SAO アソシエイト・ライン ~ 飛龍が如し ~(※凍結中)   作:具足太師

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ようやく、SAOへと入ります。

タグにも入れましたが、あまりに遅筆過ぎて我ながら嫌になっちゃいます(泣)
ネタは浮かぶのになぁ……文章力の低さに絶望しそうです。


あと、原作キャラもようやく登場です。




『 剣と鉄の浮遊城 』

 

 

 

 

 

 ―――――― それ(・・)は桐生が東京に赴いていた、11月6日における“ もう1つの出来事 ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 沖縄県  養護施設:アサガオ 】

 

 

 

 

 

 その日も、真っ青な空と真っ白な雲の見事なコントラストが映える快晴であった。

 

 沖縄本島の一角の海沿いに、一軒の比較的 大きな家屋がある。日本家屋の趣の中に、漆喰で固定された赤い屋根瓦、全体的に低い高さ、建物の周囲に巡らされた石垣という、沖縄ならではの建築様式が見られる見栄えだ。木造ながらも、頻繁に見舞われる台風に備えて発展してきた独自の文化であり、先人達が磨いてきた その技術と強度は、見た目に似合わず高いレベルであると言えるものだった。

 

 その家屋こそ、桐生が経営者を務める養護施設・《 アサガオ 》である。

 石垣の入り口を通って左側には中庭に相当する広いスペースがあり、縁側や、風呂焚きなどに使う薪の保管所、そして施設内で飼われているだろう犬の小屋などが置かれている。

 

 

 そこで、1人 作業を こなしている人間の姿があった。

 

 

 

 

 

「―――――― ふぅ……やっと終わった」

 

 

 

 物干し竿に掛けられた多くの洗濯物を見て、少女 ―――――― 澤村(さわむら) (はるか)は満足気に呟いた。

 

 一般的な少女の それと言える細腕で、実に10人分に近い量を干していたのである。大の大人でも かなりの重労働と言えるだろうが、彼女にとっては慣れた様子であり大した疲労の色は見せていない。むしろ、自分の やるべき仕事を やり遂げた事という達成感が全身に漂っていた。

 

 

 

「さて………もう10時か。ちょっと様子を見てこようかな」

 

 

 

 ポケットに入れてあった携帯を取り出し、時間を確認する。作業を始めたのは8時を過ぎた辺りだったので、2時間近くが経ったと認識できた。

 

 1つ、“ 気になる事 ”があった遥は、施設内へと戻って行く。

 

 玄関で木彫りのシーサーに迎えられ、下履きを脱いで奥の方にある子供部屋へと足を進める。管理者である桐生の自室を通り過ぎ、更に奥の部屋が そこである。中庭から縁側を上れば すぐなのだが、下履きを後で玄関に戻すのも面倒な為、遠回りをして来たのだ。

 障子を開けると、中は子供が5,6人は入れる広さの部屋だ。そこに、2人の少女がいた。1人は布団の中で横になり、もう1人は寝ている少女の傍らで座って その様子を見守っている。

 

 

 

「―――――― あ、遥お姉ちゃん」

 

 

 

 入室に気付いた三つ編み の少女が、顔を遥へと向けた。

 彼女の名は綾子(あやこ)。遥に次ぐ施設内の年長者であり、遥にして“ 一番の世話焼きで しっかり者 ”と いわしめる、現在 中学生の少女だ。

 

 

 

「お疲れ様、綾子。……理緒奈(りおな)の調子は、どう?」

 

「うん、熱は下がったみたい。具合も、昨日の夜に比べたら大分 良くなったと思う」

 

「そう、良かった……!」

 

 

 

 良い知らせを聞き、遥は ほっと胸を撫で下ろす。自身も中に入って今も眠っている少女 ―――――― 理緒奈の横へ座り、眠る妹の顔を覗き込む。まだ少し顔が赤いものの、静かな寝息を立て、胸を上下させる様子を見て改めて安堵し、笑みを溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは、桐生がアサガオを発った後に起った。

 

 

 

 5日の朝の内に、桐生は最低限の荷物だけを持って東京へ向かった。襲名式の内容の確認や、真島や冴島ら幹部達への挨拶、それに警備などに関する話を纏めたりと、する事が それなりに多く、出来るだけ時間が欲しかった為である。

 その為、朝から施設の事を子供達に一任する事になってしまったものの、普段から そういった事は別段 珍しい事でもなく、子供達は役割を分担して それぞれ家事に当たる事にした。遥と綾子の女子年長組は食事の準備や掃除などを率先して行い、他の子供達はその補佐といった感じである。

 もっとも中には、唯一の大人である桐生が不在なのを良い事に、普段は出来ない事をしようと、はしゃぐ子もいたりはしたが。一番の しっかり者である遥と綾子を除いた7人は全員 小学生。さすがに、騒ぐなと言う方が無理がある故か、呆れこそ漏れるが雷が飛ぶ事はなかった。

 その後も特に問題は起きず普段通りの時間が過ぎ、やがて夕食の時刻となった。

 

 

 そして誰もがお腹を空かし、食事の完成を待ち望んでいる中 ―――――― それ(・・)は起きた。

 

 

 異変に最初に気付いたのは、アサガオの四女・エリであった。

 その時エリは子供部屋の中で本を読んでおり、三女の理緒奈も そこにいた。ふとエリが夕飯のカレー楽しみだねと話しかけた。カレーは彼女のみならずアサガオの子供たち全員の大好物である。だが、理緒奈からは気の抜けたような小さい返事しか返って来なかった。不審に思ったエリが振り向くと、額に汗を掻き、息も荒く、顔も赤くなった、見るからに様子のおかしい理緒奈が、そこにいた。

 そして間を置かず、理緒奈は机の上に突っ伏してしまう。

 

 驚いたエリは部屋を飛び出し、慌てて遥らに助けを求めたのだった。

 

 

 

 その後、近くの診療所の先生を呼び診察をしてもらった結果、風邪だという事が解った。幸い大事には至らないとの事で、子供達は誰もが安堵の溜息を吐いた。

 ただ、その時に解った事であるが、その日の理緒奈は朝から調子が優れていなかったらしい。だが大した事はない、大丈夫だと高を くくって放置し、あまつさえ友達と人混みのある場所まで買い物に出掛けさえしたのである。症状の悪化は為るべくして為った、というのが医師からの厳しい言葉であった。

 

 

 

 

 

 そして、現在。あれから処方された薬も飲み、皆が協力して看病を続けた甲斐もあって、ここまで回復したのである。

 

 

 

「ほんと、世話が焼けるんだから……」

 

「うん……でもまぁ、気持ちは解るかな。せっかく友達に誘われてたんだもの、無理をしてでも行きたいよね」

 

「それで倒れてたら、世話ないよ。みんなに心配かけちゃってさ」

 

「ははは。ごもっとも」

 

 

 

 綾子の言う通り、理緒奈自身に悪意はなかったにせよ、他の面々に大きな心配をかけたのは事実である。気持ちを酌む事は出来るものの、決して褒められる事ではないのは変わりないだろう。

 特に、理緒奈に対し密かに特別な気持ち(・・・・・・)を持つ三男の三雄(みつお)が見せた、一時の狼狽えようは尋常ではなかった。医者が来るまでの間、死んじゃったらどうしようと、その想いの強さ故に かなりネガティブになってしまっていた程だ。

 それは、四男の志郎(しろう)も同じであった。志郎がアサガオに来る事になった経緯には、両親の病死という辛い過去がある。故に、将来の夢は医者になる事であるし、だからこそ病気に侵された義姉を見た事で亡き両親の事を思い出した。表面は取り繕っていたが、内心 冷静でいられる訳がなかったのだ。

 何は ともあれ、理緒奈には もう少し自重して貰おうと、年長2人は思った。

 

 

 

「う……ん………」

 

 

 

 眠っていた理緒奈の口から小さく声が漏れた。そして瞼が動き、やがて ゆっくりと開かれた。

 

 

 

「………あれ?」

 

「あ、理緒奈。起きたの? 大丈夫?」

 

 

 

 綾子が目を覚ました義妹に優しく声を掛ける。叱るのは、もう少し元気になってからでも良いと思いながら。

 

 

 

「……綾子お姉ちゃん……今、何時?」

 

 

 

 まだ脳が覚醒し切っていないのだろう、気怠そうに ぼんやりとした目で綾子に尋ねる。

 

 

 

「もう朝の10時よ。良く眠ったわね」

 

「理緒奈、具合は どう?」

 

「あ……遥お姉ちゃんもいたんだ。うん…昨日よりは大分マシ」

 

 

 

 遥もいた事に若干 驚きを見せたものの、理緒奈は しっかりとした口調で答えた。

 

 

 

「そう、それは良かった!」

 

「他のみんなは……?」

 

「太一は、三雄を連れて出かけたよ。多分、幹夫さんの所ね。

 

 宏次は友達に誘われて、野球の助っ人に行ったわ。

 

 エリと泉は、一緒にマメの散歩に行ったから、あと1時間は帰ってこないかな。だから、今 (ウチ)にいるのは私達と志郎だけ」

 

「そう……」

 

 

 

 ここで、この場にいない彼女達の義兄弟たちの事を語っておく。

 

 

 

 太一(たいち)は、アサガオの長男に当たる。恰幅が良く いつも元気一杯で、その将来の夢はプロレスラー。その為、以前から三雄を相手に練習に励む毎日である。更に最近は、桐生が親密にしている極道組織・琉道一家(りゅうどういっか)新垣(あらがき) 幹夫(みきお)にも練習相手をして貰っているらしい。向こうとしても、尊敬する組長の兄弟分である桐生の、その子供の世話をする事は光栄と思っている。そのため面倒とは微塵も思わず、いつも真剣に付き合ってくれていた。

 

 次男の宏次(こうじ)は、その人当たりの良い性格と抜群の運動神経をもって、最近では近所の男子の中心的人物になっている少年である。遥が知る限り、野球のみならず、サッカーやバスケなど、ありとあらゆるスポーツの助っ人を頼まれるくらい、人気と実力は素晴らしいようだ。

 

 マメとは、アサガオで飼っている柴犬の事である。2年ほど前、末の女の子である(いずみ)が保護した元捨て犬であり、紆余曲折あって現在ではアサガオにおける大事な家族の一員となっている。余談だが、泉は子供達の中でも最も幼い事もあり、普段から少々ワガママな面を見せる事が多い。しかしマメの事となると、とても素直で真面目になる。朝晩の散歩は勿論の事、体の手入れといった細かい世話も、余程の事でもない限り自分から進んでする位である。

 

 

 兄弟たちの現状を聞き、理緒奈は小さく そっかと呟き、深い溜息を吐いた。

 

 

 

「ツイてないなぁ……せっかくの休みなのに、風邪で寝込んじゃうなんて……」

 

「仕方ないよ、そういう時もあるって。とにかく、今はゆっくりするのが一番だよ」

 

「は~~い……」

 

 

 

 遥の言葉に綾子も同意だと頷く。そもそもの原因は自分の不注意にある事を よく理解していた理緒奈は、力なく返事するしかなかった。

 

 

 

「そうだ、遥お姉ちゃん。お昼ご飯、どうする?」

 

 

 

 ふと、綾子が思い出したように尋ねる。アサガオでは なるべく正午に昼食を取る事を取り決めている為、準備は早めにするのが彼女達の常であった。遥は理緒奈の体調や他の皆の好みも視野に入れながら、献立を考えていく。

 

 

 

「そうだね……じゃあ、鍋焼きうどんとかはどうかな?」

 

「良いと思う。作るのも簡単だし、理緒奈も食べれるからね。どう、理緒奈?」

 

「うん、私も それで良いよ」

 

 

 

 当初は、理緒奈にだけは消化の良い雑炊といった、皆とは違う物を作ろうと考えていた。しかし、彼女の回復ぶりを考慮すれば、もう少し腹が膨れる物が良いと思えた。ならば、皆も好き嫌いなく食べられ、食べ易い鍋焼きうどんが良いだろうと考えたのだ。

 綾子も、その案には賛成の意を見せた。理緒奈も、異議はないようである。実際、昨夜から ほとんど何も食べていないので、かなり お腹を空かせている。

 

 

 

「じゃあ、何か おかずを買ってこなくっちゃ」

 

「私が行こうか?」

 

 

 

 立ち上がった綾子に対し、遥が尋ねる。だが、綾子は首を横に振る。

 

 

 

「ううん。遥お姉ちゃんには洗濯も全部して貰ったし、買い物くらい私が行くよ」

 

「そう? じゃあ、お願いしようかな。準備だけはしとくから」

 

「うん。じゃ、行ってきます」

 

「「いってらっしゃい」」

 

 

 

 段取りも決まり、善は急げとばかりに綾子は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 それを見送り2人きりになった時、理緒奈が不意に深い溜息を吐いた。台所に行こうと思っていた遥は それが妙に気になり足を止める。

 

 

 

「理緒奈? どうかした?」

 

「うん……ねぇ、確か今日って、6日だよね……?」

 

「? そうだけど?」

 

「はぁ~………しくじったなぁ……」

 

 

 

 何を聞いてくるかと思えば今日の日付の事。それが確かだと聞くや、目に見えて落ち込み始めた。はて、今日は何かあったかと遥は首を傾げる。

 ふと、理緒奈が どこかに視線を送っている事に気付く。遥も その視線の先を見ると、そこには子供達の服を入れる箪笥があり、視線は その上へと続いていた。

 そこには、“ ある物 ”が置いてあった。

 

 

 濃い紺色のカラーリングに、人の頭にフィットする形状の兜のような機械 ――――――――― 次世代ゲームハード・《 ナーヴギア 》である。

 

 

 そして、その傍らには1つのゲームソフトがあった。

 

 

 

(あ……そういえば、今日って言ってたっけ……)

 

 

 

 そのソフトの名は《 ソードアート・オンライン 》 ―――――― 通称・SAO

 

 

 

 そのオンラインゲームのサービス開始日が今日だという事を、遥は思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女らがナーヴギアを手に入れたのは、とある幸運(・・・・・)からだった。

 

 

 

 

 

 現在より4か月前の、7月某日。

 

 

 その日、沖縄 最大の繁華街である琉球街(りゅうきゅうがい)にて、とあるイベントが開かれた。一言で言えば、沖縄の地域振興を謳ったもの。沖縄出身の芸能人や歌手などを多く招き、広く街一帯を舞台とした一大イベントが執り行われたのである。

 近年、観光地として発展を遂げている沖縄だが、それでも若者が多く内地へ発っていく実情が内々では懸念されていた。そういった現状に少しでも手を打とうと、県知事や市長らが一丸となり、若年層向けの街イベントを敢行したのである。

 そして、その目論見は中々に功を奏し、イベント期間中は常に人で賑わう大盛況を見せていた。

 

 

 そして このイベント中には、“ あるキャンペーン ”が実施されていた。それは、イベントで開かれる様々な競技でポイントを稼ぎ、最終的に誰よりも多くポイントを稼いだ人に豪華プレゼントを進呈する、というものだった。

 

 その豪華プレゼントこそ、何を隠そうナーヴギアであった。

 

 それが開会式で市長の口から発表されるや、会場内の子供を中心とした参加者は色めき立った。さもありなん。内地でも、わずか2か月前に発売されたばかりの最新式ゲームハード ―――――― 完全(フル)ダイブ 》という、これまで想像の中の産物に過ぎなかったものを現実の物とした、夢の機械が現れたのだから。その時の驚喜ぶりは、推して知るべしである。それが謂わば起爆剤のようなものとなり、熱気と競争が飛躍的に激しくなった事は、言うまでもない。

 

 

 そして言わずもがな、アサガオの面々もイベントに参加していた。事前情報がなかったナーヴギアの件は抜きにしても、子供達も今が遊び盛りで楽しい事柄には興味津々であったし、何よりも彼等が懇意にしている琉道一家の縄張り(シマ)こそが琉球街である事もあり、その街の活性化に手を貸さない道理はなかった。

 

 

 そして最後に、県知事、市長、町内会長らの号令の下、イベントは開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果だけを言えば、見事ナーヴギアを手に入れたのは《 チーム・アサガオ(桐生命名) 》であった。

 

 

 特に優秀な成績を上げた者を挙げれば以下のようになる。

 

 

 

 長男・太一。中学生以下を対象とした『 チビッ子相撲 』において、その体躯と日頃からの鍛錬を生かし、見事 優勝。

 

 

 次男・宏次。一定数の野球ボールを用いた的当て(ナンバーピッチング)で、見事パーフェクトを達成して優勝。

 

 

 四男・志郎。あらゆる年齢層が集った『 クイズ大会 』にて、その幼さに似合わない知識をフルに使って優勝。

 

 

 次女・綾子。『 町内一周レース 』において、校内随一と噂される俊足を駆使し、ぶっちぎりの優勝。

 

 

 そして遥も、『 ビンゴ早抜け対決 』にて見事1抜けを果たし、桐生も海で釣った魚の大きさを競う『 海釣り対決 』において、なんと大物マグロを釣り上げて、文句なしの1位。

 

 

 そういった好成績を立て続けに出した結果、見事チーム・アサガオは総合優勝を果たし、ナーヴギアを入手(ゲット)したのであった。

 

 

 

 それからというもの、アサガオは近所の子供達にとって憧れの対象となった。何しろ、新世代のゲームとまで言われる代物である。それが近くで見られる距離にあって、関心が湧かない訳がなかった。また、イベント終了の贈呈式の際にはテレビの取材まで来た事もあって、ますます沖縄の子供達の興味を誘ったのだ。加えてナーヴギアは実際に買うとなると8万もの高値が付く商品だ。子供が買うにも、親に買って貰うにも高過ぎる買い物には違いなく、結果として“ 人の物ほど欲しくなる ”現象が起き、それが憧れへと昇華されるのだろう。

 手に入れた当初は普段は あまりゲームをしないアサガオの子供達も、その革新的なスタイルに夢中になった。自らがゲームの世界に飛び込み、パズルや格闘、飼育などを自らの意思と体で行なうのである。映画で見るような未知の体感は、この上ない刺激であった。

 子供達の中で、特に真新しい物に目がない理緒奈のハマりようは、凄かったの一言である。暇さえあればダイブを繰り返し、夜更かしする事も しょっちゅうだった。その背景には、沖縄で唯一ナーヴギアを所持する家の1人という事で、学校でも話題の中心になった事も要因の1つだった。元々、火事で両親を亡くしたという生い立ちから中々友達を作れずにいた理緒奈にとって、ナーヴギアは まさに天からの恵み物と思えた事だろう。

 

 

 

 そして、それから更に時が経ち8月に入ると、ナーヴギアを用いた新しいゲームが発表された。

 

 

 それが、世界初となるVRMMORPG ―――――― 仮想大規模オンラインロールプレイングゲームというジャンルを冠した《 ソードアート・オンライン 》である。

 ナーヴギアを所持するゲーマーには ただ1つ、VRゲームに対し共通する不満点があった。それは“ ゲームで移動できる範囲が小さ過ぎる ”という点である。これは、まだVR技術が普及し切れておらず、製作を手掛けた会社のノウハウ不足によるものだった。プレイ内容のみに技術が集中し、ゲーム内世界そのものにまで手が回らなかったのである。その為、ナーヴギアの持つ機能を十全には発揮できていないのが実情だった。

 だがSAOは、そんな不満を一気に払拭し得る凄まじい仕様であった。最新のオンラインサーバーの技術力は何世代も先を言ったと言われる程に革新的であると謳われ、構築する世界も従来のオンラインゲームとは比べ物にならない広大さであるという。まさに別世界の実現と呼ぶに相応しいものであった。

 

 

 そのゲームを手に入れ、それを話題にし、今よりも更に学校で目立つ存在となる ―――――― そう考えるだけで、理緒奈の心は躍った。

 

 

 

 だが、彼女の目論見は出だしで躓くことになる。理緒奈がSAOが欲しいと桐生に おねだりするも、肝心の彼は厳しい表情を浮かべて首を横に振ったのだ。

 理由としては、第一にSAOの値段が高額過ぎた。何とソフト1本、およそ4万円もするのである。ナーヴギアが手に入ってから出来る限り様々なソフトを買ってあげた桐生であったが元々稼ぎも少ない養護施設経営、これ以上は金銭的な余裕がないと断じた結果であった。

 ならばと、理緒奈は兄弟達にも説得を手伝って貰おうと試みる。だが、それも上手くいかない。肌に合わなかったのか、既に他の兄弟達はナーヴギアでの遊びに飽きてしまっており、SAOには さほど関心がなかったのだ。唯一の例外は、彼女に好意を持つ三雄が賛同した位である。

 更に加えて、ソフトを どうやって入手するかという大前提もあった。発売は運悪く内地でしか行われず、沖縄では販売しない事が解った。加えて、初回入荷分は1万本しかなく、それはネット販売すらも叶わない程であった。おまけに、初回入荷分がなくなれば追加が いつ発売されるか不透明とまで言われていた。つまり、たとえお金があったとしても、買う為に わざわざ内地まで行って店に並ばなければならないのである。たとえ諸々を揃えて買いに行けたとしても、確実に購入できる保証もなかった。

 

 

 まさに、八方塞がり。最終的に諦めも肝心と桐生らに懇々と説かれ、理緒奈は項垂れるしかなかった。

 

 

 だが、彼女は そこで終わらなかった。普通なら そこで諦めるだろうところを、彼女は思いもよらぬ往生際の悪さを見せたのだ。理緒奈は密かに、どうにか事態を解決できないものか、様々な人に相談して回った。桐生や遥も、そんな彼女の行動を把握していたものの、特に注意する事もでず、やれるだけやらせようと黙認していた。

 

 

 それから約二週間後。事態は、理緒奈本人さえ思いがけない方向へと進み出す。

 

 

 始めに、金銭的な問題の解消法が見付かった。理緒奈に救いの手を差し伸べたのは、琉道一家の組長・名嘉原(なかはら) (しげる)であった。彼は理緒奈が欲しい物を手にする手段がなく、途方に暮れている事を子分の幹夫を通じて知った。そして生来の子供好きな性分から、何か手助けが出来ないかと考えたのである。

 そこで彼は懇意にしている街の人々に広く声をかけ、日頃からお世話になっている兄弟(桐生)の子供の願いを叶えてやろうと提案したのだ。それらの人々は、かつて桐生に恩義があったり、彼の その人柄に惚れ込んだりしている事から、名嘉原の要請にも快く応じてくれた。

 そうして しばらく後、名嘉原は理緒奈を事務所に呼び、ある提案をした。

 

 

 

「これから半月、街中の店で軽くアルバイトをしてみな。もし、店の人間が満足のいく働きぶりを見せれば、お前ぇさんの欲しい物 ―――――― 俺が何とかしてやらぁ」

 

 

 

 無理を通したいのなら、それ相応の対価をもって手に入れろと、そう言ったのである。今回の場合、自由時間に遊んだり外出する事を控えるのが対価と言える。無論、学業は疎かにしてはならないと釘を刺した上でだ。就労でもって事をなす、というのは小学生である理緒奈には少しばかり荷が重いとの声も一部で上がったが、これは他でもない、桐生の提案である。昨今、子供が欲しがれば何でも安易に与えてしまう風潮に懸念を抱き、考えた末の判断だった。

 

 話を聞かされた理緒奈は、初めこそ その提案に抵抗感を垣間見せたものの、名嘉原に念を押されて改めて考え、これは自分のワガママに真摯に応じてくれた上での話だと理解し、覚悟を伝えた。

 

 それからというもの、理緒奈の日常は忙しいものとなった。学校が終わって時間が出来れば、すぐに商店街などの店の方へ赴き簡単な接客から お遣いまで、実に幅広い働きを見せた。始めこそ不慣れな事続きで苦戦したものの、程なく全ての仕事を卒なく こなし始め、街の大人達を感心させた。日頃から桐生や遥の実直な働きぶりを見て育った事で、不思議と仕事に対して真摯に向き合えた事も大きな要因といえた。

 その結果、名嘉原から合格を貰ったのは言うまでもない。

 

 続いてSAOを どうやって手に入れるかという事であるが、これにも解決法が見付かった。琉球街の一角に上山(かみやま)という人物が住んでいる。その彼が、目的の品を手に入れる事に協力してくれる事になったのだ。彼の人脈は広く、東京に双子の弟を はじめ、多くの知り合いがおり、彼等に協力を依頼すれば問題はないと告げたのである。聞けば、彼や彼の弟も桐生とは浅からぬ縁があるという。そういった縁もあり名嘉原、そして理緒奈の願いに彼も快く応じてくれたのである。

 

 

 結果、数々の幸運と多くの人の支えにより、理緒奈は見事SAOを入手する事が出来たのであった。

 

 

 

 

 

 そうした経緯もあり、SAOに対する想いは否応 なく高まっていた。ネットなどで事前情報を調べ、出来得る限り最高のスタートを迎えようと意気込んでいたのだ。

 にもかかわらず、よりにもよって その正式サービス開始日に体調を崩してしまった事は理緒奈にとって痛恨のミスであった。よって、その落ち込み具合も半端ではない。

 

 

 

「せっかく名嘉原さん達がお膳立てしてくれたのに………」

 

 

 

 思い返せば体に違和感がある事に気付いていたにも かかわらず、最近できた学校の友達からの誘いを断り切れず外出した己の浅はかさを呪いたくなる。SAOを手に出来た事についても、名嘉原をはじめ多くの人の協力あってである事を充分に理解している理緒奈の後悔は絶える事がない。

 義妹の想像以上の落胆ぶりに、病は気からという言葉を知る遥も心配で気が気でない。

 

 

 

「……なっちゃった以上は、どうしようもないよ。無理して またぶり返しても、余計に迷惑かけるだけじゃない?」

 

「そうだけど……記念すべきサービスの初日だよ? そんな大事な日を逃すなんて、何か情けなくて……」

 

「そういうものかな?」

 

 

 

 (こだわ)りが強いのが日本人の特性、とは何かのテレビで聞いた事がある。遥は そうでもないのだが、理緒奈は今時の子として流行に乗り遅れる事を嫌う性分だ。気を付けていれば防げた事態だけに、どうしても やり切れない気持ちは拭えないのだろう。

 

 

 

「ま、ともかく今は体を治す事に専念しよ? やろうと思えば、いつでも出来るんだから」

 

「うん……」

 

 

 

 遥に優しく諭され、理緒奈も一旦は素直に頷いて瞼を閉じた。だが病み上がりとは違う、別の要因で心はモヤモヤしたままだった。

 

 

 

(このままじゃ……私の気が治まらない………)

 

 

 

 理緒奈の脳裏に、名嘉原や幹夫、上山といったお世話になった人達、それに学校で話題を待ち侘びているだろうクラスメイトの顔がチラついていた。今日という日の為に手を尽くしてくれた事に対する礼儀として、今日という日を逃す事は理緒奈なりのプライドが許さなかった。何とかして今日という日を無駄にする事だけは避けたい。だが、自分は この体たらく。家族に心配を掛ける以上どうしようもない。

 

 

 

 そうすれば良いか ―――――― そう考えた時だった。

 

 

 

 

 

(――――――――――― あ)

 

 

 

 

 

 理緒奈に、ある考え(・・・・)が浮かんだ。

 

 

 それは、遥と目が合った時に思い付いた事だった。

 

 

 

「……? どうしたの、理緒奈」

 

 

 

 視線が合うや、小さく口を開けて固まった理緒奈の様子に、遥は訝しがる。

 

 

 

 

 

 そして ―――――― やがて理緒奈は、思いもよらない事を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遥お姉ちゃん………良かったら、やってみない(・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後12時55分。

 

 皆で昼食を済ませてから、およそ1時間後。遥は桐生の部屋にいた。

 普段は他の子供達と同じ部屋で一緒に就寝する遥だが、桐生が所用で不在になる時は彼の部屋を使用する権利を与えられていたのだ。

 

 自分用の布団を敷いて その上に座り、時計を見ながら“ その時 ”を待っている。

 

 

 

「後5分だね」

 

「うん……何か、ドキドキしてきちゃった」

 

 

 

 隣で座る綾子が予定までの(・・・・・)時間を告げる。当事者ではないものの、どその表情は どこか緊張した面持ちである。それは、遥も同じであった。

 

 それも、仕方のない事だった。何故なら彼女は、これから“ 未知なる世界 ”へと旅立つのである。

 

 

 

 手に持ったナーヴギア(・・・・・)を撫でながら心を落ち着かせて、およそ2時間前の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――― 2時間前。

 

 

 理緒奈から(もたら)された言葉は、遥にとって青天の霹靂だった。誰よりもSAOを待ち望んでいた本人から、SAOプレイの一番乗りを譲ると提案されたのである。

 遥は、今日までの一か月近くの間、理緒奈が どれだけ頑張ってきたかを知っている。いくら体調を崩してしまったとはいえ、流石に それは聞き入れられないと辞退しようとした。

 

 だが、当の理緒奈の意思は既に固まっていた。

 

 

 

「良いの! このままじゃ私の気が治まらないから。やるなら、どうしても今日の内にやって欲しいの。

 それなら私、遥お姉ちゃんにやって欲しい。最近 忙しかったし、今日は久しぶりに暇でしょ? 息抜きと思ってやりなよ」

 

 

 

 それは普段 家事を誰よりも こなし、その上、来年には高校受験を控え勉学にも勤しむ多忙の日々を送る遥を想っての、理緒奈なりの気遣いだった。そう言われると下手に断る事も出来ず、遥は少し考えさせてほしいと告げる。

 その後、買い物から帰った来た綾子や他の子供達と昼食を取っている時に、理緒奈が その提案を他の兄弟達に話した。すると、本人が納得しているならと、皆が理緒奈の案に賛成したのだった。全員、自分達の中で最も忙しい時期にいながら、誰よりも働いてくれる遥に心から感謝し、同時に案じていたのだ。丁度良い息抜きになるならと、優しく背中を押したのである。

 

 兄弟全員に そう言われては、もはや遥に断る理由はなかった。理緒奈の無念と愛情を汲み取りながら、笑顔を浮かべて了承したのだった。

 

 

 その後、遥はナーヴギアを取り出して準備に取り掛かった。設定等に関しては、アサガオの中で最もパソコン関係に詳しい志郎に手伝って貰った。最も若い為か性格からか、彼は そういった機械全般に強い。今までのゲームの設定は勿論、インターネットの調整も、実は桐生ではなく彼によるものだったりする。

 ナーヴギアにソフトであるROMカードを挿し込み、そしてパソコンでアカウント作成等々、様々な手続きを行なう。志郎が準備完了の旨を伝えると、いよいよ遥の緊張は高まって行った。

 

 

 

 そうして、部屋に掛けられた時計の長針が12のすぐ左横(59分)を差す。

 

 

 遂に、残り1分を切った。

 

 

 

「遥お姉ちゃん、そろそろだよ」

 

「うん、解った」

 

 

 

 時計を見ていた志郎の合図で、遥はナーヴギアを装着し布団の上に横になった。これで、全ての準備が整う。後は、時間が来たらゲームを開始すれば良い。ただ一言 ―――――― その言葉(・・・・)を口にするだけで、ナーヴギアが作動し、現実の遥の全感覚はシャットアウトされ、それは全てゲームの世界へと送り込まれるのだ。これから現実の遥は、深い眠りに落ちる事になる。綾子と志郎は、その見届け人という訳である。

 

 

 

 やがて、秒針が6を指す。

 

 

 

 

 

「じゃあ、行って来るね」

 

「行ってらっしゃい、遥お姉ちゃん。あんまり無理はしないでね?」

 

「解ってるって。まぁ、無茶しない程度にやってみるよ」

 

「グッドラック。良い旅を」

 

「ありがとう。夕飯までには帰るからね、理緒奈達を よろしく」

 

 

 

 綾子と志郎に、しばしの別れの挨拶をする。気分は さながら、遠征前の兵士だ。

 

 

 

 

 

 そして、時計は午後1時を表した ―――――― 遂に、サービス開始である。

 

 

 

 

 

 天井を見上げ、すぅと息を吸い込み ―――――― 遥は開始コマンドを唱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンク ―――――――― スタート!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、遥の あらゆる感覚は消え去り ――――――――― 暗闇の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に取り戻したのは、視界だった。

 

 

 黒一色の暗闇が、灰色の世界に変わる。その奥から、棒のようなビームのような虹色の粒子が現れ通り過ぎて行く。

 

 それらが全て過ぎると、、今度は複数の(リング)が出現する。

 

 

 

 

 

 Touch(触覚) ――――――――― 『 OK 』

 

 

 Sign(視覚) ――――――――― 『 OK 』

 

 

 Hear(聴覚) ――――――――― 『 OK 』

 

 

 Taste(味覚) ――――――――― 『 OK 』

 

 

 Smell(嗅覚) ――――――――― 『 OK 』

 

 

 

 

 

 それら全てが横に流れていくと、今度は新規IDとパスワード、そしてキャラクター名の入力画面が現れた。未だ実体を持たない体を動かし、現れたホログラムのキーボードで それらの欄を埋めていく。最後に完了ボタンをクリックする。

 

 その画面が消えると、今度は別の画面と、人型のアバターが現れた。あらかじめ設定していた日本語での表示画面には、こう書かれてある。

 

 

 

『 アバター設定です。アバターを調整しますか? 』

 

 

 

 それを読み、しばし考える。そして程なく《 NO 》のボタンを押した。これから、己の手足を使って行動するのである。変に体を弄っては、やり難いと思ったからだ。

 

 

 そして、その画面も消えると、全ての初期設定が完了したのだろう。

 

 

 

 

 

 画面一杯に、大きく黒い文字で歓迎を示す文字が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 Welcome to Sword Art Online 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、灰色の世界に青や水色といった色彩が水のように流れ込み、やがて光を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青白く輝く硝子の欠片のような物が、そこで目に映った最後の映像だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ††          ††

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――― ん………」

 

 

 

 無重力のような浮遊感から、しっかりと地に足を踏み締める感覚に移り変わるのを遥は感じた。今までのゲームでもあった“ ゲームの世界へ降り立った感覚 ”である。体感覚が安定すると、今度は聴覚が蘇る。刹那、けたたましいまでの騒音が遥の耳を刺激した。

 内心それに驚きつつも、ゆっくり瞼を開る。最初は ぼやけた視界が、次第に鮮明(クリア)になっていく。

 

 

 

「うわぁ……っ!」

 

 

 

 思わず、感嘆の言葉が漏れた。

 

 

 まさしく、今 遥が立っている場所は“ 別世界 ”であったからだ。

 

 

 真っ先に目に映ったのは、大きな時計塔であった。形状としては、遥の記憶から抜粋すればイギリスの《 ビッグベン 》に似ている。大きさこそ若干 小さいかも知れないが、その他の要素はそれを彷彿させるのに充分である。その他にも、周りを見れば石造りの見事なヨーロピアンな街の景色が広がっている。つい先ほどまで日本にいたのに、一瞬で外国へ旅立ったかのような気分だ。そして その街並みも、芸術には決して長じている訳ではない遥が、見るだけで素晴らしいと思える絶景であった。

 

 時計塔の時間を見れば、1時3分を指している。どうやら、現実世界(リアル)同期(リンク)させているらしい。製作者の強い拘りようを感じさせる。

 そして更に驚いたのが、遥の周囲にいる(おびただ)しい数の人間である。所作を見る限り、その大半が彼女と同じくサービス開始と同時にログインしたプレイヤー達であろう。誰もが、待ちに待ったSAOの世界へ来れた事への驚喜に酔い痴れているようだった。そして その数は、青い光と共に どんどん増えていっている。遥が立っている広場は軽く見渡すだけでも途方もない広さだが、プレイヤーの数は そこを埋め尽くさんばかりに増加していくのだ。如何に、このゲームに対する消費者の関心が高いものであったのかを、遥は否応なく理解させられた。

 

 

 

(―――――― あ。よく見たら皆、冒険者みたいな服を着てる)

 

 

 

 ふと、遥は彼等が着ている服に目が行った。それぞれ色こそバラバラだが、簡素な上着にズボン(女子はスカート)、腰にはベルトを差し、上半身には質素な鎧のような物を装備していた。その形状は、みな一致している。おそらく、このゲームにおける初期装備なのだと遥は推測した。

 

 ならば、自分はどうか。気になって、遥も自分の服装をチェックして見る。

 予想通り、他のプレイヤーと同じ、初期装備と言える出で立ちである。彼女の服の色は、赤と白を基調にしていた。それを見て遥は、自分が桐生と出逢った6年前 ―――――― 9歳の頃に着ていた服に似ている感じた。全くの偶然だろうが、妙な因果もあるものだと不思議な気分になる。

 

 

 

「さて……まず、どうしよう?」

 

 

 

 懐かしさも程々に、遥は周りを見渡す。こういったオンラインゲームは未経験である遥は、最初に どうするべきか悩んだ。そして すぐに、ダイブ前に志郎から聞いた説明書の簡単な解説の一部を思い出した。物語の あらすじや操作方法は正直うろ覚えだが、プレイヤーが最初に何をすべきかは、はっきりと覚えている。

 

 

 

 

 

『いい、遥お姉ちゃん? まず最初の街 ―――――― 《 はじまりの街 》に降りたら、《 武器屋 》に行って武器を調達するんだ。

 

 ちなみに、最初に持ってるお金には限りがあるから、無駄遣いは禁物だよ……って、遥お姉ちゃんなら心配ないか』

 

 

 

 

 

(“ 武器を調達 ”……か。なら、お店を探さなくちゃ駄目だね)

 

 

 

 こういったゲームは未経験、加えてSAO自体 開始されたばかりの新作の為、はっきり言って解らない事だらけである。不安もあるが、それ以上にワクワクして仕方がない。

 

 早速、聞き込みなり街の地図を見付けるなりしようと、真っ直ぐ第一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  シュウンッ!!!

 

 

 

 

 

 その一歩は、あっさりと引き戻される事になった。

 

 

 突如、遥の目の前に青白い光が上がり行く手を遮った為だ。

 

 

 

「―――――― わわっ!?」

 

 

 

 完璧に不意を突かれた遥は、驚きの あまりオーバーリアクション気味に仰け反る。どうやら誰かのログインが、丁度 自分の進行を遮る形で行なわれたらしい。こんな事もあるのかと、驚きを通り越して何とも言えない気分になる。

 

 

 

 そのまま光が収まるのを待つと ―――――― その中から現れたのは、1人の女性プレイヤーだった。

 

 

 

 

 

「―――――― ん……? あ……うわぁ! 凄い人! 綺麗な街! あたし、本当に来たんだ!

 

 

 

 

 

 そして現れるや、今にも飛び跳ねんばかりに興奮して はしゃぎ始めた。よほど期待通り、あるいは それ以上の初感触だったのだろう。

 

 

 

あははは! ――――――――― ……ん?」

 

「あ」

 

 

 

 ひとしきり騒いだ後、不意に その女性プレイヤーは遥の方へ振り向いた。遥も突然の視線の交わりに、思わず声を漏らす。

 振り向いた顔は、まさしく美少女と言える容姿だった。太陽のような金色の髪は宝石のように輝いており、それをツインテールにして赤いリボンで結んでいる。身長も、遥と同じか少し大きい位だ。特に足は細長く、雑誌で見るようなスーパーモデルを思わせる。全体的に すらりと伸びた手足に白い肌の容姿は、まさに女性が抱く1つの理想を具現化した姿と言えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ………すっすみません! 道 塞いじゃって!! わ、あ、あたしこういうゲーム初めてだからつい、興奮しちゃって、その………!!

 

 

「ちょっ、だ、大丈夫だから!! 落ち着いてよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな大人びた外見とは違い、その中身は随分と落ち着きが なかった。自分をじっと見ていた遥を見て、自分が何か粗相をしたと感じ取ったのだろう。少女は物凄い勢いで謝罪の言葉と言い訳の言葉を捲し立て始めた。そんな悪感情など一切 抱いていなかった遥にとって、それは逆に大いに困惑する展開となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いきなり現れて驚いたけど、別に迷惑だなんて思ってないから、安心して?」

 

「ほ、本当ですか……?」

 

「うん。間が悪かっただけだって、間が」

 

「よ、良かったぁ~……!」

 

 

 

 少しばかり梃子摺ったものの、少女は遥の言葉で落ち着きを取り戻した。自分に何も非が無かったと解り、安堵したのだろう。少女は大きく溜息を吐き、その場に へたり込みそうな程に脱力した。赤らんだ頬を見るに、早とちりして騒いだ自分を恥じているのかもしれない。

 そんな姿に、不謹慎と思いつつも遥は苦笑を禁じ得なかった。同時に少々不憫にも思えたので、何か話題を変えようと、会話を試みる。

 

 

 

「君も、こういったゲーム初めて?」

 

「え? あ……はい。大規模オンラインゲーム(MMO)は、このSAOが初めてなんです。仮想(VR)ゲーム自体は、これまで育成とかパズルとか やってたんですけど」

 

「そっか、じゃあ私と同じだね。私も、ナーヴギアは元々持ってたけど、こういったゲームは初めて」

 

「そうですか……じゃあ、あたし達、同じ初心者(ビギナー)って事ですね!」

 

「ビギナー……うん、そうだね!」

 

 

 

 落ち着いて話し合ってみれば、中々に気が合うと思えた。おそらく、それは相手も同じ気持ちかもしれない。それだけ、つい先程 出会ったばかりとは思えないような打ち解けようであった。遥も少女も、そんな不思議な気分に笑顔を見せ合う。

 

 

 

(……そうだ!)

 

 

 

 ふと、遥はある事を思い出した。それは、ダイブ前に志郎が言っていた言葉だ。

 

 

 

 

 

『 このゲームは、他のプレイヤーとの協力が前提のゲームなんだ。中には、1人を好む人もいるけどね。だから、一緒に戦える人は作るに越した事はないよ 』

 

 

 

 

 

 やった事のない身でも、成程と頷ける話だった。大勢の人間が一堂に会するオンラインゲームで、たった1人でやるのは味気なさすぎるだろう。たとえ、今後やる機会がなかったとしてもだ。遥としても、不慣れなゲームを独力で出来ると思えるほど自惚れてはおらず、機会があれば志郎の助言に従おうと考えていた。

 

 

 

(この子となら、もしかしたら………)

 

 

 

 根拠は何もない。出会ったばかりで、名前すら知らないのだ。けれども、不思議と遥は 確信に近い気持ちを抱いていた。

 

 

 そして意を決し、遥は少女に告げた。

 

 

 

「……ねぇ、これから武器を買いに行くんでしょ? もし良かったら、一緒に行かない?」

 

 

 

 遥の意図を察したのか、少女の その可憐な顔から笑みが消える。平時のものに変わったのだろうが、どこか固まったようにも見えてしまう。早まったかと、遥は少なからず不安になる。

 

 

 

「………駄目、かな?」

 

 

 

 無意識の内に、縋るような声色で再度 尋ねる。

 

 

 

 これで駄目なら、潔く諦めよう ――――――――― そう決めた時だった。

 

 

 

「だ、駄目だなんて……そんな事ないです!! ……せっかく知り合えたんです、一緒に行きましょう!」

 

 

 

 その不安を綺麗に吹き飛ばす返事に、遥の表情は喜色満面になった。

 

 

 

「ホント!? 良かったぁ~……正直、断られたら どうしようかって思っちゃった」

 

「いえ、そんな! ……正直な話あたしも、お仲間さんが出来るかどうか不安で仕方がなかったんです。あなたとなら、大歓迎です!」

 

「ありがとう、とっても嬉しい!!」

 

 

 

 お互いに、満面の笑みを浮かべ合う。出会い方こそ微妙だったが、結果から考えれば思い出話にもなるネタであると思える。最高に良いスタートでゲームが始められたと、遥も少女も心から感じていた。

 

 

 ならば、早速 行動開始 ―――――― しようとした所で、遥が 。ある事を思い出した。

 

 

 

「あ ―――――― そう言えば……まだ、お互いに名前 言ってないね」

 

「あ、言われてみれば そうですね」

 

 

 

 そう、互いに自己紹介が済んでいない。これから共に頑張るのに、名前を知らないというのは戴けないだろう。

 

 

 

「うっかりしてたなぁ。ふふ、考えてみれば常識な事なのにね」

 

「うふふ、そうですね!」

 

 

 

 如何に自分達が浮かれて、同時に余裕を損ねていたかを痛感する。もはや笑うしかない話に、2人は ただただ笑い合った。

 

 

 

 

 

 喧噪の中で、2人は互いに名を名乗る。

 

 

 遥も、『 澤村 遥 』ではなく ―――――― この世界における自分の名(プレイヤーネーム)を、しっかりと口にして伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めまして ―――――― ハルカ(Haruka)です。よろしく」

 

 

 

シリカ(Silica)です。今日は、よろしくお願いします、です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険初心者2人による旅路の第一歩が、今この時に始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 






Q:何で、シリカを最初に出したかって…?


A:好きだからだよ(`・ω・´)キリッ




………………ロリコンジャナイヨ……?





※ シリカの(アバターの)容姿


身長は160ちょい。スタイルもまぁまぁ。髪は金髪。アイドルのセンターをイメージして作成。

「ちょっと“ 背伸び ”したかな?」というのがコンセプト。



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