機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-41「炎の嵐」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 磁器が触れ合う感じの良い音と共に、アスランの前へコーヒーの入ったティーカップが置かれた。

 

「どうぞ」

「すまない」

 

 イリアが差し出したコーヒーを一口飲み、少し気分が落ち着く。

 

 友人のラキヤ・シュナイゼルが喫茶店を経営している関係で、アスランも多少はコーヒーの味が判るが、イリアの淹れてくれたコーヒーは飲みやすく、やや繊細な印象を感じる。

 

 突然の来訪にも拘らず、イリアはアスランを快く迎え入れてくれた。

 

 もしかしたら、イリアの中にはまだ、北米統一戦線のゲリラとして戦っていた頃の矜持が残っており、同様にレジスタンスとして戦っているアスランへの共感があったのかもしれない。

 

「それで、本日は、どのような?」

「ああ」

 

 自身もコーヒーに口を付けながら尋ねてくるイリアに対し、アスランはカップを置いて本題に入った。

 

 状況を、かいつまんで説明していく。

 

 自分達がセプテンベルナインの研究施設を襲撃した事。

 

 そこで行われた研究のデータを、コピーして解析している事。

 

 一部に閲覧不能な個所がある事。

 

 そして、

 

「この署名を見付けた」

 

 そう言うとアスランは、持ってきた端末の画面をイリアに見せる。

 

 そこには、何らかの研究資料に添付する、研究員の署名があった。

 

 研究責任者 セブルス・バニッシュ

 主任研究員 レベッカ・バニッシュ

 

 この記述を基に、アスラン達はこの場所を探り当て尋ねてきたのである。

 

 閲覧不能な個所に何が書かれているのか、アスラン達には分からない。だが、一級のセキュリティが掛けられている以上、何らかの重要な情報が隠されている事は間違いない。うまくすれば、自分達にとっての切り札にできる可能性もあった。

 

「・・・・・・私の、両親の名前です。父と母は生前、セプテンベルで遺伝子工学の研究員をしていましたから」

「では、この研究も、お父上と、お母上が?」

 

 アスランの質問に対し、イリアは頷きを返すと、顔を上げて真っ直ぐに見返してきた。

 

「全て、お話します」

 

 イリアは静かな口調で、語り始めた。

 

 両親が犯した罪を、

 

 そして、自らが犯した罪を。

 

 それは、まるで罪人の告解を思わせる光景であった。

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

 12枚の翼が風を受けて羽ばたくと、閃光を負った機体が急速に距離を詰めて来た。

 

 その勇壮な姿に、歓喜の声が上がる。

 

「アハハハッ 来た来た来たァ!!」

「お約束だな、魔王よッ!!」

 

 言い放つと同時に、リーブス兄妹は水飛沫を上げて高度を上げる。

 

 ヒカルは双剣を掲げると、構わず斬り込む。

 

 振り翳される双剣が、フレッドのテュポーンに迫る。

 

 だが、刃の切っ先が捉える前に、フレッドはテュポーンを後退させてヒカルの攻撃を回避する。

 

 更に、

 

「はーい、ざんねーん!!」

 

 ヒカルが正面のテュポーンに気を取られているすきに、背後に回り込んだフィリアのエキドナが、両手とラドゥンに備えたビームキャノン、更に胸部の複列位相砲を撃ち放った。

 

 強烈な閃光が、背後からエターナルフリーダムに迫る。

 

 だが、

 

「喰らうかよ!!」

 

 ヒカルは背後からの砲撃に対し、まるで背中に目が付いているかのように鋭く察知すると、急激に上昇して回避する。

 

 同時に宙返りをしながら高周波振動ブレードを鞘に納めると、視界が上下逆さまのまま、ビームライフル、バラエーナ・プラズマ収束砲、クスフィアス・レールガンを構えて6連装フルバーストを解き放った。

 

 放たれる砲撃。

 

 対してフィリアは陽電子リフレクターを展開して、エターナルフリーダムの攻撃を受けとめようとする。

 

 ぶつかり合う、閃光と障壁。

 

 エターナルフリーダムの砲撃はリフレクターを貫く事ができず、拡散される。

 

 しかし、衝撃までは殺しきる事ができず、エキドナは大きく吹き飛ばされた。

 

「やるわねッ!!」

 

 フィリアは怒りに任せながら、上空のエターナルフリーダムめがけて全火砲を浴びせて来るが、ヒカルは余裕を持った動きで回避しながら、更に高度を上げる。

 

 そこへ、今度はフレッドのテュポーンが追いすがり、攻撃を仕掛けてくる。

 

 放たれるドラグーンの攻撃をヒラリヒラリと回避しながら、ヒカルはビームライフルを構えて反撃に出る。

 

 2丁のライフルから、間断なく閃光が放たれるが、その全てがアンチビームコーティングの施されたテュポーンの装甲で弾かれた。

 

「学習能力が無いな、魔王よ。その程度の攻撃など効かないのだよ!!」

 

 向かってくる砲撃に構わず、強引に距離を詰めるフレッド。

 

 振りかざされる両腕の鉤爪が、エターナルフリーダムに迫った。

 

 しかし、それよりも一瞬早くヒカルは動く。

 

 向かってくるテュポーンを前蹴りで迎撃。同時に、体勢が崩れたところに追撃のレールガンを浴びせて吹き飛ばす。

 

 対して、機体本体が吹き飛ばされながらも、フレッドはドラグーンを操りエターナルフリーダムに追い込みを掛けてくる。

 

 包囲しながら縦横に放たれる砲撃。

 

 対してヒカルは、12枚の翼を羽ばたかせて、四方から繰り出される攻撃を回避。対抗するようにビームライフルを放って、ドラグーン2基を破壊する。

 

 フレッドが残ったドラグーンを回収しようとしている隙をついて、ヒカルはどうにか距離を取ろうとする。

 

 しかし、

 

「逃がさな、いィ!!」

 

 その間に距離を詰めて来ていたフィリアのエキドナが襲い掛かって来た。

 

 両腕の鉤爪と、4本のラドゥンを繰り出してくる。

 

 向かってくる爪と牙。

 

 対して、ヒカルは高周波振動ブレードを抜刀して斬り捌く。

 

 高速の斬撃を前に、弾き返されるエキドナ。

 

 だが、フィリアは怯まない。

 

 その顔に笑みを張り付けながら、尚もエターナルフリーダムに襲い掛かってくる。

 

 背後に目を向ければ、フレッドのテュポーンも、体勢を立て直して、向かってくるのが見える。

 

 前と後ろを敵に囲まれたまま、ヒカルの苦戦は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、戦場のはるか上空、大気圏を突き抜けた宇宙空間では、展開したオーブ軍宇宙艦隊が、状況を見守り続けていた。

 

 地上での激闘は、オーブ側の苦戦で終始している。

 

 エースパイロット達は奮闘を続けてはいるが、彼等とて無限に戦えるわけではない。いずれ消耗し、押し包まれて討ち取られる事になりかねない。

 

 エース達は、

 

 否、

 

 あそこで戦っている兵士達の全てが、オーブにとっての至宝であり、珠玉にも勝る存在である。ただの一人たりとも、無為に失う事は許されない。

 

 故に、

 

 切り札を切る事に対して、躊躇う気は無かった。

 

「状況は?」

「味方部隊、戦力の2割を喪失。残存部隊も苦戦中ですッ」

「予定ポイントまで、あと10。間も無く、状況が完成するとの事です!!」

「カグヤ方面の状況にやや遅延が発生中!!」

 

 オペレーター達の報告を聞きながら、ユウキは状況を吟味する。

 

 作戦状況は、9割がた完了していると言って良い。

 

 後は、決断を下すのみであると言える。

 

 スッと、目を閉じる。

 

 国を奪われ、反抗を誓い、敢えて国を捨ててから2年。ようやく自分達は、悲願を達成できるところまで来た。

 

 ならば、躊躇うべき何物も、自分達の前には無かった。

 

 目を開けるユウキ。

 

 そこには既に、決意を宿した眼差しが満たされていた。

 

「フラガ艦隊に連絡。『作戦を開始されたし!!』」

 

 今、ユウキの決断が、オーブの空を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 ユウキの指示を受け、マリュー・ラミアス率いるオーブ軍第1宇宙艦隊が動き出した。

 

 戦闘艦艇に護衛されて、数隻の輸送船が艦隊の中央に座している。その下面には、生物の卵を連想させる球体が、いくつも下げられていた。

 

 球体は全て、大気圏突入用のポッドである。

 

 それらが今、ゆっくりと大気圏へと近づいていく。

 

「現在、敵軍からの妨害行動無しッ 熱紋にも反応有りません!!」

「オーブ上空、南西の風、やや微風。天気は青天に付き、視界の遮蔽は無し」

 

 オペレーター達が次々と報告を上げてくる中、マリューは頷きを返す。

 

 眼下では、彼女の夫や娘が、今も苦しい戦いを続けている。状況を逆転させる為には、何としても、作戦を成功させる必要があった。

 

「作戦開始。全ポット投下!!」

 

 マリューの指示を受け、輸送船が、搭載してきたポッドを次々と切り離していく。

 

 ポッドはやがて、大気圏へと突入し、全てが赤色へと染まって行く。

 

 その様子を、マリューをはじめとしたオーブ軍将兵は皆、一様に固唾を呑んで見守り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 それの存在に最初に気付いたのは、プラント軍の前線部隊を指揮する隊長だった。

 

 視界のはるか上空から、複数の影がゆっくりと降下してくるのが見える。

 

「あれは・・・・・・大気圏突入用のポッドか!?」

 

 影の正体を見て、思わず声を上げる。

 

 恐らく、オーブ軍が増援を宇宙から送り込んで来たのだろう。地上のオーブ軍が苦戦している状態では、それも妥当な戦術であろう。

 

 しかし、

 

「予定通り、攻撃を続行しろッ 敵の増援は後続に任せろ!!」

 

 後が無いオーブ軍と違い、プラント軍には潤沢な予備部隊が存在している。敵が繰り出してきた増援に対して、わざわざ自分達が出向く事も無い。後続してくる味方が対処してくれるだろう。

 

 そう思って進撃を続けるよう、部下に促した。

 

 どのみち、自由オーブ軍の戦力はたかが知れている。

 

 恐らく連中は、この戦いに全ての戦力を投入しているだろう。ならば、ここで主力を相当してしまえば、もう余力は残らない筈。

 

 一方のプラント軍は、本国やジブラルタルに、まだ充分な戦力が残っている。

 

 最終的な勝利がいずれの物になるのか、考えるまでも無かった。

 

 そうしている内にも、ポッドはゆっくりと降下してくる。

 

 そして次の瞬間、

 

 ある高度に達した時、降下してきたポッドは、一斉に破裂した。

 

「なにッ!?」

 

 驚いて声を上げた瞬間、

 

 

 

 

 

 地獄が、

 

 

 

 

 

 オーブ上空に、

 

 

 

 

 

 現出した。

 

 

 

 

 

 巨大な炎が驟雨となりて、戦場全体に降り注いだ。

 

 高高度から降り注いだ炎は、オーブ軍を追撃しようとしていたプラント軍を頭上から捉え、次々と撃ち抜いていく。

 

 それは正に、凄惨な光景だった。

 

 プラント軍の精鋭達が、降り注ぐ炎の雨を前に、成す術も無く絡め取られ、撃ち抜かれていくのだ。

 

 それも、10機や20機と言う単位の話ではない。

 

 正に言葉通り、戦場を包み込むようにして降り注いだ炎の嵐は、プラント軍の大半を、パイロットの命ごと飲み込んでいく。

 

 ユウキが主導した作戦が、これであった。

 

 自由オーブ軍とプラント軍の間にある戦力差は、如何様にしても埋められる物ではない。

 

 だからこそ、何かしらのテコ入れをする必要があった。その上で導き出されたのは、「即席で大量破壊兵器を用意する」と言う物だった。

 

 と言っても、今から何かしらの兵器を新造するには、時間が足りない。そこでユウキたちは既存の技術を組み合わせる事で間に合わせる事にした。

 

 まず中古で大量に仕入れた大気圏突入用ポッドに爆薬とボールベアリング弾数千万発を詰め込み、輸送船に搭載して大気圏突入ポイントまで運ぶ。後は時限装置をセットして大気圏に自動で落とすのみである。

 

 ポッドの内部は断熱されている為、摩擦熱で炸薬が勝手に引火する事は無い。そうして、予定高度に達した時点で信管が起動するように設定された時限装置が動き、爆薬が炸裂する事でポッドは破砕、炎とベアリング弾を大量に空中へと撒き散らす事になる。

 

 この作戦を成功させる為に、自由オーブ軍の地上部隊は苦戦しつつも、プラント軍主力を海上の設定ポイントへとおびき出したのである。

 

 プラント軍も、まさか自由オーブ軍がこのような手段に出て来るとは予想し得ず、大半の部隊が成す術も無く、上空から降り注いだ炎の雨に絡め取られ、撃墜されていった。

 

 浮足立つプラント軍。

 

 そこへ、自由オーブ軍の「本命」たる作戦が、開始されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上空に出現した惨状については、海中からも確認する事が出来た。

 

 凄まじい光景である。

 

 最前まで、我が物顔で自由オーブ軍を追いまわしていたプラント軍が、炎の雨以後は一転、追いかけまわされる側へと転落したのだから。

 

 シン・アスカ、ムウ・ラ・フラガ、ラキヤ・シュナイゼルと言った、綺羅星の如きエース達に率いられ、奮起したオーブ軍は進撃を再開する。

 

 そして、

 

 それは同時に、戦場と言う舞台を整える、最後の条件が出そろった事を意味している。

 

 オーブ奪還。その要となる最後の作戦の幕が、切って落とされたのだ。

 

「浮上、全機、発進準備!!」

 

 海中で待機していたアークエンジェルのブリッジに、メイリンの鋭い声が響き渡る。

 

 同時に、白亜の巨艦が海面を割って、空中へと踊り出した。

 

 誰もが唖然とする中、歴戦の不沈艦は祖国を目指して飛翔を始める。

 

 重要な任務を負っているアークエンジェルは、作戦開始から今に至るまで海底に潜み、時を待ち続けていたのだ。

 

 同時に左右のカタパルトデッキが開く。

 

「良いね。目的はあくまで、カガリを行政府まで送り届ける事。それ以外の要素は全て、味方に任せて無視して良いから!!」

 

 クロスファイアのコックピットから発せられたキラの指示に対し、一同は頷きを返す。

 

 癖の強いメンバー揃いのターミナル実働部隊メンバーだが、こと戦闘に関する限り、キラの指揮には全幅の信頼を寄せており、命令に従ってくれる。

 

 軍人時代、部隊を指揮するよりも個人で勇を振るう機会の方が多かったキラにとっても、ありがたい仲間達である。

 

 これが最後だ。

 

 もう、オーブ軍に切り札は残っていない。ここで負けたら、全てが終わるだろう。

 

「キラ」

「行くよ、エスト」

 

 背後から声を掛けてきた妻に、キラは頷きながら返す。

 

 もはや、言葉はいらない。全て行動が事態を決し得る唯一の要素なのだ。

 

「キラ・ヒビキ」

「エスト・ヒビキ」

「「クロスファイア、行きます!!」」

 

 2人のコールと共に、クロスファイアは空中へと飛び出した。

 

 白い炎の翼が広げられると同時に、敵が群がってくるのが見えた。

 

 プラント軍も、突如出現したアークエンジェルに驚いているようだが、それがターミナルの戦艦であると判ると、すぐに攻撃体勢を整えてきた様子である。

 

 それに対してキラも、出し惜しみせずに素早く動いた。

 

 SEEDを発動させると同時に、クロスファイアをFモードへと変更。翼の色が蒼に染まる間も惜しんでビームライフルとレールガンを構えると、4連装フルバーストを叩き付ける。

 

 たちまち、プラント軍の前線が崩れて壊乱する。

 

 キラは更に、腰からビームサーベルを抜き放つと、蒼炎翼を羽ばたかせて斬り込んで行く。

 

 慌てて攻撃を行おうとしているリューンの首を斬り飛ばし、別の機体の両腕を素早く切断する。

 

 目を転じれば、レイとルナマリアのエクレールも出撃して、近付こうとする敵を追い払っている。

 

 更にもう1機、眼下ではアークエンジェルに張り付くようにして、深紅のイザヨイが奮闘を続けているのが見える。

 

 カガリの機体である。色は、彼女の専用機を表す色に塗られている。

 

 全軍を率いるに当たり、カガリは自分の機体も用意させたのだ。

 

 勿論、元々は軍属だったとはいえ、今のカガリにはブランクがある。更に戦場に出れば、被弾、撃墜の可能性もある。

 

 だが、それでも、今回の戦いが「決戦」である以上、全軍の先頭に立つ事をカガリは望んだ。

 

 それは、かつて国を守るために殉じた誇り高き父、ウズミ・ナラ・アスハの娘としての矜持であり、自身も国を取り戻したいと願うオーブ市民としての発露でもあった。

 

 指揮官たるもの、常に進軍の戦闘に立つべき。

 

 つまり、あの深紅のイザヨイが、今はオーブ軍の旗機と言う訳である。

 

 この戦い、カガリが行政府に辿りつき、国民に対して、自分達の正当性を呼びかける事が勝利のカギとなる。

 

 無論、それだけで勝敗が決まるかどうかは判らない。万が一、オーブの国民がカガリの呼び声に答えなければ、作戦は根幹から崩れる事になる。

 

 だが、それを今、気にしても仕方が無い。

 

 ともかくキラ達の役割は、全力でカガリを守り通す事だった。

 

 

 

 

 

《アハハハ、綺麗だねー!!》

《派手な事をしてくれるッ 自分達の領内でこれほどの事をするとは、正気を疑うよ!!》

 

 叫びながら、尚も向かってくるフレッドとフィリアに対抗するように、ヒカルは剣を構え直す。

 

 予想はしていた事だが、作戦が成功し、プラント軍の大半を撃破したにもかかわらず、リーブス兄妹は聊かも怯む事無く向かって来ていた。

 

 むしろ、炎の秋降り注ぐこの、地獄と言うべき状況に、2人は喜んでいる節すらある。

 

 妄執と言うべきか、2人はもはや、エターナルフリーダム以外の敵は全く見えていないかのように、全ての火砲を振り翳して襲い来る。

 

 対抗するように、ヒカルは放たれる砲撃をリフレクターやアンチビームコーティングの装甲で防ぎ、鉤爪や牙の攻撃を高周波振動ブレードで捌く。

 

 フレッドが背部のドラグーンを射出して、包囲攻撃を仕掛けて来るが、対抗するようにヒカルはビームライフルを斉射。2基のドラグーンを撃ち落として牽制する。

 

 だが、その間にフィリアは、エターナルフリーダムの背後へと回り込んで、ラドゥンを振り上げた。

 

「アハハハハッ 背中がガラ空きィ!!」

 

 迫る、4対の牙。

 

 だが、

 

 ヒカルは振り向きざまに高周波振動ブレードを一閃する。

 

 すれ違う、エターナルフリーダムとエキドナ。

 

 次の瞬間、ヒカルの振るった刃が2基のラドゥンを一刀のもとに斬り飛ばす。

 

「このッ 生意気!!」

 

 構わず、残った2基のラドゥンで食いつこうと試みるフィリアだが、その前にヒカルは、腰のレールガンを零距離で発射し、エキドナの機体を吹き飛ばした。

 

 距離が開く両者。

 

 そこへ、今度はフレッドのテュポーンが、両手の鉤爪を振り翳して襲い掛かって来た。

 

 対して、ヒカルはその存在を感知しつつも、僅かに反応が遅れる。

 

「くそっ」

 

 とっさにスラスターを全開にして機体を後退させ、迫るカギ爪を紙一重のところで回避する。

 

 僅かに動きを鈍らせるエターナルフリーダムの様子に、フレッドはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「流石に疲れが目立つか!?」

 

 両側から襲い掛かってくる鉤爪。

 

 それをヒカルは、高周波振動ブレードで切り払い、同時に反撃に出る。

 

 剣先がテュポーンの装甲を斬り裂く中、フレッドは構わず、複列位相砲をエターナルフリーダムに叩き付ける。

 

 しかし、当たらない。

 

 殆ど距離が無かったにもかかわらず、ヒカルは機体を横滑りさせてテュポーンの攻撃を回避したのだ。

 

 確かに、今のヒカルは徐々に疲労が蓄積して行くのを自覚している。

 

 しかし、それでも尚、息を吐く気は更々無かった。

 

 突撃と同時に、真っ向から振り下ろした剣が、テュポーンの左腕を斬り捨てる。

 

 だが、

 

《いつまで偽善的な戦いを続ける気だッ!?》

 

 フレッドは構わず、叫びながら右腕の鉤爪を振り上げ、更に最後に残った右手の鉤爪を振り翳す。

 

 対して、

 

「俺の、勝手だろうが!!」

 

 言いながらヒカルは後退。同時にバラエーナを跳ね上げて牽制の砲撃を行う。

 

 フレッドはその攻撃をリフレクターを展開して受け止めるが、強大な出力を前に抗しきれず、リフレクター発生装置が破損する。

 

《傲慢だなッ 流石は魔王だよ!!》

 

 言いながら、鉤爪を振り翳すフレッド。

 

「余計なお世話だ!!」

 

 対抗するように剣を構えるヒカル。

 

 両者が交錯する。

 

 次の瞬間、

 

 テュポーンの右腕と両足を斬り落とされた。

 

 落下していくテュポーン。

 

 そこへ、今度は背後から、エキドナが襲い掛かってくる。

 

「貰ったッ!!」

 

 迫るエキドナ。

 

 対して、ヒカルは機体を振り返らせながら、フルバーストモードを展開する。

 

「見え見えなんだよ、いい加減!!」

 

 にらみ合う両者。

 

 エキドナの攻撃は、

 

 わずかに届かない。

 

「クソ・・・・・・・・・・・・」

 

 舌打ちを漏らすフィリア。

 

 次の瞬間、今やヒカルの「必殺技」と称して良い程に昇華された、零距離フルバーストが解き放たれる。

 

 迸る閃光。

 

 もはや、アンチビームコーティングやリフレクターで防ぎきれるレベルではない。

 

 直撃を受けたエキドナは、四肢をバラバラにされて、海面へと落下していった。

 

 その様子を確認したヒカルは、武装を収めると、再び味方を掩護すべく飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 ヒカルがリーブス兄妹と死闘を繰り広げている頃、アステルは全軍の先頭に立つ形でプラント軍と交戦を繰り広げていた。

 

 接近戦兵装が主体のギルティジャスティスの戦い方は、どうしても敵との距離を詰める必要がある。

 

 自然、アステルは敵の真っただ中へと飛び込んで行くことになるのだが、

 

 それで怯むような男ではない事は、今さら語るまでも無い事であろう。

 

 駆け抜けると同時に、両手のビームサーベルを振るうアステル。

 

 それだけで、3機のハウンドドーガが斬り裂かれて爆砕する。

 

 放たれる砲撃に対して、急上昇して回避する。同時に視線は、自身を狙う敵の存在を捉えていた。

 

 遠距離から4機。長距離砲を構えたガルムドーガが狙いを定めているのが見える。

 

 アステルはリフターを分離して突撃させると、同時に自身も機体本体を駆って距離を詰める。

 

 リフターの砲撃によって、1機撃墜。

 

 更にアステルは、敵の砲撃を空中で回避しながら、両肩に装備したウィンドエッジ・ビームブーメランを抜き放って投げつける。

 

 ガルムドーガはとっさに回避しようとしているが、間に合わない。

 

 ブーメランが2機ガルムドーガを斬り裂くと、残り1機は敵わぬと見て退避していった。

 

 それを見送ると、アステルはリフターとブーメランを回収する。

 

 その時だった。

 

 センサーが、自身に向けて急速に接近してくる機影を捉えた。

 

「あれは・・・・・・・・・・・・」

 

 声を上げるアステル。

 

 既に見慣れた感のある、深紅の翼を広げた機体。

 

 堕天使の如き、凶悪な美しさを誇る機体は、ギルティジャスティスを目標と見定めて、真っ直ぐに向かってくる。

 

《アステル!!》

「来るかッ レミリア!!」

 

 互いに叫びあいながら、剣を抜き放つ両者。

 

 次の瞬間、空中で激しくぶつかり合った。

 

 

 

 

 

PHASE-41「炎の嵐」      終わり

 


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