SAO アソシエイト・ライン ~ 飛龍が如し ~(※凍結中)   作:具足太師

26 / 31

真島「おっそいのぅ~! ノロノロや!!」

桐生「また随分と時間かかったじゃねぇか」


具「すんません、マジですんません」


和人「前の話を覚えてる人も、だいぶ少ないんじゃないか?」

遥「さすがに、半年はちょっと……」

明日奈「リアルが忙しいのも解るけど……これじゃあ、いつ終わるのかしら」



気が付けば、投稿開始から5年近く経ってた件(白目)



『 それぞれの誇り・2《 前 》 』

 

 

 

 

 

 

 

 “ それ ”は、龍と般若の物語から、しばし遡る。

 

 

 

 

 

 

 

【 10:49  主街区・ウルバス 奥地 】

 

 

 

 

 

 そこは、比較的 賑やかな主街区の一角にしては、あまりにも閑散とした地区である。

 プレイヤーはおろか、NPCですら人通りは ほとんどなく、家同士が密集している為に日の光も多くは入らず、天気の良い昼前だというのに暗い雰囲気を漂わせている。想像力が豊かな人間であれば、思わずホラーな光景を思い浮かべてしまうかもしれない。

 

 

 そんな街の奥の方に、1つのレストランが存在していた。

 特別 豪華でも、無駄に汚くもない、SAOの下層時点では至って普通のレストランだ。

 ただ、店の存在を示すべき看板が、壁や屋根の色に混ざって目立たなくなってしまっているのは、店として致命的と言えるものだったが。

 そして中へ入ってみると、これまた可もなく不可もなくといった普通の雰囲気の店内である。決して汚くも雑多でもないのだが、本当に何の特徴もないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん~~~~~~!!!」

 

 

 

「幸せですぅ~~~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 簡素 極まりない店内の雰囲気に そぐわない、一際 立つ“ 華 ”が2輪、そこにあった。

 

 

 目を閉じ、頬に手を添え、その口元は閉じているのに緩み切っている。その頬は赤く染まり、これでもかという程のホクホク顔だった。

 

 

 

 2人の少女の右手には、フォークが握られている。

 

 

 

 そんな2人を、反対側から見詰めている者が同じく2人。

 

 

 

 片や満足気に、にこやかな笑みを浮かべている少女。

 

 

 片や微妙な顔で、頬杖を突いている少年。

 

 

 

 

 

 両者を隔てるテーブルの上には、1つの真っ白なケーキが置かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SS(サイドストーリー):闇の暗躍・剣の章 》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは、その日の朝だった。

 

 

 

 

 

「キリト君。今日、ちょっと付き合って下さい」

 

 

「………はい……?」

 

 

 

 

 

 ドアをノックされて開けて対応すると、両手を腰に当てて栗色の髪の美少女は開口一番にそう言った。

 寝起きという事もあって、未だ覚醒し切っていないキリトはポカンとしている。

 

 

 

 ここは、ウルバスの一角にある民家の1つ。

 何を隠そう、1層のトールバーナにあったものと同じく、金を消費する事で利用できる隠し宿の1つだ。

 水を無料で利用できるのは勿論、家に住んでいる妙齢の女性NPCに頼めば、1日に3回限定で特製のビーフジャーキーを作ってくれる。味も そこそこで、耐久値(保存)も良いので現段階では色々と重宝していたりしている。

 

 

 そして この日の朝になって、2階のキリトが眠る部屋の扉を叩いたのがアスナだった。

 

 その日の前日、ハルカやアスナを始めとした女性陣は難易度の高い体術スキルの獲得というクエストをクリアしたばかりで、疲労は極致に達していた。

 そんな彼女達を少しでも癒したいと思い、キリトは密かに知っていた隠し宿の存在を教え、彼女達に提供したのだ。

 

 もっとも、その中に自分も含まれる事になったのは本人的に想定外であったが。

 

 引き留めたのは、ハルカとシリカである。紹介だけ受けて、教えてくれた本人は格下の宿に泊まらせる、というのが彼女達には我慢ならなかったらしい。

 言わんとする事は立派であるが、可憐な花園(女たち)の中に黒一点()を入れるという事が どういう事なのか解って欲しいと、思わずキリトは突っ込みたくなった。

 ハルカやシリカでも未だにドキドキするのに、加えてアスナやシノン、ユウキ、更にアルゴまで加わったのだから堪らない。

 

 そんな根性などないと半ば自虐の思いを抱きつつ、それでも若さゆえの過ちを暴走させないようにウィンドウを弄り通した結果、実は寝不足気味なのは御愛嬌といったところである。

 

 

 

 

 

「えぇと……付き合うって……?」

 

 

 

 未だに頭が はっきりしていない所為もあり、先程の彼女の言葉を変に解釈しそうになってしまうが、流石に それはないだろうと何とか平静さを保ちながら尋ねる。

 

 

 

「武器を強化する為の素材集めをね。今日、確か予定はないって言ってたよね?」

 

「そうだけど……確か、もう集め終わったって言ってなかったか?」

 

 

 

 加えて、強化を行なう前に先日のクエストに望む事になった為、素材は未だ手元にあるはずである。なのに、どうして今日も また頼むのかキリトには疑問だった。

 

 

 

「私じゃないわ。ハルカちゃんとシリカちゃんのよ」

 

「ハルカとシリカの?」

 

 

 

 曰く、図らずもクエストを受けた結果、貴重なスキルを得られる事となった。その為、お礼に2人の為に素材を集めようと思ったらしい。

 何ともマメというか義理堅いと言うか。お人好しとも取れる理由に、キリトは思わず笑みが浮かんだ。無論、嘲笑などではなく、心からの感心から来るものである。

 

 

 

「……解ったよ。じゃあ、準備するから ちょっと待っててくれ」

 

「えぇ、解ったわ。じゃあ、下で待ってるから」

 

「あぁ」

 

 

 

 正直 昼近くまで寝ていたい気分だったが、アスナの好意を無碍にするのは忍びない。まして それを向けるのが自分の大事なパーティーメンバーであれば尚の事。

 

 

 入り口での合流を決め、2人は一旦その場で別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ……あれ?」

 

 

 

 およそ5分後。

 

 再び惰眠を貪りそうになるのを堪えつつ、道具の確認、そして自慢のコート(コート・オブ・ミッドナイト)を羽織り、背中にはアニールブレードを背負って装備を整えたキリトは、すぐに階段を下りて入り口にいるだろう少女に声を掛けた。

 

 すると、思い掛けない光景が目に入った。

 

 

 

「あ、来たわね」

 

 

「おはよう、キリト君」

 

「おはようございます、キリトさん」

 

 

「ハルカ? それに、シリカも」

 

 

 

 アスナだけでなく、ハルカとシリカも装備を整えて待っていたのだ。

 

 

 

「これは、一体どうしたんだ?」

 

「うん。ここで待ってたら、偶然 2人と会ってね。事情を話したら、2人も付いて来るって言うから」

 

「素材集めの事、話したのか?」

 

「別に、隠すほどの事でもないでしょ?」

 

「それはまぁ……そうだな」

 

 

 

 てっきりサプライズ的なものだと思っていたキリトは、少なからず意表を突かれる形になった。しかし冷静に考えてみれば、そんな事をする意味も確かにない。

 ある意味、お礼はお礼と はっきりさせるアスナの真っ直ぐで誠実な性格の表れと言えるだろう。

 つくづく自分などよりも出来た人間だと彼女への脱帽も程々に、キリトは気を取り直して本題へ入る。

 

 

 

「よし。それじゃあ、予定の確認だ。

 今日はハルカとシリカの武器の素材を集めるから、それに適したフィールドへ行かなきゃな」

 

 

 

 キリトの言葉に、3人の少女は こくりと頷く。

 

 

 

 

 

 ここで少し《 SAO(ソードアート・オンライン) 》における武器強化のシステムについて触れておこう。

 

 

 (ソード)の名を冠するSAOにおいて、武器の種類や技は多岐にわたるものの、強化に関しては特に差異は存在しない。

 

 まず大前提として、強化の為に必要なものが3つある。

 

 

 ・“ 強化するための武器 ” 

 

 ・“ 強化する為の設備 ” 

 

 ・“ 強化費用 ”

 

 

 基本的には、この三要素が揃っていれば強化するのには問題はない。

 

 しかし、その他のRPGやMMO系列の例に漏れず、SAOの武器強化に関しても“ 確実 ”という言葉は存在しない。

 通常では、成功率は どんなに高くとも50から60パーセントが精々であり、むしろ失敗する可能性の方が高いと考えた方が良い位なのだ。

 

 だが、その成功率を上げる方法が存在する。

 

 それこそ、キリト達が目的としている《 強化素材 》だ。

 

 これらは主に敵を倒してドロップする、NPCからのクエストを達成する、フィールドにある宝箱などにも入っているなどして入手する事が出来る。

 そして武器ごとに適した素材という物は、あらかじめ設定されており、これらを強化する際に鍛冶屋に渡す事で、成功率を ある程度 任意に上げる事が可能なのである。無論、その分は追加料金として加算はされるが、失敗のリスクを減らす事を考えれば充分に必要経費だと言えるだろう。

 

 

 キリトは2層の踏破済みのマップを開き、記憶に蓄積(インプット)した情報を吟味する。

 

 

 

「う~ん……片手棍と短剣の素材だからな……一定数 揃える事を考えれば、西南のフィールドが良いかな?」

 

 

 

 この2層のテーマは牛であり、それらは倒せば骨や角などが手に入る。

 それらの出現率を考えれば どこへ行っても同じかもしれないが、キリトが提案したエリアは、ごく稀に1層でも登場した(ウルフ)系の敵も出現するのである。そして、それらの牙や骨も2人の武器の素材として使えるのだ。加えて、そのエリアは他と比較しても開けており、戦うにしても探すにしても適当だとキリトは判断した。

 

 その事を説明すると、少女3人は餅は餅屋だとばかりに、特に異論もなく了承する。

 

 

 

「それじゃあ、行きましょう~!!」

 

「えぇ、頑張りましょ!」

 

「うん!」

 

「よし」

 

 

 

 シリカの元気一杯な掛け声を合図に、4人はフィールドへと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルバスの門を出て、しばらく経った頃である。

 遠目に街が見えるが、それも手で視界を覆えば見えなくなる位まで離れた所に差し掛かった所で、パーティーで一番の熟練度を誇るキリトの索敵スキルが何かを察知した。

 

 

 

「ん?」

 

「どうしたの、キリト君?」

 

「どうやら、お仲間みたいだ」

 

 

 

 他の3人もキリトが見る方向に目を向けると、小さな人影が複数 見えた。それぞれが、遠目でも映えるような防具を身に纏っている。

 同時にモンスターも湧出しており、戦闘中である事が見て取れる。

 

 

 

「……どうする?」

 

「助太刀しますか?」

 

「う~ん……」

 

 

 

 アスナとシリカは万一の事を考えて尋ねる。

 キリトも手助けする事自体は構わないと思ったが、同時に余計なお節介だと相手に思われた場合、少し面倒な事になるとも危惧する。過去に実際、別のMMORPG系のゲームをしていた際、同じような事が起きたのだ。

 悩む中、隣で上がる。

 

 

 

「多分、あの人達なら大丈夫じゃないかな」

 

「え?」

 

「ハルカ、あのパーティーのこと知ってるのか?」

 

「うん。確か《 レジェンド・ブレイブス 》って人達だよ。攻略組入りが検討されてるんだって」

 

 

 

 曰く、キリュウやディアベル、マスティルらが彼等と協議しているのを先日 偶然 見掛けたのだという。

 パーティー名もそうだが、加えてメンバー全員が伝説上の英雄の名前を冠しているらしいので、記憶に残っていたとの事。

 ハルカの説明を聞いて納得した3人は、ひとまず彼女の言う通り様子を見る事にした。

 

 

 

「あっ、終わったみたいです」

 

「みたいね」

 

 

 

 およそ数分後、レジェンド・ブレイブスは敵の全滅に成功した。

 戦闘が無事に終わって気が抜けたのか、3人のメンバーは膝に手を置くなどして荒く呼吸し、脱力する様子が見受けられた。

 しばし休憩した後、リーダーらしき男が先導しながら、彼等は更に奥のフィールドへと消えて行った。

 

 

 

「行っちゃいましたね」

 

「うん。……私達に続いてくれる人が、出てくれてるのね」

 

 

 

 アスナは胸の中が満たされる感覚を抱きながら呟く。

 彼女も、一度は絶望を垣間見た人間だ。しかし現在の仲間と出逢って奮起し、こうして攻略の一角として力を揮っている。

 文字通り命を懸けて戦う立場として、それに続く人々が現れるというのは感慨深いものであった。

 

 そして、それはキリトやハルカ、シリカとて同じ事。自分達の戦いは決して無駄ではないと、はっきりと感じる事が出来るものである。

 その胸に抱いた想いは、これから まだまだ続く戦いに向けて掛け替えのない力となるだろう。

 

 

 確信めいた予感を胸に、彼等は より軽快な足取りで目的地へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 8:11  昂る血潮の荒原 】

 

 

 

 

 

 およそ20分後。

 

 道中の敵を適当に倒しながら、一行は件のエリアへと到着した。

 東京ドームが優に数個は収まる広大なエリアには、やはり牛系の敵が多い。少し見渡せばノンアクティブ状態で うろついていたり、呑気に草を食べる仕草をしているのが見て取れる。

 複数人で素材集めをするには絶好の場所と言える。

 

 善は急げと、行動を始めようとした時だった。

 

 

 

「あ、そうだわ」

 

『 ? 』

 

「せっかくだし、ちょっと“ 勝負 ”してみない?」

 

 

 

 アスナが、そう提案したのである。

 ただ倒すだけでは味気ないので、1つルールを設け買ったチームには何か褒賞を与えるようにしようと。そうすれば やる気のアップにも繋がり、素材集めも捗るであろうといった塩梅である。

 

 それを聞いた3人は、特に反対する理由はないと、結果的に満場一致で可決される事となった。

 そんな訳で、4人は早速チーム分けを行なう。方法は、公平を期して《 グーパー 》である。

 

 

 

 そして、その結果は

 

 

 

「あ」

 

「結局、いつも通りか」

 

「ふふ、だね」

 

 

 

 

 片方はキリトとハルカ。

 

 

 

「シリカちゃんとか……。よろしくね!」

 

「はい! よろしくです!」

 

 

 

 もう片方は、アスナとシリカというコンビに決定した。

 

 

 その後、細かいルールも設定する。

 最終的な目標は武器素材の収集という事も踏まえ、“ 2人合わせて どちらが先に50匹 倒せるか ”で勝敗を決める事で合意に至った。

 

 

 

「よ~し。ハルカさん、勝負するからには、負けませんよ!」

 

「うん! 私だって、負けるつもりはないからね」

 

「はい!」

 

 

 

 半月の間、共に戦って来た2人は勝負の前にお互いを景気付ける。真剣勝負ではあるが、何の悪意もない純粋な戦意の ぶつかり合いは微笑ましくもあった。

 

 

 

「さて……そっちは即席のコンビだけど、ちょっとは手加減した方が良いかな?」

 

「あら、随分と余裕だこと。確かにコンビネーションでは負けるでしょうけど、それ位お互いの力で何とでも出来るんだから。遠慮なんて要らないわ」

 

 

 

 片や、キリトとアスナ。交わす言葉は穏やかなれど、その間には中々に激しい火花が飛び散っている。双方ともに、お互いの実力を認め合っているが故であろう。

 

 

 

「了解。負けても文句 言うなよ?」

 

「そっちこそ。今の内に、懐を温めておいた方が良いわよ」

 

「言ったな?」

 

「ふふふっ」

 

 

 

 出会って まだ数日しか経っていないが、共に死線を潜り抜けた事で相応に距離を縮めた少年少女。まるで気の置けない幼馴染同士のように軽口を叩き合う。

 同時にゲーマーとしてのプライド、女としてのプライドが激しく鍔迫り合っていた。

 

 

 

 

 

 そして ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『   よ~い ………    ドンッ!!   』

 

 

 

 

 

 

 

 4人の若き戦士たちは、一斉に走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 キリト・ハルカ チーム 】

 

 

 

 

 

 地を蹴り、渇いた砂埃を上げながらキリトは駆ける。

 そして、ノンアクティブ状態で未だ大きな尻を向けているレイジングブルに狙いを定める。

 

 

 

「はああああぁっ!!!」

 

 

 

 先手必勝という言葉を体現するように、《 レイジスパイク 》を放った。それは見事に突き刺さり、本来 低威力の技であるがキリトのレベルやブースト、そしてレア武器であるアニールブレードの攻撃力が合わさってHPバーの色は相応に縮んで行く。

 

 無論、そんな不意討ちを受けて黙っている猛牛ではない。

 悲鳴も そこそこに素早くキリトの方へ方向転換し、憤怒の嘶きと共に鼻息を荒げて睨み付ける。すぐにでも反撃をしようという殺気が、ビリビリとキリトの感覚に警報を鳴らす。

 

 

 

「スイッチ!!」

 

 

 

 そうしてキリトが取った行動は、硬直が解けると同時に側面へ大きくステップする事だった。

 彼の姿が横へ ずれた瞬間、レイジングブルは自らの視界に新たな人影が現れるのを察知する。

 

 

 

「はああっ!!」

 

 

 

 他ならぬ、ハルカである。

 彼女は左手の円盾(バックラー)を構えながら突撃し、丸まった盾の先を敵の鼻に叩き付けた。それによって文字通り出鼻を挫かれたレイジングブルは一瞬 怯み、攻撃も中断せざるを得なかった。

 その隙を見逃さないハルカは、右上からの振り被りを一撃、そして返す手での二撃目を頭と顎に叩き込んだ。それによって、レイジングブルのHPは半分を切り、緑だった その色を黄色へと変異させた。

 

 

 

「キリト君!!」

 

 

「トドメだっ!!!」

 

 

 

 そして締めとして、ハルカの声を合図にキリトが躍り出る。

 その剣には既にソードスキルの充填を終えており、攻撃を続けて受けて隙を晒していた敵の側面から襲撃したのだ。

 キリトが放った《 スラント 》は相手の首を絶つように命中(ヒット)

 相手HPを著しく減退 ―――――― 消失させたのであった。

 

 

 

「よし! まずは一匹!! 素材もゲットだ!!!」

 

「やったぁ!!」

 

 

 

 パーティーを組んでいる2人に、働きに応じた経験値が増加。そしてトドメを刺したキリトのログには《 レイジングブルの角先 》という素材アイテムを入手した事を示す一文が追加されていた。

 幸先のスタートに、2人は歓喜の声を上げてハイタッチを交わす。

 接敵から撃破まで、実に2分も掛かっていない。これは同じ攻略組内でも相当な早さといえるものだった。

 お互いの動きをフォローするコンビネーションも半月の間に かなり洗練されてきており、かつては個人(ソロ)プレーが基本だったキリトにとっては、未だに新鮮味が失われない心地良い感覚だった。

 

 

 

「よぅし、このまま一気に50を目指すぞ!!」

 

「うん、頑張ろう!!」

 

 

 

 初戦を制した高揚感をそのままに、2人は更なる敵を求めて進撃する。

 

 

 その後も、敵が湧出しては撃破、そして時に素材を入手を繰り返す。

 

 

 着実に、傍目から見ても順調すぎる位のペースで戦果を挙げて行った。

 

 

 

 

(今回の勝負、圧勝で終わらせてやる!!)

 

 

 

 

 この上ないパートナーと共に駆けるキリトは強い全能感に酔い痴れ、勝利を確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな………バカな……っ!!」

 

 

 

 

 その約30分後 ―――――― この上なく昂っていたキリトの熱は、急転直下で落ちていた。

 

 

 

 

 今にも崩れ落ちそうな程に膝は悲鳴を上げ、信じられないと言わんばかりの表情。

 

 

 その斜め後ろでは、ハルカが苦笑いを浮かべている。

 

 

 

 

 

「大勝利!!!」

 

 

「いぇ~いっ、ですぅ!!」

 

 

 

 

 

 そんなキリトの眼前で沸き上がるのが、相対していたアスナとシリカ。

 

 

 

 一体、何が起こったというのか。

 

 

 

 

 

 少しばかり、時を巻き戻してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 回想:アスナ・シリカ チーム 】

 

 

 

 

 

 初めて組む相手に内心ドキドキしながらも、むしろ良い所を見せようと意気込み、真っ先に飛び込んで行くシリカ。

 狙いは、目の前でノンアクティブ状態でいるレイジングブルである。走りながら短剣(ボーイーナイフ)を構え、ソードスキルの力を溜め込みタイミングを計る。

 

 

 

「やああああっ!!!」

 

 

「ブモオオオォツ!!?」

 

 

 

 そして最適の間合いを見計らって、短剣用ソードスキル・《 サイド・バイト 》を揮う。

 ノンアクティブの状態の敵に攻撃を当てれば一定確率で奇襲(サプライズ)という効果を生み出し、その際のダメージ量が何と最大1.5倍にまで膨れ上がるのだ。

 

 シリカの奇襲攻撃は功を奏し、その一撃はキリトのブースト付属攻撃にも劣らない威力を発揮した。とはいえ、当然それだけで倒せるはずもなく、仰け反りから回復したレイジングブルは即座に踵を返し、自らの臀部に傷を付けたシリカを忌々しい存在と見なして睨み付ける。

 

 並の人間なら反射的に体が硬直しても可笑しくない恐ろしさがあったが、シリカにとっては既に慣れたもの。むしろ冷静に後ろに下がって距離を取り、相手の反撃に備えた。街を出た当初は単に向き合う事すら出来なかった事を考えれば、僅か半月で末恐ろしいまでの進歩であると言える。

 

 

 

「ブオオオッ!!!」

 

「くっ……!」

 

 

 

 そして、相手が動く。

 十八番と言える突進ではなく、近付いての角攻撃であった。威力こそ突進には劣るが、予備動作は格段に少なく、近付く速さも中々であり、初見の者には反応が難しいとされる攻撃だ。

 何度か戦った故に当たる事はなかったシリカだが、それでも まだ完璧とは言えず、その躱す動作は少しばかり危ういものだった。ふらつきそうになる足を何とか踏み止まらせ、一旦 距離を取って体勢を立て直す。

 

 そして再び、短剣を構えて距離を詰める。

 間合いに入った所で、縦斬りの基本ソードスキル・《 エッジ 》で鼻先を斬り裂く。悲鳴を上げながら、後ろに下がって行くレイジングブル。

 

 

 それを見てシリカは、左手を構え光を充填させる(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「えええい、やあっ!!!」

 

 

 

 そして一際 大きな声を上げながら、その輝く左腕を勢いよく伸ばした。

 システムアシストの恩恵を受けながら、シリカの小さな拳がレイジングブルの眉間に直撃。ミシミシと、そしてゴリっといった、鼓膜や精神に堪える音を出しながら、拳は深く喰い込む。

 

 

 これこそ、先のクエストで多くの者が手に入れた《 体術スキル 》の基本攻撃スキル。

 

 ―――――― その名も閃打(せんだ)である。

 

 

 最初期の技、加えて筋力値も今一つなシリカが放つ故に、威力の程はさほどでもない。単に、武器で通常攻撃を続けた方がダメージ量は稼げるだろう。

 

 

 だが、この技の真骨頂は ―――――― 『 攻撃間の隙を無くす 』事にある。

 

 

 技を出す直前、シリカは短剣用ソードスキルを放っていた。本来ならシステム上、他の武器に比べて少な目とはいえ技後の硬直時間は続いていたはずだった。

 だが、この《 閃打 》は、たとえ他の武器の技を放った後でも硬直時間をキャンセルして放つ事が可能なのである。これにより、現段階では驚異的なまでの連続ソードスキル攻撃が可能となったのだ。

 威力面では地味だが、ソードスキルの欠点であった技後の硬直時間の問題を僅かながら解決できる体術スキル。これは単なる戦闘能力の向上に留まらず、生存率の上昇に他ならない。それを考えれば、彼のクエストの難易度の高さも頷けると言えるだろう。

 

 

 

「やあああああっ!!!!」

 

 

 

 そして閃打の効果には、一定確率で敵を《 ノックバック 》させるというものもあった。

 これにより生じた長い隙を突き、シリカは怒涛の連続攻撃を行なう。右へ左で、短剣を我武者羅までに振るう。

 

 既に相手HPは残り4割を切っていた事もあり、レイジングブルは そのまま抵抗らしい抵抗も出来ぬ内に砕け散って消滅した。

 

 

 

「はあ……はあ……っ」

 

「シリカちゃん、凄いじゃない! 大したものね!」

 

「えへへ……でも、あたしなんて、まだまだです」

 

 

 

 シリカの単独の戦いを見るのは初めてのアスナだったが、彼女の戦いぶりは想像以上のものだった。さすがは自分より長く戦っていると、心からの称賛を送る。

 

 シリカも その言葉に くすぐったさを覚えつつも、無事に無傷で戦えた事に対する高揚感も合わさって歓喜が沸き上がって来る。

 

 実を言うと、彼女が単独で戦うのは今回が初めてであり、今まではハルカやキリト、マジマの援護有りが常であった。

 今回は図らずも敬愛するハルカのチームと勝負する運びとなった為、成長した自分を見て、実感してもらいたい一心で武器を振るったのだ。

 そして結果は、充分に合格点と言えるものであった。

 

 

 

(ふぅ……やっぱり、マジマさんのようには、いかないなぁ……)

 

 

 

 しかし、シリカは常に他を圧倒し、常軌を逸するような戦いぶりを間近で見てきた。それを思うと、どうしても自分の戦いぶりを素直に褒め切る事は叶わなかった。

 

 実際、最後の連続攻撃でも、かなり無理をしてのものであり、未だに彼女の利き腕は疲労感と倦怠感に満たされていたのだ。回復には少しばかり時間が掛かるだろう。

 もしマジマなら、きっと自分の10倍でも20倍でも、疲れを見せずに振るえるだろう予感があった。

 自分は まだまだだと、シリカは慢心する事なく更なる向上を誓う。

 

 

 

「さて、私も負けてられないわね」

 

 

 

 ともあれ、自分よりも幼い少女の働きを見て、自分もやらねばという思いで胸を昂らせるアスナは、手に握る細剣を強く握り直し、近くを見渡す。

 

 すると、タイミング良く新たに湧出した敵の姿があった。

 

 それは、2層では比較的 珍しい部類であり、1層からの続投であるダイアーウルフである。

 

 

 

 

 

―――――― フゥ……

 

 

 

 

 

 細剣・ウインドフルーレを構え、目を閉じるアスナ。

 そして小さく呼吸を整え、目を開く。

 

 

 刹那、彼女の表情は劇的に変化する。

 

 

 年相応の少女らしさは鳴りを潜め、最低限の感情のみを表したような鋭いものへと。

 それは戦闘中の彼女が見せる、戦いのみに意識を傾けた形態である。

 

 その変わり様を間近で見て、シリカは思わず息を呑んでしまう。

 

 

 

 やがて、頃合いを見計らったアスナは ―――――― 駆けた。

 

 

 

 そうシリカが認識したのは、既に彼女が敵との距離を半分以上(・・・・・・・・・・) 詰めた時(・・・・)だった。

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 間の抜けた声を上げるシリカを尻目に、アスナは更に距離を詰めてソードスキルの溜め込みを終えていた。

 

 

 

「はあああっ!!!」

 

 

 

 そうして間合いを見計らい、掛け声を張り上げながら細剣用ソードスキルの基本技にして彼女の得意技・《 リニアー 》を命中させる。その切っ先は寸分の違いなくダイアーウルフの体を貫いていた。

 一気にHPを削られ、不意を討たれたダイアーウルフはアスナに敵意《ヘイト》を向け、怒りと憎しみの唸りと牙を見せる。アスナも硬直時間が解けた瞬間に迎撃の構えを取り、相手の出方を待つ。

 

 

 

「グルルオォッ!!!」

 

 

 

 ダイアーウルフが報復に出る。

 彼の敵の十八番である噛み付き攻撃を仕掛け、アスナの喉笛を噛みちぎらんとした。

 

 

 

「ふっ!」

 

 

 

 だが、アスナは冷静に相手の攻撃の種類、軌道を読み、横にステップを踏む事で回避する。ダイアーウルフは更に続けて2度、3度と牙を向けて来たが、ことごとく躱されて不発に終わる。

 その回避の足捌きは極めて無駄の少ないものであり、アスナの類稀な容姿も相まって、まるで舞っているかのようだった。

 そうして一頻(ひとしき)り相手の攻撃を空振りさせたアスナは、一旦 距離を離して再び間合いを取る。

 細剣を構え更に表情を引き締める様は、まるで何かを待っているかのようであった。

 

 

 

「グルル………グルオオオオオッ!!!!

 

 

 

 やがて、ダイアーウルフに大きな動きがあった。

 幾度も攻撃を躱された事で更にヘイトが高まった故か、高威力である、飛び掛かりからの爪攻撃を行なったのである。不慣れな者なら、その不意の攻撃の変化に戸惑う事だろう。

 

 だが、彼女は違う。

 

 むしろ、それを待っていたのだから。

 

 攻撃の種類を見抜いてからの動作は一瞬だった。即座に腰を下ろし、身長の半分くらいの位置で止まると後ろ手に細剣を構える。目線は未だ空中にいる狼から離さず、ただ一点だけを定めて集中力を高めていく。

 

 やがて構えた剣に、淡い緑色の光が籠る。それがウインドフルーレの刃全体に広がると同時に、アスナの集中力は極限に達する。

 

 

 

「てやああああああっ!!!!」

 

 

 

 刹那、まるで火薬が引火した弾丸の如く、アスナの体は凄まじい勢いで斜め上へと伸びた。

 

 細剣用ソードスキル・《 ストリーク 》。それが、その技の名称である。

 

 本来、モンスターの頭部など上部を狙う為に用いる技であり、攻撃範囲は《 リニアー 》に劣るが、単純な威力ならば此方の方が上であった。

 アスナは それを、飛び掛かって来る敵を迎撃する形で使用したのである。言うのは容易いが、実行するには並ならぬ技量を要するのは想像に難くない。

 

 攻撃の最中という最も防御が弱まる瞬間を突かれた事、更に落ちて来る敵を下から突き刺す形になった事、加えてクリティカルが発生した事により、その攻撃力は劇的に上昇。

 

 結果、ダイアーウルフのHPは急激に色を奪われ、喪失。呆気なく、破片となって消えて行った。

 

 

 

「ふぅっ……」

 

 

 

 一息吐き、若干 乱れた栗色の髪を手で整えるアスナ。そんな何気ない仕草さえ、他の者の目を惹きつける美しさがあった。

 同性のシリカでさえ思わずドキリとするものを感じたのだから、これが男であれば さぞ目を奪われたであろう。

 

 

 

「よしっ、素材もゲット! さぁ、どんどん行きましょシリカちゃん!」

 

「えっ……は、はい!」

 

 

 

 そんな第三者の考えなど何処 吹く風とばかりに、アスナは更なる戦果を求めて先へと進む。

 

 慌てて後を追うシリカ。

 

 

 

 その後も、アスナの大進撃は留まるところを知らない。

 

 

 相手が牛になろうと、狼よりも若干HPと防御力が上がっただけである。むしろ、全体的な隙の多さが増えた事で、ほとんど一方的な蹂躙に近い形になっていた。

 

 2対2でシリカとの連携になった時も、自分が相手取った敵を瞬く間に撃破し、残った敵をシリカと一緒に撃破というのが大半だった。

 無論、シリカが足を引っ張った訳では断じてない。むしろ堅実に、確実に隙を見て相手のHPを削っていたのだが、アスナの攻撃スピードがシリカの それを遥かに凌駕していたのだ。

 

 更に恐ろしいのが、アスナの攻撃の“ それ ”である。

 何と、彼女が放つソードスキルを含めた攻撃の半分以上が、大きく威力の上がるクリティカルであったのだ。

 

 クリティカルは、どんなゲームでも“ 一定確率でしか発生しない ”というのは共通している。加えて総じて低い確率であるので、如何なる手段で それを上げようとも、狙って出す事は不可能に近い。

 一応、SAOでは“ 急所に当たれば発生する確率は上がる ”という事は半ば公然の事実となっている。普通に急所を攻撃しただけでも他の部位よりもダメージは上がる仕様なのだが、それはクリティカルとは別に分類される。

 

 それを、彼女は まるで狙っているかのように連発するのだから末恐ろしい。

 

 だが その御蔭で、彼女達チームの撃破率は時間と共に相手チームを超える程になって行った。

 

 

 

 

 

 そうして、およそ30分後 ―――――― アスナ・シリカのチームは、自らに軍配を上げさせる事に成功したのであった。

 

 

 

 

 

「……ま………負けた……」

 

 

 

 ハイハッチを交わして勝利に沸き上がる2人とは対照的に、勝負時の熱も急激に下がって消沈していくキリト。その膝も今にも折れてしまいそうな頼りなさで、そのショックの度合いが見て取れた。

 2人の事を決して見下していた訳ではないのだが、それでも やはり経験者としての自負は相応に持っていたのだ。やはり経験で劣る相手に負けた事は男として、そしてゲーマーとしてもショックが大きかったようだ。

 

 

 

「まぁまぁ、しょうがないよ。勝負は時の運、って言うじゃない」

 

「ハルカ……」

 

 

 

 そんなキリトを見かねてか、ハルカが慰めるように肩をポンポンと叩きながら慰める。

 その柔らかくも包まれるような笑みを見ていると、不思議と沈んでいた気持ちも浮き上がって来るのをキリトは自覚する。

 

 

 

「……さぁて。約束の御褒美だけど。どうしようかしら?」

 

 

「うっ………」

 

 

 

 しかし、勝負に夢中になって地味に忘れていたルールを思い出し、ギクリと強張るキリト。

 現実(リアル)では、同年代の女子とは最低限の社交辞令しか経験のない彼だが、こういう場合 大抵 男は碌な要求をされないという先入観があった。ソースは言うまでもなく基本的に漫画やアニメ等である。

 加えて、アスナの勝ち誇った中にある嗜虐を思わせる笑みが、キリトの嫌な予感を更に強くする。

 

 とはいえ、敗者側(こちら)にはハルカもいる。

 よもや、友人である彼女にも酷い事はすまいと、なるべくポジティブな方向に考える事にした。

 

 

 

「……約束は約束だからな。好きにすると良いさ」

 

 

 

 その言葉は、まるで進退窮まった武人が己が首を差し出すが如きである。

 大袈裟ともいえる彼の様子に思わず吹き出しそうになるアスナだが、同時に自分よりも実戦経験で勝る少年を屈服させたという事実が内なる征服心を刺激し、無意識の内に優越感が込み上がって来ていた。

 

 

 

「良い心掛けね。それじゃあ ――――――――― 」

 

 

 

 無論、意地汚く苛めるつもりは毛頭ない。

 

 

 それでも、少し困らせる位なら問題あるまい。

 

 

 

 

 

 彼女は、要求を述べる。

 

 

 

 

 

 その姿は どこか幼く見える程に、彼女自身の欲求に忠実なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 現在  主街区・ウルバス 『 レストラン・ショートレスト 』 】

 

 

 

 

 

「お待たせ致しました」

 

 

 

 20代くらいの女性NPCウエイトレスが、手に持っていた皿を置いた。テーブルを隔てて挟むようにそれ(・・)を覗き込んだ4人は、それぞれ驚きと感嘆の声を上げる。

 

 

 

「き、来ました……!」

 

「これが……!」

 

 

 

「―――――― 《 トレンブル・ショートケーキ 》……っ」

 

 

 

 

 《 トレンブル・ショートケーキ 》

 

 

 それが、この辺鄙な所に在るレストランの唯一にして最大の売りである商品である。

 

 設定としては、2層の彼方此方で徘徊している《 トレンブル・カウ 》から取れるミルクをふんだん(・・・・)に使用したケーキ、という事になっている。

 これといって特別なデコレーションがされたケーキという訳ではないが、雪のように白く、柔らかそうな生クリームに塗り込まれたスポンジ、そして その上にこれでもかと置かれた真っ赤な苺が美しいコントラストを生み出し、眼福と共に、どうしようもない程の食欲を掻き立てられる。

 

 

 

「それじゃあ……いっただきま~す!! はむ……っ!!! 美味しいですぅ~!!!」

 

 

「わ、私も……っ……!!!!! 美味しい……っ…何て甘くて美味しいケーキなの!!?」

 

 

 

 我慢できないとばかりに、シリカが早速 食べやすい大きさにカットし、小皿に乗せたケーキを一口、頬張る。そして その反応を見たアスナも堪え切れなくなったのか、自らも程良い大きさにカットして食べると、驚きと歓喜に満ちた表情を浮かべた。

 

 スポンジの、歯で溶かされるような柔らかさ、口の中で溶け、広がる絶妙な甘み、添えられた苺の甘酸っぱさ。それらが咀嚼の中で絶妙に絡み合い、喉を通る頃には この上ない程の幸福感が彼女達の体を駆け巡った。

 

 

 

「はあ~………幸せですぅ~……こんな感覚、久し振りですぅ」

 

「ホントね……噂には聞いてたけど、こんなにも美味しいなんて予想外だったわ……」

 

「そんなに? ふふ、良かったね、キリト君」

 

「あぁ……奮発した甲斐があったよ……」

 

 

 

 2人の幸福に満ちた表情を見て、嬉しそうに話し掛けるハルカに対し、キリトも嬉しそうではあるが、浮かべる表情は何とも微妙なものだった。

 理由は、目の前のトレンブル・ショートケーキにあった。

 

 

 理由(それ)は単純明快 ―――――― 非常~~に、お高かった(・・・・・)のだ。

 

 

 何と、このトレンブル・ショートケーキ。1人分だけでも5000コルもするのである。

 

 

 2層の時点でも、武器や装備の平均が1000~3000前後であると考えると、食事としては かなりの出費になると言えるだろう。

 1人分で これである。であれば、今キリト達のテーブルに置かれた“ 1台分 ”となれば どうなるであろう。

 

 

 ()めて ―――――― 15000コルと、相成りました。

 

 

 優に、現段階で彼等が数日 戦い続けて、やっと稼げるか どうかの金額に等しいものである。何せ、敵を倒して得られる金額にはバラつきがあり、まだ2層の段階では さほど多くもないのだ。自分で稼いだ金は自分で使いたいという気持ちが特に強いキリトには、かなり痛い出費であった。

 とはいえ、勝負をする上での約束である。自分も了承した身の為、文句を言える立場ではなかった。

 

 未だ落ち込んでいるのを隠し切れていないキリトの様子を見て、ハルカは困ったような笑みを浮かべるしかない。

 

 

 実は、アスナ達は知らないが、とある遣り取りがあった。それは、この店に来るまでの間の事である。

 

 アスナから、この店の話を聞き、その勝負の景品と金額を聞いた瞬間、ハルカは驚き、キリトは固まってしまった。

 その場は何とか取り繕い街へと向かい始めたが、街に近付くにつれてキリトの様子は段々と降下していくのが見て取れた。キリトが普段から、あまり懐に余裕を持たせないのを知っていたハルカは、シリカとアスナに聞こえないように小声で提案したのだ。

 

 

―――――― 「お金、私が払おうか?」と。

 

 

 実は、先の第1層攻略の際、アニールブレードを集める事を提案し、見事に やり遂げたハルカだったが、その際 予想以上に集まったのを見て、他のメンバーに渡した分とは別に、2本のアニールブレードを売却していたのである。

 レア武器であるアニールブレードは、最下層としては破格の合計32000コルで売れた。無論、万一に備えて、いざという時の為の資金とする為であり、キリュウやマジマには事情を話していた。

 それも含めて、普段からキリトに比べて懐に余裕を持たせているハルカは、先の提案をしたのである。

 

 しかし、キリトは その提案を断った。

 たかがケーキに1万以上も使う事に抵抗があるのは事実だが、だからといってハルカに全て支払わせるのは間違っていると思ったからだ。何より男として、女性に そんな みっともない姿を見せる事は、キリトの男としての矜持が許さなかった。

 彼自身が思っている以上に、キリトはハルカのパートナーという事に強い自負を持っている。特にアスナやシリカの前で出来の悪い弟のような扱いをされる事には我慢ならなかったのだ。

 故に、甘い提案に一瞬 揺らぎそうになりながらも、なけなしの自尊心が それをバッサリと断ち斬ったのである。

 

 

 

「………はぁ……」

 

 

 

 とはいえ、まだまだ自分の心さえ割り切る事も難しい年頃である。

 幸せそうにケーキを頬張る2人を見て喜びが生まれるのも事実だが、やはり それ以上に寒くなった自分の懐を思うと溜息が出るのを禁じ得なかった。

 

 

 

「……もう……はい」

 

 

 

 そんな様子を見ていたアスナは、おもむろにケーキを食べる手を止めると、不意に残った大皿のケーキを切り分け、それを新しい小皿に乗せてキリトに差し出した。

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 思わぬ行動に目を丸くするキリト。どういう意図なのか一瞬 読めず、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべている。

 

 

 

「キリト君も、食べて良いわよ」

 

「え……で、でも良いのか? これは、勝負の報奨なんだぞ?」

 

「いくら甘い物は別腹って言っても、私やシリカちゃんじゃ食べ切れないわよ。だから良いの」

 

「そうです。ハルカさんも、良かったら食べて下さい」

 

「私も、良いの?」

 

「はい、ぜひ!」

 

「うん! ありがとう」

 

 

 

 戸惑っている内に、ハルカも食べる事を勧められ、嬉しそうに切り分けていた。

 思わぬ話に、キリトは呆然と見るだけである。そこには戦闘時に見せる精悍さは微塵もなかった。

 

 

 

(……もしかしたら……初めから、こういうつもりだったのかな?)

 

 

 

 よくよく考えれば、基本的に甘い物に目がない女子とはいえ、ケーキを1台分も頼むのは少し不自然である。それも、よく知った仲とはいえ男の前で。普通は、はしたないと考えるだろう。

 

 

 

(俺だけなら、まだしも……ハルカも一緒な訳だしな)

 

 

 

 キリトだけなら、存分に奢られてやろうと思うだけだっただろう。しかし、その隣にハルカがいるとなると、それも憚られる気持ちになったのだろか。

 人の気持ちの機微には、まだ若干 疎いキリトだが、何となく そういった想像が浮かんだ。

 余計な気を遣わせたかと申し訳なく感じたが、同時に もし そうなら、最初から一緒に食べようと言ってくれれば良かったのにと僅かながらにむくれたくなる(・・・・・・・)

 

 

 

「……っ! ホント、凄く美味しい!!」

 

「でしょー? 手が止まらない味とは、この事ですよ!!」

 

「うん、これは予想以上だよ! あむ……う~~ん! 甘い!!」

 

「うふふ! ほら、キリト君も食べなさいよ。要らないなら、私達で食べちゃうわよ?」

 

「えっ、ちょ! 食べる! 食べるから!!」 

 

 

 アスナに急かされ、キリトも慌ててケーキを食べる。瞬間、久しく味わってなかった甘い触感が口の中に広がり、それがキリトの心を溶かすように解していく。むくれていたはずの気持ちも、すっかり引っ込んでしまった。

 

 

 

「それにしても、本当に美味しいわ。シノのんやユウキには悪い事しちゃったわね」

 

 

 

 引き続きケーキを頬張りながら、今日は別行動を取っている友人2人に対して申し訳なさを感じるアスナ。

 

 

 

「それじゃあ、また皆で来ようよ」

 

「そうです。また、来ましょう!」

 

「そうね。今度はキリト君1人に奢ってもらうのも良いわね」

 

「むぐっ……!? ゴホッゴホッ……何で?!」

 

「あら、可愛い女の子に奢るのは、男の子にとって本望じゃなくて?」

 

「か、勘弁してくれ……」

 

 

 

 アスナの揶揄いにタジタジのキリト。その様子が面白くて、ハルカとシリカはクスクスと笑みを溢す。

 

 

 

 それから暫し、男1人に女3人は、静かなレストランでスイーツタイムに花を咲かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 およそ20分後。

 

 

 キリトら4人は、レストランを後にする。

 それぞれの表情には、久々の甘い触感を存分に堪能できたという、この上ない充実感が満ち満ちていた。

 

 

 

「あぁ~~……美味しかった」

 

「はい~~満足、満足、ですぅ」

 

「ほんと、御馳走様! ?……あら?」

 

 

 

 各々が満足の声を上げていると、アスナがある事に気付いた。不意に上がった声に、3人が訝し気な表情で彼女を見る。

 

 

 

「アスナちゃん、どうしたの?」

 

「あ、うん……私のHPバーの下に、見た事のないアイコンが表示されてて」

 

「何だって? どんな奴だ?」

 

「えっと……“ 四つ葉のクローバー ”、かな?」

 

 

 

 そう答えると、キリトは驚きの声を上げる。

 

 

 

幸運(こううん)上昇効果(バフ)か……!? こんな効果があったのか、あの(トレンブルショート)ケーキには……」

 

「幸運って……つまり、どうなるの?」

 

「経験値が増えたり、レアアイテムが出やすかったり、クリティカルが出やすかったりで、とにかくプレイヤーにとって良い事ずくめの効果なんだ」

 

「ふぁ~……便利な効果です」

 

「あれ? でも、私だけ? みんなは?」

 

「ん……俺は、出てないな」

 

「私も」

 

「あたしもです」

 

「私だけ、なんだ……」

 

 

 

 同じ物を食べて自分だけが効果が発言した事を知り、アスナは何とも残念そうな顔になる。自分だけレアな効果を独り占めする形になった事に、軽い罪悪感でも覚えたようだ。

 

 

 

「良いじゃない。今日のアスナちゃんは、物凄くラッキーって事だよ」

 

「そうですよ。せっかくの幸運なのに、落ち込んでちゃ意味ないですよ」

 

「2人の言う通りだ。俺だって効果の事は知らなかったんだ、よっぽどの低確率なんだろうな。そんな気にする必要なんてないんじゃないか?」

 

「……うん、そうね。ありがとう」

 

 

 

 せっかくの運の良さを悪く捉えて欲しくないと、3人は思い思いに伝える。

 アスナも内心、3人を貶めるような想像を抱いた自分を反省しつつ、素直に頷いた。

 

 

 

「でも、これ効果時間が結構 短いわね」

 

 

 

 HPバー下のアイコンを注視すると、それの残り時間が表示される仕様になっている。それを見て、アスナが難しい顔をしながら呟いた。

 

 

 

「そうなのか? どれ位なんだ?」

 

「残り10分……」

 

「短っ!!」

 

「うえぇ~!? それじゃあフィールドに出るだけで終わっちゃいますよ!」

 

「そうよね……う~~ん………」

 

 

 

 予想以上の短さに、誰もが信じられないような表情で驚く。

 せっかく、このまま腹ごなしとばかりに再びフィールドへ出ようと思っていたが、早くも目論見がご破算である。

 どうにか活用できる方法はないかと考え、アスナは ある事を思い付いた。

 

 

 

「そうだわ! それなら、武器を強化すれば良いのよ!」

 

「あっ、そっか!」

 

「その手があった!!」

 

「それですぅ!!」

 

 

 

 元々、武器強化用の素材集めが今日の目的だった事を彼女達は思い出した。

 思い立ったが吉日。早速、アスナは街の鍛冶屋へ向かう事を決意し、キリト達も それに付いて行く事にした。

 

 

 街の鍛冶屋は、キリト達が出たレストランから見て丁度 反対側の位置に存在する。そこそこの距離がある上に、加えて《 幸運 》の効果時間の関係もあり、4人はアスナを先頭に速足で向かっていた。

 

 

 

 

 

「―――――― あら?」

 

 

 

 そして、転移門が在る中央広場に差し掛かった時であった。

 

 アスナが、“ あるもの ”に気が付いたのは。

 

 

 

「どうか、したのか?」

 

「あれ……」

 

「あれ? ……ん?」

 

 

 

 アスナが指差す先に目を向けると、彼女が示す“ それ ”があった。

 

 

 広場の一角に、1人分ほどの大きさのテントが張られていた。日差し防止用だろう、薄茶色の布が上部に張られているだけの簡素な造りであり、イメージで言えば中世辺りの出店がより質素になった雰囲気である。

 

 そして、そのテントの中には1人の少年が座っている。

 彼が座る前にはカーペットが敷かれ、その上には直剣や短剣、曲刀などの武器類が10個近く並べられていた。

 

 そして、彼の右手側に置かれた《 Nezha's Smith shop 》と書かれた小さな看板。

 

 ここで、ようやく誰もが その店の正体に気付いた。

 

 

 

鍛冶屋(Smith)か……それもプレイヤーが営んでるのか」

 

 

 

 店主であろう少年がNPCでなく、れっきとしたプレイヤーである事に気付いたキリトは少なからず驚いていた。

 

 現在のところ、2層攻略を進めている攻略組の中には戦士職以外を修めている者はいない。唯一の例外と言えるのが、最初期から料理スキルを手にしたハルカくらいである。

 

 一方で、1層で元テスターからレクチャーを受けている初心者の中には《 鍛冶スキル 》《 調合スキル 》など、後方支援を主とするスキルを進めている者も少なからずいた。

 アルゴによれば、そういった者の大半はフィールドへ出る勇気が出せなかったり、戦闘面での才能が自他共に低いと判断した者であったりであるらしい。

 しかしながら、そういった者達は未だスキルレベルが低く、商売をするには力不足であると聞いていた。

 

 だが、現に店を構えている姿を目の当たりにして、それが今や古い情報であるとキリトは察した。

 

 

 

「どうやら、店を開くのに充分なレベルになったヤツも出始めたみたいだな」

 

「そうみたいだね」

 

「でも、見た感じ私達と年齢(とし)は変わらなさそうじゃない? それなのに商売って、大丈夫なの?」

 

「まぁ、商売って言っても、ゲーム内じゃ簡単な やり取りしか出来ないし、そんなに難しいもんじゃないと思うぞ?」

 

 

 

 そもそもが、全年齢向けゲームであったSAOである。どんな年齢でも難なくプレイ出来るよう、ルール(いろは)は必要最低限に留まっている。せいぜい、学園祭や文化祭などで行なうような事の延長線上と言えるレベル、というのが、テスト時にキリトが聞いた感想である。

 一応、スキルのレベルが上がれば、より高度な行ないも出来るようになるだろうが、現時点では まだ先の話であろう。

 キリトの説明を聞いて、訝しんでいたアスナも成程と納得する。

 

 

 

「なぁ。良かったら、あそこで武器を強化したら どうだ?」

 

「え?」

 

 

 

 全員が未だ物珍しそうに店を見ていた中、不意にキリトが提案する。

 

 

 

「実はさ、同じ鍛冶屋でも、プレイヤーかNPCかで成功率に若干の差があるんだ」

 

「という事は、プレイヤーの方が成功しやすいって事?」

 

 

 

 ハルカの予想に、キリトは首肯で応える。

 

 

 

「多分、なるべくプレイヤーにも他の職業を選んでもらおうっていう、公式(アーガス)の思惑もあるんだと思う。だから鍛冶屋に限らず、プレイヤーが選べる職業は、総じてNPCよりも成功率とかは上なんだ。

 まぁ、もっとも、あくまでベータ版の時の情報だけど」

 

 

 

 最後に述べた言葉は、唯一の懸念でもあった。

 

 しかし、キリトが今まで見て来た中で、プレイヤーにとって厳しい調整が為されているのはモンスター全般のパラメーターや出現場所、そして武器や攻撃種類だというの今現在の見解である。少なくとも、プレイヤーに直接 関係のあるソードスキルなどに関しては、そういった調整は為されてはいなかった。

 であれば、プレイヤーの職業に関する事も、さほど手を加えられてはいないのでは、というのがキリトの判断であった。さすがに、そこまで手を加えられていたらルナティック(クソゲー)にも程がある。

 

 もっとも、“ 実際に命が懸かっている ”時点でクソどころの話ではないのだが。

 

 

 

「それと、店主の右手側を見てみてくれ」

 

 

 

 そう言われ、3人が視線を 集中させる。

 店主の右手側に、片手で持てる大きさのハンマーが置かれているのが見えた。

 

 

 

「あのハンマーの事ですか?」

 

「あぁ」

 

「それで、あのハンマーが、どうしたの?」

 

「あれは《 アイアンハンマー 》だ。今の時点でのNPCの鍛冶屋が使う《 ブロンズハンマー 》よりも、ワンランク上の装備だよ」

 

 

 

 そう言われて、今まで見て来たNPCの鍛冶屋の物とは確かに材質が違うという事に3人は気付いた。

 そして、NPCよりもワンランク上の装備を用いているという事は、そのNPCよりも良い物を作れるという事を意味しているのは、尋ねるまでもない事だった。

 

 

 

「なるほどね。それじゃあ、あそこにしましょうか」

 

 

 

 今まで聞いた話を鑑みて、彼の提案を下げるという判断は浮かばなかった。

 

 バフの残り時間も短い事もあり、早速アスナは店の方へと向かい、キリト達も それに続いた。

 

 

 

 

 

「すみません。良いですか?」

 

「あっ……い、いらっしゃいませ! どうも……」

 

 

 

 アスナが話し掛けると、何とも ぎこちない返事を店主 ―――――― おそらくネズハ(Nezha)―――――― は返した。

 緊張していたのか、それとも数少ない女性プレイヤーに話し掛けられて動揺したのか。おそらく両方だろうなと、キリトは何となく想像した。

 彼自身、今でこそ慣れて来た方だが、ハルカと一緒に行動し始めた頃は何とも言えない やりにくさを覚えたものなのだ。

 

 そして近くで改めて見ると、彼は本当に自分達と同じ位の年齢なのだという感想を抱く。

 後ろの方を跳ね上げ、額を広く開けた髪型に、若干 太めの眉、そして大きめな鼻。眉は下がり気味で、誠実層ではあるが、同時に先程の受け答えもあって気弱そうな印象も強く出る雰囲気だった。

 

 

 

「えっと……強化か研ぎ直し(メンテ)、それに売買もやってますが……どうしますか?」

 

「強化で お願い。武器は、このウンドフルーレ。《 +4 》から《 +5 》に。種類は《 正確さ 》、素材もあるわ」

 

 

 

 初対面の相手にも、アスナは淀みない言葉で伝えていく。自分には中々出来ない事だなぁと、キリトは自嘲気味に笑みを溢す。

 

 

 

「ウ、ウインドフルーレですね………解りました………」

 

 

 

 アスナから注文を受けると、ネズハは僅かに困惑したような(・・・・・・・)表情を浮かべる。

 

 

 

(……? 何だ……?)

 

 

 

 その反応を見て首を傾げるキリト。

 

 しかし他の面々は特に違和感は覚えなかったらしく特に追及は起こらなかった。そしてネズハは恐る恐るといった風で、アスナに答えた。

 

 

 

「そ、それで……素材の数は?」

 

「最大まで」

 

「は、はい。それじゃあ、少々お待ち下さい」

 

 

 

 そう言って、彼はアスナとウインドウを操作し合って素材、そして料金を預かり、最後にウインドフルーレを受け取ると、早速 作業に入った。

 

 

 

「わぁ……何だか、ワクワクして来ました!」

 

「うん、私も」

 

 

 

 NPCの作業なら何度か見て来たが、プレイヤーの手で行なうのを見るのは初めてである。間近で見ている事もあって不思議と緊張感が伝播し、同時に興奮度も上がっていく。シリカに至っては物珍しさもあって食い入るように見ている。

 

 

 まず、ネズハは後ろに供えられた道具を操作する。箱のような それは持ち運びが可能な携帯型の炉であり、アインクラッドならではの不思議な動力で動く。

 それの起動操作を終えると、次にアスナから預かった素材である《 スチールフラグメント 》《 ニードル・オブ・ウインドワスプ 》、合計20個を実体化させながら炉の中に放り込む。

 

 素材を放り込まれた炉は、程なくして熱せられて青色の光を放ち始める。

 この光はアスナが注文した《 正確さ 》を表しており、他にも《 威力向上 》なら赤、《 丈夫さ 》ならオレンジと、様々だ。ちなみに、武器によって付加できる要素も千差万別である。

 

 輝きが一際 大きくなったのを見て、ネズハはウインドフルーレを鞘から抜き、その刃を熱せられた炉の上に置く。

 10秒も経たない内に、ウインドフルーレは刃は おろか柄や鍔の部分まで炉と同じ青色に光始める。

 それをヤットコ(熱した鉄などを掴んだりする道具)で掴んで取り出し、側に置かれていた金床に置いた。そして、厚めの手袋を填め、床に置いてあったアイアンハンマーを握る。

 

 

 いよいよか ―――――― 作業を見守っていた4人は固唾を飲む。

 

 

 

(……ん?)

 

 

 

 その場の緊張感が否応なく高まっていくのを感じる中、ふとキリトはネズハの顔を見た。

 

 それを見て、再びキリトは妙な“ 違和感 ”を覚えたのだ。

 

 ネズハの表情は、まさに不安で仕方ないといったもの。

 傍目には、どれだけ手を尽くしても確実に成功する保証がない故の、客の期待に応えられるか どうかの懸念から来るものに思える。

 

 しかし何故だか、キリトには それとは違う“ 何か ”を直感的に感じ取った。

 

 だが、その“ 何か ”が解らない。彼自身、どうして そんな感覚が過ぎったのか説明が出来ないものだった。

 

 

 

 

――――――――― カァンッ…

 

 

 

 

 そんな不思議な感覚に戸惑っている間に、遂に鍛冶の仕上げが開始された。

 金属と金属が ぶつかる甲高い音と共に、細かい火花が散る。

 

 最後の作業が始まったのを見て、キリトの意識も そちらへと移った。

 

 刹那の間に浮かんだ、鍛冶行為を止めるべき(・・・・・・・・・・)かという疑問も自然と掻き消えていく。

 

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

 二振り目が、熱を帯びたウインドフルーレに下ろされる。

 

 

 武器強化の工程は、素材を混ぜて熱した後に、鍛冶用槌(スミスハンマー)で一定数 叩くというシンプルなものだ。

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

 武器の種類やレア度にもよるが、現時点の武器ならば10回も叩けば終了する。

 

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

 ハンマーを刀身に叩き付ける度に、作業を見守る女性陣の眼差しにも熱が入るのを感じる。

 ゲームの中とはいえ、現実では中々経験できない武器を造るという行為は、見ているだけでも心動かされるものがあるのだろう。

 

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

(……それにしても、随分と ゆっくりした作業だな)

 

 

 

 5度目の打ち付けに入った時、ふとキリトは気になった。

 

 今まで見て来たNPCの動きと比べて、ネズハの叩くペースが かなり緩やかなものだったのだ。

 

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

 加えて、1回ごとに時間を掛けて振るう割には、叩く場所が安定せず、叩く力そのものも妙に弱めに思えるものだった。

 

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

 しかし、叩く本人(ネズハ)の表情には適当さのようなものは感じない。

 

 むしろ、一切 剣から視線を逸らさず、眉間に深く刻まれる皺が集中力の強さを物語っていた。

 

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

 彼なりの、ひいてはプレイヤー鍛冶師(スミス)ならではのクセがあるのだろうかとも思う。

 

 1人 考えている内に、叩くべき回数も残り僅かとなった。

 

 成り行きを見守る仲間達の眼差しに宿る期待も、この上なく高まるのを横目で感じる。

 

 

 

 

――――――――― カァン……

 

 

 

 

 結局、キリトは1分前後に浮かんだ心中の疑問を仕舞い込む事にした。

 

 

 元々何の根拠もない考えなのだ、下手に人を貶めかねない言葉を口にする必要もあるまいと。

 

 

 今はただ、仲間の武器が新しく生まれ変わる瞬間を目に焼き付けようと。

 

 

 

 

 

 

 そうして ――――――

 

 

 

 

 

 

 最後の一振りが ――――――

 

 

 

 

 

 

 下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――― カァン……ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  バキイィィ……ン……ッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破裂 ―――――― そして、静寂。

 

 

 鼓膜が破られ、喉を掻き毟られるような異常の空間が、刹那に広がる。

 

 

 

 

「――――――――― え……?」

 

 

 

 

 その声が、誰のものであったのか。

 

 

 本人ですら、自覚も記憶も出来てはいないだろう。

 

 

 何が起こったのかすら、1人として解らなかった。

 

 

 否。厳密には極端に認識が追い着かなかったと言うべきか。

 

 

 

 

 上滑りな逡巡の末に辿り着いた認識は、武器が跡形もなく砕け散った(・・・・・・・・・・・・・)という事。

 

 

 

「っ―――――― !!」

 

 

 

 刹那 ―――――― 真っ先に我を取り戻したキリトは、反射的に首を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その視線の先には ―――――― 全ての表情が削ぎ落とされたアスナの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【 ウルバス・宿屋 】

 

 

 

 

 

 時刻は、未だ正午前。

 人もNPCも、本格的に活動を開始し始めており、主街区としての賑わいも右肩上がりの様相を見せていた。

 

 

 だが、その空間に流れる空気は、人も獣も寄せ付けぬような重苦しいものだった。

 

 

 

 

 

「アスナちゃん、大丈夫……?」

 

「うん………大丈夫………」

 

「アスナさん……」

 

 

 

 

 

 ベッドの端にアスナに、声を掛けて気遣うハルカとシリカ。一応 返事をするも、そこには人らしい感情は まるで籠っていない。

 ハルカやシリカ同様、部屋の扉付近で見ていたキリトも、その痛々しい姿に心が締め付けられる思いだった。

 ほんの少し前まで、スイーツとレアなバフで幸せに満ちていたとは信じられない。

 

 

 

(……それにしても、あんな事(・・・・)が起こるなんて……)

 

 

 

 キリト達の目の前で起こった現象は、にわかには信じがたい光景だった。

 

 

 武器の消滅 ―――――― その光景は、呪いにも等しい感覚で目に焼き付いている。

 

 

 それからは大変どころの騒ぎではなかった。

 唐突に武器が消えた事に驚き、混乱し、そして店主であるネズハに問い詰めた。

 だが、彼も解らない、おそらくはシステム上の現象ですとしか言わず、後は謝罪の繰り返しである。加えて、失敗の お詫びとして強化の為に支払った費用を全て返却するとまで言って来たのだ。

 

 それで、皆が納得したわけではない。しかし、最早どうする事も出来なかったのも事実。結局、出来得る限り その場を丸く収めようと、ネズハの言う通りに金を受け取り、その場を後にしたのだった。

 

 

 その際、キリト達の姿が見えなくなるまで、ずっと頭を下げたままだったのが、強く印象に残っている。

 

 

 

「ごめん、アスナ……俺が、プレイヤーメイドを推したばっかりに……」

 

 

 

 恐る恐るといった風に、キリトはアスナに謝意を籠めた声を掛けた。予想できなかった事とはいえ、件の鍛冶屋を勧めたのは彼だったが故だ。

 

 

 

「……どうして、キリト君が謝るの? 別に、キリト君は悪くないじゃない……」

 

「いや、だけど……」

 

「謝らないで」

 

 

 

 その言葉には、有無を言わさぬ語気を含んでいた。様々な感情が渦巻いていたキリトの脳を、瞬時に冷却させるには充分な力があった。

 

 

 

「………お願い……」

 

 

 

 そして、それで最後の力を振り絞ったかのように、アスナの声は萎んでいく。ありとあらゆる力が、根こそぎ失ったかのようであった。

 その姿を見て、アスナは武器を失った落胆と消沈の中にあっても、必死に自分を制御しようとしているのだと察した。きっと、生半可な意思では抑え切れないような感情の震えに違いないだろう。

 

 

 

「……ちょっと、外に出て来る」

 

 

 

 本当なら、もっと気の利いた言葉を掛けられれば良かった。しかし、人付き合いが不得手な自分は、何を言えばよいのか皆目 見当も付かない。

 

 

 他人はおろか、家族ともコミュニケーションを怠って来た自分を、キリトは強く悔いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿屋の入り口の壁に凭れながら、キリトは特に意味もなく道を行き交う人影を見ていた。

 

 大半が、この街で生きていると“ 設定されている ”老若男女の姿。たまに、日に日に増えているというプレイヤーの姿も ちらほら見える。

 その ほとんどが防具や武器を装着した者だが、単に観光に近い理由で来たであろう非戦闘員(ルーキー)らしき者の姿も中には見受けられる。その表情は、得てして未知なるものに向ける好奇心と探求心に満ちた子供のような明るさがあった。

 

 今のキリトには、それらも複雑な思いを抱かせる。

 

 

 

「よぅ、キー坊。どうしたンダ、こんな所デ?」

 

「ん?……アルゴか」

 

「お天道様はご機嫌だってノニ、随分と曇り空じゃないカ」

 

 

 

 半ば放心気味だったキリトを呼び戻す声を掛けたのは、情報屋のアルゴであった。

 

 

 

「……ちょっとな。アルゴは、今日も情報収集か?」

 

「ん? まぁナ。情報は お金と同じで、あり過ぎると困るなんて事はないからナ」

 

「そっか」

 

 

 

 どうやら彼女は普段通り、自分の職業に精を出しているらしい。彼女の成果には いつも助けられている為、その変わらぬ活動力には頭が下がる思いであった。

 

 

 

「……キー坊、何かあったノカ?」

 

「え?」

 

「何だか、いつものキー坊らしくないゾ?」

 

 

 

 アルゴが不意に神妙な面持ちになって尋ねて来たのは、キリトにとっても予想外だった。余計な心配はかけたくないと平静を装っていたはずだが、情報屋としての彼女の鋭さは想像以上だったらしい。

 思わず反射的に誤魔化そうと思考が働こうとしたが、アルゴの いつになく真剣な眼に、それもなくなっていく。

 

 

 

 

 

「……ちょっと、聞いて貰えるか?」

 

 

 

 

 

 水臭いゾ ―――――― 不敵ながらも優しい笑みと共に、彼女は即座に そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 キリトは、先程 起きた出来事などを話した。

 

 

 ハルカ達3人と武器素材を集めた事。

 

 その際に勝負をした事。

 

 それに負け、高価なケーキを奢る事になった事。

 

 そのケーキでアスナに幸運のバフが付加され、偶然 見つけた鍛冶屋で強化を依頼した事。

 

 

 そして ―――――― そこで起こった信じがたい悲劇を。

 

 

 

「武器が、消滅しタ………」

 

「あぁ。俺も……あんな現象 初めて見たよ」

 

 

 

 アルゴの表情には目に見える位の驚愕が表れ、キリトも その時の光景がフラッシュバックし、言葉に出来ない不快感が甦る。

 

 

 

「……知らなかったとはいえ、アスナには本当に悪い事をしたよ。いくら詫びても足りない位だ」

 

 

 

 まして、当人であれば その不快感は如何ほどであるのか、想像するのも恐ろしい。

 謝罪は要らないと本人に言われたばかりではあるが、彼も責任感は強い部類に入る。勧めたのが自分である以上、罪悪感は決して拭えるものではなかった。

 

 

 

「《 幸運 》のバフ中に武器消滅(これ)って……不運ってレベルじゃないぞ」

 

 

 

 話相手がハルカ以上に気の置けないアルゴとあってか、思わず愚痴を溢す。彼としても、理不尽極まりない現象に感情の ぶつけ所を計りかねているのだろう。

 

 

 

「“ 不運 ”……カ」

 

「ん?」

 

 

 

 不意に、アルゴが呟く。

 キリトは反射的に反応する。その声色は、何か含みを持たせている事に気付いたからだ。

 

 

 

「何か、気になる事があるのか?」

 

「あると言えば、ある。と言っても、オレっちとしても確証があるワケじゃないガ」

 

「どういう事だ?」

 

「つい最近、はじまりの街で聞いた話ダ」

 

 

 

 アルゴは、いつになく真剣な面持ちで語り始める。

 

 

 それは数日前から、はじまりの街で奇妙な鍛冶師が現れていたというものだった。

 その者は中央広場の人通りの多い所で商売をしており、良心的な値段と丁寧な仕事ぶりで客足を得ていたとの事。

 

 だが、仕事の中で強化を行なった時“ それ ”が起こったという。

 

 そう ―――――― 武器の消滅である。

 

 原因は不明。客はおろか当人も困惑しながらも必死に謝罪し、強化費用も全額返却するなどして場を修めていたとの事。

 その経緯を聞いて、キリトは ある事に気付く。

 

 

 

「それって……!」

 

「あぁ。多分、キー坊達が行ったネズハとかいう鍛冶師の事だろうナ。それにダ、その消滅現象が起きた奴等には、ある共通点がある」

 

「共通点?」

 

「その鍛冶屋に持って行った時点で、“ 武器の強化を3回以上成功させてる ”って事ダ」

 

「!! そういえば、アスナの武器も4回成功させてた……」

 

「偶然にしちゃ、出来過ぎだヨナ」

 

 

 

 更に、アルゴによれば それだけではなかった。

 中には、費用を返却しても怒りが収まらない者もいた。彼等にすれば大事な武器を永久に失った為、それも無理からぬ事だろう。

 そういった客に対し、店主はある提案をして来たのだという。

 

 

 

「それがな、客が持ってる《 エンド品 》を買い取るってものダ」

 

「エンド品を?」

 

 

 

 エンド品。

 それは文字通り、終わってしまった(エンド)武具の事である。

 

 武器や防具には、それぞれに設けられた強化試行回数がある。強化を施し、成功・失敗にかかわらず回数を一回必ず消費し、それがゼロになれば それ以上 強化は出来ない仕様なのである。

 中には、色々と強化を試みて全部失敗だったという者も多いだろう。元が弱い武器なら、それは失敗作に他ならず懐を圧迫するだけの鉄屑にも等しい。

 加えて、それを売ったとしても殆ど稼ぎにもならず、万一の為に持っておく者が大半だった。

 

 

 

「そのエンド品を、その店主は相場の3割高の値段で買い取ったらしいゾ」

 

「そんな値段で!? どうして……」

 

「さアナ。せめてもの謝意とも取れるケド……」

 

 

 

 強化費用を返すだけでも利益は皆無なのに、加えて旨味が ほぼないエンド品までも高めの金額で買い取るという不自然な行動。

 キリトも理解できず、アルゴも真っ先に浮かんだ可能性が正しいとは正直 思えなかった。

 

 

 

「そういえば……」

 

 

 

 キリトは、ある事を思い出す。

 それはアスナのウインドフルーレが消滅してから、宿屋へ向かう間の事。店主のネズハがアスナに対する謝罪を述べて費用を返却した後、何かを提案しようとしていたのだ。

 その時は、今にも崩れ落ちそうなアスナを第一に考え、話を強引に断ち切って その場を後にしたが、もしかするとアルゴが先程 話した事を伝えようとしたのではないかと考えた。

 

 

 

「……どう思う、キー坊?」

 

 

 

 いつになく真剣な面持ちで尋ねるアルゴ。

 普段の彼女と違う雰囲気を敏感に察し、キリトも生半可な事は言えないと気を引き締める。

 

 

 

「正直に言うと……今回の事、かなり引っ掛かる」

 

「だよナ」

 

 

 

 それが、2人が出した結論だった。

 

 

 見た事のない現象。

 

 店主・ネズハの不可解な行動。

 

 加えて、面と向かったキリトが抱いた様々な違和感と、アルゴが持つ情報屋としての勘。

 

 

 それらを踏まえ、今回の事が ただのゲームの仕様を超えた“ 何か ”を思わせてならないのだ。

 それは恐らく、他の人間よりもSAOの世界に馴染んでいた2人だからこそ感じた違和感だったのだろう。

 

 

 

「アルゴ、1つ頼めるか?」

 

「例の、ネズハとかいう鍛冶師を調べるんダナ?」

 

「あぁ」

 

 

 

 2人は意を決する。

 もはや、一度 抱いた その違和感は時間では消えないだろう。ならば、たとえ時間の無駄になろうが詳しく調べる必要があると判断したのだ。

 その為に、お互いに行動を確認し合う。その淀みない動きは戦友ならではの流麗さがあった。

 

 

 

「キー坊は どうする?」

 

「俺は、一度はじまりの街に行こうと思う」

 

「1層に?」

 

「俺もアルゴも、鍛冶スキルに関して そこまで詳しくない。だから、専門の人間に聞くべきだと思うんだ」

 

 

 

 ネズハに疑念を抱いた2人だが、無論 製品版になっての仕様の変化である可能性も皆無ではない。あくまで、これまでの経験上あり得ないと踏んだ上での判断に過ぎないのだ。

 キリトの言い分も即座に理解し、アルゴも それに対し特に異論はない。

 

 

 

「解った。それじゃあ、そっちは頼んだゾ」

 

「あぁ、そっちも頼む。依頼料は……」

 

「今回は事情が事情だからナ。特別サービスだヨ」

 

「……そうか。悪いな」

 

「良いって事ヨ。……それじゃあナ」

 

 

 

 申し訳なさそうなキリトに、アルゴはウインクして答える。顔の良さもあって可憐であり、同時に非常に頼り甲斐を感じる頼もしさがあった。

 素早く踵を返し、持ち前の敏捷性を駆使して駆けて行くアルゴ。あっと言う間に、その姿は見えなくなった。まさに、《 鼠 》の2つ名に違わぬものである。

 

 

 

「さて、俺も……」

 

「あ、キリト君」

 

「ん? ハルカ?」

 

 

 

 キリトも遅れまいとした時、宿屋の扉が開かれる。出て来たのは、ハルカであった。

 聞けば、アスナは相変わらず消沈したままである事。シリカとハルカの言葉も功を奏さず、かといって放置する事も出来ず、何かしてあげられる事はないかと下りて来たのだと言う。

 

 

 それを聞いたキリトは、良いタイミングとばかりに同行を願い出た。話を色々と聞く以上、人手は多い方が良いからだ。

 

 

 

「……それじゃあ、あの鍛冶師の人が怪しいって事?」

 

「あくまでも、可能性の域は出ないけどな」

 

 

 

 キリトから事情を聴き、ハルカも考えを巡らせる。

 今回の事が仕様上 仕方のない事であれば、時間と共にアスナが立ち直るだけの話だっただろう。

 だが、もし武器消滅が仕様ではない“ 何か ”だとすれば、事情は まるで異なる。

 

 それは他人の気持ちを弄ぶ、純然たる“ 悪意 ”でしかない。

 

 もしだとすれば、放置する事は出来ない。

 キリュウなら きっと行動するはずであると、ハルカは確信する。故に、彼女の答えも1つだ。

 

 

 

「……解った。私も一緒に行くよ」

 

「恩に着る」

 

「良いの。それじゃあ、行こう」

 

「あぁ!」

 

 

 

 難しい事は調べてからでも遅くはない、2人は そう考えて行動を開始する。

 

 

 

 

 

 急いだ方が良い ―――――― 心の中で、そんな焦燥感を抱きながら。

 

 

 

 

 

 





本来なら一話に纏めるはずが、色々と描写してたら分ける事に。

相も変わらずのグダグダっぷりですが、どうか御勘弁を。


次回には、更なる新キャラが登場します。それもSAOだけでなく、龍如からもです。

次はいつになるか解りませんが、どうかお楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。