機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-17「破滅の閃光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり来たか。

 

 報告を受けたカガリが、まず最初に思い浮かべた言葉がそれだった。

 

 ヤキン・トゥレース要塞において、連合軍とプラント軍の決戦が開始されたと報告があって数時間後、オーブ本国でも動きがあった。

 

 オーブの領海線北部から、多数の機影が接近中との事である。

 

 相手はプラント軍と見て、まず間違いない。

 

 彼等は、先の戦いで壊滅し、警戒ラインが甘くなっているアカツキ島周辺海域を掠める形でオーブ領海内に侵入すると、そのまま真っ直ぐに本土を目指して進んできていると言う。

 

 恐らくヤキン・トゥレース要塞での戦いと連動してオーブ本国を衝き、連合軍の動きを攪乱する事が狙いだったのだろう。

 

 オーブ軍は、ほぼ全軍をプラント戦線に投入している。確かに現状、本国の守りが手薄になっている事は間違いなかった。

 

 恐らく出撃基地はハワイあたりだろうと考えられる。

 

 プラント軍はこのような事態になる事を見越して、ある程度の戦力を地上に残しておいたのだ。

 

 退勢の軍とは言え、それでもプラント軍はなお、戦力的な余裕はオーブ軍よりも大きいと言う訳だ。少なくとも、戦略的な別働隊を組める程度には、余力を残していたらしい。

 

 しかし、

 

「甘かったな」

 

 カガリは不敵な笑みを浮かべながら、呟きを漏らす。

 

 このような事態になる事を、こちらが全く考えていなかったと思うのは大きな間違いである。

 

 確かに主力軍は不在だが、こちらにはまだ切り札が残っているのだ。

 

「頼むぞ、リィス・・・・・・・・・・・・」

 

 そう言ってカガリは、今ごろ出撃準備を進めているであろう姪に想いを託すのだった。

 

 

 

 

 

 パイロットスーツを着る感触は、何だか久しぶりなようで新鮮な感じがする。

 

 素材が身体にフィットする感触を味わいながら、リィスは傍らに置いておいたヘルメットを取って立ち上がる。

 

 リィスにとっては久々の戦場である。ここ最近は対敵宣伝放送を行うヘルガの護衛と言う、本来の専門とは違う任務の方ばかり行っていた。

 

 勿論、ヘルガの護衛は必要な事だし、リィス自身、決して任務を厭っていた訳ではない。

 

 しかしやはり、自分はモビルスーツを駆って戦場に立つ方が性に合っている気がした。

 

 ・・・・・・我ながら、なかなか救い難いとは思うのだが。

 

 ロッカールームを出ると、テンメイアカツキを駐機してある格納庫へと足早に向かう。

 

 主力軍を欠いた今のオーブにとって、リィスの存在は正に切り札と言って良いだろう。

 

 と、その時だった。

 

「リィス!!」

 

 呼び止められて振り返る。

 

 そこには、慌てて駆けて来たのか、息を上がらせた様子のアランが、膝に手を突いて立っていた。

 

「アラン、どうかしたの?」

「いや、君が出撃するって聞いてね。急いできたんだ」

 

 そう言うとアランは、乱れ大気を整える暇も無く、リィスへと歩み寄る。

 

「その、リィス・・・・・・・・・・・・」

 

 アランの顔が、リィスのすぐ間近まで迫る。

 

 互いの吐息が顔に掛かる程の距離。

 

 そのような状況で、リィスとアランは互いに見つめ合う。

 

 思えば、この2人もまた数奇な運命の元に巡り合ったと言える。

 

 片やオーブの軍人。

 

 片やプラントの政治家。

 

 本来なら交わる事の無かったはずの2人の運命が、奇妙な縁で結ばれて今日に至っている。

 

 まこと、人の行くべき道の先には、何があるのか判らない物である。

 

「必ず・・・・・・」

 

 ややあって、アランが口を開いた。

 

「必ず、生きて帰ってくれ。君がいてくれないと、僕が困る」

「アラン・・・・・・・・・・・・」

 

 真っ直ぐに見つめてくるアランの視線を、リィスも正面から受け止める。

 

「当たり前でしょ」

 

 そっと、リィスの手がアランの胸に当てられた。

 

「あなたに出会えたから、私はここまで戦ってくることができた。だから、約束する。私は、必ずあなたの元へ帰って来るから」

「リィス・・・・・・」

「アラン」

 

 見つめ合い、

 

 そして、2人はそっと唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 黄金の翼が天に舞う。

 

 残された全ての戦力をかき集め、迎撃戦を行おうとしているオーブ軍。

 

 リィスはテンメイアカツキを駆って、その先頭に立っていた。

 

 そっと、唇に降れる。

 

 愛しい男の感触は、まだリィスの中で残り続けている。

 

 彼を守るため、

 

 そして、今もはるかな宇宙で戦い続けている両親や弟を助ける為、リィスもまた、最後の戦いへと身を投じていく。

 

 やがて、センサーが前方から接近する機影がある事を伝えてくる。

 

 緊張と共に、スッと目を細めるリィス。

 

 誰何するまでも無い。何が来たかなど、考えるまでも無かった。

 

 やがて、光学センサーでも相手の機影を捉えられるまでに距離が詰まる。

 

 グゥルに乗ったハウンドドーガやガルムドーガ、飛行型機動兵器であるリューンの姿も見える。

 

 間違いなく、相手はプラント軍だ。数はそれほど多くは無いようだが、それでもこちらよりは多い。

 

 油断できる相手ではなかった。

 

 迫る敵軍。

 

 それを見据え、リィスはテンメイアカツキの右手に装備したビームライフルを高く掲げた。

 

「全軍、我に続け!!」

 

 叫ぶと同時に突撃を開始するテンメイアカツキ。

 

 そこへ、多数の閃光が大気を焼きながら迫ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオスの駆るブラッディレジェンドは、距離を取りつつドラグーンを一斉射出。エターナルスパイラルに対してオールレンジ攻撃を仕掛けるべく攻撃位置へと着く。

 

 それに対抗するように、ヒカルも自身の有利な位置を模索しながらカノンに指示を飛ばす。

 

「今だ、カノン!!」

「判った!!」

 

 エターナルスパイラル本体に搭載された4門の方を展開、一斉発射するカノン。

 

 放たれたビームライフルとレールガンによって、接近しようとしていた大型ドラグーン1基と、小型ドラグーン2基がたちまち吹き飛ばされて爆砕する。

 

 しかし、他のドラグーンは、爆炎をものともせずに距離を詰めて来た。

 

 攻撃配置に着くドラグーン。

 

 それに対して、ヒカル達もアクションを起こす。

 

《ヒカル、接近データ、送るよ!!》

「ああ、頼む!!」

 

 レミリアから送られてきたデータに誘導され、ヒカルはドラグーンからの攻撃を回避。そのまま、一気にブラッディレジェンドへ接近を図る。

 

 腰からビームサーベルを抜刀するヒカル。

 

 対して、

 

 迫る光刃を目にしたレオスは、舌打ちしつつ機体を後退させる。

 

 間一髪、エターナルスパイラルの刃に装甲を焼かれながらも、ブラッディレジェンドは後退する事に成功した。

 

 その間にレオスはドラグーンを呼び戻すと、背後からエターナルスパイラルを包囲するような体制を取る。

 

 その事に、レミリアがいち早く感知して警告を送る。

 

《ヒカル、後ろ!!》

「チッ!!」

 

 舌打ちすると同時に、ヒカルは不揃いの翼を羽ばたかせ、エターナルスパイラルに退避行動を取らせた。

 

 閃光が追撃を掛けて来る中、ヒカルは何とか安全圏まで逃れつつ反撃の為に体勢の立て直しを図る。

 

「いい加減にしろよ、レオス!!」

 

 ブラッディレジェンドが放ったビームライフルの攻撃をシールドではじきながら、ヒカルはオープン回線で叫ぶ。

 

「お前、こんな事して本当に、家の再興なんて出来ると思っているのかよ!!」

 

 レオスの目的は、没落したアルスター家の再興である。その為にヒカル達を裏切り、勢力の強いプラント軍についたのだ。

 

 しかし今、プラント、と言うよりも、レオスが与するグルック派は完全に斜陽となりつつある。この状態で、レオスの目的が達成できるとはヒカルには思えなかった。

 

「戻ってこい、レオス。今なら、まだ!!」

《もう遅い》

 

 ヒカルの叫びに対して、静かな声で返事が返った。

 

 掠れたような声で発せられたその言葉は、どこか疲れ切った様子が見て取れる。

 

《もう、俺は後戻りできないところまで来てしまっている。後はただ、突き進む以外に選択肢は無いんだよ》

 

 レオスはもう、立ち止まる事の出来ない場所まで来てしまっている。

 

 故に突き進む以外に無い。例えその先が、底なしの奈落であったとしても。

 

 言いながら、ドラグーンによる波状攻撃を仕掛けるレオス。

 

 対してヒカルは、放たれる閃光に対し巧みに回避行動を行いながら、再度の接近を図る。

 

「その先にあるのは、ただ転がり落ちるだけの道なんだぞ。分かってんのかよ!!」

《百も承知だ!!》

 

 接近しようとするエターナルスパイラルを、ビームライフルで牽制するレオス。

 

 とっさにビームシールドで防御するヒカル。しかし、動きの止まったエターナルスパイラルに対し、たちまちドラグーンが殺到してくる。

 

 仕方なく、レールガンの斉射で牽制しながら距離を取る。

 

《俺はすでに、這い上がる事の出来ない場所まで落ちてしまっているんだよ。ならば、落ちる場所まで落ちてみるのも一興って奴さ!!》

「レオス!!」

 

 接近を図ろうとしたドラグーンをビームライフルで撃ち落とすヒカル。

 

 出来た一瞬の隙に、距離を詰めるべく不揃いの翼を広げた。

 

 次の瞬間、

 

 強烈な閃光が、エターナルスパイラルに襲いかかってきた。

 

「クッ!!」

 

 とっさに接近を諦め、回避行動を取りながら視線を閃光が飛来した方向へと向けるヒカル。

 

 そこには、獲物を見つけた猟犬のように迫ってくる2機の異形の姿があった。

 

《見つけた見つけた見つけたァ!!》

《我々の相手をしてもらうぞ、魔王!!》

 

 フレッドとフィリア、リーブス兄妹がエターナルスパイラルの姿を見つけて襲いかかってくる。

 

 GアルファとGベータは、それぞれ変形しつつ合体。デストロイ級機動兵器であるゴルゴダに変化すると、そのまま全砲門を開きつつエターナルスパイラルに襲いかかってくる。

 

 そこへ更に、体勢を立て直したレオスのブラッディレジェンドも攻撃に加わってくる。

 

 舌打ちしながら回避行動を取るヒカル。

 

 閃光が次々と機体を掠めていく中、徐々に追い込まれていくのを自覚せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 プラント軍の第1陣と第2陣は、既に壊滅状態に陥っていると言って良かった。

 

 第1陣は既に、その姿すら戦場には無い。連合軍の攻撃によって大半の機体が撃破され、生き残った機体も這う這うの体で逃げ散って行ったのだ。

 

 第2陣を形成していた保安局行動隊は、第1陣に比べればまだ粘った方ではあるが、それも程度の差でしかない。彼らもまた、連合軍の怒涛のような攻撃の前に、碌な抵抗を示す事も出来ずに壊滅する運命にあった。

 

 ここに至るまで、連合軍の損害は軽微な物にとどまっている。

 

 しかし、プラント軍の第3陣を形成するザフト軍は、さすがは歴戦の部隊というべきか、第1陣、第2陣に比べると激しい抵抗を示していた。

 

 要塞前面に展開したザフト軍は、要塞の火力と呼応しながら連合軍の戦力減殺に務めている。

 

 ザフト軍は、プラント軍創設以来、ディバイン・セイバーズ、保安局に比べると比較的冷遇されてきた部署である。

 

 しかし、この難局にあって最も活躍を示しているのが、今まで冷遇を受けて来た、彼らザフト軍である事は、誠に持って皮肉な成り行きであると言えた。

 

 ザフト軍の将兵は何も、アンブレアス・グルックに義理立てする為に奮闘しているのではない。

 

 彼等を突き動かしているのはただ一つ。自分達こそがプラントを守護する物であると良誇りに他ならない。

 

 グルック政権のやり方は、彼らにとっても受け入れがたい物がある事は確かである。

 

 しかしだからと言って、他国の侵略を看過する事は出来なかった。

 

 第1陣、第2陣が総崩れとなった事で、既に両軍の戦力差は殆ど無くなっている。

 

 しかしそれでも、ザフト軍の将兵は、誇りを胸に「侵略者」へと立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

「よくやるねえ。ほんと、頭が下がるよ」

 

 自分達に向かってくるザフト軍の様子を見据えながら、ディアッカは苦笑交じりに行った。

 

 彼等はかつての、

 

 否、今でも自分達の同胞である。

 

 今はあり方の相違によって敵味方に分かれてはいるが、それでも本来なら、ともにプラントの兵士として戦う者同士だった筈。

 

 それが、このような事態に陥ってしまった事には、忸怩たるものを感じずにはいられないが、しかし、彼等の行動に対して賞賛こそあれ、恨む筋は毛ほども存在しなかった。

 

《仕方あるまい。これが今、俺達に置かれた状況なら、受け入れて戦うしかない》

 

 親友の気持ちを感じ取り、イザークは静かな口調で返した。

 

 ディアッカの感じた想いは、イザークもまた共有する所である。誰が好き好んで、友軍と戦いと思う事だろう?

 

 だが、こうなった以上、手を抜く事は出来ない。

 

 彼等は内からプラントを変える為、そして自分達は外からプラントを変える為、戦い続けなくてはいけないのだから。

 

 そこに正邪の別は無い。

 

 ただ、互いの信念がぶつかり合うのが戦場と言う物である。

 

《行くぞ、何としてもここを突破して、要塞に取り付く!!》

 

 イザークの号令と共に、自由ザフト軍の機体が次々と飛び出していく。

 

 そんな中、戦塵を着るように突撃して行く3機のガルムドーガの姿がある。

 

《オヤジ、先に行くぜ!!》

《先陣は任せて下さいッ》

《道を切り開きます!!》

 

 ジェイク・エルスマンにディジー・ジュール、そしてノルト・アマルフィ。

 

 次世代を継ぐ勇士達が、勇んで飛び出していく様は、見ている親達からすれば頼もしい限りである。

 

 既に彼等は、敵の前線部隊に取り付いて戦闘を開始していた。

 

《さて、そんじゃ、俺達も行くかね》

「ああ、勿論だ」

 

 ディアッカとイザークも頷き合うと、敵陣に向けて突撃して行く。

 

 まだまだ、自分達も子供たちに負ける訳にはいかなかった。

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 連合軍とザフト軍が交戦を開始した頃、戦線後方で支援砲撃を行っていたオーブ軍艦隊に動きが生じた。

 

 旗艦大和の艦橋に立って、戦況を見守っていたユウキは、鋭く双眸を光らせる。

 

 モニターで確認すると敵の陣形は、大きく乱れている。

 

 既にプラント軍第1陣と第2陣は壊滅し、防衛ラインは薄くなり始めている。

 

 その様子を確認してから、スッと目を細めた。

 

 今回の戦い、敵の戦力を減殺したとしても終わらないとユウキは踏んでいた。

 

 グルックの切り札は、プラント軍の兵士よりも、むしろ要塞その物にあるとユウキは考えていた。

 

 つまり、仮にプラント軍を全滅させたとしても、ヤキン・トゥレースが健在である限り、アンブレアス・グルックが白旗を上げる可能性は低い。

 

 その事を見越して、ユウキは作戦を組んできていた。

 

 そして、敵の戦力が減った今、作戦実行のチャンスであると言えた。

 

「トウゴウ艦長」

 

 かつての師の孫へ、ユウキは静かに語りかける。

 

 思えば、彼とも奇妙な縁である。

 

 かつて自分は、シュウジの祖父、ジュウロウ・トウゴウ元帥の元で副長を務め、ヤキン・ドゥーエ戦役を戦った。

 

 その時の旗艦も大和である。

 

 あの時の大和は20年前の戦いで沈んだが、今また復活した大和で、東郷元帥の孫を指揮する立場に自分はある。

 

 縁と言う物は、こうして続いていくものなのだと言う事が、何となく実感できた。

 

「作戦を開始する。その旨、全軍に打電してくれ」

「ハッ 了解しました」

 

 ユウキの命令を受け、シュウジがオペレーター席に座るリザに打電を指示する。

 

 その様子を眺めながら、シュウジは説教図を睨み付ける。

 

「さて、上手く行ってくれるといいが」

 

 この作戦の成否に、連合軍の命運がかかっていると言っても過言ではない。

 

 それを考えれば、流石のユウキも緊張せずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 天使のように美しい機体と、魔獣の如き禍々しい機体が、互いに一歩も引く事無く激突を繰り返している。

 

 クロスファイアとディスピア。

 

 キラとクライブ。

 

 因縁ありすぎる2人の激突は、徐々に増す熱をそのままぶつけるように激しくなりつつあった。

 

 巨大な破砕掌タルタロスが宙を薙ぎ払うたび、炎の翼が飛沫を散らして舞い踊る。

 

 ディスピアの巨大な鉤爪が迫るたび、クロスファイアはそれを迎え撃つべく剣を振るう。

 

 両者、互いの存在を削り合うかのように、激しいぶつかり合いを繰り返していた。

 

《クハハハハハハ、楽しいな、オイッ 戦いってのはこうでなくちゃよォ!!》

「勝手に言っていろ!!」

 

 振るわれる巨大な腕を回避しながら、キラはクライブの哄笑に素っ気なく答える。

 

 元より、この男が戦いに快楽を求めるタイプの人間である事は承知している。そこにまともに付き合ってやる気は、キラには無かった。

 

 翼のカバー部分からドラグーン4基を射出。20門の砲を駆使して牽制の砲撃を加えつつ、キラはクロスファイアの腰からビームサーベルを抜刀、一気に斬り込みを掛ける。

 

 鋭く横なぎに振るわれる斬撃。

 

 しかし、その刃は、クライブがディスピアを素早く後退させた事で空振りに終わる。

 

《おっとっと、おいおい、俺はこっちだぜ!!》

 

 嘲笑うように言いながら、胸部の複列位相砲で牽制の砲撃を加えてくるクライブ。

 

 対してキラは、クロスファイアを急上昇させて回避。同時に機体をFモードに変更しつつ、ビームライフルとレールガンを構える。

 

 放たれる砲撃。

 

 砲撃重視型のFモードに変化した事で、砲撃の速射力が飛躍的に上昇する。

 

 だが、それを見切っていたクライブも、射線上から機体を逃す事で回避する。

 

《オラッ 行くぜ!!》

 

 言いながら、クライブはディスピアの腰からビームサーベルを抜き放つと、更にタルタロスの指先に装備したビームクローを振り翳してクロスファイアに襲い掛かる。

 

 対抗するようにキラもまた、ビームライフルを収めると、ビームサーベルを抜き放って斬り掛かる。

 

 先制したのはクライブ。

 

 両側から包み込むようにしてタルタロスを振るい、クロスファイアを追い込もうとする。

 

 対してキラは、それよりも一瞬早く蒼炎翼を羽ばたかせて破砕掌の可動範囲をすり抜けると、鋭いターンから、急降下を掛けつつサーベルを振るう。

 

《ハッ まだだッ!!》

 

 迫る光刃に対し、ビームシールドを展開して防御するクライブ。

 

 両者共に、互いの剣と盾が火花を散らした。

 

《ところで、感動の母娘体面はどうだったよ!!》

「ッ!?」

 

 クライブの突然の物言いに、思わずキラとエストは息を呑んだ。

 

 目の前の男は10年前、自分達の元からルーチェを攫って行った張本人である。

 

 憎んでも憎み足りない相手とは、この男の事であろう。

 

《悪いパパ達だよなァ 何しろ、あんな可愛い娘を、ずっとほったらかしにしといたんだからよ!!》

「黙れ!!」

 

 激昂したキラがビームサーベルを振るう。

 

 しかし、それよりも一瞬早く、クライブは後退を掛けてキラの攻撃を回避。同時に抜き放ったビームライフルで牽制の攻撃を加える。

 

《感謝しろよなッ 感動の再会って奴を演出してやったんだから。一生にそう何度も味わえるもんじゃねえだろ!!》

「お前が、それを言うか!!」

 

 叫ぶと同時にキラは、高速でディスピアへと接近。ビームサーベルを振り翳す。

 

 一気に斬り下ろされる刃。

 

 クロスファイアの剣が、ディスピアを捉えるかと思った。

 

 次の瞬間。

 

《ビクティムシステム・セットアップ》

 

 その文字がディスピアのコックピットに踊った。

 

 次の瞬間、鋭さを増した機動性で、クライブはクロスファイアの斬撃を回避。一気に引きはがす。

 

「その動きはッ!?」

 

 自身の攻撃を回避され、驚愕の声を上げるキラ。

 

 それに対して、鋭く笑みを刻むクライブ。

 

《テメェみてぇなバケモノとやり合おうってんだ。これくらいの仕込みはしてきて当然だろうが!!》

 

 勝つ為に準備は怠らず、手段も択ばない。それはクライブの戦争に対する信念である。

 

 彼は、キラとの直接対決を見据え、キラに対抗可能な装備をあらかじめ準備してきたのだ。

 

《そらッ これで幕だッ!!》

 

 言いながら、タルタロスを振り翳すクライブ。

 

 それに対し、クロスファイアは立ち尽くす事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は、ザフト軍が戦線に介入した事により、ようやくプラント軍が五分へと押し戻す事に成功していた。

 

 当初の勢いを緩める事無く、鋭い突撃と砲火の集中を行う事によって連合軍。

 

 それに対しザフト軍は、要塞の防空圏内に拠って戦う事で、連合軍を迎え撃っている。

 

 その為、連合軍も一定以上距離を詰める事が出来なくなっていた。

 

 下手に近付こうとすれば、要塞から容赦ない砲撃を浴びせてくる。数個艦隊を優に上回る火力を有する要塞に正面から突撃するのは、カミカゼ以前の問題だろう。

 

「フ・・・・・・・・・・・・」

 

 ザフト軍が善戦する様子を見て、アンブレアス・グルックは冷や汗を拭いながら笑みを浮かべた。

 

「フハ・・・・・・フハハハハハハ そうだ、こうでなくてはいかん。さすがは、我が精鋭であるプラント軍の将兵だよ!!」

 

 第1陣と第2陣が呆気なく崩された時の狼狽ぶりは綺麗サッパリ消え失せ、上ずった笑い声をあげている。

 

 活躍しているのが、今までさほど優遇してこなかったザフト軍であると言う点も、もはや眼中にないらしい。

 

 ただ、「自分の軍隊」が敵を撃退できればそれでいい。そう考えているようだ。

 

 その時だった。

 

「敵艦隊に動きがありました。迂回路を取って、我が要塞へ接近中!!」

 

 オペレーターの声に弾かれるようにして、グルックはモニターの方へと目をやった。

 

 するとそこには確かに、戦線を迂回する形でヤキン・トゥレースへ接近しようとしている連合軍艦隊の姿がある。

 

 その近辺は、ちょうど戦力的に手薄になっており、連合軍は機動兵器部隊でプラント軍の目を引き付けている隙に、要塞への近接戦闘を行う事を画策しているものと思われた。

 

「ただちに迎撃部隊を送れ!!」

「いや・・・・・・・・・・・・」

 

 指示を飛ばした基地司令を、グルックは片手を上げて制した。

 

 その顔には、見る者を竦み上がらせるような、暗い笑みが浮かべられている。

 

 自軍が優勢に立った事で冷静な思考を取り戻しつつあるグルックは、素早く状況を計算しながら、もっとも効果的な方策を提示する。

 

「どうせなら、アレを試してみようじゃないか」

 

 グルックの言葉に、その場にいた全員が納得したように頷く。

 

 ちょうど、連語軍の接近コース上には、ある物が存在しているのだ。

 

 連合軍は下手を打った。奴等は勝利を急ぐあまり、こちらの最大の兵器を見落としたのだ。

 

 ならばせいぜい、最大限付けこんでやらねばならなかった。

 

「ジェネシス・オムニス発射準備。思い上がったテロリスト共に、正義の鉄槌を下してやるのだ!!」

 

 連合軍の進路上には、ジェネシス・オムニスが砲門を開いて待ち構えている。

 

 下手に部隊を派遣するよりも、主砲で一気に吹き飛ばしてしまった方が得策だし、敵の戦意を削ぐうえでも有効と判断したのだ。

 

「さあ、テロリスト共め、世界最大の花火で派手な火葬に仕立ててやる」

 

 間もなく、発射されるジェネシス・オムニス。

 

 その閃光が敵艦隊を飲み込む瞬間を夢想し、グルックは高揚する愉悦に心を躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

 正面で機動兵器部隊が戦闘を行っている隙に、ユウキに率いられた連合軍艦隊はヤキン・トゥレースへと接近して行く。

 

 この周囲に、プラント軍機の機影は見当たらない。

 

 どうやら、要塞砲もこの近辺にはあまり配備されていないらしく、艦隊に向けて放たれる砲火はごく僅かと言えた。

 

「ここまでは、順調か」

 

 大和の艦橋に立ち、ユウキは独り言のように呟く。

 

 このまま一気に接近して、艦隊が要塞に取りつく事ができるか?

 

 そう思った時だった。

 

「敵要塞内部に、高エネルギー反応確認!!」

 

 リザの悲鳴のような声が木霊する。

 

 目を見開くユウキ。

 

 次の瞬間、

 

 ジェネシス・オムニスの砲門が、一気に光を増していくのが見えた。

 

 いつの間にか、ジェネシス・オムニスの仰角は変更され、連合軍艦隊を射線上に捉える位置へと移動していたのである。

 

「いかんッ 全艦退避!!」

 

 叫ぶユウキ。

 

 それとほぼ同時に、

 

 白色に閃光が、目一杯視界を覆って行った。

 

 

 

 

 

PHASE-17「破滅の閃光」      終わり

 


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