超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
この章、実は5話構成にしようと思っていたのですが、長引きそうです。
それでは、輝くノスタルジア はじまります
……むぅ、ネプギアばかりずるい。
わたしは赤い顔でネプギアから日焼け止めを受け取った夢人を見て、悔しくなった。
どうしてわたしはこんなに幼い体型をしているんだろう。
今ほど、早く大人になりたいと願ったことはない。
わたしの水着はロムちゃんとおそろいの体をすっぽりと覆っているワンピースのような水着、えっとスクール水着って言うのかな?
スクールって学校って意味よね? わたし達学校には行っていないけど、着ても大丈夫なのかな?
わたしが紺色で、ロムちゃんが白。胸の辺りには布が縫い付けられていてひらがなで『ろむ』『らむ』と名前が付けられている。
わたし達の水着は全部ベールさんに用意してもらったんだけど、今だけはこのチョイスを恨みたい。
背中まですっぽりと覆っているこの水着は、ネプギア達のように日焼け止めを塗ってもらう必要がないのだ。
手や足なら自分で塗れるし、そもそも少しくらい日焼けしてもいいと思っていた。
ひりひりして痛いのは嫌だけど、今日は皆と一緒に遊ぶことを優先したい。
せっかくの海なのだ。ルウィーでは雪合戦はできるけど、海水浴なんてめったにできないのだ。
今日は思いっきり泳ぐぞーって、ロムちゃんと一緒に楽しみにしていたんだ。
……でも、今のネプギアを見て考えが変わった。
日焼け止めを塗るのって、もしかして男の人へのアピールなの!?
これまではただ日焼けを防ぐために塗るんだって思ってたんだけど、海では違う意味を持つのかもしれない。
だって、ネプギアは恥ずかしそうにしているが、どこか嬉しそうに見える。
この前の温泉での勘違いから、もしかしてと思ってたけど、これはマズイかもしれない。
ネプギアが夢人のことを意識してる……こ、これはマズ過ぎるよ!?
ただでさえユニちゃんやナナハちゃんって言うライバルがいるのに、ここに来て夢人の本命が参戦してくるなんて……しかも、2人は両想いじゃない!?
ま、まだよ。勘違いしたってことは、まだ2人は恋人同士じゃないってことよね?
なら、まだ可能性はあるわ。
……で、でも、どうすればいいの?
わたしは周りの皆と自分の体型を比較して、どうしても埋めることのできない差を理解して体が少しだけ震えてきた。
わたしとロムちゃんからしたら、他の皆は大人だ。
スタイルって意味だけじゃなくて、精神的にも大人なんだと思う。
先ほどユニちゃんとナナハちゃんが、ノワールさんとベールさんに連れて行かれる前に夢人に話しかけようとした姿を見て、余計にそう感じた。
あの2人はネプギアが夢人のことを好きになったことを知っていたのかもしれない。
だって、2人は日焼け止めのボトルを持って夢人に近づこうとしていたもん。
わたしは日焼け止めが男の人へのアピールだなんて知らなかったけど、2人は知っていたんだろう。
そのうえで、夢人にアピールするために動こうとしていたんだと思う。
……正直な話、わたしはネプギアに夢人のことを好きになってもらいたくなかった。
夢人の片思いは知ってたし、普通なら2人が幸せになることはいいことなんだと思うよ。
でもね、嫌なんだ。
絶対にわたしの方が先に好きになったと思うのに、後から好きになったネプギアが全部持って行っちゃうんだ。
わたしのこの気持ちも、全部なかったことにされてしまう。
……嫌な子だな、わたし。
夢人のことが好きなら、ユニちゃんやナナハちゃんのように頑張らないといけないのに、わたしはただ文句を並べてるだけだ。
自分がどうしようもなく子どもに思えてしまう。
わたしがネプギア達と同じ大人だったら、こんな風に考えないですんだのかな?
今の自分が嫌いなわけじゃないけど、早く大人になりたいなぁ。
そうすれば、わたしも夢人に妹ではなく、女の子として見てもらえるのに……
「ラムちゃん、大丈夫?」
「……あ、うん、大丈夫だよ」
ロムちゃんがわたしが震えているのに気づいて、手を握ってくれた。
それだけで体の震えが止まった。
「ありがとう、ロムちゃん」
「うん……ラムちゃんはネプギアちゃんが羨ましい?」
わたしはロムちゃんに心を読まれたのかと思って、びくっと肩が跳ね上がった。
わ、わたしそんなに羨ましそうに見てたのかな?
いくらロムちゃんでも恥ずかしいよぉ。
でも、ロムちゃんには隠しごとなんてできないし、正直にわたしは答えた。
「……うん、早く大人になりたいなって思ってたんだ」
「今のままじゃ、ダメ?」
「ううん、ダメじゃないよ……でも、嫌なんだ」
子どものままでいることはダメなことじゃないと思う。
でも、夢人のことが好きな女の子としてのわたしは、子どものままじゃいられない。
一緒に居たいって気持ちだけがどんどん膨らんじゃって、どうすればいいんだかわからないよ。
「ラムちゃん……そうだ(こそこそ)」
「……え? でも、いいの?」
「うん、わたし達も頑張る。夢人お兄ちゃんに好きになってもらいたいでしょ?」
「……うん、そうだよね。頑張ろう、ロムちゃん!」
わたしはロムちゃんに内緒話された内容に驚いたけど、すぐに頑張ることを決めた。
わたしはわたしの気持ちに、もう嘘なんてつかない。
子どもなわたしだけど、この気持ちは本物なんだ!
ロムちゃんと一緒に妹を卒業して、夢人に女の子として見てもらう!
そこからは負けないよ!
いくら仲良しのロムちゃんが相手でも、わたしだって夢人の一番近いところに居たんだから!
よーし、そうと決まったら早速やろう、ロムちゃん!
* * *
「じゃ、じゃあ、始めるぞ」
「は、はい」
俺は未だ震える手で日焼け止めのボトルを握りしめた。
目の前には、砂浜に敷いたシートの上にうつ伏せになって寝転ぶネプギア。
ひ、日焼け止めってどうやって塗るんだっけ?
俺はボトルのラベルを見ようとするが、手が震え過ぎてラベルの小さな文字がよく見えない。
と、止まれよ、俺の腕。
脇をしめて両手でボトルを押さえることで、ようやく文字が読めるようになった。
な、なになに? まずは手のひらに適量を取り出して、力を込め過ぎないでまんべんなく塗る?
て、適量? ど、どのくらいなんだろう?
とりあえず、ボトルから開けて手のひらに出してみよう。
あ、結構冷たいんだな。
じゃあ、手のひらで温めた方がいいのか?
俺は少しだけ手のひらで日焼け止めを伸ばしてから、ネプギアの背中にそっと手を置いた。
「あっ」
「ど、どうした!?」
「き、気にしないでください!? ……お、お願いします」
こ、これでいいのかな?
俺は塗り残しがないように、ゆっくりとネプギアの背中に日焼け止めを塗って行く。
こ、これはマズイかもしれない。
女の子の肌ってこんなに、すべすべしているものだったんだ。
手を握る位しかしたことがなかったから、知らなかったけど、男の肌とこんなにも違うものだったのか。
触ってて気持ちいい……って、俺はなに考えてるんだ!?
煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散!!
俺も水着だから、こんなところで変なこと考えちゃいけないだよ!?
これがネプギアにばれたら、確実に嫌われてしまう!?
ど、どうすればいいんだ!?
……ああでも、この手を離したくないって思ってしまう。
もっとネプギアに触れていたい……って、駄目だ駄目だ駄目だ!!
照りつける太陽の熱のせいで、余計に頭が熱くなってまともに思考ができなくなってきた。
だ、誰か助けてください!?
このままじゃ、熱に浮かされたまま暴走しちゃいそうだよ!?
誰でもいい、誰かこの空気を破壊して……
「夢人さん、ちょっといいですか?」
「……ふぇ? ブッ!?」
声を掛けられた方を向いた瞬間、吹き出してしまった。
「わたし達にも、塗ってくれませんか?」
……そこには、ロムとラムが合体変身した姿、ホワイトシスターがスクール水着を着て立っていたのだ。
しかも、水着がぱっつんぱっつんで、肩にかかってる紐もずらされている。
ものすごい犯罪臭がするんですけど!?
* * *
わたしとラムちゃんは今、合体変身してホワイトシスターになってる。
理由は、夢人お兄ちゃんに日焼け止めを塗ってもらうため。
わたしは夢人お兄ちゃんに日焼け止めを塗ってもらってるネプギアちゃんが羨ましかった。
ネプギアちゃんが恥ずかしそうにしながらも、幸せそうに見えたから、わたしもやってもらいたいと思ったの。
ラムちゃんもきっと同じ。
だって、ラムちゃんはずっと夢人お兄ちゃんとネプギアちゃんの方を見てるんだもん。
ラムちゃんにネプギアちゃんが羨ましいか聞いてみると、早く大人になりたいって答えてくれた。
……大人と日焼け止め、どう関係しているんだろう?
別に今のままで日焼け止めを塗ってもらってもいいんじゃないかな?
ラムちゃんはダメじゃないけど、嫌みたい。
わたしもできるなら、早く大人になりたいよ。
そしたら、夢人お兄ちゃんを卒業して、夢人さんって呼ぶつもりなんだし。
……そうか。ラムちゃんはまた嘘をつこうとしているんだ。
ラムちゃんは夢人お兄ちゃんのことを好きな気持ちに……自分の気持ちに嘘をつこうとしている。
温泉の時に、勘違いして逃げ出しちゃったネプギアちゃんと一緒。
自分の気持ちに正直ならないのは、一番ダメ。
夢人お兄ちゃんが好きなら、ちゃんと好きなままでいないとダメなんだ。
だから、わたしはラムちゃんと一緒に頑張る。
夢人お兄ちゃんに、ネプギアちゃんのように好きになってもらうために頑張るんだ。
まずは真似っ子でも、ネプギアちゃんと同じように日焼け止めを塗ってもらおう。
ラムちゃんが大人じゃなきゃ嫌だって言うのなら、ホワイトシスターになればいいんだ。
これで本当にラムちゃんと一緒に頑張れるね。
……でも、ちょっと水着が窮屈だな。
手とか足とか、特に胸がきつい。
少しだけ肩の紐をずらそうかな?
「……おい、テメェらなにしてやがる」
「お、お姉ちゃん?」
わたし達が夢人お兄ちゃんに日焼け止めを塗ってもらうようにお願いしていると、お姉ちゃんが俯きながら声をかけてきた。
あ、これは怒ってる時の声だ。
そう思った時には、すでに遅かった。
「そんな風にポンポンと『変身』してんじゃねぇ!!」
「ご、ごめんなさい!?」
「待ちやがれ!!」
わたし達は慌てて謝って、お姉ちゃんから逃げ出した。
「ぐがっ!?」
『きゃあああ!?』
途中で何かを踏んだみたいで、転んだ拍子に『変身』が解けちゃった。
「お、おい、大丈夫か!?」
「う、うん」
「だ、大丈夫」
転んだわたし達にお姉ちゃんは心配そうに駆け寄って、手を貸して立ち上がらせてくれた。
「よかった……それにしても、穴、よね? どうしてこんな変な所に開いてるのかしら?」
わたし達が躓いた原因は、砂浜に穴が開いていたことらしい。
合体変身なんてずるしようとした罰が当たったのかな?
夢人お兄ちゃんには、ちゃんとわたし達のままで好きになってもらわないといけないってことなのかな?
* * *
……うん、少しだけ冷静になれたよ。
人間、予想外のことが起こると冷静になれるって本当なんだろうな。
「……ゆ、夢人さん? お、終わったんですか?」
「……うん、終わったよ」
ネプギアはずっと顔を伏せたままだったので、ホワイトシスターを見ていなかったらしい。
うん、塗り過ぎはいけないから、これで終わりにしよう。
……ネプギアのためにも、俺のためにも。
* * *
「パパー!! いっしょにおよごう!!」
波打ち際で、子ども用の浮き輪をつけたアカリが夢人を呼んでいる。
周りにはネプギア達がいるから、波にさらわれることはないだろう。
夢人はそんな風にアカリに呼ばれているにもかかわらず、砂浜に座って手を振るだけだ。
「夢人くんは泳がないの?」
「……ああ、うん」
5pb.がずっと砂浜に座ったままでいる夢人を心配して声をかけるのだが、夢人にはどうしても動けない理由がある。
「ここでなら荷物番なんて必要ないし、アカリちゃんと一緒に泳いできなよ」
「……いや、そのさ」
5pb.が善意の言葉に、夢人は気まずそうに視線をそらした。
「……俺、泳げないんだ」
「え、そうなの?」
「……ああ」
……そう、夢人は泳げなかった。
これがもし、アカリが砂浜で遊んでいたのであれば、夢人も一緒に遊べたのであろうが、泳ぐことだけはできなかった。
「俺よりも5pb.は泳がないのか?」
「ボク? うん、ちょっと泳ぐのは遠慮してるよ。もしも海水が口に入った時に、喉を痛めちゃうといけないからね」
5pb.は喉を指さしながら苦笑して夢人に説明した。
「海水を飲んじゃうと喉が渇くでしょ? そのせいで声が枯れちゃうといけないからね」
「ああ、なるほど。5pb.は、音楽アーティストだから余計だよな」
「うん。今は活動を休止しているけど、平和になったらまた皆にボクの歌を聴いてもらいたいからね」
5pb.は目を細めながら、波打ち際で遊ぶアカリ達を見て、柔らかくほほ笑んだ。
「今は戦うための歌を歌っているけど、ボクは皆を元気にするための歌を歌うために歌手になろうとしたんだ。だから、犯罪組織との戦いが終わったら、ゲイムギョウ界中を回ってボクの歌を皆に聴いてもらいたいよ」
「……そっか、すごいな」
「そんなことないよ。夢人くんこそ、どうなの?」
「俺?」
「そうだよ。夢人くんはどうして勇者になろうとしたの?」
夢人は手のひらで顔を隠しながら背中を倒して仰向けになった。
「……俺、悩んでいるように見えた?」
「うん。ちょうどブレイブ・ザ・ハードに会う前の夢人くんぽかったかな?」
「……ああ、納得」
夢人は5pb.の言葉に納得した。
開き直って遊ぶことを決めたと言っても、やはり頭の中ではずっと悩んでいた。
自分になにができるのか……5pb.の言う通り、ブレイブに会う前の夢人も同じようなことを考えていた。
自分だけの特別な力を欲しがっていた。
「ボクから言えることは、夢人くんは夢人くんらしく頑張ればいいんじゃないかな?」
「俺が、俺らしく?」
「言っちゃ悪いんだけど、夢人くんはかっこ悪くていいと思うよ」
「うっ」
夢人は5pb.の思わぬ言葉にうめいてしまった。
5pb.にそんなことを言われるなんて思わなかったのである。
「ごめんごめん。でも、かっこ悪いって言うのは悪いことじゃないんだよ」
5pb.は困ったように笑いながら夢人に謝罪し、目を閉じて何かを思い出しながら言葉をつづけた。
「自分に何ができるのかって悩んじゃって、その答えがわからないのは怖いよ。ボクだって、今でも本当に皆を元気づけられているのかがわからなくて怖い時があるもの。そんな時は、思いっきりやるしかないんだ」
「思いっきり?」
「そう、ボクもデビュー当初は緊張し過ぎちゃって、歌詞が飛んじゃったことがあるんだ。それでも笑顔で、失敗しても全力で歌いきるの」
5pb.は懐かしむように口元を緩めながら、空を見上げた。
「そうやって何度もやってきたら、いつの間にか有名アーティストになってた。人見知りだったボクが、皆の前で歌うことに慣れちゃったの。ふふふ、おかしいよね? 歌う時だけ強気でいられるなんて」
「そんなことないさ……それが5pb.の強さなんだろう、っと」
夢人は上半身を起こすと立ち上がり、5pb.に快活な笑みを見せた。
「アカリ達のところ行ってくるよ。励ましてくれてありがとう」
「そんなお礼を言われることはしてないよ。ボクにはこれくらいしか言えないから」
「そんなことないって。いつだって5pb.の歌は俺達を勇気づけてくれるよ……おーい、今行くぞ!」
そう言って、アカリ達の所に向かって走って行った夢人の後ろ姿を見て、5pb.は柔らかく笑みをこぼした。
「……うん、ありがとう夢人くん」
という訳で、今回はここまで!
5話構成にしようと思っていたのですが、まだまだバカンスが終わりそうにありません。
多分、後2話くらい続くと思います。
それでは、 次回 「戸惑いのチャレンジ」 をお楽しみに!