超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日から新章、加えて、修正作業がトリック編まで終わりました!
それでは、 過保護の代償 はじまります


愛しの勇者様? 家出女神の旅日記
過保護の代償


 1人の男が、十字架に見立てて作った木の墓の前に花を添えていた。

 

 墓のある場所はとてもじゃないが、人が近寄るような場所ではない。

 

 不自然に抉られた地面、無残に崩れている家屋、壁に染み込んで黒くなってしまっている血痕、極めつけに、何かが腐ったように異臭を放っていた。

 

 しかし、これでも男が来る前よりはマシになっている。

 

 男が来る前は、無造作に散らばる腐った何かの残骸とそれを貪る動物達のせいで荒れ放題になっていたのだ。

 

 男は腐った残骸を丁寧に地面に地面に埋葬したが、染みついていた匂いは消えなかった。

 

 そんな場所に居るのに、男は眉一つ動かさず、墓に向かって両手を組んで祈り続ける。

 

 その姿は、まるで何かの許しを得ようとする罪人の姿のようであった。

 

 やがて、祈ることをやめた男は右目を押さえて天を仰いだ。

 

「……ああ、もう充分だ」

 

 この場には男しかいない。

 

 しかし、男は誰かと会話しているかのように独り言を続けて行く。

 

「行くぞ。立ち止まってる暇なんて俺にはないんだ」

 

 そう言って、男は踵を返すと、振り返らずにこの場を後にした。

 

 その時の男……レイヴィスの瞳にはとある決意が込められており、彼は足を止めることはなく前に進み続けた。

 

 ……そんな彼の右目が、一瞬赤く輝くように前を見据えていた。

 

 

*     *     *

 

 

 時は少し遡ること、夢人達がワンダーを受領した日の夜のことである。

 

 リーンボックスの教会では、1人の少女が不貞腐れた様に頬を膨らませてチカを見つめていた。

 

「なんで私を呼んでくれなかったの? せっかく夢人が来てたのに」

 

「本当ならいてもらう予定だったのよ。でも、急にラステイションの方で何か問題があったみたいで、行かざるを得ない状況だったのよ」

 

「……うん、それはわかるよ。でもさ、私、夢人が来ること自体知らなかったんだよ。どうして教えてくれなかったの?」

 

 ナナハはベールと共に女神の仕事を終えて帰宅した時、チカから夢人がリーンボックスに来ていたことを聞いた。

 

 しかし、ナナハは夢人が来ることをチカから聞いていなかったのである。

 

「それは、その……サプライズ的に会わせた方がナナハも喜ぶかなーって思ってね。お姉ちゃんの優しい心づかいって言うかー、とにかく黙ってた方が喜んでくれるかなって思ってね……」

 

「……嘘だよね、それ」

 

「ほ、本当よ、ナナハ!? だって、アタクシだって楽しみにしていたんですもの!? 夢人がリーンボックスに来るのを!?」

 

 取り繕うように言葉を並べて行くチカを、ナナハは責めるようにジト目で見つめた。

 

 チカが夢人がリーンボックスに来るのを楽しみにしていたのは事実である。

 

 夢人が帰って来てから、パーティーに参加していなかった教祖達も、すでに彼と再会している。

 

 その時は、ベールとナナハも一緒に居たため、チカはおとなしくしていたのだが、その日は違った。

 

 ベールとナナハが居ない隙に、夢人に釘を刺そうとしたのである。

 

 勝手に消えたこと、ナナハを悲しませたということでチカには、彼に言っておかなければいけないことがあったのだ。

 

 彼がそうなる原因を作ったのはこの世界だ。

 

 偶然勇者として選ばれた彼に生贄としての勇者の役割を押し付けたのは、この世界なのだ。

 

 だが、その運命を受け入れたのも彼だ。

 

 彼が自分から勇者としての役割を果たそうとしたのだ。

 

 もちろん、チカとしても文句が言えないことはわかっている。

 

 彼のおかげで、ギョウカイ墓場に囚われていたベール達が助かったこと、何より、ナナハと本当の家族として接することができるのだ。

 

 そして、妹の思い人でもある。

 

 姉としては複雑な気持ちではあるが、妹の初恋を応援したいという気持ちもある。

 

 ……しかし、同時に不安に思うこともある。

 

 彼が消えた時の、妹の悲しむ姿を見たからだ。

 

 自分も悲しく思ったのには違いないが、チカにはナナハのその姿に不安を抱いたのである。

 

 彼が消えたことで、再び心を閉ざしてしまうのではないか。

 

 せっかく家族として向き合えるというのに、再び自分達は彼女に触れることを恐れて距離を取ってしまうのではないかと考えてしまった。

 

 少なくとも、チカは傷ついてしまったナナハにどう接すればいいのかわからなかった。

 

 幸いにも、彼が帰ってきたことで、ナナハに再び笑顔が戻り、心配していたことにはならなかったが、今後同じような事態にならないとは限らない。

 

 ただでさえ胡散臭かった勇者が、生贄のことだったのだ。

 

 『再誕』の女神だって怪しく思えてしまう。

 

 そんな彼女、アカリが体内にいる彼が、また同じ事態に陥ってしまうのではないかと不安なのだ。

 

 だからこそ、チカはワンダーの完成を急いだ。

 

 ワンダーがあれば、弱い彼でも傷つくことが少なくなるはずだ。

 

 無理をしてアーマーモードの活動時間を増やしたりもしたが、どうしても彼は無茶をしそうで危なっかしい。

 

 そのための釘である。

 

 彼が自分のことよりも他人のことを心配する人間だということはすでにわかっていた。

 

 後は、彼を心配する人がいるということを教えてあげればいい。

 

 そうすることで、彼の無茶を少しでも抑えようとしたのである。

 

 もう二度と、妹が悲しい思いをしなくて済むようにと……

 

「まあまあ、2人とも。そこまでにしておきなさい」

 

 慌てるチカをジト目で見るナナハを止めたのは、この場に居たベールであった。

 

「ナナハも、今度改めて夢人さんを招待してあげればよいでしょう? わたくしの所にもラステイションの事件のことは届いていますわ」

 

「……急に『変身』ができなくなったことと、欠片を吸収したモンスターのことだよね」

 

「そうですわ。理由がわからない以上、後手に回ってしまいますが、何とかしなければいけない問題ですのよ」

 

 ノワールから連絡を受けた内容は、すでに3人とも知っている。

 

 問題の深刻さに顔を引き締めていた3人であったが、突然何かを思いついたように、ベールが手を叩いて笑みを浮かべた。

 

「いいことを思いつきましたわ! これからはわたくしとナナハの連携にも、より力を入れて行かなければいけません! そのためには、お互いのことをもっとよく知らなければなりませんわ!」

 

 嫌な予感を感じて眉をひそめるナナハとチカに気付かず、ベールは満面の笑みを浮かべてナナハに手を差し出した。

 

「だから、今日はお姉ちゃんと一緒にお風呂に入りましょ? 遠慮なんて必要ありませんわ! だって、わたくし達は姉妹なんですもの!」

 

「……今日も、の間違いだよね」

 

「……ベール姉さま、さすがに毎日同じことを言っていては」

 

 実はベールがこの提案をすることは初めてではない。

 

 パーティーが終わって、リーンボックスに帰ってきた彼女は何かと理由をつけて、ナナハとスキンシップを取ろうとしていたのである。

 

 時にはお風呂、時には添い寝、時にはショッピング、時にはオンラインゲームなど、ナナハが可愛くて仕方ないベールは、その全てをナナハと一緒にしようとしていたのである。

 

 最初はナナハもベールとのスキンシップが嬉しくて受け入れていたのだが、それが1週間ずっと続いている状況にうんざりしているのだ。

 

 チカも、露骨にナナハに構おうとしているベールの姿に呆れてしまっている。

 

 ……ここで自分がかつてベールに構って欲しく、いろいろとしていたことを思いだして、陰で悶えていたのを誰も知らない。

 

 呆れた目で自分を見ている2人に構わず、ベールはナナハの腕を取って笑顔で風呂場へと向かって行こうとする。

 

「いいではありませんか? ほら、お姉ちゃんが背中を優しく洗ってあげますわよ」

 

「……うん、入るのはいいけど、体は自分で洗うからいいよ」

 

「ダメですわ。ナナハの背中はわたくしが、わたくしの背中はナナハに洗ってもらうんですもの。さあ、行きますわよ!」

 

 ベールに引っ張られて部屋から居なくなったナナハの後ろ姿が見えなくなると、チカは1人ため息をついた。

 

 かつての自分を見ているようで、露骨にナナハと触れ合おうとするベールの姿に呆れてしまった。

 

 自分だってナナハとスキンシップを取りたいのに、と心の中で小さく思っていたのである。

 

 ……この時、2人は気付くことができなかった。

 

 ナナハの瞳に、とある決意が込められていたことを。

 

 

*     *     *

 

 

「ふぅー、朝から温泉入るのは気持ちがいいなあ」

 

 旅館を飛び出して怪我をしたネプギアの看病をした後、俺とブランは寝ずに一晩中ネプギアの看病をしていた。

 

 看病といっても、旅館に着くころにはネプギアの体に傷はなく、ただ柔らかく笑みを浮かべて寝ていた姿を見ていただけなんだがな。

 

 どうやら俺は、好きな子の寝顔を見てにやけていたらしく、ブランに恋人同士なのかと聞かれてしまった。

 

 その時は違うって強く否定してしまったが、内心は喜びが溢れていた。

 

 傍目から見て、俺とネプギアが恋人同士だって思われたんだ。

 

 これが嬉しくないわけがないよな。

 

「ふわあああ、でも、ちょっと辛いな」

 

 さすがに徹夜明けということで、温泉に入っていても眠気が襲ってくる。

 

 気を抜くとすぐにでも湯船に顔を沈めてしまいそうだ。

 

 ブランは昼間に寝たから平気だって言ってたけど、大丈夫かな?

 

 何でも逆に眠気が襲ってこなくて困ったらしい。

 

 ……その前に、なんで昼に寝てたんだろう?

 

「まあ、いいか。それよりも……」

 

 俺は重くなる瞼に気合を入れるため、一度顔を叩くと縁に置いたタオルから距離を取り、手のひらを向けて風の魔法を使った。

 

 タオルの周りに小さな竜巻は発生するが、タオルは微動だにせず、縁に置かれたままだった。

 

「……やっぱり、全然ダメだな」

 

 俺が魔法を使ったのは確認のためだ。

 

 アカリの力によって、黒歴史を発動させた俺は、普通に魔法を発動することができた。

 

 風の魔法で竜巻を作り、ネプギア達に向かって落ちて行く岩を全て巻きあげることができたのだ。

 

 あの時は、ちゃんと魔法に威力があり、発動もしていたのだ。

 

 しかし、元に戻った俺は再び魔法を使うことができなくなっていた。

 

 ネプギアを看病している時、今のように紙を風の魔法で浮き上がらせようとして失敗させてしまった。

 

 いったいどうなってるんだ?

 

 なんで黒歴史を発動させている時しかちゃんと発動しないんだよ。

 

 それと、もう1つだけ理由がある。

 

 ネプギアに使った治療魔法の効果だ。

 

 俺は簡単な治療魔法しかロムに習っていない。

 

 つまり、ネプギアの傷を完全に治せるような凄い魔法は使えないんだ。

 

 だが、旅館に帰ってきた時のネプギアには傷一つなかった。

 

 ブランに聞いても、異常な回復速度だって言うし、何がなんだかわからない。

 

 うーん、少し整理すると、普通に攻撃することを目的として発動した魔法は威力がすっからかんになってしまう。

 

 でも、黒歴史を発動している間は、威力がある魔法が使えるようになっていた。

 

 でも、治療魔法は黒歴史を発動していなくても、通常よりも効果を発揮していた、と。

 

 ……うん、意味がわからん。

 

 自分のことながら、まったくどういった発動条件でちゃんと魔法が発動するのだかわからない。

 

「ああ、考えがまとまらない」

 

 寝不足の頭では到底処理できない案件に、俺は思わず空を仰いで弱音を吐いた。

 

「……でも、誤解が解けてよかった」

 

 魔法のことは一旦おいといて、ネプギアの誤解が解けたことは本当によかった。

 

 まさか、あの誤解からトリックと同じロリコンだと疑われてしまうとは思わなかったな。

 

 俺は確かにロムのことが好きだが、それは妹のように思っているからだ。

 

 俺が好きなのはネプギアだ。

 

 そのネプギアに誤解されたままでいるなんて考えたくもない。

 

 まあ、無事に誤解も解けてよかったが、俺、もしかしてネプギアに変態だと思われてるのか?

 

 トリックと同じ変態だと思われているかもしれない。

 

 変態だと思われる心当たりが多すぎて、逆に納得してしまう。

 

 全裸でのファーストコンタクト、ユニの奴隷、B.H.C.による黒歴史、特命課での女装姿……本当に心当たりが多すぎる!?

 

 ま、まだだ!? まだ最近はマシになったは……そう言えば、縛られないと眠れない変態だって思われてたんですよね。

 

 ……うん、変態だと思われても仕方ない。

 

 ど、どうすればいいんだ!?

 

 明らかにスタート地点から逆走してるよな!?

 

 くそっ、だが、まだだ!! まだ終わらんよ!!

 

 幸いにも変態だと思われていても嫌われていないみたいだし、まだ挽回は可能なはず!!

 

 本当にネプギアの心の広さに感謝です!!

 

 俺のような変態にも優しくしてくれるなんて!!

 

 自分で自分のことを変態だと認めているみたいで、すごく心が痛いけど……この際関係ない!!

 

 これ以上、ネプギアに変態だと疑われてしまわないように、行動には注意しないといけない。

 

 いくらネプギアが優しいと言っても、嫌われないという保証はないのだ。

 

 ネプギアに嫌われないように……いや、まずは俺が変態じゃないってことをわかってもらうためにも頑張ってもらないといけない!!

 

 俺は温泉に入りながら、空を見上げて心に強く誓った。

 

 空に雲はなく、快晴の空が、俺の前途を祝福しているように感じた。

 

 

*     *     *

 

 

「ふんふふんふーん」

 

 わたくしは教会の廊下を軽くスキップしながら鼻歌交じりにナナハの部屋に向かっている。

 

 昨晩も一緒にお風呂に入って、姉妹の絆を深めることに成功しましたわ。

 

 もうわたくし達は百合百合ってくらいにラブラブな姉妹になっているはずですわ。

 

 本当はそのまま一緒に寝ようと思ったのですが、あいにくわたくしがしているオンラインゲームの特別クエストがあったので断念しましたわ。

 

 さすがに3年間のブランクはありましたが、わたくしも1人のゲーマーとしてイベント事には積極的に参加いたしませんと。

 

 今日は仕事が終わったら、一緒にゲームをするって言うのもいいですわね。

 

 わたくしが楽しい1日の計画を立てていると、いつの間にかナナハの部屋の前までやって来てしまっていた。

 

 楽しいことを考えると、時間の流れが速くなるって本当のことですのね。

 

「ナナハ、朝ですわよ。起きてくださいまし」

 

 わたくしはドアを控えめにノックしたが、中から返事はない。

 

 おかしいですわね?

 

 いつもならもうこの時間はとっくに起きているのに……

 

 なんでわたくしがナナハを呼びに来たのかというと、朝食を食べる時間になってもナナハが食堂に来なかったからだ。

 

 チカも不思議に思って自分が行くといいだしたのですが、わたくしが先にナナハを呼びに行くと、食堂を飛び出したのである。

 

 チカには悪いけど、姉として寝坊した妹を起こすイベントは絶対に譲りませんわよ。

 

 も、もしかしたら、ナナハの可愛い寝顔が見れるかもしれないと思うと、わたくし幸せな気分になってしまいますわ!

 

 ノックしても返事がないってことは、まだ寝てるってことですのね。

 

 それじゃ、ここでわたくしが部屋に突入して、誤って寝顔を見てしまってもこれは不可抗力ってことになりますわよね?

 

 そして、寝ぼけ眼でわたくしを確認したナナハが、わたくしがいることがわかると、急に慌てて寝癖を直そうとするのですが、そこは優しくわたくしが髪を直してあげるんですわ。

 

 わたくしに髪を梳かれるナナハは恥ずかしそうに頬を赤く染めますが、最後には【ありがとう、ベール姉さん】って、満面の笑みでわたくしにお礼を言う……ふっ、完璧ですわね。

 

 さあ、イベントの予習は充分、後はふいに訪れる会話の選択肢を誤らなければ1枚絵ゲットですわ。

 

「ナナハ、入りますわよ。もういつまで寝て……ナナハ?」

 

 わたくしが姉の威厳を損なわないようにするため、少し怒っている演技をしながら部屋に入ると、そこにナナハの姿はなかった。

 

 ただ窓が開けられていたため、カーテンがはためいている光景しかわたくしの目には映らなかった。

 

 もしかして、わたくしが開けたドアと壁の間に隠れているのではないかと確認したり、思わずベットの下やゴミ箱の中まで確認してしまうほど慌ててしまった。

 

「ナナハ、ナナハー!? いったいどこに居るんですの!?」

 

 慌てていたわたくしは机の上に不自然に置いてある本に気づくのが遅れた。

 

 わたくしがそれを見つけたのは、一通り慌てて部屋をひっくり返す勢いでナナハを探した後だった。

 

 その本の下には紙が挟まっていた。

 

 わたくしはその紙に書かれていた内容を読んで、思わず叫んでしまった。

 

「……【探さないでください ナナハ】って、もしかして!?」

 

 わたくしは急いで開いていた窓から身を乗り出して外を見渡したが、そこにナナハの姿を見つけることができなかった。

 

「そんな……そんな……ナナハー!!」

 

 姿が見えないことと、この書き置きでわたくしは事態を悟ってしまった。

 

 ナナハが家出してしまいましたわ!?




という訳で、今回は以上!
修正作業も後はブレイブ編とジャッジ編だけですが、ブレイブ編からは空行を減らしていたので、少しの手直しで終わらせることができるはず。
時間に余裕があれば、明日にはすべての修正作業を終わらせることができるかも!
足が寒いが頑張ります!
それでは 次回 「動き出すもの」 をお楽しみに!

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