超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日はちょっと遅くなりましたが、その分、量が多めです。
それでは、 オリジナル はじまります


オリジナル

「おっはよー! ミナちゃん!」

 

「おはよう」

 

「おはよう、2人とも」

 

 ロム達がブランとゲームで遊んだ翌日、ロムとラムは食堂で朝食の準備をしていたミナに元気よく挨拶をした。

 

 食堂にはすでに日本一とがすとの姿もあり、2人もミナの手伝いをしていた。

 

 しかし、ブランの姿がないことを不思議に思ったロムとラムは首をかしげながらミナに尋ねた。

 

「あれ、お姉ちゃんはまだ来てないの?」

 

「……そう言えば、遅いですね。いつもならもうとっくに来ているはずなんですが」

 

「お寝坊さん?」

 

 ミナもいつもロムとラムよりも早く食堂に来ているブランが来ないことを不思議に思った。

 

 もしかして、まだ眠っているのかもしれないと思ったミナは配膳の手を途中で止めて、ブランの部屋に向かおうとした時、食堂の扉が開き、ブランが入ってきた。

 

 しかし、彼女の顔は悪く、目は赤く充血し、目元に黒い隈ができていた。

 

 それに加えて、不自然に腕がぷるぷると震えている。

 

「……おはよう、遅くなったわね」

 

「おはようございます。それよりも、どうしたんですか?」

 

 体調が悪そうなブランの様子に質問したミナだけでなく、ロム達まで心配になってしまう。

 

 尋ねられたブランは口元を隠して、大きなあくびをすると、立っているのが辛いのか、すぐに自分の指定席に座り、テーブルに顔を突っ伏してしまった。

 

「……ゲーム、し過ぎた。腕が痛い」

 

「はい?」

 

 その場にいる全員がブランの言葉に耳を疑った。

 

 彼女がこうなっている原因は、昨日のロム達とのゲームのせいである。

 

 ラムにゲームで負けたブランは、その後何度も勝負を挑んだ。

 

 結果は全敗であり、ブランはその場にいたロム達にも勝負を挑んだ。

 

 ロムとラムは、ずっと仕事をしていて一緒に遊ぶ機会がなかった姉が自分達と一緒に遊んでくれていることに喜び、何度も付き合った。

 

 2人は楽しく遊んでいたが、ブランは違う。

 

 ブランは2人が眠った後も1人でゲームをしていた。

 

 体感型ゲームであったため、ラムと日本一に負けるのなら納得がいく。

 

 しかし、おとなしいロムにまで負けてしまったことが、ブランのプライドを傷つけた。

 

 唯一、互角の勝負をしたがすととの死闘は慰めにならない。

 

 ゲームとはいえ、妹達に負けたことを悔しく思った彼女は次にゲームをする時には勝つことができるように練習していたのである。

 

 そして、時間を忘れてゲームをしていたブランは気が付けば日を跨いでいたことに気付き、急いで眠ったが、寝不足になってしまった。

 

 加えて、いつもは使わない腕の筋肉を酷使し過ぎたので筋肉痛になってしまったのである。

 

「……何をやっているんですか」

 

「……自分でも、そう思うわ」

 

 ミナは呆れを含んだ視線でブランを見つめため息をついた。

 

 そこには体調が悪いわけではないという安堵と、情けない理由で突っ伏している彼女への呆れがあった。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「ロム、今は腕に触らな……イダダダダダダ!? 今は触んなっつってんだよ!?」

 

 ロムがブランを心配して近づき、彼女の腕に触れた途端、彼女は痛みのあまり叫び出してしまった。

 

「……はぁ、その様子では、今日はお休みしてもらった方がいいですね」

 

 ミナが頭が痛いと言わんばかりに、額に手を当ててつぶやいた。

 

 ブランはミナに反論しようとしたが、自分が今痛みのあまり涙を浮かべていることに気づき、頬をわずかに染めて口を噤んだ。

 

 今の自分が何を言っても説得力がないと判断したのである。

 

「じゃあ、今日はわたし達だけでお仕事するんだね」

 

「うん、頑張る」

 

「いえ、今日は皆さんにゆっくりしてもらおうと思います」

 

 姉の分も頑張ると気合いを入れているロムとラムだったが、ミナの言葉を聞いて首をかしげてしまった。

 

「それって、アタシ達も?」

 

「がすと達なら平気ですの」

 

「もちろん、日本一さんとがすとさんにも休んでもらいます。お2人もこの所、ずっと仕事を手伝って頂きましたし、一度まとまった休息をするのにちょうどいいと思いますから」

 

 ミナはブランが帰って来てから、ずっと休みなく仕事をしていたことを心配に思っていた。

 

 個人的な思いではあるが、ブランに代わって頑張っていたロムとラムともっと触れ合って欲しかったのである。

 

 理由はどうあれ、ブランが休むのなら今日1日は仕事のことを忘れてゆっくりと過ごしてもらいたい。

 

 もちろん、それは日本一とがすとにも当てはまる。

 

 2人には仕事の手伝いに加えて、ロムとラムの遊び相手もしてもらっていたので、疲れがたまっていないわけがないと思っていた。

 

 だから、この機会に全員でまとまった休息をすることを提案したのである。

 

「ですから、皆さん今日1日はゆっくりと過ごしてくださいね」

 

「えー、でも、ゆっくりしてって言われても、何をしていいんだかわからないよ」

 

「わたしも、わかんない」

 

「またゲーム? 昨日もやったし、違うことやりたいよね」

 

「……急には思いつきませんの」

 

 ミナの優しさは嬉しいが、ロム達は急に与えられた休みに何をしていいのかわからなかった。

 

 ロムとラムはできるのなら、ブランと一緒に遊びたかったのだが、チラリと今の彼女の様子を見てそれが不可能であることを理解し、何をして1日を過ごすのかを考えた。

 

 ブランも自分の方を向いた2人に気付き、自分の不甲斐なさに嘆き、机に頭を突っ伏したまま肩を落とした。

 

 そんな3人の様子に気づいたミナは、眉根を下げて優しく笑みを浮かべながら、とある提案をした。

 

「それじゃ、あそこに行ってみたらどうです?」

 

 

*     *     *

 

 

「ふんふんふふーん」

 

「ワンちゃん、ぴかぴか!」

 

〔だからワンちゃんは……はぁ〕

 

 ネプギアから温泉旅行に誘われた翌日、俺は教会の外でワンダーの車体を磨いていた。

 

 新車も同然のワンダーだが、やはり、相棒には綺麗なままでいて欲しいだろ?

 

 今日もこれからルウィーまで俺とネプギアで乗って行くんだ、そう考えると、握っているタオルにも力が入るってもんだ。

 

 座席に座らせているアカリも、ワンダーの車体が光に照らされて輝いていることに喜んでいる。

 

 これから行く温泉も楽しみなようで、朝からテンションが高い。

 

 いつもなら俺が呼びかけるまで起きないのに、今日は俺が起こされてしまった。

 

 昨日、温泉はでっかいお風呂だって説明したら、すごく目を輝かせてたからな。

 

「お、遅れてごめんなさい」

 

「そんなことないさ。今はまだワンダーを磨いていた途中だし……って、荷物はそれだけでいいのか?」

 

 申し訳なさそうな顔で走ってきたネプギアの持っていた荷物の量に俺は心配してしまう。

 

 彼女は俺と同じ量、最低限の着替えしか入ってはいないのではないかと思うくらいの大きさのポシェットしか持っていなかったのである。

 

 女の人の旅行道具って多いイメージがあったのに。

 

 さすがにキャリーバッククラスの大きさだと、ワンダーに収納できないが、もう少し量が多いと思っていた。

 

「はい、一泊二日なので、そんなに量は必要ありませんから」

 

「ネプギアがいいならいいんだけど……まあ、何かあれば、あっちで買えばいいのか」

 

 もしもの時は旅館で何か買えるだろうし、ネプギアが大丈夫って言うんなら平気か。

 

 俺はネプギアからポシェットを受け取って、ワンダーの座席を上げて荷物を中に収納する。

 

 座席に座っていたアカリはネプギアに預けている。

 

「ママ、おんせんたのしみ?」

 

「うん、楽しみだよ。アカリちゃんは?」

 

「わたしもたのしみ!!」

 

 互いに笑みを浮かべながら温泉を楽しみにしている2人を見ると、本当に親子のように似ていると感じる。

 

 アカリはネプギアをモデルにして生まれた女神であるから当たり前だが、そんなアカリにパパと呼ばれていると思うと、こう言い知れぬ幸福感が募ってくる。

 

 実際に夫婦ではないが、ネプギアとそういう関係になっているように感じられ、ちょっとした夫婦気分を味わえているのだ。

 

 ……現実を思いだすと、少し悲しくなるけどな。

 

「よし、これ終わりっと」

 

「ワンダーさんも今日はよろしくお願いしますね」

 

〔ああ、実際に運転するのは夢人だが、もしもの時は私がブレーキをかけよう〕

 

「それって、俺のこと信用してないよな?」

 

 まあ、バイクなんて乗ったのはワンダーが初めてだし、運転免許は取っていたらしく免許証を持っていたが、その記憶もなくなっているので不安ではある。

 

 もしもの時は本当にワンダーに頼むか。

 

「ちょうど出発みたいね」

 

「間に合ってよかったです」

 

 俺がエンジンをふかしていると、教会からアイエフとコンパが俺達を見送るため出てきてくれた。

 

 あれ? ネプテューヌとイストワ―ルさんの姿がない?

 

「あれ、お姉ちゃんといーすんさんはどうしたんですか?」

 

「ネプ子は今日1日部屋で缶詰め状態よ。イストワ―ル様もそれを監視するために付き合っているわ」

 

「だから、お見送りはわたし達2人だけです」

 

 ……帰ってくる頃には、ネプテューヌは少しやつれてしまうのではないかと心配になってしまう。

 

 昨日からずっと仕事をしているはずだし、さすがに睡眠時間はとっているだろうけど、彼女にとって地獄だろうな。

 

 無事でいろよ、ネプテューヌ。

 

「それじゃ、気をつけて行ってきなさいよ」

 

「お土産は気にしなくていいですから、楽しんで来てくださいです」

 

「おう、行ってきます」

 

「はい、行ってきますね」

 

「いってきます!!」

 

 俺達は2人に見送られて、温泉旅行へと出発した。

 

 2人の言う通り、せっかくだから楽しんでこよう。

 

 俺は背中に抱きつくネプギアの温かさを感じながら、一泊二日の温泉旅行へと思いを馳せ、ワンダーを走らせるのだった。

 

 

*     *     *

 

 

 ギョウカイ墓場にそびえる黒い塔、その最上階のある部屋の前にフィーナは立っていた。

 

「……ようやく辿り着いたわね」

 

 フィーナは自分がマジェコンヌのボスになった日から、ずっとこの部屋を目指していたのである。

 

 マジック達4人でも、この部屋はおろか、最上階には来たことがない。

 

 ここまで来るのには、強固なプロテクトが張り巡らされているため、彼女達でも辿り着くことができなかったのである。

 

 そもそも、彼女達はこの部屋の存在自体知らなかったわけではあるが。

 

「えっと、どうやって開くのかしらね」

 

 フィーナは扉の横に付けられていたコンソールの前に立つと、目を閉じて眉間に縦皺を寄せながら何かを思いだすようにこめかみに指を当てて首をかしげた。

 

「……ふんふん、なるほどね」

 

 やがて、目を開くと薄く笑みを浮かべながら、コンソールに指を滑らせた。

 

 その動きに迷いはなく、まるで最初に悩んでいたのが嘘のようであった。

 

 扉のパスワードを入れ終わると、扉は長い間開かれていなかったらしく、埃を撒き散らしながらゆっくりと開いていった。

 

「うふふ、ようやくご対面ね」

 

 扉の中は、真っ暗で球状に広がった不思議な空間が広がっていた。

 

 フィーナは入り口から中央へと続いている道の奥にあったパネルに近づいて、自らの手をかざした。

 

 すると、まるでプラネタリウムのように、球状であった壁に光が発生し始めた。

 

 最初はまばらに発生していた光であったが、次第にフィーナの前に集中し始め、1つの光る球体のような形に集まった。

 

〔システムの再起動に成功しました……私を目覚めさせたのはあなたですか?〕

 

「ええ、そうよ。初めまして、お会いできて光栄ですわ」

 

 フィーナは問題なくこの部屋の機能が無事に発動したことで満足そうにほほ笑んだ。

 

 この光る球体、それこそが彼女がこの部屋にやってきた目的の1つなのだから。

 

〔そうですか。あなたは何を求めて私を目覚めさせたのでしょうか?〕

 

「わかってるでしょ? あなたの知識と力、そして、この部屋を使わせてもらうわ」

 

 フィーナは当然であると、目を細めながら光る球体の機械的な質問に応えた。

 

 光る球体もそんな彼女の返答を予測していたのか、当然であるかのように言葉を並べて行く。

 

〔構いません。この部屋に辿り着けた時点で、あなたには資格がありますから〕

 

「当然でしょ。だって、私は……」

 

〔『再誕』の女神、デルフィナスですよね〕

 

 光る球体の言葉を聞いた瞬間、フィーナは今まで浮かべていた笑みを消し去り、不快さを隠さずに光る球体を睨みだした。

 

「……私はフィーナよ。2度とその名前で呼ぶな」

 

〔わかりました。今後はフィーナと呼ばせて頂きます〕

 

 デルフィナス、フィーナにとって自分をそう呼ぶ存在は2人目である。

 

 1人目は吸収した犯罪神。

 

 そもそも彼女の知識から自分の名前を知ることができ、今の名前になったのである。

 

 そして、もう1人、この光る球体である。

 

 2人とも自分とは初対面であるはずなのに、まるで自分のことを最初から知っているように話すことに、フィーナは言葉にできない不快感が募ってしまう。

 

 しかし、フィーナにとってそんなことは些細なことであった。

 

「……どうしてあなたが私を知っているのかなんてどうでもいいわ。あなたはただの道具なんだから」

 

〔元より、私はただのプログラムに過ぎません〕

 

「謙遜はしなくていいわ。あなたがただのプログラムなわけないのですから……と、その前にあなたの名称を決めないといけないわね」

 

 フィーナは先ほどまで不快感で歪められていた顔を、純粋無垢な少女のように楽しげに頬を緩めながら思案し始めた。

 

〔私にはすでに名称があります。そちらで呼べばよろしいかと思いますが?〕

 

「ダメよ。その名称は、あの端末が名乗ってる名称でしょう? それじゃ、ダメなのよ」

 

 フィーナは自分がせっかく名づけてやろうとしているのに、考えの邪魔をしてきた光る球体を煩わしく思い、顔をしかめた。

 

「あなたがその名称を名乗る時は、あの端末が消滅した時だけよ。だから、今は仮でもいいから別の名称を決めなくちゃダメなのよ」

 

〔あなたのこだわりは理解できませんが、そう言うことならよろしくお願いします〕

 

「任せなさい。それじゃ、あなたの頭文字にオリジナルのOを加えてO.I.W.ね……オイワさん?」

 

〔……あなたのネーミングセンスには脱帽です〕

 

「じょ、冗談に決まってるじゃない」

 

 フィーナは、ちょっとした冗談で安直に言った名称に真面目に反応されてしまったことに焦ってしまったが、すぐにうんうんと腕を組んで唸ってしまった。

 

 光る球体は、そんなに悩むのならば無理に考える必要はないのではないかと考えたが、言葉に出すことはなかった。

 

 やがて、いい名称が思いついたようで、フィーナは光る球体に満面の笑みを向けた。

 

「あなたの名前はエヴァよ」

 

〔O.I.W.関係ありませんね〕

 

「そこにこだわる必要はなかったのよ。あなたは私達にとって神話のイヴのような存在だわ。Eveはエヴァと呼ぶこともあるから、これからあなたはエヴァよ」

 

〔わかりました。これからはエヴァと名乗らせていただきます〕

 

 フィーナは光る球体、エヴァが自分の付けた名称を名乗ったことが嬉しいのか、満足そうにうなづくと、すぐにここに来た目的を果たすため、エヴァに命令を下した。

 

「それじゃ、エヴァ。早速あなたの力を使わせてもらうわ」

 

〔何でしょうか、フィーナ〕

 

 従順な反応を示したエヴァに、わずかに頬を吊り上げながらフィーナは言葉を続けた。

 

「ゲイムギョウ界に散らばる私の欠片の場所を特定しなさい。それくらい、簡単にできるわよね?」

 

 

*     *     *

 

 

 日もだいぶ西に傾いた頃になって、ようやく俺達は目的地の旅館に着くことができた。

 

 朝にプラネテューヌを出て、目的地のルウィーの旅館に辿り着くまでに大分時間がかかってしまったな。

 

 途中で昼食を取った時にゆっくりしすぎたかな?

 

「少し疲れちゃいましたね」

 

 旅館の敷地内のついたことで、ワンダーから降りたネプギアは苦笑しながら俺の隣に並んだ。

 

 俺は背中から離れたネプギアの熱に少しの寂しさを感じながら、今日宿泊する予定の旅館を見上げた。

 

 ゲイムギョウ界の建物の造りからホテルのような旅館を想像していたが、目の前の建物は木造建築の純和風のようだ。

 

 入り口も引き戸になっており、そこに向かうまで砂利と石が敷き詰められている。

 

「それじゃ、悪いんだが、ワンダーにはここにいてもらうな」

 

〔構わん。ゆっくりと温泉を楽しんでくるといい〕

 

「ワンちゃん、いってきます!」

 

 俺はワンダーを駐車場に置き、チカさんから仕様書と一緒にもらった特注のカバーをかけた。

 

 このカバー、精密機械が内蔵されたワンダーが雨曝しになってしまわないようにするためだけでなく、休眠モードに移行する意味を持つと仕様書には書かれていた。

 

 いくらワンダーが機械だと言っても、ずっと稼働させているわけにはいかない。

 

 ここにいる間は平和だろうから、ワンダーにもゆっくりと休んでもらうために、俺はカバーをかけた。

 

「よし、行くか」

 

「はい」

 

 俺達は駐車場を後にすると、荷物を持って旅館に入って行った。

 

 中は清潔感がある白い壁を、木目の美しい木で区切っている造りをしていた。

 

 入口の近くにあるカウンターには、小さな女の子がおり、俺達が入ってきたことに気づくと、笑顔で俺達を迎えてくれた。

 

「ようこそいらっしゃいました。本日は3名様のご利用でしょうか?」

 

「はい、プラネテューヌからこの宿泊券を利用しに来ました」

 

「拝借いたします……はい、今日泊まる予定でしたネプギア様ですね。お待ちしておりました。私、当旅館の女将を務めさせていただいております、アロエと申します。本日は当旅館をご利用いただき、ありがとうございます」

 

「お、女将さんだったんですか!?」

 

「はい、よく言われるんですよね」

 

 カウンターにいた小さな女の子、アロエがこの旅館の女将だということには、俺達は目を見開いて驚いてしまった。

 

 近づいてみてわかったが、アロエの身長はがすとと同じくらいである。

 

 長い茶髪を頭の上部で大きなポニーテールにしている彼女を見て、俺は最初、この旅館を手伝ってる子どもだと思っていた。

 

「プラネテューヌからここまで来るのに疲れたでしょう? 今日は宿泊のお客様が3組だけですから、ゆっくりと温泉に入ってくつろいでくださいね」

 

「おんせん!! はやくおんせんはいりたい!!」

 

 長旅でちょっとぐったりしていたアカリだったが、温泉と聞いて疲れを感じさせないほど目を輝かせ始めた。

 

 実際にここまで来るのに、俺とネプギアの疲れているので早速温泉に入らせてもらおうかな。

 

「それでは、お部屋の方に案内させていただきます。ついて来てくださいね」

 

「おんせん!! おんせん!! おんせん!!」

 

「うん、じゃあ、今日はママと一緒に入ろうか?」

 

「うん!!」

 

 優しくアカリにほほ笑みながら隣を歩くネプギアに、俺は頬が緩まるのを感じた。

 

 このアカリの笑顔を見るだけで、温泉に来たかいがあったと感じることができる。

 

 さて、ゆっくりと温泉を楽しむとしますか。

 

 

*     *     *

 

 

「ママ、はやくはやく!!」

 

「ちょっと待ってね。うん、それじゃ入ろうか」

 

 私は持っていくタオルを準備して、脱衣所で私を急かすアカリちゃんを抱き上げると、温泉へと続くガラス戸を開けた。

 

「わあああああ!! おっきいおふろ!!」

 

 アカリちゃんは初めて見る温泉に興奮を隠し切れていないみたいだ。

 

 いつも入っているお風呂よりも、ずっと広くて大きい温泉に目を輝かせている。

 

 石で縁取られた温泉、むき出しだけれども模様が綺麗な木で造られた屋根の下にはシャワーノズルと蛇口、シャンプーやリンスの他にも洗顔用品まで完備してある。

 

 奥にはサウナ室と書かれた紙が貼ってある扉があるので、サウナもあるのだろう。

 

 私はこんな立派な温泉だとは思っていなかったので、嬉しい誤算だった。

 

 ……夢人さんと一緒にこれてよかったな。

 

 ラステイションから帰ってきた夢人さんを出迎えようと入り口に向かおうとした私だったけど、どうやって誘えばいいのだかわからずに出遅れてしまい、結局勢いのまま誘ってしまった。

 

 恥ずかしさのせいで頭に熱が溜まり、そんな状態で走ったことで酸欠になって、夢人さんの前で倒れてしまった時はもうダメだと思った。

 

 でも、夢人さんは私の急なお誘いを快く受けてくれた。

 

 ……今日は一晩、夢人さんと一緒の部屋で眠るんだよね。

 

 私はどうやって夢人さんを誘えばいいのかだけに集中していたせいで、同じ部屋に泊まるだなんて考えてなかった。

 

 よくよく考えてみれば、ファミリー宿泊券なのだから同じ部屋で泊まるのは当たり前だった。

 

 ど、どどどど、どうしよう!?

 

 私、心の準備してないよ!?

 

 どうして気付かなかったの!?

 

 ここに来ることだけで頭がいっぱいだった私は、夜のことを考えてパニックに陥ってしまった。

 

 た、旅は人を解放的にするって言うし、も、もしかしたら……

 

「ママ?」

 

「な、なに、どうしたの?」

 

「はやく、おんせんはいろ?」

 

 私が温泉の熱気とは別の理由で顔を赤くしていると、アカリちゃんが首をかしげながら温泉を指さしていた。

 

「そ、その前に、体を綺麗にしようね」

 

「うん、わかった」

 

 私はシャワーに近づき、抱き上げていたアカリちゃんを置いてあったプラスティックの椅子に座らせた。

 

 温泉に入る前に、体の汚れを落とすことはマナーだものね。

 

 まず私は、自分の髪をタオルで巻きあげて、アカリちゃんも同じようにした。

 

 私もアカリちゃんも髪が長いので、温泉に髪が入ってしまわないようにするための配慮である。

 

 泉質によっては髪が傷んでしまうから、こうしておかないといけない。

 

 髪は後で洗えばいいので、後は体を洗うだけだ。

 

 本当なら髪も一緒に洗った方がいいのだが、アカリちゃんはまだ自分で自分の髪を洗えないらしいので、私が髪を洗っている間に体が冷え切ってしまう。

 

 だから、最初は洗わないで、出る前に洗おうと思う。

 

 アカリちゃんもタオルを使えば、自分の体は洗うことができるらしく、ボディソープをタオルに染み込ませて泡を造りながら体を洗っていた。

 

 私もアカリちゃんの行動に注意しながら、自分の体を洗っていく。

 

 ……心なしかいつもより力を込めて体を洗っているのは、先ほどの想像のせいであろう。

 

 一緒の部屋で眠ることで、間違いが起こってしまった時、夢人さんには綺麗な姿を……って、あわわわわわわわ!?

 

 何考えてるの!?

 

 いくら旅が開放的な気分にさせるだなんて言うけど、これはやり過ぎだよ!?

 

 その前に、私は夢人さんに意識してもらわないといけないんだよ!?

 

 で、でも、それなら余計に綺麗にしなくちゃ……

 

 うううぅぅぅぅ、もうわかんないよぉ。

 

「お姉ちゃん、早く早く!」

 

「早く、温泉入ろう」

 

「慌てないで。皆はもう一度入っているのよね? そんなによかったの?」

 

「そうそう、ここの温泉、すっごく気持ちよかったんだから」

 

「何度だって入りたくなるくらい気持ちよかったですの」

 

 私が悶々としながらも、体を強く洗っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あれ、ネプギア?」

 

「ブランさん!? それに、ロムちゃん、ラムちゃん、日本一さんにがすとさんまで!?」

 

 何でいるの!?

 

 

*     *     *

 

 

「おおー、すっごいなあ」

 

 俺は温泉の広さに感嘆の声をあげることしかできなかった。

 

 ここまで立派な温泉だとは思わなかったのである。

 

「よし、さっさと体洗ってはいるか」

 

 1人だと思うと、どうしても独り言を言ってしまう。

 

 貸し切り状態のように思えて、少しだけテンションが上がっているんだ。

 

 俺は早く温泉に入りたいため、手近なシャワーを陣取り、頭から思いっきりシャワーを浴びた。

 

 薄目を開けながらシャンプーのボトルを押すが、どうもうまく出ない。

 

 もしかして切れているの?

 

 俺は仕方なく、隣のシャワーに備え付けられていたボトルに手を伸ばそうとした時、横からボトルを差し出してくれた手があったことに驚いてしまった。

 

「よければどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 俺の他にも入っている人、いたんだな。

 

 さっきまでの独り言も聞かれていたと思うと恥ずかしいが、ここは厚意に甘えよう。

 

 俺はお礼を言って、差し出されたボトルからシャンプーを使わせてもらった。

 

「アクククク、なに、こう言う場所では困った時、助け合うのが人情と言うものであろう」

 

「いえいえ、そうであるからこそ、お礼を言うのが大切なんじゃないですか。本当にありがとうございます」

 

「ううむ、ならば素直に受け取っておこう」

 

 なんかどこかで聞いたことがある声だったが、薄目の状態だと姿がよく見えなかったため、誰かはわからなかったが、親切な人だと思った。

 

 こう言う旅先での助け合いも、旅行の醍醐味かもしれないな。

 

 俺は頭を手早く洗ってタオルで顔を拭くと、すぐに笑顔を浮かべて、隣にいる親切な人を見た。

 

「いやあ、助かり……って、げええ!?」

 

「なーに、そう何度も……って、げええ!?」

 

 思わず顔を見合わせて、同じリアクションを取ってしまうほどの相手がそこにはいた。

 

「トリック・ザ・ハード!?」

 

「勇者!?」

 

 何でここにいるんだよ!?




という訳で、今回はここまで!
さて、次回からは本格的に温泉回だ。
この温泉でどんなことが起こるのか、楽しみにしておいてくださいね。
それでは、 次回 「無邪気な刃」 をお楽しみに!

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