!?
……って、キラーマシンって何だっけ?
「それって、ゲイムキャラの力で封印されていた奴よね? どうしてそんなことになったの?」
「詳しいことはわからないわ。でも、ゲイムキャラがブロックダンジョンを離れて、慌てて教会にやって来たことらしいわ」
ブロックダンジョン、ゲイムキャラの封印……って、あああああ!? 思い出した!?
わたし達が捕まる前に、ルウィーのゲイムキャラを修復したことがあったんだった。
その時に、何とかマシンを封印するって言ってた気がする。
あの時は、早く帰ってプリンを食べてゲームの続きをしなくちゃって考えてたんだっけ?
と、とりあえず、大変なことが起こっているのはわかった。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!?」
「慌てないでください!?」
教会の入り口から焦ったようなフェル君とファルコムの声が聞こえてきた。
2人はゆっくんに付き添って病院に居たはずなのに、どうしてそんな焦った声が聞こえてくるんだろう?
わたし達が教会の入口の方へと向かうと、そこには2人が誰かを押さえていた。
「頼む!! 頼むから会わせてくれ!! お願いだ!!」
「お願いっちゅ!! 一生のお願いっちゅ!!」
「だから、落ち着いて!? 会わせないなんて言ってないんだから!?」
「話もちゃんと聞きますから!?」
大声で叫びながら暴れる緑色の髪の女性とネズミ……あれ? あの2人どこかで見たことがあるような……
「リンダ? それにワレチュー? どうしてここに?」
ナナハちゃんが2人の姿を見て、目を丸くして驚いた。
「バカ女!! 離しやがれ!!」
「って、あ、ちょっと!?」
緑髪の女性、リンダがファルコムの拘束を解いて、ナナハちゃんの目の前でいきなり土下座し始めた。
「頼む!! アタイはどうなっても構わない!! マジック様を……マジック・ザ・ハード様を助けてくれ!!」
* * *
リンダ達がラステイションの教会に来る少し前、ギョウカイ墓場にフィーナはキラーマシン達を引き連れて帰って来た。
しかし、ゴミ山で区切られた道を進んで行くと、1人の女性がフィーナ達の行く手を遮るように立ちはだかった。
「何か用かしら、オバサン?」
女性、マジック・ザ・ハードをフィーナは険しい表情で見つめて尋ねた。
フィーナは未だ機嫌がよくなかった。
ブロックダンジョンでレイヴィスから謎の攻撃を受けた際に感じた痛みのせいで、フィーナは怒りを募らせていたのである。
だからこそ、いつもなら笑いながら流すマジックの殺気も受け流せずにいた。
「貴様に従うのもここまでだ。今すぐあのお方を解放してもらうぞ」
マジックはそんなフィーナを見て、好機だと捉えた。
嫌な笑みを浮かべていたフィーナが表情を崩している。
何らかの変化があった証拠である。
もしや弱っているのではないかと考えたのだ。
「随分と表情が険しいではないか。今すぐ楽にしてやる!!」
皮肉を言うことで自分を鼓舞しながら、マジックは手に持つ鎌をフィーナへと振るうべく駆け出した。
……しかし、その鎌の一撃はとある乱入者に邪魔をされてしまい、吹き飛ばされてしまった。
「ふんっ!!」
「なっ!?」
マジックはその乱入者の姿を見て驚愕した。
反対に、フィーナはマジックの驚いた顔を見ると、少しだけ怒りが収まったらしく口の端を吊り上げて笑みを浮かべ始めた。
「よくやったわ」
「はっ、ご無事で何よりです、フィーナ様」
「な、なぜ……」
マジックは目の前の光景が信じられなかった。
フィーナに向かって傅く乱入者の姿は、マジックもよく知る人物であったのである。
「何故だ!? ジャッジ・ザ・ハード!?」
……黒い鎧を纏ったジャッジ・ザ・ハードであったのだから。
という訳で、今回は以上!
今回からマジェコンヌ側も大きく動かしていきますよ。
この章もいろいろありますから、次回以降も楽しみにしておいてくださいね。
それでは、 次回 「厚くて薄い女」 をお楽しみに!