超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
さて、今回でこの章もラストです。
それでは、 与えられたもの はじまります
「……久しぶりだね」
「……ああ」
私とユニは駅に向かう途中に出会ったレイヴィスを連れて、ラステイションの公園にやってきた。
私を挟んで2人がベンチに座っているんだけど、空気が重い。
ユニはレイヴィスをずっと険しく見ているし、レイヴィスもずっと俯いている。
私を挟んでそんな空気を出さないで欲しいな。
「夢人がいなくなった後、勝手にどこかに行っちゃって心配してたんだよ」
レイヴィスはギョウカイ墓場で夢人が消えた後、1人で勝手にどこかに行ってしまった。
私達も夢人が消えてしまったことと、ネプギアの様子に手がいっぱいでレイヴィスにまで気を回す余裕なんてなかった。
「元気にしてた? って聞くのもおかしいと思うけど、無事でいたみたいでよかったよ」
「……ナナハ、アンタなに言ってんのよ」
私がレイヴィスに話しかけていると、ユニが私とレイヴィスを睨んできた。
「そいつがアンタにしたことを忘れたわけじゃないでしょ。そいつはアンタを洗脳して、バグだなんてふざけたことを言ってたのよ。挙句の果てには、アンタを利用してリーンボックスをめちゃくちゃにしたじゃない」
「……ユニ」
「そいつもアンタやフェルと同じ『転生者』って奴で、苦しんでいたって言うのは知ってるわ。でもね、アタシはそいつがしたことを許せそうにないのよ」
「……別に許してもらう必要なんてない」
俯いていたレイヴィスが眉間にしわを寄せながら、ユニを睨み返してきた。
でも、この顔は……
「どういう意味かしら」
「言った通りだ。俺は別に貴様らの許しなんて求めていないと言ったんだ、ラステイションの女神候補生」
「……ふーん、つまりなに? アンタは自分がやったことが間違ってなかったとでも言うつもりなのかしら?」
「そうだ」
「っ、ふざけんじゃないわよ!!」
座っていたベンチを強く叩きつけて、ユニはそれこそ殺さんばかりの勢いで前のめりになってレイヴィスを激しく睨みだした。
……あ、でも、急に叫ばないで欲しかったな。
ちょっと耳がキーンとするよ。
「自分だけが被害者面してんじゃないわよ!! アンタと同じ『転生者』でも、前を向いてる奴がいることをアタシは知ってるわ!!」
「……そこの女と魔物使いの少年か」
「そうよ!! フェルもアンタと一緒で女神とこの世界を恨んでいたわ。でも、アンタのように誰かを巻き込んで平気そうに自分が悪くないだなんて言わなかったわ!!」
「ユニ、それは違……」
「ナナハは黙ってて!! この子だってそうよ。『特典』なんて意味のわからないもののせいで、女神の力を発現して苦しんでいたわ。本当だったら、女神のことも、この世界のことも恨んでよかったはずなのに!!」
……うん、確かに私が『特典』でもらった『才能』のせいで女神の力が発現した時は恐怖したよ。
自分が自分じゃなくなってしまったと錯覚して、この世界に生きる私が怖くなった。
「……それがどうした」
「何ですって?」
「それがどうしたと言ったんだ。俺はその2人とは違う。俺は間違ったことなんて1つもしていない」
「レイヴィスも落ちつい……」
「黙っていろ。そんな俺がどうして許してもらう必要がある? 俺は間違ってなんかいない」
「じゃあ、アンタのせいで苦しんだ人達はどうでもいいって言うの!!」
「……俺には関係ない」
「アンタね!!」
2人が私を無視して互いに睨みあっている現状に、私はため息をついた。
……別に喧嘩するのはいいよ。
でも、それを私を挟んで行わないで欲しい。
2人の視線がぶつかる場所から、つまりちょうど私の場所辺りに火花が散ってるように感じて居心地が悪すぎる。
しょうがない、ここは2人に落ちついてもらおうね。
「はい、そこまで」
『ふがっ!?』
私は手の甲で2人の鼻先を軽く叩いた。
2人は互いの姿しか見えていなかったので、急な私の不意打ちに反応できず、顔をのけぞらせてしまった。
「な、何するのよ!?」
「2人が私を無視して言い合ってるのが悪いんでしょ?」
「うっ、それは悪かったけど……」
「それにユニ、そんな風に私のことを考えていてくれたんだ。嬉しいよ、ありがとう」
先ほどユニが言った言葉、私は嬉しかったんだよ。
ユニって素直じゃないからどんな風に私のことを思ってるのかわからないんだもん。
あんな風に私のことをわかっていて、怒ってくれるだなんて思わなかったよ。
「なっ!? 違うわよ!? 別にアンタのことなんて……」
「本当、素直じゃないよね。でも、ありがとう」
「ああもう!! だから、なんでそんなこと言うのよ、アンタは!? ……ふん」
鼻を押さえて涙目で睨んでいたユニだったが、最後には頬を染めてそっぽを向いてしまった。
こう言う素直になれない仕草が可愛いと思うんだけどなあ。
ユニは終わったから、次は無言でこっちを睨んでいるレイヴィスだね。
「それじゃ、レイヴィス」
「……なんだ貴様も何か文句が……」
「歯、食いしばってね」
私は思いっきりレイヴィスの頬を叩いてやった。
* * *
「……何のつもりだ」
レイヴィスは叩かれた頬を押さえながら、ナナハを睨んだ。
「貴様が俺のことを恨んでいるのは知っている。だが、こんなことをされても俺は貴様に許してもらおうとは……」
「……あのさ、ひと言言わせてもらうよ」
ナナハはレイヴィスの言葉を遮り、呆れたように目を細めながら言い放った。
「バッカじゃないの」
「……は?」
「なに難しい顔で表情固めて我慢してるの? そんな無理ばかりしてると体壊れちゃうよ」
レイヴィスはナナハの言葉が自分の予想とは違うものであったため、驚き目を見開いてしまった。
ナナハの口からは自分に対する恨み事が紡がれると予想していたのに、まさか馬鹿呼ばわりされるとは思っていなかったのである。
驚いたレイヴィスの顔を見て、ナナハは満足そうに頬を緩ませた。
「それじゃ、まるで死んでいるのと同じ……って、私の言葉じゃないんだけどね」
「……なにが……言いたい?」
「わからない? 私はあなたのこと、恨んでなんかいないよ」
「ナナハ!? なに言ってんのよ、アンタは!?」
ユニはナナハの言葉が信じられず、強く肩を掴んで自分に振り向かせた。
「そいつがアンタになにをしたのか忘れたわけじゃないでしょ!? そいつはアンタのことを……」
「うん、全部覚えてるよ」
「だったら、なんで!?」
ナナハは、ユニの今にも泣き出しそうな悔しさをにじませた顔で見つめられ、ユニを安心させるように嬉しそうにはにかんでみせた。
「ありがとう、ユニ。私のこと、心配してくれて」
「そんな言葉聞きたくないわよ!! なんでアンタはそいつのことを恨まないのよ!! なんで、何でなのよ!!」
ユニは体を震わせながらナナハに訴えた。
肩を掴む指の爪がナナハに食い込むが、ユニには気にしている余裕なんてない。
ユニには、どうしてナナハがレイヴィスを恨んでいないのかが理解できなかったのである。
「だってさ、レイヴィスも私と同じだから……誰かと一緒に居るのに臆病になってる。怯えているんだよ」
その言葉にユニだけでなく、ユニの叫びを聞いて少しだけ視線を俯かせていたレイヴィスも肩を震わせた。
ナナハは柔らかく笑みを浮かべて、驚き呆然としているユニの髪を優しくなで始めた。
「許してもらう必要がない……当然だよね、その許してもらう人と一緒に居るのが怖いんだから。間違っていない……その通りだよ、誰だって自分の生き方を間違いだなんて思いたくないもんね」
「勝手なことを言うな!!」
呆然とナナハの言葉を聞いていたレイヴィスだったが、我に帰ると歯をむき出しにしながらナナハを睨みつけた。
「誰が臆病になってるだ!! 俺は怯えてなどいない!!」
レイヴィスの叫びを聞き、ナナハはゆっくりとレイヴィスへと視線を戻すと、困ったように眉を下げた。
その態度がよりレイヴィスの怒りを増幅させた。
「なんだその顔は!! 俺を憐れんでいるのか!! 勝手な想像ばかり並べて、俺を馬鹿に……」
「だったら……だったら、どうして名前を呼ばないの?」
「……え」
「レイヴィスは知ってるはずでしょ? ユニの名前、どうして呼んであげないの?」
怒りの表情が一瞬で崩れてしまったレイヴィスに、ナナハは安心したように口元を緩めた。
「レイヴィスはこの世界のこと知ってるはずでしょ? 私や夢人、フェルならともかく、ユニやネプギア達のことは知ってるはずだよね? でも、どうして名前で呼ばないの?」
「そ、それは……」
「近づくのが怖いんだよね……私も同じだった」
ナナハは言い淀んだレイヴィスの姿に、自分の考えが決して外れてはいなかったことを確信した。
なぜならば、今のレイヴィスの顔には覚えがあるからである。
「自分を守るのって結構簡単なんだよね。1人でいればいいんだから。自分を傷つけるものから逃げればいいんだからさ」
ナナハは初めて夢人達と出会った時のことを思い出しながら、柔らかく目元を緩めてレイヴィスに諭すように言葉を続ける。
「人と壁を作ってさ、自分は他人とは違う『特別』なんだって思いこむんだよね。そうしなきゃ、ちっぽけな自分が消えちゃうんじゃないかって不安になるんだ」
「違う……違う、俺は……」
「違わないよ。レイヴィスは自分が一番許せないんだよね。だから、無理して自分の中に閉じこもろうとしているんだよ」
片手で顔を隠して、力なく首を左右に振るレイヴィスの姿に、ナナハはかつての自分の姿を重ねた。
「今のレイヴィスの壁は夢人のおかげで壊れてる。でも、レイヴィスは壁の向こうで座ったまま。どうすればいいのかわからないんだよね」
「だったら……だったらどうなんだ!!」
レイヴィスは瞳に涙を浮かべ、悲痛な叫びをあげた。
「仮に貴様が言ってることが正しいなら、俺はいったいどうすればいい!! 俺はいったいどうすれば前に進める!!」
「……そんなの簡単だよ。顔を上げて」
レイヴィスがゆっくりと顔を上げると、ナナハは柔らかく笑みを浮かべながら手を差し出してきた。
「名前を呼んで手を握って。私の名前はナナハだよ」
「アンタなに言って……」
「ほら、ユニも」
「って、勝手に手を引っ張らないでよ!?」
レイヴィスには目の前に差し出された2つの手とナナハの言葉の意味がわからなかった。
名前を呼んで手を握っただけでなにが変わるのかがわからない。
「ほら、レイヴィスも見てるだけじゃダメだよ」
「こ、これにどんな意味があるって言うんだ。こんなことしても……」
「意味ならあるよ。名前を呼べば相手が見えて、手を握れば繋がれるんだ。とっても大事なことだよ」
困惑するレイヴィスに優しく言葉を続けていく。
「私もレイヴィスも、『転生者』で嘘のような第2の人生を送ってる。でもね、私達は今生きているんだよ。この胸にはちゃんと本物がある」
「……本物」
「心……生まれや姿は変わっちゃったけど、心は生き続けてる。絶対に変わらない真実があるんだよ……だから、自分が生きてることにまで嘘をつかないで」
レイヴィスは自分の手のひらと差し出されている2人の手を見比べながら、顔を歪ませてゆっくりと手のひらを閉じた。
「……悪い、俺は手を握れそうにない」
「……そっか」
レイヴィスはベンチから立ち上がり、2人に背を向けて公園の出口へと顔を向けた。
ナナハはそんなレイヴィスの後ろ姿を悲しそうに見つめた。
「じゃあさ、忘れないでね。レイヴィスには差し出されている手があるってことを。でなきゃ、また叩いてでも思い出させるからね」
「……わかった」
レイヴィスはナナハの言葉に頷くと、ゆっくりと出口へと足を進めたが、何かを思い出したように一度立ち止まった。
「……勇者に伝えてくれ」
「夢人に?」
「早く欠片を集めろ。悪魔はすでに復活している、と」
2人にはレイヴィスの言葉の意味がわからなかったが、その声から彼が真剣だということを理解した。
「わかった。伝えるよ」
「……ありがとう、ナナハ、ユニ」
「え? 今……あれ?」
2人がレイヴィスが自分達の名前を呼んだと思った次の瞬間、瞬きをする間にレイヴィスの姿は消えてしまっていた。
「……行っちゃったか」
「……そうね。でも、アンタって本当に大物よね」
ユニの呆れながらも口元に笑みを浮かべている顔を見て、ナナハも柔らかくはにかんだ。
「大したこと言ってないよ。私のはただの受け売り」
「そっか……」
2人はそろってベンチから空を見上げた。
自分達が好きな相手を思いながら……
* * *
フィーナが薄く笑みを浮かべながら、鋭く伸ばした指先で夢人の後頭部を貫こうとした時であった。
フィーナの指は夢人の頭に当たる手前で止まった。
(……これは)
フィーナは目を見開き何かに驚愕していた。
(……そう……そうなのね……だから、アイツは)
フィーナは自分の中で考えがまとまると、ゆっくりと指先を夢人から離して、人差指の先を軽く舐めた。
「うふふ」
「ん? どうかしたか?」
「いいえ、何でもないですよ。さて、あまり長い間拘束させてしまいますと、恋人さんにも悪いですね」
「だ、だから、恋人じゃ……」
「そんな御波さんに私からアドバイスをあげますね」
フィーナは椅子から立ち上がると、座っていた夢人の額に指をくっつけた。
「大事なのはイメージです。ああしたい、こうしたいと思い浮かべることが大切なんですよ。そこに正解も不正解もありません。例え、それが恋でも魔法でも」
「……フィーナ?」
「ですが、気を付けてください。強すぎるイメージは、決して消えることなく残り続けます。それこそ、白を黒に変えるほどのね」
「……なにを言ってるんだ?」
「うふふ、ちょっとしたアドバイスですよ。ほら、もう列車が発進しますよ」
フィーナの言い回しに不思議なものを感じた夢人だったが、フィーナはただにこりと笑うだけだった。
すると、確信めいたフィーナの言葉通り、駅構内に列車が発車するとのアナウンスが入り、夢人は自分が列車を降りた理由を思い出した。
「って、あああ!? まだ弁当買ってない!?」
夢人はフィーナと話しこんでいたため、当初の目的である食べ物を買えていなかったのである。
「い、今から急いで買えば……」
「はい、どうぞ」
夢人が慌てて売店へと向かうため立ちあがった時、フィーナは笑みを浮かべながら白いビニール袋を差し出してきた。
「これは私に付きあってくれたお礼ですわ。どうぞ、受け取ってください」
「え、こんなのいつの間に?」
夢人はビニール袋の中に入っていた駅弁をフィーナがいつ買っていたのかわからなかった。
自分と話しをする前にはこんなものをフィーナは持っていなかったはずだと。
「うふふ、乙女の秘密ですわ。それに、もう列車も発進してしてしまいますよ」
「へ……って、そうだった!? これいくら!? お金なら……」
「言ったでしょ? これはお礼ですよ。だから、気にしないでください」
フィーナはやんわりと夢人が財布を取り出そうとするのをやめさせて、列車の扉を指さした。
「ほら、早くしないと行ってしまいますよ?」
「あ、ああ。それじゃ、次に会った時には必ずお礼をするから!」
「うふふ、楽しみにしてますね」
そう言って、夢人が慌てて列車に乗り込むと同時に列車の扉がしまった。
フィーナは自分の前を通り過ぎていく列車を眺め、目を細めて大きな三日月の形に笑みを作った。
「……また会いましょうね」
* * *
「パパ、おそいよー」
「ごめんごめん」
夢人はネプギア達の所に戻ってくると、謝りながらネプギアの隣に座ってビニールの中に入っている駅弁を取り出した。
「でも、本当にどうしたんですか?」
「いや、ちょっとな」
夢人はフィーナのことをネプギアに言おうかどうか迷ったが、結局言わないことにした。
(フィーナと話した内容は絶対に言えないからな)
もしフィーナと話したと言ったら、何を話したのかもいわなければならないと感じた夢人は、ネプギア達にはフィーナと会ったことは秘密にしておこうと決めたのだ。
そんな夢人の様子を見て、首をかしげていたネプギアだが、夢人が話さないとわかると自分の分の駅弁を食べ始めた。
夢人は駅弁を食べながら、最後にフィーナに言われた言葉を思い出した。
(イメージ、か。フィーナはいったい何が言いたかったんだ?)
夢人は列車がプラネテューヌに着くまで、ずっとフィーナの言葉の意味を考えていた。
* * *
〔終点、終点プラネテューヌです。お忘れ物がないようにお気をつけください〕
列車トラブルがあった後は、スムーズに私達はプラネテューヌに帰ってくることができた。
……せっかくの旅行、楽しめなかったな
私は自分が勘違いしたせいで、楽しいはずの旅行が台無しになったことを後悔していた。
夢人さんはまた一緒に旅行に行こうって言ってくれたけど、初めての旅行で失敗して、次も失敗してしまうのではないかと考えると怖い。
結局、夢人さんにもブランさん達にも迷惑をかけてばっかりだったし……
「なあ、ネプギア」
私が俯きがちに歩いていると、隣に居た夢人さんが急に立ち止まった。
私がどうしたのかと思い、夢人さんの方を向くと、夢人さんは頬を赤く染めて片手にアカリちゃんを、もう片方にはNギアを持って、私に提案してきた。
「写真、撮らないか?」
「写真ですか?」
どうして写真を撮ろうだなんて言うんだろう?
「いやさ、本当はあっちに居た時に撮ればよかったんだろうけど、旅行の記念として3人で写真を撮りたいんだ」
「ママ、いっしょにとろう!」
「で、でも……」
私は今回の旅行が形として残ることには反対だ。
わざわざ失敗した旅行を思い出になんて……
「ママ、おんせんたのしくなかった?」
「……ううん、温泉は気持ちよかったよ」
「わたしも! わたしもおんせんきもちよかった!」
アカリちゃんは無邪気に笑いながら、今回の旅行が楽しかったと言っていた。
私も温泉は楽しめたけど、夢人さん達のことを思うと、どうしても楽しかったなんて言えない。
「ごめんなさい、やっぱり写真は……」
「よし、それじゃアカリを中心に撮るぞ。ほら、ネプギアもしっかりアカリのことを支えてくれ」
「ママ、よろしく!」
「ちょ、ちょっと、夢人さん!?」
私が写真を撮ることを断ろうとしているのに、夢人さんは強引に私にアカリちゃんの体を支えさせると、自分でNギアに内蔵されているカメラのレンズを私達に向けた。
「うーん、こんな感じかな?」
「だから、私は写真は……」
「きれいにとってね、パパ」
「おう」
アカリちゃんまで写真を撮る気で笑顔でいる姿を見て、私はため息をついて諦めた。
……なんでこんな風に強引に写真を撮ろうとするんだろう。夢人さんの馬鹿。
内心で私の気持ちをくみ取ってくれない夢人さんへの恨み事を並べていると、夢人さんが柔らかくほほ笑みながらささやいた。
「ごめん、急にこんなこと言いだして」
「……もういいです。でも、どうしてですか?」
「今回の旅行のこと、しっかりと残しておきたいんだよ」
そう言った夢人さんの横顔に、私は胸が高鳴るのを感じた。
夢人さんの顔が近かったからではない。
その顔があまりにも嬉しそうで、幸せそうに見えたからだ。
「今回はちょっとハプニングがあったけど、それでもネプギアと一緒に温泉に行けてよかったよ」
「……で、でも、私は夢人さん達に迷惑をかけて、旅行もめちゃくちゃにしちゃったじゃないですか」
「迷惑? めちゃくちゃ? それって本当にいけないことか?」
夢人さんは私の方に顔を向けると、より笑みを深めた。
「一緒に入れて楽しかった。俺はそれだけで充分だと思う。ネプギアは違うか?」
……ずるいです。
そんな風に聞かれたら、私の中の不安が消えちゃいます。
「……はい、私も一緒に入れて楽しかったです」
勘違いしたおかげで聞けた夢人さんの気持ち。
私と一緒に居たいって言ってくれた言葉、嬉しかったです。
……そうだったんですね。
アカリちゃんを理由にしない夢人さんの気持ちを聞けただけで、私にとってこの旅行は成功だったのかもしれない。
ううん、違う。それはおまけ。
大切なことはもっと簡単なことだ。
「よかった。次の旅行は、もっと楽しい思い出を作ろう」
「はい!」
Nギアに映った私達はとても綺麗に笑えたと思う。
この旅行は私が考えていたように失敗なんかじゃなかったのだから。
……私にとって夢人さんと一緒にいる時間が成功の条件だったんですから。
次に行く時も、ずっと一緒ですよ。
* * *
「うふふ、ふふふふふふふふ」
〔えらくご機嫌ですね〕
「当然じゃない。あなたの言う通り勇者に会ってきたわよ」
フィーナはギョウカイ墓場に帰って来て、すぐにエヴァのいる部屋にやってきた。
その顔には喜びを抑えきれない様子で笑みが溢れていた。
〔その様子では、望むものが手に入ったようですね〕
「ええ! 今日ほどアイツに感謝した日はないわ!」
フィーナはその場でくるくると回りながら喜びを表していた。
「うふふ、アイツの言い方を借りれば、あの人は私にとって父様かしら? 愛しの父様、うふふふふふふ」
フィーナは嬉しそうに顔を緩ませながら、天井を見上げて回り続けた。
ひとしきり回ることに満足したのか、フィーナは目を回す様子もなく、コンソールに手を置くとエヴァに命令を下した。
「エヴァ、最優先で父様の情報を全て集めなさい。ゲイムギョウ界中に存在する父様の情報全てを」
〔了解しました。少々時間がかかりますが、構いませんか?〕
「ええ、構わないわ。でも、なるべく早くしてね」
〔かしこまりました〕
エヴァが命令通りに動いたことを確認すると、フィーナは浮かべていた笑みを深めた。
「父様、父様、父様……うふふふ、ふふふふふふふふふ」
フィーナの笑い声が静かに部屋に響き渡った。
その顔には綺麗過ぎるほどの笑みが浮かべられていた。
「きゃはっ」
という訳で、今回はここまで!
やっぱり、ベールの話は次回の女神通信に全部持ちこしにしました。
次回の女神通信では、ほとんどこの章のアフターを予定しております。
それでは、 次回 「帰ってきた女神通信(ベール編)」 をお楽しみに!