SAO アソシエイト・ライン ~ 飛龍が如し ~(※凍結中)   作:具足太師

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どうも、具足太師です。

今回から、再びアインクラッドSide。新たな章が始まります。
SAOは、まだまだ躍進が続く気配満々なのに対し、龍が如くは桐生の物語が公式で終わったという事で少なからず落ち込んでいますが、そんな事には めげず、当作品は続けて参りますので。

それでは、本編をどうぞ。



第4部:《 龍の御旗 》
『 発足 』


 

 

 

 

 

【 2011年 11月21日 13:43  はじまりの街 】

 

 

 

 

 

 最下層・第1層の主街区における中央広場。

 現在そこには、おびただしい数のプレイヤー達が(ひし)めき合うように集まっていた。元々、1万は優に入れる程の広さに設定されているが、その7割近くが既に人で埋まっている。

 それは まるで、半月前の“ 悪夢 ”を連想させる光景だった。

 

 

 だが、それでも今の状況は その時とは明らかに違うと解るものだった。

 

 

 何が違うかと言われれば、“ 空気 ”が まるで違うのだ。

 

 

 

 

 

「なぁ、あれ(・・)本当なのかな?」

 

「さすがに、あんな(・・・)嘘は吐かないと思うぞ?」

 

 

 

「まだかな?」

 

「もう少し待てって」

 

 

 

 

 

 多くのプレイヤー達が互いに言葉を交わしながら、何かを待っているように広場の中央を注目している。

 その表情には、不安に近い面持ちが見える。だが それ以上に、“ 期待 ”が滲み出ている表情だった。

 

 

 

 

 

 街の中央広場には、イギリスのビッグベンを彷彿とさせる時計塔が立っている。現実世界と全く同じ時間を示す、街のスポットの1つだ。

 

 更に時計塔の足元には、ある物が設置されていた。

 それは、石材で作られたオブジェだ。街の至る所で使われている物よりも明らかに良質だと解る材料を用いた それは、クリスタル、あるいは剣を模したように形作られている。天に向かって突き立つそれが、時計台を囲むように四方の隅に均等に立って並んでいるのだ。そして その中心には、解読不能な文字が書かれた石碑が建てられている。

 

 何かを祀るような それは、《 転移門 》と呼ばれるものであった。

 各層の主街区には必ず1つずつ設置されており、全100層ある各階層を繋ぐものだ。それを用いれば、瞬時に別の層へ移動できるようになるのである。主街区以外にも、各所の小さな村や町にある場合があり、街間の瞬間移動も可能となる。

 無論、行けるのは“ 解放されている階層と門との間 ”だけだ。未だ最下層に留まっているプレイヤーからすれば、それらは ただのオブジェ以上にはなり得ない存在だった。

 

 

 

 だが、それも間もなく変わろうとしていた。

 

 

 

 それに(・・)真っ先に気付いたのは、群衆の中の先頭にいる者達だった。

 突如として、4つあるオブジェの一部が青白く輝き始めたのだ。4つ同時に輝き出した それは、光と共に透き通った質感へと変質した。石だった物が、一瞬の内にクリスタルのような鉱石へと変わったのである。まるで錬金術の如き変化に驚く群衆。

 

 そして次の瞬間、更なる変化が時計台の足元で起き始めた。

 

 

 

「!! 光り出したぞ!!」

 

「何だ、あれ!?」

 

 

 

 美しいオブジェへと変貌した4つの台の中心から、強い光が起こり出したのだ。

 変質したクリスタルと同じような、青白く煌く強い輝きだった。その場にいる全員に、その光に覚えがあった。

 

 

 そう ―――――― あの忌まわしき日(11月6日)に自分達に起こった、転移(テレポート)の輝きだ。

 

 

 もしかしたら ―――――― そう皆が思い始めた瞬間、光の中から何かが現れ出した。

 

 

 

 それは、紛れもない人の姿だった。

 

 それも1人ではなく、1人が出て来ると それに続くようにゾロゾロと光の中から姿を現し始める。

 

 少年から青年、そして少女に中年男性と、色んな人間の姿が そこにあった。その どれもが、周りで見ている人間よりも1(ワン)ランクは上の装備を身に纏っていると一目で解るものだった。

 

 やがて、10人ばかりが光から出ると、その光は徐々に小さくなって消えていった。

 

 

 中央広場に、静寂が走る。

 

 

 だが、周りにいる数千の人間の心臓は、間違いなく その鼓動を強く働かせていた。

 

 

 

 期待 ―――――― 不安 ―――――― 虚無 ―――――― 様々な感情が場を流れる。

 

 

 1人が固唾を飲む小さな音さえ拾えそうな、張り裂けそうな程の静けさ。

 

 

 

 

 

 

 

「 ………みんな ――――――――― 待たせたなっ!!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな静寂を叩き斬るかのように、現れたメンバーの中で最も騎士らしい風貌の青年が口を開いた。青系統の服に渋い甲冑、そして空のように澄んだ水色の髪が何とも勇ましい姿だった。

 

 更に群衆が中央に注目した瞬間、時計台の下で青白い光が複数 出現した。

 群衆、そして光から現れたメンバーの一部が驚きの表情を見せる中、その光から現れたのは、全身に隈なく重そうな西洋風の甲冑を身に纏った集団だった。カーソルを見ると黄色に輝いており、それで彼等がNPCだと解る。甲冑や各所にある布部分は色鮮やかで華やかさが前面に出ており、実戦用と言うよりは式典用と言える趣の物だった。そして その手には、トランペットやフリューゲホルンといった金管楽器が握られている。

 大半の人間が呆気に取られる中、NPC達は おもむろに楽器を持ち上げ、唄口(マウスピース)を口元に押し当てる。

 

 

 そして ―――――― 息を吸うような動作の後、一斉に演奏を始めた。

 

 

 それは、現実なら競馬場などで聞かれるようなファンファーレだった。NPCらしく、寸分違わず音が合わさった その音色は、聴く者の心に様々な感情を起こさせる素晴らしいものだった。兜で口元が塞がっているのに、どうやって吹いているんだという疑問すら浮かんで来ない程の惚れ惚れする演奏。

 

 

 

 それは まさしく ―――――― プレイヤー達の“ 勝利 ”を祝福するものに相違なかった。

 

 

 

 やがて、15秒ほどのファンファーレが終わり、お辞儀と共にNPCが消える。

 

 

 

 

 

 その時には、プレイヤーの(ことごと)くが全てを悟っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「  第1層を ――――――――― 踏破(クリア)したぞぉ!!!!!  」

 

 

 

 

 

 

 

 刹那 ――――――――― 中央広場に、爆発の如き激震が巻き起こった。

 

 

 

 

 

 中には、攻略など無理だと半ば諦めかけていた人間も少なからずいた。

 そんな悲観を、彼等は ものの見事に打ち砕いてくれたのだ。その歓喜たるや、並大抵のものではないのは言うまでもなかった。

 一度 付いた熱気が治まる様子を見せない。共に戦えなかった分、ある意味、攻略を成功させた面々よりも喜びを感じる者が大半だった為だろう。

 そんな、一向に鎮まる様子がないプレイヤー達の気持ちを察しながらも、騎士風の男 ―――――― ディアベルは手振りと大きな声で制止させると、皆を改めて注目させた。

 

 

 

「みんな、ありがとう!! 今回、集まってもらったのは他でもない。

 

 ここで、攻略の第一人者と言えるメンバーを紹介したいと思う。

 

 

 今回のボス討伐で、ずば抜けた活躍をしてくれたメンバーだ」

 

 

 

 ディアベルが そう言うと、再び転移門が作動し、青白い光を発行し始める。

 何やらイベント染みた演出に、再び数千のプレイヤー達が色めき立つ。その様は まるで有名芸能人を待つファンの如しだ。

 

 

 

 

 

 やがて、門から現れたのは ―――――― 何とも個性的なメンバーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1層ボス・イルファング・ザ・コボルドロードを討伐した最前線組。

 ボス部屋から更に奥へと進み、少しばかり長い階段を上ると、光が差し込む出口が見えた。

 

 

 

 そして、そこを潜ると ―――――― 最初に目に映ったのは、巨大な岩山だった。

 

 

 

 それは ただの岩山ではない。例えるならば、空に浮かんで見える船、あるいは孤島のような山だ。いわゆる、テーブルマウンテンと呼ばれるものが それである。南アフリカのケープタウン南部に位置する山や、南アメリカにあるギアナ高地の山々が有名だろう。風化によって切り立った崖は、驚くほど垂直に伸びている。

 

 この地 ―――――― 第2層に点在する山々も、まさにそれであった。

 

 

 

 

 

 キリト、ディアベルの先導で、程なく一行は第2層の主街区・《 ウルバス 》へと辿り着いた。

 驚いた事に、その街は 一際大きなテーブルマウンテンの“ 中 ”に存在しているのだ。崖下の入り口から入ると、そこに第1層のものにも劣らぬ立派な街並みが広がっていた。上を見上げれば ちゃんと空もあり、まさに“ 山を丸ごと()()いて ”出来た街だった。しかも、第2層の町や村は例外なく そうだという。それを聞く度、初心者メンバーは新鮮な気持ちで驚いた。

 

 そして、入り口の門の先にあった転移門の所へと皆が集まった。

 曰く、その門に誰かが手を かざすだけで門の活性化(アクティベート)が終わり、使用可能の状態になるのだという。

 

 それを成した時、本当の意味で階層攻略は完了する ―――――― キリトら元テスターの言だ。

 

 

 

 では、栄えある“ 初めての転移門開放(ファーストアクティベート) ”は誰か、という空気になった時であった。

 

 

 

 

 

「なぁ皆 ―――――― ちょっと良いか?」

 

 

 

 

 

 ディアベルが、不意に声を上げたのだ。

 

 

 

「あ? 何や?」

 

「どうした、ディアベル」

 

 

 

 真っ先に答えたのは、マジマ、そしてキリュウの2人だ。他の面々もディアベルに注目している。

 心なしか、彼の表情は神妙なようで、どこかウキウキしているようにも見える。悪い言い方をすれば、何か腹に一物を抱えているような感じだと思わせた。

 そして全員が自分に注目したのを確認し、ディアベルは話を続ける。

 

 

 

「はい。俺としては今回、ちょっとした“ 演出 ”をしたいと思うんです」

 

「演出?」

 

「そうです」

 

「ふむ」

 

「ほぉ。詳しく聞かせてもらおうやないか」

 

 

 

 思いもよらぬ言葉に、キリュウだけでなく多くの面々も首を傾げる。正直、今一つ要領を得ない その言葉の意味を測りかねているのだ。

 その中で、エギルとマジマだけは思うところがある様子だ。どうやら、言葉が意味する意図を断片ながらも理解できているらしい。

 マジマの言葉に、ディアベルは頷く。

 

 

 

「俺の考えは、こうです。

 今回のアクティベート、俺達プレイヤーにとっては大きな意味を持つ事になると思います。何しろ、絶対に不可能とさえ思っていた階層踏破(フロアクリア)を成し遂げたんですから」

 

「そうだな。それは俺も同意見だ」

 

 

 

 キリュウが肯定の意見を述べる。

 彼はダイブした際、街に留まる多くの人間(プレイヤー)が絶望に染まっている様を目に焼き付けて来た。死への恐怖に怯え、街で一歩 進む力さえも出せない程の無力感。街にいた人間の大半が、そんな空気を生み出していたのだ。

 そんな中、その無理難題を見事 制覇してみせた集団が現れた。

 その事で、絶望に沈んでいた人々の心に伝わった衝撃は、いかばかりであろうか。

 きっと、言葉にすら出来ない程であるのは容易に想像がつく。キリュウだけでなく、その場にいる全てのメンバーが頷くなりして、肯定と納得の反応を見せていた。

 

 

 

「だからこそ、今回のアクティベートを俺は最大限 利用したいと思うんです。今後の為にも」

 

「今後て、何なんでっかソレ?」

 

 

 

 ディアベルの言いたい事が今一つ伝わらない様子のキバオウが ますます首を傾げる。

 

 

 

「それって………もしかして一種の、演説(スピーチ)的なものじゃないか?」

 

 

 

 それまで ずっと考える仕草をしていたキリトが、キバオウの疑問に答えるような形で その言葉を口に出した。

 ベータテスト時代、同じく初めて階層をクリアした際に、当時の攻略メンバーが遊び半分で似たような事を していたのを思い出したのだ。

 そしてキリトの解答に、ディアベルは首肯で答える。

 

 

 

「そう。今回、第1階層を誰が、いかに突破したか、はじまりの街で他のプレイヤーの皆に大々的に伝える。それが俺の考えだ」

 

「そんな事して、何になるんだ?」

 

 

 

 リンドが疑問を問い掛ける。

 

 

 

「1つは、“ プレイヤー全体に向けた士気の向上 ”。はじまりの街にいるプレイヤーに第2層の解放を告げれば、否応なく それは高まるだろう。そうすれば、きっと街に留まっていたプレイヤーの中からも俺達に手を貸してくれる人間が現れるはずだ。

 つまり2つ目は、“ 攻略メンバー、もしくは それを補助するメンバーの確保 ”だ」

 

 

 

 ディアベルが言っているのは、“ プレイヤー全体の安定化 ”と“ 人員の確保 ”である。更に彼は説明を続ける。

 

 

 現在、アインクラッドにいる9000超のプレイヤーは、全体を見れば その立ち位置は極めて不安定だと言わざるを得ない。

 その大半は未だゲームに囚われた現実を直視すら出来ず、今を生きる事すらも能動的とは言い難い程に空虚になっている者も多い。だが、ある意味それは当然の事だ。むしろ積極的に武器を取り、死の恐怖さえ忘れるように戦いに赴いた最前線組の方が異質だと言えるのだろう。

 

 だが、今のままでは駄目なのだ。

 今は まだ、第1層を攻略した44人の士気が飛び抜けて高く、強い。今のメンバーのままでも更にレベルを上げて実力を着ければ、第2層とて容易だろうと考えられる。

 しかし長い目で見れば、そのままでは いつか必ず行き詰まる日が来る。元ベータテスターであるディアベルだからこそ、それは断言できた。

 全100ある階層は、上へ行けば行くほど敵が強くなり、トラップや地形の複雑化などといった不安要素も出て来る。それはゲームのシステム上から言っても仕方のない事だ。それを突破していく為にはレベルを上げる事は勿論の事、高性能な武器や防具の調達、ソードスキルや その他のスキル上げ、アイテムも あらゆる面で充実させる必要性が必然的に高まって来る。

 

 そうなると、今の人数では圧倒的に足りない。

 最低限の安全を確保しつつも、より安全に、それでいて効率も重視した攻略を為す。そんな理想形を形作るには、やはり人数は相当数 必要となる。全プレイヤーは無理だとしても、やはり3分の1、欲を言えば半数近いプレイヤーの協力は不可欠だろうと、ディアベルは考えていた。

 

 その為に、今回の初アクティベートを最大限 利用するのだ。

 今の全プレイヤーにとって、階層間を移動できる転移門の稼働は相応の印象を残せるはずである。そこに、最前線組によるフロア攻略の大々的な宣言を行なう。そうすれば、はじまりの街のプレイヤーに より強いインパクトを与え、その心に訴え掛ける事が出来るだろう。

 

 

 ―――――― アインクラッド攻略は、決して不可能な事ではない。

 

 

 ―――――― ならば、自分にも何か出来る事はあるのではないか。

 

 

 プレイヤーに希望を与えると同時に、自分から積極的に攻略する面々をサポートしようという心理を働かせる事で、攻略の安定化を図ろうと言うのである。

 

 

 

「なるほど………」

 

「確かに、その通りかもしれないな……」

 

 

 

 ディアベルの説明も あらかた終わり、その場にいる面々に彼が意図するものが伝わったようだ。皆、自分なりに考えを聞いて納得するように頷く姿が見受けられる。

 

 

 

「しっかしのぅ、そない上手く行くやろか? 要は、自分から危ない橋 渡らせるみたいなもんでっしゃろ?」

 

 

 

 キバオウがディアベルの言に理解を示しつつも、同時に浮かび上がる懸念を口にする。

 彼も、戦えない人間を代表する気概をもって攻略に参加した初心者(ビギナー)の1人だ。だからこそ、1つの階層を攻略したからといって簡単に他の人間も立ち上がる事が出来るか、疑問に思う。彼等はフィールドに出る事すら出来ないから、街に留まっているのだから。

 

 

 

「身も蓋もない言い方をすれば、そうだ。だけど、これからの事を考えれば決して危ないばかりじゃないと思う。何しろ、たとえ戦わない選択をしたところで“ 生活の問題 ”があるからね」

 

 

 

 自分が提唱する事の一面を指摘され、頷きながらも、ディアベルは自分の考えを下げる事はしない。

 そして更に、どんなプレイヤーであっても抱える事になる“ 問題点 ”を指摘した。

 

 

 その内容は至極単純 ―――――― このSAOの世界では、ただ過ごすだけでも無料(タダ)では済まないという事だ。

 

 

 今更だが、SAO(ここ)にいるプレイヤーは れっきとした“ 実際に生きている人間 ”だ。

 たとえ体はデジタルで出来たアバターで、今現在 感じている感覚もナーヴギアによって疑似的に与えられているものとはいえ、“ 感じている意識そのもの ”は本物なのだ。

 

 そして残念な事と言うべきか、SAOでは現実と同じく腹は空き、眠くもなるのだ。

 

 勿論、現実と違って その空腹感は半ば偽物であり、空腹が続いても理論上は死ぬ事はない。SAOではHPを失う事こそ“ 死 ”であり、現実の体は今も家族や医者などの手によって定期的に栄養を与えられているはずなので、そこは深刻に考えずとも良い事案だと言える。

 だが、だからといって放置できる事でもない。たとえ死ぬ事はないと解っていても、空腹感が(アバター)に与える影響は計り知れない。間違いなく悪影響しか現れないだろう。故に、食べずに過ごすなどといった事は論外である。

 しかし、そうなると確実に食費が日に日に(かさ)んでくる。たとえ最安値の物を選び続けたとしても、有限である(コル)は いつか必ず底を突く。基本、フィールドへ出てモンスターを倒したりしない限り金が得られないシステム上、街から出られないでいるプレイヤーにとっては死活問題なのだ。

 

 同様に、睡眠もそうだ。

 休むのは宿屋になるだろうが、宿屋も決して無料(タダ)ではない。基本的に金が掛かるのは食欲と同じだ。

 だが それに関しては、寝る場所を選ばなければ大丈夫という側面もある。無論、大多数の現代人にとって寝る場所を選ばない、つまりは道端などで寝るなどといった行為は抵抗を覚えるだろう。だが、街の中は《 圏内 》と呼ばれる安全地帯だ。現実と違って さほど清潔感を気にする必要がない事を考えれば、金の掛からない有効な手段だと言えなくもない。

 しかしながら、同じプレイヤーとして そんな行為をさせるのは心が痛むと言うもの。男なら まだしも、プレイヤーの中には女性の姿も少なからず存在する。彼女達にとって、そんな心身を蝕むような行為はさせたくない。

 

 

 だから、人間として最低限の生活を保障する為にも、攻略に対するサポートは不可欠なのだ。

 攻略に出る人間が増えれば、その分 得られる金が増え、そして余剰と言える分を少しずつでも戦えないメンバーに配れば、少なくともホームレスのような生活は送らずに済むはずである。

 

 

 ディアベルは、それが理想と実利を伴った良策であると信じていた。

 そして皆の反応は、どれもが それに納得、そして支持するようなものであった。特に、戦えない面々に対する配慮も入っていた事などが、ハルカを始めアスナやシノンといった女性陣、そしてキリュウやマジマといった者にも好印象を抱かせた。

 

 

 

「いいじゃねか。その案、乗ったぜ」

 

面白(オモロ)そうやのぅ。俺も乗ったでぇ!」

 

「旦那達が乗るんなら、俺もだ。まぁ、断る理由もないがな」

 

「ワシも、ワシも大賛成や!!」

 

 

 

「俺も賛成だぜ、ディアベルさん!!」

 

「俺もだ」

 

 

 

「良い案だと思う。ね?」

 

「そうね。私も そう思うわ」

 

「大変だと思うけど、将来的に見れば、必要な事よね」

 

「凄くやり甲斐がありそう! ボクも賛成!」

 

 

 

 キリュウ、マジマ、エギル、キバオウ、リンド、シヴァタ、ハルカ、アスナ、シノン、ユウキ。

 第1層で共に戦った中心人物たちが こぞって賛成の意を示した。それは、その場での賛否を決定付けるも同様な事だった。他の面々も、次々と それに同意し、程なく満場一致と相成ったのである。

 沸き立った やる気は次第に興奮に近い状態へと昇華し、ウルバスの中央広場には攻略会議時にも匹敵する程の熱気が宿り始めた。

 

 

 

「それで、具体的には何をするんだ?」

 

 

 

 自分の考えに同調してくれた感激に浸っているディアベルにキリュウが問い掛ける。

 

 

 

「とりあえずは、はじまりの街にいるメンツにも協力してもらいます。

 実は、もうマスティルには事前に それとなく話してあるんですよ」

 

「そうなのか? 初耳だぜ」

 

 

 

 キリュウとマジマがダイブした際に救った、元テスター・マスティル。

 今は はじまりの街に留まり、初心者へのレクチャーをする中心人物として動いてもらっている。同じく元テスターのディアベルとはテスト時の頃から顔見知りだったようで、攻略までの半月の間にフレンド登録も済ませていたのだ。

 

 

 

「マスティルには、街に残ってるプレイヤーを中央広場に集めるように伝えてます。後はタイミングを見計らって、俺達が街に現れて行動を起こす算段です」

 

「随分と手回しが良いな。若ぇのに感心するぜ」

 

「ハハ、恐縮です」

 

 

 

 キリュウの賛辞を受けて、こそばゆそうにディアベルが朗らかな笑みを浮かべた。

 それから続いて、リンドやシヴァタ、それにエギルといった面々も積極的に話に加わって来た。

 

 

 

「それで、ディアベルさん。もう何をするのか決めてるのか?」

 

「いや、まだだ。細かい事は、ここに着いてから話そうと思ってたしな」

 

「それじゃあ、早速ミーティングといくか」

 

 

 

 そう言って、皆は転移門前で協議を始めた。

 マジマやキバオウといった出しゃばり、面白好きや、ハルカやシリカといった女性陣も加わり、始まって間もなく中々に熱くなりつつあった。

 

 

 

(ふっ……悪くねぇな、こういうものも。あぁいう奴等は嫌いじゃねぇ)

 

 

 

 少し離れて見ながら、キリュウは心中で独り言ちる。

 若さもあるのだろう。共に戦った仲間達が、恐怖も不安も忘れ、ただただ明日へ向かって突き進もうという強い意志が、それなりに年齢を重ねたキリュウには眩しく、心地良くもあった。

 

 中でも、キリュウは彼等の中心になりつつあるディアベルに視線を向ける。

 きっと今回の事も、攻略を成す ずっと前から密かに考えていたのだろう。剣士としての実力も さる事ながら、先を見通し、様々な要素を隈なく利用しようという強かな一面も、同じ男として この上なく頼もしく思う。

 つくづく、コボルド王との戦いで命を落とさなくて良かったと安堵する。おそらく彼1人が欠けただけでも、想像を超える悪影響が出ていた事は明白だ。彼を救う要因となったアスナやキリトには頭が上がらない気持ちで一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――― To be continued ――――――――― heroes

 

 

 

 

 

 

(………謎の男……PoH、か……)

 

 

 

 同時に、キリュウは脳裏に1人の(プレイヤー)が浮かんだ。

 順調に進んでいたボス攻略を妨害し、そればかりかディアベル、それにハルカや自分までも害そうとした男。

 その言動は、自分を含めた他の人間と比較しても、明らかに異質だと解るものだった。人間が命を落とす事に繋がる行為を何の躊躇もなく行なう異常性。そして、そんな行動には似つかわしくない程の陽気な声には、言い様のない狂気が宿っていた。

 

 

 

(“ 続きは また今度(To be continued) ”……か。奴は、また必ず現れる………)

 

 

 

 その正体も、目的も一切 解らない。

 ただ1つ確実に言えるのは、今後も自分達に干渉してくる可能性が極めて高いというだけだ。

 彼の者の言動には、“ 殺し ”そのものを楽しんでいる節があった。

 キリトの言を借りるならば、《 PK(プレイヤー殺し)プレイヤー 》に近い者だ。今の状態を現実(リアル)だと認識せず、あくまでも“ ゲームの延長線上 ”と捉え、人道を踏み躙る行為に走る者だと。

 

 

 

(たとえ誰だろうと……俺の大事な人間に手を出すなら、容赦しねぇ……!!)

 

 

 

 グッと、キリュウの拳が固く握られる。

 

 

 

「キリュウさん? どうかしましたか?」

 

「! ……いや。何でもねぇ」

 

 

 

 いつの間にか隣にいたキリトに声を掛けられ、キリュウは自分が意識を強く内側に向けていた事に気付く。今ここで話す事ではないだろうと、首を振って誤魔化す。訝しがるキリトだったが、特に追究はなかった。

 

 

 

「お前は、話に加わらないのか?」

 

「俺は、あぁいうのは ちょっと苦手で。キリュウさんこそ、実質 皆のリーダーみたいなもんなんですから、行った方が良いんじゃないですか?」

 

「俺も、あぁいう事を考えるのは苦手でな。ここは、マジマの兄さんや皆に任せるさ」

 

「ボス戦の時に、皆の前で あんな大見得 切った人のセリフとは思えませんね」

 

「フン。お前こそ、ボスにトドメを刺した最優秀プレイヤー(MVP)じゃねぇか」

 

 

 

 互いに、持ち前の行動力とは裏腹の引っ込んだ考えを揶揄し合うように言い合う。

 2人とも実力も高く感情も昂り易い性格なのだが、平時には消極的とも取れる位に前に出ない面がある。キリトは人と接するのが不得手、キリュウは ただ控え目なだけという違いはあるが、どこか似たような雰囲気の2人だった。

 

 

 

 

 

「お~~い!! キリュウ~ちゃあ~ん!!」

 

 

 

「お~~い!! キリトぉ~!!」

 

 

 

 

 

 2人を呼ぶマジマとエギルの、野太く良く響く声が響き渡った。

 

 キリュウとキリトが何事かと見ると、2人は何とも言えない“ 良い笑み ”を浮かべていた。

 

 ハルカやシリカ、キバオウ、それにユウキなども似たような笑顔だ。

 

 唯一、アスナやディアベルは同情するような笑みを浮かべ、シノンは どこか呆れているように目を瞑りながら溜息を吐いていた。

 

 

 

「………俺達も来い、って事ですよね。多分……」

 

 

「……まぁ、仕方がないか。行くぞ」

 

 

 

 彼等の表情が意味するところを察し、あからさまに表情を引き攣らせるキリト。出来得る事なら目立つ事はしたくはないと思っているが、どうにも許される空気ではないと悟ったのだろう。解っていてキリュウに尋ねたのは、せめてもの悪あがきか。

 キリュウとしても それは同じだったが、自分の行なった行為の重大さも十二分に解っていた為、今更 抗おうとは思わなかった。おまけにマジマに加えてハルカまで その気になったのなら、彼に断る理由はないのだ。

 

 

 皆の所へ歩き出したキリュウを見て、キリトは諦めとヤケクソが ごちゃ混ぜになった気持ちを抱えたまま彼に続いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それらが、彼等が転移門で1層へ降り立つ数十分前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、再び第1層の《 はじまりの街 》の中央広場。

 

 

 頃合いを見計らい、プレイヤー達で一杯になった広場にディアベルとリンドにシヴァタ、その他数名が転移門で現れる。多くのプレイヤーにとって初めて見る転移の光景と、アクティベート達成のゲーム内演出により、第一印象としては充分過ぎる程だった。

 そして それを逃さず、ディアベルが持ち前の人当たりの良さを十全に発揮させて大衆の関心を集中させる。並の人間なら その視線と熱気の多さに足が竦んでも おかしくない状況で、ほとんど普段と同じように話す彼は、やはり人を惹きつける天性のものがあると思わせる。

 

 

 

(ナイス、ディアベル!)

 

 

(サンキュー、マスティル!)

 

 

 

 最前列で見守っていたマスティルは、予想以上の立ち振る舞いで広場を沸き立たせた同士にサムズアップをして健闘を称え、それに気付いたディアベルもウインクで答えた。

 

 

 

「ここで、攻略の第一人者と言えるメンバーを紹介したいと思う。

 

 今回のボス討伐で、ずば抜けた活躍をしてくれたメンバーだ」

 

 

 

 そしてタイミングを見計らい、ディアベルが転移門を注目させるように言葉を発す。

 それを見たリンドとシヴァタが こっそりとウインドウを操作し、フレンド機能を使って2層で待機する面々に合図を送ったのだ。

 行動を こっそりとしたのは、舞台演出の如く見ている人間に対し より驚きを与える為だ。大した事ではないかもしれないが、やるのとやらないとでは雲泥の差があるとして、提案が為されたのである。

 

 

 

 

 

「おおおおおしゃああ!!! 待たせたのぉ!!! ワイがキバオウ様じゃあああぁ!!!」

 

 

 

 

 

 真っ先に登場したのは、キバオウ率いる一団だ。

 ディアベルの説明も加わり、ボス戦では取り巻きの抑えとして活躍した、初心者(ルーキー)を代表するプレイヤーといった形での紹介となった。

 元来の目立ちたがりの一面もあってか、数千もの視線の中に晒されても、さほど臆する様子も見せずに有り余る活発さを見せていた。大して屈強な体躯でもないにも かかわらず、“ 大勝利 ”のポーズを決めても滑稽にすら見えないのは ある意味 奇跡と言って良い程だ。

 

 しかし、そんなキバオウに対して真っ先に上がった観衆の声は称賛ではなく ――――――

 

 

 

「も○っと」

 

 

  「も○っと」

 

 

    「も ○ っ と」

 

 

 

 ―――――― といった、イジられる言葉だった。

 

 

 ズッコケた後、キバオウは「誰が美脳が働くボールじゃあ!!!」と憤慨していたが、彼の怒りは どこ吹く風とばかりに、中央広場は大きな笑いに包まれた。

 最初の絶望に支配された空気に比べれば凄い変化だとディアベルは宥めるが、当のキバオウは今一つ釈然としなかった。

 ただ、後に きちんと称賛の声も上がり、結果的に悪い方向に働いたわけではないという事だけは納得できたので、とりあえずは良しとしておいた。

 

 

 

「さぁ、続いては……最前線において花開いた ―――――― 紅一点の登場だ!!」

 

 

 

 続いて、すっかりMC口調が板についてきたディアベルの紹介と共に現れたのは ――――――

 

 

 

 

 

「こんにちは、みんな!」

 

 

「こんにちはぁ~!!」

 

 

 

 

 

 ハルカ、シリカ、アスナ、シノン、ユウキといった女性メンバーであった。

 先程の むさ苦しい面々とは打って変わった華やかなメンツの登場に、広場は一気に色めき立った。さもありなん。SAOにログインした約1万のプレイヤーを見ても、男女比率は驚く程に偏っている。多く見積もっても、男:8に女:2といったところだ。

 そんな希少というべき女性プレイヤー、しかも1人1人が平均を大きく超えた美少女とあっては、興奮しない方が おかしいだろう。

 ただ、さすがに大勢の前に立つという行為自体に慣れてない事、そして各々の性格などもあって愛想よく声を上げたり手を振ったりしているのはハルカとユウキくらいだ。シリカは大勢の視線の集中を受けて委縮してしまっているし、シノンは居心地が悪そうに立っているだけ。特にアスナは、提案が為された時はシリカやシノン以上に拒絶反応を見せ、説得するディアベルやエギル等から逃げ回っていた程だ。だが、ハルカやユウキ、それに逃げ回った末に背中を借りたキリトの言葉もあり、渋々同意したのである。それでも、マントは外さず、フードも取らないという条件付きではあったが。本人としては下手に目立たない為の措置のつもりだったが、1人だけ他と違う格好をしていた為に、かえって目立っている事には気付いていなかった。

 

 ともあれ、ボスを撃破したメンバーの中に可憐な美少女軍団がいたという事実は、他のプレイヤー達にとっては この上ない衝撃を与える事になった。彼女達にも称賛の声が上がる一方、現実なら戦いに赴くには決して向かない少女達が武器を振るったという現実は多くの意味合いを感じさせたのだ。

 彼女達に注がれる視線の中に思い思いのものが含まれている事を悟ったディアベルは、良い意味で重く受け取って貰えたと実感した。

 

 

 

「さぁ、残るメンバーも僅か……ここからが、今回のボス討伐における中心人物(キーマン)達だ!!」

 

 

 

 女性陣も惜しまれつつ下がり、ますますヒートアップして来た中、ディアベルが改まるように言葉を紡ぎ、場は一転して静けさが広がっていく。同じメンバーにして攻略の要の登場という言葉に、観衆の表情には期待や興奮、あるいは言葉にすら出来ない程の何かが浮かんでいる。固唾を飲みながら、今1度 転移門に注目する。

 

 

 そして、再び転移の青白い光が門に集まり出した。

 

 

 

 

 

『 おおおぉっ!!!?? 』

 

 

 

 

 

 それが一際 大きくなった瞬間、門から“ 何か ”が飛び出して来た。

 

 

 突然の事に どよめきの声が 其処彼処で上がる。やがて、“ それ ”に纏わり付く光の破片が剥がれ落ちながら地面に着地すると、その正体に観衆は気付いた。

 

 

 

 

 

「 いいいやっはああああ――――――ツ!!!!! 」

 

 

 

 

 

 それは、1人の男性プレイヤーだ。

 テクノカットに髭面、それに眼帯という、まるでアニメキャラが そのまま現実に現れたかのような男が、今度は奇声を上げながら動き回り始めたのだ。それも、その場で手も使わずに側転する、バク転するといった体操選手やアイドルグループも真っ青な、ゲームの中でもスキル無しでは中々に難しい動きを次々と披露していったのだ。最初、ほぼ全員がNPCかと勘違いした程だ。すぐに注視してカーソルの緑色を確認し、それは違うと解ったが。

 大半の初心者達は言うに及ばず、少数派の元テスターですら その動きには度肝を抜かれていた。現在の最下層では、今のような動きを再現できるスキルを入手できない事を知っていたからだ。つまり、そのプレイヤー ―――――― マジマは、本人の素の身体能力のみでアクロバティックな動きを行なっているのだから、驚きもするだろう。

 

 いきなりの軽業(アクロバット)に観衆が驚きと興奮に包まれる中、再び転移門が作動する。

 そこから現れたのは、1人の大男。頭を見事に剃り上げ、一目で日焼けではないと解る黒い肌に、服を着ていても解る程の筋肉の隆起。“ 岩のような男 ”という表現がピッタリ合うプレイヤーの姿が そこにあった。

 

 

 

「 いいいやっほおおぉぉ――――――ッ!!!! 」

 

 

 

 そして、そのプレイヤー ―――――― エギルが ゆっくりと曲芸を披露し続けるマジマに近付く。

その瞬間、マジマは腹の底から出すような咆哮と共に、大ジャンプを披露した。優に人1人分を飛び越える程の高さまで上がり、目で追っていた観衆は再び あんぐりと口を上げて驚愕する。

 空中に上がりながらも綺麗なフォームを維持しながら体を捻り、体の向きを変える。そして そのまま降下し、後方で控えていたエギルの肩へ(・・)と綺麗に着地した。

 

 

 

「 イヒッ♪ 」

 

 

「 ニイッ!♪ 」

 

 

 

 最後に、決めとばかりに両者とも笑みを浮かべ、ポーズを取って閉めた。

 プロレスラーの如きポーズといい、白い歯が輝かんばかりに浮かべた凶悪なまでの笑みといい、凄まじいインパクトであった。

 

 暫し呆然としていた観衆たちだったが、徐々に正気を取り戻していった者から順に拍手喝采を送った。雑技団も顔負けなパフィーマンス、そして その絵面の濃さは、彼等の心に この上ない衝撃を残す事に成功したのである。

 

 

 

「いやぁ~大成功やのうぅ、エギちゃんよ」

 

「そ、そうだなマジマの旦那」

 

 

 

 観衆が送る凄まじいまでの喝采を受けて、自分達が行なったパフォーマンスが大成功した事を実感する2人。

 だが、喜色満面のマジマとは裏腹に、エギルの声の様子が変だった。それに気付いたマジマが下に注目すると、その肩が震えているのに気付いた。

 

 

 

「何や、もう限界かいな。だらしないのぅ~ゴッツイ体しとるくせに」

 

「無茶 言わねぇでくれ、旦那……パラメーター的な問題とか、色々あんだからよ……ッ」

 

 

 

 その理由は単純明快である。普通に、マジマの重さに体が悲鳴を上げていたのである。

 マジマ的には軟弱な事を言うように思えるが、エギルからすれば無理難題も良いところなのだ。

 

 と言うのも、SAOにおける《 筋力 》の概念は現実とは少しばかり逸脱しており、完全に“ 数字 ”に支配されている。

 例を挙げると、プレイヤーの初期設定の筋力と敏捷は、共に1に設定されている。そして初期装備である《 冒険者の服 》や《 ソフトレザー一式 》、そして、はじまりの街で手に入る最もお手頃な武器を装備するのに必要な筋力の《 要求値 》が1なのだ。つまり、プレイヤーが問題なく戦闘を行なう為には、装備や武器に定められた要求値を満たさなくてはないらない。

 もっとも、最低限の値を満たしても、装備や武器に それぞれ万別に定められた《 重さ 》の概念との兼ね合いで、更に必要になったりするのだが、今は割愛する。

 

 ともかく、武器1つ、装備1つでも己に設定された数字に気を遣う必要がある中、“ プレイヤーが他のプレイヤーを抱える事 ”は極めて困難な事なのだ。これは、プレイヤー1人の重さが、武器や装備と違って現実に沿うような形で設定されている為だ。例を挙げるなら、レベルが最も高く、筋力も重点的に上げているキリトでさえ、アスナやハルカのような比較的 軽い女性の体を少しも持ち上げる事は出来ない。せいぜい、持っているアイテムを全て外して身軽になる事で持てる最大重量を増やし、その上で何かに乗せて引っ張るのが関の山だ。キリト曰く、人1人を持ち上げるには今の数倍のレベルを獲得し、その上で筋力パラメーターを上昇させるアイテムを装備するなりしないと不可能だという。

 

 現に今も、マジマとエギルはアイテム欄に何も入れず、極めて身軽な状態になっている。その上で、両手斧の能力を最大限に活かす為に筋力1本に絞ってパラメーターを上げて来たエギルだからこそ、何とか短時間でもマジマの体を支えられたのである。そうでなかったら、マジマが乗った瞬間に踏み潰されていただろう。個人の体格も大きく関係しており、マジマよりもガッシリして体重も大きいエギルだからこそ出来た芸当だった。後、それなりに“ 根性 ”が働くのも要因の1つだろう。

 

 

 

「と、とにかく そろそろ降りてくれ……肩どころか足まで生まれたての小鹿になりそうだ…っ」

 

「しゃあないのぅ……」

 

 

 

 観衆の前だけに表情とポーズだけは取り繕っているものの、その痙攣にも等しい体の震えは既にエギルが限界に来ている事を如実に表していた。

 個人的には もう少し高みの見物を楽しみたかったが、無理をしてエギルの格好悪い姿を見せるのも忍びない。それはそれで面白そうとも思う心を引っ込め、大人しく肩から飛び降りた。

 

 

 

「素晴らしいパフォーマンス、ありがとうございます!! 彼等こそ、攻略仲間の中でも屈指の戦士(ファイター)、マジマとエギルの2人だ!! ボス撃破にも大きく貢献したんだ、改めて、拍手を!!!」

 

 

 

 そんな2人の やり取りに苦笑しつつ、ディアベルは改めて2人の紹介を簡単に行なう。

 先程 見せた並のプレイヤーを凌駕する動き、そして威圧感 抜群の見た目を これでもかと拝見した後では、その説明を疑う余地はなかった。先のメンバーにも劣らぬ盛大な拍手と歓声が、口笛交じりで鳴り響いた。

 

 

 結果的に、このメンバーの紹介も大成功である。

 

 

 

 

 

「――――― さぁ、これが最後の紹介だ……ここから先が、正真正銘の主役(メインキャスト)の登場だ!!」

 

 

 

 

 

 マジマ、エギルの野獣コンビが下がった後、ディアベルが意図的に雰囲気を変えて紹介を行なう。今までとは少しばかり違う空気を観衆たちも感じ取り、広場は徐々に静けさが漂い始める。

 先に登場した面々は待ってましたとばかりに転移門の方へ視線を向け、成り行きを見守っている。特にマジマにハルカ、シリカは待ち切れない気持ちが如実に表れていた。

 

 そして、再び光と共に転移門が作動した。

 観衆は、今度は どんなパフォーマンスをするのかと、高揚感と期待感を胸に待ち侘びる。前のメンツも相当なものだと言えたので、最後(トリ)ともなれば如何ほどなのかと。各々の表情は まるでサーカスのショーを楽しむ幼子の如しだった。

 

 

 そんな中、光の中で2つの姿が収束され、その姿を現した。

 

 

 

 刹那 ―――――― 観衆は、息をするのを一瞬 止めた。

 

 

 

 特段、何かが起こった訳でもない。

 

 その姿を現した瞬間から、ただ立ち、そのまま前へと歩き出しただけだ。

 

 ただ それだけなのに ―――――― 誰もが、その姿から目を離せなくなったのだ。

 

 この場の何人かの人間が、見覚えのある男だった。

 1人の、比較的 小柄な黒髪の少年を伴った、逆立った黒髪が特徴の大男。身長も そうだが、その体格は服の上からでも明らかに常人の それを超えるものと解るものだった。先程のエギルに比べれば若干 見劣りするかもしれないが、それでも東洋人の括りからすれば逞しい事この上ないと解る。

 彫りの深い、まるで金剛力士像を思わせる顔、そして全身から漂う気迫は、平和慣れしているはずの現代人には似つかわしくない程の威圧感を持っていた。マジマの時とは違う意味で、本当にプレイヤーなのかと疑う者もいた位だ。

 

 

 

(みんな、キリュウさんに物凄く注目してるな……まぁ、当然と言えば当然か)

 

 

 

 斜め後ろから続きながら、キリトは観衆の唖然とした雰囲気を感じ取って内心 独りごちた。

 無理もないと思う。自分も初めて その姿を目にした時は、現代に こんな人間がいるのかと思ったのだから。マジマといい、“ あちらの世界 ”には彼等のような人間がゴロゴロいるのかと思うと、色んな意味で体が震えて来る。

 しかも、今は“ 戦っている時と同じ位の気迫 ”をもって ここにいる。

 これは、ディアベルらの案で、最前線には この上ない強力なプレイヤーがいる事を示す威武の為にキリュウに白羽の矢が立ったのだ。最初は戸惑い、マジマの方が適任ではないかと転嫁しようとしたキリュウだが、マジマでは威圧の力が強過ぎて不適当だと本人(・・)が首を横に振ったので、やむなく引き受ける形になった。それからはディアベルやマジマらのプロデュースの下、表情は こうだ、歩きは こうだ、雰囲気は そうだ だの、事細かに指示され、今に至る。

 何気に、マジマの やる気が凄かった記憶がキリトには あった。

 

 

 

「ディアベルの紹介に預かった、キリュウという者だ。よろしく頼む。こっちは、キリトだ」

 

 

 

 そうこう考えている内に所定の位置に着き、キリュウが演説を開始し始めた。その声1つ、ただ喋っただけにも かかわらず、人の心に直接 語り掛けるような不思議な力が宿っていた。

 紹介された事で軽く頭を下げたキリトだったが、やはり大勢の視線の中にいる所為か、思った以上に動きが固くなってしまったのを自覚する。心なしか、足も若干 竦んでいる。何だかんだで言われた通りに、否、それ以上に堂々としているキリュウに対して自分は何という体たらくだと、未だ人と面向かった事に対して弱い自分の体が恨めしくも思う。

 とはいえ、今は それを表に出すのは駄目だと気を取り直す。

 

 

 

「今回、俺達は無事に第1階層を突破する事が出来た。一緒に戦ってくれた仲間は勿論だが、この街に留まり、多くの人間を導いてくれた奴が、そして、それに従った人間がいてくれたからこその、憂いなき戦いだったと俺は思っている。改めて、礼を言う。本当に、ありがとう」

 

 

 

 そう言って、キリュウは深々と頭を下げた。

 自分の武功で居丈高な態度を取るでもなく、ただ ひたすらに仲間や見えない所で奮闘した者の力が大きいと言い、そして その偉丈夫を惜しげもなく曲げて礼を述べた。

 観客達、特に自分達は戦えないと密かに卑下する心を抱いていた者は、強い衝撃を受けた。感心 云々を通り越して、何故そこまで自分の腰を低く出来るのか不思議で仕方なかった。誰よりも誇れるのは、修羅場に自ら飛び込んだ彼等であるはずなのは明白なのに。

 だが、悪い気がしなかった。ベータテスターの招集を聞いてレクチャーを受けていた大半の初心者(ルーキー)。その中の ほとんどは、自らも戦うという果敢さよりも、明日をも知れぬ身で、何もしないよりはという日和見と大差ない者だった。そんな彼等を、キリュウは称えた。少なからぬ罪悪感を抱いていた者達にとって、彼の言葉は慰めになり得るものだった。

 

 

 

「だが、戦いは まだ始まったばかりだ。突破したと言っても、まだ最下層。上には、解放された第2層を合わせて99もの分厚い壁が立ちはだかっている。まだまだ、長い道のりになるだろう」

 

 

 

 まだまだ余談は許さないと、キリュウは戒めを籠めた口調で告げる。それに釣られるように、何人かの者は真上の天井(そら)を見上げる。初めてログインした時、そして あの忌まわしい日に痛いほど見上げた第2層の地()。それが、まだまだ続くのだ。突破を果たした人間の言葉で、それが如何に分厚く、遠い道のりなのか嫌でも考えさせられる。途方もないと言える遠さに、暗い表情を浮かべる者も少なくない。

 そんな彼等の気持ちを理解しているように、キリュウは更に言葉を重ねる。

 

 

 

「―――――― だが、俺達は それを1つ踏み越えた。

 

 確かに まだまだ長く、果てしない道になる。だが、決して越えられない道じゃあない。俺は、俺達は、今回の戦いを経て、それを実感した。

 

 俺達は……充分に戦い抜ける」

 

 

 

 キリュウは断言する。

 その揺るぎなき力強い言葉は、先の見えない未来に対し暗い考えが浮かんでいた者にとって、この上なく頼もしく、眩しく感じるものだった。

 

 

 

「その証拠に……ここにいるキリトは、今回の戦いで締めを決めてくれた人間だ。

 このゲームの経験者とは言え、その気になれば こんなに若い奴でも戦い抜く事が出来るんだ」

 

 

 

 キリュウの説明に、広場には驚きの声が上がる。キリュウの隣に立っていた為に只者ではないと直感していた者も多かったが、改めてキリトの立場や功績を耳にして驚きに包まれたのだ。

 事前に自分の紹介もあると聞いていたとはいえ、改めて皆の注目を集めた事で、キリトの心臓は痛い程に脈打ち始めている。

 

 

 

「ふむ、信じてない奴もいるようだな? だったら、証拠を見せてやる。キリト」

 

「は、はい!」

 

 

 

 好奇の視線の中に、疑いの眼差しがある事を直感していたキリュウは更なる一手を打つ。これも、事前に決めていた事だ。

 言われたキリトは、返事と共に くるりと観客から背を向け出した。不可解な行動に訝しがる面々。そんな視線を背中に感じながらも、キリトは悲鳴を上げたくなる自分の精神に喝を入れつつ、ゲーマー特有の集中力を発揮して右手でウインドウを操作する。

 

 そして、装備画面を開き、そこに“ あるアイテム ”の欄をタップする。

 

 

 刹那 ―――――― 皆、目の前に映った光景に、瞠目した。

 

 

 キリトが右手を下ろすのと同時に、彼の背中がブレ始めた。一瞬のブレの後、彼の姿に変化が訪れたのだ。

 

 丁度、その時に風が吹いた。

 

 その風で、キリトを覆うように現れた“ 布のような物 ”が靡く。

 

 それは、一着の黒いコートだった。肩に黒く塗装された革のような物で意匠が施されている以外、特に変わった所のないコートだ。

 だが、不思議と その姿は恐ろしいまでに映える姿に見えた。着ているのは、どこにでもいそうな少年だというのに、1枚 何かを羽織っただけで大衆の目を惹きつける程の魅力のようなものが加味されたのだ。

 着用が終わると、再びキリトが正面を向く。心なしか、彼の表情にも精悍さが増しているように感じる。錯覚だとも思えるし、違うとも思える。だが、何かが変わって見えるのは確実だった。

 

 

 

コート・オブ・ミッドナイト(宵闇の外套)。これが、キリトが1層のボスを倒して手に入れた装備だ。

 これは、ボスを直接 討った人間にしか与えられない、貴重なアイテムだそうだ。つまり、これを手にしているキリトは、紛れもなくボス討伐の一番手柄の持ち主だ」

 

 

 

 この場にいる人間は、街で売られている装備にも一通り目を通した者が ほとんどだ。その為、キリトが纏っているコートが、現時点で如何に貴重で高性能な物が、直感でも解った。

 

 その上で改めて、キリュウが言った事とキリトの姿を見て考えさせられる。

 経験者 云々の話を抜きにしても、現実なら中学生くらいの少年が一端の戦士の如しになれるのを目の当たりにして、まだ純粋にプレイヤーだった頃に持っていた“ 英雄への憧憬 ”が再び沸き上がって来たのだ。

 多くの人間が、その胸を強く高鳴らせる。理想と憧れ、現実と不安などが激しく揺れ合っている証左だった。

 

 

 

「だが最後まで行くには、これでも まだ力不足なのは否めない。

 

 だからこそ、俺達は改めて皆の力を借りたい。その為に、俺達は1つの節目を迎える事にする」

 

 

 

 キリュウの言葉に、後ろで控えていた他の面々が動き始めて2人の後ろへ立つ。

 演説以外に大きな動きを見せなかった中での全体の動きに、周囲は にわかに ざわつき始める。

 

 

 

 

 

 

 

「 今、この時をもって――――――攻略組(こうりゃくぐみ)の発足を宣言する!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、全てのプレイヤーに告げるようにキリュウは宣言した。

 

 

 

「俺達以下、約50名は今後も変わらず攻略を続ける。その中で、今後 俺達に協力してくれる人間を募りたい。共に戦ってくれる者、間接的に手助けしてくれる者、その手段は問わない」

 

「それから、この最下層を拠点に別のチームも作りたいと思っている。内容は、俺達 攻略組の後方支援、および全プレイヤーの最低限の生活を支える為の支援活動だ。

 この中に、ベータテスターからレクチャーを受けて来た人間もいるだろう。そのテスターをリーダーとして、今後 活動を行なおうと思う」

 

 

 

 キリュウに続くように、ディアベルが更なる説明を付け加える。ディアベルの言葉を聞き、最前列で聞いていたマスティルは、顔を見合わせて互いに力強く頷き合った。

 

 攻略組の発足、次いで後方支援活動の開始。

 次々と告げられる内容に、その場は見る見る内に熱を帯び始める。中には、予想も付かない事に戸惑いを浮かべる者も多い。だが、それ以上に現状を良い意味で変えられる可能性の登場に、自然と心が昂るのを感じる者が大半を占めていた。

 悪くない感触を感じ、キリュウは更に一手を投じんと言葉を続ける。

 

 

 

「皆の戸惑いは、俺にも充分 理解できる。正直、話した俺自身も どうすれば良いのか、未だに はっきりとは解っていない位だ。

 だが、さっきも言ったが、俺達は不可能とさえ思えた攻略の一歩を踏み出せた。だから、今すぐは無理でも必ず出来る。俺は、そう確信している。

 

 それに、何もしないでいるのは悔しいと思わないか? だったら、とことん抗ってみせよう

 

 

  ――――――――― 茅場(クソッタレ)にな」

 

 

 

 どうして、こんな事態になったのか。それは、実行犯である茅場以外は誰も解らない。

 解らないが、だからと言って何もしないのは犯人に屈する事も同義。ならば、現状を打破する為に立ち上がる。それが、せめてもの抵抗であると、キリュウは語った。

 その言葉は、沈んでいた者、または完全には浮かび切れていなかった者の心を強く引っ張り上げた。悲痛、悔恨、絶望に染まった彼等の心に、対抗、希望といった感情が沸き立つ。茅場に対する憎悪も、その感情の沸き立ちに一役買った。先に立ち上がった者がいるなら、それに続く事も出来ると前向きに考え出せたのだ。

 

 

 

「俺はやる!! やってやるぞぉ!!!」

 

 

 

 昂っていく広場の人間の言葉を代弁するように、1人の男が叫ぶ。

 その姿に、キリュウやキリトを始めとする数名は見覚えがあった。

 

 

 

「クライン!? クラインか!?」

 

「おぉ、キリの字! それにキリュウさんも、やってくれたんだな。信じてたぜ、俺ぁ!!」

 

 

 

 それは、キリトが(ここ)で別れ、そしてキリュウらが導いたクラインだった。彼の後ろには、彼と同年齢と思しき5人の男達の姿も見受けられる。おそらく、前に行っていた古い馴染みなのだろう。彼等も、突然 叫び出したクラインに戸惑う一方、他と同様に目を輝かせていた。

 

 

 

「俺も、レベリングをしてる最中だ。今は無理だが、いつか必ずお前ぇの横に並んでみせるぜ!!」

 

「良いのか……? 危険なんだぞ?」

 

「当ったり前ぇよ!! 俺達、親友だろ。親友(ダチ)が頑張ってるのに立たねえなんざ、男が廃るぜ!!」

 

「クライン……!」

 

 

 

 時と場合によってはクサいとも言われるだろう台詞を、クラインは恥ずかしげもなく言った。自分を未だに友と呼んでくれる事、そして必ず横へ並ぶと言う言葉に、キリトは胸が熱くなる思いだった。2人の関係をよく知るハルカとシリカは特に喜びを共感する。

 

 穏やかさと熱さが共存する空気が流れる中、クラインに続くように其処彼処で手を上げ、声を上げる者が現れ始める。一種の集団心理も働いたのか、その数は留まる所を知らないように増えていく。図らずも、クラインの友を想う心が最前線組、改め攻略組の望みを叶えた形となったのだ。

 

 

 

「フッ……案外、思っていた以上に事が運んだじゃねぇか。出来すぎな位だぜ」

 

「えぇ……正直、俺も驚いていますよ」

 

「ヒヒッ。これから、退屈せんで済みそうやなぁ」

 

 

 

 キリュウ、ディアベル、マジマが思い思いに言葉を紡ぐ。

 目の前に広がるのは、人の群れ。だが、先の見えない未来に絶望する弱弱しい姿は そこにはない。あるのは、たとえハッキリとした物は見えていなくとも、ひた向きなまでに現実と戦おうと決めた強い意志が宿っていた。中央広場の熱気は、最高潮と言える程に高まっていく。

 

 

 今ならば断言できる ―――――― そこにいるのは、誰もが一端の戦士であったと。

 

 

 

 

 

「みんな、本当にありがとう!! 最後に、改めて第1層 突破を祝い、キリュウさんに1つ、決めてもらおうと思う!!」

 

「え?」

 

 

 

 観衆に礼を述べるディアベルの言葉の中に聞き捨てならないものを聞いたキリュウは、聞いてないとばかりに呆気に取られた声を上げる。

 

 

 

「ここ最後の締めです。ここは一発、キリュウさん、お願いします!」

 

 

『 お願いします!! 』

 

 

 

 駄目押しとばかりに、ディアベル、そしてリンドやシヴァタを含めた他の面々までもが頭を下げて頼む。

 完全に出鼻を挫かれたキリュウは、内心ハメられたと悪態を吐きつつ、仕様がないと諦めて溜息を吐く。現に、マジマは ともかくハルカまでもディアベルの案に賛同する目を輝かせていたのだから、既に彼に断るという道はない。

 

 

 

「……はぁ……解った。だが、どうするかは俺が勝手に決めるぞ。文句も聞かねぇ」

 

「えぇ、それで結構です。さぁ、どうぞ」

 

 

 

 ディアベルの承諾に反対する者もいないので、話は すんなりと決まる。

 

 

 そして広場のほぼ全てのプレイヤーが注目する中、キリュウは咄嗟に浮かんだ行動を取った。

 

 

 

 

 

「 では ―――――― お手を拝借 」

 

 

 

 

 その言葉に、何人かモタつきながらも手を広げるポーズを取る。

 

 

 

 

 

 

 

「 祝おう(いよおぉ)~……… 」

 

 

 

 

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

  パンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 小気味良い音の波が、中央広場に木魂(こだま)する。

 

 

 

 

 

「 お疲れ様でしたぁ!!! 」

 

 

 

 

 

 最後に、拍手喝采で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷めやらぬ熱気の中、キリュウは ―――――― 攻略組は ―――――― プレイヤー達は万感の思いの中、感じた。

 

 

 

 

 

 全ては、ここからが“ 本番(はじまり) ”なのだと。

 

 

 

 

 






という訳で、遂に《 攻略組 》の発足と本格始動の開始です。

いやぁ、ここまで来るのに何と長かった事か……全ては、私の遅筆ゆえなのですが……何と言いますか、万感の思いです。
書き始めたのが3年半前、その間に既に9万近い閲覧を戴き、更にお気に入りも600にまで届こうとしております。私のような初心者の作品に関心を寄せ、中には更新の度に感想を戴ける方もいらっしゃって、本当に嬉しい限りです。
この場を借りて、改めて御礼申し上げます。これからも、当作品を楽しんで下さい。


次回は、ちょっとした小話的なものを書こうかなと。具体的には、《 ヒゲの秘密 》や《 ステゴロの極意 》、的な?
新キャラも含めて色々と考えておりますので、更なる更新をお楽しみ下さい。


それでは、またの日を。


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