機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼 作:ファルクラム
1
かつて、北米統一戦線で「さいきょう」と呼ばれた二人。
最強と呼ばれた少女と、最凶と呼ばれた少年の激突は、最終局面を迎えようとしていた。
進退が完全に極まったレミリア。
背後からはリフターが砲撃準備を整え、ブーメランは旋回しながら接近、更にギルティジャスティス本体も剣を振り翳して迫っている。
逃げ道は完全に塞がれた状態である。
アステルが必勝を期して放った攻撃が、レミリアを完全に追い詰めていた。
そのまま留まればリフターの砲撃か、ブーメランの刃を喰らう。
さりとて回避すれば、体勢が崩れたところに、ギルティジャスティス本体に距離を詰められて斬られる。
迎え撃つには手が足りない。流石に、三方向を同時にカバーする事はできない。
万事休す。
かと思われた、次の瞬間、
レミリアのSEEDが弾ける。
同時に、スパイラルデスティニーの動きは鋭さを増した。
放たれる、リフターからの攻撃。
その閃光が機体を貫く。
しかし次の瞬間、閃光が貫いたスパイラルデスティニーの機影は、霞のように消え去ってしまった。
「何ッ!?」
まことに珍しい事に、アステルが驚愕の声を上げる。
アステルが慌てる所を見るなど、レミリアにとっては初めての事かもしれない。
光学幻像によってリフターからの攻撃とブーメランを同時に回避したレミリアは、そのまま、未完成におわった包囲網を尻目に、ギルティジャスティス本体へと向かう。
その事に気付いたアステルも、迎え撃つべく身構える。
だが、必勝の策が崩れた事で、アステルの動きに僅かな鈍りが見える。
ビームサーベルを振り翳すギルティジャスティス。
しかし、レミリアの動きは、それよりも速かった。
振り上げるスパイラルデスティニーの腕に、光るパルマ・フィオキーナ。
狙うは、サーベルを持つ拳。
接触。
次の瞬間、ギルティジャスティスの右腕は上腕部まで一気に打ち砕かれる。
「クソッ!?」
焦るアステル。
とっさに、体勢を立て直しながら、右足にビームブレードを展開。回し蹴りを繰り出す。
だが、
それすらも、レミリアは上回って見せた。
刃が機体を捉える前に上昇して回避。同時に、連装レールガンを斉射して、ギルティジャスティスに砲撃を浴びせる。
体勢を崩し、高度を下げるアステル。
どうにか迎え撃とうと操縦桿を握り直した時、
レミリアは既に自身の間合いに入っていた。
腰からビームサーベルを抜刀するスパイラルデスティニー。
振り下ろされた刃が、ギルティジャスティスの左腕を肩から切断する。
最後のあがきとばかりに、アステルは脚部のビームブレードを繰り出すが、それよりも速く、レミリアは刃を返してギルティジャスティスの右足を大腿部から切断する。
勝敗は、決した。
《・・・・・・・・・・・・殺せよ》
オープン回線で放たれた言葉が、レミリアの鼓膜を震わせる。
殺す。
アステルを・・・・・・
幼い時を共に過ごした幼馴染を殺す。
そうしなくてはいけない。そうでなければアステルは、この先、何度でも自分の前に立ちはだかるだろう。
好悪の問題ではない。
アステル程、感情面がドライな人間をレミリアは知らない。彼は必要とあれば親でも友人でも殺す。昨日の味方であっても躊躇いはしない。
殺さなくてはならない。今後、自分が生きていくうえで必要な事である。
しかし、
レミリアは武装を収めると、踵を返す。
《おいっ》
抗議するようなアステルの声が聞こえて来るが、彼好みの対応をしてやるつもりは、レミリアにはさらさら無かった。
「・・・・・・・・・・・・殺せるわけ、ないじゃん」
ややあって、ポツリと返事をする。
それに対するアステルの返事は無い。呆れているのか、それとも怒っているのか?
レミリアとしては、どっちでも良かった。
アステルをここで殺さなかった事で、この先後悔するかもしれない。という思いは無くは無いが、それでも殺して後悔するよりは、ずっとましだと思った。
「友達を殺せるほど、外道に堕ちたつもりはないよ」
乾いた声で言った言葉に対し、アステルの返事は無い。
レミリアはそのまま、アステルを置き去りにして飛び去って行った。
2
とんだ計算違いだ。
オーブ軍を預かるカンジ・シロサキ中将は、沈痛な面持ちで頭を抱えた。
フロリダ会戦時、北米派遣軍を指揮した経験のある彼は、カーペンタリア条約締結後、見る影もない程に弱体化したオーブ軍の事実上の最高責任者として、どうにかこれまでやってきたのだ。
彼自身は軍人としては「平凡」と言う評価を得ていたが、少ない予算をやりくりして、どうにかオーブ軍の戦力を維持してこれたのは、シロサキの手腕によるところが大きいだろう。
今回の戦い、彼に出番はない物と考えられていた。
そもそも、今のオーブ正規軍には碌な戦力は無い。保有艦艇は輸送船と掃海艇が数隻ある程度だし、保有機動兵器もモビルスーツが50機に、あとは旧来のVTOL機や戦闘機が大半である。
実質的な「反乱軍」とは言え、かつてのオーブ軍主力が根こそぎ参加しているに等しい自由オーブ軍と正面から激突するのは愚の骨頂以外の何物でも無い。
加えて、防衛を担当するプラント軍側からは、今回の戦いにおいてオーブ軍は後方支援に徹するように通達があった。
シロサキとて純然たるオーブ軍人である。他国の軍隊から、居丈高にこのような命令をされる事は腹立たしい事この上無いのだが、それも致し方ない事である。今や、オーブの実質上の支配者はプラントなのだから。
カーペンタリア条約以後、オーブが奪われたのは戦力だけではない。
政治は全てプラントから派遣されてきた監督官によって牛耳られ、経済はプラント支援の方向で切り換えられている。また、国民は重い重税にあえいでいる。
この分では、今年の冬は持ち越せても、来年の冬には餓死者が出る事も避けられないのでは、と考えられた。
しかし、それに対して抗議する力も、権利も、オーブには無かった。
公的にはオーブは、共和連合を裏切って敵と内通した反逆者となっている。今のオーブにおける現状は、いわばその為のペナルティーのような物なのだ。
故に、シロサキは自身の不満を腹の内に収め、黙々と与えられた任務を果たす事に専念するしかなかった。
だが、
そんな状況が、僅か数時間で逆転しようとしていた。
自由オーブ軍が行った無茶その物の作戦は、しかしプラント軍の戦力を大きく打ち砕き、支配者の地位から転落させるのに充分な物だった。
高空から降り注いだ炎の嵐はプラント軍の戦線を、一瞬にして崩壊させてしまったのだ。
大半の戦力を失ったプラント軍は、今や防戦すらままならず散り散りになっている有様である。
そして、
そこへ勝敗を決するべく、白亜の巨艦がヤラファスの海岸線へと突っ込んで来ようとしていた。
「アークエンジェル・・・・・・・・・・・・」
そのシルエットを知る1人の幕僚が、呆然として呟きを漏らす。
アークエンジェル。
かつて、オーブ軍の名の元で各地を転戦し、多くの戦いに勝利した伝説の不沈艦。
オーブ軍にとっての勝利の象徴。
それが今、敵艦となってオーブに攻め込もうとしていた。
その時、
《前方に展開中のオーブ軍に告げる》
スピーカー越しに、凛とした女性の声が聞こえてきた。
気品が溢れながらも、どこか野性味を感じさせる魅力的な声で。ただそこにいるだけで、背筋が伸びるような力が込められている気がする。
《私の名はカガリ・ユラ・アスハ。かつて、この国の代表をしていた事もある者だ。今は故あって自由オーブ軍と行動を共にしている》
カガリの名は、流石に知っている者も多かった。
旧オーブ連合首長国最後の代表であり、共和国建国の母。ヤキン・ドゥーエ戦役、ユニウス戦役、カーディナル戦役を戦い抜いた英雄である。
いわば、オーブにとっては象徴とも言える人物である。
《私達は、あなた達と戦う気は無い。ただ、国を取り戻し、国民を解放したいと願って、ここにやって来た》
カガリの言葉は真摯な物で、誰の胸にも響き渡るような存在感がある。
だが、残念ながら、その言葉が真実であると言う保証はどこにも無いし、確かめるすべもない。
シロサキは迷っていた。
自身の今の立場を考えれば、すぐにでも攻撃命令を下すべきだろう。相手は逆賊。「今の」オーブに仇を成そうとする存在に過ぎない。
たとえ敵わずとも抵抗の意志を見せ、オーブ人としての誇りを刻むべきかもしれない。
そこへ、追い打ちをかけるように、カガリは告げる。
《警告は一度きりだ。諸君等が抵抗の意志を示した時点で、我々は即座に攻撃する用意がある。以後の申し出には一切応じる用意は無いと思って欲しい・・・・・・・・・・・・すまない》
最後の一言には、まさにカガリの祈るような気持ちが込められていた。
どうか抵抗しないでくれ。
どうか、我々を行かせてくれ。
そんな思いが伝わってくる。
いよいよ、シロサキは追い詰められた。
理性は、オーブ防衛の為に、今すぐ攻撃を開始すべき、と言っている。
しかし、感情面では、カガリに加担したいと言っている。
彼とて、唯々諾々と従ってはいても、現状のオーブの在り方に不満が無い訳ではない。国民を解放し、元のオーブに戻りたいと言う思いはあった。
だが、もしここで、仮に自由オーブ軍が勝って解放されても、そこで戦争が終わるとは思えない。プラントは、必ずや報復行動に出るだろう。
ここを乗り切っても、待っているのは世界最大の国家との全面戦争である。そして、その戦争にオーブが勝てるとも思えない。
ならば、ここでオーブの誠意を示しておき、戦争以後のオーブ・プラント間の関係を保つ一助となる事も必要なのではなかろうか。
そう考えるシロサキ。
手はゆっくりと、振り上げられる。
そのまま、攻撃開始の命令を下そうとした。
次の瞬間、
「味方、突出します!!」
オペレーターからの声に、思わずハッとなって動きを止める。
煮え切らないシロサキの判断に業を煮やした一部の味方が、先走る形でアークエンジェルへと向かったのだ。
「いかんッ!!」
思わず振り上げた手を降ろすのも忘れて、シロサキは叫ぶ。
このままでは、無秩序な戦闘に突入し、何の益も無いまま終わってしまう。
倒れるとしても、オーブと言う国の為、国民の為、有意義な倒れ方をしなくては何の意味も無い。犬死は、軍人の死に方としては最低の死に方である。
だが、もうどうにもならない。
先走った味方が、カガリが乗ると思われる深紅のイザヨイへと向かっていく。
迎え撃つように、カガリを守るレイとルナマリアも武装を構えた。
今にも攻撃が開始される。
そう思った次の瞬間、
駆け抜けた炎の翼が、戦線を斬り裂く。
手にした巨大な剣が数度に渡って奔り、今にも攻撃を開始しようとしていたオーブ軍の機体から、武装を弾き飛ばした。
《そこまでだ、オーブ軍。抵抗するな!!》
雄々しく4枚の炎の翼を広げた機体。
オーブ製のデスティニー級機動兵器であるギャラクシーを駆って戦場に駆け付けたのは、オーブの守護者シン・アスカ。
一軍を相手にして尚、怯む事の無い存在を相手に、弱体化したオーブ軍は物の数ではない。
今も、手にしたドウジギリ対艦刀を振り翳して威圧している。ただそれだけで、誰もがすくみ上る思いだった。
《ここは俺が抑える。カガリは行政府へ行けッ この戦いを終わらせるんだ!!》
《すまないッ シン!!》
友人の援護に感謝しながら、カガリはアークエンジェルと2機のエクレールを従えて進んで行く。
それに襲い掛かろうとするオーブ軍機の姿もあったが、その全てをシンは、ドウジギリを振るって牽制し、一歩たりとも前へは進ませなかった。
悠然と通過していく白亜の巨艦と、かつての主君。
それを、オーブ軍の皆は、ただ呆然と見守る事しかできなかった。
巨大な腕が旋回すると、炎の翼が羽ばたいてそれを回避する
ディスピアの攻撃を、蒼い翼のクロスファイアは回避すると同時に、ビームライフルとレールガンを斉射して砲撃を叩き付ける
対してクライブは、その攻撃を回避し、あるいは背部の巨大腕で受け止めながら前へと進む。
振るわれる巨大な鉤爪を、キラは沈み込むようにして回避。同時に抜き放ったビームサーベルを、鋭く斬り上げる。
対してクライブは、ビームシールドを展開してクロスファイアの斬撃を防ぎ止める。
発する火花が視界を白色に染める。
「それにしても、良く生きていたな!!」
鍔競り合いを繰り返しながら、キラは言外に「迷惑だ」と言う思いを込めて言葉を投げる。
とは言え、そのようなキラの感情をクライブが考慮するはずも無かった。
《良い時代になったもんだよなー!! 死んだ人間すら生き返らせられるんだからよォ!!》
あのヤキン・ドゥーエ要塞での決戦の折、キラが放った攻撃は、確かにクライブの機体を貫いた。
その後、ヤキン・ドゥーエの爆発に巻き込まれた事を考えれば、クライブが生きている可能性は皆無に等しいはずだったのだが。
しかし、クライブは生きていた。
身体の半分近く失い瀕死の重傷を負いながら漂流していたクライブだったが、辛うじて命を長らえた。
瀕死の彼を拾ったのは、PⅡだった。
当時、既に世界に情報網を張り巡らせて暗躍を始めていたPⅡは、クライブの存在を知り興味を持った。
そこで、彼に再生治療を施して、文字通り復活させたのである。
《実際の話、インプラントってのは便利だよッ 馴染むまでが面倒くせェが、生の体よりも調子いいくらいだよッ!!》
今のクライブは、体の大半を人工物に取り換える事によって生きながらえている状態である。
CE世代に入って飛躍的に向上した医療技術は、再生治療の分野においても示されている。
その成果は、今まさに猛威を振るっているクライブを見れば一目瞭然だろう。
クライブ自身、自身を救い治療を施してくれたPⅡに対して感謝もしている。彼に協力しているのは、要するにそう言う理由からだった。
クライブはビームサーベルを抜き放つと、スラスター全開で斬り込んでくる。
対抗するように、キラも機体をDモードに変化させると、光学幻像を引きながら攻撃を回避。同時にブリューナク対艦刀を振り翳して斬り結んだ。
3
プラント軍の劣勢は、いよいよ確実な物となりつつあった。
既に指揮系統がまともに機能している部隊は皆無であり、兵士達は孤軍奮闘に自分達の命運を委ねざるを得ないでいる。
そうなると、少数とは言え軍の体裁を維持しているオーブ軍の敵ではない。
秩序だった連繋で攻め寄せてくるオーブ軍に対し、絶望的な奮戦するプラント軍の兵士達は、徐々に散り散りになりながら後退していく以外に無かった。
敗勢濃厚なプラント軍と、一気呵成に攻勢に出るオーブ軍の戦いは最終局面を迎えつつある。
そんな中、
ついに、
この2人が戦場で対峙した。
ティルフィングを振るい、ガルムドーガ1機を斬り捨てたヒカルは、センサーに、急速に接近しようとしている機体がある事に気が付いた。
そのスピードから、相手が量産型ではない事はすぐに気付く。
「こいつは・・・・・・・・・・・・」
乱戦の際、カノンともはぐれてしまい、今はエターナルフリーダムの周囲に味方はいない。
自身の予想が外れている事を祈りつつ、エターナルフリーダムを振り返らせる。
だが、
希望はあっさりと覆された。
蒼天にも鮮やかな深紅の翼を広げ、スパイラルデスティニーが向かってくる。
それを見た瞬間、
ヒカルはついに、レミリアとの対決が不可避の物となった事を悟った。
レミリアの方でも、エターナルフリーダムに気付いたのだろう。ゆっくりと速度を落とし、滞空するような形で正面に停止した。
《ヒカル・・・・・・・・・・・・》
「レミリア・・・・・・・・・・・・」
互いに名を呼び合って、向かい合う。
2人の間に、ほんの一瞬だけ、他とは違う空気が流れる。
惹かれ合い、遠くにいて尚、思いを通わせながら、ついに、この最果てまで至ってしまったヒカルとレミリア。
ここが終点だ。
これより先に道は無く、後にはただ、奈落が待ち受けるのみ。
生き残るのは1人。
踏みとどまるのは1人だけ。もう片方は、転落する運命を既に刻まれている。
「・・・・・・・・・・・・どうにか、できなかったのかよ?」
堪らずに、ヒカルは尋ねた。
これまで何度も、ヒカルはレミリアに手を伸ばした。
一緒に来いと何度も言った。
だが、レミリアは、ついにヒカルを選ぶ事は無かったのだ。
《・・・・・・・・・・・・お姉ちゃんがね、人質にされているんだ》
ややあって、レミリアも返す。
《ボクが負けたら、奴等はお姉ちゃんを殺す。裏切っても殺す。北米統一戦線が壊滅した時点で、ボクの運命はこうなる事は決まっていたんだよ》
運命。
結局のところ、レミリアは己を縛る鎖を断ち切る事ができず、運命の命ずるままに、ここまで引きずられてきたのだ。
一方のヒカルはと言えば、己の枷を強引に食いちぎり、常に流れに逆らう事でここまでやって来た。
自分にできない事を成したからこそ、レミリアはヒカルに惹かれたのだ。
一方のヒカルもまた、そんなレミリアを追い求め、救いたいと願ううちに、彼女に惹かれて行った。
互いの想いは、通い合っている。
しかしそれでも尚、2人が交わす物は愛ではなく剣である所は、悲劇以外の何物でも無いだろう。
「・・・・・・・・・・・・もう、引き返せないのかよ?」
《・・・・・・・・・・・・うん。ごめん》
言葉は、自分達の運命を再確認する。引き返すくらいなら、互いにこんな所にまで来たりはしないだろう。
言いながら、ヒカルとレミリアは互いにビームサーベルを抜いて構える。
互いにここに来るまでに、だいぶ消耗している。
エターナルフリーダムはここまで、テュポーン、エキドナ、クリムゾンカラミティと交戦する事で、高周波振動ブレード2基、ビームライフル2基、バラエーナ1基を失っている。
一方のスパイラルデスティニーもギルティジャスティスとの交戦で、ドラグーン5基、ビームライフル1基、ミストルティン2基を失っている。
互いに万全ではない。
だが、機体本体の損傷は皆無に等しく、両者とも未だに全力発揮は可能な状態だ。
翼を広げる。
蒼き12枚の翼と、紅き炎の翼。
次の瞬間、
ヒカルとレミリアは、己が守るべき物を守るために激突した。
仕掛けたのは、レミリアが先だった。
機体を旋回させながらビームライフルを斉射。向かってくるエターナルフリーダムに向けてビームを放つ。
対して、ヒカルは攻撃をスクリーミングニンバスで防ぎながら、距離を詰めて斬り込む。
既に両者、瞳にはSEEDの輝きがある。
条件は同じ。
否、エクシード・システムの支援がある以上、僅かにヒカルの方が有利に思えるのだが、
詰まる、両者の距離。
しかし、ヒカルが接近する前に、レミリアは次の手を打った。
3連装バラエーナと、連装レールガンを跳ね上げて、10連装フルバーストを敢行する。
消耗して尚、その火力は絶大。エターナルフリーダムの3倍以上を誇っている。
回避するヒカル。しかし、体勢が崩れた。
そこへ、レミリアが斬り込む。
光学幻像を駆使してヒカルの視界を攪乱しつつ接近。ビームサーベルを振り翳す。
迫る刃。
しかし、一瞬早く、ヒカルが反応した。
光刃を横滑りして回避しつつ、レールガンを斉射。
驚いた事に、殆ど零距離から放ったにもかかわらず、レミリアは回避して見せた。
「クッ!?」
まさかかわされるとは思ってい無かったヒカルは、悪態をつきながら追いすがる。
向かってくるエターナルフリーダムの鼻っ面目がけて、レミリアは3連装バラエーナによる砲撃を仕掛ける。
対してヒカルは、とっさに沈み込むようにして高度を落としながら回避すると、次いで急接近し、斬り上げるように剣閃を振るった。
その攻撃を、シールドを展開して受けるレミリア。
同時に、残っていた3基のドラグーンを飛ばし、エターナルフリーダムへ包囲攻撃を仕掛けに掛かる。
舌打ちしながら後退するヒカル。
今のエターナルフリーダムは、ビームライフルを失っている状態である。速射ができる武装が減っている状態で、ドラグーンを相手取るのは流石にしんどい。
だが、それでもヒカルは、どうにか後退して距離を取ると、残るバラエーナ1基と、レールガンで3連装フルバーストを形成し、追撃してくるドラグーンを迎撃する。
レールガンの放つ砲撃がドラグーン1基の破壊を確認すると、強引にねじ込む形で距離を詰めに掛かる。
対抗するように、レミリアもビームサーベルを構える。
振るわれる刃。
ぶつかり合う両者。
《アハハ、懐かしいね!!》
火花を散らしながら、レミリアが笑いながら声を掛ける。
《士官学校時代は、こうやって毎日、シュミレーターで模擬戦を繰り返したっけ!?》
「そうだったな!!」
ヒカルも、笑いながら応じる。
その脳裏に浮かぶ、今はもう戻る事の出来ない輝かしい日々。
2人にとって、あの時ほど穏やかに流れた時間は無かっただろうし、今後訪れる可能性も皆無だ。
だが、この一時だけは、ヒカルも、そしてレミリアも、あの時に戻ったかのような懐かしい感覚に身を委ねている。
「あれは楽しかったな!!」
《ボク達2人でやりすぎて、他のみんなに顰蹙買ったっけ!?》
互いの刃を盾で弾き、切り返してきた光刃を回避する。
「カノンの暴走に巻き込まれて、3人で一緒に罰掃除やらされたり!!」
ヒカルが繰り出す剣を、レミリアは回避、同時に連装レールガンを跳ね上げて砲撃を行う。
対して、ヒカルは上昇して回避しつつ、更に距離を詰めようとする。
《ヒカルが寝坊したせいで、ボクまで連帯責任だって言われたりさッ》
「お前だって、筆記テストの時、解答欄全部ずらして書くとか、間抜けな事やってただろうが!!」
《だって、あの時は、徹夜して疲れてたから・・・・・・て言うか、何でさっきから失敗談義みたいになっている訳!?》
「そりゃ・・・・・・」
楽しいからに決まっているだろ。
ヒカルは己の感情を、包み隠さず言葉にして吐き出す。
それに対して、
レミリアも全くの同意だった。
2人の会話を、カノンは僅かに離れた場所で聞き入っていた。
囲まれたせいでヒカルと一時的にはぐれてしまったが、その後、カノンは敵を一掃してようやく追い付いてきたのである。
だが、カノンが戦場に到着した時には既に、ヒカルとレミリアの戦いは始まってしまっていた。
蒼空でぶつかり合う蒼と紅の翼。
両者が入れ替わりながら剣を振るい続ける光景は、黙示録に記された大天使と魔王の激突を思わせる。
だが、
「ヒカル・・・・・・・・・・・・レミリア・・・・・・・・・・・・」
2人の名を、カノンはそっと呟く。
やはり、あの2人は惹かれあっている。
今のカノンには、それが手に取るように判った。
胸に去来するのは、ある種の疎外感。
あの2人は自分が望んでも、決して届かない場所で戦っている。
それは、ある種の「聖域」と言っても良かった。
ドラグーンの放つ攻撃を、ヒカルはヴォワチュール・リュミエールの機動力でもって回避する。
同時に、エターナルフリーダムの手は、背部に装備したティルフィング対艦刀に伸びた。
いい加減、流石に疲労の色が濃い。
しかし、それでも尚、互いに負けられない思いがある以上、退くわけにはいかなかった。
一方のレミリアも、流石に疲労は隠せずにいた。
当初は優勢だったプラント軍も、戦線が崩壊して以後はレミリアに掛かる負担も増大している。そこに来て、アステル、ヒカルと、心身ともに疲れる相手と戦っているのだ。
細身の少女には、ヒカル以上に疲労が積み重なろうとしていた。
両者、もう、そう長くは戦えない。
それが判っているからこそ、最後の勝負に出る。
ティルフィングを振りかぶるエターナルフリーダム。
対抗するように、スパイラルデスティニーは2基のドラグーンを射出し、更に全火砲を展開する。
ヒカルは接近戦で、レミリアは砲撃戦で勝負を掛ける。
先制したのはレミリア。
高速で接近を図るエターナルフリーダムに、スパイラルデスティニーの砲撃を襲い掛かる。
必中の意志と共に放たれる砲撃。
対して、突撃中のエターナルフリーダムに回避は間に合わない。
掠める砲撃が、左翼の6枚を吹き飛ばす。
一瞬、崩れるバランス。
しかし、それも一瞬だ。
すぐにOSが補正を行い、翼の欠損で失われたバランス機能と機動性を残った右翼に移譲して回復を図る。
全ての砲撃をすり抜けるヒカル。
レミリアは、とっさにビームライフルの銃口を向けようとするが、その銃身を、一瞬早く振り抜かれたエターナルフリーダムのパルマ・エスパーダが斬り裂く。
至近距離の爆発で互いの視界が焼かれる中、ヒカルは振り上げたティルフィングを真っ向から振り下ろす。
だが、僅かにずれた間合いによって刃は正中を捉えきれず、スパイラルデスティニーの右翼を斬り裂くにとどまった。
体勢が、大きく崩れるエターナルフリーダム。
そこへ、勝負を掛けるべく、レミリアがパルマ・フィオキーナを振り翳す。
スパイラルデスティニーの掌が、エターナルフリーダムの左腕を握りつぶす。
対抗するように、ヒカルも残った右手のパルマ・エスパーダを起動して、突き出した状態のスパイラルデスティニーの右腕を斬り落とす。
身体、精神、機体
全てがボロボロ。
それでも両者、最後の力を振り絞る。
「これでッ!!」
《最後だ!!》
互いに、もはや武器を構える余裕はない。
エターナルフリーダムはパルマ・エスパーダを、
スパイラルデスティニーはパルマ・フィオキーナを、
それぞれに振り翳して交錯する。
次の瞬間、
スパイラルデスティニーの掌が、エターナルフリーダムの頭部を破壊する。
対して、
エターナルフリーダムの刃は、スパイラルデスティニーの脇腹を抉る。
次の瞬間、両者は互いに力尽きるように、
もつれ合いながら眼下の海へと落下していった。
PHASE-43「最果てで交差する蒼紅の翼」 終わり