機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-39「いざ、オーブへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍服に袖を通してから、不備が無いかチェックする。

 

 白地に青いラインの入ったオーブ軍の軍服は、2年前から着ている物ではなく、復帰してから新たに支給された物である。

 

 しかしそれも、だいぶ着古した感が出始めていた。

 

 つまり、この軍服がよれてくる程度には、長い間戦い続けてきたという訳だ。

 

「思えば遠くに来たもんだ、て、昔の歌にあったかな・・・・・・」

 

 ヒカルは呟いて、苦笑する。

 

 距離的には本国に近付いているのに、「遠くに来た」は、少し可笑しい気がしたのだ。

 

 だが、感慨と言う意味合いを考えれば、確かに「遠くに来た」と言う表現は正鵠を射ているように思える。何しろ、はじめてハワイで戦闘に参加して以来2年余り、ヒカルは数えきれないくらいの戦闘に参加し、幾多の敵を相手にしてきたのだ。

 

 それこそ、気が遠くなるような感じがするのも、無理からぬ事であろう。

 

「いや、『遠くに帰ってきた』か? でも、それじゃあ字面的におかしいか」

 

 どうでも良い思考が、とめどなく溢れてくる。

 

 これも、緊張の成せる業かもしれない。

 

 苦笑しながら、部屋を後にする。

 

 すると、廊下の端にある部屋の扉が開き、中から女性が出てくるのが見えた。

 

「あ・・・・・・・・・・・・」

 

 思わず、驚いて声を上げた。

 

 部屋から出てきたのは、カガリである。

 

 しかし、今のカガリは見慣れた普段着では無く、ヒカルと同じオーブ軍の軍服を着込んでいる。

 

 もっとも、ヒカルが着ている一般兵士用の軍服ではない。カガリが着ているのは華美な装飾が施された儀礼用の軍服であり、胸の階級章には大元帥の物が付けられている。

 

 かつて、オーブ連合首長国代表首長として国を率いていた頃と同様の出で立ちで、カガリは立っていた。

 

「母様、かっこいー」

 

 そんなカガリを見て、彼女の子供達は感嘆の声を上げた。どうやら、初めて見る母の凛々しい姿に興奮している様子である。

 

 そんな子供達に笑いかけると、カガリは彼等の頭をそっと撫でていく。

 

「リュウ、兄や姉の言う事を聞いて、良い子にしているんだぞ。母様は、ちょっとだけ出掛けて来るからな」

「うんッ 早く帰ってきてね、かーさま!!」

 

 元気に頷く次男に微笑みかけると、次いでカガリは、ライトに目を向ける。

 

「ライトは、シィナをしっかりと助けて、リュウの面倒をちゃんと見るんだぞ」

「いちいち言わなくても判ってるよ。だから、その・・・・・・母さんもちゃんと帰って来いよな」

 

 そっぽを向きながら、ライトは照れたように言う。どうやら、予想以上に母が格好いい姿で現れた為、直視するのを躊躇っているかのようだ。

 

 カガリは最後に、シィナに目を向けた。

 

「シィナ。後の事は頼んだぞ」

「はい、母様。どうか、御武運を」

 

 流石は長女。しっかりした言動で、母を見送ろうとしているように見える。気丈な態度を示し、母に後顧の憂いを感じさせないようにしているかのようだ。

 

 だが、カガリは見逃さなかった。シィナの手が、小刻みに震えている事を。

 

 姉弟の中で、シィナは最も状況をよく理解していた。今回の戦いがいかに激しく、危険な物になるか、を。

 

 カガリはそっと、シィナを抱き寄せると、その頭を優しく撫でてやる。

 

「大丈夫。大丈夫だからな」

「母様!!」

 

 こらえきれずに、泣き出すシィナ。

 

 長女として、母を支える役目を持つ者として、堪えていた物が噴き出した形である。

 

 そんなシィナの張りつめた緊張を解きほぐすように、カガリは娘を抱きしめる。

 

 子供達との別れは、必然的に迫る。

 

 それは、遠くから眺めているヒカルにも判っている。

 

 生きて帰るか、それとも死んで果てるか、道は二つに一つしかない。

 

 だが、もはや逃げる事も、後へ戻る事も許されない。運命を導き出す賽は、既に投げられたのだ。

 

 後はただ、自身に課せられた天佑を信じて進む以外に無い。

 

 コズミックイラ95年8月15日

 

 ついに、自由オーブ軍による、本国奪還作戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンブレアス・グルックは1人、部屋の中で泰然として沈黙を守っていた。

 

 自由オーブ軍が活動を再開したと言う報告は、既に彼の元へも入ってきている。

 

 その為の準備も、滞りなく進行中だった

 

 現状、世界はグルックの思い描いていた通りに進んでいる。

 

 オーブを傀儡と化し、先頃には、長年の宿敵である地球連合軍の打倒にも成功した。

 

 月やスカンジナビアでの敗北によって、若干ながら瑕疵はあったものの、それでも全体としての計画は滞りなく進んでいる事は間違いない。

 

 地球圏統一

 

 かつて、幾多の為政者が夢見ながら、ついに果たせなかった人類の統合が、今やグルックの手の届く所まで来ているのだ。

 

 長い年月を掛けて計画の根を張り巡らし、謀略に謀略を重ね、幾多の戦火を越えて今に至っているのだ。

 

 あと一息。

 

 それだけで、世界が手に入る。

 

 だが、不安要素はある。

 

 それこそ、今まさに、蠢動を開始している自由オーブ軍に他ならない。

 

 月の監視にあたっている部隊から、大規模な兵力移動が行われた旨が報告されていた。

 

 いよいよと言った感じである。

 

 だが、それに対するプラント軍の動きは、聊か鈍い物となっていた。

 

 理由は二つ。先のジブラルタルにおける戦闘と、更にそれに先立って、セプテンベルナインの研究施設を、テロリスト達の攻撃によって失った事が原因だった。

 

 ジブラルタルでは、東欧戦線から引き揚げてきた多くの部隊が再編待ちの状態で待機しており、彼等は再編が終わり次第、オーブ本国の防衛に回る予定だった。しかし、それがターミナルの攻撃によって頓挫してしまったのだ。

 

 セプテンベルナインの方は、遺伝子研究の傍らで、プラント軍の兵士を「増産」する為、捉えた捕虜に対してロボトミー化手術を行っていた施設である。

 

 前頭葉除去と言う非道な手段を用いて、自軍の兵士を文字通り量産していた訳だが、その事について、グルックが気に病んだことは一度として無い。どのみち、自分に逆らうような連中だ。殺すくらいならいっそ、自分達の忠実な駒として「再利用」した方が、よほど有意義だった。

 

 だが、それも失われてしまった。

 

 レジスタンスの使ったデータ破壊用のウィルスは想像以上に厄介な代物で、急速に増殖、浸透する一方、目標となったデータのみをピンポイントで抽出して破壊すると言う、ある種の軍隊蟻めいた代物であった。

 

 おかげで、セプテンベルナインで行われていた研究データ。並びに関連施設のデータは根こそぎ失われてしまった。

 

 それでいて、ウィルスは標的以外には全くと言って良いほど興味を示さないのだから性質が悪い。これでいっそ、無差別的な攻撃型ウィルスであるなら、それをテロの脅威に転化して煽り立て、世論を味方につける事も可能だったと言うのに。

 

 おかげで現在、プラントのシステムは件のウィルスと「同居」している状態である。排除しようにも、既に一朝一夕にはできないほど増殖、拡散してしまっているし、何より、プラントの生活を支えるシステムそのものには影響がないのだから、大々的な掃討作戦を行う事も出来ない。現状は、秘密裏に設立した対策チームがウィルス駆除に当たっているが、その成果は遅々として進まず、グルックとしては切歯扼腕と行った所であろう。

 

 とは言え、問題なのはセプテンベルナインを潰された事で、これまでのような無尽蔵な兵力供給ができなくなってしまった事だった。

 

 セプテンベルナインで製造される兵士は、命令に忠実な反面、その大半が、実力的には一般兵士にすら劣ると言う特徴があり、まともな戦闘に耐えられる物ではない。しかしそれでも「弾除け」くらいは期待できたのであるが。それも、もはや叶わない事となってしまった。

 

 しかし、切り替えて考えれば、そう悲観するべき事でもないだろう。

 

 既に必要充分な兵士の製造は終わっており、戦線投入も完了している。そして、残る敵が少ない以上、セプテンベルナインの必要性は絶対ではない。

 

「まあ、もっとも・・・・・・・・・・・・」

 

 口に出して呟きながら、グルックは僅かに残念そうに息を吐く。

 

 「彼女」のデータも失われてしまったのは、多少痛かったかもしれない。何しろ、もはや二度と手に入らないであろう、貴重なデータだ。どうせなら、バックアップを取っておくべきだったか、と今さら後悔する。

 

 だが、それも大事の前の小事に過ぎない。今は、動き出した自由オーブ軍を、いかにして殲滅するかが重要だろう。

 

 奴等の狙いがオーブである以上、その備えを万全にすることも容易であった。ようは、相手が来るのがオーブであると判っている以上、こちらはオーブへ兵力を集中させて迎え撃てば良い。

 

 既にカーペンタリアやハワイに駐留していた部隊が、オーブへ集結するべく移動を開始している。その総兵力の試算は、自由オーブ軍を上回る事は確実であると計算されていた。

 

 これで、終わる。忌々しい自由オーブ軍を殲滅し、世界を手にする時が近付いているのだ。

 

 この先には、待ち望んだ統一と繁栄の世界が待っているのだ。

 

「あの世とやらがあるのなら、そこから見ているが良い、ラクス・クライン。あなたが成し得なかった世界の統一を、この私が成し遂げるのだからな」

 

 そう呟くと、グルックは不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 愉快だ。

 

 これほど愉快な事など、ここ10年で、そうは無かった事だろう。

 

 PⅡはグラスに満たされた、美しい赤い液体を口に運びながら悦に浸っていた。

 

 間もなく決戦が始まる。それも、かつて無いくらいの大規模な戦いだ。

 

 そして彼の上司であり雇い主でもあるグルックは、この戦いに、可能な限りの大兵力を投入する予定らしい。

 

 もっとも、精鋭であるディバイン・セイバーズは、最後の砦として本国に残す方針らしい。既に地球上に展開していた部隊も引き上げている。

 

 無理も無い、小規模とは言え、レジスタンスのテロ活動は決して無視できるものではない。それらを放置したままにしておいたら、決戦中に背中から刺される事になりかねない。

 

 そこで大兵力をオーブへ送る一方、精鋭部隊と保安局部隊を本国の治安維持の為に残す事としたのだ。

 

「まあ、それでも戦力的には、こっちの方が有利なんだけどね」

 

 そう、精鋭を温存し、兵力の半分を遊兵化されて尚、プラント軍の有利は動かない。そして既に、オーブ周辺には鉄壁の守りが敷かれている。

 

 いかにオーブ軍の精鋭と言えども、あの陣を突破するのは不可能なように思えた。

 

「さて、参集せし稀代の英雄達は、果たしていかなる戦いぶりを見せてくれる事やら。想像しただけでわくわくしてくるね」

 

 そう呟きながら、PⅡは残ったワインを一息に飲みほした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙ステーション「アシハラ」

 

 デブリ帯の中に存在するこの巨大な構造物は、ヤキン・ドゥーエ戦役後にオーブが完成させた、世界でも有数の大型宇宙ステーションであり、その性質は軍民共用の名が示す通り、軍事施設と、民間用のシャトル発着所を兼ねた存在となっている。

 

 デブリ帯の中にあると言うその特性上、難攻不落の要塞としての機能も有しており、これまで幾度か、宇宙からオーブへの侵攻を図ろうとした敵対勢力を迎え撃ち、撃退する事に成功していた。

 

 カーペンタリア条約の後、このステーションの所有権はプラントの物となっている。

 

 ここに今、プラント軍の大部隊が駐留していた。

 

 既に自由オーブ軍の主力部隊が月を発し、このアシハラへ向かっている事は判っている。

 

 後は連中が、この要塞じみた宇宙ステーションに無謀な突撃を敢行して来た所で迎え撃ち、じっくりと討ち取って行けばいい。

 

 要塞の火力と駐留兵力を合わせれば、自由オーブ軍を一閃で葬り去る事は充分に可能である。

 

 攻撃を開始したが最後、オーブ軍は自分達が建造した要塞の威力を、自分達の身で味わう事になる。死と言う代償を払って。

 

 プラント軍の誰もが、そう思っていた。

 

 その為に最大限の警戒網を張り巡らせ、常時複数の部隊を待機させ、オーブ軍の襲来に備えていた。

 

 

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 待てど暮らせど、オーブ軍が彼等の前に現れる事は無かった。

 

 オーブ軍が動いたのは間違いない。そして、彼等がオーブを目指すなら、このアシハラは是が非でも陥としておかなくてはならない要衝である。

 

 オーブは必ず来る。

 

 駐留するプラント軍の兵士達は、気を引き締めながら、来襲する敵の姿を待ち続けた。

 

 だが、緊張状態とは、長く続けば必然的に弛みを覚える物である。それが極限状態ともなれば尚更である。

 

 死を覚悟して戦場に赴いたと言うのに、まるで肩透かしを食らったかのように、敵の姿が現れない。

 

 その事実が、プラント軍の兵士の間で厭戦気分を呼び起こし始めていた。

 

 それからさらに数日、

 

 オーブ軍が、姿を現した。

 

 だが、それは彼等が、全く予想だにしなかった場所だった。

 

 

 

 

 

 大気圏表層に近付くにつれ、視界は青一色と化していく。

 

 既に球体として地球を捉える事は困難であり、蒼のキャンパスは一秒ごとに膨らんで行く。

 

 その地球へ向けて今、大艦隊が舳先を向けていた。

 

 数にして数10隻。在りし日の雄姿が蘇ったかのような勇壮さは、国を失って尚、闘志を失わない戦士たちの象徴であろう。

 

 自由オーブ軍による、本国奪還作戦がついに開始された。

 

 だが彼等は、その第一関門とも言うべき宇宙ステーション「アシハラ」には、目もくれていなかった。

 

 アシハラの重要性はオーブ軍にとって計り知れない。難攻不落の要塞を放置すれば、いずれ自分達を背中から売って来る事は必定である。

 

 だが、それを承知の上で、オーブ軍はアシハラを「無視」する作戦に出たのだ。

 

「まあ、難攻不落の要塞に、正面から挑む馬鹿はいないからね」

 

 第2艦隊旗艦の艦橋で、ユウキ・ミナカミはそう言って肩をすくめた。

 

 その間にも、オーブ艦隊は順調に地球へ向けて降下していく。

 

 いくら全軍を糾合したところで、オーブ軍が少数なのは否めない。この戦力で、要塞化されたアシハラに正面から挑めば、最終的に勝ったとしても多くの兵力を失い、本国の奪還が不可能になる事は間違いない。

 

 そこで、作戦立案を担当したユウキは、一計を案じる事にした。

 

 アシハラが難攻不落で攻略困難であるなら、初めから攻略しなければ良い。

 

 アシハラは確かに、オーブ上空を周回するように設定されてはいるが、広大な宇宙空間から比較すれば単なる「点」に過ぎない。すり抜ける方法なら幾らでもある。

 

 つまりオーブ艦隊は、アシハラを迂回する形で大きく遠回りする航路を取り、眦を上げて緊張を高めているプラント軍を嘲笑うようにして、まんまとオーブ上空へと出現した訳である。

 

 だが、プラント軍とて、最後の最後まで乗せられるほど間抜けではない。

 

 オーブ軍が迂回行動をとった事を察知したアシハラ駐留のプラント軍は、ただちに追撃隊を組織してオーブ艦隊の後を追いかけた。

 

 オーブ軍が自分達を無視するならそれで構わない。連中の背後を突いて、散々に撃破してやるまでだった。

 

 ただちにアシハラを発したプラント軍の駐留部隊は、全軍を上げて追撃を開始し、大気圏突入を前にして、オーブ艦隊を捕捉する事に成功した。

 

 プラント艦隊が自由オーブ軍を視認できる位置まで達したのは、正に大気圏突入を開始しようとする直前であった。

 

「後方より接近する熱源多数ッ プラント軍です!!」

「こっちがおかしな事を始めたんで、慌てて巣穴から出て来たか。さて・・・・・・」

 

 ユウキは敵の動きを見ながら、泰然とした調子で顎に手をやる。

 

 現在、プラント軍はオーブ艦隊の背後から迫ってきている。しかも、敵は数も多い。このままでは、オーブ艦隊は背後を突かれて大損害を被るのは必定である。

 

 もっとも、

 

「それは、こちらが何も備えをしていなかった場合の話だ」

 

 そう言って、ユウキは帽子を目深にかぶり、その下でニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 オーブ艦隊に背後から迫るプラント軍艦隊は、直ちにモビルスーツ部隊を発進させると、自由オーブ軍を背後から襲うべく距離を詰めていく。

 

 既に、オーブ艦隊の姿は視認できる距離まで迫っている。

 

 舐めた事をしてくれたものである。自分達を無視して素通りしようなどと。

 

 そのツケを、たっぷりと支払わせてやる。

 

 彼等の目の前で、オーブ軍は無防備にも背中を晒して航行している。

 

 間抜けな連中だ。自分達の背後から敵が迫っている事すら気付いていないのか、あるいは大気圏突入作業の為に手が離せないのか、いずれにせよ、良いカモが並んでいるような物である。

 

 このまま背後から喰らい付き、徹底的に蹂躙してやる。

 

 誰もがそう思った次の瞬間、

 

 突如、上方から光の矢が降り注ぎ、今にも艦隊に対して攻撃アプローチに入ろうとしていたプラント軍の先頭部隊を、次々と撃ち抜いて行った。

 

「今だッ 攻撃を開始しろ!!」

 

 攻撃を終えたドラグーンを引き戻し、ムウは鋭い声で指揮下の部隊に命じる。

 

 同時に、自身も愛機ゼファーを駆って、プラント軍の隊列へと斬り込んで行った。

 

 放たれる攻撃をシールドで防御しつつ、反撃にビームライフルを斉射。砲門を向けるハウンドドーガを撃ち抜く。

 

 更にムウは、再度ドラグーンを射出すると、一斉攻撃を開始する。

 

 たちまち、反撃を喰らって大破する機体が続出した。

 

 オーブ軍は、ただ無防備に地球を目指していたのではない。プラント軍が追撃を掛けて来る事を先読みし、部隊を展開して待ち構えていたのだ。

 

 慌てて体勢を立て直そうとするプラント軍。

 

 しかし、そこへ今度は別方向から攻撃を浴びせかけられた。

 

 振り返ると、赤い炎の翼を羽ばたかせて迫る白い機体を先頭に、新手のオーブ軍が迫ってきている所だった。

 

「全機、散開しつつ攻撃を開始。大事の前の小事だ。あまり張り切りすぎないようにッ」

 

 ヴァイスストームを駆るラキヤは、サングラス越しに部下に語りかけると、自身もレーヴァテインを振り翳して斬り込んで行く。

 

 たちまち、砲火が集中されて、ラキヤの視界を閃光で染め上げる。

 

 だが、ラキヤは構う事無く放火の中へと飛び込む。

 

 一切、速度を緩める事無く、全ての攻撃を回避してのけるヴァイスストーム。

 

 その様に、プラント軍の誰もが慄いた瞬間、ラキヤは彼等の懐へと斬り込んだ。

 

 対艦刀モードのレーヴァテインを振るい、一閃で2機のハウンドドーガを斬り捨てる。

 

 更にラキヤは、ドラグーンを射出して展開。距離を取ろうと右往左往しているプラント軍に砲撃を浴びせ、容赦なく撃墜していく。

 

 徹底的にやる。それが、今回の作戦における骨子でもある。下手に敵の戦力を残したりすれば、背後から食いつかれる事になりかねない。

 

 だからこそ、徹底的にやる必要がある。本戦時にプラント軍が妙な気を起こさないくらいに。

 

 故に、ラキヤも手心を加える気は無かった。

 

 レーヴァテインをライフルモードに変更すると、速射に近い射撃で、迫りくる敵を次々と討ち取って行く。

 

 突然、猛攻を開始したオーブ軍。

 

 これには堪らないとばかりに、プラント軍の各部隊は後退を始める。

 

 とは言え、オーブ軍は少数だ。今は逆奇襲に成功した事で調子に乗っているが、プラント軍が体勢を立て直してじっくりと時間を掛ければ、勝利する事は疑いない。

 

 プラント軍の兵士の大半は、そのように考えていた。

 

 しかし、そんな彼等の思惑も、程なく潰える事となる。

 

 後退しつつ、部隊の再編成を行おうとするプラント軍。

 

 そんな彼等の後方から、4枚の炎の翼を広げた機体が、比類無い速度でもって急速に接近してきた。

 

「押し通らせてもらうぞッ」

 

 力強い声で呟くと、シン・アスカは、ギャラクシーを更に加速させる。

 

 デスティニー級機動兵器の正当後継機であるギャラクシーは、4枚の翼が織りなす加速と光学残像を駆使して敵機の照準を掻い潜ると、背中からドウジギリ対艦刀を抜刀して斬り込んだ。

 

 開け抜ける一瞬。

 

 次の瞬間には、3機のハウンドドーガが武器を構えたまま真っ二つにされて炎を上げる。

 

 誰も、ギャラクシーの姿を捉える事すらできないのだ。

 

 それでも幾人かのパイロットが、どうにか反撃の砲火を浴びせてくる。

 

 しかし、彼等の砲撃は例外なくギャラクシーを捉え、そして何事も無かったかのように透過してしまった。

 

 彼等が捉えたと思ったギャラクシーは、全てシンが意図的に空間に残した虚像に過ぎない。

 

 そして、その事を認識した瞬間には、既にシンは距離を詰めていた。

 

 ドウジギリに代えて両肩からウィングエッジを抜き放つと、サーベルモードにして二刀流を構える。

 

 砲火を撃ち上げながら接近してくるプラント軍の機体。

 

 次の瞬間、シンの中でSEEDが発動する。

 

 駆け抜ける一瞬。

 

 両手のウィングエッジは複雑な軌跡を描いて迸る。

 

 捉える事すら敵わない高速斬撃を前にしては、並みの雑兵程度、案山子以上の存在にはなり得なかった。

 

 

 

 

 

 各エース達の奮戦により、戦況は自由オーブ軍側の有利に進んでいた。

 

 既に背後から急襲を仕掛けたシン率いるフリューゲル・ヴィントと、ムウ率いる本隊とに挟撃され、プラント軍は壊滅状態にある。

 

 その様子をモニター越しに眺めながら、ユウキは満足そうにうなずいた。

 

 アシハラが難攻不落の要塞である事は、誰よりもオーブ軍諸将が心得ている。そんな要塞に、如何に艦隊とは言え正面から挑むのは愚の骨頂であろう。

 

 そこで、ユウキは一計を案じた。

 

 まず、艦隊に迂回進路を取らせて、アシハラを素通りしてオーブ上空へと到達できる航路を進む。

 

 当然、敵は迎撃の為に追撃部隊を差し向けて来る事だろう。彼等にしてみれば、自分達が素通りされてオーブに向かわれたとあっては、任務を完遂できないどころか、沽券にすらかかわって来るであろう。

 

 無視された怒りも手伝い、全軍で猛追してくる事は目に見えている。

 

 そこまで読めたなら、後の対処は簡単である。

 

 プラント軍の動きを先読みして部隊を配置。奇襲を掛けようとして接近してきたプラント軍を待ち構え、逆に包囲殲滅戦に持ち込んだわけである。

 

 いかに難攻不落の要塞であっても、駐留兵力がいなければ路傍の石コロ以下である。

 

 ユウキは困難な要塞攻略戦を避けて、あえて野戦に引きずり出す事で敵戦力を減殺し、アシハラを「陥落」させるのではなく「無力化」する事を狙ったのだ。

 

 そして今、その作戦は成就しつつある。

 

 ユウキの思惑に乗せられる形で引きずり出されたプラント軍アシハラ駐留部隊は、オーブ軍の誇る綺羅星の如きエース達を前に壊滅しつつあった。

 

「アスカ一佐、敵艦隊に肉薄します!!」

 

 オペレーターの報告通り、シンのギャラクシーが、その突破力に物を言わせて突っ込んで行く。

 

 当然、プラント艦隊も全力で迎撃を仕掛けて来るが、シンは構わず強引に、機体を砲火の内側へとねじ込ませると、ドウジギリ対艦刀を振るって敵艦を斬り裂き、更には光学残像の攪乱を利用して、同士討ちまで誘発する。

 

 その圧倒的な加速力を前に、誰もが手も足も出ない有様である。

 

 程無く、艦隊の3割近くを沈められたプラント軍は、這う這うの体で転進していくのが見えた。

 

 彼等としても、これ以上損害を喰らうのは本意ではないのだろう。

 

 その姿を見て、ユウキは深く頷く。

 

 これで、後顧の憂いは断った。後は、突き進むのみである。

 

「出撃全部隊に、帰還命令を発令しろ」

 

 一度息を吐いてから、付け加えた。

 

「いざ、オーブへ!!」

 

 

 

 

 

PHASE-39「いざ、オーブへ」      終わり

 


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