機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-09「目覚めの刻」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長く「名門」と呼ばれてきた家があった。

 

 まだ大西洋連邦が世界最大の国家として、地球圏における権勢をほしいままにしていた時代。

 

 その家は、軍事、政治、経済等各分野で優れた人材を多く輩出して、最大国家の運営に深く携わってきた。

 

 自然、多くの人間が彼等を湛え、彼等の前に膝を付いた。

 

 その家に生まれた者は、正に生まれた瞬間から、上流社会を歩む事を約束されていると言っても良かった。

 

 まさに、現代における貴族的階級とでも言うべき家柄であり、知れば誰もが羨望するであろう存在が、彼等であった。

 

 正に、我が世の春を謳歌していた一族。

 

 しかし、転落は唐突だった。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役中盤。特権を利用して宇宙艦隊に同行した当主は、ザフト軍との戦闘に巻き込まれ死亡。

 

 その後、軍人になった当主の一人娘も、最終決戦となった第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦でMIAになるに至り、彼等の没落は始まった。

 

 残った一族は崩れかかった家を建て直そうと躍起になったが、当主を失った事への影響は大きく、彼等の権威は否応無く大きく後退する事を余儀なくされた。

 

 多くの権益が失われて行き、当然の帰結として彼等に傅いていた者達も、後足で砂を掛けるように、背を向けて去って行った。

 

 その後に勃発したユニウス戦役において大西洋連邦が事実上の敗北を喫した事により彼等の没落は更に加速し、そしてカーディナル戦役における大敗が決定打となった。

 

 本拠地である北米大陸に多くの利権を有していた一族は、同時多発核攻撃による大陸各都市の壊滅に伴い、殆どの権益を文字通り「消滅」させられたのだ。

 

 更に戦後、国家立て直しに躍起になった大西洋連邦政府によって負債の大半を押し付けられた事により完全にトドメを刺された一族は、かつての栄光を完全に失い、散り散りに離散していった。

 

《そのなれの果てが、俺とリザと言う訳さ》

 

 レオスは自嘲気味に言った。

 

《だが、かつての栄光って奴は、とんでもなく甘美な味がする物でな。生まれた時から泥水しか啜った事が無いとすれば尚更だ》

 

 レオスが生まれた時、既に家は完全に没落し、見る影もない有様だった。

 

 その日食べる物にも事欠き、生きている事にさえ絶望する日々だった。

 

 かつての名家が、まるで物乞いのように生きていく様は、屈辱以外の何物でも無かった。

 

 そんな中、たった一つ支えがあったのだとすれば、「自分達はかつて名門だった」という誇りのみだったと言って良い。

 

 それが空虚以外の何物でも無い事は、レオス自身よく判っている。

 

 しかし、かつての栄光を知る両親が、事あるごとにその事を繰り返すたび、まだ少年だったレオスの心の中に変化が生じて行った。

 

 奪われた物は奪い返せばいい。

 

 自分達をこのような境遇に追いやった連中を屈服させ、かつて奴等が自分達から奪った物を再び手中にできれば、自分達の栄光を取り戻し、再び光の道を歩む事ができる。

 

 両親から繰り返し、呪詛のように「かつての栄華」を聞かされて育った幼いレオスは、次第にそのように考えるようになっていった。

 

「じゃあ、お前の目的は、落ちぶれた家の立て直しって訳か?」

《ぶっちゃけて言ってしまえば、そうなるな。もっとも、今さら過去の家を取り戻そうとは思っていないさ。ただ・・・・・・・・・・・・・》

 

 言いながらレオスは、ブラッディレジェンドに搭載されているドラグーンを射出。エターナルスパイラルを包囲するように展開する。

 

《過去は取り戻せなくても、俺の力を使えば未来は作る事はできるって訳だ!!》

 

 閃光が一斉に放たれる。

 

 戦闘再開。

 

 ほぼ同時に、ヒカルもエターナルスパイラルの持つ不揃いの翼を羽ばたかせて飛び退く。

 

 それを追撃するレオス。

 

 機体周囲にドラグーンを展開して、追撃を仕掛ける。

 

《俺の本当の名前は、レオス・アルスター もっとも、この名前を知っている人間は最早、この世で俺1人だけだろうがな》

 

 アルスター一族はレオスが語った通り、ヤキン・ドゥーエ戦役以前まで北米の行政に大きくかかわっていた「上流」の一族である。

 

 しかし、リザが物心つく前に両親は死別。

 

 そこでレオスは、敢えてアルスターの名を捨て、自身の中にある復讐心と、必要な技術を磨く事に邁進した。

 

 新たなる名前である「イフアレスタール」は、ヤキン・ドゥーエ戦役の決戦で戦死した当主の娘の名前を、アナグラム風に改変する事で作り出し、妹にも名乗らせた。

 

 当主を失って尚、雄々しく戦い続けた彼女の存在は、幼く弱いレオスにとっては強い憧れとなっていたのだ。

 

 自分が生きる為なら、レオスは何でもやった。

 

 殺しや略奪くらいなら日常茶飯事だったし、味方への裏切りですら呼吸をするようにやってのけた。

 

 やがて、技術を磨き、裏社会での働きを認められるようになったレオスは、北米紛争において暗躍していた組織に拾われ、スパイとして活動するようになっていった。

 

 全ては、自分自身の栄光を掴む為。

 

《その為なら、ありとあらゆる物を、俺は捨て去ってやるよ!!》

 

 叫びながら、ドラグーンによる波状攻撃を続けるレオス。

 

 ドラグーンだけではない。ブラッディレジェンドの右手にはビームサーベル。左手にはビームライフルを構えて挑みかかってきていた。

 

 対して、

 

 ヒカルはとっさに後退を掛けつつ、レオスの攻撃を回避。

 

 同時にカノンがビームライフルとレールガンで牽制の射撃を行う。

 

 だが、

 

 そのエターナルスパイラルの背後から、巨大な影が迫っていた。

 

 4本の腕を持つ禍々しい機体。

 

 ゴルゴダだ。

 

 数あるデストロイ級機動兵器の中でも、ダントツで禍々しい外見を持つ巨体は、接近する視覚効果だけでも脅威である。

 

《つまらん昔話はそれで終わりか!?》

《いい加減、欠伸が出るのよね。そーいうの、余所でやってくれない?》

 

 リーブス兄妹は言いながら、搭載する全火砲を解放。エターナルスパイラルに襲い掛かる。

 

 対して、ヒカルは機体を急降下させて射線を回避。

 

 同時に高周波振動ブレードを抜刀しつつ、斬り込んで行く。

 

 しかし、その前に展開したレオスのドラグーンが、行く手を阻んで来た。

 

 放たれる縦横の砲撃に、空中で踏鞴を踏むエターナルスパイラル。

 

 そこへ、ゴルゴダの追撃が入る。

 

 圧倒的な砲撃力を前に、ヒカルはとっさにビームシールドを展開して防御する。

 

 しかし、衝撃までは吸収しきれずに、大きく高度を下げるようにして押し戻されるエターナルスパイラル。

 

 あまりの衝撃に、防御した左腕が悲鳴を上げる。

 

 更に追撃を仕掛けようとするリーブス兄妹。

 

 しかし、

 

 次の瞬間、駆け抜けてきた赤い機影が手にした刃を一閃。

 

 とっさの事で反応しきれず、陽電子リフレクターの展開は間に合わない。

 

 繰り出された刃は、ゴルゴダの表面装甲とリフレクター発生装置1基を斬り飛ばした。

 

 ゴルゴダにダメージを負わせた機体は、威嚇するように剣を構え直す。

 

 手にはビームサーベル、脚部にはビームブレードを構えたアステルのギルティジャスティス。

 

 どうやらダメージを負っているらしく動きにぎこちなさがあるようだが、それでも戦闘に支障は無いらしい。

 

「アステルッ 無事かッ!?」

《人の心配をしている暇があるなら、とっととあの裏切者を仕留めて来い》

 

 言外に「こっちは任せろ」と言う言葉を含みながら、アステルはギルティジャスティスを駆ってゴルゴダへと向かっていく。

 

 その間に、ヒカルは再びブラッディレジェンドと対峙していた。

 

 対抗するように、レオスもドラグーンを引き戻してエターナルスパイラルと対峙する。

 

「さっきの話だけどよ・・・・・・・・・・・・」

 

 戦う前に、ヒカルはどうしてもこれだけは聞いておきたい、と思った事を口に出した。

 

「お前の戦う理由は判ったよ、レオス。けどな、それは本当にやらなきゃいけない事だったのかよ?」

《愚問だな》

 

 ヒカルの問いかけに対し、レオスは嘲笑を交えて返事をする。

 

《さっき言った通りだよ。悲願は何を置いても達成したいからこそ悲願であると言える。まして、それが自分の人生を賭けた物なら尚更だろ》

「それが、妹を犠牲にしても、かよ?」

 

 ヒカルの問いかけに対し、

 

《・・・・・・・・・・・・それこそ、愚問だろ》

 

 レオスは殊更に低い声で返す。

 

 レオスは確かに、自身の悲願達成の為に妹、リザを斬り捨てた。そればかりか、離反した時に銃で撃って殺そうとまでした。

 

 そう言う意味では、確かにレオスは妹の犠牲を物ともしていないように見える。

 

 しかし、

 

 返事をする際、一瞬レオスが言い淀んだのを、ヒカルは見逃さなかった。

 

「レオス、、お前本当は・・・・・・」

「くだらない問答は終わりだッ」

 

 叩き付けるように言って、レオスはヒカルの言葉を遮る。

 

 これ以上、無駄な会話を続ける気は無いとばかりに、ドラグーンを射出。一斉にエターナルスパイラルへと向かわせる。

 

 対してヒカルは機体を操ってドラグーンの攻撃を回避。同時にカノンが、エターナルスパイラルの両手に装備したビームライフルでブラッディレジェンド本体を狙う。

 

 レオスは掠めるビームを横目に見ながら、自身もビームライフルで反撃する。

 

 交錯する両者の閃光。

 

 と、

 

「やっぱり、判んないよ、レオス君!!」

 

 それまでヒカルとレオスのやり取りを、殆ど口を出さずに聞いていたカノンが口を開いた。

 

「だって、ザッちはレオス君の妹でしょ。それなのに・・・・・・・・・・・・」

《くどい!!》

 

 叫びながら放たれたビームライフルの一撃を、ヒカルはシールドで防御する。

 

《妹だろうが何だろうが、必要なら切り捨てるッ そんな事は当たり前だろうが!!》

 

 その一言に、レオス・アルスターと言う人物の半生が込められている気がした。

 

 あらゆる手管を尽くし、あらゆる可能性を模索し、食える者は全て食い、捨て去るべき物は躊躇なく捨てる。

 

 恐らくそうまでしなくては、レオスは生き残ってはこれなかったのだ。

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、何で、真っ先にザッちを切り捨てなかったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ッ!?》

 

 レオスが息を呑む声が聞こえた。

 

 カノンの発した一言が、彼の核心を突いたのだ。

 

 確かに、レオスは必要ならばありとあらゆる物を切り捨てて生きてきた。それは間違いない。

 

 しかし、ならばなぜ「最も足手まといになるであろう妹」を真っ先に切り捨てなかったのか?

 

 考えてみれば、他にもおかしな事はある。

 

 たとえば、あの月での裏切り劇の時。

 

 確かにレオスはリザを撃った。

 

 しかし、艦橋内と言う狭い場所での銃撃である。狙いを外し方が難しいはず。

 

 にも拘らず、レオスはリザを一撃で仕留める事ができなかった。

 

 もし、これがレオスの深層意識を反映した上で、起こり得るべくして起こった事態だとしたら?

 

 それはすなわち、レオスにとってリザが、捨てたくても捨てられないくらいに大きな存在だったと言う証拠ではないだろうか?

 

《黙れッ 黙れ黙れェ!!》

 

 狂乱するように叫びながら、ドラグーンを操るレオス。

 

 さらに激しさを増した攻撃に、堪らず機体を後退させるヒカル。

 

《戯言でグダグダと言ってるんじゃないッ 目障りなんだよォ!!》

 

 追撃を掛けるレオス。

 

 図らずも、カノンの一言がレオスの魂の奥底にしまっていた物に火をつけたようだ。

 

 それ故に、全てを無に帰すが如く攻撃は激しさを増す。

 

 レオスは、リザを、家族を大切に思っているのだ。たとえ表面上どのように言いつくろうが、人は己の心の奥底を偽る事はできない。

 

 レオスはリザを愛しており、たとえ世界を敵にしてでも守りたい存在だった。

 

 だからこそ捨てきる事ができなかったのだし、だからこそ殺す事もできなかった。

 

 全てを切り捨てでも栄光を求めるレオスと、捨てきれない物を背負って足掻くレオス。

 

 何と言う二律背反。

 

 この明確な二面性こそが、あるいはレオスの本性であるのかもしれない。

 

 更に激しくなる攻撃。

 

 ドラグーンが縦横に飛び交って砲撃を行い、時折、それに混じってブラッディレジェンドも攻撃を仕掛けてくる。

 

 それらを回避しながら、反撃のタイミングを計るヒカル。

 

 そんなヒカルを背後から見ながら、

 

「ねえ、ヒカル」

 

 カノンは声を掛けた。

 

「どうした?」

 

 対して、

 

 ヒカルは穏やかな声で応じた。

 

 今もなお続けられるレオスからの攻撃に対応しながら、それでもヒカルは優しくカノンを見やる。

 

 何か大事な話がある。

 

 戦闘中であるにもかかわらず、ヒカルは漠然とそう察した。

 

 だからこそ、待つ。

 

 カノンが話すのを。

 

 ややあって、カノンの小さな唇が開かれた。

 

「・・・・・・・・・・・・ヒカルはさ、もし、わたしを殺さなくちゃいけないってなったら、どうする?」

 

 突拍子の無い、そして物騒な質問である。

 

 しかし、同じ状況でレオスは躊躇いなく引き金を引いた。

 

 全ては、自らが目指す道にそれが必要だったから。

 

 だからレオスは、己の心の内を必死にひた隠してまで妹を討つ道を選んだ。

 

 対して、

 

「そうしなくてもいい方法を探す」

 

 ヒカルは一瞬もためらう事無く告げた。

 

「そんな方法が無かったとしたら?」

「それでも探す。俺はもう、俺の大切な人を絶対に死なせたりはしない」

 

 重ねられた質問にも、ヒカルは迷いなく言い切る。

 

 かつて、レミリアを守りきれず死なせてしまったヒカルにとって、それが誓いであり、そして正義でもあった。

 

 それは決して折れる事無く、最後まで貫き通される少年の剣。

 

 眩しいまでに白く輝く翼に他ならない。

 

 そして、

 

 そんなヒカルだからこそ、

 

 想いをこめて、カノンは口を開いた。

 

「ヒカル、わたし、ヒカルの事、好きだよ」

「カノン・・・・・・・・・・・・」

 

 このタイミングで?

 

 と言う思いはヒカルの中には無かった。

 

 カノンなら、アリなんじゃないか、とさえ思ってしまう。

 

「ああ・・・・・・・・・・・・」

 

 対して、ヒカルもまた、肩越しに笑顔を浮かべて応じる。

 

「俺も好きだよ、お前の事」

 

 幼馴染として、共に同じ時を歩んできた2人。

 

 その心が、

 

 今一つになった。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《良かった。これで2人は、いつも一緒だね》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、聞こえてきた声。

 

 振り向く2人。

 

 そこで、予想外の光景に思わず目を剥いた。

 

 

 

 

 

 クライブとの対峙を続けていたキラは、機体が感知した反応を見て、フッと息をついた。

 

「ようやくですか?」

「みたいだね」

 

 エストの言葉に、頷きを返す。

 

 2人の声は穏やかで、どちらの声にも、安堵と感慨のため息が混じっているのが分かる。

 

 あの戦いから半年。

 

 大切な人を失った悲しみに沈む息子を近くで見ていた2人にとって、この半年は拷問にも等しい時間であった。

 

 だが、それもようやく終わらせる事が出来た。

 

 母親の時は技術的な無理を克服する必要があった為、相応の時間がかかる事は避けられなかったが、今回はその技術自体を流用するだけだったので、比較的短時間で済んだことに加え、システムを大幅に改善する事が出来た。

 

 具体的な事を言えば、余剰システムを大幅に減らす事が出来たのだ。

 

 そう、たとえば「モビルスーツの拡張スペース」に搭載できるほどに。

 

 もっとも、それでも「呼び戻す」のに半年もかかってしまった訳だが。

 

「これで、ヒカル達も喜んでくれます」

「そうだね。苦労した甲斐があったよ」

 

 そう言って、キラとエストは笑い合う。

 

 と、

 

《ゴチャゴチャと何言ってやがる。とうとう気でも触れたか?》

 

 焦れたような苛立ちの声を発するクライブに、再び意識を向けた。

 

 これまでの戦いは、相変わらず伯仲している。

 

 クロスファイアの損害はブリューナク1基とドラグーン2基喪失。

 

 一方のディスピアは右のタルタロスを根元から斬り飛ばされている。

 

 しかし、両者とも未だに全力発揮可能な状態にある。

 

 そして、互いに未だ、勝負を投げる気は無かった。

 

「気が触れたっていう言葉なら否定はしないよ。もっとも、それは今に始まった事じゃないという点で自覚しているけど」

 

 言いながらキラは、クロスファイアの両手に装備したビームサーベルを構える。

 

 対抗するようにクライブも、ディスピアの手に装備したビームサーベルと、1基残ったタルタロスを構え直した。

 

「ハッ 自覚のあるキチガイ程、厄介な代物はいねえよ!!」

 

 クライブの言葉と同時に、

 

 クロスファイアとディスピアは、同時に斬り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒカルとカノン。2人が互いの顔を見合わせれば、恐らく同じ表情をしている事に気付く事だろう。

 

 目の前で起きている事が、信じられなかった。

 

 なぜなら、

 

「れ・・・・・・れ・・・・・・れ・・・・・・・・・・・・」

 

 口をパクパクと開閉させながら、ヒカルは必死に言葉を紡ごうとする。

 

 思考が状況に追い付こうとしているが、なかなか処理速度が上がらない。と言った感じである。

 

 それについては後席のカノンも同様らしく、先ほどから目をまん丸にしていた。

 

 そして、

 

「レミリア!?」

 

 ようやくの思いで、その名を呼んだ。

 

 モニターに映っているボーイッシュな感じの少女。

 

 それは間違いなく、半年前に死んだ筈のレミリア・クラインの姿だった。

 

《アハハ、驚いた? まあ、驚いたのはボクも同じなんだけどね。まさか、こんな事になるとは夢にも思わなかったし》

 

 そう告げるレミリアの声も、苦笑に満ちている。

 

 その姿を見て、ヒカルはこの件の仕掛け人が誰なのか、凡そ察しがついた。

 

 恐らく、というか十中八九、間違いなく父、キラの仕業だろう。

 

 ラクスを復活させた技術を用いて、レミリアをも復活させたのだ。

 

 頭痛がする。

 

 キラだけではない。恐らくエストもこの件は知っていた事だろう。

 

 知っていて秘匿していたのだ。

 

 いったい何のつもりなのか知らないが、とんだサプライズもあった物である。

 

 もっとも、悠長に構えている暇は無いのだが。

 

《2人とも、積もる話は後にしよう。今は目の前のアレを、どうにかしないと》

 

 言ってから、レミリアは、尚も攻撃を続けてくるブラッディレジェンドを指し示す。

 

 その間にもレオスは激しい攻撃を繰り出してきており、ヒカルは紙一重での回避を続けている。

 

 確かに、この状況を何とかしない事には、落ち着いて話をする事もできそうになかった。

 

「あ~もう!!」

 

 ヒカルはヘルメットをかぶっていなかったら、頭を掻きむしりたい衝動に駆られる。

 

 それだけ、事態は「ぶっとんで」いた。

 

 しかし、

 

 同時にヒカルは、自分の中に、余裕めいた感情が増幅するのを感じていた。

 

 一度は失ってしまったレミリアと、このような形とは言え再開する事が出来た。

 

 それだけでもう、望外の幸せと言える。

 

「お前、あとでちゃんと説明しろよな!!」

「積もる話は後でって言うか、むしろ積もる話しかないよね、これって」

 

 後席のカノンも不平を漏らしてくる。

 

 とは言え、その声にも若干ながら笑みが含まれている事を、ヒカルは聞き逃さなかった。

 

 カノンもまた、レミリアと再び会えたことが嬉しいのだ。

 

 ヒカル、カノン、レミリア

 

 ついに、3人の翼が一堂に会した。

 

 これならば、

 

 これならば、たとえどんな敵が来ようとも、負ける気がしなかった。

 

《2人とも、呼吸を合わせて》

 

 レミリアの指示の元、集中する3人。

 

 想いが一つに重なる。

 

 それこそが、全てを終わらせる鍵。

 

 次代へと羽ばたく翼。

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人同時にSEEDが弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が急激に広がる。

 

 否、

 

 そんなレベルの話ではない。

 

 まるで戦場全体に起こっている事が、リアルタイムで頭の中に流れ込んでくるような、そんな感覚。

 

 あらゆる感覚が加速し、全ての事象を同時に知覚できるようになる。

 

 視界に移る全てがスロー再生され、迸るビームですら、指で触れる事ができそうに錯覚する。

 

 そして、今や事態はそれだけではない。

 

 増幅されたヒカルの感覚は、

 

 次に何が起こるのかさえ、手に取るように把握できていた。

 

《これが、この機体の切り札だよ》

 

 気が付くと、

 

 実体化したレミリアが、生前と変わらない笑顔で話しかけて来ていた。

 

「切り札? これが?」

 

 尋ねたのはカノンだ。

 

 その表情は戸惑いに満ち、自身のみに何が起こっているのかさえ把握できていない様子だ。

 

 とは言え、把握できていないと言う意味では、ヒカルも同様なのだが。

 

《操縦者2人と、オペレーターであるボクがSEEDを同時に発動した場合、このシステムを起動する事ができるんだ。効果はごらんのとおり、戦場全体のあらゆる状況をリアルタイムで把握すると同時に、未来予測まで可能にするシステムだよ。名付けて、》

 

 デルタリンゲージ・システム

 

 OS開発に掛けては権威とも言えるヒカルの父、キラは、強大なプラント軍に対抗する最後の切り札として開発を行ったシステムである。

 

 SEED因子を媒介とするエクシードシステムと、歴代イリュージョン級機動兵器に搭載されて来た、短期未来予測を可能とするデュアル・リンクシステム。

 

 この2つを融合させ、高レベルで効果を相乗させる事で、戦況把握と未来予測を同時に行う事を可能にしたシステム。

 

 それこそが、デルタリンケージ・システムと言う訳だ。

 

《来るよ!!》

 

 レミリアの警告が奔る。

 

 次の瞬間、

 

 エターナルスパイラルを包囲したドラグーンが、一斉の砲撃を放つ。

 

 だが、

 

 その全てが、まるで図ったように、命中する事無くすり抜けて行った。

 

《何っ!?》

 

 驚愕するレオス。

 

 ヒカルはレオスの攻撃全ての軌跡を読み切り、紙一重で回避して見せたのだ。

 

《おのれッ!!》

 

 自身の攻撃を全て回避するエターナルスパイラルの姿を見て、苛立つように更に攻撃速度を上げるレオス。

 

 しかし、今度はカノンが動いた。

 

 両手に装備したビームライフルで、向かってくるドラグーンを次々と撃墜していく。

 

 その攻撃速度を前にして、レオスのドラグーンは攻撃を行う事すらできずに撃墜されていく。

 

 殆どのドラグーンを破壊し尽くされ、僅かに気が削がれるレオス。

 

 その隙を、ヒカルは見逃さなかった。

 

「貰ったッ!!」

 

 ティルフィング対艦刀を抜刀すると、不揃いの翼を羽ばたかせて一気に駆け抜ける。

 

《クッ!?》

 

 とっさにシールドを展開して、エターナルスパイラルを迎え撃とうとするレオス。

 

 そこへ、ティルフィングが振り下ろされた。

 

 火花が散り、視界を焼く中、一瞬の拮抗が齎される。

 

 次の瞬間、

 

 エターナルスパイラルの剣がブラッディレジェンドの盾を、押し切る形で斬り裂いた。

 

《クソッ!?》

 

 とっさにレオスは斬り裂かれた腕を肩からジョイントを外してパージ。爆発するに任せると、その爆炎を目くらましにして離脱を図る。

 

「逃がすか!!」

 

 更に追撃を掛けようと、ティルフィングを振り翳すヒカル。

 

 しかし、その行く手を遮るように、巨大な閃光が降り注いだ。

 

 見れば、ギルティジャスティスと交戦していた筈のゴルゴダが、撤退するブラッディレジェンドを掩護するように砲火を振り翳している。

 

 流石に無傷とはいかないらしく、4本ある両腕のうち2本を斬り落とされているが、それでも絶大な火力は健在だった。

 

 その砲撃に晒され、後退を余儀なくされるエターナルスパイラル。

 

 その隙に、リーブス兄妹はゴルゴダを分離してGアルファとGベータに変化すると、全速力で離脱していった。

 

 

 

 

 

 報告を聞き終えたPⅡは、端末を閉じて満足げに微笑を浮かべる。

 

 全ては、彼の計画通りに進んでいる。

 

「これで、オーブは再びプラントとの戦いに全力を注がざるを得なくなった」

 

 プラントにせよオーブにせよ、舞台を途中で降りるような真似は許さない。

 

 最後の一滴まで絞り出してから、両方とも力尽きて倒れてくれないと面白くないではないか。

 

 掲げるピエロの手。

 

 この手の中に世界が握られていると思えば、これほど愉快な事は無いだろう。

 

「さて、じゃあ、もう一つ整えた舞台を動かすとしますか。そろそろ、使い捨てる時だろうしね」

 

 そう言うとPⅡは、別の書類へと手を伸ばす。

 

 そこには、

 

「北米解放軍」

 

 の文字が、記されていた。

 

 

 

 

PHASE-09「目覚めの刻」      終わり

 




>レオス
まさか、直前でばれるとは(汗

>レミリア
さて、果たしてこっちは、何人の人が予測できたでしょうか?

我ながら、性格悪い事を自覚せざるを得ない今日この頃です(爆

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