機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

98 / 104
PHASE-19「ジダイの力」

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍々しき巨体が虚空を薙ぎ払うたび、その凶兆とも言うべき姿が恐怖を撒き散らす。

 

 あらゆる物を破壊し尽くすが如き姿は、それだけで竦み上がる思いである。

 

 だが、そんな禍々しき存在を、赤の騎士が鋭い機動性を発揮して翻弄していた。

 

 アステルのギルティジャスティスは、突撃しながら背中のリフターを射出。ゴルゴダに砲撃を加えつつ、自身も刃を構えて接近を図る。

 

 対して、ゴルゴダを操るリーブス兄妹は、巨体に備えられた全砲門を開いて、向かってくるギルティジャスティスを迎え撃とうとする。

 

 迸る砲撃が、虚空を薙ぎ払う。

 

 しかし、

 

「当たるか」

 

 低い声に嘲りを込めて、アステルはゴルゴダから放たれた全ての攻撃を旋回しつつ回避、鋭いターンを決めながら一気に距離を詰めに掛かる。

 

 接近するギルティジャスティス。

 

 接近と同時に、アステルは逆袈裟にビームサーベルを振るう。

 

 放たれたギルティジャスティスの斬撃は、しかし、それよりも一瞬早く、フレッドが陽電子リフレクターを起動した為、光の障壁によって阻まれる。

 

 攻撃失敗を悟ったアステルは舌打ちしつつ機体を後退させる。同時に呼び寄せたリフレクターと合体し、その場を飛び退く。

 

 反撃の砲火がギルティジャスティスの足下を掠めて通り過ぎたのは、その1秒後の事だった。

 

《このッ チョロチョロとウザったい!!》

《フィリア、いったん分離だ!!》

 

 アステルの巧みな機動の前に苛立ちの声を上げていたフィリアだったが、フレッドの指示に従い、いったん攻撃を中断。ゴルゴダはGアルファとGベータに分離する。

 

 そのままリーブス兄妹は左右に展開、後退しながら体勢を立て直しているギルティジャスティスを挟み込もうとする。

 

 しかし、それに対応するアステルも素早かった。

 

 リフターを再射出してGベータを砲撃、動きを牽制すると同時に、自身はギルティジャスティスの本体を駆ってGアルファへと向かっていく。

 

《来るかッ!!》

 

 接近するギルティジャスティスに対し、Gアルファの両手にビームクローを展開して迎え撃つフレッド。

 

 虚空を掴むように振るわれるGアルファの腕。

 

 しかし、アステルはその攻撃をあっさりと潜り抜けると、脚部のビームブレードで鋭く蹴り上げる。

 

 迸るビーム刃。

 

 その一撃で、Gアルファの前面装甲が、リフレクター発生装置ごと斬り裂かれる。

 

《クソッ!!》

 

 舌打ちしながら、反撃の砲火を撃ち放つフレッド。

 

 しかし、殆ど零距離から放たれた攻撃を、アステルはあっさりと回避。再びビームサーベルを振るってくる。

 

「クッ フィリア!!」

 

 1機では埒が明かないと踏んだフレッドはスラスターを全開にして距離を置きつつ、再びフィリアを呼び寄せて合体シークエンスを実行する。

 

 追うアステル。

 

 だが、その前にGアルファとGベータは合体を果たす。

 

 再び姿を現すゴルゴダの威容。

 

 その4本の巨大な腕が唸りを上げて向きを変え、ギルティジャスティスへと狙いを定めて迫ってくる。

 

 再び、強烈な砲火がギルティジャスティスに容赦なく浴びせられる。

 

 だが、

 

「勝負を掛けるぞ」

 

 自身に向かってくる火線を冷静に見極めながら、アステルは低く呟く。

 

 同時にギルティジャスティスの方からウィンドエッジを抜き放ち、ブーメランモードで投擲した。

 

《はッ そんな物で!!》

 

 飛んでくるブーメランを見据え、嘲笑を滲ませながら砲撃を浴びせるフィリア。

 

 吹き飛ばされるブーメラン。

 

 この程度の攻撃で、このゴルゴダを打ち破る事などできはしない。

 

 そんな嘲笑が、聞こえてくるようだった。

 

 しかし、次の瞬間。

 

《いかん、フィリア!! よけろ!!》

 

 焦りを含むフレッドの警告。

 

 次の瞬間、飛来した2つめのブーメランが鋭く回転しながら迫り、ゴルゴダ正面のリフレクター発生装置を斬り裂いて行った。

 

 アステルは1つ目のブーメランが弾かれるのを予測し、予め2つのブーメランを放っていたのだ。

 

 機体正面が、完全に無防備になるゴルゴダ。

 

 そこへ、勝負を掛けるべくアステルが迫る。

 

《このッ 生意気!! チビのくせに!!》

 

 フィリアの叫びと共に、放たれる強烈な砲撃。

 

 しかし、それらがギルティジャスティスを捉える事はない。

 

 アステルは、その鋭い眼差しで飛んでくる閃光を冷静に見極め、自身の接近コースを正確に割り出す。

 

 逆にギルティジャスティスが放つビームライフルで反撃を喰らい、3つの砲門を潰されるゴルゴダ。

 

 弱まった火力をすり抜け、赤き騎士はゴルゴダに急迫する。

 

 ビームサーベルを抜き放つギルティジャスティス。

 

「覚悟しろ。俺はあいつほど、甘くも優しくも無いぞ」

 

 冷静冷徹な呟きと共に、振り翳される剣閃。

 

 その様に、

 

「ヒッ!?」

 

 フィリアが、思わず悲鳴にも似た声を上げる。

 

 言ままで彼女は、如何なる敵を相手にした時でも怯む事は無かった。戦場では嬉々として相手を屠り、叩き潰してきたのだ。

 

 そんな彼女が、アステルには恐怖を覚えている。

 

 アステルは、いかなる状況であっても怯む事無く、そして容赦も無く、淡々と相手の命を刈り取る。

 

 そこには情けも容赦もない。徹底的に合理化した、マシーンの如き姿がそこにあった。

 

《く、来るなッ 来るなァ 来るなよォ!!》

 

 至近距離から、胸部の砲門を開こうとするフィリア。

 

《よせ、フィリア、焦るな!!》

 

 フレッドの制止も聞かず、エネルギーを充填。発射体勢に入る。

 

 しかしそこへ、ギルティジャスティスが高速で斬り込んで来た。

 

 エネルギー充填を終えた砲門へと、的確に突きこまれる刃。

 

 次の瞬間、充填されていたエネルギーが強烈なフィードバックを起こす。

 

 暴走する回路が、一気にゴルゴダの機体内部を食い散らかす。

 

 各所から炎が上がり、埒外の巨体を刺し貫いていく。

 

 やがて、

 

 ゴルゴダの巨体は閃光に包まれ、ゆっくりと自壊していくと、一気に爆炎に包まれ消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要塞表面に取りついた連合軍の攻撃は、いよいよ勢いを増していた。

 

 大和をはじめとする艦隊は、要塞への艦砲射撃を随時開始。脅威となる陽電子砲や対空砲陣地を狙い撃ちして潰していく。

 

 無論、ヤキン・トゥレース側も激しく抵抗を粉う。

 

 残った陽電子砲や対空砲で連合軍を攻撃し、いくらかの艦船や機動兵器を撃破していく。

 

 更に、ようやく体勢を立て直す事に成功したザフト軍も、散発的に攻撃を行って来ており、予断は許されない状況である。

 

 しかし、最大の切り札であったジェネシス・オムニスを無力化されたプラント軍の士気は限りなく低く、逆に勢いに乗る連合軍の攻撃で次々と撃破される部隊が相次いでいた。

 

 進撃する連合軍の中には、ターミナル旗艦アークエンジェルの姿もあった。

 

 艦長であるメイリンの指揮の元、2基の連装ゴッドフリートを駆使して要塞に対する艦砲射撃を敢行しているアークエンジェルは、既にいくつかの要塞砲陣地を潰して味方の進軍を大いに助けていた。

 

 そのアークエンジェルを守るように、2基の機動兵器が鋭い機動で飛び回りながら砲火を放っている。

 

 2機のエクレール。レイとルナマリアの機体である。

 

「突っ込むぞ、ルナマリア、掩護しろ!!」

《無茶しないでよ、レイ!!》

 

 突撃していく例のエクレールを掩護するように、ルナマリアの機体が後方から狙撃砲を構え、接近しようとするザフト機を狙い撃ちにしていく。

 

 口では否定的な言葉を言いながらも、ルナマリアの戦いにブレは無い。

 

 おかげでレイは、他に煩わされる事無く、自身の目標へと専念できる。

 

 ありがたいと思う。

 

 ルナマリアは、こんな自分に長く付き合い、共に戦い続けてくれた。

 

 元より、レイに明日は無い。いずれ今日を生き延びたとしても、近い将来、滅びの時は確実にやってくる。

 

 だが、その時が来ようとも、ルナマリアが共にいて共に戦ってくれる限り、レイに恐れは無かった。

 

 たとえ明日倒れる運命にあったとしても、今日の仲間を守る事ができれば、他には何も望まない。

 

「行くぞ!!」

 

 静かな叫ぶとともに、ドラグーンを一斉射出するレイ。そのまま、一斉攻撃を開始する。

 

 不断に位置を変えながら攻撃を敢行するドラグーン。

 

 その攻撃により、接近を図ろうとしていたザフト軍は次々と破壊されていく。

 

「これで良い・・・・・・・・・・・・」

 

 エネルギー切れになる前にドラグーンを回収しつつ、レイは呟く。

 

 自分は前に進み続ける。

 

 その過程で倒れたとしても、レイに悔いは無かった。

 

 

 

 

 

 プラント軍が構築した3段陣は、既に見る影も無く食い破られようとしていた。

 

 手も無く壊乱した第1陣、第2陣は言うに及ばず、主力軍であるザフトによって構成された第3陣も、圧倒的な勢いで攻め寄せて来た連合軍を支えきれず、あちこちで戦線が食い破られ、個別単位での応戦がやっとと言う有様になりつつある。

 

 既に連合軍艦隊が要塞への艦砲射撃を開始する一方、要塞内部での戦闘も開始されており、アンブレアス・グルックが絶対の自信でもって建造を推進したヤキン・トゥレース要塞は、落城一歩手前と言った風に成り下がっている。

 

 あるいはこれが、要塞に拠らず、プラント全軍でもって艦隊戦を挑んでいれば、機動力と数の差で勝敗は逆転していたかもしれない。

 

 しかし、総司令官であるグルックはそれをしなかった。

 

 自らの虚栄の象徴とも言うべき要塞に固執し、味方の足に枷を嵌めてしまった。

 

 そこへ、存分に機動力を発揮可能な状況を作り出す事に成功した連合軍が突入してきたのである。

 

 もはや、戦況は逆転不可能なところにまで落ち込んでいた。

 

「こんな・・・・・・こんなはずでは・・・・・・・・・・・・」

 

 今まさに、モニターの中で壊滅していく自軍の様子を眺めながら、グルックはうわ言のように呟く。

 

 勝利の栄光が、

 

 彼の理想とする統一された世界が、

 

 彼の指をすり抜けて、地面へと落ちていく。

 

 そんな馬鹿な。

 

 グルックは己の中で自問する。

 

 我々は勝っていた筈だ。悪逆なる敵を全て薙ぎ倒し、全人類を統合し地球圏を一つの統一された国家として纏め上げる。

 

 その理想の国家が、すぐ目の前まで来ていた筈なのだ。

 

 それなのに、いつの間にか自分達が追い詰められようとしている。

 

 なぜ、自分達が負けようとしているのか?

 

 なぜ、人々は正義である自分達を拒絶しているのか?

 

 いったい、何がどうなっているのか、グルックにはさっぱり判らなかった。

 

「議長」

 

 そんな呆然自失状態のグルックに、少女は足早に駆け寄った。

 

 クーヤは振り返るグルックを、真っ直ぐの瞳で見つめて言う。

 

「私達に、出撃の許可をください」

 

 迷いの無い少女の瞳は、自分達の主君を尊敬のまなざしで見つめている。

 

 今この段階になっても、クーヤ達の忠誠は聊かも揺らいでいない。

 

 自分達の主はアンブレアス・グルックであり、彼こそが、この戦乱の世界を纏め上げ、真に統一された理想の国家を作り上げる事ができる唯一の存在であると、心の底から信じていた。

 

 クーヤだけではない。

 

 カーギルも、フェルドも、カレンも、イレスも、皆、同じようにグルックを見詰めていた。

 

「いや、しかし・・・・・・・・・・・・」

 

 言い募るクーヤに対し、グルックは言い淀む。

 

 グルックとしては、いざという時にはディバイン・セイバーズに護衛させて要塞を脱出し、北米辺りにでも落ち延びて捲土重来を図ろうと考えていたのだ。

 

 たとえ主力軍を失っても、プラントはまだ戦う事が出来る。一時、本国を失う事になるが、それとていずれ取り返せば良いのだ。

 

 そして今、プラント軍の戦線は崩壊寸前であり、その考えは現実味を帯びつつある。いよいよ、脱出を真剣に考えなくてはいけない段階に入りつつあるのだ。

 

 だが、ここで彼等を出撃させてしまったら、もはや自分を守る物は無くなってしまう。それはグルックとしても非常に困るのだ。

 

 しかし、

 

「議長、どうか」

 

 そんなグルックの考えなど知らぬげに、クーヤは言い募る。

 

 グルックの歩む理想の道を阻む者は、全て薙ぎ払う。その事を己の使命と自認するクーヤにとって、今の危機的状況こそ、己の真価を発揮できる機会であると勇んでいるのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・判った」

 

 そんな彼等に対し、グルックは諦念を滲ませるようにして頷きを返す。

 

 こうなった以上、賭けるしかない。

 

 彼等が連合軍を撃退してくれることに。

 

「よし、判った」

 

 静かに言い放つグルック。

 

 そのまま司令席から立ち上がると、居並ぶ隊員全員を見回して言った。

 

「ディバイン・セイバーズ各位に命令する。直ちに出撃し、我がプラントを侵略しようとしている、卑劣なテロリスト共を駆逐し、我がプラント軍の正義と自由を、世に示すのだ!!」

『ハッ』

 

 グルックの命令に対し、

 

 一同は揃い踏みのように、見事な敬礼を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況に変化が起こった。

 

 それまで快進撃を続け、要塞への直接攻撃にも至っていた連合軍の進撃が、突如として強制的に停止させられたのだ。

 

 降り注ぐように放たれる砲撃。

 

 それらは、これまでとは比べ物にならないくらいの勢いと正確さで、進撃する連合軍に対し強烈な横撃を加えて来た。

 

 これまでとは比較にならない、正確かつ強力な攻撃。

 

 たちまち、連合軍の陣形が崩れる。

 

 その砲火をまともに受けたのは、月面都市自警団だった。

 

 彼等は連合軍を構成する三軍の中で、技量、装備、数、全てにおいて脆弱な存在である。

 

 その為、ムウをはじめとした連合軍司令部は、クルト等自警団上層部と協議の上、当初から月面都市自警団を二軍と定め、主に後方支援を命じていたのだ。

 

 そこに、プラント三軍の中で最精鋭となる部隊が襲い掛かったのである。

 

 赤い装甲に、白い8枚の翼を広げた機体。

 

 それは、プラント軍にとっての力の象徴であると同時に、恐怖の対象でもある。

 

《ディバイン・セイバーズだァ!!》

 

 悲鳴じみた声が、スピーカーを通じて響き渡る。

 

 たちまち、狂乱が自警団を支配する。

 

 彼等としては、まさか二線級の自分達に、敵軍の最精鋭の部隊が襲い掛かって来るとは思っても見なかったのだ。

 

 反撃しようと、砲火を振り上げる自警団の各機。

 

 しかし、次の瞬間には、自分達の数十倍に相当する火力を叩き付けられ、吹き飛ばされる機体が続出する。

 

 爆炎に飲み込まれ消滅する自警団の機体。

 

 その姿を横に見ながら、エールストライカーを装備したジェガンが駆け抜けていく。

 

「くそッ こんな事になるから、もっとちゃんとしておけばよかったんだ!!」

 

 クルトは毒づくように言いながら、ジェガンの装備するビームライフルを振り翳して応戦する。

 

 このような事態になる事を見越し、クルトは前々から自警団を、本格的な月面都市防衛軍に格上げしようと上申を繰り返していた。

 

 しかし、最前線から離れていると言う安心感からか、月面都市の上層部にはいまいちクルトの危機感は伝わらず、防衛軍創設案は今日に至るまで日の目を見ずにいる。

 

 その結果が、今目の前にある惨状だった。

 

 自警団の部隊は、高度な連繋を見せて攻め込んでくるディバイン・セイバーズに対して殆ど反撃らしい反撃もできないでいる。

 

 勿論、防衛軍を創設したからと言って、それが即、飛躍的な実戦力上昇に繋がる筈も無いのだが、それでも軍としての体裁を整える事は可能だったはずなのだ。

 

 仕方なく、ジェガンを駆って前へと出るクルト。

 

 クルト自身、自分の実力とジェガンの性能でディバイン・セイバーズに対抗可能だとは思っていない。

 

 しかしそれでも、退く事は許されない。

 

 自警団は連合軍の兵站線を守る役割も担っている。ここで踏みとどまって戦わないと、連合軍の戦線が崩壊する可能性もあった。

 

 そこへ、ディバイン・セイバーズ側からも砲火が集中される。

 

 それらの攻撃を回避しながら、どうにか反撃しようとするクルト。

 

 ジェガンはビームライフルを振りかざし、接近してくるリバティを必死に牽制している。

 

 しかし次の瞬間、反撃としてリバティが放った攻撃が、クルト機の右腕をライフルごと吹き飛ばす。

 

「クソッ!?」

 

 どうにかシールドを掲げながら、後退しようとするクルト。

 

 しかし、その間にも攻撃によって、ジェガンは右足に直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

 バランスを崩すジェガン。

 

 その間にも、リバティはジェガンにとどめを刺すべく接近してくる。

 

「・・・・・・・・・・・・これまで、かよ」

 

 悔しそうに呟き、クルトは自身に向かってくるリバティを睨み付ける。

 

 どう考えても、バランスを回復するよりも、敵が攻め込んでくる方が早い。

 

 やはり、相手は精鋭部隊。その実力も並みではない。

 

 機体の性能と実力、双方で差を付けられてしまっては、勝てる道理も無かった。

 

 向かって来たリバティが、浮遊するジェガンにビームライフルの銃口を向けてくる。

 

 その姿を目撃して、最後の瞬間を覚悟するクルト。

 

 次の瞬間、

 

 突如飛来した閃光が、リバティの右腕を直撃して肘から吹き飛ばした。

 

 驚いたようにたたらを踏むリバティ。

 

 そこへ、飛び込む不揃いの翼。

 

 一閃される刃が、リバティの首を斬り飛ばす。

 

《下がって、クルト!!》

 

 聞き慣れた少女の声と共に、エターナルスパイラルはディバイン・セイバーズの隊列の中へと飛び込んで行く。

 

 レオスを倒したヒカル達は、そのまま戦場へと取って返そうとしたところでディバイン・セイバーズと月面都市自警団が交戦を開始した事を知り、救援に駆け付けたのだ。

 

 飛び込むと同時に、エターナルスパイラルの両手にビームライフルを装備し、次々と向かってくる機体に砲撃を浴びせていく。

 

 たちまち、ビームを頭部や武装、推進機に浴びて戦闘力を喪失するリバティが続出する。

 

 だが、流石は精鋭部隊と言うべきか、いくつかの機体は砲撃をすり抜ける形でエターナルスパイラルへと向かってくるのが見えた。

 

《ヒカル、右から3機、左からも1機、来るよ!!》

「判った!!」

 

 レミリアの警告に従い、ヒカルは不揃いの翼を羽ばたかせてエターナルスパイラルを加速させる。

 

 抜き放つティルフィング対艦刀。

 

 横なぎに振るわれる大剣の一撃が、リバティの両足を一撃で叩き斬る。

 

 更にヒカルは、エターナルスパイラルの左手にウィングエッジを構えサーベルモードにすると、ティルフィングと合わせて変則的な二刀流を見せる。

 

 ビームライフルを放ちながら、接近してくる3機のリバティ。

 

 対抗するように、ヒカルは光学幻像と超加速を駆使して全ての攻撃を回避し、一気に接近を図る。

 

 その圧倒的な操縦技術を前にして、ディバイン・セイバーズの対応は追いつかない。

 

 全ての攻撃をすり抜ける形で接近を果たしたヒカルは、右手に装備したティルフィングを振るってリバティの腕を肩から斬り飛ばし、更にウィンドエッジを振るい、2機目の機体の首を斬り飛ばした。

 

 最後の1機は、敵わないと見て後退しようとする。

 

 しかし、ヒカルは逃がす気は無い。

 

 圧倒的な機動力で、リバティに追いつくエターナルスパイラル。

 

 リバティのパイロットが、恐怖で顔を引き攣らせる間もなく、ヒカルは加速力をそのまま利用する形でティルフィングを振り抜く。

 

 それだけで、リバティの首はあっけなく切り飛ばされた。

 

「・・・・・・・・・・・・大したものだな」

 

 エターナルスパイラルの怪物じみた活躍を見て、クルトは戦慄とも関心ともつかない呟きを漏らす。

 

 自分達が歯が立たなかったプラント軍の精鋭部隊を、複数相手に回して怯まないどころか、逆に敵の方を壊滅に追いやるとは。

 

 エターナルスパイラルの不揃いの翼を、クルトは感慨深く見やる。

 

 こうして新たな力が育ち、それが世界を支えていくことになる。自分達の時代は、終わりつつあるのかもしれない。

 

 長く戦い続けてきた身としては寂しい事ではあるが、しかし同時に嬉しくもあるのだった。

 

 その時だった。

 

 まだ生きていてジェガンのセンサーが、エターナルスパイラル目がけて急速に接近しつつある、複数の機影を捉えた。

 

「あれはッ!?」

 

 クルトが視線を向けた先には、美しい機体を先頭にして向かってくる、複数のリバティの姿があった。

 

 ヴァルキュリアのコックピットの中で、クーヤは己が倒すべき目標をしっかりと見定めていた。

 

「魔王、見付けたわよッ 今日こそ、その首を貰い受ける!!」

 

 これまで幾度も戦場で激突しながら、ついに仕留める事ができなかった因縁の敵。

 

 卑劣なテロリストの象徴とも言うべき存在を前にして、クーヤは己の使命に心を燃え上がらせる。

 

 今日こそは、

 

 今日こそは絶対に魔王を倒し、自分達の正義を世に知らしめてやる。

 

 その決意の下に、抜き放たれるアスカロン対艦刀。

 

 同時にクーヤの瞳にSEEDの輝きが灯り、エクシードシステムが唸りを上げて、機体の性能を引き上げる。

 

 対抗するように、ヒカルもティルフィングを構え直す。

 

 加速する両者。

 

 その剣閃が、真っ向からぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 連合軍とディバインセイバーズが交戦を開始した頃、こちらの戦闘もピークも終幕へと加速を始めていた。

 

 クロスファイアとディスピア。

 

 鮮烈な戦天使の如き機体と、禍々しい魔獣の如き機体が、互いに一歩も譲らずに激突を繰り返す。

 

 剛腕が虚空を薙ぎ払った時、クライブは己の勝利を確信していた。

 

 クロスファイアは巨大な爪によって切り裂かれ、因縁の相手は炎の中に沈み消えるだろうと。

 

《あばよ、キラ!!お前等との戦いは、ここ最近じゃ一番面白かったぜ!!》

 

 哄笑の叫びと共に、鍵爪を振り下ろす。

 

 ヴィクティムシステムによって、アシストを得たディスピアは、空間そのものを握りつぶすかのような攻撃を容赦なく繰り出す。

 

 しかし、

 

 次の瞬間、振り抜いたタルタロスは、何者も捉える事無く空しく宙を撹拌した。

 

「なッ!?」

 

 初めて、驚愕の表情を見せるクライブ。

 

 次の瞬間、

 

 視界の中で、白銀の光が激しく燃え上がった。

 

 慌てて視界を上げるクライブ。

 

 そこには、

 

 装甲と翼を銀色に染め上げた、クロスファイアの姿があった。

 

「私達の大切なルーチェを奪った報い、受けてもらいます」

 

 そのコックピット後席で、エストは静かな声を紡ぎだす。

 

 その瞳には、SEEDの光が宿っている。

 

 これこそが、クロスファイア最強最後の切り札。

 

 パイロットとオペレーターが同時にSEEDを発動した場合、全性能を飛躍的に引き上げるシステム。

 

 クロスファイア・モードI

 

 

 

 

 

 其れはかつて、世界を滅ぼそうとした災厄を食い止めた光。

 

 

 

 

 

 あらゆる進化の先にある力。

 

 

 

 

 

 焔を刻む銀のロザリオ

 

 

 

 

 

 次の瞬間、

 

 キラは仕掛けた。

 

《クソッ!!》

 

 慌てて攻撃を仕掛けるクライブ。

 

 しかし、放たれる火線がクロスファイアを捉える事はない。

 

 エクシードシステムの性能をフルに引き出したクロスファイアは、もはや別次元の性能を誇っていると言っても過言ではなかった。

 

 全ての攻撃が空を切る中、

 

 キラは白銀の翼を羽ばたかせ、ディスピアとの距離を詰めに掛かる。

 

「これで最後だ、クライブ!!」

《クソ、がァ!!》

 

 破れかぶれ、とばかりにタルタロスを振り翳すクライブ。

 

 しかし、キラの方が早い。

 

 ブリューナク対艦刀を抜刀するクロスファイア。

 

 両手に装備した剣を鋭く振るい、巨大な腕を斬り飛ばした。

 

 舌打ちするクライブ。

 

 そのまま後退しようと、距離を置こうとする。

 

 しかし、次の瞬間、

 

 その動きは、全くの無駄な物となった。

 

 クライブの視界の彼方で、全砲門を開こうとしている、白銀に輝くクロスファイアの姿が映った。

 

 既に照準は完了し、キラの指はトリガーに掛かっている。

 

「これで最後だと、言ったはずだ」

《クッ!?》

 

 キラの冷ややかな声と共に、放たれる24連装フルバースト。

 

 クライブは目を見開くが、もはや彼には如何ともしがたかった。

 

 閃光を迸らせるクロスファイア。

 

 その閃光が、ディスピアの機体を飲み込み、容赦なく吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

 

PHASE-19「ジダイの力」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。