ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~ 作:誤字脱字
息抜きに書いています
暖かく見守って下さい
『1』番大切な者はお家でありんすぇ。
雪被る廃墟の屋根上で一人の女性がペンを走らせていた・・・
〈エルダー・テイル〉
米アタルヴァ社により運営されている本格派MMORPG。
「剣と魔法でモンスターと戦う」ことを前提とした典型的な中世ヨーロッパ風の世界観で、様々な種類のクエストを介して異世界セルデシアでの冒険や生活を楽しむことが目的のゲーム。
日本人だけで10万人、全世界で2000万人がプレイしている世界最大級のオンラインゲーム
今日はそんな〈エルダー・テイル〉に3年ぶりに12番目の追加パックが当てられるという記念すべき日だった。あらかじめダウンロードされたデータは今日を境に解禁となり、〈エルダー・テイル〉の世界には新しいアイテムや新しいゾーン、新しいモンスターや戦い、そして何よりもレベル上限が上昇すると云うことで、多くのプレイヤーが〈エルダー・テイル〉の世界に接続をした上で期待に震えていた
―――しかし数分後には別の意味で震える事になるとは誰も予想していなかったであろう
「お、おい!なんでススキノにいるんだよ!?」
「どういうことなんだよ!誰か教えろよ!」
「責任者!責任者はどこだ!」
―――たった一つの魔法が発動されたのだ・・・世界級魔法が・・・
プレイヤーがゲーム世界に閉じ込められ〈エルダー・テイル〉 を混沌が包み込んだ
プレイヤーは、この地で何を思いどのように行動するかは追加パックの名前通り『開墾』していかなければならないのであろう・・・
『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:くずのは
より抜粋・・・
「今回の見出しはこれで決まりざんすな、しかし・・・」
先程から騒がしくなり始めた場所に視線を向ける・・・
「NPC如きが俺から金を取ろうとはどういう事だ!?あぁ!?」
「す、すみません、許して下さい・・・」
「謝って許して貰おうなんて思ってんじゃねぇよ!おらぁ!」
目下では、理不尽な暴力と吐き様のない怒りをNPCにぶつけるプレイヤー達が群がっていた―――
「・・・荒れるでありんすな、ススキノは」
目を細めながら厚い雲に覆われた空に視線を移した・・・
「・・・今宵のススキノはさむうござんす」
震える彼女を暖めるかのように9本の尻尾が彼女を包んだのであった・・・
ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~
第1尾 お社をイマジンクリエイト
〈ススキノ〉
「エッゾ帝国」に存在するプレイヤー都市。現実世界の札幌をイメージしたマップとなっており北方の巨人族と絶え間ない戦いにさらされる、北の軍事帝国。レトロな機械帝国といったイメージ。しかし 世界崩壊によって旧時代の文明が失われ、その遺跡とも云える巨大建造物や廃墟があちこちに残るこの世界なり、ここを生活の場にする住民は厳しい生活をしている。
「だがしかし!わっちは貧相なんぞ望んでありんせん!」
〈エルダー・テイル〉歴6年、LV90を上限解放3日目で迎える程のベテラン廃人プレイヤーの彼女にとって町を徘徊するPK集団なんて道端に落ちている小石と変わらないが、極力争い事を避けたい彼女は隠れ潜む事を選択した・・・・だが現実は非道で、先に述べた通り〈ススキノ〉は現実の日本標準生活を送るには過酷過ぎる条件なのだ
〈ススキノ〉でも数は少ないが一等地と呼ばれる立地条件が良い場所はあるが、すでにギルドに所属しないプレイヤーのたまり場になっていた
PK集団ではないのであれば一緒に混ざればいいのだが、いかんせん彼女は集団を嫌い所属していたギルドは解散してしまった自分を含め28人の零細ギルドのみ。
そのギルドはギルマスが引っかき回しているだけで彼女が嫌う集団とはまた違う雰囲気を醸し出していたから所属していたが・・・彼女にとって10人以上の集団は鳥肌ものだ
争いを嫌い、集団を嫌う彼女のとった道は廃ビルに隠れ住む事だった-----
しかし豊な日本生活に慣れてしまった彼女にとって雪風が防げるだけで寒さを防げない、娯楽のない空間は牢屋と同じであった
「寝袋で寝る?論外でありんす・・・多少のリスクがあったとしても、わっちが取る道は決まっておりんす!」
巧みにメニューバーを開き自身のサブ職業〈デザイナー〉のスキルを発動させた
ボロ机の上にポンッ!とコミュカルな音と共に紙と羽ペンが現れ、そのまま保存済みの設計図を貼付けするが・・・・いつになっても白紙のままで何も変わることはなかった
悲しい現実を受け止められないのか、彼女は同じ場所を行ったり来たりしていたが・・・彼女なりの覚悟を決めたのか勢いよく羽ペンを抜き取った!
「小中高大と悪い意味で『あなたの絵はピカソ並ね?』と言われ続けてきた、わっちの実力!見せてありんしょう!」
―――開き直った彼女はペン圧強く線を引き始めた!そして彼女は自身の変化に気づいた!
「おぉ・・おおお!手が、手が勝手に!」
紙とペンが触れた瞬間、自分の意思に反して勝手に手が動き始め僅か数分足らずで一枚の設計図を書上げたのだ!
「ふふ・・・ふふふ!あはははは!わっちは!わっちは!第二のピカソになれる!」
もとより調子に乗りやすい彼女のテンションは鰻登りである。
それはまさに某ドリンクのCMのごとき、『翼』を貰い自由に飛び回る鳥のように!
自身の高笑いをBGMに次々と設計図を書上げていく彼女を止められる者はどこにもいないであろう・・・
BGMが止まったのは日が傾き始め、廃墟の床に設計図の絨毯が引き終わった頃であった・・・
彼女は引き詰められた設計図を一つに纏めてボロ机の上に置き・・・
「・・・おうふ」
・・・・崩れ落ちた
彼女は自身のサブ職業〈デザイナー〉の欠点を思い出したのだ
欠点、それは設計図を書くことが出来るがモノを造る事はできないというものであった
これだけを見れば役に立たないサブ職業であるが、〈デザイナー〉の真骨頂は〈デザイナー〉が書いた設計図を基に作成すると作成物のランクが1上り材料費も安く設定できてオリジナルの装備品を作成出来ると言う生産系ギルドからしてみれば喉から手が出るほど欲しい能力なのだ
しかし忘れていては困る。彼女は集団を嫌っている、すなわち友達も少ないのだ!
慌てて数少ないフレンドリストを確認するが・・・いるのは〈剣聖〉や〈賭博師〉、〈騎士〉など今この場において彼女の求める職業は誰一人もいなかった
彼女は崩れ落ちた。まさにOTL状態に・・・
「・・・そうざんす!何故気づかなかったのでありんしょう!」
何を思い立ったのか彼女は設計図を放置し外へ飛び出していったのだ
そして一時間後・・・
廃墟に戻ってきた彼女の両脇には体格のいい二人の男性型NPCが縄で縛られて抱えられていたのだ・・・誘拐である
「お、おい!なんのつもりだ!?俺をどうするつもりだ!」
「や、やめてぇ!どうせ広場の人達みたいに酷い事するんでしょ!」
彼女はNPC達を部屋に放り投げメニューアイコンから次々に素材アイテムを出していった
誘拐されたNPC達から見れば今、冒険者と言う存在は恐怖の対象でしかないが・・・彼女にはまったく関わりのない事だ。
今、彼女思いはただ一つ・・・快適な空間を作成する駒が手に入ったという事のみ
彼女の出した結論はこうだ。
生産系サブ職業持ちプレイヤー→人→人型→人型なら誰でもいい→でも友達少ない→なら?→NPC!!!
である・・・何度も言うようだがNPCでも誘拐に変わりない
しかし新たな問題が発生した。
それはどうやってNPC達に作成をお願いするか?である
先に述べた通り、今のNPC達にとって冒険者は恐怖の対象になってしまっている。正青年っぽいNPCを連れてきたつもりだが・・・いかんせん、連れ込んでくる方法がいけなかった
一人は恐怖に震え、一人は今をなお彼女に罵声を飛ばしている・・・最悪な状態だ
だがしかし!彼女は止まってはいられない!なぜならこれ以上長引けば寝袋で寝る事が決定してしまうからである!
このまま時間が無常に過ぎていくのを只待っていることの出来なかった彼女は強硬手段に出た!
「聞いているのか!?いい加減、縄を ――ガンッ!! ――痛ッ!」
喚くNPCの顔を思いっきり地面に叩き付けたのだ!そして更に畳み掛ける!
鼻から赤い液体を流す
「バラされたくなきゃぁ、『コレ』を使い『アレ』通りのモノを作ってくんなましぃ?」
アゴで乱雑に置かれた素材アイテムとボロ机に置かれた設計図を示しながら脅迫し始めたのだ!
叩きつけられた
「わっちが、おねんしていりゃまでにわっちの寝床を作ってくれりゃぁれ?」
標準語でOK?と聞きたくなるような言葉であったがNPC達は頷くしかなかった
しかし、ビクビクと鼻から赤い液体を流す
「・・・もし間に合わなかったら?」と・・・
しかし彼女は質問には答えずに唯一この部屋にある出入口の扉に背を預けて目蓋を閉じたのだ
「ッ!!! おい!てめぇ!死ぬ気でやるぞ!」
「は、はいぃぃぃぃ!」
元からリーダー気質があった
幸いもう一人の
・・・ここで確認して見よう
NPC達には自分達が逃げられない様に彼女が出口を塞ぎ、強制労働させているのだ!と思っているのであろうが、実際の所、両者には大きな誤想が生まれていた
彼女はNPC達に「寝床を作ってくれ」と言った。しかし彼女の示す寝床とは寝る所つまり「ベットや布団」を現していたのだ!しかしNPC達は「寝床=住居」と考えにいたったのだ!
そしてもう一つの誤想・・・逃げ場を無くしている
実際には窓から一番離れている場所で唯一その扉だけが『木』で出来ていたので『木』の温かみを感じたかったと言う理由からそこに居座ったのだ!
だが両者の誤想から〈ススキノ〉に一つの奇跡が作りあがったのであった!
「・・・・ん・・んん~ん」
鶏が鳴く訳でもないが、闇に包まれ静まり返っていた町が騒がしくなり始め、朝を迎えた事が確認できた
その雑音が目覚まし変わりになり、彼女は目を覚ました・・・
まだ覚醒していない頭で周りを見渡す、
彼女の覚醒した頭でまず思った事は、あの殺風景な部屋が綺麗に変化した事ではなくベットがないと言うことだった・・・
まだ部屋の大きさに余裕がある様なので不機嫌そうに身体を起こし一つ一つ部屋の中を確認していく・・・しかし部屋を周るにつれて彼女の表情は段々と喜びに変わっていったのだ!
「な、な、な、なんと!?」
リビングがあり、洋室が2つ、キッチンがあり、お風呂もある!つまり・・・
2LDK・・・一人で住むには十分すぎる程の大きさを誇る部屋へと変貌を遂げた
彼女は喜びのあまり
「まさか・・・金が貰えるなんて・・・」
「しかも、こんなに一杯!・・・ありがとうございます!」
叩き起こした二人に彼女は精一杯感謝の伝え、皮袋一杯に詰めた金貨を二人に渡したのだ
まさかここまで感謝して、報酬として多額な金貨を貰えるとは思ってもいなかった二人には彼女に対する恐怖心はまるっきり無くなっていた
むしろ、その喜びようから子供っぽいと思えるようになっていた・・・
彼女は二人にまた何かあればお願いしたいと伝え二人も快く了解して部屋を出て行ったのであった・・・
先程まで3人いた部屋は1人になった事でより一掃広く感じたが、彼女は気にすることなく・・・
「まずは湯浴みでありんす♪」
お風呂に入りにいったのであった・・・
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