SAO アソシエイト・ライン ~ 飛龍が如し ~(※凍結中)   作:具足太師

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ちなみに、SAO側のキャラは まだ出ませんので、あしからず。





『 惨劇の始まり 』

 

 

 

 

 

【 神室町・泰平通り ミレニアムタワー前 】

 

 

 

 

 

 災害でも通り過ぎたかのような、道路上に散らばる倒れた人の群れ。死屍累々と言っても差し支えない惨状が、神室町の一角に転がっていた。

 それらの中央にて、1人の男が(そび)え立っている。伝説の男と呼ばれる、桐生(きりゅう) 一馬(かずま)という男であった。若干 火照った体の熱を冷ますべく、静かに佇んでいる。

 

 

 

「す……凄い……!」

 

「あの人数 相手に、完全勝利かよ……まだ5分も経ってないぞっ?」

 

 

 

 少し前に比べ、相当に静まり返った道路。けたたましいまでの喧騒は鳴りを潜めたが、それでも野次馬達の声は留まる事がない。未だ興奮 冷めやらぬと言った様子で、口々に桐生 一馬の凄さを称えていた。

 

 

 

 

 

 結果から言えば、戦いは一方的であった。

 

 リーダーの檄の元、果敢にも攻めかかったレインボー・カオスであったが、そよ風ほどの勢いにもならなかった。どれだけ拳を振るおうが、蹴りを見舞おうが、武器を振り被ろうが、どこから狙っても掠りもしなかったのである。そして、少しでも隙を見せようものなら、瞬く間に剛腕、裂蹴が炸裂し、ほぼ一撃の元に沈んでいった。

 

 更に、構成員が複数で かかって行った隙にリーダーが携帯で増援を呼び、更に10人 近くが応援に駆け付けた。だが、それは結果から見れば下策以外の何でもなかった。そもそも、戦力の逐次投入は最も拙い戦法と言われている。それが戦局を覆す程の戦力なら まだ可能性はあっただろうが、彼等に そんな切り札など存在しなかった。

 結局、到着時点で既にギャングは半壊状態となっており、それを見た増援さえも戦意を大きく損ねつつも、リーダーに怒鳴られ渋々桐生に戦いを挑む。そして、それらも、ことごとく叩き伏せられていったのだ。

 

 

 そして ―――――― 最後に残ったリーダーが渾身のアッパーカットを喰らい、意識 諸共 吹き飛ばされた事で、勝負は決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐生ちゃ~ん! カッコ良かったでぇ~!」

 

 

 

 

 

 周囲の野次馬を掻き分けながら、眼帯の男が飛び切りの笑顔を浮かべつつ桐生の元へやって来る。大立ち回りを見せた桐生に馴れ馴れしい態度で話し掛ける男の登場に、野次馬たちは再び ざわめき始める。

 その中で先程まで眼帯の男と話していた2人のサラリーマンは、何の躊躇もなく伝説の男に話しかけた事に驚き、同時に やっぱり堅気じゃなかったと、妙に納得していた。

 もっとも、平時から手の込んだ眼帯を付け、蛇柄のシャツを着てその下は裸、しかも刺青(いれずみ)らしきものも垣間見える人間を堅気と思えと言う方が無理があるのだが。

 

 そんな野次馬たちの心情を気にする態もなく、桐生は眼帯の男に顔を向ける。振り吹いた時には、先程までの張り詰めた空気や厳しい表情が嘘のように消えており、比較的 柔らかい表情で返事をした。

 

 

 

真島(まじま)の兄さん」

 

「いやぁ~! やっぱり腕は、ちっとも落ちてへんなぁ。俺ぁ嬉しいでぇ!」

 

「ただのチンピラだ。こんな奴等に遅れを取る程、まだ老いちゃいないさ」

 

「ヒヒッ、それもそうやな」

 

 

 

 真島と呼ばれた眼帯の男は、心底 嬉しそうに桐生の快勝を称えた。まるで自分の事の様に喜び、あまつさえ肩を遠慮なしに叩く様は、2人の関係が“ ただの知り合い ”以上の関係にある事を窺わせた。

 

 

 

(………あれ? 今、“ マジマ ”って? マジマ……真島………“ 真島 ”!?

 

 

 

 そんな中、野次馬の一人が真島という名を咀嚼して何かを悟った瞬間、表情を硬直させた。その視線は真島に穴を穿とうとせんばかりに強く注がれている。

 

 

 

(ま……まさか…………っ)

 

 

 

 その表情には驚きだけで無く、少なからず“ 恐怖 ”も混ざったような形が浮かんでいる。彼の中にある“ とある記憶 ”が、そんな感情を生み出させていたのだ。

 

 

 

 

「ぐっ…………てっ……テメェ……ッ!」

 

 

 

 不意に、苦し気な呻き声が響く。

 それは、気絶したとばかり思っていたレインボー・カオスのリーダーからだった。目覚めこそしたが起き上がれる様子ではなさそうである。その見た目も惨めな程に痛々しく、特にトドメの一撃を喰らった下顎には大きな青痣が出来ている。その際に口内も切ったのか、唇から血が少しばかり垂れていた。ダメージも残っているようで、目の焦点も合っていない。

 

 

 

「お? 何や、もう起きたんかいな」

 

「意外と頑丈(タフ)だな」

 

 

 

 意識を取り戻した事は桐生や真島も予想外だったようで、意外だと言わんばかりの顔である。

 

 

 

「何、モンだ、テメェ……ッ。これだけの数が……全滅、だと……?……マジ、有り得ねぇ……ッ!」

 

 

 

 地に這いつくばり、睨みつけながら2人を見上げるリーダー。彼等にとって その体勢は、自分達が目を付けて屈服させた相手にさせるものだった。それを逆に自分達がする事になるという現実は、彼にとって この上ない屈辱を感じさせていた。

 また同時に、たった1人に自慢のチームを一蹴、それも圧倒的 人数差を瞬く間に覆されてという信じ難い完敗に、リーダーは混乱しきりである。目の前に立つ桐生を、まるで化物でも見るかのような表情で ひたすら喚いていた。

 

 

 

「おい……何シカトしてやがる……! テメェは何なんだって聞いて ――――――」

 

 

 

 

 

「―――――― 桐生 一馬」

 

 

 

 

 

「――――――――― は………?」

 

「聞こえんかったんか? 桐生 一馬、言うたんや。耳(クソ)でも溜まっとんのかぁ?」

 

 

 

 それに答えたのは、当人ではなく真島であった。教える義理もない上、桐生自身も答えないだろうと思ったが、それでは相手が黙るとも思えず、かえって耳障りだろうと思い、代わりに答えたのだ。そんな真島の配慮を察し、桐生も特に何も言わない。

 一方、真島の言葉を聞いたリーダーは全身を硬直させたまま動かない。四肢は元より口や目さえも微動だにせず、ひたすら先程 耳に入った言葉を脳内で反復させていた。

 

 

 

「桐生…………一馬…………だと……?」

 

「せや」

 

 

 

 そして、数秒後 ―――――― ようやく その意味を理解した瞬間、リーダーの顔から血の気が引いていく。

 その様子に、やっと解ったかと言わんばかりに呆れ顔をする真島。

 

 

 

 

 

 

――――――― 桐生 一馬?  あの《 伝説の龍 》?   あの四代目(・・・)?

 

 

 

        というか眼帯の男(コイツ)、“ 真島 ”って言われなかったか?

 

 

 

       真島ってあの(・・)     あの(・・)             あの(・・)?!

 

 

 

 

 

 

 だがリーダーには、そんな真島の反応さえ見えていない。完全に、自分の思考の渦に沈み込んでいたからだ。

 乱れる思考に流されるように、彼の体にも影響が出る。表情は恐怖とも驚きとも取れぬ曖昧なものを浮かべ、手足は痙攣を起こしたように震えている。更には、全身の穴という穴から汗が滲み出て、彼の肌や服を濡らしていった。

 

 そうなってしまうのも、無理もない。

 

 彼はここに至り、全てを理解したのだ。

 

 

 

 

 

 自分は ―――――――― ひいては自分達(レインボー・カオス)は、決して手を出してはならない存在(・・・・・・・・・・・・)に手を出してしまったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 関東最大級の歓楽街・神室町。その街で、とにかく好き放題やってきたレインボー・カオス。そんな彼等であるが、その実、発足してから このかた“ 神室町は自分達の物 ”と思った事はない。これは、こういったギャングにしては珍しい傾向だと言える。大抵は、強い縄張り意識をもって活動するからだ。

 

 

 それでは何故か。それは、彼等には解っているからだ。

 

 

 

 ―――――― 神室町には、既に街を己が庭としている暴君(ボス)がいると。

 

 

 

 

 

 東城会(とうじょうかい) ――――――― それが、神室町を裏で牛耳る存在の名だ。

 

 

 

 厳かで仰々しい名が示す通り、この組織とは極道(ヤクザ)である。それも、並大抵の組織ではない。関東 ―――――― 否、日本全国から見ても、国内最大級の規模を持つ大勢力なのである。その構成員は3万を超えると言われ、大小数多の組織が東城会を筆頭にピラミッド状に連なる事で、その大勢力を誇っている。

 更に、政財界や本来 敵対するはずの警察組織との繋がり(パイプ)も深く、裏社会のみならず、表に対しても絶大な影響力を持つ、まさに影の支配者と言える存在なのだ。

 

 そんな組織のお膝元である神室町において、たかだかカラーギャング如きが大きい顔を出来ようはずもない。その程度の処世術は、社会性があるとは言い難い彼等でも理解できていた。

 それ故、レインボー・カオスは神室町で活動する際は東城会との繋がりを重視していた。大人には従わないと公言しておきながら、実際には東城会という巨大な闇には迎合していたのである。悪は悪なりに、強かな面は持っていたと言えよう。

 レインボー・カオスとしては、背後関係(バック)に東城会がいると言うだけで充分過ぎる程の示威になる。彼等を子飼いにする東城会系の組としても実際には さほど本気で相手はしないが、付かず離れずの関係を取り、裏で こっそりと“ お手伝い料 ”を貢がせられれば、それで重畳。そんな、持ちつ持たれつとも言えるような理想的な関係を維持していこうと考えていたのである。

 

 

 ところが、そんな状況が一変してしまう事態に陥った。

 

 

 その原因こそ、桐生 一馬 ―――――――― 元 東城会(・・・) 四代目(・・・) 会長(・・)に喧嘩を売ってしまった事だった。

 

 

 何を隠そう桐生 一馬という男は、たった1日で立場を返上したとはいえ、東城会という大組織の会長(ドン)にまで登り詰めた男なのである。

 今でこそ現役を引退して久しい事は広く知られているが、同時に彼の武勇伝は未だに色褪せない程の鮮やかさを誇っている。無名の下っ端時代から その拳で蹴散らしてきた相手は数知れず、かつて神室町に跋扈し、今は消えたカラーギャングの大半は、桐生1人によって壊滅に追いやられたのは知る人ぞ知る有名な話である。そんな伝説のギャング潰しに喧嘩を売ってしまった以上、弱者を甚振るだけで喧嘩の腕自体は鍛えてこなかった若造達が蹂躙される事になったのは、至極 当然の事と言えるだろう。

 

 だが、事は そんな単純な話では終わらない。桐生は引退こそしたが、未だに東城会における知名度と影響力は計り知れない。

 そんな彼に喧嘩を売って返り討ちに遭いましたなどと、実質 飼い主である東城会系の組に報告できるはずがない。極道において上下関係は絶対であり、それは現役を退いた相手にも例外ではない。下の者の手駒が上の者に噛み付いたなど、断じてあってはならない事だからだ。

 

 

 

「おぅ、どないしたんや? 頭、イカれてもうたか? 桐生ちゃんの拳は ごっついからのぅ~」

 

 

 

 加えて更なる不幸が、今も軽い口調で語り掛ける男、真島である。

 

 

 この男 ―――――― 本名・真島(まじま) 吾朗(ごろう)は、桐生と並び、東城会で名を馳せる存在であった。

 

 現在の東城会の総兵力のおよそ3割をその傘下に治める大勢力、直系・《 真島組 》の組長にして本家の舎弟頭を兼任する、名実ともに東城会のNo.(ナンバー)3の大幹部なのである。

 血の気の多い極道組織の中でも常軌を逸していると言われる凶暴性を持っており、名実ともに超武闘派の極道として東城会に君臨している。彼が かつて所属していた組織から嶋野(しまの)狂犬(きょうけん)という二つ名を持つ程、その存在感は群を抜いていた。

 そんな真島が特に執着しているのが、かつての弟分に当たる桐生である。桐生が現役の頃から目をかけ、ある事件(・・・・)を機に引退した後も、その興味は衰える事はなかった。その執着ぶりは凄まじく、「桐生を倒すのは俺だけ」と公言して(はばか)らない。もし自分の目が届く範囲で誰かが勝手に桐生を襲ったり殺そうとしようものなら、たとえ自分の子分であっても容赦なく半殺しにする程である。

 

 

 

(……ヤベェ、ヤベェ、ヤベェ……ッ……冗談抜きでマジでヤベェ!!)

 

 

 

 そんな真島をも目の前にして、レインボー・カオスのリーダーは今の状況が如何に危ういかを理解し始めていた。ただでさえ東城会の四代目に手を出してしまった事で立場が悪くなったというのに、その四代目に強く執着する最高幹部に目を付けられてしまったら、それこそ成す術はなかった。少なくとも、自分達の立場など既に失われたも同然だろう。元より筋の通らない行為を重ねて築いた名声である、無くなるのは一瞬なのは当然の摂理だった。それだけならば、まだ良い。最悪、ケジメを付けさせられる(・・・・・・・・・・・)事になる可能性もあった。

 

 ならば、どうするのか。

 

 どうすれば、自分達は助かるのか。

 

 様々な考えがリーダーの脳裏に浮かんでいく。

 

 

 

「………す、すみません。まだ、頭が ぼうっとしてしまして……!」

 

「ほ~、そうかいな? ま、桐生ちゃんのは、ごっついからのぅ」

 

「は、はいっ。 仰る通りで!」

 

「ヒヒヒッ」

 

 

 

 それまでの、この世の全てに敵意を向けるような目が消えた。そこにあるのは、ひたすらに相手の顔色を窺う弱弱しい光だけである。

 そう、リーダーは自ら牙を抜く事を決めたのだ。小さな自尊心(プライド)にこだわっている場合ではなかった。彼とて、命は惜しい。自分など足元にも及ばない存在を前にして虚栄を張れる程、肝は据わっていなかったのである。手下達は例外なく気絶している事も、この時は幸いした。恥も外聞もなく、ただ平身低頭に土下座を行なう。

 

 

 

「……んで? こいつらどないするんや、桐生ちゃんよ」

 

 

 

 そんなリーダーの身の振り方を見届けると、真島は桐生に問う。

 

 

 

「? どうするもこうするも……」

 

「黙って見逃すんもえぇんやが……このドアホ、俺の目の前で四代目に喧嘩売るっちゅう命知らずやってもうたからなぁ……俺にも、立場っちゅうもんがあるんや」

 

 

 

 真島の言うのは、極道ならではの面子を重んじる話の事だ。どんな事情があろうが、東城会にとって大恩ある桐生に危害を加えようとした事は変わらない。それを黙って見逃す事は、極道として筋が通らないのである。特に真島は組織の最高幹部。立場がある以上、下の者に対して示しがつかないという事情もあった。

 

 無論、そういった以上は桐生も承知している。

 ちらと、未だ土下座をしているリーダーを見やる。真島の言葉を聞き、未だ自分がギロチン台に捕らえられたままだと悟ったのだろう、抑え切れない恐怖に体はガタガタと震えていた。

 

 

 

「……ま、良いだろう」

 

「あ?」

 

「俺としては、もう何も望まないって事だ」

 

 

 

 そして彼が出した結論が、それであった。結果論ではあるが桐生は無傷であるし、そもそもの原因となった大学生も無事だ。転ばされた事で多少の傷はあろうが、それでも状況を考えれば大団円と言えるだろう。何より、当事者達(レインボー・カオス)は既に襤褸雑巾(ヤキを入れた)状態である。故に、今更ここで徹底的に絞り上げる必要性は最早ないと判断したのだ。

 

 

 

「……甘いのぅ、桐生ちゃん。アマアマや」

 

「良いさ。レインボー・カオス(こいつら)もガキだ。それに、俺は もう堅気だ。兄さんに そこまでして貰う義理もねぇさ」

 

「さよか」

 

 

 

 どこか納得し切れない感がある真島だが、当の桐生に意志がない以上、特にいう事はないと判断したようだ。真島の言い分にも彼なりに筋はあるが、今回は あくまで桐生の喧嘩。故に、最後の決定権は桐生にあるとも彼は理解していた。更に言えば、既に満身創痍の相手を痛め付ける事自体、彼は興味はなかった。

 

 

 

「……おい、お前」

 

「はっ……はい?!」

 

 

 

 真島の理解を得ると、次に桐生はリーダーを呼ぶ。土下座のまま桐生の話を聞いて密かに安堵していたリーダーだが、語気に凄みを含めての呼び掛けに再び緊張しつつ顔を上げる。

 

 

 

「悪い事は言わねぇ。今日 限りで神室(この)町を去れ。もう、この街にお前らの居場所はない。面倒事になる前に、さっさと街を出るんだな」

 

「は、はいぃ! 金輪際、神室町には立ち入りません!」

 

「あぁ。

 

 ……後、メンバーの事も最後まで面倒 見ろ。もし、路頭に迷わせでもしたら……解るな?」

 

 

 

 今後、足を洗うとしても様々な障害や試練が彼等には圧し掛かるだろう。世間の目などもあるかもしれない。だが、今後 生きていく為には必要不可欠な事だ。彼等を裏の世界に引っ張った以上、表に戻すのもケジメであると強く言い聞かせる。その言葉に、少しでも手を抜けば容赦しないと含みを入れながら。

 

 

 

「は、はいっ勿論です! 自分の可愛い子分達です! きっちり最後まで面倒を見る所存です!!」

 

「あぁ。なら、行け」

 

 

 

 それからの光景は、まさに脱兎の如くだった。リーダーは、額を擦り付ける程に土下座をすると、未だに気を失っているメンバーを叩き起こす。事情が何も呑み込めない彼等を必死に説得しながら、大慌てで その場を後にして行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 神室町 七福通(しちふくどお)り西・児童公園 】

 

 

 

 

 

 神室町の北部を横切る大きな通りの西側にある公園。しばし適当にブラブラしていた桐生と真島は、そこのベンチに腰を下ろす事にした。

 2人は懐から煙草を取り出し、火を点ける。煙が体内に流れ、血管が収縮する際の何とも言えない感覚が溜まらないと刹那の快感に酔い痴れる。

 世間では禁煙が叫ばれ、ポイ捨て等に対する罰則も強化され出して久しいが、それでも止められない者は数知れず。桐生と真島も例外ではない。2人とも健康を気にし始めても良い年齢に差し掛かっているが、こればかりは止められないと改めるつもりは毛頭ない様子である。

 

 しばしの沈黙の後、真島が ふと語り出す。

 

 

 

「……しっかし、さっきは面倒に巻き込まれて災難やったなぁ」

 

「どうって事はない。……むしろ、災難だったのはレインボー・カオス(あいつら)の方だろう」

 

「ヒヒヒッ、せやなぁ~。何せ、堂島の龍 相手にする羽目になったんやからなぁ。

 

 ……ま、おふざけが過ぎた事への罰っちゅう奴や」

 

「ん?」

 

 

 

 桐生は真島の言葉に対し、どこか気になるニュアンスを感じ取る。

 

 

 

「そういえば、桐生ちゃんには言うとらんかったのぅ。

 あのアホ共(レインボー・カオス)東城会(うち)の五次団体の組が裏で繋がっとったんや。ギャングの方は街で好き勝手が出来る、五次の奴等は そいつらが巻き上げた金を上納金(シノギ)に出来るっちゅう関係やった訳やな。

 ……それだけ やったら別に騒ぐ程の事やないが、最近は そいつらを利用して気に入らん他の組に嫌がらせするような暴れぶりでのぅ。とうとう、本家も動かざるを得んようになっとったっちゅうわけや」

 

 

 

 聞けば、例の五次団体と仲が悪い組が経営する店に対し、集中して事件を起こして被害を増やしていたのだという。巻き添えを喰った堅気の人間も多く、このままでは本格的に警察の介入を起こすところだったらしい。

 

 

 

「そうだったのか……」

 

「けどまぁ、手駒もおらんようになったし、五次の奴等も大人しくなるやろ。一件落着やな」

 

 

 

 知らず知らずの内に、東城会の内部清掃の手助けをしていたという事らしい。件の五次団体についても、本家にまで迷惑をかけた責任を取らされ、近々制裁が加えられる事だろう。仁義に もとる行為を重ねたのだから、当然の結果だと桐生も同情の念は抱かなかった。

 

 

 

「……ま、何は ともあれや。今日の襲名式、ご苦労やったのぅ。東城会を代表して、改めて礼を言わせて貰うわ」

 

「気にしないでくれ。元々俺も ―――――― 冴島(さえじま)を推した1人だ。喜びこそすれ、迷惑だなんて思っちゃいない」

 

「兄弟も、喜んどったなぁ」

 

 

 

 既に極道世界から足を洗い、現在は本島を離れ沖縄に在住している桐生。そんな彼が、どういった事情で現在、東京・神室町にいるのか。

 

 それは、1人の男の為であった。

 

 

 その男の名は、冴島(さえじま) 大河(たいが)

 真島と五分の杯を交わした兄弟分であり、桐生と並んで“ 伝説 ”を冠する極道者である。

 

 

 

 

 

 ここで、冴島の事を少し語る。

 

 26年前(1985年) ―――――― 彼は、東城会の為に敵対する組織に襲撃(カチコミ)を仕掛け、敵幹部を含む18人もの人数を殺害。逮捕後 死刑を求刑され、つい最近まで刑務所に入っていた。本来なら、二度と娑婆の空気を吸う事など叶わないはずだった。

 だが、彼は今も生きている。それは何故か。

 それは1年前(2010年)。冴島にとって、衝撃の真実を突き付けられる急展開を迎える事になったからだ。

 

 かつて自身が起こした事件が、単なる組織間の抗争などではなく、裏で身内や警察組織まで絡む複雑な思惑で渦巻いていたものであり、しかも実際には、彼 自身は誰1人殺してはいないという驚天動地の事実が判明したのである。

 真実を知る為、冴島は脱獄を決行。その後、街に舞い戻った冴島は様々な思惑や悪意が混在する中、事件に偶然 関わる事になった桐生、更に事件に深く関わっていった2人の男達(・・・・・)と共に、遂に悪意の根源を討つ事に成功したのだ。

 

 その後、冴島は出所し東城会へと復帰。加えて、四代目 会長である桐生の推薦により、直系・《 冴島組 》の組長を襲名する事となったのである。

 

 

 

 

 

 そして、今年。

 当代にして六代目である堂島(どうじま) 大吾(だいご)は、連年 続いた抗争で痛み切った東城会を立て直そうと、組織改革を敢行する事を決定した。長年 組織に貢献してきた組に重要スポットを用意する事は勿論、気鋭の若手極道にも直径昇格の機を与え、組織全体の強化と若返りを図ったのである。

 そして その中の一環として、冴島 大河を若頭(わかがしら)に就任させるという大博打に出る。若頭といえば、極道において組長や会長に次ぐ組織のNo.2の地位である。取り分け、組織を動かす為の実権という点で言えば会長をも超える事も多く、加えて次期 組長、会長の椅子も約束されていると言っても過言ではない。言うなれば、大吾が引退、もしくは彼の身に何か遭った場合、冴島が構成員3万余の大組織のトップに躍り出る事になるのである。

 それ故、古参の人間とはいえ20年以上も刑務所にいた男に いきなり絶大な権限を与える事に異を唱える者も多かった。

 

 それでも、古き良き極道、ひいては昔のような強い東城会を蘇らせようと意気込む大吾は、そんな懸念も受け流し割り当てを敢行する。

 そして、それを確実のものとする為に、大吾は一計を案ずる。それこそ、東城会 四代目にして、冴島の推薦者の1人 ―――――― 桐生 一馬に出席を求む事だった。

 

 とはいえ、当初は桐生も話を受ける事に対し、最初は懸念を示していた。確かに冴島を推薦した当事者ではあるが、それは あくまで共に事件を解決した戦友に対する、一種の恩返しとケジメのつもりであった。本来、引退した人間が組織の運営に口を挟んで良いとは考えてはいなかったのだ。

 

 

 

「……大吾(あいつ) 自身、不安は大きかっただろう。改革(これ)を しくじれば、今度こそ東城会が崩壊しかねないからな」

 

「………」

 

 

 

 一癖も二癖もある際物揃いの極道を束ね、国内でも最大規模の組織を運営していく労苦は、並大抵のものではない。現在までも抗争や内乱で東城会は拡大と縮小を繰り返して来ており、その礎には数え切れない程の血と屍が埋まっている事だろう。

 大組織ゆえの厄介さ、そして極道という存在そのものの面倒臭さを身をもって知っている桐生や真島も、大吾が感じているだろう辛労は強く共感できるものであった。

 

 

 

「だが……あいつは、最後まで きっちりと やり遂げた」

 

 

 

 桐生の脳裏に、数時間前の光景が浮かぶ。

 

 

 場所は、神室町 近郊に佇む『 東城会・本部 』。迎賓館とお寺を合わせたような和洋折衷の大邸宅。そこの広大な和式部屋に勢揃いする、東城会の現幹部勢。その中心で座する、会長・堂島 大吾。

 つつがなく式が執り行われる中、大吾や冴島に対して一部から向けられる、恨みにも近い視線。少しでも触れれば、すぐにでも弾けかねない危うい空気の中で、大吾は一切 動じる事もなく、視線のみで相手を圧しながら黙々と役目を果たした。

 

 その姿は、幾万もの人間の命を背負う者に相応しい貫禄と威厳に満ち溢れており、彼が背に負う入れ墨にも恥じぬ、堂々とした佇まいであった。間近で見ていた桐生、そして真島も、それを見て心から安心した。

 

 

 

「あいつになら、東城会を更に強く出来る。俺は改めて、そう確信した」

 

「あぁ。桐生ちゃんの目に、狂いは なかったっちゅうわけや」

 

「……あいつには、随分と苦労を かけたがな」

 

 

 

 つい1年前まで、桐生と大吾の間には当人にも図りかねる程の(わだかま)りがあった。

 度重なる騒動と内乱で大幅に弱体化し、存在さえ危ぶまれた東城会。それを、若干30過ぎで支える事になった大吾。

 自身は既に引退していたとはいえ、辛いと解り切っていた茨の道に若い人間を進ませた事実は、桐生の心に しこりを残し、そして大吾も周囲の期待を裏切るまいと、人知れず苦悩を蓄積させていった。

 やがて それが、当時は複雑な事情が絡み合っていたにせよ、2人を敵味方に分かれる事になる遠因になってしまう。そして2人は、事件の黒幕がいる中で拳を交えた。

 しかし結果的には、互いに本心を曝け出した事もあり、再び それぞれの気持ちを再確認する形に収束。事件の終幕は、2人の関係を再構築する切っ掛けにもなったのだった。

 再び桐生の強さを体で感じた大吾には、恐れも迷いもない。再び東城会を かつて強さ以上に育て上げてみせると、これまで以上に意志を固めていた。

 

 

 

(―――――― 本当に、良かった……)

 

 

 

 もう、何も心配は要らない ―――――――― そんな安心し切った笑みを、赤く染まりゆく空に向かって浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろ行くか」

 

 

 

 しばらく世間話や雑談に花を咲かせて時間を潰したところで、桐生がベンチから腰を上げた。腕時計の時刻を見れば、間もなく17:30になろうかという頃合いである。

 

 

 

「んじゃ、ここらでお開きやな」

 

「あぁ」

 

「今日は楽しかったでぇ、桐生ちゃん。また機会があったら、ゆっくり酒でも飲もうや」

 

「なら、その時は沖縄の泡盛(あわもり)でも持って来よう。知り合いに美味い店があってな、俺が知っている中でも極上の味だ」

 

「ほぅ、そうか! そら楽しみやのぅ!」

 

 

 

 他愛ない話で花を咲かせる2人。付き合いは実に20年近くに及ぶ間柄だが、片や今は堅気の人間、片や現役の極道にして組織の大幹部。桐生は沖縄に居を構えている事もあって、以前ほど簡単には会えない関係になっている。だからこそ、こうした機会が終わる事を惜しむ気持ちが無意識の内に出ていたのだ。

 

 

 

「これから、空港に行くんか?」

 

「あぁ。19時の便を予約してるからな、そろそろ行かなきゃならねぇ」

 

「ほな、タクシーがえぇやろ。ついでや、乗り場まで送ったるわ」

 

「兄さんが? いや、そこまでしなくても……」

 

「水臭いのぅ、俺と桐生ちゃんの仲やんけ。遠慮なんて要らん要らん! 年上の好意は、きちんと受け取るもんやでぇ?」

 

「……解った。じゃあ、そこまで頼む」

 

「ヒヒッ! そうこなアカン!」

 

 

 

 近くのタクシー乗り場まで、歩いて2分も掛からない距離にある。車も基本的に常駐しており、待ち時間もないと予測できる。桐生の言う通り、わざわざ送らせる必要はないと言って良い。

 だが、真島は一度 言い出したら聞かない人間である。ここで下手に遠慮しても、かえって機嫌を損ねるかもしれない。そうなったら、それを口実に喧嘩などという可能性も否定できない。さすがに それは御免蒙る話である。

 同時に、真島の心遣いは純粋に嬉しいものである。桐生とて別れを惜しむ気持ちは同じであるので、ここは先輩を立てるべきだと厚意を受け取る事にした。

 

 

 公園を出て、自然と歩幅を合わせながら並び、道を歩く桐生と真島。視線の先には、もう目的の黄色いタクシーが映っている。

 

 

 

 

 

(……これで、しばらく東京ともお別れか――――――)

 

 

 

 

 

 ふと、桐生は そんな寂しさ交じりの感傷を抱く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時であった ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――― 歓楽街の雑音すら掻き消す程の、大絶叫が響き渡ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……っ、何だ、今の悲鳴は!?」

 

「凄い声だったぞ……?」

 

「女の人の声だったよね?」

 

「何だ、事件か?」

 

 

 

 突然の悲鳴に、通り掛かっていた人間は例外なく足を止めた。辺りで、瞬く間に ざわめきが起こり始める。皆、テレビや漫画で見たような事件を匂わせる状況に、戸惑いと興奮を隠せない様子である。

 当然、その悲鳴は桐生と真島の耳にも届いていた。

 

 

 

「なんや……? 一体 何が起きたっちゅうんや?」

 

「……解らない。だが……只事じゃないのは確かだ」

 

「……同感や。ちょっと、行ってみよか」

 

「あぁ……」

 

 

 

 只ならぬ事態を感じ取った桐生と真島は、声がしたと思われる方へ向かう。

 

 

 そこは、七福通りの西の端に位置する雑居ビル。先程までいた児童公園と、道を挟んで向かい合う位置にあった。車を避けながら そこの前まで来ると、既に騒ぎを聞き付けた人で混雑を築いていた。

 

 

 

「ここか?」

 

「そのはずだが……」

 

 

 

 確証を得るべく、桐生は近くにいた男性に声をかける。

 

 

 

「すまない。今の悲鳴、どこから聞こえたか解るか?」

 

「え? あ、あぁ……多分、ここのビルからだと思う」

 

「多分だけど、3階の方だと思うぜ。そこの階の人間が、やけに騒いで見えたからな」

 

 

 

 話し掛けた男性に加え、別の野次馬からも有力な情報を得た。

 

 

 

「そうか、解った。……聞いたな、真島の兄さん」

 

「おぅ。行くで、桐生ちゃん」

 

 

 

 目的地の当たりを付け、2人はビルの中へと入って行く。本来なら警察を呼ぶなり何なりするべきで、野次馬根性で首を突っ込むのは褒められた事ではないだろう。だが じっとしてもいられなかったので、気にせず足を進める。

 階段を上り、やがて3階へ到着すると、ドアを叩く音と男の叫ぶ声が聞こえてきた。声がする方へ足を進める。

 

 

 

波佐間(はざま)さん! どうしたんですか!? 返事をして下さい、波佐間さん!」

 

 

 

 服装や雰囲気から察するに、どうやら このビルの大家のようだ。ドアを何度も叩き、その部屋に住んでいるのであろう人物の名を叫び続けている。彼の他には、数人の人影が見える。おそらく、このビルに住む住人、知人達だろう。

 悲鳴が外にまで届いたという事は、このビルの防音は そんなに強くはないという事だ。であるならば、このビルにいた人間には より大きく悲鳴が聞こえた事だろう。

 彼等の只ならぬ様子から、更に嫌な予感が増す。2人は早足で問題の部屋の前に向かう。

 

 

 

「さっきの悲鳴は、その部屋からか?」

 

「え……!? アンタは……?」

 

「通りすがりの者だ。さっき聞こえた女の悲鳴は、ここからで間違いないのか?」

 

 

 

 突如 現れた強面の男2人に大家は少なからず警戒心を抱くが、それ以上に中の様子が気になるようで、深くは追究せず質問に答えてくれた。

 

 

 

「あ……あぁ……! ここに住んでいる、波佐間さんって方の声だ。

 休日の この時間なら、息子さんも一緒にいるはずだが……どっちからも返事がないんだ……」

 

「きっと、何か遭ったのよ!!」

 

「あんな凄い悲鳴だったんだもの、只事じゃないわ!」

 

 

 

 大家に続き、知人と思しき4、50代の女性2人も、恐ろしいものを見たような怯えた顔で語る。治安の悪い神室町と言えど、まさか自分の近くで事件が起こるとは想像もしていなかったという彼女らの心境が見て取れた。

 思った以上に、事態は深刻なのかもしれない。桐生も真島も、同じ事を思った。ほんの僅かな間、互いに顔を見合わせる。刹那の間に互いの考える事を理解し、同時に頷く。腐れ縁な2人ならではの以心伝心であった。

 

 

 

「大家さん、合鍵はあるな?」

 

「え? は、はい。持って来てますが……?」

 

 

 

 答えつつ手に持つ鍵を見せる大家だが、桐生が言わんとする事を理解できず首を傾げる。

 

 

 

「中を調べる。開けてくれ」

 

「えっ!? で、でも……っ」

 

 

 

 まさかの言葉に狼狽える大家。彼とて、部屋の中の住人の安否は気になる。大家としても知人としても、一刻も早く知らなければという責任感もある。

 だが、見ず知らずの人間に行かせて良いのかという疑問がある。何より、事件性も高いと素人ながら判断できる事案に、警察でもない人間を行かせるのは危険過ぎるとも考えられた。

 

 

 

「……言いたい事は解る。だが、今は そんな事を言ってる場合じゃない。もしかしたら、何かヤバい事件に巻き込まれているのかもしれない」

 

「お、仰る事は解りますが……」

 

「もし何か遭った場合、俺達なら何とか対応できる。時間がないかもしれない。頼む、開けてくれ」

 

 

 

 穏やかに、それでいて揺るぎない言葉で説く桐生。その言葉の中には、何者をも恐れない強い意志が感じ取れた。隣にいる真島も、まかせろと言わんばかりに笑みを浮かべている。そこにも単純な怖さ以上の、言葉では言い表せない頼もしさが滲み出ている。

 そんな2人の表情を見て、しばし悩み ―――――― そして大家は覚悟を決めた。

 

 

 

「………解りました。どうか、お願いします」

 

「あぁ。それじゃぁ、頼む」

 

「はい」

 

 

 

 大家は頷き、合鍵を鍵穴に差し込む。桐生と真島は扉が開く方へと周り、鍵が開いたのを確認すると、ゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………入り口には、誰もいないか)

 

 

 

 まず、桐生が顔だけを中に入れた。誰かいないか、そして中の構造を確認する。

 電気は点けられており、内装を視認できる位には視界は確保できていた。中は これといった大きな特徴はなく、一般的なマンションの一室といったところだ。玄関の左側には靴箱があり、住人の物であろう靴も複数 置かれている。

 誰かが待ち伏せてはいない事を確認すると改めて中へ入り、真島も それに続く。そして2人とも入ると、扉を鍵を閉める。万一、危険人物が中にいた場合に簡単には出られないようにする為だ。

 2人は息を殺し、足音を立てないようにしながら家の中を注意深く見渡す。正面には、扉のガラス越しにリビングが垣間見える。テレビも点けっぱなしのようで、何らかの番組の音声が漏れている。左右には、閉まっている扉が2、3個あった。おそらくは洗面所やトイレ、浴室に、あるいは個人部屋と思われる。

 

 

 

 

 

――――――――――― ぁ……っ……!……ぉ………

 

 

 

 

 

 そして、音のするリビングへに向かおうとした、その時だった。右手側にある扉の方から、奇妙な音が聞こえたのだ。集中して耳を傾けてみると、どうやら それは人の声だと解った。言葉というより、漏れた音といった風であったが、紛れもなく人の発するものだった。

 最悪の予感を直感で感じ、その部屋のドアノブに手を伸ばす桐生。回してみると、鍵は開いていた。その事に一瞬 驚きつつも、すぐさま扉を開ける。

 

 

 

(っ!? ―――――― 何だ、この臭いは?)

 

 

 

 部屋に入ると同時に、思わず顔を顰める。嗅いだ事のない臭いが充満しており、それが桐生の嗅覚に悲鳴を上げさせたからだ。

 取り合えず口と鼻を手で押さえて紛らわせると、改めて部屋を見渡す。部屋にはベッドに勉強机に本棚、そしてパソコンが置かれており、部屋の主の趣味だろう、壁や天井にアニメかゲームのポスターが貼られている。

 そしてベッドの上には、高校生くらいの男の子が仰向けになって寝そべっている。様々な要素から鑑みて、彼が部屋の主に相違ないだろう。

 

 

 

「ぁ………っ……あぁ………!!」

 

 

 

 更に40代くらいの女性が、漫画や参考書などが隙間なく詰まった本棚に凭れ掛かるように座り込んでいた。

 

 

 

「……あんたが、波佐間さんか?」

 

 

 

 桐生が しゃがみ込んで声をかけるも、反応がない。ただ全身を震わせ、声を漏らし、瞬きすらもしない。その両目からは、涙が止め処なく流れ出ている。

 それだけでも異常を感じ取れるが、何よりも驚いたのは、彼女の()そのものであった。

 

 

 現実を直視できず、希望も見出せず、ただ絶望に染まったような濁った瞳。

 

 

 

 その眼差しはただ、真っ直ぐに向けられて硬直している ――――――――― ベッドで横たわる男子へ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

「おぅ、お前。起きんかい」

 

 

 

 同じく部屋に入っていた真島が、横たわったままの男に声をかける。

 

 だが、返事は返って来ない。

 

 

 

「……お前、いつまで寝とるんや。

 

 ったく、オカンが大声で叫んだっちゅうのに、どないな神経し ―――――――」

 

 

 

 呑気な野郎だと顰め面を浮かべ、説教の1つでも くれてやろうと思っていた。だが、その真島の言葉が、おかしな不自然に途切れた。

 

 

 

「? どうした」

 

「こらぁ………」

 

 

 

 何事かと桐生が首を傾げる。真島は その問いには答えず、起きる様子のない波佐間の息子を覗き込み始めた。

 

 

 およそ数秒後。真島は姿勢を戻し、静かに佇む。その後ろ姿からは、普段とは違う只ならぬ気配を感じさせた。

 

 

 

「……アカン」

 

 

 

 ぽつりと、真島が呟く。

 

 

 

「………何がだ?」

 

 

 

 普段の茶目っ気が微塵も感じない その声色に、桐生の不安は高まる。

 

 

 

 そして ―――――― 真島が、その重い口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつ ―――――――――― 死んどる(・・・・)

 

 

 

 

 

 信じ難い言葉に、桐生の目が大きく見開かれた。

 

 

 

「何………っ?」

 

「……どうも変や思ぅとった。この部屋に入った時から臭うモン……桐生ちゃんも感じてたやろ? どこから臭っとるんや思ぅてたら……こいつの頭(・・・・・)からや」

 

「頭?」

 

「せや」

 

 

 

 改めて、ベッドに横たわる男の頭部を注視した。そして、すぐに真島が示す意味を知る。

 

 

 先に目に留まったのは、その表情である。瞳孔は開き切っており、眼球の白い部分は血走り、そこからは未だ乾いていない涙とその跡があった。口は力なく開かれ、涎が左右にも下にも流れ出ている。

 そして、臭いの原因とされる頭部を見れば、髪の一部が焦げるか縮れており、髪の隙間を覗けば火傷のような傷が見え隠れしている。他からは見当たらない、明らかな外傷と言える部分であった。

 それらを鑑みても、素人目には直接的な死因は まるで解らない。だが、その苦悶に満ちた表情から、彼の死は決して楽なものではなかった事を示唆していた。

 

 

 

「おばはん……こら一体どういうこっちゃ。どないしたら、こないな事になるんや」

 

「波佐間さん、答えてくれ」

 

 

 

 日常からは想像も付かない現象の存在を感じ、2人の警戒心は否応なく高まる。酷な事だとは思いつつも、多少なりとも事情を知るだろう当事者に問い掛ける。

 

 

 

……違う……違うの…! 私じゃない……私がやったんじゃ……!」

 

 

 

 やがて、ぽつりと溢すように言葉を出すと、段々と十二分に聞こえる声量で話し始める。だが、その表情は今でも恐怖で固まったように歪んでおり、絞り出した声も平静さを すぐに失い出した。明らかに正常な精神状態ではない。何に対してかは不明だが、その言葉は許しを請うようにも聞こえるようであった。

 桐生は なるべく彼女を興奮させないよう宥めつつ、ゆっくりと語り掛ける。

 

 

 

「落ち着いてくれ。解ってる、あんたは何も悪くないはずだ。

 

 ……出来れば教えてくれ。この部屋で、一体 何が起こったんだ?」

 

 

 

 

 

「……ナ…ナーヴギア……!」

 

 

 

 

 

 桐生の真摯な対応が功を奏したか、やや間を置いて波佐間が呟いた。

 

 

 

「ナーヴギア……?」

 

 

 

 それは、聞き覚えのある単語だった。記憶を頼りに、辺りを見渡す桐生。そして、勉強机の下の所に、何かが転がっているのを発見する。

 それは一見すると軍用のヘルメットのような、あるいは古代の兜のような形状をした、紺色の被り物である。詳しい材質は不明だが、金属のような光沢が光り、後頭部に当たる部分が若干 出っ張っているのが特徴であった。その側面からケーブルが繋がって伸びており、それを辿っていくと机の上にあるパソコンへと繋がっていた。

 

 

 

「ゆ、夕方になっても起きないものだから、怒ってゲームを止めさせようとしたのよ……そしたら……!! 

 

ひいいいいぃぃぃぃッ!!!!

 

 

 

 少しずつ語っていた波佐間だったが、やがて彼女にとって最悪の記憶が蘇ったのだろう。まるで世にも恐ろしい怪物が迫って来たかのように震え出し、耳を塞いで蹲ってしまった。もはや口の利ける状態ではないだろう。

 悪い事をしてしまったと、泣き崩れる波佐間の背を宥めるように撫でる。そして、得られた僅かな情報を述懐しつつ、桐生は床に転がる物へ視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《 ナーヴギア 》 ――――――――― それは、次世代のゲームハードの名である。

 

 

 今から半年ほど前に発売され、頻繁に雑誌やテレビCMなどで見た記憶がある。

 

 

 

 曰く ――――――――

 

 

 

 

 

 ゲーム界における最大の革命

 

 

 

 現実からの完全なる逸脱

 

 

 

 遂に実現した仮想現実への誘い

 

 

 

 

 

 ―――――― など、まるで新たな歴史の1ページを綴らんばかりの謳い文句であった。事実、発表当時は世間で歴史的偉業とも言えるような称えぶりで話題を独占し、今でもニュースなどで関係する話が絶える事はない。こういった話には、てんで疎い桐生でさえ覚えていた程だ。

 

 

 

 そこまで考えて、桐生は頭を捻った。

 何時間もゲームをしていた息子を起こそうとナーヴギアを外したら、それで死んでしまった。波佐間の話を要約すればそういう事になる。

 

 

 

(……だが、そんな事が……?)

 

 

 

 あり得ない。咄嗟に思ったのが そうであった。あまりにも常識的に考えて非現実的な話であるのは疑いのない事だ。

 隣で話を聞いていた真島も同じ気持ちのようで、怪訝な表情を浮かべている。真偽を確かめようと、転がっているナーヴギアを拾い上げる。

 

 

 

「どうだ、兄さん?」

 

「……確かに、まだ熱が残っとるな。内側 見ても、何や変な臭いがプンプンするで。鼻が曲がりそうや」

 

 

 

 どうやらナーヴギアにも、おかしな点が見受けられるらしい。ナーヴギアは被って使う物、そして使用者であったはずの波佐間の息子の頭部には原因不明の火傷の跡が残っている。これらを合わせて考えても、両者に因果関係がある可能性は極めて高いと言えるのかもしれない。

 

 

 

「……どう思う?」

 

「……何とも言えん。これに尽きるのぅ」

 

 

 

 だが、あくまでも状況から考えられる可能性に過ぎない。唯一の目撃者である波佐間も、平静さを失っている事から記憶が混濁している可能性も捨て切れない。結局は、現状では明確な答えを導き出す事は出来ないという結論に行き着く。

 

 

 

「桐生ちゃん、とりあえず警察に電話や。ここでゴチャゴチャ考えても埒が明かへん」

 

「そうだな……」

 

「ほな、外の連中に頼んでくるわ」

 

 

 

 そう言い、真島は部屋を後にする。彼は現役の極道である以上、彼から警察に連絡するのは色々と面倒が起きる可能性がある。なので、ここは大家などに頼むのが妥当だろう。後々、第一発見者としては様々な口利きをするのかもしれない。

 

 

 

「ふぅ………ん?」

 

 

 

 一般的な人間に比べて荒事に慣れている桐生でも、この場での出来事は衝撃的である。取りあえず一区切り付いたと判断して大きく息を吐いた。

 そして、何気なく部屋を見渡す。その最中、亡くなった波佐間の息子の机に目が行った時、気になる物を見付けた。

 目に付いたのは、何かのパッケージである。見たところゲームの物であり、状況からパソコンを用いてプレイするタイプである事が窺えた。

 

 

 

 

 

 ソードアート・オンライン(SWORD ART ONKINE) ――――――――― それが、パッケージに表示されたタイトル名である。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

 

 

 その名に、桐生は覚えがあった。他でもなく、つい最近“ 身近で起こった出来事 ”に深く関係していたからだ。

 思い掛けない巡り合わせに、僅かながらも驚いていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐生ちゃん!! 一大事や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途轍もない大音量で叫ぶ、真島の声が響き渡って来た。

 外の面々に事の次第を伝えに行ったのでは、と疑問に思ったが、滅多な事では驚くという事がない真島が、この上なく羽詰まった感を宿して叫んだ。これだけで只ならぬ事があったと桐生は理解し、即座に声がした場所へ向かう。

 

 

 

「真島の兄さん、ここにいたのか」

 

「…………」

 

 

 

 そこは、この家の中でも一際 広いスペースだった。4、5人は座れるダイニングテーブルに、2人分くらいの大きさのソファーなどが置かれており、キッチンとも一体化している。一般的なLDK(リビング・ダイニング・キッチン)の構造であった。

 リビング(居間)である為、この部屋にはテレビが設置されている。40インチ近くはある、そこそこ大きめのテレビであった。どうやらテレビは点けっぱなしだったらしく、音量が小さいながら聞こえてくる。その為に外からは聞き取れなかったようだ。

 

 

 

「……一体、どうしたんだ?」

 

 

 

 真島は、テレビに顔を向けたまま静かに佇んでいるばかりだった。立ち位置からは彼の横顔しか見えず、その表情は険しいとさえ言えるものになっている。返事も返さず、普段の彼らしくない反応に、桐生は更に警戒を強める。

 

 

 やがて間を置いて、真島が口を開いた。

 

 

 

「……どうも、こうもない。

 

 

 ―――――― これ(・・)、見てみぃ」

 

 

 

 そう言い、顎でテレビの方を示した。それに従い、桐生は画面が見える位置まで移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!! こっ………これは……っ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのテレビの内容(・・)は、桐生を驚愕させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    《 原因はゲーム機器!? 全国でSAOプレイヤーが大量死 》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、臨時ニュースらしい。画面の右上に大きくテロップが表示されていた。その色やフォントなどが、現在 伝えている内容の生々しさを表しているようである。

 画面に映っている女性アナウンサーがいるのは、どこかの住宅地らしい。パトカーや救急車の赤いランプが周囲を照らし、視覚的にも事件性を強く印象付けている。現場らしき家の周辺には近所の人間などが多く詰め掛け、そういった野次馬が近付き過ぎないよう、制服を着た警察官が制止させたりして忙しなく動いていた。

 

 

 しばし画面を見て、桐生は事件内容を要約した。簡単に言えば、日本全国で今日からサービスが始まったソードアート・オンライン ―――――― 通称・《 SAO 》をプレイしていた人間が死んだというのである。それも、人数が尋常ではない。今の時点で200人を超えており、それでもまだ未確認があるらしい。詳しい事は不明とは言っているが、少なくとも この時間までの1時間前後という短い間だけで、これだけの人数に達しているのだという。

 

 そして最後に、それらの死因が“ ナーヴギアによって脳を焼かれた為である ”のだと、はっきりと伝えていたのだ。

 

 

 

「…………何なんだ……これは……」

 

 

 

 桐生は、戸惑いを隠せない。表情には大きな変化が表れていなくとも、その内は混乱に近い心境にあった。今は身を退いたとはいえ、彼も(極道)の世界に大きく関わった人間。人が死ぬという経験は親しかろうが、なかろうが、幾度となく経験してきた。そういった経緯も加わって、彼が大きく戸惑う事は極めて稀と言って良い。

 だが、目の前で伝えられる出来事は今までとは違うと本能が察していた。それだけの異常性がニュース画面だけでも強く伝わっていたのである。

 そもそも、世界のどこかの、戦争中の途上国などなら まだしも、先進国の中で、特に平和と称賛される日本で、これ程の大量死 事件がある事 自体、常軌を逸したものだった。更に、“ ゲーム機が元で死んだ ”という事が一気に信憑性を増した事も、泰然たる態度が主の桐生を戦慄させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――― やった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、桐生の脳裏にある記憶(・・・・)が蘇ってきた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――― 何とか間に合いそう

 

 

 

 

 

 ソードアート・オンライン(SAO)という名前に抱いた、身近な物に対する感情。

 

 

 

 それを抱くのも当然の事だった。何故なら、桐生の身近な存在(・・・・・)に密接に関わっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

――――――――――― 届いたら、早速プレイするんだから!!

 

 

 

 

 

 

 自覚を持った刹那、桐生は体を硬直させた。

 

 

 

 解ってしまった(・・・・・・・)からだ。

 

 

 

 

 

 

 もし、彼の想像通りなら……自分の命よりも大切な家族は、今頃 ――――――

 

 

 

 

 

 

 弾けるように、桐生は懐に手をやった。目的の携帯電話を取り出し、電話をかけようとする。

 

 

 

 

 

 だが――――――それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Prrrrrrrr………

 

 

 

 

 

 自分が そうする前に、相手から かかってきたからだ。思わぬタイミングに一瞬 呆然としつつも、気を取り直して画面を見た。

 

 

 

 

 

: 理緒奈(りおな) :

 

 

 

 

 

 そこにあったのは、桐生にとって この上なく大切な3文字。沖縄で留守番をしている、血こそ繋がっていないが娘同然と言える間柄の子の名であった。

 桐生は安堵した。何故なら、心配の大本とは彼女の事だったからだ。こうして電話を掛けて来たという事は、彼女は無事なのだろう。それが解っただけでも感無量だった。

 

 

 

 

 

 難を逃れたようで何より。

 

 

 

 

 そう、思ったところで ―――――― ふと……疑問(・・)を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――― なら………何でこのタイミングで電話を(・・・・・・・・・・・)……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思考が、停止した。

 嫌な予感が過ったのだ。桐生にとって、最悪の予感(・・・・・)が。

 

 

 呆然としてる間にも、携帯は鳴り続ける ――――――― まるで、早く出てくれ(・・・・・・)と言わんばかりに。

 

 

 呼吸が、鼓動が乱れるのを感じる。震えそうになる指を必死に抑えつつ、桐生は通話ボタンを押した。

 

 

 

「…………もしもし」

 

 

 

 平静に、と試みたが、失敗したと感じた。自らの動揺を隠し切れない自覚しつつも、相手の返事を待つ。

 

 

 

『――――――――― おじさん………?』

 

 

 

 まだ幼いとさえ言える声色は、確かに理緒奈 本人である。間違えるはずがなかった。

 だが、それ故に明らかに様子がおかしいと即座に察した。不安は、更に限界 近くまで大きくなる。それでも、彼女の親代わりの人間として不安は与えまいと平静を努めて会話を続ける。

 

 

 

「あぁ、俺だ。理緒奈、どうした? 何かあったのか?」

 

『……お、おじさん………どうしよう………わ、私、どうしたら……っ……!』

 

「落ち着け。どうしたんだ、一体……何が起こったんだ?」

 

 

 

 電話越しに聞く理緒奈の言葉は、どういう訳か冷静さを欠いている様子だった。泣き声 交じりで要領を得ず、会話にすらならなそうな雰囲気である。

 冷静さを取り戻させようと、桐生は僅かに語気を強めて言い聞かせる。彼女の傍にいれば、もっと優しく宥められただろうにと、桐生は申し訳なさを覚える。同時に、自分も普段通りの精神を維持できていないと自覚していた。

 

 

 

 しばし、沈黙が立ち込める

 

 

 

 

 

 返事を待ちながら、切に願う―――――――― 頼む、間違いであってくれと。

 

 

 

 

 

 脳裏に浮かぶ“ 想像 ”を、必死に拒否しようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが ―――――― 非情にも、桐生は思い知る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ 予感 ”とは ――――――― 嫌なもの程、最悪の形になって当たってしまうという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お姉ちゃんがっ…………(はるか)お姉ちゃんが、ゲームに閉じ込められちゃったっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に ―――――― 桐生の視界は、真っ暗になった。

 

 

 

 

 






次回、いよいよ物語は仮想世界へと繋がっていきます。


あと、この作品は『 アインクラッド編 』で終わらせる予定です。

 それ故、色々と設定を弄るつもりです。



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