超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
実はさっきまで寝てました。
書いてる途中で寝落ちして、妙に硬い枕だなと思ったら机でした。
遅くなってごめんなさい。
それでは、 託された力 はじまります


託された力

「……うわぁ、すっごいなぁ」

 

〔それには同意する。何故あのような玩具で斬り合えるのだろう〕

 

 襲われ役が終わり、ノワールの物語からフェードアウトした俺は近くに隠してあったワンダーと共に無事に彼女が元に戻ることを祈るだけだった。

 

 しかし、俺とワンダーはネプテューヌとノワールの戦いに、ただただ驚くばかりだ。

 

 ノワールが持っているのは明らかに子ども向けの玩具であるにも関わらず、ネプテューヌの刀剣と互角、いやそれ以上に渡り合っている。

 

 いったいどんな魔法を使ってるんだか。

 

 と言うより、今時の魔法少女は物騒だよな。

 

 困ってる人を助ける系の魔法少女をイメージしていたのだが、ガチで戦闘しているよ。

 

 しかも、あんな可愛らしいバトンから放たれるとは思えないほどの思いっきり物理での攻撃だし……あれ? 魔法どこ行った?

 

「ねえ、どうしてあんなにつよいの?」

 

「……うーん、俺にはよくわからないや」

 

〔私にもわからない。だが、おそらく黒歴史、強いイメージの影響であろう。以前の夢人がまさにそうであった〕

 

 以前の俺……B.H.C.を使っていた頃だな。

 

 確かに強いイメージによってアカリの力を無理やり引き出して戦っていた。

 

 そのおかげで、ネプギアの全力の攻撃でもびくともしなかったキラーマシンを倒したりすることができたんだよな。

 

 そう考えると、今のノワールの強さって以前の俺と同じなのか?

 

 今の彼女は、女神の力を普段以上に引きだしている状態なのかもしれない。

 

〔強さとは、何も力だけではない。その力を引きだすための心が大切なのだと思う〕

 

「こころ?」

 

〔そうだ。心は決まった形を持っていない。だからこそ、限界がなく、どこまでも強くなれるのだと私は考えている〕

 

 ……そうだな。

 

 心の力、それが俺の世界を変えてくれた。

 

 憎しみから愛しさに、形が決まっていないからこそ自由になれる。

 

 今のノワールはマジカルヴィーナスとして、ゲイムギョウ界の平和と友達のネプテューヌを救うと言う強い思いがあるからこそ、強いんだろうな。

 

「……つよいおもいが……つよいちからに」

 

 俺がワンダーの言葉を聞いて感慨に耽っていると、抱いているアカリがぶつぶつと呟きだした。

 

 どうしたんだ?

 

 俺がアカリの顔をのぞきこうとした瞬間、アカリは勢いよく顔を上げて暴れ出した。

 

「ダメ!! そんなことしちゃ、ダメ!!」

 

「ど、どうした急に……」

 

「ダメー!!」

 

 急に暴れ出したアカリを宥めようとした時、俺は急に体が震えるほどの寒さを感じた。

 

 アカリが暴れ出す前と同じ場所にいるとは思えないほど、空気が冷たくなった。

 

 ……いったいどうなってるんだ。

 

〔夢人!! あれを見ろ!!〕

 

「あれは!!」

 

 ワンダーの叫びを聞いて、俺は状況を確認しようと辺りを見渡していた視線をネプテューヌ達の方へと戻した。

 

 そこには、ノワールの後ろの茂みから現れた白いフェンリルの姿があった。

 

 いつの間にか2人は『変身』が解けており、ノワールは明らかに白いフェンリルに怯えていた。

 

「行くぞ、ワンダー!!」

 

〔CHANGE MODE ARMOR〕

 

 俺はアカリを体内に戻すと、ワンダーをアーマーモードにして駆け出した。

 

 今は作戦どころじゃない。

 

 今大切なのはノワールを助けることだ!!

 

「アクセルインパクト!!」

 

「ガウッ!?」

 

 俺は間一髪、ノワールの頭に喰いつこうとした白いフェンリルの顔を殴り飛ばして、彼女を救うことに成功した。

 

「平気か、ノワール?」

 

「……う、うん」

 

 ……そっか。

 

 今の俺はノワールにとって見知らぬ人なんだ。

 

 急に知らない奴から助けられて困惑しているんだろう。

 

 でも、今はそれでも構わない。

 

 俺は女神と共にゲイムギョウ界を救う勇者だ。

 

 ここからは、一般人Aの俺じゃない。

 

 勇者の俺が女神の彼女を助ける!!

 

「ここからは、俺のステージだ!!」

 

 そう、ここからは魔法女神☆ノワルンの物語じゃない。

 

 俺と彼女達の現実の物語だ!!

 

 

*     *     *

 

 

「ノワール、大丈夫!?」

 

「……うん、平気だよ、ネプちゃん」

 

 慌てて私を心配して駆け寄って来てくれたネプちゃんには悪いけど、私はあの人から目が離せなかった。

 

 私を助けてくれた、青い鎧を着た男の人。

 

「ふぅ、よかった。それじゃ、ここは危ないからちょっと離れるよ」

 

「で、でも、あの人が……」

 

「ゆっくんなら大丈夫だよ。さあ、行くよ」

 

 私はネプちゃんに手を引かれながら、あの人が戦っている場所とは反対の方へと歩いて行った。

 

 あれ? そう言えば、ネプちゃんの洗脳、解けてる?

 

「ネプちゃん、元に戻ったの?」

 

「え? ……あ、ああー、うん、そうだよ! さっき『変身』が解けた時、急に全部思い出したんだ!」

 

 どうして『変身』が解けたのかはわからないけど、ネプちゃんの洗脳が解けてよかった。

 

 もうあんな悲しい戦いをしないで済むのね。

 

「それにしても、どうして『変身』が解けちゃったんだろう? ノワールは何かわかる?」

 

「……ううん、わからないわ」

 

 ネプちゃんが助かったことを喜んでばかりはいられない。

 

 『変身』が解けてしまったと言うことは、私はもうマジカルパワーが使えないってことだ。

 

 今も『変身』しようと意識しているけど、全然力が出ない。

 

 もしかしたら、私はもう二度とマジカルヴィーナスにはなれないかもしれない。

 

 そんなことになったら、誰がマジェコンヌからゲイムギョウ界を救うんだ。

 

 今の私は、か弱い1人の女神でしかない。

 

 どうすればいいの……

 

 

*     *     *

 

 

 やっぱり、ワレモノモンスターのように簡単には倒れてくれないよな。

 

 それなりに力を入れて殴ったはずなのに、白いフェンリルは堪えた様子はまるでない。

 

 牙をむき出しにして俺を睨み続けている。

 

〔奴はアイスフェンリル、本来ならルウィーに存在しているフェンリルの亜種だ〕

 

「そんな奴がどうしてラステイションにいるんだよ?」

 

〔そこまではわからない。ただ、私の計算では先ほどの一撃で倒せるはずだった。注意してくれ〕

 

「了解!」

 

 とりあえず、考えることは後だ。

 

 今はコイツを倒す!

 

 俺がアイスフェンリルにもう一度アクセルインパクトをお見舞いしてやろうと、右腕を引きながら駆け出そうとした時、奴の方が先に俺に向かって跳びかかってきた。

 

 俺は予定を変更して、跳びかかってくる奴を避けて腹にカウンターを入れてやろうと考えた。

 

「ガアアア!!」

 

「っ、くら……ぐわっ!?」

 

 爪を腕の装甲で受け流しながら、うまい具合に横に回り込めた俺に予想もつかないところから攻撃が飛んできた。

 

 アイスフェンリルの全身は見えているのに、俺の横から何かに吹き飛ばされるような衝撃を受けた。

 

 な、何が起こったんだ!?

 

 無防備に攻撃を受けてしまったわけだが、ワンダーの頑丈さのおかげで怪我はない。

 

 俺が攻撃によって少しだけ吹き飛ばされたことをきっかけに、アイスフェンリルから距離を取ると、奴の周りに違うモンスターの姿が見えた。

 

〔アイツらはテリトス、ドカーン、マルベーダー。どいつもルウィーに生息しているはずの奴らが何故だ?〕

 

 ブロックが組み合わさったような形をしたモンスター、土管のような形をしたモンスター、小さいドット絵のようなモンスターがアイスフェンリルを守るようにそこにいた。

 

 アイツらなら俺も知ってる。

 

 ルウィーにいた時にダンジョンで見かけた奴らばかりだ。

 

 俺達、いつの間にかルウィーに来てないよな?

 

 自分が今ラステイションにいることさえも疑ってしまうほど、目の前のモンスター達の姿には驚きを隠せない。

 

 本当にどうなってるんだよ。

 

『パパ、あそこにわたしがいる!!』

 

 体の中から慌てた様子のアカリの叫びが聞こえてきた。

 

 わたしがいる、つまり、女神の卵の欠片があるのか!?

 

『わんちゃんのあたま!! あそこにいる!!』

 

 アイスフェンリルの頭部をよく見てみると、そこには白い毛皮でわからなかったが、確かに白い光を放っている欠片が額にあった。

 

 モンスターが欠片を吸収してる?

 

 それとも欠片がモンスターに寄生しているのか?

 

 どっちにしろ、これはもしかして欠片のせいなのか!?

 

〔考え事は後にしろ!! 来るぞ!!〕

 

「わかった!!」

 

 考え事に集中していたせいで、目の前のテリトスがその体をしならせて俺に叩きつけようとしているのに気づくのが遅れた。

 

 何とかワンダーが注意を促してくれたから避けることができたが、叩きつけられた地面は軽く陥没しており、当たったと思うとワンダーを着ていたと言ってもぞっとしない。

 

 今はコイツらを倒さないと!!

 

〔早速武装を使うぞ! 右手を前に突き出して腰を落とせ!〕

 

 俺は言われた通り構えたが、これはもしかしてあれなのか?

 

 これがもし俺の想像通りの武装なら、左腕は右腕に添えるべきだな。

 

〔脚部固定完了! 奴に右腕をぶつけてやるぞ!〕

 

 やっぱりか!!

 

 脚部が地面に縫いつけられるように固定されたことで、俺は全てを察することができた。

 

 チカさん達、ワンダーの開発者は男のロマンがわかってる!!

 

 俺は戦闘中だと言うのに興奮を隠せない。

 

 そう、ロボットの必殺技の代名詞的なこの技!!

 

 その名も!!

 

「唸れ、鉄拳!! ロケット、パー……」

 

〔ワイヤードナックル!!〕

 

 俺の右腕がワンダーの叫びと共にテリトスへとまっすぐに飛んで行く。

 

 ……ワイヤー付きで。

 

 って、ワイヤー付いてるのかよ!?

 

 俺がワイヤーが付いていることに驚愕している間も、右腕は間接部分の四方から噴射される炎で加速しながら、テリトスに避ける暇を与えず命中し、その身を貫いた。

 

 貫かれたテリトスは光となって消え、右腕は今度は指の部分から炎を噴射して、ワイヤーの巻きとる音と共に、本体に収まった。

 

 威力はすごいのだが、俺はこの武装に物申したい!!

 

「なんでワイヤーなんて付いてるんだよ!?」

 

〔……何を言ってる? 戦闘中に一々回収するわけにはいかないだろ?〕

 

「そ、そりゃ、そうだけどよ。それならリモコンとかで操作できなかったのか?」

 

〔それこそナンセンスだ。電波が遮断されれば、使えない武装など意味がない。こうしたワイヤー付きがどんな場所でも使える理想的な武装だ〕

 

 うっ、ワンダーの言っていることも理解できる。

 

 確かにワイヤーを切れなければ、何度も使えるこの武装はかなり便利だろう。

 

 でもな、ちょっと期待してたんだぞ!?

 

 あの技出すの!? 男のロマン舐めるなよ!?

 

「ゆっくん、危ない!?」

 

「へ……ぐっ!? 離れろ、この!?」

 

 脚部が固定されていたことで、後ろからの接近を許してしまった。

 

 何匹ものマルベーダーが俺の体に纏わりついてくる。

 

 コイツら増えてる!?

 

 最初に現れた時は、一匹だったはずなのに、今俺の体に纏わりついているのは十匹は超えている。

 

 俺はコイツらを振り払おうと体を振り回すが、しがみついて離れない。

 

〔風の魔法を使え!!〕

 

「トルネード!!」

 

 俺はコイツらだけを振り払おうと、ちゃんとイメージして自分の周りに竜巻を発生させた。

 

 この竜巻でコイツらを振り落とそうとしたのだが、コイツらはまるで何も感じてはいないかのようにしがみついたままだった。

 

 やっぱり、魔法の威力がない!?

 

〔何をしている!? ちゃんと魔法を発動させろ!?〕

 

「これでもちゃんとやってんだよ!?」

 

〔くっ!? このままではいけない!? 強制的にモードを解除するぞ!?〕

 

 そんなことしたら、もうアーマーモードになれないじゃないか!?

 

〔CHANGE MODE VEHICLE〕

 

 ワンダーが鎧からバイクに戻り、張り付いていたマルベーダー達も衝撃で吹き飛んで行った。

 

 でも、これでもうアーマーモードは使えない。

 

 コイツらをどうやって倒せば……

 

「ちょっ!? やめてよ!? 離して!?」

 

「きゃあああ!? 来ないで!?」

 

「ネプテューヌ!? ノワール!?」

 

 慌てて2人の方を向くと、そこにはマルベーダーに纏わりつかれている2人の姿があった。

 

 ネプテューヌは地面に縫い付けられるように両手両足に何匹ものマルベーダーにのしかかられており、身動きが取れないでいた。

 

 ノワールは腰を抜かしたのか、涙目で座りながら後ずさるが、すぐ後ろには樹があるためそれ以上逃げられないでいた。

 

「待ってろ!! 今助けに……ぶっ!?」

 

 2人を助けるために駆け出そうとした俺の顔にマルベーダーが勢いよく跳んできた。

 

 俺はそいつを引き剥がして、またすぐに駆け出そうとしたが、今度は足を掴まれて倒れてしまった。

 

「くそっ!? 離せ、この!?」

 

 俺が掴んでいる奴らを地面に叩き落としているうちに、ノワールめがけて一匹のマルベーダーが、俺の時と同じように跳びかかろうとしていた。

 

 間に合わない!?

 

「いやああああ!?」

 

 恐怖のあまり涙を浮かべていたノワールめがけて跳びかかろうとしていたマルベーダーだったが、突然空中で吹き飛んだ。

 

 一匹だけじゃない。

 

 ノワールの周りを囲んでいた奴も、ネプテューヌを取り押さえていた奴らも、次々と吹き飛んで行く。

 

 これはまさか……

 

「夢人、ネプ子!? 無事!?」

 

「お姉ちゃん、夢人、ネプテューヌさん!? 平気!?」

 

「遅れたみたいでごめん!!」

 

「助太刀します!!」

 

 アイエフとユニ、ファルコム、フェルがこちらに走ってくる姿が見えた。

 

 きっとさっきの攻撃はユニが狙撃したに違いない。

 

 何はともあれ、これで何とかなるかもしれないな。

 

 

*     *     *

 

 

 途中でアイエフと合流したアタシ達が夢人達の所に辿り着くと、そこではモンスターに襲われている彼らの姿があった。

 

 中でもお姉ちゃんは、明らかに弱そうな小型のモンスター相手にやられそうになっていた。

 

 もしかして、戻ってないの!?

 

 アタシはモンスター達を狙撃して、お姉ちゃんとネプテューヌさんを助けることに成功した。

 

「お姉ちゃん、大丈夫なの!?」

 

「……うん、ありがとう、ユニちゃん」

 

 ……っ、やっぱり戻ってないんだ。

 

 アタシは思わず泣きそうになってしまった。

 

 でも、今はモンスター達を倒さないと……

 

「お兄さん、これはいったいどういう状況なんですか?」

 

「俺にもさっぱりだ。でも、あのアイスフェンリルの額のアカリの欠片が原因らしい」

 

 ワンダーと共に近づいてきた夢人は、白いフェンリルを睨むように見つめて言った。

 

 確かに、額に白く輝く何かが見える。

 

「アイツを何とかすれば、この状況もなんとかできるかもしれないけど、アイツはワンダーの一撃を喰らってもピンピンしていたんだ」

 

「……つまり、強力な一撃が必要、ってことかな」

 

「ネプ子も『変身』できないの?」

 

「うん、なんか変な感じがして『変身』できないだよ」

 

 強力な一撃、本来なら『変身』したアタシかネプテューヌさんの出番だろう。

 

 でも、なぜかここに来たら『変身』ができなくなってしまった。

 

 ワンダーの一撃以上の威力、そんな威力の攻撃をすることなんて……

 

〔どうやら本来の役目を果たす時が来たようだな。ラステイションの女神候補生、黒いボタンを押せ〕

 

「え、アタシが? でも、ワンダーって夢人の鎧なんじゃ……」

 

〔これはお前のための力だ……CHANGE MODE BLASTER〕

 

 アタシのための力。

 

 アタシが言われた通り黒いボタンを押すと、空中に浮き上がったワンダーの体が見るみるうちに変形していき、アタシ肩に着地した。

 

 まるで巨大なバズーカのような形になったワンダーの姿に驚いているうちに、アタシの目の前に緑色のスコープまで現れた。

 

 これはいったい……

 

〔ブラスターモード……射撃が得意なお前のためのモードだ〕

 

「で、でも、なんでこんなモードが……」

 

「ノワール様よ、ノワール様がアンタのために用意していたのよ」

 

 アタシのためのモードがあることに困惑していると、アイエフがお姉ちゃんが用意していたと教えてくれた。

 

「元々ワンダーは『変身』ができなかったアンタのために、ノワール様が設計したそうよ」

 

 ……これはアタシのためにお姉ちゃんが考えていてくれた力。

 

 『変身』できないことを、ずっと悔しく思っていたアタシのために……

 

〔このブラスターモードなら、奴も一撃で倒せるはずだ。しかし、チャージ中は動けず、無防備になってしまう〕

 

「なら、その間は俺達がユニを守る」

 

 夢人がアタシを安心させるように柔らかくほほ笑んだ。

 

 ネプテューヌさん達も同じ気持ちなのか、皆同じ表情をしていた。

 

「だから、ユニ。しっかり決めてくれよ」

 

「……任せておきなさい。必ず決めてみせるわ」

 

 夢人達からの信頼、必ず応えてみせる!!

 

 アタシはトリガー部分を強く握りしめて、スコープ越しにアイスフェンリルを睨んだ。

 

 目標、アイスフェンリル、狙い撃つわ!!

 

 

*     *     *

 

 

〔頼むぞ、チャージ開始!〕

 

 ワンダーの声と共に、砲身のランプが灯り始めた。

 

 ランプは全部で5つあり、おそらくチャージ完了は全部のランプが点灯した時だろう。

 

 その間は絶対にユニを守ってみせる!!

 

「ユニを囲んで陣形を組むわよ!」

 

「わかった! ユニちゃんには指一本触れさせないんだからね!」

 

 例え魔法が使えなくても、この体全部で守り通してみせる!!

 

 来るなら来やがれ!!

 

 ここから先は一歩も通さないぞ!!

 

 俺達がユニを囲むように陣形を組む中で、1人だけアイスフェンリルへと突撃する人物がいた。

 

「ノワール!? 何やってるの!?」

 

 その人物はノワールであった。

 

 彼女はこちらの呼びかける声に反応を示さず、そのままアイスフェンリルへと走っていく。

 

 何をやってるんだ!?

 

「俺が止めてくる!! 後は頼む!!」

 

「ノワールをお願い、ゆっくん!!」

 

「おう!!」

 

 俺はノワールを追いかけて走り出した。

 

 彼女はアイスフェンリルの目の前で大きく手を広げて、声を震わせながら叫んだ。

 

「……こ、これ以上の……悪さは……こ、この、マジカルヴィーナス……ノワルンが……許さ……」

 

「ガルルルルルル!!」

 

「ひっ!? ぜ、絶対に、許さないんだから!!」

 

 声で恐怖に震えて泣いているのがわかった。

 

 それでもノワールは懸命にアイスフェンリルから視線をそらさずに叫んだ。

 

 ここは一歩も通さないと体で訴えていたんだ。

 

 しかし、アイスフェンリルにとってそんな彼女の覚悟など関係なかった。

 

 アイスフェンリルは苛立ちを隠せない様子で、その鋭い爪先を彼女に突き刺そうと跳び上がった。

 

「危ない!?」

 

「きゃあ!?」

 

 俺はノワールを庇うように彼女を押し倒そうとしたが、アイスフェンリルの爪先は俺の肩にかすってしまった。

 

 くっ、痛っ。

 

 周りが寒いため、余計に傷跡が熱を発生しているように感じてしまい、痛みで顔を歪めてしまった。

 

「……あ、あなた、怪我を……」

 

「バカ!! 何やってんだよ!!」

 

 ノワールは俺の傷を心配してくれるが、今はそれよりも彼女に聞かなくてはいけない。

 

 どうしてこんなことしたのかを……

 

「だ、だって……私は、マジカルヴィーナスで……『変身』できなくても……弱くても……ユニちゃんの、手助けをしたかったの」

 

 ……そうか。

 

 今のノワールなりにユニを守ろうとした行動だったのか。

 

 弱くても大切な誰かを守りたいと言う気持ちはよくわかる。

 

 でも、それで1人で無茶することは断じて違う。

 

「だったら、皆で守るぞ。ノワールは1人じゃないだから」

 

「……でも、これはマジカルヴィーナスの……」

 

「マジカルヴィーナスとか関係ないさ。大切なものを守りたいのは誰だって同じなんだ。だから、一緒に守るぞ」

 

「……うん!」

 

 弱弱しく俯いていたノワールが、顔を綻ばせて返事をしたことに安心はしたが、状況は最悪だ。

 

 俺と彼女が話している間に周りを囲まれてしまっている。

 

 魔法が使えず、まともに戦えない俺と、黒歴史から抜けさせておらず、ただの女の子になってしまっているノワールじゃ、この包囲網を突破することは難しい。

 

 どうすりゃいいんだ。

 

 せめて魔法が使えれば……

 

『パパ!! わたしにまかせて!!』

 

 ……アカリ?

 

 やけに自信満々だけど、いったいどうするんだ?

 

『わたしがつよいパパにするよ!!』

 

 強い俺? それってどういう……

 

『ううぅぅぅ、にゅうううぅぅぅぅ!!』

 

 ……アカリに尋ねるよりも早く、俺の中で何かが弾けるような音が聞こえたような気がした。

 

 何となく懐かしいこの感覚は……

 

 

*     *     *

 

 

 突然俯いてしまった夢人を見て、チャンスだと思ったのかアイスフェンリルが大きく口を開けて、彼の頭を食い千切ろうと跳びかかった。

 

「危ない!?……って、へ?」

 

 ノワールは先ほど自分が助けられたように、夢人を押し倒して助けようとしたが、なぜか自分が妙な浮遊感に襲われていることに気付いた。

 

「あ、あれ? これって……っ」

 

 ノワールはいつの間にか夢人に抱えられていることに気付き、急速に顔を赤らめた。

 

 夢人は自分を押し倒そうとして来た彼女を抱きかかえると同時に、回転してアイスフェンリルの攻撃を避けていたのである。

 

「あ、あ、あああの!? な、ななな、なんで私!?」

 

「……照れた顔も可愛いね」

 

「か、かわ!?」

 

 ノワールは可愛いと言われて、さらに沸騰したように全身を赤くさせる勢いで照れ始めた。

 

 夢人もそんな彼女の仕草が余計に可愛く見えたのか、目を細めながら優しく笑みを浮かべ続ける。

 

「さあ、夢が終わるもう少しだけ、私と踊ってくれますか、プリンセス?」

 

 夢人はそう言って、回転するように背後から跳んできたマルベーダーを避けて、本当に踊っているようにクルクルとモンスター達の間をノワールを横抱きにしたまま回り始めた。

 

「……ねえ、アイお姉さん」

 

「……何かしら、フェル」

 

 遠目に2人を見ていたネプテューヌ達だったが、夢人の変貌ぶりに驚いてしまっていた。

 

 特に、何やら見覚えのある夢人の行動にアイエフとフェルは頬を引きつらせてしまっていた。

 

「……ボクの勘違いでしょうか。どこかであのお兄さんを見たことがあるんですよ」

 

「……奇遇ね、私も同じことを思っていたのよ」

 

「もー、2人だけでわかった風な会話しないでよ! あのゆっくん、どうしちゃったの? 明らかに普通じゃないよね?」

 

 2人だけで話している姿に、ネプテューヌが我慢できずに尋ねた。

 

 明らかにおかしくなっている夢人の行動を2人だけで理解しないで、教えて欲しいと思ったからである。

 

 その間にも、モンスター達の攻撃にさらされている夢人達だが、彼はただ口元を緩めてステップを踏んでいるだけで全ての攻撃を避け切っていた。

 

「何あの回避スキルって言いたくなるくらい、おかしな回避してるんだけど。まるで予知能力でもあるのかと疑っちゃうくらいおかしな避け方なんだけど」

 

 ネプテューヌの言う通り、夢人は後ろに目でもあるかのように不意打ち気味に飛び出してくる攻撃にも反応して避けている。

 

 普段の彼では考えられない行動にネプテューヌだけでなく、ファルコムとユニも同じように疑問の眼差しを向けていた。

 

「……多分、あれは夢人の黒歴史の1つよ」

 

「……勘違い、いや、ナルシスト、でしたっけ」

 

 そう言って再びネプテューヌ達は夢人へと視線を戻すと……

 

「あ、ああ、あの、プリンセスって……」

 

「嫌だったかな? なら、寂しがり屋のウサギちゃんとでも呼ぼうかな?」

 

「あ、あああ、ああ、あうぅぅぅ」

 

 夢人がモンスター達の攻撃を避けながら、ノワールを照れさせている光景が目に入った。

 

 その足は一切止まっておらず、どんなタイミングでやってくる攻撃でもかすることさえなかった。

 

「なにあれ!? あれがゆっくんの黒歴史なの!? どうしてあんなになっちゃったの!?」

 

「私にもわかんないわよ!? しかも、私が一番見たくなかった奴だし!?」

 

「お、落ちついてよ、2人とも。これで時間は稼げるんだから」

 

 ファルコムの言う通り、すでにランプは4つまで点いており、すでに最後のランプも点灯間近であった。

 

「あー、もー、後で絶対ゆっくんを問い詰めてやるんだから!! ユニちゃん、準備は!!」

 

「……準備完了しました!! いつでも撃てます!!」

 

「よーし!! ゆっくん、準備できたから退避して!!」

 

 ネプテューヌの声を聞いて、夢人は最後の仕上げとばかりにモンスター達が一直線に並ぶように誘導しながら、ユニの射線から退避した。

 

 ユニは夢人達が退避したことを確認すると、すぐにスコープの照準の誤差を修正し、トリガーを弾いた。

 

「喰らいなさい!!」

 

 トリガーとは別に取り付けられていたハンドルを握り、両手でしっかりと砲身を持って、ユニはブラスターモードに溜められていたエネルギーを放出した。

 

 放出されたエネルギーは一本の光の矢となり、ドカーンとマルベーダー達、最後にアイスフェンリルを貫いて尚、背後にあった木々も貫き通した。

 

 光の矢に貫かれたモンスター達は光の粒子となり、消えて行き、アイスフェンリルの額にあった欠片だけが地面に落ちた。

 

 

*     *     *

 

 

「……終わったの?」

 

「そうだね、ウサギちゃん」

 

 私のつぶやきに反応して、ネプちゃん曰く、ゆっくんさん? は優しく、こちらが照れてしまうくらいの笑みを浮かべた。

 

 あ、あううぅぅぅ、いつまで私は横抱きにされているんだろう。

 

 私はずっとゆっくんさんに横抱きにされたまま、モンスター達の攻撃を避け続けた。

 

 モンスターの攻撃がなければ、まるで舞踏会のお姫様になった気分だったのに……

 

 それくらい夢のような出来事だった。

 

「では、最後にとっておきの魔法をプレゼントしましょう」

 

「とっておきの魔法?」

 

 何だろうと、私が考えているうちに、ゆっくんさんは私を下ろして、額に指を当ててきた。

 

「あなたが子ウサギちゃんを守ろうとした勇気……それこそが最高のマジカルパワーなんですよ」

 

 勇気がマジカルパワー……

 

 あ、あれ? なんだか急に眠くなって……

 

「あなたが『変身』するのはマジカルヴィーナスノワルンじゃない。あなたの本当の『変身』した姿は……」

 

 私の本当の『変身』した姿は……

 

 

*     *     *

 

 

 ネプテューヌ達がアイスフェンリル達を倒して気を緩めていると、ユニの後ろから隠れていたマルベーダーが飛び出してきた。

 

 ネプテューヌ達はもちろん、ユニもそいつの接近に気付かず、あわや攻撃されそうになった瞬間、ネプテューヌ達をすり抜けてユニの隣に黒い影が滑り込み、手に持っている剣でマルベーダーを斬り裂いた。

 

「……ふう、油断しちゃだめよ、ユニ」

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 服装はノワルンスタイルのままだが、自分のことをユニと呼んだノワールを目を大きく見開いて見た。

 

 だが、それはすぐに歓喜の涙になり、ユニはノワールに抱きついた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「……ごめんなさいね、たくさん迷惑かけちゃって」

 

「ううん!! いいの!! お姉ちゃんが元に戻ってくれたなら、それでいいの!!」

 

 ノワールは苦笑しながらも、柔らかく頬を緩めて抱きついているユニの髪をなで続けた。

 

 ノワールに遅れて、ネプテューヌ達の近くに来た夢人も満足そうに頬を緩めながら2人を見つめた。

 

「……どんな魔法を使ったのよ?」

 

「そうだよ、ノワールの黒歴史をどうやって終わらせたの、ゆっくん?」

 

「なに、ありふれたエンディングだよ」

 

 2人から視線をそらさず、夢人は言葉を続けた。

 

「魔法なんてなくても、彼女は大切な人を守れる女神になりました……ただそれだけだよ」

 

 ……夢人はそれだけ言って、抱き合う2人を優しく見つめ続けた。




という訳で、今回はここまで!
盛りすぎた、というのが今回書いてて思ったことです。
これは次回のノワール視点の話でいろいろと説明しないと……
それでは、 次回 「帰ってきた女神通信(ノワール編)」 をお楽しみに!

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