超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
気がつけば今日から2月、時間の流れって速いですね。
それでは、 無邪気な刃 はじまります


無邪気な刃

「……へえ、それじゃ、ネプギアは夢人と一緒に来たんだ」

 

「アカリがいる時点で夢人がいることには気付いていたのですが、まさか2人だけで来るなんて思っていなかったですの」

 

「あ、あははは、私も皆さんが来ているだなんて思ってもいませんでしたよ」

 

 まさかブランさん達が今日泊まる3組の1組だったなんて思わなかったな。

 

 最初、温泉に入って来た時には驚いてしまったが、考えてみれば、ブランさん達はルウィーにいるんだ。

 

 もしかしたら、どこかで出会うかもって思っていたけど、まさかこんな所で出会うだなんて思わなかった。

 

 来る途中で夢人さんと、帰りにルウィーの教会に寄ろうかなって話していたし、都合がよかったのかもしれない。

 

 私は自分1人だけでアカリちゃんを温泉に入れるわけではなくなったので、髪を巻きあげていたタオルを取って髪を洗い始めた。

 

 アカリちゃんの髪はすでに洗い終えており、今は……

 

「へんなにおい。でも、きもちいい」

 

「そう、でも、気に入ったみたいでよかったわ」

 

 ブランさんにお願いして、アカリちゃんを抱きながら温泉に入ってもらっています。

 

 ブランさんはさっきまで疲れて眠っていたらしく、ゆっくりと温泉につかりたいと言っていました。

 

 アカリちゃんも興奮していたのに、いざ温泉に入るとふやけたみたいに顔を崩して嬉しそうにブランさんに抱かれています。

 

 ブランさんもそんなアカリちゃんの様子に優しく目を細めて、温泉の縁に背中をもたれながら足を伸ばしてゆっくりしている。

 

 迷惑になってないみたいでよかったです。

 

「でも、ネプギアも大胆ですの。まさか、夢人と2人っきりになりたいからって旅行に誘うだなんて、意外と積極的ですの」

 

「ち、ちちち違いますよ!? わ、私は、アカリちゃんのために!?」

 

「本当に、そうですの?」

 

 にやにやしながら尋ねてくるがすとさんに答えることができず、私は顔を真っ赤にさせてしまった。

 

 そ、それは確かに、夢人さんとの旅行を楽しみにしていた気持ちはありますよ。

 

 す、好きな人と初めての旅行ですし、ゲイムギョウ界を救うために旅していた時とは違って、今回はアカリちゃんもいますけど、2人っきりなんです。

 

 少しくらい期待してもいいじゃないですか……

 

 あ、別に夢人さんに手を出してもらいたいってわけじゃないですよ!?

 

 で、でも、手を出してもらえないと、本当にそう言う対象として意識してもらえてないってことで悲しくなってしまうんですが……

 

「ネプギアちゃんばっかり、ずるい」

 

「ろ、ロムちゃん?」

 

「わたしも、夢人お兄ちゃんと一緒にいたい」

 

 私の隣、がすとさん達とは反対に座って体を洗っていたロムちゃんが拗ねたように口を窄めていた。

 

「そうよ。そもそもなんで夢人はプラネテューヌにいるのよ? 別にルウィーにいてもいいじゃない」

 

「ルウィー、プラネテューヌに負けないくらいいいところだよ」

 

 ラムちゃんの言葉は、私の中の不安を増幅させた。

 

 ……そう言えば、どうして夢人さんはプラネテューヌにいるんだろう?

 

 前に聞いた時は、アカリちゃんが私と離れたくないからって聞いたけど、それって本当なの?

 

 2人の言葉で嫌な想像が生まれてしまった。

 

 夢人さんは無理してプラネテューヌに……私と一緒にいるのではないのか?

 

 本当は、他の誰かと一緒にいたいと思っているのではないのかと思うと、胸が締め付けられてしまう。

 

 私が幸せを感じている一方で、夢人さんを縛りつけているのかもしれない。

 

 ……そんなの嫌だよ。

 

 私は夢人さんにも幸せを感じてもらいたい。

 

 でも、夢人さんの幸せっていったい何なの?

 

 私の思いを、わがままを通すだけでは絶対にダメだ。

 

 それじゃ、夢人さんが幸せになれない。

 

 先ほどまで熱に浮かされていた思考が、途端に冷たくなり臆病になってしまった。

 

 夢人さんの気持ちが、心がわかれば楽になれるのに……

 

 私はできもしないことをただ望むだけで、何も行動に移せない。

 

 言葉にして聞けばいいのに、その口から紡がれる答えが最悪なものであるかもしれないという恐怖に竦み上がってしまう。

 

 私は、どうすれば……

 

「そうだ! 夢人、今男湯にいるんだよね? それなら聞いてみればいいじゃない」

 

「名案、一緒にいてってお願いする」

 

 ロムちゃんとラムちゃんは笑いながら、男湯と女湯を仕切っている壁に向かって歩いて行った。

 

 ダメ!! やめて!!

 

 お願い、それだけは聞かないで!!

 

 私は聞きたくないという気持ちと、夢人さんの本心を知りたいという気持ちで板挟みになってしまい、2人のことを止められなかった。

 

 もしかしたら、夢人さんがそれでもプラネテューヌを……私といることを選んでくれるかもしれないという希望と、他の国を……他の誰かを選んでしまうのではないかという不安に、心が押し潰されてしまい身動きが取れない。

 

 そのまま2人が男湯に向かって叫んでしまうと思った時、温泉でくつろいでいたブランさんが眉間にしわを寄せながら2人を制止した。

 

「2人とも、そこまでにしときなさい」

 

「ええー、でも」

 

「わたしも、聞きたい」

 

「ここで聞く必要はないでしょ。それに、男湯が夢人1人だとは限らないわ」

 

 ブランさんに止められて不満そうな顔をしていた2人だったが、他の人の迷惑になると理解し、渋々と納得したようで温泉の中に入っていった。

 

 私はよかったのか、残念だったのか、よくわからない思いを抱いた。

 

 でも、結局は問題を先送りにしただけだということに気付き、小さくため息をついてしまう。

 

 ……夢人さん、あなたの気持ちが知りたいけど、知りたくないです。

 

 

*     *     *

 

 

「ふぅ、いい湯だと思わんか?」

 

「ああ、本当気持ちいいな」

 

 ……俺はいったい何をしているんだ?

 

 俺はネプギアとアカリの3人で温泉旅行に来たはずだ。

 

 ここで一気に関係が進展するとは思っていなかったが、ゆっくりのんびり幸せな気分を味わおうと思っていたはずなのに。

 

 今の俺の気持ちは下降している。

 

「ここの温泉は単純温泉ではあるが、特に疲労回復と健康増進の効果が噂の湯でな。普段ならもっと多くの客でにぎわうのだが、今日は吾輩達だけのようで本当に運が良い」

 

 ……俺の隣で温泉うんちくを並べるトリック・ザ・ハードのせいでな。

 

 大体、何でコイツがここにいるんだよ!?

 

 戦う気がないのがせめてもの救いだが、何が悲しくてロリコンと並んで温泉に入らなくちゃいけないんだ。

 

「うむ? 警戒しているのか? それならば無用だぞ。吾輩もこんなところで戦うほど無粋ではない」

 

 俺が呆れていいのか、悲しんでいいのか、それとも警戒すべきなのかと微妙な視線を送っていたことに気付いたトリックは、ここでは戦わないとはっきりと宣言した。

 

 いや、助かるっちゃ助かるんだけどさ。

 

 なんか、こう喉の奥に何かが刺さっているような、取れそうで取れないもどかしさを感じてしまう。

 

 俺はコイツに一度コテンパンにやられているので、それも関係しているのかもしれない。

 

 今の魔法も使えなくなった俺では絶対に勝てないので、戦わないことにこしたことはないのだが、負けたままではいたくないとも思ってしまう。

 

 ……はあ、でも、なんだって温泉に来てまでこんな奴のことを考えなければいけないんだ。

 

 考えるのなら、ネプギアのことを考えていたかったのに。

 

 俺がため息をつくと、トリックはそれを納得したと勘違いし、満足そうに頭の上に乗せられていたタオルを押さえて温泉の縁に肘をもたれて空を見上げた。

 

「わかってくれたようで嬉しいぞ。吾輩も今は癒しが欲しいのだからな」

 

「癒しって、お前にとっての癒しは温泉なのか?」

 

 絶対違うとわかっていても尋ねてしまう。

 

 コイツの癒しといえば、あれしか考えられない。

 

「もちろん温泉も心を癒してくれるが、やはり吾輩にとって最大の癒しは幼女だ」

 

「……やっぱりな。それじゃ、ここに来たのは女将さん目当てなのか?」

 

 ロム、ラム、がすとを幼女認定したトリックだ。

 

 がすとと同じくらいの身長の女将さんなら充分にストライクゾーンに入るだろうな。

 

「うむ、女将もなかなかの幼女力を持っておるのだが、人妻ではな」

 

「はあああああああ!? あの人、結婚してたのか!?」

 

「知らなかったのか? 何でも元冒険家仲間と結婚してから、実家であるここを継いだらしいぞ」

 

 人は見掛けに寄らないと思っていたが、あの女将は別格だな。

 

 まさか結婚までしていると思わなかった。

 

「吾輩の目的は、ルウィーの女神幼女達とあの錬金術師の幼女に会いに来たのだ」

 

「……お前、ロム達に何をする気だ」

 

 知らずに声が低くなり、脱力していた肩に力が入り始めた。

 

 コイツは以前、ロム達に変態的な行動をしようとした奴だ。

 

 そんなコイツがロム達に会うだけで何もしないわけがない!!

 

 例え敵わなくても、ロム達に危害を加えようとするのなら、今ここで!!

 

「まあ早まるでない。ただ遠目から眺めるだけだ」

 

「……は?」

 

「言ったであろう? 吾輩は癒しを求めにここに来たのだ。戦うような疲れることはしたくないのだ」

 

 空を仰ぎながらため息をつく姿に、本当にトリックが疲れている様子が見てとれた。

 

 でも、何でだ? 何でコイツはこんなに疲れているんだ?

 

「うむ、最初は貴様がいて驚いたが、よくよく話してみると、貴様という男がよくわかったぞ」

 

 トリックはどこか嬉しそうに笑みを浮かべながら温泉から出ると、タオルを肩から背中へと打ちつけ、出口へと向かって歩いて行った。

 

 俺はトリックの言葉の意味がわからず、呆然とその背中を眺めることしかできない。

 

 ……いったい、今の会話の中で俺の何がわかったって言うんだ?

 

 トリックは出口の前で立ち止まると、頬を柔らかく綻ばせて、とてつもない爆弾を落として行った。

 

「貴様も吾輩の同志だったなんて思わなかったぞ」

 

「……はい? 何を言って」

 

「みなまで言う必要はない。吾輩はわかっておる。貴様の心には、吾輩と同じ幼女を愛する心があるということを」

 

 な、何を言っているんだコイツは!?

 

 俺がいつ幼女に対する愛をささやいた!?

 

「貴様が幼女女神達を心配する姿、まさに愛そのものだ。ふっ、以前髪の短い方の女神幼女にお父さんと呼ばせていた、お父さんプレイをしていた時点で気付けばよかった」

 

 そんな自嘲気味にかっこよく決めているつもりなんだろうけど、全っ然違うからな!!

 

 確かに俺はロム達は好きだが、お前の言う愛とはベクトルが違う!!

 

 ってか、お父さんプレイって言うな!!

 

 あれは不可抗力だったんだよ!!

 

「いずれ貴様の愛と吾輩の愛、どちらが上か雌雄を決しようぞ。それまで、女神幼女達は預けておこう。しかし、覚えておけ。最後に笑うのは吾輩だと言うことをな」

 

 最後ににやりと笑って、トリックは脱衣所へと姿を消した。

 

 残された俺は、言い知れぬ疲労感に身を任せ、頭だけを縁に残して体を沈めた。

 

 ブレイブにも似たようなことを言われたけど、同じようなセリフでこんなに疲れる思いをしたことが信じられない。

 

 何で安らぐはずの温泉でこんなに疲労するのだろう。

 

 ……俺の方が癒しが欲しいよ。

 

 

*     *     *

 

 

 ……これは仁義なき戦い。

 

 まずは武器の感触を確かめ、最適な持ち方へと変える。

 

 次に、ターゲットがどう動くのかを予測し、自分が狙われないようにベストポジションへと素早く移動。

 

 最後に狙う部位に照準を定めて、適切な強さで撃つべし!

 

「それー!」

 

「うがっ!?」

 

「やーりぃー! また当たった!」

 

 わたしの武器、枕がまた夢人の顔面へと炸裂した。

 

 ……ちょっと変なことを考えてたけど、わたし達はただ枕投げをしていただけよ。

 

 最初はネプギアのように、わたし達がいることに驚いていた夢人だったけど構うもんか。

 

 わたしだってロムちゃんじゃないけど、夢人と一緒にいたいのだ。

 

 そりゃ、夢人がネプギアのことが好きだからプラネテューヌにいるのは知っているわよ。

 

 でも、わたしだって夢人のことが好きなんだ。

 

 本当はルウィーで一緒に過ごしたい。

 

 お姉ちゃんやロムちゃん、ミナちゃんに夢人、わたしの大好きな人達に囲まれて過ごしたいんだ。

 

 だから、後で夢人に直接お願いしてみる。

 

 わたし達と一緒にルウィーにいてって。

 

 ずっとは無理でも、少しは一緒にいられるかもしれない。

 

「わたしも、それ!」

 

「ロム、待って……ぐえ!?」

 

「それそれ! 集中砲火だ!」

 

 ロムちゃんもにこにこしながら、わたしの枕が当たったせいで動きが止まった夢人の顔に枕を投げつけた。

 

 ロムちゃんも、きっとわたしと同じ気持ちだ。

 

 もっと夢人と一緒にいたい、構って欲しいって思ってるんだ。

 

 お姉ちゃんや日本一、がすととゲームをしたり遊んだりするのも楽しいけど、やっぱり夢人と一緒にいることが嬉しくて仕方ないんだ。

 

 ネプギアやアカリには悪いけど、今日ぐらいいいよね?

 

 だって、ネプギア達はずっと夢人と一緒にいられるんだもん。

 

 羨ましいくらい一緒にいるんだから、今日はわたし達も一緒にいさせて欲しい。

 

 ……そのネプギアなんだけど、なぜか温泉に入っていた時からずっと暗い顔をしている。

 

 最初は顔を赤くして恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうにはにかんでいたのに、途中からずっと何かに悩んでいるみたいで俯きがちだ。

 

 どうしたんだろう?

 

 わたしはネプギアがどうしてそんな暗い顔をしているのかわからない。

 

 もしわたしがネプギアの立場だったら、ずっとにこにこと笑っていると思うんだけどなぁ……

 

 枕投げと関係なく、夢人を手に持った枕でぽこぽこと叩いていると、本を読みながらお茶を飲んでいたお姉ちゃんが時計を見た。

 

「ロム、ラム、そろそろ部屋に戻るわよ」

 

「ええー、もっと遊びたかったのに」

 

「わがまま言わないの。夢人も付き合わせてごめんなさいね」

 

「……い、いや、慣れているよ、この扱いも」

 

 夢人が失礼なことを言っているが、これはスキンシップなんだよ?

 

 普段は一緒にいられないから、もっと一緒に遊んで欲しいって言うアピールなのに、それを慣れてるだなんて言わないで欲しいな。

 

「わたし、今日夢人お兄ちゃんと一緒に寝たい」

 

「ろ、ロムちゃん!?」

 

 わたしの隣にいたロムちゃんがいきなり驚くことを言った。

 

「ダメよ。この部屋の布団はもうないのよ」

 

 この部屋は夢人達3人が寝泊まりするには広いけど、布団だけは3組しかなかった。

 

 大人用の布団が2組と、子ども用の少し小さい布団が1組。

 

 きっとアカリがいたことで用意してくれたんだと思う。

 

 だから、ここで寝るとしたら、大人用で誰かと一緒の布団の中に入るしかない。

 

 そ、その誰かは、夢人とネプギアの2択なんだけど、選択肢になってないわよね。

 

 わたし達は夢人と一緒にいたいんだから、必然的に夢人と一緒の布団の中に……って、ダメダメダメ!? 想像しただけで顔が火照ってきちゃう!?

 

 わ、わたしも、できれば一緒に寝たいわよ。

 

 そうすれば、夢人ともっと一緒にいられるもんね。

 

 で、でもさ、それって、恥ずかしいよ。

 

 前は勢いでロムちゃんと一緒に夢人が寝ているベットに潜り込んだよ。

 

 で、でも今回は起きている間に、一緒の布団に入るんだよね?

 

 そ、そんなことできないわよ!?

 

 寝てる時と起きている時じゃ、恥ずかしさが段違いで無理に決まってるわ!?

 

「じゃあ、前みたいに夢人お兄ちゃんと一緒の布団で眠る」

 

 ……突然、この場の空気が凍りつく音が聞こえた気がした。

 

 ロム……ちゃん? それって、あの時よね?

 

 わたしと一緒に夢人のベットに潜り込んだ時の……

 

「夢人お兄ちゃん、硬くて痛かったけど、温かくて気持ちよかった」

 

 ロムちゃんはほんのりと頬を赤く染め上げ、瞳も普段よりも潤んでおり、うっとりとしている。

 

 ……硬くて、痛かった? 温かくて、気持ちよかった、だあ!?

 

 な、ななななななな何やってんのよ、夢人は!?

 

 ろ、ろ、ろ、ろろろろろロムちゃんにそんないかがわしいことをしただなんて!?

 

 ロムちゃんの爆弾発言に呆然としていたお姉ちゃんだったけど、明らかに聞こえてはいけない音が聞こえたと思ったら、ゆらゆらと体を揺らしながら夢人に近づいて、その胸ぐらを思いっきり掴み上げた。

 

「テメェ!! ロムに何しやがった!!」

 

「ご、誤解だ!? 俺はただ一緒に寝ただ……」

 

「じゃあ、何が硬くて痛かっただ!! 何が温かくて気持ちよかったってんだよ!! この変態野郎が!!」

 

 お姉ちゃんよりも身長が高い夢人であったが、座っていたためお姉ちゃんの成すがままになっており、浴衣の襟の部分が首を苦しそうに絞めあげている。

 

 だけど、この場にいる全員がお姉ちゃんの行動を止めはしない。

 

 ロムちゃんを汚した変態なんて、絶対許さない!!

 

 いくら夢人でも……いや、夢人だからこそ許さないんだから!!

 

 夢人はそんなことはしないって信じていたのに裏切られた気分だ。

 

 ネプギアのことが好きでも、ナナハちゃんの告白をちゃんと受け止めた夢人なら、わたし達が悲しむようなことをしないって信じていたのに!!

 

「人の妹に手ぇだしやがって!! 絶対許さねぇ……」

 

「夢人さん!!」

 

 お姉ちゃんが夢人を殴ろうとした時、部屋にネプギアの大きな声が響いた。

 

 わたし達は叫んだネプギアの顔を見て驚き、動きを止めてしまった。

 

 ……悲しみを堪えるように顔を歪ませたネプギアが涙を止めることなく流していたのだ。

 

「そんなに……そんなにロムちゃんが好きなら……」

 

「ね、ネプギア? ま、待ってくれ、話を聞いて……」

 

「そんなにロムちゃんが好きなら!! ルウィーに行けばいいじゃないですか!! ……夢人さんの……バカー!!」

 

 キッと夢人を睨んで叫ぶと、ネプギアは部屋を飛び出していってしまった。

 

「ネプギアちゃん、待って!?」

 

「ネプギア、待って……ぐえっ!?」

 

「テメェは待ちやがれ!!」

 

 嵐のようにネプギアが部屋を飛び出したことで呆然としていたわたし達だったが、いち早く正気に戻った夢人とロムちゃんが慌ててネプギアを追いかけようとした。

 

 ロムちゃんが部屋を出た後すぐに、夢人も追いかけようとしたのだが、お姉ちゃんに背中から押し潰されてしまった。

 

「は、離してくれ、ブラン!! 俺はネプギアを……」

 

「だから、待てって言ってんだろ!! さっきは冷静じゃなかったから、いきなり殴ろうとしたけど、今度は全部聞いてやる!! だから、さっさと全部話しやがれ!!」

 

「そ、そうよ!? お願い、全部話して!!」

 

 ネプギアの叫びで少しだけ冷静さを取り戻せた。

 

 考えてみれば、夢人がロムちゃんに手を出すことなんてありえない。

 

 あんなにネプギアのことを好きな夢人が、そんなことするなんて考えられなかった。

 

 しかも、相手は自分を慕っているロムちゃんだ。

 

 夢人もロムちゃんのことを好きだって言ってたけど、それは妹のような存在という意味だ。

 

 夢人がそんな大切な妹のような存在を傷つけられる? ……そんなわけないじゃない!!

 

 だから、わたし達は夢人に聞かなければいけない。

 

 夢人がロムちゃんにしたことが何なのかを。

 

 それを聞かなくちゃ、わたし達はネプギアを止められない。

 

 今のネプギアを止める方法は、本当のことを知らせることだけなんだから。

 

「俺がロムにしたのは、腕枕だよ!! それしかしてないよ!!」

 

 ……腕、枕?

 

 硬くて痛いって、夢人の腕のこと?

 

 温かくて気持ちいいは、多分ロムちゃんの主観……って、何て紛らわしい言い方をしたの、ロムちゃん!?

 

 最初から腕枕って言ってくれれば、こんなことにはならなかったのに!?

 

「だから、早く離してくれ!! 俺は早くネプギアを追いかけなくちゃ……」

 

「騒がしいと思ったら、いったい何事ですの?」

 

 わたしとお姉ちゃんがロムちゃんの紛らわしい言い方に頭の痛い思いをしていると、別の部屋でゆっくりしているはずのがすとが扉からこちらを覗き込んでいた。

 

「さっきネプギアが泣きながら旅館を飛び出して行ったんですの。それに続いて、ロム様も飛び出して行ったので日本一が慌てて追いかけて行ったのですが、何があったんですの?」

 

 外は真っ暗なのに、旅館の外まで出て行っちゃったの!?

 

 ゆっくりするはずのお休みが、どうしてこうなっちゃったのよ!?




という訳で、今回はここまで!
もう2月なんですね。
改めて月日が流れるのは本当に速いと感じましたよ。
そして、この章も次で本編がラストです。
最近また1話の文量が増えてきたので、多分次も盛ると思います。
それでは、 次回 「ゆっくりと」 をお楽しみに!

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