機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-42「宿縁のエース達」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の両親は、生前はそれなりに権威のある遺伝子研究員だったそうです。当時、私はまだ小さかったので、そこら辺の細かい事情は聞かされていないのですが、それでも私の記憶の中で、白衣を着て研究に没頭する父と母の姿は印象として残っています」

 

 語り始めるイリアに対し、アスランは黙したまま聞き入っている。

 

 これから始まる話の内容は、アスラン達が最も聞きたかったことであり、そしておそらく、プラントの最も暗部に位置する類の話であろう。

 

 セプテンベル市はプラント草創期から遺伝子工学を司り、多くのコーディネイターを、文字通り「製造」してきた場所である。当然だが、中には非合法な物も多く含まれている。かく言う、アスランの亡き父パトリック・ザラも、コーディネイターの出生率解消と称して、多くの研究と新しい遺伝子構造を持つコーディネイターの「製作」をセプテンベルに命じた過去がある。アスランにとっても、決して他人事の場所ではないのだ。

 

「ラクス・クラインが病床に倒れる以前から、アンブレアス・グルックは、より能力の高いコーディネイターを作り出すべく、密かにセプテンベルの研究機関に対して資金援助を行っていました。その援助を受けていた研究員の中に、私の両親もいました」

「それは、たとえば戦闘用コーディネイターとか?」

「それもありますが、おおよそ各分野に置いて秀でた能力を発揮できるよう、遺伝子調整をされたコーディネイターを作る事が目的だったみたいです」

 

 聞いていて、アスランはおぞましい思いに捕らわれていた。

 

 イリアの話では、まるで人間を機械か何かの部品のように扱っているように思える。

 

 否、実際にそうなのだろう。グルックにとっては、能力を特化させたコーディネイターは、社会機構と言う巨大構造物を維持するための部品に過ぎず、自身の政権を強化、維持するための道具であると言う訳だ。

 

 ただ、こうしたやり方自体は、何もグルック政権に限った事だけではない。たとえば、火星の自治権を獲得しているマーシャンと呼ばれる人たちは、同様に各分野に秀でた能力を持つコーディネイターを振り分ける事で、効率の良い社会を構築しているらしい。

 

 また、かつてギルバート・デュランダルも、そういったやり方を拡大発展させた「デスティニープラン」を立案し、導入実行しようとした経緯がある。

 

「私の両親も、苦しんでいたみたいです。よく『こんな物は人間じゃない。私達は人間を生み出そうとしているのであって、部品を製造しているのではない』って、父が涙交じりに漏らしていました」

 

 その時の事を思い出し、イリアは僅かに笑みを浮かべる。

 

 両親は、確かに許されない事をしたかもしれない。

 

 しかし、決して、望んでそのような事をしたわけではないと思えば、苦悩も僅かに和らぐのだった。

 

「そんな中、アンブレアス・グルックから、新たな依頼が入ったのです。内容は、『あらゆる能力を超越したコーディネイターを産み出せ』だったと思います」

「あらゆる能力を、超越・・・・・・・・・・・・」

 

 言葉を反芻しながら、アスランはある人物の事を考えていた。

 

 アスランの友人にも1人、似たような誕生経緯を持つ人物がいるからだ。

 

「そうして完成したのが、対外的には私の妹、と言う事になっている、レミリア・バニッシュでした」

 

 そう、

 

 イリアとレミリアは、血が繋がっていない。完全なる赤の他人であるのだ。

 

 だが、その事を知っているのはイリアだけであり、レミリアは何も知らないまま、姉を守ると称して戦いに赴いているのだった。

 

「では、隠された記述の中に書かれていたのは・・・・・・」

「恐らく、レミリアの事だと思います」

 

 確かに、それが本当なら、正にプラントの暗部に関わる事であり、やりようによっては充分、グルック政権に打撃を与える事ができるだろう。

 

 だが、別段、隠すような事でもないように思える。

 

 確かに、あらゆるコーディネイターを越える能力の持ち主ともなれば、プラントにとっても切り札になるだろう。しかし、だからと言って、それを隠す理由にはならない筈だ。

 

 まだ、何かある。

 

 アスランの直感が、そう告げていた。

 

「ですが、良心の呵責に耐えられなくなった父と母は、私とレミリアを連れてプラントから逃げ、当時すでに小規模な紛争が起こっていた北米へ、旧知のクルト・カーマインを頼って落ち延びたんです」

 

 逃げた、とは言え、自身のプッシュする研究における集大成とも言うべきレミリアの存在をグルックが見逃すとも思えない。一度は逃げても、いずれは見つかって奪われてしまうだろう。そこでイリアの両親は、あえて紛争地帯に逃げ込む事で、グルック派の目を逸らそうとしたのだ。

 

 しかしその後、両親は紛争に巻き込まれて死亡し、路頭に迷ったイリアとレミリアは、活動家であったクルトが立ち上げた、北米統一戦線に入った訳である。

 

「君達の事情は分かった。その上で聞きたいのだが、なぜ、その事をアンブレアス・グルックは隠さなければならなかったんだ?」

 

 アスランが聞きたいのは、そこである。

 

 レミリアに関する情報は厳重に封印され、レジスタンスは今もって、閲覧できる状態ではない。

 

 そこまで隠していたと言う事は、隠さなければならない何かがあったと言う事である。

 

「それは・・・・・・・・・・・・」

 

 アスランの質問に対し、イリアはやや躊躇ってから語り始める。

 

 だが、

 

 その語られた内容は、アスランを大きく動揺させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣戟が激突し、両者、反発を利用するようにして離れる。

 

 同時にレミリアは、攻撃方法を接近戦から砲撃戦へと切り替えた。

 

 ジャスティス級機動兵器の特性は接近戦にある。ならば、圧倒的な砲撃力でもって当たれば、充分に勝機はある筈だった。

 

 8基のドラグーンを射出すると同時に、ビームライフル、3連装バラエーナ、連装レールガンを展開。52連装フルバーストを解き放つ。

 

 迸る強力な閃光は、デストロイ級すら凌駕するほどの威力で大気を焼き斬っていく。

 

 しかし、

 

「それが、どうしたッ」

 

 低く唸りながら、アステルは急激に高度を落として射線から回避する。

 

 これまでの戦いから、レミリアのやり方は充分に心得ている。そうそう、思い通りにさせる心算は無かった。

 

 突撃を開始するアステル。

 

 対抗するように、レミリアもドラグーンを飛ばしてギルティジャスティスの動きに牽制を掛ける。

 

 包囲するように空中に配置されたドラグーンから縦横に放たれる砲撃は、しかしアステルの俊敏な動きがわずかに上回る。

 

 砲撃をすり抜けて迫るギルティジャスティス。

 

 対して、レミリアもミストルティン対艦刀を引き抜いて応じる。

 

 激突する両者。

 

 互いの剣を回避し、同時に離れながら砲撃で応戦する。

 

 レミリアは8基のドラグーンを、今度は上空に配置し、雨を降らせるように砲撃を繰り出す。

 

 対してアステルは、その攻撃をシールドで防御しながら、一気に距離を詰めに掛かった。

 

 接近する両者。

 

 アステルは間合いに入ると同時に、両手のビームサーベル、両脚部のビームブレードを展開、一気に斬り掛かる。

 

 対抗するように、レミリアもミストルティン対艦刀を構えて迎え撃つ。

 

 交錯する両者。

 

 次の瞬間、スパイラルデスティニーの左手に持ったミストルティンが、音を立てて折れ飛ぶ。

 

 一瞬早くアステルの剣が決まり、レミリアの斬撃に勝ったのだ。

 

「クッ!!」

 

 舌打ちするレミリア。

 

 同時に、ドラグーンを引き戻して牽制の砲撃を入れる。

 

 しかし、それを読んでいたアステルは、ビームライフルを引き抜いて斉射。ドラグーン2基を撃ち落とす。

 

 焦りを覚えるレミリア。

 

 アステルは、確実にレミリアの動きを先読みして追い込みをかけてきている。

 

 そんなレミリアに対して、アステルはあくまで冷静に対応しつつ、レミリアの動きを封殺するように戦術を組んでいた。

 

 

 

 

 

 一転した流れは、今や怒涛の勢いと化して流れようとしていた。

 

 先の宇宙空間からの散弾攻撃により、兵力の大半を撃破されたプラント軍は、今や碌な戦線構築すらできない有様と化していた。

 

 指揮系統もズタズタに寸断され、自分達がいまどのような状態に置かれているのかすらわかっていない状態である。

 

 それに対して、当初は苦戦を強いられていた自由オーブ軍だったが、作戦成功後は一転して攻勢に転じ、右往左往するプラント軍に猛攻を仕掛けている。

 

 イザヨイが鋭い機動と見事なフォーメーションを見せて敵陣へと斬り込み、砲火を集中させてプラント軍の機体を討ち取って行く。

 

 戦況の天秤は今や、自由オーブ軍側に傾いていると言っても過言ではない。

 

 そんな中、クライブはコックピットに座して戦況を確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「良いね。良い感じに出来上がって来たじゃないか」

 

 状況はプラント軍にとって、極めて不利。

 

 しかし、そのような状況にあって尚、クライブは状況を楽しんでいた。

 

 犬死は彼の戦争美学の中では愚の骨頂。

 

 しかし「苦戦」は大歓迎である。味方が苦戦していると言う事は、彼にとって暴れられる環境が十全にある事を意味しているからだ。

 

 その為に必要な「玩具」も用意してある。後は飛び込んで行くだけである

 

「さて、行くとするか」

 

 一声唸ると、機体のスロットルを開いた。

 

「クライブ・ラオス、ディスピア、出るぞ!!」

 

 言い放つと同時に、見るからに禍々しい印象のある機体が宙に飛び立った。

 

 

 

 

 

 ヒカルのエターナルフリーダムは、全軍の先頭に立つ形で進撃を続けていた。

 

 その後方には、戦闘機形態を取っているカノンのイザヨイが付き従っている。

 

 互いに寄り添うように飛行しながら、群がる敵を排除。徐々に、オーブ上空へと近付こうとしていた。

 

 2人の更に後方からは、自由オーブ軍の部隊が付き従っていた。

 

 作戦が成功した直後から、それまでは強固だったプラント軍の戦線は大いに乱れ、それ故に進軍が容易になったのだ。

 

 このままなら、一気に本島に達する事ができるか?

 

 誰もが、そう思い始めた時。

 

 突如、強烈な閃光が吹き荒れた。

 

「ッ 下がれ!!」

 

 とっさに、ヒカルは前に出ながらビームシールドを展開。飛来した攻撃を防御する。それにより、エターナルフリーダムの背後にいたカノンの機体も守り通す。

 

 しかし、後方にて待機していた機体が何機か、攻撃に巻き込まれるのが見えた。

 

 ヒカルが歯噛みする中、攻撃の主が姿を現した。

 

 複数のドラグーンを束ねる大型のユニットを引き戻した深紅の機体が、立ち塞がるようにして姿を現す。

 

 その様を見て、ヒカルはギリッと歯を鳴らした。

 

「レオス・・・・・・お前かよ・・・・・・」

《久しぶり、て程でもないよな、ヒカル。ジブラルタル以来か》

 

 レオスの駆るクリムゾンカラミティ。

 

 過去に北米で一度、そしてつい先日、ジブラルタルで二度目の激突を経験した強敵である。

 

《レオス君、レオス君なの、それに乗っているのは!?》

《ああ、カノン。お前も来たのか。悪いな、お前の機体、俺が壊しちまったから、そんなしょぼい機体で出るしかなかった訳だな》

 

 嘲弄が混じった言葉に、カノンがギリッと歯を鳴らすのが判る。

 

 かつての仲間が初めて向けてくる敵意に対して、言いようの無いやるせなさが込み上げてくるのは避けられない。

 

 そんなカノンを制するように、ヒカルが前へと出た。

 

「御託は良い、レオス。ここに来たっていう事は、やり合う気なんだろ」

 

 容赦はしない。そのニュアンスを込めながら、ヒカルは両手のビームライフルを構える。

 

 対抗するように、モニターの中でクリムゾンカラミティも身構えるのが見えた。

 

《そんな事、いちいち確認すんなよ!!》

 

 言った瞬間、

 

 双方、同時に仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリムゾンカラミティから切り離された4基のグレムリンが、更に搭載された各8基、合計32基のドラグーンを分離する。

 

 グレムリン本体に搭載されている合計48門のビーム砲と合わせると、都合80門もの砲撃が、一斉に襲い掛かってくる。

 

 かつて、デストロイ級機動兵器を除くと、これ程の代火力を単体で運用した機体は他に無い。

 

 放たれる一斉攻撃に対し、

 

 ヒカルはヴォワチュール・リュミエールとスクリーミングニンバスを展開、強引に距離を詰めに掛かった。

 

 放たれる攻撃を全てスクリーミングニンバスで弾きながら、前へと進むエターナルフリーダム。

 

 だが、その姿を見て、レオスはニヤリと笑った。

 

「やっぱ、その手で来たかよ!!」

 

 言いながら、ビームバズーカ、複列位相砲、ビームキャノン、盾内蔵砲を構えて撃ち放つ。

 

 迸る閃光。

 

 それを目撃したヒカルは、

 

「ッ!?」

 

 とっさに攻撃を諦めて回避を選択する。流石に、スクリーミングニンバスだけで防ぐのは不可能と判断したのだ

 

 駆け抜けていく閃光が足元の大気を撹拌する中、ヒカルは急激に方向転換を掛けつつ、全武装を展開する。

 

 そこへ、殺到してくる大小のドラグーン。

 

 放たれる砲撃を前に、ヒカルもフルバーストで応戦する。

 

 たちまち、複数のドラグーンが撃破されて空中に爆炎を咲かせる。

 

 しかし、やはり火力が違い過ぎた。

 

 すぐに、レオスの攻撃はヒカルの対応可能限度を超えて襲い掛かってくる。

 

「くっそッ!?」

 

 舌打ちしながら、ヒカルは迎撃を諦めると、回避行動に転じる。

 

 手数では完全に負けている。

 

 ならば、こちらの得意分野で攻めるしかないだろう。

 

「行くぞ!!」

 

 ヒカルは再びヴォワチュール・リュミエールを展開すると、ティルフィング対艦刀を抜刀し、最高速度で斬り込みを掛ける。

 

 その凄まじい加速力を前に、流石のレオスも、僅かに対応が遅れる。

 

「ウオッ!?」

 

 強烈な斬り付けに対し、とっさにシールドを掲げて防御を試みるレオス。

 

 しかし、衝撃までは殺しきれず、刃が立てに接触した瞬間、クリムゾンカラミティは大きく高度を落とした。

 

 そこへ、ヒカルはすかさず追撃を掛けようと、ティルフィングを構え直す。

 

 だが、そこまで許す程、レオスも甘くは無い。

 

 落下しながらもドラグーンを引き戻すと、エターナルフリーダムを牽制するように砲撃を仕掛ける。

 

 対して、ヒカルはとっさに後退しながら、防御に徹する以外に無かった。

 

 

 

 

 

 進撃を続けるアークエンジェルは、今や無人の野を行くが如く、その行き足を止め得る者など存在しなかった。

 

 巨大な戦艦が波を蹴立てて進撃する様は、それだけで敵を威圧するのに十分な光景であると言うのに、そこに加えて守っているのは、地球圏でも最強クラスのエース達である。

 

 並みの雑兵では相手にすらならないだろう。

 

 近付こうとすればクロスファイアやエクレールが狙撃を行い、近付こうにもアークエンジェルが齎す強烈な火線に絡め取られて、前へ進む事すらできない。

 

 だが、それはあくまで一般兵士レベルでの話である。

 

 そして、「それ」は、一般兵士のレベルからはあまりにもかけ離れていた。

 

 複数のオーブ軍機を屠りながら向かってくる機体は、まるで闇に染め上げたような漆黒の装甲を持っている。

 

 背中から突き出した巨大な「腕」が目を引く特徴的な機体を見た瞬間、レイは思わず目を剥いた。

 

「あれは!?」

 

 その禍々しい外見に、思わず絶句を余儀なくされる。

 

 迎え撃つか、と機体を振り返らせるレイ。

 

 だが、

 

 その前に、レイを庇うようにしてクロスファイアが前へと出る。

 

「キラッ」

《あいつの相手は僕達がするッ レイは他のみんなと一緒にカガリを掩護して!!》

 

 言い置くと、キラは炎の翼を羽ばたかせて、敵機を迎え撃つべく突撃していった。

 

 

 

 

 

 キラがレイを差し置く形で迎撃行動に出たのは、向かってくる漆黒の機体に対して、感じる物があったからに他ならない。

 

 動物的直観とでも言うべきか、本能にも似た何かが告げていた。

 

 奴の相手は、自分がしなくてはならない、と。

 

 そして、幸か不幸か、その想いは杞憂ではなかった。

 

《ハッ テメェが出て来たかよ、キラ!!》

 

 獣じみた匂いが漂いそうな声が、スピーカーを通じて聞こえてくる。

 

 対して、キラも、鋭い眼差しと共に迎え撃つ。

 

「やはり、あなたかッ クライブ・ラオス!!」

 

 叫ぶキラに対して、ビームライフルを放つディスピア。

 

 ZGMF-X55A「ディスピア」

 

 かつてクライブが使用していたフォービアの後継機に当たる機体である。

 

《こいつは良い因縁だッ 俺達は運命で繋がってるのかね!?》

「真っ平御免だ!!」

 

 対して、キラも両手にビームライフルを構えて応射。互いに砲火を交わし合いながら旋回する。

 

 同時にキラは、やはり自分が相手で良かったと確信した。

 

 この男の相手は他でもない、自分がやらなくてはならない。

 

 業腹ではあるが、クライブの言うとおり自分とあの男との間に因縁があるのだとしたら、ここで完膚なきまでに断ち切っておく必要がある。そうでなければ、この男の毒牙はやがて、キラにとって命よりも大事な、息子や仲間達にまで及ぶ事になるだろう。

 

 だが、悲観した思いはキラの中には無い。

 

 なぜなら、最愛の妻が背中を守ってくれているのだから。

 

「攻撃経路予測、そちらに送ります。引き続き、戦況の分析を」

「了解ッ お願い!!」

 

 エストの言葉に頷きながら、送られてきたデータを基に、キラは戦術を確立する。

 

 クロスファイアはDモードへ移行。装甲は黒に、翼は赤に染まる中、両手にブリューナク対艦刀を構えて斬り込んで行く。

 

 対抗するように、視界の中でディスピアも、ビームサーベルを抜くと、更に背中に負った巨大な腕、破砕掌タルタロスを起動。巨大なビームクローを発振してクロスファイアへ斬り掛かってくる。

 

 捕まえようとして繰り出してくる巨大な腕を、キラは紅炎翼を羽ばたかせて回避。ブリューナクを鋭く振るって斬り込む。

 

 対抗するように、クライブも爪と剣を振り翳す。

 

 クロスファイアとディスピア。

 

 まったく異なる印象を持つ2体の機動兵器は、絡み合うように激突を繰り返して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4基目のドラグーンが、ビームダーツの直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

 レミリアの焦りは、着実に増してきていた。

 

 アステルはレミリアの動きを完璧に見切り、その動きの出掛りを潰す事で抑え込もうとしていた。

 

 そこまで判っているにも拘らず、レミリアは反撃の糸口を見出す事ができない。

 

 後退しつつ火砲を放って牽制し、とにかく状況に変化を待つので精いっぱいに状況である。

 

 だが、そこでさらに、ビームライフル1基が破壊されてしまう。

 

「アハハ、まったく、本当に君は容赦無いね!!」

《馬鹿が、そんな物を俺に期待する方がどうかしてるだろ》

 

 まったくだね、とレミリアは奇妙に冷静な思考のまま頷きを返す。

 

 アステル・フェルサー

 

 物心ついたころには、もう既にレミリアの傍らにあった少年は、レミリアが知っている頃から既に、お守りのように、自分の体と同じくらい、大きなライフルを抱えていた。

 

 素っ気ない態度に、話しかけても薄い反応。今にして思えば、あれでよく「幼馴染」などと言う関係を築く事が出来たと思う。

 

 だが、そんな自分達でも、時に一緒に遊び、一緒に食事をして、たまには喧嘩をする時もあった。まあ、その時は大抵、レミリアが負けていたが。

 

 そんな自分達が、今こうして戦場で剣を交えている。

 

 それは一つの悲劇である事は間違いない。しかし、同時にレミリアは、奇妙なおかしさがこみあげてくるのを避けられなかった。

 

 こうしてアステルと剣を交えていると、昔、一緒にいた頃の事を思い出してしまうのだ。

 

 それはレミリアにとって大切な思い出であり、宝石よりも貴重な宝物でもあった。

 

 クスッと、笑みを浮かべるレミリア。

 

 それと同時に、視界の隅を横切る影がある事に気が付いた。

 

 翼からビーム刃を発生させたそれは、ギルティジャスティスから分離したリフターである。

 

「クッ!?」

 

 戦場に似つかわしくない思考を遮り、レミリアは機体を上昇させてリフターを回避する。

 

 しかしそこへ、背後からギルティジャスティスの本隊が追いすがって来た。

 

 放たれるビームライフルを、レミリアは光学幻像を交えた回避運動を行ってよけると、同時に機体を振り向かせて、残る4基のドラグーンを射出、残っている火力を駆使してフルバーストモードへと移行する。

 

 放たれる閃光。

 

 対して、アステルはビームシールドを展開して防御。同時にスラスターを全開まで吹かして、強引に突破しにかかる。

 

 異なるベクトルのエネルギー圧力によって、ビームシールドが悲鳴を上げるが、アステルは構わず自身の間合いまで斬り込むと、脚部のビームブレードで蹴り上げをくらわす。

 

 対してレミリアは、スウェーバックの要領で回避すると、腰部の連装レールガンを跳ね上げて、零距離から砲撃を浴びせる。

 

 実体弾をPS装甲で受け止めながらも、アステルは衝撃で吹き飛ばされる。

 

「やるなッ!?」

 

 呻くように言いながら、アステルは強引に機体の制御を取り戻しつつ、ビームライフルを構える。

 

 しかし、今度はレミリアの方が早かった。

 

 凄まじい加速と共に、ミストルティン対艦刀を振り翳しながら斬り込んでくるスパイラルデスティニー。

 

 その一閃が、ギルティジャスティスのビームライフルを銃身半ばで切断する。

 

 アステルは舌打ちしながら、ライフルをパージ。同時に、エネルギー過負荷に陥ったライフルが爆発する。

 

 その間に、レミリアはギルティジャスティスの上方に占位しつつ、再度ドラグーンを射出して、ギルティジャスティスに牽制の砲撃を加える。

 

 その攻撃に耐えながら、アステルはビームダーツを投擲、更に1基のドラグーンを破壊した。

 

 だが、そこでギルティジャスティスの動きが、一瞬だけ止まる。

 

 レミリアが狙っていたのは、正にその瞬間だった。

 

「貰った!!」

 

 右手にミストルティンを掲げて斬り込んで行くレミリア。

 

 そのまま一気に加速して、自身の間合いへ、

 

 そこまで考えた瞬間、レミリアは気付いた。

 

 ギルティジャスティスの背中に、リフターが無い。

 

 目を剥くレミリアをあざ笑うかのように、反応するセンサー。

 

「後ろッ!?」

 

 振り返れば、いつの間にか射出されていたリフターが、スパイラルデスティニーの背後を取る形で占位し、砲撃準備を整えていた。

 

 更に、

 

 レミリアが機を逸らした一瞬の隙に、アステルは仕掛けた。

 

 左腕のグラップルスティンガーを射出すると、スパイラルデスティニーが握るミストルティンの刀身をキャッチ。そのまま絡め取って投げ捨ててしまう。

 

「あッ!?」

 

 一時的に武装を失い、声を上げるレミリア。

 

 ここに至り、レミリアは確信した。

 

 攻めていると思っていた自分が、実はアステルに踊らされていたのだと。

 

 アステルが張り巡らせた罠の中に、レミリアはまんまと飛び込んでしまったのである。

 

「これで最後だ!!」

 

 アステルは肩からウィンドエッジを抜き放つと、ブーメランモードで投擲。同時に自身もビームサーベルを構えて斬り掛かる。

 

 リフター、ブーメラン、本体による三方向同時攻撃。

 

 回避、迎撃、防御は事実上不可能な、アステル必勝の策。

 

 いかにレミリアであっても、これを防ぐ手立ては無かった。

 

 

 

 

 

 ヒカルの中でSEEDが弾ける。

 

 同時にクリアになる視界が、全てのドラグーンを正確にとらえ、脳内で動きをトレースする。

 

 あらゆる感覚が増幅される中、同時に主の覚醒に合わせてエターナルフリーダムも咆哮を上げる。

 

 雪崩を打つようにして向かってくるドラグーンに対し、ヒカルはエターナルフリーダムをフルバーストモードへと移行。6門の砲で迎撃を行う。

 

 迸る流星。

 

 しかし、今度は先程までとは流れが逆である。

 

 エターナルフリーダムの放つ砲撃が、クリムゾンカラミティのドラグーンを次々と駆逐していく。

 

 その圧倒的な速射力を前に、量的優生を誇っていた筈のドラグーンはあっという間に薙ぎ払われてしまう。

 

《クソッ!!》

 

 焦ったレオスは、グレムリン1基をエターナルフリーダム上空へと移動させ、更なる砲撃を繰り出す。

 

 とっさに、後退を掛けるヒカル。

 

 しかし、意識が正面に向いていた為、僅かに回避が遅れる。

 

 右側のバラエーナが、直撃を浴びて、砲身半ばから折れ飛ぶ。

 

 だが、ヒカルは構わず、残り5門の砲を駆使して、自身を撃ったグレムリンに砲火を集中させ、これを破壊する。

 

 薄くなる、クリムゾンカラミティの火力。

 

 そこを逃さず、ヒカルは高周波振動ブレードを抜刀して斬り掛かって行く。

 

《舐めるなよ、ヒカル!!》

 

 残ったドラグーンを引き寄せると、更にクリムゾンカラミティ本体の火力と合わせ、エターナルフリーダムを迎え撃とうとするレオス。

 

 だが、薄くなった火力では、エターナルフリーダムの加速力に追随する事はできない。

 

 距離を詰めたヒカルは、前方に占位していたグレムリン1基を高周波振動ブレードで叩き斬る。

 

 だが、その間にレオスに、距離を取られてしまった。

 

 ドラグーンと残った2基のグレムリンを回収しつつ、クリムゾンカラミティ本体の火砲で砲撃を仕掛けてくる。

 

 とっさにビームシールドを展開。防御するヒカル。

 

 しかし、ありったけの火力を叩き付けられた事で、エターナルフリーダムは衝撃にこらえきれず、バランスを崩して高度を落とす。

 

 そこへレオスは、再びドラグーンを射出してきた。

 

 今度は、火力を集中させるよりも、あえてドラグーンを空中に散らして飽和攻撃を仕掛ける構えである。

 

 火力を集中させても、今のエターナルフリーダムの速射力は、それを上回っている。ならば、ヒカルの火力も散らしてしまえば良いと、レオスは考えたのだ。

 

 放たれる砲撃が、八方からエターナルフリーダムへと向かう。

 

 対して、ヒカルはとっさに両手に持った高周波振動ブレードをパージすると、腰裏からビームライフルを抜き放ち、自身を包囲するドラグーンを次々と撃ち落す。

 

 更にヒカルは、ビームライフルを連射しながら、クリムゾンカラミティへの接近を図る。

 

《舐めるな!!》

 

 とっさにレオスが放つ砲撃。

 

 一発が、エターナルフリーダムの右手からビームライフルを弾き飛ばす。

 

 対抗するように放ったヒカルの砲撃が、クリムゾンカラミティのビームバズーカを貫いた。

 

 距離が詰まる両者。

 

 もはや、砲撃が間に合う距離ではない。

 

《クソッ!!》

 

 悪態をつきながら、ビームサーベルを抜き放つレオス。

 

 ヒカルもエターナルフリーダムの腰からビームサーベルを抜いて斬り掛かる。

 

「この距離は!!」

 

 横なぎに光刃を振るうヒカル。

 

「俺の間合いだ!!」

 

 ヒカルの刃をシールドで受けるレオス。

 

 シールド表面のラミネート材を削られながらも、どうにか防ぎきると、距離を置きつつ、腹部の複列位相砲を放つ。

 

 だが、

 

 殆ど零距離から放たれた砲撃を、ヒカルは身を沈めるようにして回避。

 

 同時に、エターナルフリーダムの左手に持っていたビームライフルに過剰なエネルギー充填を行い、クリムゾンカラミティの鼻っ面目がけて投擲する。

 

 ライフルは一瞬、白熱したと思った瞬間、クリムゾンカラミティの眼前で爆発を起こす。

 

《なッ!?》

 

 その予期し得なかった動きに、カメラは焼き付けを起こし、レオスの視界は一瞬塞がれる。

 

 ヒカルが待ち望んだ瞬間が訪れる。

 

 一瞬の目つぶしによって動きを鈍らせたクリムゾンカラミティに、ビームサーベルを構えたエターナルフリーダムが肉薄する。

 

 とっさに、効かない視界の中でシールドを翳して防御しようとするレオス。

 

 しかし、一閃された刃が、クリムゾンカラミティのシールドを斜めに斬り裂く。

 

 更に、ヒカルは左手掌からパルマ・エスパーダを発振、右手のビームサーベルと共に鋭く振るう。

 

 振り下ろされる刃が、クリムゾンカラミティの両肩を斬り飛ばす。

 

《クソッ!?》

 

 どうにか体勢を立て直そうと、腹部の複列位相砲にエネルギーを送るレオス。

 

 しかし、ヒカルはそれを許さない。

 

 飛び上がると同時に繰り出した強烈な蹴り付けが、クリムゾンカラミティの頭部を捉える。

 

 激しい衝撃がコックピットを襲い、レオスの意識が吹き飛ばされる。

 

 悪あがきのように放たれた胸部からのビームは、しかしエターナルフリーダムを捉える事叶わない。

 

 次の瞬間、完全に高度を保てなくなったクリムゾンカラミティは、巨大な水柱を上げて海面に落下した。

 

 

 

 

 

PHASE-42「宿縁のエース達」      終わり

 




機体設定

ZGMF-X55A「ディスピア」

武装
頭部機関砲×2
ビームライフル×2
ビームサーベル×2
複列位相砲×1
タルタロス破砕掌×2
大形ビームクロー×10

備考
プラント軍が開発したフォービア級機動兵器。前級のエンドレスと違い、特徴である破砕掌は構造はシンプルになったが、各所に小型スラスターを搭載し、見た目以上に高い可動性を誇っている。

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