超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日も魔法女神☆ノワルンの時間がやって……違いますよね。
それでは、 混ざり合う色 はじまります


混ざり合う色

 ……それは不思議な出会いだった。

 

 学校帰りにユニちゃんと一緒にクレープを買って寄り道していると、目の前に一匹の青い子犬が倒れていた。

 

「大変!? お姉ちゃん、この近くに動物病院って……」

 

「アヤさんの所よ!! すぐに行きましょう!!」

 

 私とユニちゃんは急いで子犬を抱えて、アヤさんが経営している動物病院に向かった。

 

 すぐによくなるからね。

 

 私は抱えている子犬の頭を撫でながら走り続けた。

 

「アヤさん!! 急患です!!」

 

「あらあら、ノワちゃんとユニちゃんじゃない。その子犬どうしたのかしら?」

 

「道で倒れていたんです!! お願いします!! 助けてください!!」

 

 私が動物病院に着くと、巨漢でナース服を着た漢乙、アヤさんが奥から出てきた。

 

 私は事情を説明して、子犬の治療をお願いした。

 

 抱えている時に大きな怪我がないことは確認してあるが、私がここに連れてくるまで一向に動かない。

 

 もしかして、何か悪い病気なのかもしれない!?

 

「わかったわ、任せなさい」

 

 アヤさんは私から子犬を受け取ると、すぐに治療室に入っていった。

 

 私とユニちゃんは受付に設置されてある長椅子に座って待つしかない。

 

「……お姉ちゃん、あの子犬、大丈夫かな?」

 

「大丈夫よ。だって、アヤさんだもん。あの人は不可能を可能にする漢乙よ」

 

 私は不安そうにしているユニちゃんを励ますように、優しく抱き寄せた。

 

 そう、今までだってアヤさんはいろんな動物達を治療してきたんだ。

 

 今回だって、すぐによくなるはず。

 

 私の言葉に安心したのか、ユニちゃんは今度は自分から甘えてくるように私に体を寄せてきた。

 

 その顔にはもう不安の色はない。

 

 いつもの愛らしく目を細めて笑うユニちゃんの姿があった。

 

 もう、甘えん坊さんなんだから。

 

 いくら私の言葉で安心したと言っても、こんなすぐに安心するだなんて。

 

 そう思いつつも、私はそんなユニちゃんのことを愛しく思った。

 

 しばらくして、アヤさんが一仕事終えたと言った表情で額を拭いながら治療室から出てきた。

 

「ふぅー、安心していいわよ。あの子犬ちゃんは無事よ。今はぐっすり眠っているわ」

 

「……よかった。ありがとうございます、アヤさん」

 

 アヤさんが私達に子犬の無事を、きらりと輝く歯を見せながら親指を立てて教えてくれた。

 

 さすがアヤさんだね。

 

「お礼はいいわよ。逆に、私があなた達にお礼を言いたいわ。あの子犬ちゃんが無事だったのは、あなた達がここに連れて来てくれたおかげなんだから」

 

「そんな……私達は当たり前のことをしただけですよ」

 

「もう、ノワちゃんったらいっつも優等生発言なんだから」

 

 私達は当然のことをしただけなんだ。

 

 小さな命を助けることに理由なんていらない。

 

 今は心から子犬の無事を喜んでいるんだから。

 

「それじゃ、あの子犬ちゃんは一晩預かるけど、明日になったら飼い主を探してみるわ」

 

「それ、私達にも手伝わせてください」

 

「いいの? 私としては助かるんだけど……」

 

「いいんです。もし飼い主さんが見つからなかったら、私達で引き取ろうと思いますから。ね、ユニちゃん」

 

「もちろん賛成だよ、お姉ちゃん」

 

 道端で倒れていたくらいだ、捨て犬だったのかもしれない。

 

 そんな時は、私達の教会で飼えばいい。

 

 女神の手は万人に等しく差し出されるもの。

 

 それが子犬であっても例外じゃない。

 

「わかったわ、明日の学校帰りに寄ってちょうだい」

 

「わかりました。それじゃ、私達はこれで失礼しますね」

 

「子犬のこと、よろしくお願いします」

 

 そして、私達はアヤさんに子犬のことを頼んで教会へと帰っていった。

 

 ……これが運命の出会いでした。

 

 

*     *     *

 

 

 教会に帰って、もしかすると子犬を飼うことになるとケイちゃんに相談すると、二つ返事で了解を得られた。

 

「いいかい? 室内で飼うのなら、絶対にトイレの世話を欠かしてはいけないよ。ここは毎日多くの人が来る教会なんだ。臭い匂いがする教会なんて嫌だろう?」

 

 もちろん、ちゃんと世話をするつもりだ。

 

 子犬の排泄物の匂いが充満する教会なんて……

 

 ……うん、想像したくない。

 

「後、アヤさんにお願いして子犬の飼い方もしっかりと教えてもらってきなさい。できれば、本か何かを借りてくると何か問題があった時、僕達でも対処できるからね」

 

「わかったわ。アヤさんにお願いしてみるわね」

 

「それが守れるのなら、僕は反対しないよ」

 

 私は隣に座っていたユニちゃんと顔を見合わせて喜んだ。

 

 よかった、ケイちゃんに反対されたらどうしようかと思ってたんだ。

 

 うちでダメだったら、ネプちゃんやファルちゃんの家に頼むつもりだった。

 

 でも、急に子犬の世話をお願いしても迷惑なだけだろう。

 

 最初に見つけた私達がお世話しなくちゃね。

 

 

*     *     *

 

 

 ……その夜、私が自室で課題を片付けていると、妙な声が聞こえてきた。

 

〔……誰か……誰か、助けてください〕

 

「……え? 声? どこから聞こえるの?」

 

 まるで頭の中に直接響いてきているような声に私は驚き辺りを見回すが、ここは自分の部屋で私1人しかいない。

 

 この声、いったい何なの?

 

〔……声が聞こえる人……お願いします……助けてください〕

 

 私は窓を開けて上半身を投げ出して外を見た。

 

 何となくどこから声が聞こえてきているのかわかる。

 

 これは……アヤさんの動物病院の方向?

 

 私は声が気になり、課題どころではなくなったので、急いで教会から飛び出した。

 

 助けてって、誰なんだろう?

 

 でも、助けを求められているのに見捨てることなんてできない。

 

 私は急いで動物病院に向かった。

 

 ……そこで私は今までの常識を覆すような存在と出会った。

 

 私が動物病院に着くと、そこには全身黒タイツを着た如何にも戦闘員ですって人と戦う朱色の短い髪の女性がいた。

 

 女性は剣で次々と戦闘員を斬り倒していく……って、もしかしてファルちゃん?

 

 私は見覚えのある後姿に、クラスメートの姿を重ねた。

 

 短い朱色の髪とカチューシャ、服装は何となく騎士っぽいマントを付けた姿だったが、間違いなくファルちゃんだと私にはわかった。

 

「ファルちゃん!? 何やってるの!?」

 

「ノワール!? どうして君が……くっ!?」

 

「イイィィィ!!」

 

「きゃあああ!?」

 

「ファルちゃん!?」

 

 私が声をかけたせいでファルちゃんが戦闘員っぽい人にお腹を蹴り飛ばされてしまった。

 

 私は蹴られて地面に転がったファルちゃんに急いで駆け寄った。

 

 なにがどうなってるの!?

 

「大丈夫!?」

 

「うん、なんとかね。でも、どうしてここに来たの?」

 

「……声が聞こえたの。助けてって」

 

 私がそう言うと、ファルちゃんは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに顔を引き締めてまっすぐに私の瞳を覗き込むように見つめてきた。

 

「……そうか、ノワールが選ばれた女神だったんだね」

 

 選ばれた女神?

 

 私が何のことだかわからない内に、ファルちゃんの近くに小さい影が寄ってきた。

 

「……え、私達が助けた子犬?」

 

 小さい影の正体は昼間に私達が助けた子犬だった。

 

 子犬はまるで人間のように頭を下げて、人語を話し始めた。

 

「昼間はありがとうございました」

 

「しゃべった!?」

 

「ボクの名前はフェルって言います。マジカルワールドから、この世界の危機を知らせるためにやってきたんです」

 

「実は、あたしもマジカルワールドの女王様を守る騎士団に所属していた騎士だったんだ。今まで黙っててごめんね」

 

 待って待って待って!?

 

 いきなりマジカルワールドとか、女王様を守る騎士団とか意味がわからないよ!?

 

 私が混乱しているうちに、ファルちゃんと戦っていた戦闘員が鉄パイプっぽい細長くて灰色の棒を振りかぶって向かってきた。

 

「イイィィィィ!!」

 

「させないよ!!」

 

「ぐえっぷっ!?」

 

 あ、悲鳴は普通なんだ。

 

 私が変な感想を持った時には、すでに戦闘員はファルちゃんがその手に持つ剣で吹き飛ばしていた。

 

「ノワールにお願いがあるんだ。君の力を貸してほしい」

 

「……私の、力?」

 

「あなたには素質があります。魔法女神になれる素質が」

 

 ……魔法女神。

 

 それがどんなものなのかはわからないけど、ファルちゃんとフェル君が真剣なことは痛いほど伝わってくる。

 

 私は助けを求めてくる2人を見捨てられない!

 

「……わかったわ、どうすればいいの?」

 

「今から契約の儀式を執り行うよ。ハイかイエスで答えてね」

 

 それって選択肢ないんじゃないかしら?

 

 私が疑問に思っていると、フェル君は今まであった表情を消し、まるで私のことなどどうでもいいような視線でこちらを見ながら言葉を投げかけた。

 

「ボクと契約して、魔法女神になってよ」

 

 

*     *     *

 

 

「ちょ!? それダメな魔法少女じゃ……」

 

「フェル、ダメ!? お姉ちゃんの話を止めちゃダメ!?」

 

 アタシは慌ててお姉ちゃんの話を止めようとしたフェルの口を封じた。

 

 ……そう、今までのは全部お姉ちゃんの作り話。

 

 決して違う世界観になったわけじゃない。

 

 なんでアタシ達がお姉ちゃんの話を聞いているのかと言うと、それはお姉ちゃんの黒歴史を終わらせるためだ。

 

 がすとの話によると、お姉ちゃんを元に戻すには黒歴史を終わらせる必要があるらしい。

 

 黒歴史を全て吐き出させることにより、本来のお姉ちゃんを引っ張りだそうとする作戦だ。

 

 いくら黒歴史と言っても所詮は妄想だ。

 

 物語に終わりがあるように、妄想にだって終わりはある。

 

 ネプテューヌさんなんて、「今時の魔法少女って言ったら13話1クールだよね。それなら早く終わらせちゃおう!」って言って、すでにスタンバイしてもらってる。

 

 妄想で肝心なのは最初と終わりだけ、らしい。

 

 中まで妄想すると、収集が付かなくなり、頭の中でこんがらがって何を考えていたのだかよくわからなくなってしまうと、夢人は言っていた。

 

 ここはB.H.C.経験者であり、数多くの黒歴史も持っている夢人の言葉を信じよう。

 

 だから、アタシ達はこうしてお姉ちゃんの物語、ま、魔法女神☆ノワルンの最初の部分を聞いている。

 

 ……う、ううぅぅぅ、言葉にするだけでも少し恥ずかしい。

 

 お姉ちゃんってそう言うの好きなのかな?

 

 アタシ全然知らなかったよ。

 

 でも、これで最初の部分は終わったはず、後は強制的に最終話を迎えさせてハッピーエンドにしてあげればいい。

 

「わー、大変だ、ノワール」

 

 アタシ達がいる部屋にケイが慌てた様子で入ってく……もうちょっと演技してよ。

 

 その棒読み加減と引き攣った頬はやめて欲しい。

 

「森の近くでマジェコンヌが暴れてるらしい」

 

「なんですって!? すぐに行かなくちゃ!!」

 

「気をつけて行って来るんだよ。相手も、もう後がないんだから」

 

「わかってるわ。ゲイムギョウ界の平和を守るため、マジェコンヌと決着をつけてくるわ!!」

 

 そう言って、お姉ちゃんは部屋を飛び出して最終話の準備をしている夢人とネプテューヌさんのいる森へと向かっていった。

 

 ……もちろん、ノワルンスタイルで。

 

 後、アタシ達がすることはお姉ちゃんの姿を見て驚いている人達に対して、撮影ですって言ってごまかすことだけだ。

 

 お願い、夢人、ネプテューヌさん。

 

 お姉ちゃんを元に戻して。

 

 

*     *     *

 

 

「……よし、ユニから連絡があった。もうすぐノワールがここに来るぞ」

 

「ええ、こちらの準備はすでにできているわ」

 

 わたしは『変身』している状態でゆっくんと最後の打ち合わせをしていた。

 

 魔法少女物のラスト、ここは無難に友情エンドを目指そうと思う。

 

 敵に捕まった洗脳された友達が最後の敵として立ち塞がるのを、ノワールが助け出して互いの友情を確かめ合う、そういう筋書きだ。

 

 都合がいいことに、わたしがノワールの友達設定で、ゆっくんが見知らぬ人設定だ。

 

 わたしがゆっくんを襲って、ノワールを誘き寄せることから始まる。

 

 こんなことするくらいなら、いっそのことノワールの意識を強制的にブラックアウトさせればいいと最初は思った。

 

 でも、それは危険なことらしい。

 

 意識を失うことで、本来の人格と黒歴史が混ざり合ってしまい、さらに混沌とした状況になってしまう可能性がある、とがすとは言っていた。

 

 ……これ以上、ノワールがおかしくなることは勘弁してほしい。

 

 わたしがB.H.C.なんてものを渡したことにより、おかしくなってしまったノワール。

 

 必ずわたしの手で助け出してみせるわ。

 

「そろそろいくわよ、ゆっくん」

 

「ああ、遠慮はいらない。思いっきりやってくれ」

 

 ゆっくんはそう言うが、わたしは今からすることを思うだけで胸が痛い。

 

 演技とはいえ、ゆっくんに攻撃をしなくてはいけないことが辛い。

 

 ……ごめんなさい、ゆっくん。

 

「デュアルエッジ!!」

 

「うわああああ!?」

 

 わたしは手に持っている刀剣をゆっくんをかすめるギリギリの位置に振り下ろした。

 

 ゆっくんが尻もちをついてわたしを見上げてくるのを、刀剣の切っ先を向けて脅すように見下す。

 

「あなたはノワルンを誘き寄せるための餌よ。さあ、泣き喚いてノワルンを呼びなさい」

 

「た、助けて、ノワルン!?」

 

「……どうやら来ないみたいね。なら、あなたに用はないわ。ここで死……」

 

「待ちなさい!!」

 

 来た!

 

 最高のタイミングでノワールが来たようだ。

 

 ゆっくんも少し安堵して口元を緩めている。

 

「犯罪組織マジェコンヌ!! また罪のない人を苦しめて!! そんなことは、マジカルヴィーナスノワルンが……え、どうして」

 

 木の上に立って名乗りを上げる途中で、わたしのことに気付いたらしい。

 

 ノワールは驚愕のあまり、目を大きく開き、口も開けたままでわたしを見つめている。

 

 ここでさらに叩きこむ!

 

「よく来たわね、マジカルヴィーナスノワルン。いえ、ノワール」

 

「……う、ウソ。どうして……どうしてネプちゃんが!?」

 

「ふふふ、今のわたしはネプちゃんじゃないわ。今のわたしはマジェコンヌ最強の戦士、ダークネスパープル。ノワルン、あなたを地獄に落とす者の名前よ」

 

 ……自分で名乗ってて、ダークネスパープルとか恥ずかしすぎる。

 

 でも、これくらいインパクトがある方がわかりやすいはずよね。

 

 実際に、ノワールも衝撃を受けているし……

 

「目を覚まして!? あなたは私と同じ、マジカルヴィーナスなのよ!? 正気に戻って!?」

 

 え、わたしもマジカルヴィーナス設定だったの?

 

 こ、これはちょっと想定外だったけど、まだ続けられるわ。

 

「……ああ、そんなこともあったわね。でも、わたしはそんなものよりも強い力を得たのよ」

 

「……ネプちゃん」

 

「ここであなたを殺して、ゲイムギョウ界を支配してやるわ。止めたかったら、わたしを倒すことね」

 

 涙を浮かべて祈るように両手を組みながら、こちらを見つめているノワールに、わたしは自分ができる精一杯の暗い笑みを浮かべて言った。

 

 ここでノワールに戦意喪失させないために、戦うように挑発しないと。

 

「それとも、ゲイムギョウ界の平和を守るマジカルヴィーナスさんは戦わずに、わたしにゲイムギョウ界を譲ってくれるのかしら? それなら、ゆっくりとそこであなたが大切に思う人達が苦しむ姿を見ていることね」

 

 お願い、食いついて。

 

 これ以上の挑発なんて言ってる方も辛いのよ。

 

 お願いだから、戦う意思を見せてちょうだい!

 

「……わかったわ。私があなたを止めてみせる」

 

「できるのかしら?」

 

「できるじゃない!! やるんだ!! 私がゲイムギョウ界も、ネプちゃんも救ってみせる!!」

 

 よし、ヒット!!

 

 上手い具合に誘導できたわ。

 

「死んでしまったブランちゃんとベールちゃんも分まで、あなたとゲイムギョウ界を救ってみせる!!」

 

 ちょ、ちょっと待ちなさい!?

 

 なんでブランとベールが死んでる設定なのよ!?

 

 あ、あれ? もしかして、この決闘フラグは、わたしの死亡フラグにつながっているんじゃないかしら?

 

 そして、ノワールが1人になって鬱エンディング……って、そんな展開認めないわよ!?

 

 ここは何としてもわたしが助かる展開に持っていかないと。

 

「ふふふ、あなたはわたしを倒しても、わたしを操っている犯罪神がいると思っているかもしれないけど……そんなものはいないわ!!」

 

「な、何ですって!?」

 

「だから、わたしを倒せば洗脳が解けて、元に戻るかもしれないわね」

 

「……それを聞けて安心したわ。待っててね、ネプちゃん。すぐに助けてあげるから!!」

 

 それはこっちのセリフよ。

 

 わたしは刀剣を、ノワールはピンク色のキラキラ光るバトンを……って、なんでいつもの剣じゃないのよ!?

 

 そんなもので戦えるわけないでしょうよ!?

 

「いくわよ!! インパルスエッジ!!」

 

「え、ちょっ!? 重っ!?」

 

 な、なんで刀剣と打ちあえるのよ!?

 

 いつもならノワールが持っているような子ども向けの玩具なんてバターみたいに斬り裂けるはずなのに、なぜかその一撃一撃が非常に重い。

 

 激しい火花を散らしているのに、バトンには傷一つ付いていない。

 

 な、何でなの!?

 

 ノワールの妄想は玩具にまで影響を及ぼしているの!?

 

 こ、これはちょっと本気を出さないとこっちがやられてしまう!?

 

「くっ!? ヴァリアブルエッジ!!」

 

「甘いわ!!」

 

「なっ!? えっ!?」

 

 わたしはバトンを弾き飛ばそうとしたが、ノワールはバトンの先端に付いている明らかにプラスティックでできていると思われる宝石のような部分で受け止めた。

 

 それに驚愕している間に、彼女はバトンを回転させて、逆にわたしの刀剣が弾かれてしまった。

 

 なんでそんな芸当ができるのよ!?

 

「これで武器はなくなったわね。お願い、これ以上私に攻撃させないで」

 

 ノワールはバトンの先端をわたしに付きつけて、降参するようにお願いしてきた。

 

 その目には涙が浮かんでおり、きっと彼女の中では自分がこれ以上友達を傷つけたくないと思っている優しい少女の姿を妄想しているに違いない。

 

 ……でも、泣きたいのはこっちの方よ!?

 

 そんな玩具のようなバトンで技を止められたのよ!?

 

 しかも、武器まで弾かれちゃって……

 

 もう、本当に泣いてしまいたい。

 

「お願い!! 元のネプちゃんに戻って!!」

 

 ……こんな圧倒的な展開になるだなんて想像してなかったけど、仕方ないわね。

 

 ここら辺で洗脳が解けそうな演技をして……

 

 その時、突然わたしの体が凍りつくような感覚に襲われた。

 

「ねぷっ!? ど、どうして!?」

 

「え!? なんで『変身』が!?」

 

 おかしな感覚に襲われたと思った次の瞬間には、わたしとノワールの『変身』が解けてしまっていた。

 

 ど、どういうことなの!?

 

 わたしはもちろんのこと、ノワールも状況を理解できていないみたいで混乱している。

 

「ガルルルルル!!」

 

 わたしが何が原因で『変身』が解けてしまったのかわからず、周りを見渡していると、ノワールの後ろの茂みからわたしの知ってるフェンリルよりも白いフェンリルが現れた。

 

 な、なんでこんな時に!?

 

 もう少しでノワールも元に戻せそうだったのに!?

 

 そんなことを考えているうちに、白いフェンリルがノワールに跳びかかって、その鋭い牙で噛みつこうとしていた。

 

 ノワールはただ震えてそれを見ていることしかできていない。

 

 そうだ!? 今のノワールはノワルンにならなきゃ、普通の女の子って言う設定なんだ!?

 

 だから、わたしが助けなくちゃ!?

 

 わたしが急いでノワールを助けようとするが、すでに白いフェンリルとノワールの距離はゼロになりそうだった。

 

「アクセルインパクト!!」

 

「ガウッ!?」

 

 ノワールの頭を食い千切ろうとした白いフェンリルの顔を、横から誰かが殴り飛ばした。

 

「平気か、ノワール?」

 

「……う、うん」

 

 白いフェンリルを殴った誰かは、青い鎧を着たゆっくんだった。

 

「ネプテューヌ、ノワールのこと頼んだぞ」

 

「わ、わかった」

 

 きっとあの青い鎧がワンちゃんのアーマーモードなんだろう。

 

 ゆっくんはその腕を白いフェンリルに向けて構えながら駆け出した。

 

「ここからは、俺のステージだ!!」




という訳で、今回はここまで!
ノワルン成分多めでお届けした今回、どうしてこうなったし……
この章の本編も残すところあと1話、どうなってしまうのでしょうか。
それでは、 次回 「託された力」 をお楽しみに!

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