機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

92 / 104
PHASE-13「取り戻す!! お前を!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 交戦するエターナルスパイラルとデミウルゴス。

 

 その様子を、後方で待機しているユニウス教団軍の輸送艦で、ユニウス教団教主アーガスは満足げに眺めていた。

 

 絡み合うように激突を繰り返す、2機の機動兵器。

 

 しかし、その戦況は、ほぼ一方的といっても良い様相を呈している。

 

 今も、空間に放たれた無数のドラグーンによって、エターナルスパイラルは動きを抑え込まれ、デミウルゴスに接近する事すらできないでいる。

 

 時折、反撃の砲火が放たれてドラグーンの方が破壊される場合もあるが、開いた包囲網の穴には、すぐまた別のドラグーンが展開して塞ぎ、反撃の余裕を与えない。

 

 聖女は完全に魔王の動きを抑え込み、一切手を出させていない体勢を完全に作り上げていた。

 

「良いぞ。さすが、最高のコーディネイターの娘だよ」

 

 冷笑と共に、呟きを漏らす。

 

 教団にとって、正に聖女の存在は切り札と言って良かった。

 

「あの女さえいれば、教団はより以上に進化していくことができるだろう」

 

 アーガスの脳裏には、既にこの先のヴィジョンが克明に浮かび上がっていた。

 

 魔王を倒した聖女。

 

 世界に平和をもたらした教団。

 

 戦いが終わった後の宣伝材料には事欠かないだろう。

 

 それは、教団の更なる躍進をもたらす事になるだろう。

 

 いずれはプラントをも上回り、世界を牛耳る存在となり得るのは間違いない。

 

 痛快ではないか。

 

 国家でも無い、一介に宗教団体が世界を牛耳り、思うままにする事ができるのだから。

 

 人々は誰もがアーガスの前に膝をつき、首を垂れる事になる。

 

 逆らう者は誰であろうと容赦しない。聖女が「唯一神の意思の下」に討伐へと赴き、天に唾する不届き者へ天罰を下す事になる。

 

 自分達に逆らう者は誰もいない。

 

 まさに「見えない王国」が、世界に誕生する事になる。

 

 そして、そのトップに君臨するのが自分、教主アーガスなのだ。

 

 その時の事を夢想するだけで、アーガスは笑いが止まらない思いだった。

 

「さて、その為にも、あの小娘にはせいぜい頑張ってもらわねばな」

 

 経緯のかけらもない口調でそう言うと、アーガスは冷笑を浮かべながら、尚も戦い続けるエターナルスパイラルとデミウルゴスを見入っていた。

 

 

 

 

 

 常識外と称しても過言ではない数を誇るドラグーンの攻撃を、エターナルスパイラルは不揃いの翼は辛うじて回避しながら、それでも尚、前へと進もうとしている。

 

 デルタリンゲージ・システムを起動したヒカルは、自身に向かってくるドラグーンの攻撃を、右に左に避けていく。

 

 だが、やはり数が尋常ではない。

 

 進もうとすれば進路を阻まれ、退こうとすれば退路を塞がれる。

 

 四方を完全に囲まれている為、回避運動すらままならない状態だ。

 

 今はまだ、エターナルスパイラルの機動性とデルタリンゲージ・システムの現状把握及び未来予測によってドラグーンの動きを先読みし、更には包囲網の隙を突く事で回避に成功している。

 

 しかし、いずれはドラグーンに距離を詰められてアウトになる事は目に見えていた。

 

「くそッ 俺の話を聞けッ ルーチェ!!」

 

 苛立ち交じりに、ヒカルは叫びかける。

 

 ユニウス教団の聖女は、かつて失った妹、ルーチェである。

 

 その事を知るヒカルは、自身の内から沸き起こる焦慮を糧に、妹へと手を伸ばそうとする。

 

 しかし、それをあざ笑うかのように、ドラグーンの攻撃はさらに勢いを増した。

 

 正面から3基、更に右側から2基のドラグーンが迫ってきているのが見える。

 

「くっそッ!!」

 

 悪態をつきつつも、しかしヒカルも即座に迎撃行動を取る。

 

 エターナルスパイラルの左手に装備したビームライフルで2基のドラグーンを撃ち抜き、更に右掌のパルマ・エスパーダを起動、横なぎに振るう刃で3機のドラグーンを斬り捨てた。

 

 だが、そこへ更なる奔流が襲い掛かってくる。

 

 たまらずヒカルは、舌打ちしながら上昇を掛け、嵐のような攻撃を回避する。

 

 その間にも追撃しようとするドラグーンは、カノンがエターナルスパイラル腰部のレールガンを展開して牽制しつつ撃破。どうにか距離を置く事に成功する。

 

「くそッ これじゃあ、どうにもなんねえ!!」

 

 舌打ちしつつ、ヒカルは操縦桿を強く握りしめる。

 

 妹が、

 

 ルーチェが今まさに、手の届く所にいると言うのに、取り戻す事ができないもどかしさが、ヒカルの心を容赦なく締め付ける。

 

《落ち着いてヒカル!!》

 

 見かねたレミリアが、ヒカルを制するように声を上げる。

 

《ルーチェを取り戻したい気持ちはわかるけど、今のままじゃどうにもならないよ。まずは、ドラグーンを何とかしないとッ》

 

 レミリア自身、かつての親友であるアルマ(ルーチェ)がヒカルの双子の妹であると判った以上、彼女をヒカルの元へ返したいと言う思いはある。

 

 だが、肝心のルーチェがヒカルを兄とは認識しておらず、それどころか自分(レミリア)の仇と思っている以上は、どうにもならない。

 

 まずは、そこら辺の誤解を解く必要があり、更に、それを行うためには、どうにかエターナルスパイラルをデミウルゴスに接近させる必要があった。

 

 デルタリンゲージシステムを使えば、ドラグーンの動きは全て把握する事ができる。

 

 数の多さは関係ない。空間全てを精査する事が可能なデルタリンゲージシステムなら、造作も無い話である。

 

 だが「認識」ができる事が、すなわち「回避」可能になるとは限らない。

 

 現状できる事があるとすれば、どうにかして聖女の攻撃の粗を見付けるまで、回避に専念する事だけだった。

 

 攻撃態勢に入ろうとするドラグーン。

 

 対してヒカルは、ヴォワチュール・リュミエールとスクリーミングニンバスを展開、突撃に備える。

 

 一斉発射されるビーム。

 

 対抗するように、エターナルスパイラルは不揃いの翼を羽ばたかせる。

 

 放たれた攻撃を障壁で防御しながら突撃するヒカル。そのまま強引に距離を詰めると、エターナルスパイラルの背中からティルフィング対艦刀を抜刀、鋭く一閃する。

 

 それだけで、攻撃態勢に入っていたドラグーンが斬り飛ばされた。

 

 だが、聖女に動じる気配は無い。

 

 冷静にドラグーンを操りながら、エターナルスパイラルの進撃路を塞いでいく。

 

 再び、奔流の如き攻撃がエターナルスパイラルに降り注ぐ。

 

 対して、ヒカルはとっさにビームシールドを展開して防御を試みるも、その間にデミウルゴスには距離を取られてしまった。

 

「クソッ!!」

「ヒカル、いったん下がって!!」

 

 カノンはビームライフルとレールガンを放ちながらドラグーンを撃墜する。

 

 しかし、ドラグーンは爆炎を突いて更に湧き出してくる。

 

 更なる後退を余儀なくされるエターナルスパイラル。

 

 そのコックピットで、ヒカルは血が滲むほどに唇をかみしめる。

 

 妹が、

 

 ルーチェがそこにいるのに、

 

 伸ばした手が、どうしても届かない。

 

「ルーチェ、目を覚ませ!!」

 

 堪らず、ヒカルが叫びを上げる。

 

「俺は、お前の兄貴だぞ!!」

《戯言に耳を貸す気はありません》

 

 ヒカルの言葉に、聖女は冷ややかな声で返す。

 

《レミリア・バニッシュの仇であるあなたを、わたくしは決して許さない!!》

 

 言いながら、機体に装備したバインダーの中から更にドラグーンを射出する。

 

 更に数を増して襲い掛かってくるドラグーンを前に、ヒカル達は更に追い込まれていった。

 

 

 

 

「良いぞ良いぞ、そのまま押し込んでしまえ」

 

 悲劇の兄妹対決の様子を、アーガスは身を乗り出すようにはしゃぎながら見入っていた。

 

 今やデミウルゴスは、完全にエターナルスパイラルの動きを上回り、追い詰めている。

 

 モビルスーツの戦闘については素人のアーガスにも、聖女の実力が完全に魔王を上回っているのは確実だった。

 

 魔王を倒す事ができれば、オーブ軍に大打撃を与える事になる。

 

 そうなれば、ユニウス教団の、否、アーガス自身の権勢は定まったような物である。

 

 一教団の教主として、世界を牛耳ると言う野望が、すぐそこまで来ているのだ。

 

 そうしている内にも、デミウルゴスの放ったドラグーンが、エターナルスパイラルを追い詰めていく。

 

「さあ、聖女よ。我らが怨敵を、一挙に覆滅するのです!!」

 

 得意絶頂に叫ぶアーガス。

 

 次の瞬間、

 

 破滅を携えた死神が、彼の喉元に鎌を突きつけた。

 

「敵機動兵器1ッ 急速接近!!」

 

 輸送艦のオペレーターが、悲鳴じみた報告を齎し、アーガスは目の前で行われている戦闘から、現実へと引き戻された。

 

 映し出されたモニターの中では、直掩部隊を排除しながら、真っ直ぐに向かってくる連合軍の機体の姿があった。

 

 しかも、その速度は尋常ではない。

 

 瞬く間に複数の機体が戦闘力を奪われ、ただの浮遊する残骸と化す。

 

 その一方で、襲撃者は僅か一瞬たりとも足を止める事無く輸送艦へと迫ってきていた。

 

「第1近衛中隊、全滅!!」

「敵機、阻止できませんッ 速過ぎます!!」

 

 オペレーターの声が、無情な響きを持って危機感を伝えてくる。

 

 この時、ユニウス教団軍を側面から強襲した機体は、たったの1機である。

 

 だが、

 

 その1機が正に、考え得る限り最悪の中の最悪と言って良かった。

 

 

 

 

 

 翼を紅から蒼へと変化させると同時に、4基のドラグーンを射出。

 

 機体に装備したレールガン、ビームライフルと合わせて24連装フルバーストを叩き付ける。

 

 たちまち、ユニウス教団軍の戦力は手足を吹き飛ばされて戦闘不能になる。

 

 残骸のように漂流する事しかできなくなる、無数の機体。

 

 その間を、クロスファイアは一気に駆け抜けていく。

 

 コックピット内では、キラとエストが、立ちはだかる教団軍を厳しい目で見据えていた。

 

 自分達の大切な娘。

 

 愛しいルーチェを奪った教団。

 

 それに対する憤りは、あるいはヒカルなどよりも2人の方がよほど強いと言える。

 

 だからこそ、2人は駆ける。

 

 これだけは、

 

 この役目だけは、息子にも、他の誰にも譲る訳にはいかない。

 

 教団に鉄槌を下し、自分達家族を苦しめた報いを受けさせる。

 

 その為ならば、あらゆる寛容を排除する決意を持っていた。

 

「突っ込むよ」

「お供します」

 

 阿吽の呼吸を見せるキラとエスト。

 

 再びDモードに変更した機体は、翼を紅に、装甲は黒に染まる。

 

 対して数が減ったユニウス教団軍の機体も、一斉にクロスファイア目がけて砲撃を仕掛けてくる。

 

 撃ち上げられる砲火が、狂ったように放たれる。

 

 しかし、その全てが空しく空を切る。

 

 炎の翼を羽ばたかせるクロスファイアを捉える事が出来た攻撃は、ただの一発も無かった。

 

 現状、間違いなく世界最強クラスの実力を誇る2人にとって、教団の戦力などブリキの人形以下と言って良かった。

 

 瞬く間に護衛の機体を抜き去ると、クロスファイアは一気にユニウス教団の艦へと迫る。

 

 パニックに陥ったのは、輸送艦にいるアーガスである。

 

 最前まで自身の野望に心躍らせていた自分が、まさか一転して命の危機に晒されるとは思っても見なかったのだ。

 

「敵機、来ます!!」

「は、反撃ィ い、いや、に、逃げるのだ!! 早くゥ!!」

 

 混乱した命令が飛び交う。

 

 正にその時だった。

 

 割り込むようにして、輸送艦の通信機から聞き慣れない声が響いてきた。

 

《人の娘を弄ぶのは、いい加減にしろ》

《地獄に落ちてください》

 

 あの世から聞こえてくるような冷ややかな声が、逃れようも無い程に、アーガスの心臓を鷲掴みにした。

 

 次の瞬間、彼等が見ている目の前で、クロスファイアは両手に構えたブリューナク対艦刀を並走連結させる。

 

 切っ先から刀身長20メートルにも及ぶ長大な大剣が出現。巨大な対艦刀を形成する。

 

 それを、クロスファイアは、高々と振り上げた。

 

 顔を引きつらせるアーガス。

 

「バカなッ こんな事がッ こんな事が、あって良いはずがないィ!!」

 

 狂ったように叫ぶ。

 

 教団の力を利用して世界の覇権を手に入れる。

 

 その野望が、もう手の届く所まで来ていたと言うのに。

 

 あと少しだと言うのに、

 

 その野望が、今まさに、持ち主の体ごと、光の剣に斬り裂かれようとしていた。

 

 彼の顔面目がけて、クロスファイアはブリューナクを振り下ろす。

 

「バカなッ これは夢だッ 夢に違いないッ 唯一神よッ 今こそ我らに慈悲と救いをォォォォォォォォォ!!」

 

 アーガスにできる事は、つい先程まで、他でもない自分自身が毛ほども信じていなかった唯一神に縋る事のみだった。

 

 だが、他のどの信徒よりも信心の無い彼に、当然ながら唯一真の慈悲が下る筈も無かった。

 

 次の瞬間、対艦刀は真っ向から振り下ろされ、輸送艦を真っ二つに斬り裂いていく。

 

 アーガス自身もまた、ビーム刃に体を飲み込まれ、絶叫と共に消滅していく。

 

 彼の頭上に降って来たのは、唯一神の慈悲では無く、娘を奪われた親が振り下ろした、怒りの刃だった。

 

 

 

 

 

 事態が急転しようとしている。

 

 その時、ドラグーンの徹底した波状攻撃によってエターナルスパイラルを追い詰めようとしていた聖女だったが、後方で起きた爆発に、一瞬気を奪われていた。

 

「あれはッ!?」

 

 仮面の奥で、驚愕に目を見開く。

 

 艦隊が燃えている。

 

 自分が前線に気を取られている隙に、後方で待機していたアーガス達がいつの間にか襲撃を受けていたのだ。

 

 まさか、と思う。

 

 あそこには教主アーガス直属の、教団軍の中でも精鋭の近衛部隊が護衛についていた筈である。

 

 その護衛部隊を排除して、艦隊に襲撃を掛ける者がいようとは、流石の聖女も予想できなかった。

 

 臍を噛む。

 

 まさか、このような事になるとは。

 

「一刻も早く・・・・・・・・・・・・」

 

 戻らなくては。

 

 そう思った次の瞬間、

 

 聖女の意識が逸れた事で、動きが荒くなったドラグーンの間隙を突き、不揃いの翼が斬り込んで来た。

 

「今だッ 行くぞカノン、レミリア!!」

「オッケー!!」

《サポートは任せて!!》

 

 ヒカルの力強い言葉に、2人の少女が唱和する。

 

 次の瞬間、デルタリンゲージ・システムが唸りを上げて、進むべき道を指し示す。

 

 千載一遇の好機。

 

 これを逃せば、ルーチェを取り戻すチャンスは、永久にやって来ない。

 

 故にヒカルは、己の持つ全存在を翼に掛けて駆け抜ける。

 

 しかし、聖女の方も打つ手は速い。接近するエターナルスパイラルの姿を見て、迎撃行動に討つR。

 

 速度では敵わないと見るや、聖女は手近な場所に浮遊しているドラグーンを引き寄せ、エターナルスパイラルの進路を塞ぎにかかる。

 

《やらせませんよ!!》

「クソッ!?」

 

 あくまでヒカルを、仇として狙う聖女に、ヒカルは苛立ちを隠せない。

 

 発射体勢に入るドラグーン。

 

 そのまま、砲門がビームを吐き出すかと思われた。

 

 しかし次の瞬間、

 

 エターナルスパイラルの進路を塞いでいたドラグーンが、一斉に横合いからの攻撃を受けて爆発する。

 

 陣形を乱すドラグーン。

 

 更に、飛来したリフターが砲撃を加え、残存するドラグーンも薙ぎ払っていくと、流石に包囲網にもほころびが生じる。

 

 更にダメ押しとばかりに飛び込んできた赤い機体が、手にしたビームサーベルで最後のドラグーンを斬り捨てた。

 

 アステルのギルティジャスティスである。

 

《行け、ヒカル!!》

 

 更に迫ろうとするドラグーンをビームライフルとビームダーツで叩き落としながら、アステルは叫ぶ。

 

《行って、お前の妹を取り戻せ!!》

「アステル!!」

 

 相棒の思いがけない掩護に、ヒカルの口元に笑みが刻まれる。

 

 北米解放軍の掃討を行っていたアステルだが、この土壇場で掩護に間に合ったのである。

 

《アステル・・・・・・》

 

 幼馴染の予期せぬ掩護に、レミリアの口元にも微笑が浮かぶ。

 

 多くの仲間達の援護を受け、

 

 ついにヒカルは、妹に手が届く所まで辿りついた。

 

「ルーチェ!!」

 

 喉も裂けよとばかりに、ヒカルは声を張り上げる。

 

「戻ってこいルーチェ!! みんながお前の事を待ってるんだぞ!!」

《何を馬鹿な事を!!》

 

 叩き付けるように返しながら、聖女はエターナルスパイラルに対し真っ向からビームキャノンを発射する。

 

 対して、

 

 デルタリンゲージ・システムのアシストにより、その動きを読んでいたヒカルは、機体を横滑りさせ、飛来する閃光を回避する。

 

 しかし、構わずに更なる砲撃を続ける聖女。

 

 乱射に近い砲撃を、ヒカルはどうにか紙一重で回避しながら、説得を続ける。

 

「思い出せよッ 父さんの事!! 母さんの事!! リィス姉の事!! そして、俺の事を!!」

《黙れ、魔王!!》

 

 ヒカルの言葉に過剰反応するように、聖女は生き残っているドラグーンをさらに引き寄せて攻撃態勢を整える。

 

 ドラグーンから放たれたビーム。

 

 対してヒカルは、とっさに抜き放ったビームサーベルで防ぎ、逆に、攻撃したドラグーンを、片手に装備したビームライフルで撃ち抜く。

 

 だが、その間にも聖女は攻撃の手を緩めない。

 

《教主様の仇ッ 今まで散って行った多くの信者の仇ッ そして!!》

 

 叫びながら聖女は、デミウルゴスの右手にビームサーベルを抜いて構える。

 

 巨大な機影が、エターナルスパイラルに覆いかぶさるようにして斬り掛かってくる。

 

《我が親友、レミリア・バニッシュの仇ッ 取らせてもらいます!!》

 

 その刃が、真正面からエターナルスパイラルへと迫った。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《駄目だよ、アルマ!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲痛な声が、虚空を駆け巡り、聖女の耳を震わせた。

 

《ッ!?》

 

 思わず息をのみ、動きを止める聖女。

 

 聞き間違いか?

 

 そうも思った。

 

 しかし、親友の声を聞き間違えるはずがない。

 

《・・・・・・・・・・・・そんな・・・・・・レミリア?》

 

 愕然とした声が、スピーカーから漏れ聞こえる。

 

 死んだと思ったはずの親友。

 

 それが生きていたのだから、当然だろう。

 

 仮面の奥の聖女の瞳。

 

 そこから、一筋の滴が零れる。

 

 いかに復讐心に猛っていようとも、彼女の心までが染め上げられたわけではないのかもしれない。

 

《アルマ・・・・・・いや、ルーチェ!! これ以上、君はこの人と戦っちゃいけないッ この人は、君の本当のお兄さんなんだよ!!》

 

 必死に訴えるレミリア。

 

 その声が届いたのか、

 

 デミウルゴスは、掲げていたビームサーベルを降ろして動きを止めた。

 

 その様子を、見ていた3人はホッと胸をなでおろす。

 

 どうやら、自分達の声が届いたらしい。

 

 これで戦いも終わる。

 

 そう思った次の瞬間、

 

《おのれ、魔王・・・・・・・・・・・・》

 

 這いずるような声に、思わず怖気を振るう。

 

《どこまで愚弄すれば気が済むのですか。よりにもよって、わたくしの最も大切な存在を穢してまで、こちらの動揺を誘おうなどと。そこまでして勝ちを得ようと言うのですか!? 浅ましいにも程がある!!》

 

 罵り声と共に、デミウルゴスは再び動き出す。

 

 胸部と腹部のビームキャノンを一斉発射。エターナルスパイラルを牽制すると同時に、生き残っていたドラグーンを引き戻しにかかる。

 

「クッ!?」

 

 舌打ちするヒカル。そのまま操縦桿を操り、射線上からの退避を図る。

 

 このままではまずい。

 

 これではまた、押し返されてしまう。

 

 妹が、

 

 ルーチェが、遠くへ行ってしまう。

 

 キッと眦を上げるヒカル。

 

 もはや是非も無し。

 

 説得に失敗した以上、残る手段は実力行使以外に無かった。

 

「やるぞ2人とも、これが最後だ!!」

「判った、ヒカル」

《ヒカル、君の思うとおりにするんだ。ボク達は君を掩護する!!》

 

 少女2人に背中を押され、ヒカルは不揃いの翼を大きく羽ばたかせる。

 

 飛翔するエターナルスパイラル。

 

 聖女は引き戻したドラグーンと、デミウルゴス本体の火力を駆使して、エターナルスパイラルの接近を阻もうとする。

 

 だが、

 

 ヒカルは光学幻像を駆使して全ての攻撃を回避。同時にデルタリンゲージシステムのアシストを得て、最適な接近コースを割り出すと、エターナルスパイラルの背中からティルフィングを抜き放って構えた。

 

「終わりだルーチェ!! 取り戻すぞ、お前を!!」

 

 叫ぶと同時にティルフィングを大きく振りかぶる兄。

 

 対抗するように、妹はアイアスを掲げる。

 

 振り下ろされる大剣。

 

 一閃。

 

 その一撃は、強固な盾によって防がれ火花を散らす。

 

 だが、

 

「まだ、だァ!!」

 

 構わず、ヒカルは更に出力を上げて押切りに掛かる。

 

 機体のパワーだけでは足りない。

 

 そう悟ったヒカルは、デミウルゴスとの間合いが零距離である事も構わず、ヴォワチュール・リュミエールを解き放つ。

 

 更に出力が上がるエターナルスパイラル。

 

 取り戻す!!

 

 絶対に!!

 

 お前を!!

 

 ヒカルの強い思いが、剣へと宿る。

 

 それは10年前、妹を守れなかった事への贖罪。

 

 故に、この一瞬に全てを掛けて、

 

 ヒカルは剣を振り抜く。

 

 盾の表面に亀裂が走る。

 

「クッ!?」

 

 聖女が仮面の奥で表情を歪ませる。

 

 しかし、一度始まった崩壊は、もはや止めようがない。

 

 亀裂は一気に広がり、そして致命的なレベルで盾を侵食すると、一気に砕け散った。

 

「そんなッ!?」

 

 聖女はとっさに後退しつつ、残った3枚のアイアスを展開。防御を固めようとする。

 

 しかし、今度はヒカルの方が早かった。

 

 素早くティルフィングの刃を返し、斬り上げる。

 

 鋭い斬撃は、展開しようとしていたアイアスのアーム部分を両断して斬り飛ばす。

 

 更に、左掌のパルマ・フィオキーナを起動。そのまま3枚目のアイアスに叩き付ける。

 

 強烈に沸き起こる爆炎。

 

 次の瞬間、パルマ・フィオキーナの直撃を受けたアイアスの下半分が砕け散った。

 

 完全にバランスを崩すデミウルゴス。

 

 そこへ、再びティルフィングを振り翳したエターナルスパイラルが迫る。

 

「ルーチェ!!」

 

 瞳にSEEDを宿し、ヒカルが叫ぶ。

 

 10年間の想いを剣に込め、

 

 一気に振り抜く。

 

 刃は、とっさに回避しようとするデミウルゴスの右肩に極まり、そのまま一気に斬り下ろされる。

 

 次の瞬間、

 

 デミウルゴスのコックピットに爆炎が踊る。

 

 衝撃で下面が吹き飛ばされる中、

 

 聖女(ルーチェ)の意識は、一瞬にして光に満たされ、次いで闇の中へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月での戦いが連合軍の勝利で決着しようとしている頃、

 

 辛うじて戦線離脱に成功した北米解放軍は、自分達の根拠地である宇宙要塞アルテミスへと帰り付いていた。

 

 とは言え、それはもはや「軍」と呼べるような代物ではなくなっている。

 

 出撃した際には堂々と隊列を組んでいた艦隊も、減退して尚、世界有数の戦闘力を誇る軍隊も、その姿は完全に消滅していた。

 

 生き残り、要塞に帰還したのは、辛うじて数隻の護衛艦と、その乗組員。パイロットに至っては10数人に過ぎず、更に、その殆どが記事を負っておる有様だった。

 

 乾坤一擲の気概を持って挑んだ月での決戦において、北米解放軍は文字通り「全滅」したのだ。

 

「損耗率9割以上か。流石に、ここまでの物となるとはな・・・・・・・・・・・・」

 

 報告を聞き終えたブリストー・シェムハザは、そう言ってガックリと肩を落とした。

 

 その姿には、世界有数の軍事組織の指導者が持つ貫禄は無い。まるでここ数日で、一気に10年分くらい歳を重ねたような印象さえあった。

 

「報告は以上です。閣下」

 

 硬い表情でミシェルが言う。

 

 父との戦いを経てかつての記憶を取り戻した彼だが、それでも北米解放軍の一員として戦っていたと言う事実は消えない。

 

 故にミシェルは、自分が果たすべく最後の責任として、生き残った兵士達を取りまとめてアルテミスまで撤退してきたのだ。

 

 報告の中でも、特にシェムハザを落胆させたのは、オーギュスト・ヴィラン、ジーナ・エフライムと言う腹心2人の戦死だろう。

 

 オーギュストとジーナは、これまでシェムハザが最も信頼を寄せ、前線の指揮を任せて来た者達である。言わば前線における象徴のような存在が彼等だった。

 

 それが失われた。幾多の兵士達の命と共に。

 

「閣下、もう、これ以上は・・・・・・・・・・・・」

 

 諭すような口調で、ミシェルは年長者であるシェムハザに言った。

 

 既に軍としての北米解放軍は、完全に消滅している。まだアルテミスに籠城して戦うと言う手段も残ってはいるが、それでもできる事は、滅亡までに至る時間をほんの僅か引き延ばすと言う、自己満足を満たすだけの事に過ぎない。

 

 否、それ以前に、ここまで完膚なきまでに壊滅した北米解放軍如き、連合軍にしろプラント軍にしろ、顧みる必要性すら感じないだろう。

 

 両勢力から無視される事は、目に見えていた。

 

 つまり、どう考えても、これ以上の交戦は無謀である以前に無意味だった。

 

「・・・・・・・・・・・・そうだな」

 

 ミシェルの言葉に、シェムハザは力無く頷きを返す。

 

 もはやこれ以上の交戦が不可能な事は、誰よりもシェムハザ自身が判っている事だった。

 

 ならば、取るべき道も既に定まっている。

 

「・・・・・・・・・・・・ミシェル。すまないが、お前は残る将兵を全て取りまとめ、降伏に必要な作業を行ってくれ」

 

 シェムハザは、固い口調で告げる。

 

 それは事実上、北米解放軍が終焉を告げた瞬間でもあった。

 

 対して、ミシェルもまた、恐懼してシェムハザの言葉に答える。

 

「それは構いませんが、閣下は、どうされるので?」

 

 まるで、責任の全てを投げ打つかのような発言に、ミシェルはある種の予感を抱いて尋ねる。

 

 シェムハザがこの後、取るべき行動を、ミシェルはほぼ完全に予想できていた。

 

 それに対して、シェムハザは自嘲気味にフッと笑みを浮かべる。

 

「敗れたとは言え、私は北米解放軍の指導者だ。その誇りまで捨てる気は無い」

 

 言ってから、シェムハザはミシェルに対して真っ直ぐに向き直る。

 

「これは北米解放軍の指導者として、最初で最後の個人的な我儘だ。どうか、許してもらいたい」

 

 そう言うとシェムハザは、二回り以上も年下のミシェルに対して深々と頭を下げた。

 

「・・・・・・・・・・・・判りました」

 

 対して、ミシェルもまた静かな声で頷きを返す。

 

 敗れた以上、この人はきっと死を選ぶだろう。

 

 その事は、ミシェルにも判っている。

 

 生きて虜囚の辱めを受け、衆目に晒されると言う屈辱を、シェムハザが受け入れるはずが無かった。

 

「後の事は、すべてお任せください。万事、抜かりないように取り計らいます」

「頼む・・・・・・ああ、そうだ。最後に一つだけ」

 

 出て行こうとするミシェルを、シェムハザは思い出したように呼び止める。

 

「降伏するのは構わんが、降るならオーブにしろ。決してプラントには降るな。これは、わたしからの最後の命令と受け取ってくれ」

 

 プラントとの間には、長年の遺恨がある。降伏して投降したとしても、最悪の場合、全員処刑されてしまう可能性がある。

 

「遺恨と言う点から行けばオーブ軍との間にもあるが、彼等はまだ、捕虜に対して温情を掛ける余地があるだろう。同じ降伏するにしても、助かる可能性が高い道を選ぶのだ。良いな」

「判りました」

 

 シェムハザの言葉に、ミシェルは納得して頷きを返す。

 

 確かに彼の言う通り、元オーブ軍人のミシェルにとっても、プラントよりもオーブの方が話を通しやすい。加えてオーブ軍の指揮を取っているのはミシェルの父だ。父ならば、降伏した相手を無碍にはしないと言う確信があった。

 

 

 

 

 

 モニターの中で、要塞から離れていく艦隊の姿が見える。

 

 その様子を、シェムハザは静かな眼差しで見詰めていた。

 

 降伏する為に出航した、僅か数隻の艦艇。

 

 それが、一時期は世界に対して戦いを挑んだ、北米解放軍の最後の戦力だった。

 

 今後、彼等の行く手にどのような運命が待ち構えているのか、それはシェムハザには判らない。

 

 だがせめて、今日生き残った幾人かが、いずれは北米に戻り、そして祖国を復興してくれることを願うばかりであった。

 

「北米の解放と大西洋連邦の復興。それが、こんなにも遠い夢だったとはな・・・・・・・・・・・・」

 

 シェムハザの脳裏には、自身の半生とも言うべき戦いの数々が浮かび上がってくる。

 

 今一歩の所で勝利を逃した北米紛争。

 

 味方の裏切りに合って覆された東欧戦線。

 

 行く当ても無く世界を彷徨って放浪。

 

 そして流れ着いた、この地球圏の果てで、自分の人生は終わろうとしている。

 

 北米は遥か遠く、ここからでは見る事すら叶わない。

 

 モニターには、深淵に浮かぶ蒼い星が、小さく浮かんでいるだけだった。

 

 その姿を網膜の内側に焼き付け、

 

 シェムハザは用意しておいたコマンドを、コンソールに打ち込んで、赤いボタンを押しこんだ。

 

《自爆シークエンスが起動されました。このコマンドは、止める事ができません。要塞内部にいるスタッフは、ただちに退去してください。繰り返します・・・・・・》

 

 無機質なアナウンスが流れてくる。

 

 元より、この要塞に残っているのはシェムハザただ一人。残りは全員、ミシェルに預けて脱出している。

 

 そして、シェムハザはここから脱出する気は毛頭なかった。

 

 だが、

 

「これで良い・・・・・・・・・・・・」

 

 ゆっくりとシートに座り直し、静かな気持ちで最後の時を迎える。

 

 理想を遂げられなかったのは残念だったが、それでも何か満足感のような物を抱いて死ねるのは幸せだと思った。

 

 その時だった。

 

 突然、メインモニターにノイズが走り、映像が切り替わる。

 

《あ~ テステス、マイクのテストちゅ~・・・・・・もしも~し? 聞こえてる~?》

 

 突然の事にシェムハザが驚いて顔を上げる中、

 

 モニターの中に、ピエロのような格好をした男が現れた。

 

「お前は!?」

 

 相手は国際テロネットワークの元締めだった。確か、名前はPⅡとか言う。シェムハザ自身、何度か顔を合わせた事もある。

 

 予想しなかった人物からの通信に、シェムハザは怪訝な面持ちになりながらも応じる。

 

「・・・・・・今さら、何か用か?」

《いやね、お別れの挨拶くらいはしておいた方が良いかと思ってね?》

 

 険しい表情のシェムハザに対し、PⅡはあくまでへらへらとした調子で答える。

 

 その言葉に、シェムハザは更に顔をしかめた。

 

 敗軍の将を嘲笑うが如きPⅡの振る舞いには、嫌悪感しか感じなかった。

 

「いらん。邪魔をするな、去れ」

 

 最後の時まで威厳を失わないシェムハザ。

 

 それに対し、

 

 PⅡはニヤリと笑って言った。

 

《つれないな~ まあ、良いけど。君のそう言うところ、僕は嫌いじゃないし》

 

 通信を切ろうと、手を伸ばすシェムハザ。これ以上、道化者の戯言に付き合う気は無かった。

 

 しかし、それを制するようにPⅡは言葉を続けた。

 

《ああ、そうだ。冥土への手向けに、良い事を教えてあげるよ》

 

 その言葉に、シェムハザは手を止めてモニターに見やる。

 

「良い事、だと?」

《そうそう》

 

 笑みを浮かべながら、PⅡは顔をモニターに近付ける。

 

 モニターの中で派手なピエロ顔が大写しになる中、PⅡは楽しそうに語り出した。

 

《北米の解放、大西洋連邦の復興。まあ、理想としては大したものだよね。ましてか、本来なら、その夢が実現していたんだと思えば尚更だよ》

「・・・・・・・・・・・・どういう事だ?」

 

 意味が分からず、尋ねるシェムハザに、PⅡは更に笑みを向ける。

 

《ん? 言葉通りの意味だよ。本当なら、君の、と言うか君達の理想はもっと早く実現して、北米は取り戻せていたって事》

「バカなッ」

 

 あまりの言いように、声を荒げるシェムハザ。

 

 実現できなかったからこそ、北米解放軍は滅び、今自分はこの要塞で最後の時を迎えようとしているのではないか。

 

 PⅡの発言は、シェムハザの決断や、オーギュスト、ジーナをはじめとして、死んでいった全ての勇士達に泥を塗る行為に他ならない。

 

「いい加減な事を言うなッ」

《いい加減じゃないよ。だいたい、不思議に思わなかった? 君達は北米ではあと一歩のところで祖国を取り戻せる所まで行った。にもかかわらず、オーブ軍に邪魔される形で潰えた。東欧でもそうさ。もう少しでプラント軍を倒して北米に帰れるはずだったのに、いきなり東アジア共和国が脱落するは、ユーラシア連邦に裏切られるわ、散々だったじゃない》

 

 でもね、とPⅡは続ける。

 

《それはみ~んなみんな、僕が裏から糸を引いて、「そうなるように」仕向けていたんだよ》

「な、何だと!?」

《ある程度、君達が勝ち進んだところで、相手陣営に介入して、君達が不利になるように働きかける。まあ、僕の配下の奴らはそれこそ世界中、どの陣営にもいるし、それほど難しい話じゃなかったね》

 

 馬鹿な・・・・・・・・・・・・

 

 シェムハザは、己を支える床が根底から崩れていくような錯覚に襲われた。

 

 自分達が目指してきた理想が、

 

 捧げられた多くの犠牲が、

 

 己の人生が、

 

 全て一瞬にして茶番劇に置き換えられたのだ。

 

《あははは、良いね、その絶望に満ちた表情。最高だよ。ねえ、今、どんな気持ち? 誇り高い指導者から、道化に落とされてどんな気持ち?》

「貴様ァッ!!」

 

 モニターの中のPⅡに掴みかかるように身を乗り出すシェムハザ。

 

 しかし、当然の如く叶わず、指先は空を切る。

 

《そんじゃ、バイバーイ。「あの世」とやらがあるんだったら、せいぜい、お仲間達と仲良くやってね》

 

 そう言うと、通信は一方的に切断される。

 

 後には、ただ1人、シェムハザのみが残される。

 

「おのれッ おのれおのれ!!」

 

 このままでは済まさないッ

 

 シェムハザは大急ぎでコンソールに飛びつくと、自爆シークエンスを止めるべくコマンドを打ち込む。

 

 しかし、何をしようとも、もはや無駄だった。

 

 自爆シークエンスを止める事は出来ず、カウントは確実に減少して行く。

 

「ああ・・・・・・ああああああ・・・・・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 髪を引きちぎり、顔面の皮膚をかきむしるシェムハザ。

 

 身を裂くほどの怒りと、深淵よりもなお深い絶望に苛まれながら、意識は彼の肉体から乖離して行く。

 

 そして、カウントはあっけなく0を刻む。

 

 次の瞬間、爆炎が全てを飲みこんで行った。

 

 

 

 

 

PHASE-13「取り戻す!! お前を!!」      終わり

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。