超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
この章も終わりが近づいてきました。
それなのにも、かかわらずあまり話が進んでいないように感じてしまう。
それでは、 不幸の中の幸福 はじまります
「ネプ、ギア? ……って、ごめん!」
夢人はフィーナの姿を見て、思わずネプギアの名前を呼んでしまった。
だが、すぐに失言だと気付き、慌てて謝ると、フィーナはおかしそうに目を細めた。
「あら? どうして謝るんですか?」
「えっと、君が俺の知り合いによく似てたから、ちょっと驚いちゃってさ」
「まあ、そうなんですか。偶然って怖いですね」
夢人は恥ずかしそうに頬を掻きながら、本当にそんなことがあるのかと、改めてフィーナの姿を見た。
黒ロリファッションの目立つ服装、暗めの青い配色の強い紫色の髪を腰まで伸ばし、右頬に近い部分の髪が柔らかく巻かれている。
背丈はネプギアよりも低いので、若干幼い印象を受けるが、その顔に浮かべられた笑みにはどこか影があるように、夢人は感じた。
「申し遅れましたわ。私、フィーナって言います」
「フィーナ、さん?」
「フィーナでいいですよ。あなたのお名前は?」
「あ、俺は御波夢人」
「そうですか。それでは、御波さん、少し話し相手になってくれませんか? 私、人を待っているのですが、少々早く着きすぎたみたいでして、暇を持て余しているんですよ。良ければ、話し相手になってくださいませんか?」
口元に笑みを浮かべたフィーナの顔と、差し出してきた手を、夢人は困ったように見比べた。
「ごめん。悪いんだけど、待たせてる人がいるんだ」
「そうだったんですか? もしかして、恋人さんだったりします?」
「ち、違っ!? い、いや、その……」
夢人は顔を真っ赤にさせて手を激しく振りながら否定した。
フィーナの容姿があまりにもネプギアに似すぎていたため、夢人はまるでネプギアから恋人がいるんですかと聞かれているように錯覚してしまった。
慌てて否定する夢人の姿が面白かったのか、フィーナは口元を隠して柔らかく目元を緩めた。
「うふふ、そんなに慌てなくてもいいじゃないですか」
「ご、ごめん」
「いえいえ、それに、少しだけでいいんです。お付き合いしてくれませんか?」
「ちょ、ちょっと!?」
「うふふ」
フィーナは恥ずかしさのあまり、顔をうなだれていた夢人の手を引くと、強引にプラットホームに設置されていた椅子に連れて行った。
夢人は突然のフィーナの行動になすがままになり、諦めたようにため息をついた。
それはフィーナの口元に笑みが浮かんでいたことと、握られた手から不思議な温かさを感じたためである。
「ごめんなさいね、強引で」
「……そう言ってるわりには、全然謝ってるように聞こえないんだけど?」
「うふふ、別にいいじゃないですか? 御波さんも座ってしまったことですし」
「無理やりね。それで、話をするって言っても、何の話をするつもりだ?」
「そうですね……せっかくですから、御波さんの話を聞かせてくれませんか?」
「俺の?」
隣り合わせで座っていたフィーナは、目を細めてにっこりと笑みを作って両手を合わせて、夢人に願い出た。
夢人は意外そうに自分の顔を指さして、フィーナに確認するように首をかしげると、フィーナは頷いて応えた。
「御波さんはこれからプラネテューヌに向かうのですか? もしかして、今回は待たせている人と旅行だったりするんですか?」
「いや、旅行の帰りなんだ。ルウィーの温泉に行って来て……」
「まあ、温泉ですか! それはさぞ楽しい旅行だったんでしょうね。やはり、待たせている人って恋人さんじゃないですか?」
「だ、だから、恋人じゃないって!?」
「うふふ、でも、一緒に温泉に行くほど仲の良い方なら、その方も御波さんのことをよく思っているんじゃないでしょうか?」
「そ、そうかな? そうだったら、嬉しいな……って、フィーナに言うことじゃないよな」
夢人はフィーナの言葉を聞いて口元に笑みを浮かべた。
嫌われていないとは思っていても、どうしても夢人には自信がなかった。
夢人が知ってるネプギアは誰にでも優しい女の子だったので、今回の温泉旅行やまた旅行に行こうっていう言葉は、全てアカリのためを思ってのことだと、無理やり自分に言い聞かせていたのである。
2人っきりと言っても、アカリは夢人から離れられないので、最初からネプギアはアカリのために、ああ言ってくれたのだと夢人は考えていた。
しかし、フィーナの言葉に少しだけ夢人は自信を持てたのである。
いくらアカリのためと言っても、好意的に思っていない相手と一緒に旅行に行くなんて考えられなかった。
(そうだよな。それに、俺がゲイムギョウ界に帰ってきた時なんて……ウェへへへへ)
夢人は自分がゲイムギョウ界に帰ってきた時に、頬に口づけされたネプギアの唇の熱を思い出した。
あの後は、アカリが急に現れたことや、ネプテューヌの『変身』前と後のギャップ、アイエフによる制裁を喰らってしまい、どうしてネプギアがあんなことをしたのかを聞いていなかった。
あの時は、自分もネプギアも普通では考えられないほど高揚していたし、衝動的に強く抱き合ったりもしたが、それはあの雰囲気だからこそだと思い込んでいた。
しかし、もしかしたら、と考えてしまい、夢人は浮かべていた笑みがだらしなく緩んでしまった。
「どうかしましたか?」
「あ、いや!? 何でもないって!? あ、アハハハハ!? それにしても、フィーナの待ってる人ってまだ来ないのか!?」
夢人はフィーナに見られていたことを思い出し、顔を真っ赤にしながら笑ってごまかそうとした。
そんな真っ赤な顔を見られたくなく、フィーナの待っている人物を探すため、彼女のいる方とは逆の方を振り向いた。
……夢人がフィーナに後頭部を見せると、彼女は今まで浮かべていた笑みを消し去り、冷たく目を細めた。
そして、ゆっくりと手を顔の位置まで持ち上げると、指をまっすぐに伸ばして手刀の形を作り上げた。
そして、指先を夢人の頭に固定すると、腕を引いた。
夢人はフィーナがそんなことをしているとは気付かず、フィーナに後頭部を晒し続ける。
フィーナは口元に薄く笑みを浮かべて、その指先を夢人の頭へと……
* * *
「コンパ~、プリンおかわり」
「はいです」
「ありがと~、はむっ……うみぇ」
ふぅー、コンパの手作りプリンは本当に美味しいよね。
わたしは、いーすんからの地獄の仕事漬けに耐え抜き、今こうして至福の一時を味わってるよ。
わたしがラステイションから帰って来たと思ったら、いきなり説教を始めるし、ゆっくんとネプギア、アカリちゃんが温泉に行くって言うから羨ましいなあと思ってると、耳を強く引っ張って仕事をさせ始めるんだもん。
仕事をさぼったわたしが悪いのはわかるけど、さすがにさっきまでずっと書類仕事させなくてもいいじゃん。
いーすんったら、休憩は1時間ですって言って、いくら女神の体が丈夫だからと言っても無理があるよ。
わたしはどっちかと言うと、行動派なんだから。
「うみゃいよ……コンパ~、おかわりもう1つ」
「……アンタはいくつ食べる気よ?」
実は、さっきからおかわりしっぱなしで、プリンの容器でちょっとしたタワーが作れちゃうくらい食べてる。
だから、あいちゃんは呆れながら聞いてくるけど、わたしはそれだけ頭に糖分が欲しいんだよ。
今までずっと頭使ってたんだから、今日はもう何も考えたくなんて……
「失礼しますわ!!」
「ねぷっ!?」
わたしはここで聞こえるはずのない声に、思わず咥えていたスプーンに力を入れ過ぎて、柄の部分が鼻先にぶつかってしまった。
痛くはないけど、驚いて仰け反ってしまったわたしは、座っていた椅子ごと後ろに倒れそうになってしまった。
「っととと!? ふぅ、何とか倒れずにすん……」
「ナナハは!! ナナハはどこに居ますの!!」
「ちょっ!? べ、ベール!? やめっ!? 倒れちゃう!?」
上手くバランスを取ることで、転倒することを防げたわたしの肩を、ここいるはずのない人物、ベールが強く掴み椅子ごとわたしを揺らし始めた。
「さあ、言いなさい!! ナナハをどこに隠したんですの!!」
「し、知らないよ!? ここにはいないよ!?」
「嘘おっしゃいなさい!!」
ベールは話を全然聞いてくれなくて、肩を掴む力と揺らす力が強くなってきた。
ナナハちゃんはプラネテューヌに来てないのに!?
そもそも、なんでナナハちゃんを探すのに、ここに来るの!?
「ベール様!? 落ちついてください!?」
「そうです!?」
コンパとあいちゃんは、わたしを助けるために、ベールの両腕を掴み押さえてくれた。
……でもね、急にベールを押さえちゃうとさ。
「ねぷっ!?」
『あっ』
椅子、倒れちゃうんだよね。
* * *
「……先ほどは少々取り乱してしまい、申し訳ありませんわ」
「……少々?」
わたしは倒れた拍子にぶつけた頭を押さえながら、ベールを眉間にしわを寄せながら見つめた。
たんこぶになってなければいいんだけどなあ。
っとと、わたし達は急にやってきたベールの話を聞くためにテーブルに着いた。
いーすん? 仕事の監督をずっとしてたから今は寝てるんじゃないかな?
実を言うと、わたしもすっごく眠い。
「今日、お邪魔したのは、ナナハがここに居るかもしれないと思ったからですわ」
「ナナハちゃんがどうかしたんですか?」
「……実は、家出をしてしまったんですの」
……はっ? 家出?
わたしが見た限りでは、ベールとナナハちゃんはすっごく仲の良い姉妹に見えたんだけど、それが家出?
「ベール、ナナハちゃんと喧嘩でもしたの?」
「そんなことありませんわ!! わたくしは、できうる限りの愛情をナナハに注ぎましたわ!!」
「……ちなみに、どんな愛情?」
「一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たり、一緒にショッピングに出かけたり、一緒にゲームをやったりしましたわ!!」
「……それって、ずっと?」
「もちろんですわ!!」
……うん、これはベールが悪いパターンだね。
いくらなんでも、ずっとべったりくっつかれたら、誰だってうんざりしちゃうと思う。
「それ、ベールが悪いよ。いくらなんでも、べったりし過ぎだと思うよ」
「そ、そんなこと言われましても……」
ベールは最初の勢いが消え去り、もじもじと指を弄りながら悲しそうに眉根を下げた。
「わたくし、どうやってナナハに接すればいいかわからないんですの」
「そんなの普通に接してあげればいいじゃん」
別に特別なことをする必要ないと思うんだ。
もちろん、ベールとナナハちゃんが本当の姉妹じゃないって知ってるよ。
それでも、一緒に過ごしていたんだから、いつもと同じように普通に接してあげればよかったんじゃないかな?
「ナナハちゃんが家出したのって、初めてなんでしょ?」
「も、もちろんですわ」
「ならさ、やっぱり、急にベールがべったりになったことが原因だよ。どうして急にそんなことしたの?」
これはベールに自覚させないとダメだね。
また同じようなことしたら、ナナハちゃんを見つけてもまた家出しちゃいそうだよ。
「……わたくし、実はナナハに嫌われていたと思っていたんですわ」
ベールは何かを思い出すように、苦しそうに顔を歪めた。
その表情は何かを後悔しているように見えた。
「わたくしが何をしても、ナナハは淡白な反応しか返してくれませんでしたの。そんな反応を繰り返されてしまい、やがて、わたくしはナナハに触れることを恐れるようになりましたわ」
「……確かに、最初に会った時のナナハってそんな感じだったわね」
「ですです。ギアちゃんやユニちゃんがいくら言っても、無視して教会から出て行っちゃいましたから」
あれ? ナナハちゃんってそんな子だったの?
わたしはナナハちゃんに会ったのは、この間のパーティーが初めてだけど、そんな子のようには見えなかったな。
どちらかと言うと、綺麗に笑う子ってイメージがあるんだけど。
「わたくしのことも、ベールって呼び捨てで呼んでいましたし、わたくし本当に嫌われていると思っていたんですのよ」
……うん、姉としてそれは傷つくよね。
もしも、わたしがネプギアから、ネプテューヌって呼ばれた日には枕だけじゃなくて、ベットまで水浸しになっちゃうくらい泣いちゃう自信がある。
「……それが変わったのが、ギョウカイ墓場から帰って来た後でした。あの時、初めてわたくしのことをベール姉さんって呼んでくれたんですのよ。わたくし、だらしなく頬が緩んでしまうのを押さえるのに必死でしたわ」
そう言うベールの表情は、本当に嬉しそうにはにかんでいた。
「聞けば、夢人さん達と出会ったことで変わったと聞きましたわ。わたくし、姉として何もできなかった自分を恥じると同時に、本当に嬉しかったんですの。だから、今度こそ、姉として最大限の愛を注いであげようと努力したんです」
「それでやり過ぎてしまった、と」
「そうなんですわ!! わたくし、頑張ったつもりでしたのに!!」
ベールは机に突っ伏して泣き始めてしまった。
「わたくし、本当にナナハとどう接したらいいのかわからなかったので、チカがわたくしにしていたようなことをしたり、ゲームを参考に努力したんですのよ!! なのに、なのに!!」
いや、チカさんの行動はともかく、ゲームを参考にするのはちょっと……
わたしが呆れた目で見ていたことに気付いたベールは、がばっと置き上がると、わたしを指さしながら睨んだ。
「考えてもみなさい!! 今まで淡白だった相手が、急に自分のことを好きって言うようになったんですのよ!! デレ期だと思ったわたくしを責められるんですの!!」
「いや、だから……」
「だったら、わたくしはいったいどうすればよかったんですの!!」
わたしがゲームと現実は違うって言おうとしても遮られてしまい、ベールはまた1人机に突っ伏してしまった。
気持ちはわからないでもないよ?
だって、わたし風に言うなら、ノワールが急に素直になったみたいなものでしょ?
……ぷっ、ノワルンのこと思い出しちゃった。
あの時は焦っちゃったけど、今にして思えば、すごい貴重な瞬間だったんだよね。
「まあ、理由はわかったけど、どうしてわたしのところに来たの?」
とりあえず、ナナハちゃんの家出はベールの行動のせいだってことで置いといて、どうしてプラネテューヌに来たのかを聞かなくちゃね。
「……ここなら夢人さんもいますし、ナナハが来るとしたら、ここしか考えられないってチカもおっしゃっていましたわ」
「ゆっくんがいるから? どうして、ナナハちゃんがゆっくんに会いに来るって言うの?」
「何を言ってるんですの? そんなの、ナナハが夢人さんのことを好きだからに決まってるじゃないですか」
そっかそっか、ナナハちゃんはゆっくんのことが好き……って、ええええええ!?
「ちょっ!? それ、どういうこと!? ゆっくんはネプギアの彼氏でしょ!?」
「あなたこそ、何をおっしゃってますの?」
「……ネプ子、アンタ勘違いしてたみたいだけど、アイツらは恋人同士なんかじゃないわよ」
……え? そうなの?
わたしが3人を見渡すと、3人はそれを当たり前のように……って、コンパだけはわたしと一緒で目を白黒させてる。
「え? 何を言ってるですか、ねぷねぷ。ナナハちゃんが夢人さんに告白したってことは聞いたですが、ギアちゃんと付き合ってるってことは聞いたことがないですよ」
あ、これ、わたしに対しての困惑だった。
……もしかして、わたしだけ知らなかった?
* * *
「私に聞きたいこと?」
「はい、ノワールさんに是非聞きたいことがあるんです」
私は夕食の後で、昨日からラステイションに泊まっているナナハから質問をされた。
私は食後に、書類仕事の続きをしようと思っていたので、ナナハ、そしてなぜか誇らしげにしているユニを連れて執務室に案内した。
ここでなら、質問が終わってもすぐに仕事を始められるしね。
2人には悪いけど、こちらの都合を優先させてもらおう。
「それで、何が聞きたいのよ」
私は対面のソファーに座った2人にコーヒーを渡して、自分もひと口飲むために口に含んだ。
……これはB.H.C.じゃないわよ。
「ノワールさんに、男の人を魅了する方法を聞きたいんです」
「ぶっ!?」
ナナハの質問があまりにも意外過ぎて、思わず噴き出しそうになったが、なんとか耐えることができた。
いきなりなんの質問をしているんだ!?
「実は、私達、今片思いをしている相手がいるんですよ」
「私達、ってユニもなの?」
「うん」
私が確認するために尋ねると、ユニが恥ずかしそうではあったが、嬉しそうにはにかんで頷いた。
……全然気付かなかった。
ユニにそんな相手がいるだなんて。
「実は、その相手がちょっと厄介な相手なんです。そこでノワールさんに力を貸していただきたく……」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!? そこでどうして私なの!?」
自慢にならないけど、私に男性経験なんてないわよ!?
それなのに、恋愛相談を持ちかけられて、どう答えればいいって言うのよ!?
「実は、私達も相手が初恋の相手なので、どうしていいのかわからないんです。そこで、私達の身近にいて、最もそういう経験が多そうなノワールさんの経験を聞かせて欲しいんです」
なにこの子!? 私をそんな目で見てたわけ!?
私はそんな何人もの男と付き合うような、尻の軽い女だと思われてたの!?
私の視線に気づいたナナハが、両手を打ち合わせて笑みを浮かべた。
「あ、別にノワールさんのことを軽い女だなんて思っていませんよ」
この子、エスパー!? なんで私の考えがわかるのよ!?
「私のイメージなんですけど、女神の中で一番男の人に魅力的に映る方って、ノワールさんだと思うんですよ」
……ほ、ほう。
「ベール姉さんは言葉遣いから近寄りがたい雰囲気がありますし、ブランさんも幼さが残っているイメージがありますよね。ネプテューヌさんも『変身』後ならともかく、前はブランさんと同じで幼いイメージが拭えないんです。その点、ノワールさんはできる女の人って魅力があると思うんですよ」
……ふ、ふーん。なかなかわかってるじゃない。
私はお世辞とわかっていても、頬が緩むのを止められなかった。
身内に褒められるのとは違い、妹の友人に褒められるのは恥ずかしいけど嬉しくもある。
……友人って単語を想像するだけで、ちょっとだけ胸が傷ついたけど。
「ノワールさんなら、男の人に言い寄られたことの1つや2つありますよね? どうすれば、男の人に自分を魅力的に見せることができるのか教えて欲しいんです。お願いします」
「お願い、お姉ちゃん」
2人が目を輝かせて私を見つめて期待してくれているのはわかるんだけど……私だってそんな経験ないわよ!?
男の人に言い寄られる? ……仕事が優先でそんなことなかったわよ!?
男の人に自分を魅力的に見せる方法? ……そんなのわかるわけないじゃない!?
「あ、あのね、2人とも……」
『(きらきら)』
「うっ」
私を見つめる2人がロムみたいにきらきらしてるんだけど!?
私もそんなこと知らないわよ!?
で、でも、ここはユニの期待に応えてあげたい。
この間のノワルン事件のせいで、私の姉としての威厳は地に落ちてしまっているはずだ。
それを挽回するチャンスなんだ。
思い出せ、私だって男の人に優しい言葉を掛けられたことくらい……っ!?
【ウサギちゃん】
って、何を思い出してるのよ!?
ああ、もう!! 思いだしただけで顔が熱くなってきちゃったじゃない!?
そんな私の様子を不審に思ったのか、2人は心配そうに尋ねてきた。
「……ノワールさん?」
「……お姉ちゃん、どうかした?」
「な、何でもないわよ!? 男の人に魅力的に見えるコツね!? そんなの簡単よ!?」
ええい、こうなったら、あの時のことを話すしかないじゃない!?
「男ってのはね、女の弱い部分にキュンと来るものなのよ!?」
「弱い部分?」
「そうよ!? 男はね、結構強引なところがあるから、女の弱いところを見つけたら、思わず動いちゃうくらいなんだから!?」
ま、間違ってないわよね?
いくら黒歴史を発動していようと、夢人はきっと私の弱い部分を見たから、あんな風に……お、お姫様抱っこ、したのよね?
つ、つまり、男ってのは、女の弱い部分に惹かれるものなのよ!?
間違いないわ!?
「……なるほど、ありがとうございます、ノワールさん!」
「弱い部分、か。うん、ありがとう、お姉ちゃん!」
「べ、別に大したこと言ってないわよ」
あ、ああ、2人の純粋なお礼が胸に痛い。
そんな尊敬してますって目線で私を見ないで!?
「それじゃ、私達、これで失礼します。お仕事、頑張ってくださいね」
「それじゃ、お休み、お姉ちゃん」
「……あ、うん。お休みなさい、2人とも」
そう言って、2人が執務室から出て行った後、私は1人でしばらく落ち込んでしまった。
仕事は手に付きそうにない。
……やっちゃった。
* * *
「もう帰るの?」
「うん、チカ姉さんから、ベール姉さんがプラネテューヌに行ったって連絡があったんだ。だから、2人でリーンボックスに帰るつもりだよ」
「……チカさんとは連絡とってたのね」
……なにを言ってるの、ユニ?
そんなの当たり前じゃない。
私が今回の家出をした理由は、ベール姉さんに反省してもらうため。
チカ姉さんには毎日連絡していたのは当たり前じゃない。
私はノワールさんに話を聞いた翌日、プラネテューヌに向かうため、ユニと一緒に駅に向かっている。
チカ姉さんの話では、ベール姉さんは相当参っているらしい。
それを聞いて、ちょっとだけ胸が痛んだけど、これでちょっとはスキンシップを抑えてくれると嬉しいな。
「それじゃ、見送りはここまでで……え?」
「どうした……アンタは」
私とユニの視線の先には、とある人物の後ろ姿があった。
その特徴的なくすんだ銀髪は忘れることはできない。
私達、どちらかと言うと、ユニの声が聞こえたのか、その人物はゆっくりと私達の方を振り返った。
「貴様達は……」
「……レイヴィス」
……そこには、リーンボックスで私を洗脳し、ギョウカイ墓場で対峙したレイヴィスの姿があった。
という訳で、今回はここまで!
これで予定としてはこの章も残り1話ですが、次回も量が増えそうで怖い。
ベールの話は、女神通信に全部回してしまうかもしれません。
それでは、 次回 「与えられたもの」 をお楽しみに!