超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
やはり長くなったので、昨日からゆっくりと執筆させていただきました。
それでは、 3つの戦い はじまります


3つの戦い

「ふーん、あのウドの大木ちゃんは何を考えているのかしらね?」

 

〔それは私にはわかりません。ただ彼が勇者に宣戦布告したと情報が入っています〕

 

 ギョウカイ墓場、フィーナはエヴァの報告をつまらなそうに髪を弄りながら聞いていた。

 

「アイツが欠片を隠し持ってるってことは知ってたけど、まさかそれを賭けて戦いを挑むなんてね……まあ、どうでもいいことね」

 

〔本当によろしいのですか? お時間をくだされば、彼が今どこに居るのかも判明して欠片を手に入れることもできるのですよ?〕

 

 セプテントリゾートで夢人達に宣戦布告したブレイブは、ギョウカイ墓場に帰って来ていなかった。

 

 そのため、エヴァはブレイブの居場所を特定するかどうかをフィーナに伺ったのだ。

 

「いいのいいの、どうせ父様達が勝つんだから」

 

〔それはいったいどう言った根拠があるのですか?〕

 

「だって、当然でしょ? 1週間もあれば、女神達は全員集合できるのよ。ウドの大木ちゃんがいくら頑張っても、勝てっこないわ……それに癪だけど、アイツもいるわ。父様が危なくなったら、アイツもただ見ているだけなんて真似するはずないもの」

 

〔欠片の方はよろしいのですか? 彼が負けるのなら、女神側に彼の持っている欠片全てが渡ってしまいますよ?〕

 

「別に大した問題じゃないわ。むしろ、集めてもらった方がいいかもしれないし」

 

 フィーナはすでにブレイブが負けると考えている。

 

 フィーナの言う通り、1週間も時間があれば女神達は全員集合できるだろう。

 

 欠片についても、フィーナは夢人達に渡してもいいと思っている。

 

 それが何故かはエヴァはわからないが、フィーナに尋ねることはない。

 

 エヴァもフィーナが何を考えていようが構わないのである。

 

 今のエヴァはフィーナの道具なのだから。

 

「それにしても馬鹿よね。どうしてあの場で戦わなかったのかしら?」

 

〔それは私にもわかりません。ただ彼なりに理由があったのだと推測します〕

 

「ふーん……でも、ちょうどいいかもね」

 

 何かを思いついたのか、フィーナはにやりと笑った。

 

「1週間後に女神が国を離れるのなら、その時に出かけてくるとしましょうかね」

 

〔それは構わないのですが……本当によろしいのですか?〕

 

「さっきからなんなのよ? 何か不満があるわけ?」

 

〔不満ではなく、疑問があります。もしも勇者が1人で彼と戦おうと……〕

 

「ないわ。絶対にない」

 

 エヴァの推測をフィーナは遮り否定した。

 

 細められた目は冷たい光を放っていた。

 

「あの父様が1人でアイツと戦う? ないない、絶対にないわ。それだけは断言できる」

 

〔ですが、可能性としては……〕

 

「何度も言わせないで。父様は絶対に1人では戦わない」

 

 食い下がるエヴァの言葉もフィーナははっきりと否定した。

 

「あの父様は絶対にそんな真似をするような人じゃないわ。あなたもそんなくだらないことを考えているのなら、さっさと父様の情報を集めてきなさい」

 

〔……了解しました〕

 

「本当早くしてよね。アイツに奪われた分も早く知りたいんだから」

 

 それだけ言うと、フィーナは部屋から出て行くため身をひるがえした。

 

「私はこれから眠るわ。1週間後に起こしてちょうだい」

 

〔了解しました。よき夢を〕

 

「そんなわかりきったことを言わなくていいわよ……夢の中では、ずっと父様と一緒に居られるんだから」

 

 花が綻ぶように笑いながらフィーナはエヴァのいる部屋から立ち去った。

 

 その姿はブレイブに対する疑問も、エヴァに対する不満も感じさせず、ただ楽しみを待ちわびるようであった。

 

 

*     *     *

 

 

「俺が……機械……?」

 

「って、アンタは記憶がなかったのよね。こんなこと急に言われても意味がわからないわよね」

 

 ユニは苦笑しながらそう言うが、俺はまったく笑えない。

 

 ユニがどうしてこんなことを言いだしたのかがわからない。

 

「今日、おかしな夢見たのよ。アタシが夢人になってる夢」

 

「ユニが、俺に?」

 

「そう、アンタはスーツ姿でなんかブツブツつぶやいたと思えば、鏡の前で笑うのよ……すっごい不細工な作り笑顔でね」

 

 夢の内容を話すうちに、ユニは段々と顔をしかめていった。

 

「正直、すっごい気色悪くて目の前でそんな顔されたら、ぶっ飛ばしちゃう自信があるわ」

 

「そ、そんなにか?」

 

「ええ! もうモザイクでもかけといた方がいいんじゃないかって思ったくらいよ!」

 

 えっと、それって俺の顔ですよね、ユニさん?

 

 つまり、なんですか。俺の顔は有害指定物扱いなんですか!?

 

「それで今日ずっと悩んでいたのよ。どうして夢の中のアンタがあんな気持ち悪い顔をしてたのか」

 

「そ、そう何度も気色悪いだの気持ち悪いだの言わないでくれないか?」

 

「本当のこと言って何が悪いって言うのよ? アンタもしかして自分がどんな顔をしても似合うイケメンだとでも思ってるわけ? ちゃんと鏡見なさいよ」

 

「うぐっ」

 

「まったく話がそれちゃったじゃない……それでずっと悩んじゃって、アンタに直接会えばわかるのかなって思って今日来てもらったのよ」

 

 呼び出されたのは、その気持ち悪い顔で笑う俺の夢が原因だったのか。

 

 でも、自分がイケメンだとは思ってないけど、もうちょっとだけオブラートに包んで言葉にして欲しかったな。

 

「それでもわからなくて、直接聞いてみようと思ったら怖くなっちゃったの。聞いた瞬間、アンタがアタシの知ってるアンタじゃなくなっちゃうんじゃないかって思ってさ」

 

 寂しそうに笑いながら言葉を続けるユニに、俺は歯がゆさを感じた。

 

 ユニはきっと俺がこの公園で言った言葉を気にしていたから悩んでいたんだ。

 

 生きていくために必要なこと、俺はどうしてあの時そんなことをユニに話したんだ?

 

 あんな顔でいるユニを見たくなかったから言ったのは覚えている。

 

 でも、何で俺はそんな言葉を知っていたんだ?

 

 ユニはわかってるみたいだけど、俺にはまったくわからない。

 

「そんな風に躊躇ってたら、あのブレイブ・ザ・ハードの顔を見て全部わかっちゃったのよ。夢人がどんな気持ちで、アタシにあの言葉を贈ってくれたのか」

 

「ブレイブ・ザ・ハードの顔? それってどういう……」

 

「ねえ、夢人にとってアイツってどんな奴?」

 

 ユニが俺の言葉を遮って突然尋ねてきた。

 

 俺にとってのブレイブ・ザ・ハードか……

 

 俺達の敵であり、犯罪組織の幹部である外見が正義の味方風のロボット。

 

 女神を否定して自分の正義を持っており、子ども達に娯楽を与えようとする奴。

 

 いいや、それよりも俺にとっては……

 

「……憧れ、かな」

 

 堂々と自分の正義を語れる強さを持っていることに憧れた。

 

 形は違うけど、同じゲイムギョウ界を守ると言う強い思いを持っている存在。

 

 俺のように口だけじゃなく、理想を実現させるための力を兼ね備えているんだ。

 

「そっか……だったら尚更、夢人だけでブレイブ・ザ・ハードと戦うしかないわね」

 

 ユニは納得したように口元を緩めた。

 

「アタシも似たような思いを持っているわ。最初は、アタシ達女神を否定されて怖かった。でも、それだけアイツは強い存在なんだって思えるようになったの」

 

「どうして?」

 

「それは、アタシができそこないだから。自分にないものを持っている皆に嫉妬しちゃうのよ」

 

「でも、ユニにだって……」

 

「うん、わかってる。アタシにもちゃんと誇れる自分がここにある……でもね、どうしても自分の物ってちっぽけに思えちゃうんだ」

 

 ユニは両手を重ねて胸を押さえると、柔らかく笑みを浮かべながら目を閉じた。

 

「いつだって自信がないの。自分が前に進んでいるのか、後ろに進んでいるのかわからない。目の前が真っ暗になって迷子になってるのよ」

 

「……ユニ」

 

「そんな迷子だったアタシを救ってくれたのが夢人だった。迷子になってたアタシの手を引いてくれたから、暗闇から抜け出せたの……そんなアタシだからわかる。今のブレイブ・ザ・ハードも迷子なんだって」

 

「アイツが、迷子?」

 

「アンタは気付かなかった? アイツ、辛そうにしてた」

 

「あ、ああ、それは気付いた」

 

 セプテントリゾートで会ったブレイブ・ザ・ハードに以前のような余裕を感じられなかった。

 

 前を鞘に収まっている刀だとすれば、今は刀がむき出しの状態に思えたんだ。

 

 触れるもの全てを壊してしまう威圧感とでも言えばいいのか、全身からそんな雰囲気を出していた。

 

 でも、その雰囲気が無理をしているように見えてしまった。

 

「理由はわからないけど、アタシにはアイツが迷っているように見えたの」

 

「だから、迷子なのか」

 

「そう、あの顔がどうしても夢で見たアンタの顔に重なって見えた。そう考えたら、夢人もアタシと同じだったんだってわかったのよ……自分を殺して機械のようになろうとしたことがあるって」

 

 記憶がない俺にはユニの言葉を肯定も否定もできない。

 

 黙ってユニの言葉を聞いていることしかできなかった。

 

「おかしいよね? 夢の話なのにこんな風に感じちゃってさ。でも、アタシにはただの夢に思えなかったのよ……なら、可能性は1つしかないじゃない?」

 

 ユニは柔らかくほほ笑みながら、俺に1つの仮説を聞かせた。

 

「アタシの中にあるブラックディスク……その中にあるアンタの記憶なんじゃないかなって思ったの」

 

「そんなことありえるのか?」

 

「そんなのわからないわよ……でも、アタシにはそう思えるの」

 

 俺の記憶をユニが夢として見たのか?

 

 確かに、俺の記憶の一部はユニの中にあるブラックディスクにもあるってことはわかってる。

 

 でも、俺の記憶がユニに流れることなんてありえるのか?

 

「夢でアンタが話す声に、アタシはまったく熱を感じなかった」

 

「熱?」

 

「アンタらしくなかった、って言うのはおかしいけど、アタシには別人に聞こえたのよ。声はアンタなのに、頭の中でどうしても重ならなかったの」

 

 ユニは悲しそうに目を伏せて、胸で重ねられた手にも力が入ったように見えた。

 

「怖かった。あんな顔であんな声を出すアンタのことが……嫌だった。夢の中とはいえ、アンタにあんな姿でいられることが……だから、不安だったの。夢の中みたいにアンタが変になってるんじゃないかって……機械みたいになってるんじゃないかって」

 

「……だから、あの時の言葉を」

 

「うん、夢人もきっと何かになろうとしていた。アタシがお姉ちゃんになろうとしたのと同じ、自分のことが信じられなかったからだと思う……それは、今のブレイブ・ザ・ハードも同じ」

 

 悲しそうに歪ませた顔を俺に向けて、ユニは言葉を続けた。

 

「今のアイツは自分を信じ切れていない。無理やり自分の感情を押し殺しているように見えたの。迫力だけが増して、言葉に重みを感じなかったわ。夢人と会う前のアタシと同じように、虚勢を張っているように見えたのよ……だから、夢人にお願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「アイツと1対1で戦って……そして、勝って」

 

 ユニの願いは簡単で、とても重いものだった。

 

「無理なお願いなのはわかるけど、アタシはアタシのようになっている奴を見過ごせない。でも、アタシじゃアイツの光になれない。アイツが求めているのは、アンタとの決着だけ」

 

 ……俺だって、あんなアイツを放っておけない。

 

 ユニにお願いされる必要なんて、最初からなかったんだ。

 

「皆でアイツを倒しても、きっとアイツは何も得られない。ずっと暗闇で迷子になったまま、存在そのものが消えてなくなる……アタシ、そんなの嫌だよ」

 

 ……俺も嫌だ。

 

 アイツがしていた行動は俺達にとって認められないものであったが、そこにはゲイムギョウ界を守ろうとするアイツの正義があった。

 

 それが全部意味を失くしてしまうなんてことには、絶対にさせない!

 

「アイツは敵だけど、アタシはアイツを救いたい……馬鹿だよね、アタシ何言ってんだろう。何もできないくせに、夢人に頼むしかないのに……」

 

「違う」

 

「夢人?」

 

「違うって言ったんだ。ユニは馬鹿でも、何もできていないわけじゃない」

 

 誰かを助けようとすることが馬鹿だなんて言わせない。

 

 そう思った時から、すでに誰かを救えているんだ。

 

「その願い、確かに受け取った……俺は必ずブレイブ・ザ・ハードに勝つ!」

 

 負けられない、俺の勝利を信じてくれるユニのためにも、ブレイブ・ザ・ハードを救うためにも!

 

「だからユニ、俺からも頼みがある」

 

「なに?」

 

「ブラックディスクを……俺の記憶を返して欲しい」

 

 俺は知らなければならない。

 

 今のブレイブ・ザ・ハードの気持ちを……

 

 俺がどうして自分を信じられなかったのかを……

 

 答えは全てそこに……俺の記憶にあるはずだから。

 

 

*     *     *

 

 

「……それで、あの子達はいつまであんな真似する気なのかしら」

 

「君に認めてもらうまでじゃないかな」

 

 教会のテラスからノワールとケイは下に居る夢人達を眺めていた。

 

「いくら言われても認めるわけにはいかないわ……夢人を1人でブレイブ・ザ・ハードと戦わせるなんて」

 

 夢人とユニが教会に戻ってくると、夢人はノワール達にブレイブと1対1で戦うことを宣言した。

 

 突然そんなことを言いだした夢人に驚くノワール達だったが、そんなこと認められるわけがなかった。

 

 ノワール達の予想では、ブレイブの狙いは夢人の中に居るアカリなのだ。

 

 わざわざ夢人を危険にさらす必要なんてない。

 

 加えて、夢人は人間であり、勇者だと言っても別世界の住人だ。

 

 ノワールは自分達女神が無事にそろっている現状で、夢人に無理をさせようとは思っていなかったのである。

 

「それに勝てるわけないじゃない。今だって悪戯に体を虐めてるようにしか見えないわ」

 

 眼下に映る光景に、ノワールは素直な感想を漏らした。

 

 対ブレイブ戦の特訓のようだが、銃を構えて仮想敵をしているユニは無傷なのに対して、夢人の体はすでにボロボロと言ってもいい状態だった。

 

 それでも、夢人は立ち上がってユニに対して何かを叫んでいる。

 

 ユニもそれに応えて、銃を構えた腕を下ろさない。

 

 そして、またユニの弾丸が夢人へと着弾し、夢人は吹き飛ばされ、うつ伏せで倒れてしまった。

 

 ユニが今使用しているは、訓練用のゴム弾と言っても相当な威力がある。

 

 ノワールはもう夢人が立ち上がれないと思っていた。

 

「終わったわね。これで諦めて……」

 

「いいや、まだ終わってないよ」

 

 ノワールは呆れた目で夢人達を見ることをやめて、室内に戻ろうとしたが、ケイの言葉に動きを止めた。

 

 ケイの言葉の通り、夢人はふらつきながらも立ち上がったのである。

 

 立ち上がった夢人は再びユニに何かを叫び、銃弾が放たれた。

 

 再び吹き飛ばされる夢人だったが、今度は転がりながらも膝をついて倒れなかったのである。

 

 それを見て意外そうに目を丸くするノワールの姿に、ケイはただ口元を緩めた。

 

「言っただろう? まだ彼らは諦めていない」

 

「……呆れたわ。何であんな真似ができるのよ」

 

 ノワールは素直にそう思った。

 

 なぜ夢人達があんな無意味に思えることをしているのかがわからない。

 

 ゴム弾をすべて打ち切ったらしいユニの様子に、夢人は背中から倒れ込んだ。

 

 仰向けに転がる夢人に、ユニやファルコム、フェルにワンダー、夢人の宣言を肯定する者たちが集まってきた。

 

 夢人も上半身だけ起き上がらせて、ユニ達に疲れや痛みを感じさせない笑みを向けていた。

 

「私にはあの子達の気持ちがわからない。どうして敵であるブレイブ・ザ・ハードを救おうとする夢人を支持するの? そもそも、夢人じゃブレイブ・ザ・ハードに勝てるわけがないのに」

 

「確かにその通りだね。夢人君は彼との戦いにワンダーも使う気がないらしいから、戦う手段は魔法だけだ。勝率なんてゼロに近いだろう」

 

「ゼロに決まってるじゃない。あんな不完全な魔法でなにができるって言うのよ」

 

 ノワールは特訓をしている夢人の様子を見て、改めて夢人の魔法は不完全であるとわかった。

 

 使う度に自身の体を傷つける失敗魔法、とてもじゃないがそんなもので戦えるわけない。

 

 それなのに、夢人はそれを何度も使って体を傷つけながら特訓を繰り返している。

 

「ノワールには夢人君達が無謀に見えるかい?」

 

「当たり前じゃない。勝てる見込みがないのに、無茶なことを繰り返しているだけにしか見えないわ」

 

「そうか……でも、僕には希望にも見えるよ」

 

「え?」

 

 ノワールはケイの言葉に耳を疑い、ケイへと振り返った。

 

 そこには、柔らかい笑みを浮かべて夢人達を見つめるケイの姿があった。

 

「今夢人君の周りに居るメンバーがどんな人物だか、ノワールはわかるかい?」

 

「ユニ達のこと?」

 

「そう……ユニは女神候補生、フェル君は女神を恨んでいた少年、ファルコムは冒険家、ワンダーなんて犯罪組織の一員だった。皆肩書だけ見れば、一緒に居ることなんてできない存在だった。それを繋いだのが、夢人君だよ」

 

 ケイに言われ、ノワールも改めて夢人達を眺めた。

 

 夢人を中心にユニ達が笑い合っている光景、そこにケイの言うような経歴があるとは思えなかった。

 

「それに、夢人君にとっては勝率なんて関係ないんだよ。彼はいつだって無理を通して来たんだから。君達を助けるためにギョウカイ墓場に突入した時だって、彼は女神の卵を奪われ勝率なんてまったくなかったんだ。それでも、彼は君達を助けてみせた。希望を繋いだんだよ」

 

「……それでまた夢人が消えたらどうするのよ? 今度は確実に死ぬわよ」

 

 あの時は精神体だったからよかったが、今回は本物の肉体なのだ。

 

 アカリがいるおかげで丈夫になっているとはいえ、ブレイブと戦えば夢人なんてひとたまりもない。

 

 今度こそ、本当の意味で死んでしまうとノワールは考えていた。

 

「あの時は夢人君だけだったからさ。今回は君達もいる……だからこそ、ユニ達は夢人君を助けているんじゃないか」

 

「……そう、あれがユニ達なりの手を差し出すってことなのね」

 

 リゾートアイラン島での夢人の決意を思い出し、ノワールはケイに背を向けて室内へと歩いていった。

 

「……ちょっと私も行ってくるわ」

 

「君も夢人君に手を差し伸べに行くのかい?」

 

「……違うわよ。私はこれから夢人を痛めつけに行くの。ブレイブ・ザ・ハードと戦えないようにしてくるだけよ」

 

「素直じゃないね……ついでに、机の上に置いてある物も一緒に持って行ってくれるかい?」

 

「……私はいつだって素直よ。あなたの方こそ、素直じゃないんじゃない?」

 

「僕はもう彼に賭けているからね。言葉にする必要がないだけだよ」

 

「らしくないわよ……でも、嫌いじゃないわ」

 

 言葉を交わし去っていくノワールの背をケイは優しく見守っていた。

 

 

*     *     *

 

 

 ブレイブの宣戦布告から1週間が過ぎ、夢人達はミッドカンパニーへと向かっていた。

 

 他の女神達にも連絡はしているが、夢人達は彼女達に合流せずにミッドカンパニーへと向かっていたのである。

 

 1週間、ノワールも加えた特訓に耐え抜いた夢人は体に小さな傷を作ってはいるが、ブレイブとの決着をつけるために力強く一歩一歩足を進めていた。

 

「夢人、ちょっといい?」

 

「うん? どうしたユニ?」

 

 道中で突然ユニが夢人達から一歩離れて立ち止まった。

 

 ユニは髪留めに使っているリボンを片方だけ解くと、夢人の腕へと縛りつけた。

 

「これは……」

 

「アンタは1人じゃないってことの証……アタシの思いも一緒に持っていって」

 

「ありがとう、ユニ」

 

 腕に縛り付けられたユニのリボンに触れながら、夢人は力強く笑みを浮かべた。

 

 これでまた1つ、負けられない理由が増えたのである。

 

「それじゃ、これも渡さないとね」

 

「え、それって、剣?」

 

「覚えてる? ブレイブ・ザ・ハードと戦った時に、ワンダーを突き刺した剣だよ」

 

 ファルコムは夢人に、刀身が焦げ付き赤く錆びてもいる剣を鞘から出して見せながら手渡した。

 

 その剣は以前ブレイブ・ザ・ハードと戦った時、ワンダー、ハードブレイカーを貫いたファルコムの剣である。

 

「ああ、取って来てくれたのか」

 

「ええ、ボクとファルコム、ワンダーで取ってきたんです」

 

〔役には立たないだろうが、験担ぎのようなものだ〕

 

 夢人は剣が納められている鞘に付けられている紐をベルトへと通してしっかりと結んだ。

 

「ありがとう、皆……絶対にブレイブ・ザ・ハードに勝ってくる」

 

「うん……それでね皆、アタシは一緒に行けないわ」

 

「ユニ? あなたなに言ってるのよ?」

 

 尋ねたノワールだけでなく、全員がユニの言葉に驚いた。

 

 一緒に戦わなくても、側で夢人とブレイブの戦いを見守ると思っていたのである。

 

「アタシもやらなくちゃいけないことがあるの……だから、一緒に行けないわ」

 

「ユニ、それっていったい……」

 

「夢人やお姉ちゃん達にとっては馬鹿げているかもしれないけど、アタシにとっては大事なことなの……だから、約束して夢人」

 

「……なんだ?」

 

「必ずブレイブ・ザ・ハードに勝ちなさいよね。そうでなきゃ、アンタはいつまで経っても前になんて進めないわよ」

 

「わかった……俺もユニがなにをしようとしているのか聞かないけど、本当に大事なことなんだろう?」

 

「……うん、アタシがアタシになるために必要なことよ」

 

「だったら、ユニも勝てよ。俺もお前の勝利を信じてる」

 

「当然よ。アタシもアンタが勝つのを信じてるわ」

 

 互いの勝利を信じて笑い合うと、夢人達はユニを残してミッドカンパニーへと向かって行った。

 

 その後ろ姿を、ユニが寂しそうに見つめていることを知らずに……

 

 

*     *     *

 

 

「……ごめんね、夢人」

 

 アタシは夢人達の後ろ姿を見て、これからすることを謝ることしかできない。

 

 アタシがこれからすることは、特に夢人に対する裏切りに近い行動かもしれない。

 

 それなのに、夢人はなにも聞かずにアタシの勝利を信じてくれた。

 

 アタシの勝利がなにを意味しているのか知らないで、残酷な言葉を送ってくれたのだ。

 

 罪悪感がないと言えば嘘になる。

 

 こんなこと、今する必要なんてどこにもないのだ。

 

 ……でも、アタシは今踏み出すと決めたんだ。

 

「もうノワール達ってば、何で先に行っちゃうのかな」

 

「ぐだぐだ言ってないで早く行きますわよ」

 

「ええ、相手は犯罪組織の幹部。一筋縄じゃいかないわ」

 

 アタシの後ろから、ネプテューヌさん達の声が聞こえてきた。

 

 ……アタシの目当ての人物も一緒に居るはずだ。

 

「あ、ユニちゃん!! 夢人さん達はどうしたの?」

 

「……ネプギア」

 

 アタシはネプギアに声をかけられて、ゆっくりと振り返りながら……

 

「……え、ユニ、ちゃん?」

 

 銃の照準をネプギアに定めた。

 

 アタシが銃を向けていることに、ネプギアだけじゃなく他の皆も呆然としている。

 

 当然だろう、いきなり銃を向けられているのだ。

 

「……ネプギア、構えなさい」

 

「え、何を言ってるの? そんなことよりも、夢人さん達はどうしたの?」

 

「夢人達ならもうミッドカンパニーへ向かったわ」

 

「だったら、私達も……」

 

「ええ、他の皆は行っても構わないわ……でもネプギア、アンタはここに残ってもらうわよ」

 

 他の皆が夢人達に合流しても、お姉ちゃん達が夢人の邪魔はさせないだろう。

 

 だったら、アタシはアタシの目的を果たすだけだ!

 

「今ここで、アタシと戦いなさい!! ネプギア!!」

 

 

*     *     *

 

 

〔これはいったい何が起こっているのですか!?〕

 

 女神達がラステイションに集結している頃、ルウィーのブロックダンジョンで異変が起こっていた。

 

〔なぜキラーマシンの封印が解けていくのですか!?〕

 

 ルウィーのゲイムキャラによって封印されているはずのキラーマシンが次々に姿を現していたのである。

 

 ゲイムキャラも事態を把握することができずキラーマシンを封印しようとするが、止めることができないでいた。

 

「うふふ、無駄ですよ。ゲイムキャラさん」

 

〔あ、あなたは!?〕

 

「初めまして……って、別に自己紹介なんて必要ないわよね。だって、あなたはここで壊されるんだから」

 

 キラーマシン達が集まっている中心から1人の少女、フィーナが薄く笑いながらゲイムキャラへと挨拶をした。

 

〔どうやってキラーマシンを!?〕

 

「あら、私にとっては簡単なことよ? 何故なら、この子達は私の力で動いているのも同然なんですもの」

 

 フィーナはかつてレイヴィスがキラーマシンの封印を解いた時と同じことをしたのである。

 

 体内に吸収した犯罪神の力を使って、フィーナはキラーマシンの封印を強引に解いたのである。

 

「この子達を封印する役目から解放してあげるわ。やりなさい」

 

〔……ジ……ジ……リョウ……カイ……〕

 

 フィーナの命令により、2体のキラーマシンがゲイムキャラへと向かって行った。

 

 そして、キラーマシンの持っている剣がゲイムキャラへと振り下ろされそうになった時、1つの影がその間に割って入った。

 

「……あら?」

 

 影が割って入った次の瞬間、2体のキラーマシンが胴体から真っ二つに斬られて、スクラップとなって崩れ落ちた。

 

〔あなたは……〕

 

「さがっていろ」

 

 ゲイムキャラが自分を助けた人物に声をかけるが、その人物は振り返ることなく、フィーナを睨みつけていた。

 

「奴は俺が相手をする」

 

 人物、レイヴィスは両手に持っている剣をフィーナへと構えて宣言した。

 

「貴様はここで俺が倒す……『再誕』の悪魔!!」




という訳で、今回は以上!
さて、いよいよ戦闘がはじまりますが、次回も文字数が多くなります。
同時進行で戦闘が3つ行われていますからね。
……なんで私は3つ同時にしたんだろう。
しかも、そこに回想シーンやらも含むので、次回とこの章の最終話はある意味3部構成になります。
それでは、 次回 「勝利の方程式」 をお楽しみに!

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