機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-20「魔王VS勇者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼穹を切り裂くようにして迫る無数の閃光。

 

 その真っ只中に、

 

 迷う事なく身を躍らせる。

 

 次の瞬間、黄金の装甲は、放たれた全ての閃光を受け止め、そしてはじき返す。

 

「無駄よ!!」

 

 叫びながらリィスは、ビームキャノンを跳ね上げて反撃。自身に攻撃を加えて来るガルムドーガ一気に直撃を浴びせて撃墜する。

 

 黄金の装甲を持つテンメイアカツキは、一目で特機と分かる為、否が応でも敵の目を引く事になる。

 

 集中される砲火。

 

 しかしリィスは、ただの一瞬たりとも怯む事なく突撃して行く。

 

 向かってくる砲火を回避し、あるいはアマノハゴロモやヤタノカガミ装甲で弾きながら接近。抜き打ち気味に抜刀したビームサーベルで、怯む敵機を斬り飛ばした。

 

 現在、主力軍が不在のオーブ軍にあって、リィスの存在は正に切り札と言って良いだろう。

 

 プラント軍の方でも、その事に気付いているらしく、テンメイアカツキへと砲火を集中させつつある。

 

 だが、それらの火線を冷静に見据えつつ回避行動を行うリィス。

 

 海面すれすれで黄金の翼を羽ばたかせる。

 

 水蒸気爆発が起こす巨大ない水柱を尻目に体勢を立て直すと、ビームライフルとビームキャノンを斉射。向かってくるプラント軍機に痛烈なカウンターを喰らわせた。

 

 そんなリィスの活躍に触発された様に、他のオーブ軍機もまた、奮起したようにプラント軍へと立ち向かっていく。

 

《ヒビキ三佐に遅れるな!!》

《俺達の国を守るんだ!!》

 

 セレスティフリーダムやアストレイR、イザヨイと言った機体が次々とプラント軍へと襲いかかっていく光景が見える。

 

 皆、想いは同じである。

 

 国を守り、大切な人を守る。その為に武器を取り、危険な戦場へと躊躇わずに飛び込んでいけるのだ。

 

 そして、それはリィスも同様である。

 

「見ていて・・・・・・アラン」

 

 荒くなった息を整えながら、リィスは愛する男の名を呟く。

 

 アランはこれまで、自身の政治的能力を存分に駆使してオーブの為に戦ってくれた。

 

 ならば、今度は自分が彼の為に戦う番だった。

 

「行くよ!!」

 

 呼吸を整え、リィスは再び向かってくる敵機を睨み据える。

 

 その瞳にSEEDの灯を燈すと、まっすぐに自身の敵を見据えて突き進んでいった。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

 互いの翼が鋭く交錯する時、少年と少女は、お互いの激突が既に避けられないレベルの到達している事を認識していた。

 

 それはある意味、魂に刻まれた宿縁と呼んでもいいのかもしれない。

 

 互いの翼を羽ばたかせ、急速に距離を詰めるエターナルスパイラルとヴァルキュリア。

 

 片やオーブの魔王と恐れられ、猛威を振るい続けた少年。

 

 片や勇者と称えられ、誇りを胸に秘めたる少女。

 

 これまで幾度となく激突を繰り返してきたヒカル・ヒビキとクーヤ・シルスカは、この決戦の地にあって、ついに最後の激突に及んだ。

 

 接近と同時に、クーヤはヴァルキュリアの手にあるアスカロン対艦刀を鋭く振り抜く。

 

 その刃より繰り出される、ビーム刃が月牙の軌跡となって虚空を迸る。

 

 斬撃を遠距離攻撃として使用する事が出来るアスカロンの特性は、接近戦のみを考慮に入れて対応した場合、痛い目を見る事だろう。

 

 対して、ヒカルは斬撃が届くよりも早く、不揃いの翼を羽ばたかせて機体を翻し、迫る斬撃を回避した。

 

 だが、

 

「そこッ!!」

 

 クーヤは12枚の翼からドラグーンを、後背部のユニットから12基のファングドラグーンを射出、エターナルスパイラルへと差し向ける。

 

 弧を描くようにして一斉に向かってくる、24基の独立デバイス。

 

《来るよ、ヒカル!!》

「ああ、カノン!!」

「了解!!」

 

 レミリアのオペレートに従いヒカルが機体を操り、その間にカノンが攻撃態勢を整える。

 

 エターナルスパイラルの左翼から、4基のドラグーンが射出され迎撃位置に布陣、同時に本体に搭載されたビームライフルとレールガンを展開して構える。

 

 放たれる24連装フルバースト。

 

 ほぼ同時に、ヴァルキュリア側のドラグーンも砲門を開く。

 

 複数の火線が複雑に交錯する。

 

 次の瞬間、ヴァルキュリア側のドラグーンが2基、エターナルスパイラル側のドラグーンが1基、それぞれビームの直撃を受けて破壊される。

 

 しかし、その隙を逃さずクーヤは動いた。

 

 砲撃を行う中、待機させていた12基のファングドラグーンに指令を送り、一斉突撃させる。

 

「斬り裂け!!」

 

 先端部分にビーム刃を形成したファングドラグーンが、エターナルスパイラルへと迫る。

 

 その様子を見たヒカルは舌打ちすると、とっさに残っていた自身のドラグーンを回収しつつ後退。ビームライフルとレールガンを放ちながら、向かってくるファングドラグーンを迎撃する。

 

 3基のファングドラグーンが直撃を浴びて吹き飛ぶ中、ヒカルは更にエターナルスパイラルの腰から高周波振動ブレードを抜刀。続けて2基、斬り払う。

 

「まだまだァ!!」

 

 叫ぶクーヤ。

 

 その間にも、攻撃の手は緩めずドラグーンを操り続ける。

 

 ここで何としても、魔王を倒す。

 

 今日に至るまで、魔王を始めとしたテロリストの跳梁を阻止できなかったからこそ、この苦戦がある。

 

 そう考えているクーヤにとって、もはやヒカルを倒す事は人生において至上の命題と言っても過言ではなかった。

 

 再び攻撃位置に就くべく、エターナルスパイラルを包囲する態勢を取るドラグーン。

 

 しかし、それを見越してヒカルも動いた。

 

 スクリーミングニンバスとヴォワチュールリュミエールを展開するエターナルスパイラル。

 

 次の瞬間、比類ない加速を発揮してドラグーンの包囲網を強引に突破しにかかった。

 

 その際、ドラグーンとファングドラグーン各1基を跳ね飛ばす形で撃破しながら、ヒカルはヴァルキュリアへと迫る。

 

 同時にレールガンを展開、ドラグーンを操る事に腐心しているヴァルキュリアへ牽制の砲撃を加える。

 

「クッ!?」

 

 レールガンの直撃を浴びて吹き飛ばされそうになりながらも、クーヤはかろうじて踏みとどまる。

 

 そこへ、ティルフィング対艦刀を振り翳して迫るエターナルスパイラル。

 

「舐めるな、魔王!!」

 

 クーヤの叫びと共に、対抗するようにアスカロンを掲げて斬り結ぶヴァルキュリア。

 

 負けられないッ 負ける訳にはいかない。

 

 手にした大剣を振り翳しながら、クーヤは心の内で叫ぶ。

 

 自分には使命がある。

 

 議長の掲げる理想、統一された世界を実現し、平和を世にもたらす事。

 

 それまで、

 

「負けるわけには、行かない!!」

 

 振り抜かれるアスカロン。

 

 その刃より迸るビーム刃が、エターナルスパイラルへと迫る。

 

 しかし、それよりも早くヒカルは翼を翻して機体を上昇して回避。同時にレールガンを展開して斉射。追撃を掛けてくるヴァルキュリアを牽制する。

 

 直撃する砲弾をPS装甲で耐えながら、距離を詰めて斬り掛かるクーヤ。

 

 対抗するように、ヒカルもティルフィングを振るって迎え撃つ。

 

 魔王と勇者。

 

 ヒカルとクーヤ。

 

 少年と少女は、互いに譲れない意志を貫く為に、己の剣閃を交錯させるのだった。

 

 

 

 

 

 参戦当初、奇襲の効果も相乗されて快進撃を続けていたディバイン・セイバーズ。

 

 相対したのが二線級の月面都市自警団だった事もあり、その戦闘力を如何無く発揮して暴れまわり、一時は連合軍の戦線を分断するかというところまで持ち込む事に成功していた。

 

 腐ってもプラント軍最精鋭の部隊である。その実力に侮れない物がある事は確かだった。

 

 しかし、それも長くは続かなかった。

 

 やがて、事態に気付いたオーブ軍が救援に駆けつけるに至り、彼等の進軍は否が応でも停滞せざるを得なかった。

 

 装備と言う面では、フリーダム級機動兵器リバティで固めているディバイン・セイバーズの方が勝っている。

 

 しかし、オーブ軍は皆、これまで苦しい戦場を戦い抜いてきた精鋭達である。

 

 実力と言う面では、ディバイン・セイバーズに比べていささかも見劣りしなかった。

 

 次々と向かってくるオーブ軍の機体。

 

 それに対して、長大な実体剣を掲げたリバティが前へと出る。

 

「このッ 生意気なんだよッ お前等は!!」

 

 フェルドは叫びながら斬機刀を振り翳し、自身の正面でビームライフルを撃っているアストレイRを叩き斬る。

 

 更に、機体を振り返らせながら斬撃を繰り出し、背後から迫ろうとしていたイザヨイを斬り捨てた。

 

 単独では敵わないと見たオーブ軍は、フォーメーションを組んでフェルド機へと向かう。

 

 しかし、

 

「ハッ そんな物!!」

 

 飛んでくる火線を、鼻で笑いながら回避するフェルド。

 

 そのまま一気に距離を詰めながら斬機刀を振るい、自身に攻撃を仕掛けていたオーブ軍機を血祭りに上げる。

 

 このままフェルドの快進撃が続くかと思われた。

 

 その時、

 

 深紅の翼が、フェルド機に立ちはだかるようにして羽ばたいた。

 

 機体は、リバティと同じフリーダム級。

 

 しかし、その全身が鮮やかな赤に染め上げられている。

 

 アスランのセレスティフリーダムだ。

 

「これ以上は、やらせない」

 

 静かな声と共に、オオデンタ対艦刀を構えるアスランのセレスティフリーダム。

 

 その姿を見て、フェルドは舌打ちを漏らす。

 

「テメェ 真似してんじゃねェよ!!」

 

 フェルド機の斬機刀は日本刀のような形状をしている。その為、同じ日本刀タイプのオオデンタとは、形状が似通っているのである。

 

 振るわれる、実体剣。

 

 セレスティフリーダムはPS装甲を採用していない為、実体剣であっても充分な脅威である。

 

 しかし、アスランは慌てた様子も無く機体をバックさせ、フェルドの剣閃を回避する。

 

「逃がすかよ!!」

 

 後退するセレスティフリーダムを追って、更に距離を詰めようとするフェルド。

 

 しかし、それに対して、アスランはカウンター気味に蹴りを繰り出す。

 

 吹き飛ばされるリバティ。

 

「クソッ、まだだ!!」

 

 どうにか、体勢を立て直して剣を構え直すフェルド。

 

 しかし、

 

 そこへオオデンタを振り翳した深紅のセレスティフリーダムが斬り込んで来た。

 

 急降下するように加速を加えて突撃してくるセレスティフリーダム。

 

 その速度を前に、フレッドの反応は追いつかない。

 

「終わりだ!!」

 

 アスランの言葉と共に、振り下ろされるオオデンタ。

 

 対抗するように、フェルドも斬機刀を振り上げる。

 

 刃が交錯する。

 

 次の瞬間、

 

 フェルド機の斬機刀は半ばから折れ飛び、

 

 アスランのオオデンタは、リバティの機体を袈裟懸けに斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 向かってくるドラグーン。

 

 対抗するように、ミシェルもまた機体の各所に搭載されたドラグーンを放って迎え撃つ。

 

 交錯する両者。

 

 しかし、火力面ではミシェルの分は悪いと言わざるを得ない。

 

「僕の計算通りだな!!」

 

 勝ち誇るように言いながら、イレスはドラグーンを操り、ミシェルのセレスティフリーダムを追い詰めてく。

 

 ミシェルが放ったドラグーンは、次々と撃破され、火力は次第に弱まって行く。

 

「やれやれ、ちょっとばかりきついんじゃないの!!」

 

 冷や汗を滲ませながらも、辛うじて攻撃を回避するミシェル。

 

 だがその時、背後からも閃光が迸り、セレスティフリーダムを掠めていく。

 

 視線を向けて、ミシェルは舌打ちする。

 

 振り返った視界の中では自身にビームライフルを剥けながら接近してくる、4機のリバティの姿があった。

 

 どうやら、いつの間にか追い込まれていたらしい。イレスの攻撃は、ミシェルを味方の布陣した場所まで追い込むことが目的だったようだ。

 

「計算通りだと言っただろう!!」

 

 勝利を確信したイレスが、高らかに叫びながら、一気に攻勢を強める。

 

 激しさを増す攻撃。

 

 それに対して、ミシェルは防戦一方にならざるを得ない。

 

 前にはイレスが布陣してドラグーンでの包囲網を狭め、背後からは4機のリバティが牽制の攻撃を仕掛けて来る。正に、進退窮まった状態だ。

 

 ここぞとばかりに、火線が集中される。

 

 徐々に狭められる回避スペース。

 

 ビームが、次々と機体を掠めていく。

 

「クソッ!?」

 

 舌打ちしながら、シールドを掲げて防御の姿勢を取るミシェル。

 

 対して、イレスは勝利の笑みを浮かべた。

 

 次の瞬間、

 

 接近を図ろうとしていたリバティが2機、立て続けに直撃を浴びて吹き飛ばされた。

 

「な、何ィ!?」

 

 驚愕するイレス。

 

 そんな彼の目の前で、リバティの爆炎を突くようにして、2機のモビルスーツが飛び出してきた。

 

《今の内に体勢を立て直せ、ミシェル!!》

《援護する。こっちはまかせろ》

 

 ムウのゼファーと、レイのエクレールが、それぞれドラグーンを放ちながら、別々のリバティへと向かっていく。

 

 こうなると、いかにディバイン・セイバーズの隊員と言えども、イレスを援護するどころではなくなってしまう。

 

 何しろ、ムウとレイは歴戦のエースである。片手間で相手をできるほど、安い相手ではない。ミシェルに対する包囲網を解いて、各々の相手に傾注せざるを得なかった。

 

 その間にミシェルは、イレスのリバティに狙いを定めて突撃して行く。

 

 対抗するように、イレスもドラグーンを自機の周囲に展開して迎え撃つ。

 

「舐めるなよッ 味方がいなくたって、僕1人でも!!」

 

 一斉に放たれる砲撃。

 

 しかし、

 

「もう、そいつは見切った!!」

 

 鷹の息子は、猛禽の如き瞳を輝かせて、ドラグーンの放つすべての軌跡を見極める。

 

 1発がセレスティフリーダムの翼を直撃して吹き飛ばすがミシェルは、バランス回復をOSに任せて構わず突撃する。

 

 その間にミシェルも、残っているドラグーンを射出して砲撃を行い、イレス側のドラグーンを牽制する。

 

 迫るセレスティフリーダム。

 

 その姿に、イレスは明らかに怯みを見せる。

 

 まさか、ドラグーンの高火力による弾幕を突破して、自身に迫ってくるとは思ってもみなかったのだ。

 

「ま、まだッ!!」

 

 慌ててビームライフルを引き抜き、反撃しようとするイレス。

 

 しかし、その前にミシェルは斬り込んだ。

 

「遅いんだよ!!」

 

 抜き放たれるビームサーベル。

 

 対してイレスは、反撃しようと後退を掛けるが、既にその時には遅かった。

 

 次の瞬間、セレスティフリーダムの剣は、リバティに真っ向から突き込まれた。

 

 

 

 

 

「このッ こいつ、何で!!」

 

 焦ったように砲火を放つカレン。

 

 その視線の先には、炎の翼を広げて自身に向かってくる白い機体の姿がある。

 

 しかし、先ほどから放っているカレンの攻撃は、その機体に対して1発の命中弾も売る事が出来ない。

 

 火力では圧倒している筈なのに、照準を巧みにずらされているのだ。

 

「腕前はなかなかみたいだけど、まだ甘いね」

 

 ヴァイスストームを駆るラキヤは、そう言って更に加速する。

 

 カレンのリバティが放つ砲撃は、尚も鋭さを増してヴァイスストームへと攻撃を行ってくるが、瞳にSEEDの輝きを宿したラキヤは、聊かも速度を緩めることなく突撃して行く。

 

「このッ 来るなァ!!」

 

 焦って砲撃を行うカレン。

 

 対してラキヤは、カレン機の放つ攻撃を、沈み込むようにして回避。同時に、ライフルモードのレーヴァテインを素早く二射する。

 

 正確な照準の下に放たれる攻撃。

 

 その攻撃により、リバティの手にあったビームライフルが吹き飛ばされる。

 

「そんなッ!?」

 

 自身の攻撃が全く通用せず、逆に攻撃を受けた事で動揺するカレン。

 

 その間にラキヤは、搭載したドラグーンを射出してカレン機に波状攻撃を仕掛ける。

 

「このッ まだ!!」

 

 我に帰るようにして、残った火力を集中させるカレン。

 

 その攻撃が、ラキヤのドラグーン3基を吹き飛ばした。

 

「これで!!」

 

 爆発するドラグーンの爆炎を見て、まだ行けると確信するカレン。

 

 相手がいかに強力であろうと、自分は精鋭部隊の隊員なのだ。絶対に侵略者に屈したりするものか。

 

 カレンは強い想いで、自身を奮い立たせる。

 

 しかし次の瞬間、

 

 急速に、自機に接近する機影をセンサーが捉え、カレンは愕然とした。

 

「悪いけど、これで終わりだ」

 

 ラキヤの静かな声と共に、対艦刀モードのレーヴァテインを高く掲げるヴァイスストーム。

 

 ドラグーンによる攻撃は初めから囮。

 

 カレンがドラグーンに注意を向けている隙に、ラキヤはカレンの死角へと高速で回り込んでいたのだ。

 

「そんなッ!?」

 

 とっさに逃れようとするカレン。

 

 しかし、ラキヤはそれを許さなかった。

 

 後退するリバティに、急追するヴァイスストーム。

 

 振り下ろされたレーヴァテインが、真っ向からリバティの機体を斬り下ろした。

 

 

 

 

 

 鋭い槍裁きが、1機のセレスティフリーダムを刺し貫いて屠る。

 

 その剛腕から繰り出される一撃は、旋風のように吹きすさび、オーブ軍に死と破壊をまき散らしていた。

 

 カーギル率いるディバイン・セイバーズ第1戦隊は、プラント軍精鋭の中で頂点に立つ、正に最強の中の最強と呼ぶにふさわしい部隊である。

 

 その戦闘力は凄まじく、さすがのオーブ軍も手を付けかねている様子だ。

 

 特に、部隊長であるカーギルの存在は群を抜いており、槍を振るい続ける姿は鬼神の如しと言って良かった。

 

 今もまた、1機のアストレイRがロンギヌスの直撃を受けて爆散する様子が見られた。

 

「ここは行かせんッ 議長の理想を守るため、貴様等テロリストは、全てこの場で成敗する!!」

 

 叫ぶように言いながら、突撃して行くカーギルのリバティ。

 

 そんな隊長に触発されたように、攻勢を強める第1戦隊。

 

 このままオーブ軍を押し返しに掛かるかと思われた。

 

 その時、

 

 4枚の炎の翼を羽ばたかせながら、流星の如く切り込んできた機体があった。

 

 手にした大剣が鋭く振るわれ、1機のリバティが袈裟がけに斬り飛ばされる。

 

 誰もが緊張を漲らせる中、

 

 シン・アスカは、ゆっくりとギャラクシーを振り返らせた。

 

「どうやら、こいつらが最強みたいだな」

 

 静かな呟きと共に、ドウジギリ対艦刀を掲げるシン。

 

 敵が最強であるなら、自分が相手をしなくてはならなかった。

 

 対して、カーギル達も緊張の眼差しをギャラクシーに向ける。

 

 オーブの守護者シン・アスカ。

 

 その存在は、ある種の恐怖と共にプラント軍にも伝わっている。

 

 その力は1個軍を遥かに凌駕し、いかなる劣勢をも覆す圧倒的な力の持ち主である、と。

 

 並みのパイロット程度では、掠り傷すら負わせる事はできないだろう。

 

「下がれ!!」

 

 次の瞬間カーギルは、部下に指示を飛ばしながら、自身はロンギヌスを手にして飛び出していく。

 

「こいつの相手は俺がするッ」

 

 絶対的なエース相手に、多人数で掛かっても損害を増やすだけである。ならば、カーギル以外にシンの相手が務まる者は存在しない。

 

 相手が最強なら、自分も最強であるという自負がカーギルにはある。負けるつもりは毛頭なかった。

 

 鋭く突き込まれる槍の一閃。

 

 その攻撃を、シンは炎の4翼を羽ばたかせて機体を上昇させ回避。同時に、自身もドウジギリを肩に担ぐようにして構える。

 

「来るかッ!!」

 

 鋭く放たれるカーギルの声。

 

 同時にシンはギャラクシーを加速させる。

 

 一気に詰まる距離。

 

 ギャラクシーがドウジギリを、リバティがロンギヌスを構える。

 

 大剣と大槍が同時に振るわれる。

 

 互いの刃が互いの機体を掠め、シンとカーギルの視線がカメラ越しに交錯する。

 

 同時にスラスターをふかして距離を取る両者。

 

 シンは機体を振り返らせると、ギャラクシーの右手にビームライフルを装備、カーギルのリバティに背後から攻撃を仕掛ける。

 

 迫る閃光。

 

 対して、カーギルもとっさに機体を振り向かせると、ビームシールドを展開してギャラクシーの攻撃を防いだ。

 

 その様子を見ながら、更に斬り込みを掛けようとするシン。

 

 しかし、そこへ、横合いからビームが飛来してギャラクシーの行く手を阻む。

 

《隊長、下がってください!!》

《そいつは、我々が!!》

 

 複数のリバティが、ギャラクシーに対してビームライフルを放ちながら向かってくる。

 

 対してシンは、後退しながら攻撃を回避していく。

 

 放たれる閃光が、徐々にギャラクシーを追い込んで行く。

 

《今だ、このまま押し込め!!》

 

 笠に掛かって攻め込んで来ようとするディバイン・セイバーズの隊員達。

 

 しかし次の瞬間、

 

 彼等の目の前で、炎の4翼が羽ばたいた。

 

「行くぞッ!!」

 

 一気に機体を振る加速させるシン。

 

 ディバインセイバーズの隊員達は、ギャラクシーの機動力に対応すべく、慌てたように照準を修正しにかかる。

 

 しかし、遅い。

 

 光学幻像を利用して照準を狂わせ、一気に接近を図るシン。

 

 同時に、ギャラクシーの両肩からウィンドエッジを抜き放ち、サーベルモードにして構える。

 

 砲撃は尚も激しく迸る。

 

 ライフルの攻撃だけでは埒が明かないと思ったのか、リバティはフルバーストモードに移行して弾幕を張り巡らせてくる。

 

 しかし、シンにとっては、その程度の攻撃は物の数に入らない。

 

 全ての攻撃を回避して接近すると。両手のウィングエッジを高速で振り抜く。

 

 複雑な軌跡を描く剣閃。

 

 次の瞬間、ギャラクシーに対して砲撃を行っていたリバティは、全てシンの放つ剣によって斬り捨てられて戦闘力を失う。

 

「おのれッ!!」

 

 部下達が一瞬にして倒される様子を見て、激昂したように槍を振り翳すカーギル。

 

 対してシンは、ギャラクシーの両手に装備したウィンドエッジを、ブーメランモードにして投擲する。

 

 旋回しながらリバティへと向かうウィンドエッジ。

 

 対して、

 

「そんな物で!!」

 

 カーギルはロンギヌスを鋭く振るい、2基のウィンドエッジを同時に振り払った。

 

 打ち砕かれるブーメラン。

 

 その間にも、カーギルは動きを止める事無く、ギャラクシーへと向かっていく。

 

 対抗するようにドウジギリ対艦刀を構え直すシン。

 

 仕掛けたのは、カーギルの方が早かった。

 

 鋭く放たれる槍の一閃。

 

 その穂先が、ギャラクシーを真っ向から捉えた。

 

 次の瞬間、

 

 貫かれたはずのギャラクシーの姿が、幻のように消え去った。

 

 シンはカーギルの動きを完全に見切り、残像を利用した回避戦術をあらかじめ行っていたのだ。

 

 ドウジギリ対艦刀を、水平に構えて迫るギャラクシー。

 

 その姿を見て、狼狽を見せるカーギル。

 

「ウオォォォォォォォォォ 馬鹿な!?」

 

 とっさに後退しようとするが、

 

 既に遅い。

 

 次の瞬間、

 

 シンの放った鋭い斬撃が、リバティの胴体を真っ向から斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 ヤキン・トゥレース要塞の指令室で、アンブレアス・グルックは頭髪を掻きむしりながら絶叫する。

 

 絶望的な光景が、そこには展開されていた。

 

 グルックにとっての切り札。

 

 世界最強と自負し、これまで心血を注いで整備してきたプラント最高評議会議長特別親衛隊ディバイン・セイバーズが、

 

 今まさに、彼が見ている目の前で壊滅しつつあった。

 

 既に第1戦隊長カーギル・レストをはじめ、隊長クラスの人間はほぼ全滅に近く、全体としての戦力も7割近くを失い、ディバイン・セイバーズの組織的戦闘力は完全に喪失している。

 

 まだ、個々に抵抗を試みている者達はいるが、それもいつまで続くか判った物ではなかった。

 

 オーブ軍が思っていたよりも強かったのか、あるいは、ディバイン・セイバーズが思っていたよりも弱かったのか。

 

 いずれにしても、運命は旦夕に迫りつつあった。

 

「そうだッ」

 

 グルックはそこで、何かを思い出したように叫んだ。

 

「クーヤは・・・・・・あの小娘はどうした!?」

 

 グルックはこれまで、クーヤ・シルスカに対して特に優遇措置を取って来た。こんな時こそ働いて貰わない事には、元が取れない事甚だしいではないか。

 

「現在、敵機と交戦中です!!」

 

 ややあって齎されたオペレーターの報告に、クーヤが取りあえず健在である事を知り、グルックは気を落ち着かせる。

 

 とは言え、切り札であるクーヤの存在が、戦局に対して聊かも寄与していない事には切歯扼腕したくもなる。

 

 ともかく、これで本当にクーヤの存在が、グルックの中では最後の切り札となってしまった事だけは間違いなかった。

 

 

 

 

 

「クッ みんなが!!」

 

 味方の反応が次々と消えていくさまに、クーヤは焦りを覚えずにはいられなかった。

 

 このままでは負けてしまう。

 

 負ける?

 

 誰が?

 

 自分達が?

 

「そんな、馬鹿な!!」

 

 言い放ちながらファングドラグーンを、エターナルスパイラルに向けて突撃させつつ、残ったドラグーンを砲撃位置に誘導する。。

 

 ここに至るまでにエターナルスパイラル、ヴァルキュリア、双方ともに消耗が激しい。

 

 ヴァルキュリアの持つドラグーンも、残り僅かだった。

 

 対して、ヒカルはビームライフルとレールガンのみで、向かってくるドラグーンを迎え撃つ。こちらはすでに、4基のドラグーンを使い切っている状態である。

 

 放たれる砲撃。

 

 OSとしての役割を果たすレミリアのアシストにより、消耗して尚、正確な照準は、向かってくるドラグーンを次々と撃ち落としていく。

 

「これで!!」

 

 気合と共にビームライフルを斉射するヒカル。

 

 その一撃が、向かってくる最後のドラグーンを叩き落とした。

 

 これで、双方ともにドラグーンは全滅。

 

 後は、互いの操縦技術のみが勝敗を決する事になる。

 

「まだよッ」

 

 ドラグーンによる攻撃が失敗に終わった事を悟り、クーヤはヴァルキュリアの背部からアスカロンを抜き放って斬りかかる。

 

 対抗するように、ヒカルもティルフィングを抜いて迎え撃つ。

 

 エターナルスパイラルに向けて、複列位相砲とレールガンによる砲撃を浴びせるクーヤ。

 

 対してヒカルは不揃いの翼を羽ばたかせると、機体を急降下させるようにして攻撃を回避、

 

 同時に、上下視界がさかさまの状態で展開したレールガンで牽制の砲撃を浴びせる。

 

 しかし、クーヤもまた負けてはいない。

 

 エターナルスパイラルの攻撃を全速力で回避しつつ、アスカロンを振り翳して斬り込んでいく。

 

「魔王ッ 今日こそお前を!!」

 

 振り抜かれる大剣。

 

 切っ先からほとばしるビーム刃。

 

 その攻撃を紙一重で回避しつつ、速度を緩める事無く、真っ直ぐに向かっていくヒカル。

 

 ティルフィングを振りかぶるエターナルスパイラル。

 

 対して、ヴァルキュリアも再度アスカロンを構え直して迎え撃つ。

 

 互いの剣が虚空を切り裂くようにして交錯する。

 

 斬撃は、互いを捉える事無く空を切る。

 

 高速ですれ違う両者。

 

 同時に、機体を振り向かせたクーヤがアスカロンを振り抜き、エターナルスパイラルに追撃を浴びせる。

 

 対して、ヒカルは機体を上昇させてクーヤの攻撃を回避。同時にレールガンを斉射して牽制する。

 

 お互い、遠距離からの攻撃では決定打を奪えない。

 

 そう判断した両者は、再び距離を詰める。

 

 1歩も引かずに剣を振るう魔王と勇者。

 

 互いに手にした剣が、火花を散らす。

 

 ティルフィングとアスカロン。

 

 片や、三度振るえば持ち主を滅ぼすと言われる呪われし魔剣。

 

 片や、龍殺しを成し遂げた勇者が振るいし聖剣。

 

 その伝説の名に恥じない力を、二振りの剣は互いの主に与え続ける。

 

 クーヤはアスカロンを肩に担ぐようにして構える。

 

 ビーム刃による遠距離攻撃を仕掛けて来る気なのだ。

 

 対して、デルタリンゲージ・システムのアシストにより、動きを先読みして回避運動に入る。

 

 だが、

 

「そこだァ!!」

 

 予想を裏切る形で、クーヤはスラスターを全開にして斬り込んでくる。

 

「なッ!?」

「ウソでしょ!?」

《そんな!?》

 

 狼狽するヒカル、カノン、レミリアの3人。

 

 まさかデルタリンゲージ・システムの未来予測をも上回るとは、思ってもみなかったのだ。

 

 そんな3人の隙を突く形で、ヴァルキュリアが斬り込んでくる。

 

 とっさにシールドを展開して掲げるヒカル。

 

 そこへ、クーヤは容赦なく刃を振り下ろす。

 

 実体剣の刃はビームシールドを透過して、エターナルスパイラル本体に襲いかかった。

 

 凄まじい衝撃がコックピットを襲う。

 

《「キャァァァァァァ!?」》

 

 レミリアとカノンが悲鳴を上げる中、必死に機体を立て直そうとするヒカル。

 

 そこへ、

 

《これで終わりッ 世界の礎となって死になさい、魔王!!》

 

 クーヤがオープン回線で叫びながら、ヴァルキュリアがアスカロンを振り翳して斬り込んでくる。

 

 対して、辛うじて体勢を立て直す事に成功したヒカルも、ティルフィングを構え直すと、不揃いの翼を羽ばたかせる。

 

「世界の礎、だって!?」

《あなた達のようなテロリストが、世界を狂わせるッ 議長の理想がッ 統一された素晴らしい世界が、なぜ理解できない!!》

 

 間合いに入ると同時に振るわれる、ヴァルキュリアの斬撃。

 

 その攻撃を、ヒカルは一瞬早く飛び退く事で回避する。

 

《もっと現実を見なさいッ 今この世界には争いが満ち溢れているッ だから一刻も早く統一する事が必要だ!!》

 

 更に追撃を掛けるべく、胸部の複列位相砲をエターナルスパイラル目がけて真っ向から放つクーヤ。

 

 対してヒカルは、ビームシールドを展開して防御。襲い掛かる衝撃に辛うじて耐える。

 

《でも、お前達のようなテロリストがいるから、世界はいつまでも乱れたままだ!!》

 

 そうだ。

 

 こいつ等が悪い。

 

 こいつ等のような悪逆非道なテロリストが世を乱し続ける限り、人々は惑わされ、いつまで経っても統一された世界の平和は訪れない。

 

 だからこそ、議長は世界を統一しようと頑張っている。

 

 議長の敵を倒し、彼の理想とする世界を実現する為に戦い続ける事こそが、自分達ディバイン・セイバーズの使命であり、誇りなのだッ

 

 クーヤは強い意志を、改めて胸に秘める。

 

 次の瞬間、

 

「ふっざけんなァァァァァァッ!!」

「《キャッ!?》」

 

 突然、ヒカルが大音声で叫びを発する。

 

 その凄まじい声音に、思わずカノンとレミリアが悲鳴を上げたほどである。

 

《なッ!?》

 

 ヒカルがぶつけた叫びが、クーヤを直撃して怯ませる。

 

《な、何を・・・・・・》

「何が統一だッ 何が現実を見ろだッ 一番現実を見ていないのは、お前らだろうが!!」

 

 ヒカルの胸の内から、激情が奔流となって噴き出すのが判った。

 

 今、ヒカルは、目の前の連中、それこそディバイン・セイバーズを含め、アンブレアス・グルックに連なる全ての者達の本質が、はっきりと見えた気がした。

 

 彼等は要するに「ヒーローごっこ」がしたいだけなのだ。

 

 自分達が正義の味方となり、悪の組織であるテロリストを対峙する。そんなシナリオが、頭の中で最初からでき上がっているのだ。

 

 断わっておくと、ヒカル自身は「戦場におけるヒーロー性」を頭から否定する気はない。戦場に置いてはしばしばヒーローが必要になる瞬間はあるし、ヒカルも、その役を負った事は何度もあった。

 

 だが、「戦場におけるヒーロー」と「ヒーローごっこ」では天地の開きがある。そして、クーヤ達がやっているのは、明らかに後者のそれだった。

 

 ようは、必要に迫られ、仲間を助け鼓舞する為にヒーロー役を演じざるを得なかったヒカル達と、自分達が初めからヒーローとなって賞賛と喝采を浴びたかっただけのクーヤ達。

 

 そこには、天地の開きが存在する。

 

 そう言う意味で、世界は彼らにとって格好の遊び場、言ってしまえば公園の砂場のような物だったのだ。

 

 しかも、彼女達の「お遊び」には、人の命や命運がかかっている事を考えれば、決して許される事ではないだろう。

 

 現実を見ろ、とクーヤは言うが、実際には彼女自身が何も見ていない。

 

 故郷を失って悲しむ人々も、

 

 自分達の誇りを取り戻すべく戦う戦士達も、

 

 保安局の杜撰な捜査で、不当に逮捕される一般市民達も、

 

 家族を失って悲しむ妻や子供達も、

 

 不況によって職を失い、路頭に迷うプラント市民達ですら、彼女達の眼には入っていないのだ。

 

 そして、自分達に反対する勢力を勝手に「テロリスト」と決めつけて、一方的に断罪する。

 

 要するに、ただ映りの良い鏡に映った自分達の姿を、ナルシスティックに自画自賛して悦に浸るだけの存在なのだ、彼女達は。

 

 そんな浅ましい精神の連中がディバイン・セイバーズを始めとしたグルック派の連中である。

 

《そんな・・・・・・そんな事はッ!!》

「なら、答えてみろよッ お前達の目指す世界の中で、誰が幸せになれるって言うんだ!!」

 

 反撃に転じるヒカル。

 

 グルックの目指す「統一された世界」とやらが、本当に平和で理想的であるならば、多くの人間が幸せになっていなくてはいけない。

 

 しかし現実には、彼の行った政策によって世界各地で多くの死者が出ており、その数倍の人間が不幸になっている。

 

 グルックがやった事は、世界を統一するどころか、ただいたずらに戦火の種を世界中にばらまいただけだった。

 

 エターナルスパイラルを駆って急速に接近すると、ティルフィング対艦刀を鋭く振るう。

 

 対して、クーヤはヴァルキュリアを辛うじて後退させる事で、剣閃を回避しながら、反論を試みる。

 

《それは、お前達テロリストがやった事だ!!》

「何がテロリストだ!!」

 

 クーヤの言葉を、ヒカルは正面からバッサリと切り捨てる。

 

 同時に振るったティルフィングの一閃が、アスカロンの刀身を半ばから真っ二つに叩き折る。

 

 テロリスト

 

 考えてみれば、たった5文字の言葉の何と軽い事か。この、たった5文字の言葉だけで、対峙する相手を悪の権化に仕立て上げる事が出来るのだから。

 

 相手がどんな存在で、どんな事情があって、何を考え、何を目的にして戦っているのか、考えようとすらしなくて良いのだから。

 

 後は「正義」である自分達が、「悪のテロリスト」を圧倒的な力で「退治」するだけ。これほど楽な事は無いだろう。

 

《クッ!?》

 

 舌打ちしながらクーヤは、アスカロンの柄に手をやり一気に引き抜く。

 

 すると、アスカロンの柄尻部分が外れてグリップ状になり、同時に先端からビーム刃を形成、ビームサーベルを発振する。つくづく、ギミックの多い剣である。

 

 再び、ヴァルキュリアを駆ってエターナルスパイラルへと向かっていくクーヤ。

 

 対抗するように、ヒカルはエターナルスパイラルの肩からウィンドエッジを抜き放つと、ブーメランモードにして投擲する。

 

 旋回しながら飛翔するブーメラン。

 

 その刃を、クーヤはビームサーベルで弾き飛ばす。

 

 そこへ、エターナルスパイラルがティルフィングを振り翳して斬り込んできた。

 

 クーヤはとっさに、ヴァルキュリア左手のパルマフィオキーナを発動してエターナルスパイラルに襲いかかる。

 

 光を纏ったヴァルキュリアの腕が、エターナルスパイラルの胸部装甲を掠める。

 

 一瞬、攻撃に傾注したクーヤの動きが止まる。

 

 その隙を逃さず、ヒカルは動いた。

 

「テロってのは、誰からも認められない連中が、話を聞いてもらえないから、暴力で物事を解決しようっていう意味だ!!」

 

 追い詰めるヒカル。

 

 エターナルスパイラルが振るうティルフィングが、ヴァルキュリアの右腕を肩から切断する。

 

「じゃあ、お前らのやってる事はどうだ!?」

 

 とっさに繰り出されたヴァルキュリアの左腕のパルマフィオキーナ。

 

 対してヒカルは、ティルフィングをとっさにパージすると、パルマエスパーダの刃でヴァルキュリアの左手首を切断する。

 

「世界中に戦火をまき散らしてッ」

 

 胸部の複列位相砲で反撃を試みるクーヤ。

 

「苦しんでる人達を無視して!!」

 

 それよりも一瞬早く、ヒカルはゼロ距離からレールガンをヴァルキュリアの胸部に浴びせ、誘爆を起こし砲門を潰す。

 

「多くの人達を犠牲にしてッ!!」

 

 抜刀したエターナルスパイラルのビームサーベルが、ヴァルキュリアの両翼を斬り飛ばす。

 

 最後のあがきとばかりに、レールガンを放つクーヤ。

 

 しかし、その攻撃を回避して、ヒカルは一気に距離を詰める。

 

「テロリストは、お前達の方だろうが!!」

 

 突き込まれる、エターナルスパイラルの左腕。

 

 パルマフィオキーナが、ヴァルキュリアの頭部を破壊する。

 

 ヴァルキュリアのコックピットが暗転し、衝撃が機体を突き抜ける。

 

 勝敗は、決した。

 

 

 

 

 

PHASE-20「魔王VS勇者」      終わり

 


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