超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
昨日は喉に痛みが走ったため、執筆を途中でやめて薬を飲んで眠ってました。
……はい、見事に風邪の症状でした。
皆さんも風邪にはお気を付けください。
それでは、 チェンジ・イン・クオリティ はじまります
……俺がどうして頑張るのか。
前にアイエフからは、同じことを尋ねられたことがあった。
トリックに無様にやられて、ラムを守れなかった時だ。
あれは俺を戦いから遠ざけようとしたアイエフの優しさだった。
自分に何ができるのかを悩んでいた俺に、これ以上戦うなと、傷つくなと言ってくれた。
「ねえ、今度はちゃんと教えてよ。夢人の頑張る理由を」
……でも、今のアイエフの問いは違う。
アイエフは本当に俺の頑張る理由を知りたがっている。
「急にどうして?」
「全然急なんかじゃないわ。本当はアンタが魔法の練習を始める前に聞かなきゃいけなかったの。今のアンタの頑張る理由を」
アイエフは涙を堪えて、俺をまっすぐに見つめてくる。
「アンタがゲイムギョウ界に帰って来てくれたことは嬉しいわ。でも、どうして戻ってきたの?」
「なんでって、それは俺が……」
「言い方を変えるわ……なんで自分を騙していた世界になんて戻ってきたの?」
悔しそうに顔を歪めて唇を噛むアイエフに、俺は言葉を止めてしまった。
「アンタが勇者として求められていたことは、『再誕』の女神を生みだすためだけの生贄としての人生よ。それなのに、どうしてアンタは頑張れるの? アカリが生まれたことで、アンタの勇者としての役目は終わったのよ。アンタはもう勇者なんかじゃない。頑張る必要なんてないじゃない」
……俺には、今アイエフがどんな気持ちでこんなことを尋ねてきているのかなんてわからない。
「それに、何でアンタは憎まないの? アンタを使い潰そうとしたこの世界を。何でアンタは恨まないの? アンタに勇者の役目を押し付けたこの世界を。何でアンタは嫌わないの? この世界で生きている私達のことを」
……でも、わかることが1つだけある。
「女神の卵を砕いた責任? 自分のせいでアカリが『再誕』の力を完全に発揮できないことへの罪滅ぼし? それとも……っ!?」
「アイエフ」
涙を流して俯いてしまったアイエフの肩を強く掴んで、俺はアイエフの言葉を止めた。
「俺が頑張るのは、誰かに優しくなるためだ」
……俺は大切な人にこんな顔をさせるために頑張っているんじゃない!!
* * *
……気がついたのは、きっと必然だった。
ネプ子達に妙な勘違いをされてしまい、私自身も夢人のことを意識していたのが原因。
新法についての説明が終わった後、アカリの欠片の話になった時、夢人の拳が強く握られていた。
癖なのかわからないけど、夢人は度々拳を強く握ることがある。
そう言う時は、決まって何かに耐えていたり、何かを決意した時だった。
私はその仕草で、夢人が欠片のことに責任を感じていると気がついた。
しかも、その時の夢人の顔に、ギョウカイ墓場へ突入する前の顔が重なって見えたのである。
……何で夢人が責任を感じなければいけないのだろうか。
元はと言えば、無関係な人間を犠牲にしてゲイムギョウ界を救おうと考えた初代勇者と古の女神達が悪いのに。
少なくとも、夢人はあの時、彼にできる最大限のことをした。
ゲイムギョウ界から消えてしまうと……死んでしまうとわかっていたのに、夢人は立ち上がった。
私達にそんなことを悟らせないで、全部隠し通してみせた。
気がついた時には、夢人はすでに消えていた。
私達は夢人に何もできなかったのだ。
悩んでいたのに、恐怖していたことに気づいていながら、私達は夢人を救うことができなかったのだ。
……責任は私達にある。
夢人にそんな決意をさせてしまった、この世界に生きる私達の責任だ。
勇者なんて耳触りのいい言葉で、夢人を騙し続けた私達の……
そのせいで、夢人は生きてはいたけど、記憶を失ってしまった。
しかも、都合のいいことに覚えていることはゲイムギョウ界に居た時の記憶だけらしい。
これでは、元の世界の記憶がない夢人は、必然的にこの世界に戻ってくるしかないじゃないか。
誰だって知らない人に囲まれているよりも、知っている人と一緒に居たい。
アカリの力があれば、夢人の記憶を戻すことができるらしいが、そのせいでアカリは『再誕』の力を削ってしまう。
ただでさえ、夢人はこの世界に帰ってきた時、アカリが『再誕』の力を使えなかったことで後悔していたのに、自分のために力を使わせるだろうか?
……きっと使わせない。
夢人は絶対にこの世界を修復することを優先する。
死ぬことすら厭わずに、レイヴィスを助けた夢人のことだ。
また自分のことを助けようせず、勝手に1人で全部抱え込んでしまう。
……今日海で笑っていた夢人を見て、不安は増幅した。
あの時も、私達に心配をかけないように無理やり笑顔を作っていた。
私には、どうしても今日浮かべられていた笑顔が作り物に見えてしまう。
この島に来るまで、最近の夢人は何かに悩んでいた。
そして、その顔も私は知っていた。
ルウィーで大怪我をした時、ラムを守れなかったことを後悔していた時の顔だ。
あの時の夢人は自分の無力さに打ちひしがれていた。
そして、今の夢人の状況も似ている。
成功するようになった魔法は、なぜか威力がまったくない。
戦う手段と言えば、ワンダーのアーマーモードだが、30分しか使用できない。
……B.H.C.に頼っていた頃と同じ、いや、それ以上に夢人は追い詰められていたのかもしれない。
あの時はまだ、失敗魔法でも戦う手段があった。
しかし、今はそれもない。
再び黒歴史が発動するようになったようだが、それもアカリの力を削る行為、夢人は積極的に使おうとはしないだろう。
……そう、夢人はまた何もできなくなったのだ。
だから、私は夢人に聞かなければいけない。
どうして頑張るのかを……もう2度と後悔しないために。
ずっと先送りにしていた自分の罪に向き合うことになっても……
「俺が頑張るのは、誰かに優しくなるためだ」
「……なに、言ってんのよ」
「何度だって言ってやるよ。俺の頑張る理由は、誰かに優しくなるためだ」
優しくなる、ですって?
「……アンタはそれ、本気で言ってるの?」
「ああ、俺は本気だ」
私は肩に乗せられていた夢人の手を強く振り払って、夢人を睨んだ。
「ふざけないで!! アンタのそれは優しさなんかじゃないわ!! それは単なる自己犠牲よ!!」
夢人がしようとしていることは、決して優しさなんかじゃない。
他者を顧みない自己犠牲、いや、自己満足だ。
「優しくなるために頑張るですって? そんな言葉で取り繕ってんじゃないわよ!!」
「いいや、これは紛れもない俺の本心だ」
「違うわ!! アンタはかっこいい言葉で自分の行動を肯定しようとしているだけよ!!」
優しくなる、確かにすばらしいことだろう。
これ以上ないってくらい勇者に相応しい頑張る理由なのかもしれないわね。
でも、そんなものただの言い訳に過ぎない!!
「アンタは無理やり自分のことを勇者って型に嵌めようとしているだけよ!! 偶然選ばれたからって言う義務感でそう思いこんでいるだけなのよ!!」
「違う。俺が頑張るのは、勇者としての義務感からじゃない。俺は自分の意思でこの世界に戻ってきたし、この世界を救おうとしているんだ」
「いいえ、そんなことはないわ!! アンタは自分に都合のいいことしか見ていないのよ!!」
「そんなことはない。俺はただ逃げていないだけだ」
「逃げてるじゃない!! 目をそらしてるじゃないのよ!! アンタはこの世界のことなんて全然見ていないのよ!!」
夢人は逃げているのと同じだ。
現実を見ようとはせず、自分の気持ちを全部なかったことにしようとしている。
「この世界がアンタに何をしたのか、本当に理解しているの!! アンタに死ぬことを強要したのよ!!」
「ああ、わかってる」
「わかってない!! わかってるなら、何でそんな平然としていられるのよ!!」
「それは俺が生きているからだ」
「生きてる? アンタは自分が生きてるとでも思っているの!!」
私の叫びを聞いても、まっすぐに私の目を見つめてくる夢人に苛立ちと悲しみが募ってくる。
夢人はあくまで私に自分の本心を語らないらしい。
「記憶を失くして、この世界のことしかわからないアンタが本当に生きているとでも思っているの!!」
「ああ、生きているからこそ、俺は前に進もうとしているんだ」
「進んでなんかいない!! 浮かぼうとしているだけよ!! アンタのそれは自分を顧みない逃避よ!!」
「いいや、ただ前を見て進んでいるんだ」
「違う!! アンタは前なんか見ていない!! アンタが見ているのは上よ!! 自分のことを見ないようにしているだけじゃない!!」
上を向いていれば、自分の姿を見ることはない。
そうやって、自分の本心を隠す。
それが楽な生き方だから。
自分の姿を見なければ、ずっと自分の理想のままでいられるんだから。
「アンタは現実を見ないで理想に逃げているだけよ!! アンタはこの世界で優しくなんてなれやしない!!」
「なれる。優しくなるのに理由なんて必要ないんだから」
「いいえ、アンタには無理よ!! アンタはこの世界で絶対に優しくなんてなれない!! それは、依存した考えよ!!」
「いいや、なれる。依存ではなく、俺の意思で」
そんなの誰かに頼らないと生きられない依存と同じじゃない。
夢人は他者に優しくすることで、自分の立ち位置を確保しようとしている。
誰かに自分を認めてもらいたいだけだ。
「依存よ!! アンタは記憶が不完全だから、誰かに自分のことを認めてもらわないと気が済まないのよ!! そうやって自分を肯定して、自分を形作っているだけなの!!」
「確かに記憶は不完全だが、俺はちゃんとここにいる。俺はここで生きているんだ」
「いないわよ!! 今ここに居るのは、勇者として望まれた形になろうとしている、ただの抜け殻じゃない!! アンタはここで生きてなんていないのよ!!」
「いいや、生きてる。この胸にこの心がある限り、俺は自分が生きていると言える」
「それが間違いなのよ!! アンタのその心は嘘で固めた偽物よ!! 自分の気持ちを殺して、無理やり作り上げたものじゃない!!」
「それは違う。俺の心は本物だ。決して作りものなんかじゃない」
「違うって言ってんでしょ!!」
私と夢人は平行線だ。
どちらもどちらの主張を認めようとしない。
駄目だ、このままじゃ駄目なのよ。
私は夢人の言葉に納得なんかできない!!
「優しさってのはね、ただの自己満足じゃないのよ!! 取ってつけた優しさなんて悪意と同じよ!! アンタはそれを理解してないわ!!」
「わかっている。だからこそ、俺は優しくなろうとしているんだ」
「それこそ偽善じゃない!! アンタは優しくなりたいんじゃない!! 優しくされたいから、優しくなろうとしているのよ!!」
夢人は間違ってる。
そんな優しさじゃ、誰も幸せになれないじゃない。
「いい加減認めなさいよ!! 自分の心を!! アンタの本心を!!」
「俺はすでに認めた上で、こうして言葉にしているんだ」
「嘘よ!! だって、アンタは一言も言ってないじゃない!!」
お願い……お願いだから、本当のことを言ってよ。
そうでなきゃ、私はアンタのことを……
「アンタは言ってたわよね!! 勝手に呼び出されたことを憎んでいたって!! じゃあ、また憎みなさいよ!! アンタに優しくないこの世界を!!」
夢人がこの世界で優しくなれない最大の理由……この世界は夢人に優しくないんだから。
優しさって言うのは一方通行じゃダメなのよ。
それじゃ、優しくする方が壊れちゃう。
「どうして言わないの!! 憎いでしょ!! 恨めしいでしょ!! 嫌いになりなさいよ!! アンタにはその権利がある!! それなのに、どうしてアンタは頑張るって言うのよ!! 優しくなるなんて、馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!!」
私はもう夢人に消えて欲しくない。
あの時、ルウィーで死なせないと決めていたのに……
守れなかった悔しさを……後悔を2度としたくないのよ!!
「ねえ……お願いだから……言ってよ……一言でいいから……」
私はもう夢人を見ていられなかった。
涙を止められず、俯いて声も小さくなってしまった。
私は夢人の本音を引きださなきゃいけない。
例え、それで汚く罵られても構わない。
それがこの世界の……夢人を勇者にしていた私の罪なんだから。
他の子達の分まで私が全部受け止めてみせる。
特に夢人のことが好きな子達には任せられない。
私は平気、私1人で夢人の憎しみを受け止めるんだ。
それで、あの子達のことを許してもらえるのなら、いくらでもこの体で受け止める。
……夢人が死なないのなら、私は恨まれたままでいい。
「アイエフ、俺は確かに勇者の運命を憎んでいなかったと言えば嘘になる」
体が震えた。
覚悟を決めていても、怖い。
でも、いいよ。私は平気……
「だけど、俺はもう憎んではいない。むしろ、勇者の運命を感謝しているんだ」
「……え」
私は夢人の言葉を信じられず、顔を上げて間抜けにも口を開けてしまった。
「勇者の運命は、俺にかけがえのない出会いや思いをくれた……それに、アイエフは俺のことを誤解している」
「……何のことよ」
「俺は、弱いんだよ」
夢人が柔らかくほほ笑みながら口にした言葉に、私の頭の中は真っ白になってしまった。
……夢人は弱い。
そんなことは知っている。
でも、それがどうしたというのだ。
「俺は、ずっと何かを憎んでいられるほど強くなんてないんだよ。俺はいつだって弱いままだ。心も、体も、何もかもな」
「……だから、どうしたって言うのよ」
「だから、俺はせめて優しさだけは失わないようにするんだ。俺の優しさで誰かが救われるのであれば、俺は手を伸ばす」
「……何なのよ……何なのよ、それは!!」
そんなの答えになってないじゃない!!
私が欲しい答えは違うのよ!!
「手を伸ばしてどうするって言うのよ!!」
「助けを求めている人を助けるんだよ」
「それが何になるっていうのよ!!」
「助けた分だけ、俺はまた優しくなれる。そして、助けた相手も優しくなれるんだよ」
「そんなことないわよ!!」
夢人が語っているのは空想だ。
人はそう簡単に優しくなんてなれやしない!!
「アンタが言っているのは、ただの理想じゃない!! 全員が全員、アンタの気持ちに応えてくれるとでも思っているの!! そんなの幻想じゃない!!」
「なら、何度だって優しくなるよ。理想だって言うなら、現実にしてみせる」
「できるわけないじゃない!! アンタはこの世界に夢見過ぎなのよ!! 現実を見なさい!!」
止まってよ、夢人の行く先には、確かに理想が見えているのかもしれない。
でも、足元見ないで進んだら、アンタまた傷ついちゃうじゃないっ。
倒れたまま、起き上がれなくなっちゃうかもしれないのよ。
「アンタは傷ついてでも理想を追うって言うの? そんなのやめなさいよ!! 誰もアンタにそんなことを……」
「なあ、アイエフ。現実ってのは、下を向いてて見えるものなのか?」
遮られた言葉に、私は目を見開いた。
そんなこと言われるだなんて思わなかった。
「下を向いてて見えるのは、自分の足元だけだ。先には決して進めない」
「っ、違うわ!! 足元が見えるからこそ、人は前に進めるんじゃない!!」
「先が見えないのに、本当に進めるのかよ?」
「……っ!?」
思わず言葉に詰まってしまった。
確かに、足元を見ていたら、先は見えないだろう。
しかし、それの何が悪いって言うんだ!!
「いいじゃない!! 少しずつでも前に進めるのよ!! それの何が悪いって言うのよ!!」
「そんな怖がりながら前に進んで何を求めるって言うんだよ? 進む先に光が見えなきゃ、立ち止まっちまうじゃないか」
「じゃあ、上を見上げろって言うの!! それこそ、躓いて転んじゃうじゃない!! 立ち止まっていることと何が違うって……」
「転んだ分だけ、前に進めるだろ」
逆切れ気味に私が尋ねたことに、夢人は自信を持って答えた。
「立ち止まってるのは、そこから一歩も動いてないってことだ。でも、転ぶのは前に倒れても、後ろに倒れても動いている」
「でも、自分が傷つくじゃない!!」
「傷つかないで進むことに何の意味がある? 傷つくことがいけないことなのか?」
「誰だって傷つかないように生きてるのよ!! 賢い奴は、皆そんな生き方をしてるわ!!」
「だったら、俺は馬鹿な生き方を選ぶ。そんな生き方、俺は嫌だよ」
「っ、何でなのよ!!」
私には理解できない。
何でわざわざ辛い生き方を選ぶのよ!!
楽な道を選びなさいよ!!
「何でアンタはわざわざ傷つく生き方を選ぶって言うのよ!! そんな生き方して、本当にアンタは幸せなの!!」
「傷つくからこそ、後悔するからこそ、大切なことに気付くことがある。俺は後悔しても構わない」
「そんなことあるわけないでしょ!! 普通は後悔する前に気付きたいと願うのよ!! 好き好んで後悔したいだなんて言うな!!」
そんなこと言ったら、私のこの気持ちはいったい何なの?
アンタを守れなかった、この後悔は……
私の気持ちはどこに向かえばいいのよ!!
「後悔する前に気付く、か。それが一番いいんだろうな。でも、それこそ理想だよ。人は後悔しながらも前に進んでいくんだ」
「じゃあ、立ち上がれなかったらどうするって言うのよ!! そのまま終わっちゃうじゃない!! 後悔をずっと抱えて生きてろって言うの!!」
「だからこそ、手を伸ばすんだ。立ち上がれなかったら、起き上がらせてあげればいい。そうすれば、また前に進んでいける。今度は1人じゃない。手をつないでいるんだから」
「じゃあ、アンタはどうなのよ!! アンタが転んだら、誰が……」
「いるだろ。今も目の前に」
私は自分のことを言われているのだと気付くのが遅れた。
私が……夢人に手を差し伸べてる……?
違う、私は夢人を糾弾しているんだ。
決して、助けてなんて……
「俺は弱いから、いつだって焦って大切なことに気付くのが遅くなる。悩みにはまって起き上がれなくなってしまうんだ。それを助けてくれるのは、いつだってアイエフやネプギア達だ」
「……そんなこと……ないわよ……」
「あるさ。いつだって救われてるのは俺だ。だからこそ、俺は優しくなりたいんだよ。俺に優しくしてくれた皆に」
少なくとも、私は夢人に優しくなんてしてない。
だから、そんなこと言わないでよ。
「アイエフは言ったよな? 俺がこの世界を憎んでいないのか、恨んでいないのかって。俺にとって、この世界はお前達がいる世界なんだ。優しくないわけないだろ。皆俺に優しいんだからさ。そんなお前達のことを、俺が嫌えるわけないだろ」
「……違う……違うわよ」
「違わないさ。俺の見ている世界は小さいけど、上を見続ける限り広がって行く。だって、光が溢れているんだからさ」
「……気持ちが変わるかもしれないじゃない」
「確かにな。でも、言ったろ? 俺は弱いんだよ。いつだって嫌いよりも、好きを選ぶ。信じられないよりも、信じるを選ぶんだよ」
……馬鹿、それは弱いだなんて言わないのよ。
誰かを好きになったり、信じたりすることは簡単にできることじゃない。
「……でも、私は……この世界はアンタの信頼を裏切ったのよ? それなのに、信じて生き続けられるの?」
「いつ信頼されたんだよ? ぽっと出のへなちょこ勇者にアイエフは期待してたのか?」
「違うわよ……でも、アンタは勇者って存在のことを信じてたんでしょ? なら、アンタは裏切られてるじゃない。どうして簡単に信じようとするのよ?」
「俺が信じるから、じゃダメか?」
「……意味わかんないわよ。また裏切られるかもしれないのよ?」
「その時は、また信じるさ。何度だって信じるよ」
「馬鹿じゃないの。それじゃ、アンタだけが傷つくじゃない」
「傷ついた分だけ近くに寄れるだろ? その積み重ねが信頼関係なんだよ」
「積み重ねる前に壊れたらどうするのよ?」
「そんなことにはならないさ。傷つける方も、傷つく方も歩み寄るんだから、2倍の速さで近づくだろ」
「……傷つけようとする側が遠ざかったらどうするのよ?」
「なら、もっと速く近づくさ。そうすりゃ、必ず捕まえられる」
……本当に馬鹿だ。
夢人も、私も。
夢人の言っていることは綺麗事だ。
そんなことあるわけないって知っている。
……でも、私はそれを信じたいとも思ってしまう。
それは私も心が弱いから。
夢人と一緒で、誰かを好きなままでいたいと願うから。
……参ったな、こんなことを本気で思ってるだなんて思わなかったわ。
私の方が夢人のことを信じられてなかったのね。
いつかのネプギアと同じじゃない。
私は夢人の保護者かっての、まったく。
そう考えると、私は口元に自嘲的な笑みが浮かんだ。
「なあ、アイエフ」
「何よ? まだ何か言う気……」
「ありがとうな」
「……へ?」
突然の夢人からのお礼の言葉に、私は思考が停止してしまった。
どうして私はお礼を言われたの?
私は夢人のことを追い詰めただけじゃない。
夢人のことを信じられずにいた私に向かって言われる言葉じゃない。
「前の時は謝ることしかできなかったけど、今度はお礼を言えるよ。ありがとう、アイエフ」
「きゅ、急に何よ!?」
「急じゃないさ。俺はお前に助けられたからお礼を言ったんだよ。そして、ようやくわかったことがあるんだ」
「わかったこと?」
「ああ、5pb.にも言われたけど、俺は……」
「見つけたぞオオオ!! 今度こそ、テメェらをぶち殺させてもらうぜエエエ!!」
夢人が何かを言おうとした瞬間、海から黒い影が叫び声と共に浮かび上がってきた。
そこには、頭に海藻をくっつけている黒い機械的な人型だった。
……ってか、こいつはギョウカイ墓場に居た奴じゃない!?
何でこんなところに現れるのよ!?
「お前は、ジャッジ・ザ・ハード!? なんでこんなところに!?」
「そんなことはどうでもいいんだよ!! 散々虚仮にしてくれて!! もう許さんぞ!!」
「何のことかさっぱりなん……」
「待った!!」
今度はなに!?
海とは逆方向、砂浜に積み上げられた岩の上にネプ子の姿があった。
そして、岩陰からは他にもコンパやネプギア達も出てきた。
「あなたの相手はわたし達でするよ! ゆっくんとあいちゃんは早くさがって」
「……ネプ子、アンタ達見てたわね?」
「そ、そんなことよりも、早く早く!?」
……後で、覚えときなさいよ。
* * *
……何だ、これは。
「デュアルエッジ!!」
「ラジカルセイバー!!」
「ぐわあああああ!?」
プラネテューヌの女神どもには、頭部の3本の角の内、2本が斬り落とされてしまった。
「インパルスエッジ!!」
「ラディアントブレット!!」
「があああああああ!?」
ラステイションの女神どもには、斬り落とされた角の部分を押さえて仰け反ってしまった胴体を、剣で斬り裂いた後、その傷跡めがけて銃弾を叩きこんできた。
「フォルシュラーク!!」
『アイスコフィン!!』
「ぐおおおおおおおお!?」
ルウィーの女神どもには、ハンマーで打ち上げられた後、上空から巨大な氷の塊をぶつけられてしまった。
「シレットスピアー!!」
「スピニングブラスト!!」
「ぐぎゃああああああああ!?」
リーンボックスの女神どもには、巨大な氷の塊と共に落下している最中、鎧の左腕を斬り落とされてしまった。
「ガハッ!?」
落下したオレの体はすでに満身創痍であった。
……何だ、これは。
オレは女神ども相手に手も足も出ないのか?
散々虚仮にされただけじゃなく、何もできないまま終わってしまうと言うのか?
オレは……オレは……っ!!
オレは立ち上がると、すぐに駆け出した。
オレの狙いは1人!!
「夢人さん!?」
オレは女神どもの後ろに居た勇者に向かって駆け出したのだ。
こいつだけでも殺してやる!!
「ウオオオオオオオオオオ!!」
オレは残った右腕でポールアックスを振り上げ、勇者を両断しようと振り下ろした。
勇者はそれを見ても逃げずに、右腕を手刀の形にして振り上げた。
「なっ!?」
「アイス・エッジ・ソード」
振り下ろしたポールアックスの刃の部分が切断されてしまった。
勇者の右腕に作られた氷の刃によって。
なぜだ!? 以前はそんな切れ味なかったはずなのに!?
「夢人、アンタ魔法が……」
「おう、ようやくわかったんだよ。俺はかっこ悪い勇者で!!」
勇者は跳び上がり、ポールアックスを切断されて呆然としていたオレの頭部めがけて氷の刃を振り下ろした。
「魔法もかっこ悪いやり方しかできないんだよ!!」
「があああああああああ!?」
振り下ろされた氷の刃が、残った角を斬り落とすだけでなく、オレの頭部を斬り裂いた。
……何なんだ、これは。
オレは女神どもだけでなく、勇者にすら劣るのか?
これがオレの求めた戦いなのか?
こんな風に蹂躙されるために、オレは……ッ!!
「クソオオオオオオオオオッ!!」
オレはわざと鎧の右腕をパージして爆発させた。
爆発によって発生した黒煙を目くらましに利用したのだ。
……逃げるために。
* * *
「ハア、ハア、ハア」
鎧を脱ぎ棄てた傷だらけのジャッジは、荒く息を吐きながら、仰向けに倒れていた。
夢人達から逃げたジャッジは、海ではなく島の中へと逃げ込んでいたのだ。
島はまだ開発途中であったため、林が多く隠れるのにうってつけだったのである。
「クソッ……クソッ……チクショウ……」
ジャッジの顔にいつもの覇気はなく、悔しげに歪められていた。
その目には光るものすら浮かべられていた。
「何で……何でなんだ……何でなんだよ……」
ぶつぶつと弱弱しくつぶやくジャッジに、ゆっくりと1人の少女が近づいてきた。
「はーい、脳筋ちゃん。元気してる?」
「テメェは……」
「あらあら、随分派手にやられちゃったみたいね」
少女、フィーナはジャッジの様子を見てくすりと笑うと、右手をジャッジへと差し出した。
「ねえ、あなたは今、何が欲しい?」
* * *
暗く先が見えない階段を下って行く男だったが、やがて下に着くと、そこには不思議な光が灯っている通路があった。
光源が見当たらないのに、通路の天井が不気味に光っていたのである。
男が迷いなく通路を進んでいくと、奥には広い空間が広がっていた。
その広い空間の中央には1つの台座があり、何かが突き刺さっていた。
「あれが……」
『おやおや、懐かしい感じがすると思ったら、お客さんかい?』
「っ、誰だ!?」
男が台座に向かおうとすると、どこからか声が響いてきた。
男は慌てて辺りを見渡すが、どこにも人影は見つからない。
『おいおい、そんなに慌てるなよ、レイヴィス』
「……何故俺の名前を知っている」
男、レイヴィスは声の主を警戒して、いつでも戦闘ができるように構えだした。
『ああいやいや!? こんなところで下手に力を使おうとするなよ!? お前さんだって、生き埋めになっちまうぞ!?』
「……だったら、質問に答えろ。貴様はいったい誰なんだ」
『しょうがないな。ちょっち待っててくれや。今出ますよーっと』
声が響くのと同時に、レイヴィスの目の前に半透明な人型の影が浮かび上がってきた。
『うーん、こうなるのも結構疲れるんだけどねぇ』
「貴様はいったい……」
『おおーっと、自己紹介しないとな』
半透明な人型、顔すらわからず、かろうじて人だということがわかる存在が仰々しく胸に手を当ててお辞儀をした。
『俺はここの番人みたいなもんだ……でも、残念だったな。お前さんじゃ、あの剣……ゲハバーンは使えんよ』
「っ、貴様は何を知っている!!」
『んー、知ってることは知ってて、知らないことは知らないかな? なんてったって、俺は……』
人型は、顔が見えればにやりと笑っていそうな雰囲気を出しながら、右手でブイサインを作った。
『お前達の言う、古の女神と共に戦った伝説の勇者なんだからよ……ぶいっ!』
という訳で、今回はここまで!
2人の問答だけでほとんど埋まってましたね。
昨日は本当にすいませんでした。
風邪はひき始めのうちに治したいですので、今回はゆっくりと執筆させていただきました。
熱はないのですが、どうにも鼻詰まりと喉に違和感が。
もしかしたら、風邪が完全に治るまで2日に1話になってしまうかもしれません。
でも、次回はこの章の女神通信ですので、本編の裏話とアフターを少しやっておしまいです。
それでは、 次回 「帰ってきた女神通信(パープルハート編)」 をお楽しみに!
……ということで、次回は『変身』したネプテューヌ視点です。