機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-08「プラントの意志」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュウジはナナミを伴って大和の艦橋へと戻ると、直ちに状況の確認に入った。

 

 北方を警戒するアカツキ島が、敵の襲撃を受けたのは今から30分前。

 

 敵は爆撃によってアカツキ島のレーダーサイトを無力化すると、そのままオーブ領海内に侵入したらしい。

 

「状況はどうなっている?」

「ハッ 現在、オノゴロからAWACS型のイザヨイが発進して索敵に当たっています。程無く、敵の規模と位置が判るかと」

 

 オペレーターの報告に対し、シュウジは艦長席に座りながら頷きを返す。

 

 既にアカツキ島の基地は、敵の攻撃を受けて壊滅している。

 

 ユニウス戦役時にはカガリ率いるオーブ政府軍が本拠地として活用し、カーディナル戦役時には侵攻してきた地球連合軍の大軍を迎え撃つ拠点として活躍している。

 

 そのアカツキ島も、予想だにしなかった奇襲には耐えられなかった様子だ。

 

 不幸中の幸いなのは、アカツキ島に駐留していた戦力は、あくまでも警戒部隊のみであり、オーブ軍の主力はオノゴロとアシハラに集中させている。その為、基地施設こそ壊滅したものの、機動戦力の損害は最小限にとどめる事が出来た。

 

 しかし、予断の許される状況ではない。敵が領海内に侵入したのは事実であり、放置すれば甚大な損害を被る事になる。

 

 更に言えば、シン・アスカ、ラキヤ・シュナイゼルの両名は、部隊を率いてアシハラに駐留中である。今から出撃準備をしてかけつけても、恐らく間に合わないだろう。

 

 オーブ軍は現在本国に駐留している部隊のみで、未知の敵を迎え撃たなくてはならないのだ。

 

「本艦も直ちに出撃準備だ。ヒビキ二尉とシュナイゼル二尉は?」

「さきほど到着しました。現在、出撃準備中との事です」

「急がせろ。時はあまりないぞ」

 

 オペレーターの指示を飛ばしながら、シュウジは素早く頭の中で情報を整理する。

 

 ヒカルとカノンがいれば、こちらはエターナルスパイラル(切り札)を出す事ができる。

 

 その時、操舵手席に座ったナナミが振り返った。

 

「艦長、補助エンジン始動完了、大和、発進できます!!」

 

 頼もしい言葉が響く。

 

 これで少なくとも、アカツキ島のような奇襲を受ける可能性は無くなった訳だ。

 

 シュウジは頷くと同時に立ちあがった。

 

「ただちに出航シークエンスに入れ。出航と同時に、総員戦闘配備。敵がどこからくるかは判らない。警戒を厳にせよッ」

 

 シュウジの号令と共に、世界最大の戦艦がゆっくりと動き出した。

 

 

 

 

 

 背部にセンサードームを背負ったAWACS型のイザヨイが、海面を滑るように移動している。

 

 小国と言われるオーブだが、それは単に国土が狭いと言うだけに話であり、領海面積を加えれば広さはそれなりの物となる。

 

 その為、早期索敵に関しては、広い範囲をカバーできる航空戦力の役割が大きなウェイトを占めていた。

 

 その内の1機。北方の偵察を担当していたイザヨイが、アカツキ島まであと5分と言うところまで差し掛かっていた。

 

 敵が現れたのは、オーブの北部海域。そろそろ、敵の姿が見えてもおかしくは無い。

 

 イザヨイのパイロットが、そのように考えた時だった。

 

 突如、海面を割るようにして、機影が飛び出してきた。

 

 驚いたイザヨイパイロットは、とっさに操縦桿を倒して回避行動を取ろうとする。

 

 しかし、遅かった。

 

 振り上げられた腕が、無防備に横腹を向けたイザヨイへと襲い掛かる。

 

 戦闘機形態を取っているイザヨイだが、センサードームを装備したせいで、機動力は若干低下している。

 

 繰り出された攻撃に対し、回避する間は無かった。

 

 次の瞬間、殴り飛ばされたイザヨイは、胴体部分から真っ二つに折れて吹き飛んだ。

 

《キャハハハ、相変わらずのもろさよねッ 玩具みたーい!!》

《折角出張って来たのだから、精鋭を出してくれない事には話にならんがな》

 

 けたたましい笑い声と、それに呼応するような冷静な声が響き渡る。

 

 フレッド・リーブスとフィリア・リーブス。

 

 プラント保安局特殊作戦部隊に所属するリーブス兄妹は、久方ぶりの実戦に興奮を隠せずにいる。

 

 その2人が操る機体は、以前のテュポーン、エキドナとは異なっている。

 

 しかし、

 

 ある意味、より以上に禍々しい外見をしているように見える。

 

 そんな2人の視界の中で、蒼穹に黒い点が多数浮かび上がるのが見える。

 

 事態を察知したオーブ軍の主力が、スクランブル発進して向かってきたのだ。

 

 数は30機前後。流石に駐留全機を一時に発振させる事はできなかったようだが、それでも急場をしのぐ分には充分であると言える。

 

 対して、リーブス兄妹もまた、迫るオーブ軍の姿に高揚感を覚える。

 

《面白い、相手をしてやろう!!》

《少しは楽しませてよね!!》

 

 楽しげに言い放つと、リーブス兄妹は勇む足を止めずに踊り掛かって行った。

 

 

 

 

 

 着替えを済ませたヒカルとカノンは、駆け足で機体の元までやってくると、コックピットへと乗り込む。

 

 ヒカルは前席に座り、カノンは後席へ。いつも通りの配置となる。

 

 手早く機体を立ち上げ、稼働状態へと持っていく。

 

「カノン、大丈夫か?」

 

 ヒカルが声を掛けたのは、全てのシークエンスを終えようとした時だった。

 

 その言葉に、手を止めるカノン。

 

 この出撃招集命令が届いたのは、2人のデートの最中。

 

 更に言えばカノンがヒカルに「告白」しようとしている、正に直前だった。

 

 勿論、ヒカルには、カノンが何を告げようとしていたのかは判らない。

 

 しかし、少女が何か、秘めた思いを抱えている事だけは気付いていた。

 

 そんなヒカルに対し、

 

 カノンはニコリと微笑む。

 

「大丈夫だよ、わたしは」

「・・・・・・そか」

 

 カノンの言葉に、ヒカルはさばさばとした調子で頷く。

 

 深く追及はしない。相棒が大丈夫と言っているなら、それを信じるのが自分の務めだ。

 

 それ以降、プライベートな会話をする事無く、発進準備を進める2人。

 

 と、カノンのモニターがメッセージの着信をポップアップしたのは、作業を終えようとした時の事だった。

 

「ザッちから? 何だろう?」

 

 訝りながら、メッセージを開くカノン。

 

 すると、

 

 冒頭の分を読んだ瞬間、思わず吹き出しそうになった。

 

《告れなくて残念だったね》

 

 いきなりの先制パンチである。どうやら、どこかから見られていたらしい事に今更ながら思い至る。

 

 と言う事は恐らく、朝のコーディネートでさんざんカノンを着せ替え人形にしたヘルガとラクスも一緒であったことは疑いない。

 

 物理的な頭痛を覚えるカノン。

 

 文章は更に続いていた。

 

《帰ったら、ちゃんと告れると良いね》

 

 友人の余計な気遣いに、ありがたくも苦笑するしかないカノン。

 

 と、

 

《追伸:もし告れなかった場合、ヒカル君の端末宛に、これを送信する事にするからよろしく(ハート)》

 

 訝りながら、添付された画像を開くカノン。

 

「ブフォ!?」

 

 今度こそ、カノンは本気で吹き出した。

 

「ど、どうした?」

「な、何でもないッ 何でもないよ!!」

 

 突然のカノンの奇行に、訝りながら振り返るヒカル。

 

 対してカノンは、慌てて手を振ってヒカルを制する。

 

 添付されてきた画像。

 

 そこには、眠っているカノンの姿が映し出されている。

 

 ただし、生来の寝相の悪さが災いして、パジャマが捲れあがっており、可愛らしいオヘソとパンツが、盛大に丸出しになってしまっている。

 

 いったい、こんなものいつの間に撮ったのか? 油断も隙もあった物ではない。

 

 ともあれ、出撃を前にして緊張感に欠けること甚だしかった。

 

 一方で、悶えているカノンを余所に、ヒカルは発進シークエンスを進めていく。

 

 カタパルトデッキに機体を進ませると、ハッチが開き視界を蒼穹が埋めた。

 

 気合を入れ直すカノン。

 

 ここからは真剣勝負だ。呆けている余地は無かった。

 

 同時にカタパルトに灯が入る。

 

《APU起動、オンライン、カタパルト接続。エターナルスパイラル発進、どうぞ!!》

 

 スピーカーから、悪戯の主であるリザの声が響いて来る。どうやらヒカル達と同じく艦に着任して、交代要員と代わったらしかった。

 

 同時に、ヒカルとカノンは眦を上げた。

 

「ヒカル・ヒビキ」

「カノン・シュナイゼル」

「「エターナルスパイラル行きます!!」」

 

 打ちだされる機体。

 

 同時に、蒼穹に不揃いの翼が羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブ軍とプラント軍の戦闘は、プラント軍の有利なうちに推移していた。

 

 数は奇襲を前提にしたプラント軍よりも、オーブ軍の方が多い。しかも、今度は主力部隊を投入した上での戦いである。本来であるなら、オーブ軍の方が有利であってもおかしくは無い。

 

 問題は、プラント軍が投入した2機の機体にあった。

 

 寸胴の胴体に長く太い手足を直接取り付けたような機体は通常のモビルスーツよりも、明らかに一回りは大きな巨体を誇っている。にも関わらず、鈍重な見た目とは裏腹に機敏な動きを示し続け、今も群がろうとするオーブ軍機を屠り続けている。

 

《どうしたのか~ 歯ごたえが無いんですけどー?》

《所詮は雑魚、と言うべきだろうな》

 

 それぞれオーブ軍機を叩き潰しながら、フレッドとフィリアは嘲笑を吐き続ける。

 

 GアルファとGベータ。

 

 それが2人の操る機体の名称である。

 

 機体フレームは双方ともに同じである為、どちらがそうなのかは、見た目では判断しづらい物がある。

 

 だが、その戦闘実力は脅威そのものであり、オーブ軍も遠巻きに包囲しながらも攻め寄せる事ができないでいた。

 

《そんなにノロノロしてると、食べちゃうわよー!!》

 

 言いながら、オーブ軍の陣列に突撃していくフィリア。

 

 同時に機体を旋転させながら、両腕を豪快に振るう。

 

 さながら、小規模な竜巻と言った風情である。

 

 振り回されるGベータの巨大な腕が、複数の機体を薙ぎ払おうとした。

 

 その時、

 

 飛来した閃光が、Gベータを直撃して押し戻した。

 

《アハァ!?》

 

 笑みを含んだ声と共に、フィリアは攻撃を受け止める。

 

 しかし、凄まじい衝撃がコックピットに襲い掛かって来た。

 

 とっさに陽電子リフレクターを展開して防御したものの、それでもこれまでにない威力の攻撃を前に、フィリアは口笛を吹く。

 

 その視線の先、振り仰いだ彼方で、

 

 蒼き6枚の右翼と、紅き炎の左翼。

 

 不揃いの両翼を広げた機体が、睥睨するように見下ろしていた。

 

《アッハッハ 来た来たァ!!》

 

 言いながら勇むように急上昇を掛けるフィリア。

 

 それに呼応するように、フレッドも挟み込むように背後に回りながら接近して行く。

 

《いつもながらの重役出勤とは、余裕だな!!》

 

 言いながらフレッドも、攻撃を仕掛けるタイミングを計る。

 

 一方、ヒカルはドラグーン4基を引き戻してマウントすると、改めて向かってくる2機を見やった。

 

「ヒカル、あいつらって」

「ああ、あの忌々しい動きには、随分と見覚えがあるよ」

 

 カノンの言葉に、ヒカルは迷いなく頷きを返す。

 

 以前、何度も戦った事のある2機だ。機体は変わっていても、その暴虐な動きには変化は無い。見誤る筈が無かった。

 

 2機の方でもヒカルの存在に気付いたのだろう。連携する動きを見せながら向かってくる。

 

「行くぞ!!」

 

 ヒカルはティルフィング対艦刀を抜き放つと、ヴォワチュール・リュミエールとスクリーミングニンバスを展開。高速機動を発揮してGベータ目がけて斬り込んで行く。

 

 対抗するようにフィリアも、全砲門を開いてエターナルスパイラルを迎え撃つ。

 

 空中で迸る閃光。

 

 しかし、

 

 放たれる砲撃を高速ですり抜けるエターナルスパイラル。

 

 距離を詰めると同時に、真っ向からティルフィングを振り下ろす。

 

 しかし、それよりも早くフィリアは陽電子リフレクターを展開。ヒカルの斬撃を受け止めた。

 

 否、

 

 振り抜かれた剣が盾に接触した瞬間、衝撃の押されGベータは空中で後退を余儀なくされる。

 

 正面からのぶつかり合いで、エターナルスパイラルは自身よりも一回り大きな機体に押し勝ったのだ。

 

《パワーアップは充分みたいね!!》

 

 バランスを崩す機体の中で、フィリアは歓喜の声を発する。

 

 今までにないレベルで復活を遂げてきた魔王の存在に、笑いが止まらない様子だった。

 

 そのエターナルスパイラルの背後からは、Gアルファが両手指のビームキャノンを振り翳して迫った。

 

《もっと見せて見ろッ その性能、我らが試してやろうではないか!!》

 

 放たれるビームキャノン。更に腹部と胸部に合計4基備えた複列位相砲も火を噴く。

 

 駆け抜ける閃光が、エターナルスパイラルに向かう。

 

 だが、

 

 閃光が捉えたと思った瞬間、エターナルスパイラルの機影は霞のように消え去った。

 

 舌を打つフレッド。

 

 ヒカルは背後からの攻撃を見越し、光学幻像を囮にしていち早く離脱する事に成功していたのだ。

 

 そして、本物は既に、彼等の上空で攻撃態勢を取っていた。

 

「行けェ!!」

 

 ドラグーン、ビームライフル、レールガン。

 

 24連装フルバーストを構え、カノンは一斉に撃ち放つ。

 

 降り注ぐ砲撃に対して、とっさにリフレクターを張り巡らせて防御するフレッドとフィリア。

 

 その光景を見ながら、ヒカルは確信に近い思いを抱いていた。

 

 機動力、攻撃力、その他所性能において、エターナルスパイラルはGアルファとGベータを凌駕している事は、ここまでの一連の戦闘ではっきりしていた。

 

 加えて、ヒカルとカノンの操縦技術も、リーブス兄妹と比べて先んじていると言える。

 

 流石に1対2と言う状況では苦戦もするだろうが、それでも状況を決定づける要因足りえる事は無い。

 

 敵も切羽詰まって次々と新型を繰り出してきている感があるが、自分達とエターナルスパイラルならば、そんな敵であっても充分に対応できる。

 

 だが、

 

 ヒカルはまだ、判っていなかった。

 

 自分達が対峙している2機の、真の恐ろしさを。

 

 切り札を持っているのは、何も自分達だけではないのだと言う事を。

 

《埒が明かんな、フィリア、やるぞッ》

《了解。楽しくなってきたじゃない!!》

 

 言い放つと、フレッドとフィリアは互いの機体を軸線上に並ぶようにして上昇させる。

 

 エターナルスパイラルを引き離す形で、2機はどんどん高度を上げていく。

 

「何をする心算!?」

 

 相手の意図が判らず、首を傾げるカノン。

 

 ヒカルは構わず、エターナルスパイラルを上昇させて2機を追撃する。

 

 と、次の瞬間、変化は起こった。

 

 Gベータの脚部と腕部が伸長するように変形すると、その下部からは巨大なスラスターが出現する。

 

 更にGアルファの腕部が2倍近くに伸び、逆に脚部は背中側へと折り畳まれ、更に複眼の頭部が出現する。

 

 同時に2機はアルファを上に、ベータを下にしてドッキングする。

 

 次の瞬間、それまでは2機だった機体が、1機の巨大機動兵器へと変貌した。

 

 太い四肢と頭部に、通常の機体の10倍はありそうな威容。腕に至っては4本も存在している。

 

 その禍々しさだけで、こちらは圧倒されてしまいそうだった。

 

「何ッ!?」

「う、そでしょ!?」

 

 ヒカルとカノンは、思わず絶句する。

 

 度肝を抜かれるとはこの事だが、この展開を誰が予想し得た事だろう?

 

 恐らくはデストロイ級に属しているのだろうが、それにしても、そこに内包されたギミックには舌を巻かざるを得ない。

 

 ZGMF-X56D「ゴルゴダ」

 

 それは旧地球連合の技術とザフトの技術を融合させて開発された「合体・分離」が可能なデストロイ級機動兵器だった。

 

 元々、デストロイ級の弱点は、その巨体からくる機動性の低さにある。こればかりは、多少、エンジン出力を上げたからと言って解消できるような物ではない。巨大な物質を動かす時には、どうしても避けられない慣性の増大が出現する。これまでのデストロイ級機動兵器は、その点がネックとなっていた。

 

 その点、ゴルゴダは任意で合体分離が可能となって居る為、戦況に応じて火力と機動性を使い分ける事もできる。

 

 かつてザフト軍が開発したZGMF―X56S「インパルス」のように、機体各所を分離して無線で操縦する案も検討されたが、そちらは技術的に難があるとして見送られている。

 

 しかし、そのような些事など考慮にも値しないような威容が、ゴルゴダにはあった。

 

 まさにデストロイ級機動兵器における、一つの進化形と言える。

 

 次の瞬間、

 

 攻撃を開始するゴルゴダ。

 

 GアルファとGベータの火力がそのまま集約され、四腕合計20本の指から放たれるビームキャノンに、ボディ部分にある8門の複列位相砲、更に頭部の砲も開かれてエターナルスパイラルを狙い撃ちする。

 

 対して、ヒカルはとっさに不揃いの翼を羽ばたかせて機体を上昇させ回避する。

 

 駆け抜けた閃光が、大気を容赦なく撹拌しているのが判る。

 

 熱気は、コックピットを通してさえ、肌を直接焼くような錯覚を感じてしまう。

 

 元々、GアルファとGベータは核エンジンを搭載している。それが合体する事で、出力は相乗効果を発揮し、桁違いの威力を発揮しているのだ。

 

 エターナルスパイラルの後方で、戦況を見守っていたオーブ軍機が、直撃を浴びて吹き飛ばされるのが見える。

 

 あまりの事態に回避運動が間に合わず、攻撃に巻き込まれてしまったのだ。

 

「クソッ!?」

 

 味方の機体が上げる火球を尻目に見ながら、ヒカルはとっさに機体を翻すと、ティルフィングを振り翳して斬り込んで行く。

 

 放たれる閃光をすり抜けて一気に肉薄。大剣による斬撃を袈裟懸けに繰り出すエターナルスパイラル。

 

 だが、その攻撃は陽電子リフレクターによって弾かれた。

 

 分離状態ならパワー負けする事は無かったエターナルスパイラルだが、流石に自身の10倍は威容がありそうな機体が相手となると分が悪い。

 

 舌打ちしながら後退を掛けるヒカル。

 

 そこへ、リーブス兄妹が追い討ちを掛けた。

 

 手指ビームキャノン、ボディ、及び頭部の合計9基ある複列位相砲を、不用意に接近したエターナルスパイラル目がけて撃ち放つ。

 

 強烈な閃光が、奔流となって襲い来る中、

 

 ヒカルはとっさに、翼をは馬鹿セルと機体を旋回させる。

 

 間一髪。

 

 放たれた攻撃は全て、空間を薙ぎ払うにとどまった。

 

「このッ!?」

 

 ヒカルはティルフィングを背中のハードポイントに収めると、今度は腰の鞘から高周波振動ブレードを抜刀する。

 

 更に、

 

「カノン、ドラグーンだ!!」

「判った!!」

 

 ヒカルの指示に従い、カノンは左翼のカバー部分から4基のドラグーンを射出、攻撃位置へと移動させる。

 

 一斉に放たれる攻撃。

 

 しかし、それに対してリーブス兄妹は陽電子リフレクターを展開して防御する。

 

 ゴルゴダの注意がドラグーンに逸れたと判断したヒカルは、一気に斬り込みを掛ける。

 

 両手に装備した高周波振動ブレードを一閃、シールドを斬り裂く。

 

 消失するビーム面。

 

 アンチビームコーティングの刃が、容赦なく斬り裂く。

 

 更に追撃を、

 

 そう思った次の瞬間、

 

「ッ!?」

 

 突如、コックピットに警報が鳴り響き、ヒカルはとっさに機体を後退させる。

 

 次の瞬間、縦横の軌跡を描いて放たれた閃光が、直前までエターナルスパイラルがいた空間を薙ぎ払って行った。

 

 舌打ちするヒカル。

 

「新手かよッ!?」

 

 正直、目の前の「デカブツ」だけでも厄介だと言うのに、ここに来て更に新手にまで対応しなくてはならないとなると、かなりの過重になる事は間違いない。

 

 そんなヒカル達の視線の先で、

 

 巨大な突起物を装備するユニットを背負った真っ赤な機体が、挑発するように滞空しているのが見えた。

 

 ZGMF-X666B「ブラッディレジェンド」

 

 世界で初めてドラグーンを正式装備した機体の後継に当たり、より強力なドラグーン多数を操る事に特化した機体である。

 

 そして、

 

《よう、その機体、ヒカルで間違いないよな?》

「ッ!?」

 

 突然掛けられた気さくな声に、思わずヒカルは息を呑んだ。

 

 懐かしくも忌まわしいその声。

 

 悪意をちりばめた響きは、否応なくヒカルの心にある傷を抉り出す。

 

「レオス・・・・・・・・・・・・」

《元気そうで何よりだよ。新しい機体に乗れてご機嫌か?》

 

 かつての仲間。

 

 そして裏切者であり、レミリアの仇でもある。

 

 そのレオスが、再び自分達の前に現れていた。新たなる機体と共に。

 

「そんな、レオス君・・・・・・」

《何だ、カノンも一緒かよ。お前等、本当に仲良いよな。もう、死んだ奴の事はどうだって良い感じか?》

 

 レオスの言葉に、ヒカルはギリッと歯を噛み鳴らす。

 

 レオスの言っているのが、レミリアの事であるのは明らかだった。

 

 レミリアを殺したレオス。

 

 そして、レミリアを守れなかったヒカル。

 

 その二つの事実を認識したうえで、レオスは悪意と共に台詞を吐き出しているのだ。

 

 何が最も効果的な挑発になるか、レオスは理解した上で話しを進めていた。

 

「ヒカル」

「・・・・・・ああ、判っているよ」

 

 心配そうなカノンの言葉に、ヒカルは絞り出すような低い声で返事をして、自身の中にある感情を飲み込んだ。

 

 今ここで、激昂する事に意味は無い。レオスの戦闘実力の高さは知っているし、未知の新型の性能も気になる所だ。

 

 冷静さを失えば負ける。その事は誰よりも、ヒカル自身がよく判っていた。

 

 次の瞬間、

 

《そら、行くぞ!!》

 

 言い放つと、レオスは搭載するドラグーンを一斉射出した。

 

 12門の砲を持つ大型ドラグーン6基、2門の砲を持つ小型ドラグーンが14基。

 

 合計で90門の一斉射撃がエターナルスパイラルに襲い来る。

 

 対して、ヒカルは一瞬早く攻撃範囲から退避。レオスの攻撃を回避する事に成功する。

 

 しかし

 

《そらそらッ まだだぞ!!》

 

 言いながら、ドラグーンによる波状攻撃を仕掛けてくるレオス。

 

 対して、カノンはビームライフルとレールガンによる一斉砲撃を敢行。数機のドラグーンを攻撃前に破壊する事に成功する。

 

 だが、それにも構わず、レオスは更なる攻撃を仕掛けてくる。

 

 大多数のドラグーンを用いた物量攻撃は、レオスの得意とするところである。その圧倒的な火力は、1基や2基のドラグーン喪失など物ともしていない様子だ。

 

 縦横に駆けまわりながら砲撃を行うドラグーン。

 

 しかも、脅威はそれだけではない。

 

《背中がガラ空きとは、随分と余裕だな。恐れ入るよ!!》

《よそ見しちゃやーよッ》

 

 分離したGアルファとGベータが、挟み込むようにしてエターナルスパイラルに迫ってくる。

 

 分離した事で機動力を上げた2機は、巨大な両腕を振るって殴り掛かる。

 

 その攻撃を、ヒカルは不ぞろいの翼を羽ばたかせて上昇を掛け回避。

 

 その間にカノンがレールガンを展開して牽制の攻撃を加え、Gベータの接近を許さない。

 

 しかし、リーブス兄妹の攻撃によって、ヒカル達の意識が僅かに逸れてしまう。

 

 レオスは、その隙を突いてきた。

 

 嵐のような砲撃を、エターナルスパイラルに襲い来る。

 

 とっさに、ヒカルはシールドを展開して防御を試みた。

 

 放たれる閃光を、ビームの表面が弾く。

 

 しかし、動きを止めたエターナルスパイラル目がけて、ブラッディレジェンドがビームサーベルを振り翳して斬り込んで来た。

 

《貰ったぞ、ヒカル、カノン!!》

 

 振りかざされる光刃。

 

 しかし次の瞬間、

 

 割って入った深紅の機体が、鋭い一閃によってレオスの剣を弾いていた。

 

《相変わらずの姑息さだな。反吐が出る》

 

 低い声で囁きながら、アステルのギルティジャスティスは、エターナルスパイラルを守るように両手のビームサーベルを構える。

 

 それに対して、ブラッディレジェンドからは、くぐもった笑い声が漏れ聞こえてきた。

 

《良いじゃないか、これで「元お仲間」が全員そろったわけだ。まるで同窓会みたいで嬉しいね》

「興味無いな」

 

 素っ気なく言うと、アステルは威嚇するように前へと出る。

 

 合わせるように、ヒカルも高周波振動ブレードをエターナルスパイラルの両手に構えて背中を合わせる。

 

「アステル」

《呆けている暇は無い》

 

 素っ気ない一言が、今は逆に頼もしく感じる物である。

 

 次の瞬間、両者は同時に仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は短時間の内に逆転しつつあった。

 

 元々、先のカーペンタリア攻防戦において多数の兵力を失ったプラント軍に、再度の攻勢をかけるの余力は残っていない。

 

 当然ながら、投入できる兵力にも限界があった。

 

 せいぜいが1個部隊。それも、カーペンタリアが失われた今、オーブを攻撃可能な拠点はハワイのみとなっている。

 

 そうなると、取れる戦術も限られてくる。

 

 当初は奇襲によって戦況を優位に進めていたプラント軍も、オーブ軍主力が戦線に加入し始めると、その優位性を徐々に失っていった。

 

 そんな中、戦場の一角において、単機で奮戦を続ける機影があった。

 

 クロスファイアである。

 

 オーブ軍主力の半数がアシハラに配備されている現状、投入可能な戦力は全て投入する必要がある。

 

 その為、居合わせたターミナルの部隊も、戦線に加入していた。

 

 キラはビームサーベルを振るい、接近を図ろうとしていたガルムドーガ1機を斬り捨て、更に返す刀でリューンの翼を斬り飛ばす。

 

 高度を下げていく敵機を尻目にドラグーンを射出、更にビームライフルとレールガンを展開してフルバーストモードへと移行した。

 

 一斉に放たれる閃光。

 

 それらは、接近を図ろうとしていた敵を、一撃のもとに全滅させてしまった。

 

「・・・・・・しかし、判らないね」

「何がですか?」

 

 ドラグーンを回収したキラの呟きに、後席のエストが尋ねる。

 

「敵の意図だよ。何で、今になって攻めて来たのかな?」

 

 キラにはずっと、そこが引っ掛かっていた。

 

 今のタイミングで、プラント軍が攻勢に出るメリットは少ない。多少の攻撃程度で、主力軍が駐留しているオーブ本国に大打撃を与える事は難しいし、下手をすると貴重な戦力をすり減らす事になる。否、後者の方は既に現実となりつつあった。

 

 そのような状況で攻勢を仕掛ける事に、いったい何の意味があるのか?

 

 この戦闘に対する敵の意義が、キラには全く見い出せなかった。

 

「こちらの戦力を少しでも削いでおきたかったのでは?」

「それで本国防衛用の戦力をすり減らしてしまったら本末転倒だよ」

 

 妻の言葉を、キラは言下に否定する。

 

 どう考えても、この戦闘はプラント軍の立場から言えば無意味以外の何物でも無いと感じたのだ。

 

 その時だった。

 

 突如、彼方から放たれた閃光が、クロスファイアに襲い掛かった。

 

「キラッ」

「判ってる」

 

 エストの警告に従いビームシールドを展開するキラ。

 

 シールド表面が飛来した閃光を弾くのを確認してから、ビームライフルで反撃する。

 

 敵機はクロスファイアの攻撃を沈み込むようにして回避しながら、両肩に装備した独立ユニットを展開して向かってきた。

 

《よう、キラッ 相変わらずのご機嫌振りだな!!》

「クライブ・ラオス!?」

 

 予想はしていた事だが、宿敵の登場にキラの警戒心は一気に高まる。

 

 あの男の危険度は他の比ではない。警戒し過ぎると言う事は無かった。

 

「いったい何のつもりだ、この馬鹿騒ぎは!?」

《ハッ 知らねえよ、お偉いさんの考える事なんざなッ 俺等はただ、愉快に戦争できればそれで良いだろうが。お互いよォ!!》

「何度も言わせるなッ 一緒にするな!!」

 

 言いながら、キラはブリューナクを構えるとクロスファイアをDモードへと移行させて斬り掛かって行く。

 

 対抗するように、クライブもタルタロスとビームサーベルを振り翳してディスピアを前へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 ゴルゴダの放つ圧倒的な砲撃を前にして、ヒカルは一瞬も怯む事無く正面から向かっていく。

 

 不揃いの翼を羽ばたかせて閃光を紙一重で回避。同時に、抜き放ったティルフィング対艦刀を真一文字に振り抜く。

 

 しかし、それよりも一瞬早くリーブス兄妹は機体を分離させ、上下に分かれる事でエターナルスパイラルの攻撃を回避する。

 

 舌打ちしながら、機体を振り返らせるヒカル。

 

 そこへ、反対側からギルティジャスティスが斬り込んで行くのが見える。

 

 手にした刃を一閃するアステル。

 

 対して、フレッドはその斬撃を陽電子リフレクターで弾きつつ、複列位相砲を斉射。牽制の攻撃を加える。

 

 Gアルファからは発射された閃光を、紙一重で回避するアステル。

 

 だが、そこへ、ビームサーベルを振り翳したブラッディレジェンドが斬り込んで来た。

 

《ハハッ もう完全にオーブの一員だなアステル。昔のテロリストが大した出世だよ!!》

「そう言うお前は、随分と落ちぶれたな。プラントの飼い犬に慣れ果てるとは」

 

 言い募るレオスに対し、アステルは冷静な口調で返す。

 

 同時にブラッディレジェンドを蹴りつけて距離を取りつつ、ビームライフルで牽制射撃を行う。

 

《言ってくれるなッ 裏切者はお互い様だろうが!!》

「一緒にするな」

 

 更に斬り掛かろうとするアステル。

 

 しかし、再びゴルゴダへと合体を遂げたリーブス兄妹が、上空から覆いかぶさるようにしてギルティジャスティス。

 

 アステルは舌打ちすると、仕方なく、そちらへ対処すべく機体を振り返らせた。

 

 その間にヒカル達が、再びレオスと対峙する。

 

 剣戟を交差させつつ距離を取り、レールガンとビームライフルを斉射するエターナルスパイラル。

 

 対してブラッディレジェンドは攻撃をビームシールドで防御しつつ、ドラグーンを射出する。

 

 包囲するように展開するドラグーン。

 

 舌打ちしつつ、ヒカルはエターナルスパイラルの右手掌に装備したパルマ・エスパーダを起動、3基のドラグーンを一閃で切り払う。

 

「どういうつもりなんだ、レオス!!」

 

 尚も繰り返されるドラグーンの攻撃を回避しながら、ヒカルは叩き付けるようにして問いかける。

 

「いったいなぜ、お前がこんな事をする!!」

 

 それはこれまで、何度も問いかけてきた質問だった。

 

 なぜ、レオスは裏切ったのか? 妹と言う掛け替えの無い存在を犠牲にしてまで、なぜ?

 

 今までは、その質問を全てはぐらかしてきたレオス。

 

 しかし、

 

《そうだな、そろそろ話しても良いか》

 

 妙に乾いた口調で、レオスは呟くように言った。

 

 レオスが裏切った理由。

 

 否、自らの全てを賭して、ヒカル達を陥れ、更にはレミリアの命すら奪った理由。

 

 それが今、本人の口から語られようとしていた。

 

 

 

 

 

PHASE-08「プラントの意志」      終わり

 




機体設定

ZGMF-X56D「ゴルゴダ」

武装
5連装ビームキャノン×4
破砕掌×4
4連装複列位相砲×2
単装大型複列位相砲×1

パイロット:フレッド・リーブス
      フィリア・リーブス

備考
プラント軍が旧地球連合軍と自軍の技術を掛け合わせて開発したデストロイ級機動兵器。かつてのインパルスに用いられた技術を基に「合体・分離」が可能になっており、合体時には火力と防御力が、分離時には機動力が優先される。デストロイの持つ「大型故の機動力の低さ」と言う特定の弱点を克服した、一つの完成形であるとも言える。





ZGMF-X666B「ブラッディレジェンド」

武装
大型ドラグーン6基
小型ドラグーン14基
近接防御機関砲×2基
ビームサーベル×2
ビームライフル×1
ビームシールド×2

パイロット:レオス・イフアレスタール

備考
レジェンドの後継機に当たる機体で、主にドラグーンの数と攻撃力強化に重点を置かれている。合計で90門に達する砲門は脅威であり、物量を活かした戦術が可能となっている。

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