超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日で2月もおしまいです。
加えてこの章もラスト、今日という日に間に合ったことが幸いです。
それでは、 きりひらけ! 女神通信(ノワール編) はじまります


きりひらけ! 女神通信(ノワール編)

 ……今回は何も用意してないわよね?

 

 私の時だけ、また変なVTRから始まるんじゃないかって心配だったんだけど……本当にないのね?

 

 それじゃ、気を取り直して……こほんっ。

 

 皆、ラステイションの女神ブラックハート、私ノワールが今回から始まる女神通信の新シリーズ最初の担当よ。

 

 女神通信もついに第4シーズンに突入したと言うことで、今回の先発抜擢はとても名誉なことだと思っているわ。

 

 今回はあまり活躍することができなかったけど、夢人とブレイブ・ザ・ハードの決闘前、1週間の内に何が起こったのかを話したいと思うわ。

 

 それに、ブレイブ・ザ・ハードと戦い終えた夢人がどうなったのか……その裏にあった戦いの結果、あの子達がどうなったのかも話さないとね。

 

 ……本当、何やってるのよ。

 

 っとと、愚痴をこぼしている場合じゃないわね。

 

 早速内容の方に入らせてもらうわ。

 

 それでは、 きりひらけ! 女神通信 ノワール編 始めるわよ。

 

 

*     *     *

 

 

「……もう一度言ってみなさい」

 

 私は目の前で土下座する夢人が何を言っているのかがわからなかった。

 

 いや、理解しようとしなかった。

 

 それ程、夢人が頼みこんでいることが常識外れもいいところだからだ。

 

「ブレイブ・ザ・ハードとの決闘、俺1人で挑ませてくれ」

 

 セプテントリゾートからの帰り道別れた夢人とユニが教会に帰って来たと思えば、夢人はブレイブ・ザ・ハードと一騎打ちで勝負したいと願い出てきた。

 

 こんな遅くまでどこで道草を食ってるのかと思いきや、そんなことを考えていたのか。

 

 2人が何をしていたのかはわからないが、答えなんて最初からわかりきっていることだ。

 

「駄目よ」

 

「頼む。この通りだ」

 

「いくら頭を下げてもらっても考えは変えないわ。ブレイブ・ザ・ハードとは、私達全員で戦う。これは決定事項よ」

 

 夢人が土下座して頼みこんできたとしても、認めるわけにはいかない。

 

 敵の狙いは夢人……その体内に居る『再誕』の女神アカリなのだ。

 

 わざわざ敵の思惑に乗るなんて真似、絶対にしないわ。

 

 ブレイブ・ザ・ハードとは、ネプテューヌ達を呼んで全員で戦うと決めている。

 

 連絡もすでにケイがしてくれているし、後は当日に全員で挑むだけ。

 

「頼む、ノワール。ブレイブ・ザ・ハードと一騎打ちをさせてくれ」

 

「何度頼まれようとも、答えは変わらないわ。駄目なものは駄目なの」

 

「お姉ちゃん、アタシからもお願い。夢人を1人で戦わせて欲しいの」

 

「ユニまで……あなた達は何を考えているの?」

 

 土下座を続ける夢人の後ろから、ユニも頭を下げて頼みこんできた。

 

 どうして2人は、ブレイブ・ザ・ハードとの一騎打ちにこだわるのかしら?

 

 一騎打ちをしたところで、何になるっていうの?

 

「俺は……俺達はブレイブ・ザ・ハードを救いたいんだ」

 

「……ごめんなさい、理解できないわ」

 

「ブレイブ・ザ・ハードを救うために、俺に1人で戦わせてくれ」

 

 夢人の言葉は、私の理解を超えていた。

 

 ブレイブ・ザ・ハード、敵を救うために1人で戦わせて欲しい?

 

 しかも、夢人が?

 

「話にならないわ。明日もあるんだから、早く寝なさい。それと、夢人も今夜から泊まって……」

 

「俺は本気だ。頼む、話を聞いてくれ」

 

 呆れながら夢人達の前から立ち去ろうとすると、夢人が顔を上げて、真剣な顔でこちらを見てきた。

 

 その顔から本気で言っていることがわかると、ため息がこぼれてしまった。

 

「はあ、私もこれからしなくちゃいけないことがあるのよ。いつまでも妄想に付き合ってあげられるほど、暇じゃないわ」

 

「妄想じゃない。俺は本気でブレイブ・ザ・ハードを救いたいんだ」

 

「……性質が悪いわね。馬鹿も休み休み言いなさい。私はもう行くわ」

 

「お姉ちゃん! お願いだから、話を聞いて!」

 

 私はもう2人の妄想に付き合ってられなかった。

 

 何を考えて敵を救いたいだなんて妄想を思いつくのか、どれだけ頭の中がおめでたくできているのだろうか。

 

 どちらにせよ、実現不可能なことを口にする2人に付き合うことなんてない。

 

 私が立ち去ろうとした時、ケイが2人に尋ねた。

 

「夢人君にユニ、君達は本気でブレイブ・ザ・ハードを救いたいと思っているのかい?」

 

「はい、俺達は本気です」

 

「それはいったいどうして? 何でわざわざ敵を救おうとするのか、僕には、いや、この場に居る全員が理解できないよ。理由を聞かせてもらいたい」

 

「今のアイツは、かつての俺なんです」

 

 私はその言葉に足を止めた。

 

 ブレイブ・ザ・ハードが、昔の夢人?

 

 意味がわからない。

 

 どう言うことなのかわからず、夢人の言葉の続きが気になった。

 

「自分に自信が持てなくて、迷うことから逃げているんです。俺はそんなアイツを放っておけない。だから、助けたいんです」

 

「……どうしてそう思うんだい? 君がブレイブ・ザ・ハードと対峙したことがあるのは知っているが、どうしてそこまではっきりと言えるのかが理解できない。疑いたくはないが、君が敵と内通しているとも捉えられる」

 

「夢人はそんなこと……」

 

「ユニ、いいよ……俺がはっきりと言えるのは、俺がそうだったからです」

 

 ケイの言葉にユニが食いつこうとするのを制して、夢人は語りだした。

 

 ユニの中にあったブラックディスクから取り戻した記憶を……

 

「……なるほど。夢人君の過去に何があったのかは理解したよ」

 

「だから、お願いします。俺に1人でブレイブ・ザ・ハードと戦わせてください。そして、アイツを救わせてください」

 

「……だ、そうだけど、どうする?」

 

 土下座して頼みこむ夢人から視線を私達へと向けて、ケイは意見を求めてきた。

 

 確かに夢人がどうしてブレイブ・ザ・ハードを救いたいのかは理解した。

 

 でも、それでも認められるわけ……

 

「わかりました。ボクも協力します」

 

「なんて言うか、夢人君らしいよね。そう言うこと言うの。うん、もちろんあたしも手伝うよ」

 

 うんうん、フェルとファルコムも協力……って、はい!?

 

 私は目を見開いて2人を見たが、2人は夢人へと柔らかく笑みを浮かべたまま手を差し伸べていた。

 

「ほら、いつまでも土下座なんてしてないで」

 

「そうですよ。最初からそう言ってくれれば、喜んで賛成したんですから」

 

「……ありがとう、2人とも」

 

 差し出された手に驚いていた夢人だったが、2人の言葉を理解すると嬉しそうにはにかみながら手を握って立ち上がった。

 

 どう言うことなの?

 

 どうして2人は夢人達の考えに賛成したりするのだろうか。

 

「ふふ、それはそうとノワール」

 

「な、何よ?」

 

「君はどうするんだい?」

 

 私が驚いている姿に笑っていたのか、それとも、こうなることがわかっていて笑っていたのかわからないけど、ケイは私に話を振ってきた。

 

 突然話しかけられたことにビクッと体が震えたが、私の考えは変わらない。

 

「……駄目に決まってるじゃない。例え、夢人の過去に何があったとしても、そんな真似させるわけにはいかないわ」

 

 私は賛同者を得て、笑顔でいる夢人達の空気を壊すように言い放った。

 

 いくら支持する人達が出てきたとしても、私は考えを変えるつもりはない。

 

「ノワール……」

 

「話はそれだけよ。早く寝なさい」

 

 何か言いたげに私を見つめる夢人に背を向けて、私は部屋を立ち去った。

 

 これ以上いると、私だけ空気読めてないみたいで周りに流されそうになってしまう。

 

 流される気はないが、なし崩し的に夢人の一騎打ちを認める流れを止められなくなる。

 

 それだけは阻止しなければならない。

 

 ……理由は、リゾートアイラン島で盗み聞きした夢人の理想だ。

 

 夢人には悪いが、あの2人の言い合いはアイエフが情に流されただけだと思っている。

 

 現実的な見方をすれば、アイエフの言葉が正しい。

 

 でも、アイエフはきっと夢人の近くに居過ぎたせいで、考えを否定できなかったのだろう。

 

 私は夢人の理想が危ういと感じた。

 

 立派な理想を実現できるだけの力が、夢人にはないからだ。

 

 おそらく、夢人は理想を実現するためなら、自分がどうなろうとも構わないだろう。

 

 それこそ、ギョウカイ墓場で消えた時みたいに、自分が死んでも構わないと思っているかもしれない。

 

 今回のブレイブ・ザ・ハードとの一騎打ちだって同じだ。

 

 夢人はどうやってアイツに勝つつもりなの?

 

 どうすれば救えるのか本当にわかっているのか?

 

 ただ相手の要求通りに戦えば、全て解決するだなんて思ってはいないと願いたい。

 

 要するに、夢人は理想を追い過ぎているように感じるのだ。

 

 生き急いでいる、夢人の言葉を借りるのならば、理想を追うために考えることを放棄しているようにも見える。

 

 昔の夢人が目標がないために考えることを放棄して機械のようになったのなら、今の夢人は目標を見つけたために1つのことしかできない機械のようになろうとしている。

 

 私にはそう言う危険性があるように思えるのだ。

 

 考えることを放棄した、逃げた人間は何度だって逃げ出す。

 

 甘えることを覚えたら、誰だって楽な道を選ぼうとするからだ。

 

 私はそれを否定するつもりはない。

 

 誰だって立ち止まったり、逃げ出すことがあったっていい。

 

 最後に歩けるようになればいいのだから、心の休憩は誰しも必要だと思う。

 

 ……でも、夢人は違う。

 

 走ったら走りっぱなし、トップスピードで駆け抜けるつもりでいるのだ。

 

 目標に一途って言えば聞こえはいいけど、それは単に1つのことしかできなくなることだ。

 

 それこそ機械ではないか。

 

 理想を叶えるにしても、やりようはいくらでもある。

 

 戦うことだけが、夢人の理想を叶える手段ではない。

 

 例えば、物を失くして困ってる人を助けることだって、充分に夢人の理想を実現する一歩だと思う。

 

 そうやって積み重ねていけば、理想は実現するだろう。

 

 だから、わざわざブレイブ・ザ・ハードを救うために、危険を冒す必要はない。

 

 そもそもアイツは敵なのよ。

 

 そんな相手にどうして手を差し伸べようとするのだろうか。

 

 ユニ達はどうして夢人を止めようとしないのだろうか。

 

 私が夢人との付き合いが短いためだろうか。

 

 なら、私はそれでよかったと思う。

 

 こうして止めようとする気持ちがあるのなら、私は夢人が死ぬのを防ぐことができる。

 

 理想を叶えるために死ぬのか、理想を叶えられないで死んだように生きるのか、どちらがいいのかなんて私にもわからない。

 

 でも、生きてさえいれば、また新しい道を見つけることができるかもしれない。

 

 そこからまた生きればいい。

 

 妥協してでも、生き続けることが大切なのだ。

 

 だから、私は夢人の考えを認めない。

 

 死なせたくないからと、言い訳を胸にしまいながら私は夢人を止めることを決めた。

 

 

*     *     *

 

 

「しっかり相手を見なさい!!」

 

「ぐっ!?」

 

 私は夢人を殺すつもりで、ショートソードを振るっていく。

 

 顔、腕、胴、足に手加減せずに、隙あらばどんどん斬り込んでいく。

 

 夢人も自分の身を守るために、アイス・エッジ・ソードで防ごうとするのだが、如何せんその重さゆえに上手く防げずにいる。

 

「重いなら、軽くするために氷の刃をコンパクトにしなさい!! そんなんじゃ、いくらやっても防げないわよ!!」

 

 私がそう言って氷の刃に刃を当てると、氷の刃から大量の氷が剥がれ出した。

 

 おそらく、私のアドバイス通りにコンパクトにしようとした結果、氷を薄くしたようだ……でも、それだけじゃ駄目なの。

 

「今度は薄すぎる!! それじゃ、すぐに折れるわよ!!」

 

 そう言ってる間にも、氷の刃はショートソードとの打ち合いに負けてぽっきりと折れてしまった。

 

 でも、だからと言って攻撃を止めるわけがない。

 

「はあああ!!」

 

「ぐっ!? あぐっ!?」

 

 夢人は何とか残った氷の部分でショートソードを受け止めたが、私はがら空きになっている胴に蹴りを入れてやった。

 

 これは戦いなのだ。

 

 剣と魔法しか使ってはいけないとは言っていない。

 

 蹴り飛ばされて転がった夢人の頭を貫くため、私は突きを放った。

 

「チッ!?」

 

 夢人は転がることで突きを避け、すぐに立ち上がるとアイス・エッジ・ソードを再構成した。

 

 今度は重くなさすぎず、薄くならないように注意しているようだが、そんな集中する時間を与えると思っているのだろうか。

 

「遅い!!」

 

「アッ!?」

 

「魔法はすぐに展開する!! 1分1秒が命取りになるのよ!!」

 

 私は集中している夢人の邪魔をするように、斬りかかった。

 

 再構成中でイメージ不足だった結果、ショートソードを受け止めた氷の刃は脆くも崩れた。

 

 そんなことでは、実践では到底使うことができない。

 

 時には斬りかかり、時には突くことで、私は夢人から魔法をイメージする時間を奪っていく。

 

 ……私も夢人の特訓に加わって、1つだけわかったことがある。

 

 夢人は死んだように生きることを否定している。

 

 理由はわからないけど、自分の意志を曲げずに貫くっていう思いはこれでもかってくらいに感じることができた。

 

 今の訓練だけでなく、ユニの弾丸を跳ね返す訓練、氷の発射台から飛び出す訓練、重力操作で岩を蹴りだす訓練など、どれも手を抜く気配がないのだ。

 

 私は夢人を見くびっていた。

 

 言葉だけで逃げ出す男だと思っていたのだ。

 

 甘えることを覚えた人間だと思っていた。

 

 でも、私の考えは間違っていた。

 

 何度弾丸を自分の体に受けようとも立ち上がり、氷の発射台に激突してもまた挑み、重力操作で脳が揺れて気持ち悪いだろうが弱音1つ吐かなかった。

 

 今だってそう、殺す気で攻撃しているのに、夢人は段々とそれに対応してきている。

 

 最初はすぐに氷の刃を砕くことができたり、地面に転がすことができた。

 

 頭を突き刺そうとするときだって、すぐに立ち上がることなんてできやしなかったのだ。

 

 慣れから来る行動ではない。慣れてしまっているのなら、私の攻撃を捌くことなんてできないはず。

 

 対応してくる夢人に対して、私も攻撃のバリエーションを変えているのだ。

 

 それなのに、夢人が死んでいないことから対応ができていると判断する。

 

「そこ!!」

 

「なっ!?」

 

 私は突然夢人が殴りかかってきたことに驚いてしまった。

 

 まさか攻撃してくるとは思わなかったのである。

 

 咄嗟にショートソードを盾に防いだが、刀身が砕けてしまった。

 

 よく見てみると、夢人の手が燃えている。

 

 火の魔法を使って、私のショートソードを砕いたって言うの?

 

 目を見開いて驚いていると、夢人はすぐに氷の刃を作りだして、私の首筋に当てた。

 

「これで、どうだ」

 

「……ええ、降参よ」

 

「そう、か、よかった」

 

 夢人は息も絶え絶えでにやりと笑うと、すぐに後ろに倒れてしまった。

 

 ずっと動いていて限界を迎えたのだろう。

 

 私は1度大きく息を吐いて、どうしてショートソードが砕けたのかを確かめるために刀身に触れてみた。

 

「冷たい?」

 

 砕けた刀身は驚くほど冷たかった。

 

 普通なら、打ち合っていれば金属同士の摩擦で熱が発生するはずだ。

 

 それなのに冷たくなっているのは……

 

「アイス・エッジ・ソードの影響ね」

 

「そうだよ」

 

 私が全てを理解してつぶやくと、夢人は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「前に熱くなってる岩を、拳を凍らせて砕いたことがあるんだ。今回は、その逆を試してみたんだが、上手くいってよかった」

 

 分子構造の崩壊、だったかしら?

 

 物質は全て目に見えないほどの細かなものが幾重にも重なり合うことで存在している。

 

 例えば、今折られたショートソード、これは金属がある程度のまとまりを持っているから剣の形を維持できていた。

 

 剣の形を精製するために、金属を熱して冷やさないうちに形を固定する。

 

 そうして冷えたことにより、金属のまとまりが完成して、1本の剣が出来上がる。

 

 だが、このまとまりも完璧ではない。

 

 大きな衝撃を受ければ、いともたやすく崩壊してしまう。

 

 夢人はその大きな衝撃を温度差と言う形で実現したのだ。

 

 敢えて刀身を冷やしてから熱を加えることで、急激な温度差を作り上げた。

 

 その影響でまとまりに罅が入り、ショートソードは折れてしまったと言うわけ。

 

 ……まったく、してやられたわ。

 

「ほら、さっさと手を出しなさいよ」

 

「うっ、はい」

 

 私は感心と呆れを混ぜて夢人に手を差し出すことを命令した。

 

 気まずそうに差し出された夢人の手は、予想通り火傷をしていた。

 

 無理もない。

 

 いくら刀身が冷えていようとも、急激な温度差を生みだすためにはそれなりの熱量が必要だ。

 

「無茶ばかりするんじゃないわよ」

 

「……ありがとう」

 

 火傷した手の治療をしながら悪態をつくと、夢人は嬉しそうにはにかみながらお礼を言ってきた。

 

 もう何度もこんな風にお礼を言われている。

 

 ……だけど、とてもこれには慣れそうにない。

 

「だ、だから、何でお礼なんて言うのよ」

 

「俺が言いたいからだ。付き合ってくれるだけじゃなくて、こうして心配してくれてありがとう、ノワール」

 

「あ、ああもう!? 何度もお礼を言わないで!?」

 

 こっちは殺す気でやってるのに、何でお礼なんて言われなくちゃいけないのよ。

 

 本当調子狂うな。

 

「それより、今のアイディアはよかったわ。次は、もっと早く剣を砕けるようにしなさい」

 

「わかった」

 

「じゃあ、早速……って、その前に、1つだけ聞いていい?」

 

 特訓を再開する前に、私は1つだけ夢人に聞きたいことがある。

 

「なんだ?」

 

「夢人がブレイブ・ザ・ハードを救いたいと願うのは、ただ単に自分に似てたから?」

 

 これは聞いておかなければいけない。

 

 ケイから聞いたけど、私がいない間のユニも似たような事態に陥ったことがあったらしい。

 

 それを解決したのが夢人だった。

 

 だったら、今夢人がブレイブ・ザ・ハードを助けようとしているのはただの同族嫌悪なのか尋ねる必要がある。

 

 ……ユニを助けた時も同じだったのかどうかを。

 

「あんな姿を見るのが嫌だって言う気持ちもある。でも、それ以上に悲しい顔のままでいさせたくないんだよ」

 

「……それが敵だとしても?」

 

「関係ないさ。俺は皆が幸せに過ごせるように、手を伸ばすよ」

 

 ……取り越し苦労だったみたいね。

 

 夢人はユニが悲しい思いをしていたから助けてくれたのだ。

 

 姉として妹のことを助けてくれたことに、再び感謝した。

 

 私も毒されちゃったかな?

 

 現実的じゃないとしても、夢人の理想を応援したくなってきた。

 

 誰もが幸せに過ごせる世界なんてあるわけないってわかっていても、そんな世界を望んでしまう自分がいる。

 

「なら、立ち止まってる暇なんてないわよ。すぐに特訓を再開するわ」

 

「望むところだ。頼むぞ、ノワール」

 

「任せなさい」

 

 私は転がったままの夢人に手を差し出して、立ち上がらせた。

 

 ……しっかり握りなさいよ、夢人。

 

 私達はもう手を差し出したのよ。

 

 後は、あなたが握って進んで行くだけ。

 

 理想を叶えるって言うなら、一歩目から躓いてちゃ駄目よ。

 

 力強く踏み込んできなさい。

 

 

*     *     *

 

 

 ブレイブ・ザ・ハードとの対決は、夢人の勝利で終わった。

 

 目の前で消えたアイツの姿を見て、私達は何も言葉にすることができなかった。

 

 アイツは最後までマジェコンヌの幹部であったが、最後には夢人のことを友と呼んでいた。

 

 おそらく夢人はアイツを救うことができたのだろう。

 

「……ねえ、ノワール。本当にこれでよかったのかな?」

 

「……さあね、私にはわからないわ」

 

 ネプテューヌの問いに、私は答えることができない。

 

 この結末がよかったかどうかなんて、夢人とブレイブ・ザ・ハードにしかわからない。

 

「でも、ゆっくんが泣いているように見えるよ」

 

 空を仰いでいる夢人は、涙がこぼれるのを我慢しているようにも見える。

 

 本当にブレイブ・ザ・ハードを救えたのかどうかを悩んでいるのだと思う。

 

 私から言えることは1つ、悩みなさい。

 

 悩んで悩んで悩み抜いて、その中で答えを見つけて欲しい。

 

 アイツの死を無駄にしないためには、夢人が悩まなければいけないんだ。

 

 悩んで答えを見つけることで、ようやく踏み出すことができるはず。

 

 夢人の姿を心配すると同時に、安心にも似た気持ちを抱いた。

 

 まだ手の届く範囲に居るから、私達も夢人が駄目な時は助けることができる。

 

 だから、今は1人で悩みなさい。

 

 絆の正義、寄り添う私達がいるんだから。

 

「……たましい」

 

「うん、どうしたのアカリ?」

 

「……ううん、なんでもない」

 

 アカリもアカリなりに思うところがあるのだろう。

 

 子どもは親の姿を見て育つと言うし、今の悩んでいる夢人の姿を見て、アカリもいろんなことを学んで欲しい。

 

 きっとそれはアカリの糧になるから。

 

 ……そんなことを考えていると、突然電子音が聞こえてきた。

 

「ユニ?」

 

 発生源はナナハの通信機だったようで、相手はユニらしい。

 

 そう言えば、あの子はいったい何をしていたのかしら?

 

「……何言ってるの? ちょ、ちょっと待ってよ。どうしてそんなことを言うの?」

 

 こちらからじゃ通話の内容は聞けないが、どうにもナナハの様子がおかしい。

 

「そんなこと言われて、私が嬉しいと思ってるの!! ユニ? ちょっと待って!? ユニ!!」

 

「どうしたんですの?」

 

「……ユニがもう夢人に会えないって言ってきた」

 

 通話を終えて暗い顔をしていたナナハが言った言葉が信じられなかった。

 

 あの子が夢人に会えない?

 

 どう言うことなの?

 

「夢人お兄ちゃん!?」

 

 ナナハに深く追求しようとした時、ロムが焦った声と共に駆け出した。

 

 私達も慌てて夢人の方を見ると、夢人がうつ伏せで倒れていたのだ。

 

 急いで夢人の元に駆けつけると、夢人は荒い息を繰り返していた。

 

 ブレイブ・ザ・ハードとずっと死闘を演じていたのだ、体が限界を迎えていてもおかしくはない。

 

 でも、これはまずい!?

 

「ワンダーはすぐにケイに連絡して!! ロムとラムは夢人に治療魔法をかけてちょうだい!!」

 

 私は素早く指示を出した。

 

 このままじゃ、夢人は理想に踏み出す前に体を壊してしまう!?

 

 そうなったら、ブレイブ・ザ・ハードの死も無意味なものになってしまうのに!?

 

 絶対に夢人を助ける!!

 

 ゲイムギョウ界の平和を願った2人の男を死なせて堪るものか!!

 

 

*     *     *

 

 

 ケイが病院に連絡していてくれたことで、夢人はすぐに治療を施されて入院することが決定された。

 

 一先ず2人の男が死ぬことは避けられたのでよかったと思う。

 

 ……でも、問題は他にあった。

 

 ユニとネプギアがいなくなってしまったのだ。

 

 ネプテューヌ達の話では、ユニがネプギアに決闘を挑んだようだが、その場に残っていたのは無残に壊れたX.M.B.だけであった。

 

 肝心の2人の姿がどこにもない。

 

 いったい2人に何があったって言うのよ。

 

 ユニはどうしてもう夢人に会えないなんて言ったのだろう。

 

 あなたは夢人の勝利を信じていたんでしょ?

 

 夢人もあなたの勝利を信じていたのに、どうして勝手にいなくなるのよ。

 

 そして、ネプギアに関してはまったく音沙汰なしだ。

 

 ネプテューヌにすら連絡を入れてこないネプギアの方が、ユニよりも深刻な問題だ。

 

 今はただ2人が無事であることを祈るしかできない自分が悔しい。

 

 夢人はあなたとの約束を守って勝ったのに、どうして約束したあなたがいなくなるのよ、ユニ。

 

 

 …………

 

 

 今回はここまでね。

 

 あの子達のことも心配だけど、夢人のことも心配ね。

 

 あの子達が行方不明なんてことがわかれば、必ず夢人は探しに行く。

 

 自分が怪我をしていることなんてお構いなく、2人を探すだろう。

 

 そのためにも、早く私達で2人を見つけないとね。

 

 これ以上、夢人を悩ませてしまったら潰れちゃうかもしれないわ。

 

 ……何よ、フェル?

 

 随分優しくなりましたね、ですって?

 

 別にこれくらいは普通よ。

 

 私だって夢人の理想を応援しているのよ。

 

 私がいつまでも焦って否定するだけと思ったら大間違いよ。

 

 後の問題は、X.M.B.ね。

 

 残骸を回収してケイに渡して置いたけど、大丈夫かしら?

 

 元通りになってくれればいいんだけど。

 

 ……どうやらここまでのようね。

 

 最後の締めは……って、はああああ!?

 

 何でそんなこと言わなきゃいけないのよ!?

 

 普通なんでしょ、じゃないわよ!?

 

 ああ、もういいわ!? 私が恥ずかしさを我慢すればいいんだから!?

 

 ……夢人。

 

 今はブレイブ・ザ・ハードとの戦いのことで悩みなさい。

 

 その悩むことが、理想への第一歩になるんだから。

 

 でも、決してアイツの死を否定するような考えをするんじゃないわよ。

 

 アイツを生かすも殺すも、あなた次第なんだから。

 

 まあ、それに関しては心配してないわ。

 

 あなたはもう、アイツから直接受け取っているものね。

 

 絆の正義、私達もすぐ側に居るんだから。

 

 1人じゃ無理な時は、すぐに呼びなさいよ。

 

 いつだって助けてあげるわ。

 

 勇者として貫き走り続けなさいよ。




という訳で、今回は以上!
やはり、ネプギアとユニに関する感想が多いですね。
次章からは2人のことはもちろん、他の幹部の皆さんにも活躍してもらう予定なのでお楽しみに。
それでは、 次回 「反逆」 をお楽しみに!

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