機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-36「時にはゆるい感じで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒカルは1人、部屋のベッドに寝転がって考え事に耽っていた。

 

 あまりに多くの事が一時に起こりすぎたせいか、脳は未だに混乱状態から回復していない。そのせいで、思考がいつもより鈍っているようだった。

 

 スカンジナビアでの戦い。

 

 生きていた両親。

 

 ラクスの遺志。

 

 ターミナルの真実。

 

 そして、

 

「・・・・・・・・・・・・ルーチェ」

 

 生きていた妹。

 

 そっと、右手を持ち上げる。

 

 この手は10年前、妹の手を握っていた。

 

 だが、気が付けば、大切な妹の姿は無く、ヒカルの胸にはあの日以来、大きな穴が開いて過ごして来た。

 

 自らの半身とも言うべき双子の妹を失った事でヒカルは、10年の時を後悔の内で過ごして来たのだ。

 

 だが、生きていた。

 

 生きていてくれたのだ、ルーチェは。

 

 嬉しくない筈がない。それがたとえ、敵味方に分かれ、骨肉相食む状況にあったとしてもだ。

 

「・・・・・・・・・・・・取り戻すぞ、お前を。必ず」

 

 妹の姿を脳裏に浮かべ、ヒカルは力強い声で呟いた。

 

 この血肉が迸る戦乱の中にあって、ようやく一筋の光明が見えたのだ。それを逃す気は無かった。

 

 とは言え流石のヒカルも、今すぐにルーチェを取り戻せるとは思っていない。それをやるには、時期的にも戦力的にもタイミングが悪かった。

 

 今の自分達は、全ての行動を「オーブ奪還」に向けている。その中でも、ヒカルとエターナルフリーダムは最重要の戦力として位置づけられていた。

 

 ここで勝手な行動をして、作戦その物を崩壊させる事は絶対にできない。

 

 ヒカル達を乗せたアークエンジェルは現在、大西洋を縦断する形で南米大陸のさらに南にあるターミナルの秘密拠点へと向かっている。そこで暫く待機して英気を養いつつ、自由オーブ軍の行動と合わせて、オーブ奪還を目指すのだ。

 

 ルーチェの事をヒカルから聞いたキラは、暫く思案した後、予定通りオーブへ向かうと決定した。

 

 キラ自身、娘を奪還したいと言う思いが無い訳ではない。それどころか、息子以上に、その想いは切実だろう。

 

 だがキラは、その感情全てを腹の内に飲み込み、オーブへ向かうと決断した。

 

 今のキラはターミナルのリーダーである。たとえ命よりも大事な娘の事であったとしても、私事を優先して良い道理にはならなかった。

 

 そんな父の苦悩を理解しているからこそ、ヒカルも決定に異は唱えなかったのである。

 

 とは言え、理性と感情は、人間にとって別の流れを司っている。

 

 理性では父の判断を支持しつつも、感情はどうしても妹を追ってしまう。

 

 首を振る。

 

 どのみち、ルーチェの事は今すぐに解決できる問題と言う訳でもない。

 

 それに、聊か業腹な感が無くは無いが、オーブに行く事は結果的にルーチェに辿りつく近道になるのでは、と言う予感もヒカルの中にはある。

 

 こちらがオーブ奪還に向けて動けば、敵は必ずそれを阻止しようとしてくるだろう。そうすれば、もしかしたらルーチェが再び出撃してくる可能性は大いにある。

 

 その時を、辛抱強く戦い待つのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・煮詰まって来たな」

 

 思考が袋小路に入り込んでいると感じたヒカルは、ベッドから起き上がる。

 

 少し、リセットがしたかった。

 

 ちょうど良い物がアークエンジェルには備えられている事を思い出し、ヒカルは準備をして部屋を出た。

 

 

 

 

 

 天使湯

 

 と言う暖簾が醸し出すシュール感は、他の比較対象に対して群を抜いていると言っても良かった。

 

 入れば、中には板張りの脱衣所があり、更に内戸の中には精巧の造りをした岩風呂が存在していた。

 

 昔、アークエンジェルが旧大西洋連邦所属を脱しオーブに匿われていた頃、整備、改修に当たった整備兵の1人に部類の温泉好きがおり、その整備兵が、火山島が多く、かつ温泉地も豊富なオーブの地勢からヒントを得て作成したのが、この温泉だった。

 

 性質上、長距離航海をする事が多いアークエンジェルにとって、クルーをリラックスさせる上では最適な装備であると言えた。

 

 その温泉に、3人の女が艶やかな裸体を晒して入っていた。

 

「ん~ すっごい気持ちいー!! 何で、大和には、これ無かったのかな?」

「無駄だからでしょ。ありがたいのは認めるけど、一応、スペースには限りがあるし」

「リィス、動かないでください。洗いにくいです」

 

 湯船に浸かったカノンが、思いっきり手足を伸ばして、そこに満たされた温泉を堪能している。小さな体とは比して、大きく育った胸が、湯の中で浮き上がり、その存在を誇張しているのが判る。

 

 一方、母に背中を洗ってもらっているリィスはと言えば、こちらは正に女盛りと言うべきか、出る所は出て、引く所は引く理想的な体型をしている。「女」としての存在を誇張する形の良い胸と、背中からお尻に掛けての見事な括れのラインに目が引かれてしまう。

 

 その母親であるエストだが、こちらは殆ど子供と言っても良い体型をしている。体は、娘のリィスはおろか、カノンと比べても小さく、胸や腰回りは幼女のそれと言っても過言ではない。

 

 ハッキリ言って、リィスと比べると彼女の方が姉、いや、最大限に穿った見方をすると、エストの方がリィスの「娘」に見えない事も無い。

 

 そんなエストが、両手を使って一生懸命、娘の背中を洗ってやっていた。

 

「まったく。いつの間に、こんなに大きくなったのですか?」

「8年前から、これくらいあったわよ。てか、お母さんの方こそ、それって結構反則じゃない?」

 

 自分より一回りは小さい体をしている母を、リィスはジトッとした目で見つめる。

 

 無論、母の身に起こっている事が、正常な事態ではない事をリィスは知っている。

 

 子供の頃、旧大西洋連邦の強化兵士として肉体改造を施されたエストの体は、その影響からか、10代中盤で成長を止めてしまっている。その為、年齢的には40直前にに達した今でも、体は10代のままなのだ。

 

 拾われた頃、リィスはエストよりも小さかったが、それも数年を待たずに逆転されてしまった。

 

「ずるいのはリィスの方です。こんなに大きくなって。私に半分ください」

「いや、無理だから」

「あはは・・・・・・・・・・・・」

 

 娘に嫉妬する母と、その母にジト目でツッコミを入れる娘の様子に、湯船に浸かったカノンは苦笑しか出なかった。

 

 とは言え、この間の険悪な雰囲気は完全に払拭された感がある。

 

 リィスの方は、まだ少し蟠る物があるようだが、それも時と共に解消されつつあるようだ。

 

 これは、成功だったかな。

 

 頭の上にタオルを乗せたまま、カノンはそんな事を考えて含み笑いを浮かべる。

 

 この「お風呂で女子会」を提案したのはエストであるが、その狙いが娘との和解であった事は想像に難くない。

 

 そして、事はエストの狙い通りになった訳だ。

 

 やがて、3人は存分に温泉を堪能してから、脱衣所へと戻った。

 

 一応、休憩中とはいえ、アークエンジェルは今も敵襲を警戒しながら航行中である。いつまでも温泉にのんびり浸かっている訳にはいかなかった。

 

 3人は、それぞれの服を手に着替えはじめる。

 

 と、その時だった。

 

 暖簾がまくられ、そこへ1人の少年が入ってきた。

 

「「「「あ・・・・・・・・・・・・」」」」

 

 その瞬間、時間が止まった事は言うまでもない。

 

 女性陣3対の視線が、不遜にも入り込んで来た闖入者に視線を集中させる。

 

 対して、

 

 入口で、入浴セットを持ったまま、入って来た少年、ヒカルもまた、硬直して動きを止めていた。

 

 彼の視線の中には、3人の女性が艶姿を晒している。

 

 少女その物の肢体を持つ母エストは既にブラウスとスカートまで着込んでいるが、姉リィスは、下着の上からブラウスを羽織っただけであり、その裾からは、やや大人っぽい黒いパンティーが僅かに見え、カモシカのように流麗な足が眩しく晒されている。

 

 幼馴染のカノンに至っては、着替えるのが遅く、未だに下着姿のままである。今日は少し可愛い系で攻めてみたのか、水玉模様のブラとパンツが、幼さの残る体に絶妙な色合いを示していた。

 

 花畑のような、鮮やかな空間に迷い込んでしまったヒカル。

 

「あ、悪ぃ。男湯と間違え・・・・・・」

「「とっとと出てけッ 馬鹿ァァァァァァ!!」」

 

 ヒカルが言い終わる前に、リィスとカノンがそれぞれ、手近にあったドライヤーと脱衣籠を投げつけた。

 

「ゴフッ!?」

 

 見事なまでのクリティカルヒットを受け、廊下まで吹き飛ばされるヒカル。

 

 そのまま、床をゴロゴロと転がり、反対側の壁にぶつかって停止する。

 

「だ、だから、わざとじゃないっての・・・・・・」

 

 覗いてしまったのは悪いと思っているが、それでも、これはやり過ぎだと思うのはヒカルだけだろうか?

 

「大丈夫です、ヒカル」

 

 そんな傷心の息子を慰めるべく、エストは倒れたヒカルの傍らにしゃがむと、その小さな手で頭を「よしよし」と言った感じに撫でてやる。

 

「あなたのお父さんも、だいたい似たような感じでした。私も何度も着替えを覗かれましたし」

「・・・・・・すまん、母さん。何が『大丈夫』なのか判らん。てか、何やってんだよ父さんは」

 

 ヒカルの中で、キラへの尊敬度がちょっとだけ下がった。

 

 

 

 

 

「ヘクションッ」

「風邪ですか?」

「いや、そんな筈は無いんだけど・・・・・・」

 

 気を使うアランに対して、くしゃみをしたキラは不思議そうに首をかしげて返事をする。

 

 と、

 

「やだッ 艦内で風邪とか、冗談じゃないわよ」

「体調管理がなっていないな。たるんでいる証拠だ」

「うつさないでくださいね、お願いですから」

 

 ここぞとばかりに、口々に散々な事を言うルナマリア、レイ、メイリン。

 

 それに対して、アランは唖然として口を開く。

 

「あの、キラさんって、ターミナルのリーダーなんですよね?」

「うん。自分でも、ときどき自信が無くなるけどね」

 

 そう言って、キラはアハハ、と笑う。つまり、この光景は日常茶飯事なのだと言う事だろう。

 

「それで・・・・・・」

 

 一同のアホなやり取りを無視して、カガリは話しを進めるべく口を開いた。

 

 キラに威厳が無いのは今に始まった事じゃないので、今さら驚くような事ではない。

 

 それよりも喫緊の事情として、処理すべき案件がある。

 

 スカンジナビアを出航したアークエンジェルは現在、北海とノルウェー海を越えて、北大西洋に入っている。後は一気に大西洋を縦断して南米沖を目指す事になる。

 

 もともとは宇宙戦艦として建造されたアークエンジェルだったが、オーブで改装された際、その気密性を利用して潜水艦としての機能も付与されている。まさに、単独行動を行うにはうってつけの艦と言う訳だ。

 

 このまま一気に拠点まで行くことができれば、話は簡単なのだが、事態は安易な選択を許してはくれないらしかった。

 

「ジブラルタル、か」

 

 カガリの言葉に、一同は難しい顔をして黙り込む。

 

 プラント軍の地上における第2の拠点であり、欧州方面を統括する一大軍事拠点である。ここがある限り、欧州近辺はプラントの庭と言っても過言ではない。

 

 当初、オーブまでのルートとしては大西洋縦断の他に、北極圏を通ってベーリング海峡を抜け、太平洋に出るルートも考えられていた。

 

 一見すると、後者の方が敵との遭遇率が低いようにも思える。しかし、太平洋に出れば、今度はプラント軍の軍事拠点と化しているハワイが存在している。万が一、アークエンジェルの動きをどこかでキャッチされたら、当然、敵も迎え撃つ準備をするだろう。万全の状態の敵に正面から挑む愚は、そうそう侵したくは無かった。

 

 その点、大西洋縦断ルートは、ジブラルタル沖さえ通過してしまえば、後は敵の勢力圏を抜けて一気に行くことができる、と言う訳だ。

 

 スカンジナビアを出る際、フィリップやミーシャは、国を救ってくれたことを感謝し、必要充分な量の物資を融通してくれている。その為、アークエンジェルは戦闘に耐えられるだけの状態は保持できている。

 

「ジブラルタルを抜ける方法は2つ。消極的に行くか、それとも積極的に行くか、だね」

 

 キラはそう言って、説明に入った。

 

 消極的に行く場合、話は簡単である。アークエンジェルはこのまま潜航したまま、敵の警戒ラインをすり抜けるようにして航行すればいいのだ。ただし、敵もアークエンジェルが南大西洋を目指す可能性を考えており、警戒ラインの強化を行っているだろう。もし発見されれば、包囲されて袋叩きに遭う可能性が高い。

 

 積極的に行く場合、敢えてジブラルタルに強襲を仕掛け敵の警戒ラインを混乱させ、その隙に突破する事になる。しかし現在、アークエンジェルが使える艦載機は、エターナルフリーダム、クロスファイア、2機のエクレールのみである。ギルティジャスティスとテンメイアカツキは、先の戦いで損傷を受けた為、暫くは実戦では使えなかった。

 

 どちらの案にも一長一短があり、多分に賭けの要素が濃い。

 

 安全面を考えれば、当然、消極案で行くべきである。無駄な戦闘は避ける、と言うのも立派な戦略の内だ。

 

 暫く考えた末、キラは自らの考えを披露した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、レミリアは自分のベッドが妙に盛り上がっている事に気が付いた。

 

 ため息を吐く。

 

「・・・・・・・・・・・・またか」

 

 幾度か繰り返した経験のある嘆息と共に、シーツをめくってみると、案の定と言うべきか、自分の腰に抱きつく形で、見慣れた少女が眠りこけていた。

 

 先日の戦闘における負傷によって、腕や足など、ところどころ若干痛々しい包帯を巻いているが、それでも少女の持つ美しさが損なわれる事が無いのは結構な事である。

 

 長らく外す事が無かった仮面も、今は机の上に置かれ、頑なに隠していた素顔が無防備に晒されている。恐らく「もう素顔を見られたから構わない」と言うくらいの認識なのだろう。

 

 ユニウス教団の聖女アルマ(ルーチェ)が、レミリアの腰に抱きつくような形で、幸せそうな寝息を立てていた。

 

 寝起きに、何とも呆れる光景である。

 

 昨夜、アルマの訪問を受けた覚えは無い。と言う事は恐らく、レミリアが寝てから、勝手にベッドに潜り込んで来たのだろう。

 

 スカンジナビアでの戦いを終えてから、レミリア達特殊作戦部隊は、敗走するザフト軍と共にジブラルタルへと落ち伸びてきた。

 

 弱小と侮っていたスカンジナビアに対し、まさかの敗北を喫し、這う這うの体で逃げ帰って来たザフト軍の兵士達は、その殆どがボロボロに傷ついていた。

 

 出撃したのは、ユニウス教団軍と含め、前線兵力だけでモビルスーツ230機(うち、ザフト軍180機)。しかし、戻ってきたのは、その半分にも満たない104機でしかなかった。しかも、その内の9割が、何らかの形で損傷を負っている有様である。

 

 その姿に、世界を席巻する精鋭の姿は無く、惨めな敗北者の群れが存在するだけだった。

 

 これは、プラント軍にとっては、聊か看過し得ない事態でもある。

 

 先の東欧戦線において、ザフト軍は壊滅寸前の損害を被り、未だにその損害から立ち直っているとは言い難い。いわば、出撃した180機は、辛うじて再編成を終えた「虎の子」だった訳だ。

 

 その虎の子が、スカンジナビア攻めと言う、言うなれば「寄り道」に近い戦いで大損害を喰らい、壊滅状態になってしまった。

 

 これでザフト軍は、部隊の再々編成が必要となり、本格的な行動再開はさらに遠のく事態となってしまった。

 

 自由オーブ軍の活動再開が近いと思われる昨今、致命的な事態にもつながりかねない事である。

 

 どうにかして、早々に戦力の立て直しが必要だった。

 

 そのような事情から、レミリアは損傷したスパイラルデスティニーの修理も含めて、ジブラルタル基地に逗留していた訳であるが、

 

 さも当然のように、アルマは頻繁にレミリアの部屋を訪ねて来ていた。

 

 昨夜も恐らく、遊びに来たのは良いが、既にレミリアが就寝中だった為、これ幸いと一緒のベッドに潜り込んだのだろう。

 

 断っておくと、男装などと言う奇矯な事をしてはいたが、レミリアにGLのケは無い。そして、(幸いな事に)アルマ(ルーチェ)にも、そっちの性癖は無いようで、ときどき、一緒のベッドで眠るのは、言わばスキンシップの一環だった。

 

 とは言え、そろそろ起きねばなるまい。だが、アルマが、しっかりとレミリアの腰を抱いている為、レミリアも起きるに起きれない。

 

「う~ん・・・・・・教主様・・・・・・お願いです・・・・・・お勤めはちゃんとやりますから・・・・・・あと5分・・・・・・あと5分だけ・・・・・・」

 

 何とも、可愛らしくも間の抜けた寝言に、レミリアはクスリと笑う。

 

 会った頃は、清楚で神秘的な雰囲気をしていたアルマだが、打ち解けて以後はむしろ、こうして子供っぽい仕草を多く見せるようになっている。

 

 つまり、これが聖女アルマの「素」なのだろう。

 

 普段はお高く纏っているアルマが、自分の前でだけ「素の自分」を見せてくれる事は、レミリアにとっても素直に嬉しく思う。

 

 しかし、流石にいいかげん起きてほしかった。

 

「アルマ・・・・・・アルマ、起きてってば」

「ん~・・・・・・」

 

 いくらレミリアが揺り動かしても、アルマ(ルーチェ)は起きる気配が無い。

 

 仕方なく、レミリアは最後の切り札を使う事にした。

 

 そっと、アルマ(ルーチェ)の耳元に口を近づける。

 

「聖女様。朝寝坊したら、ごはん抜きですよ」

 

 ガバッ

 

 効果は覿面だった。

 

 寝ぼけ眼のアルマ(ルーチェ)は、勢いよく身を起こした。

 

 危うく頭突きされそうになり、慌てて顔を逸らすレミリア。

 

 そんなレミリアを、アルマ(ルーチェ)は、尚も半眼の瞼を開いて見詰めている。

 

「・・・・・・・・・・・・ごはんは?」

「おはよう、アルマ」

 

 微笑むレミリアに、アルマはキョトンとして、次いでノロノロと頭を下げた。

 

「おあようございましゅ、リェミリヤ」(注:おはようございます、レミリア)

 噛み噛みのあいさつに、苦笑が漏れた。

 

 とにかく、アルマをどうにか覚醒させ、2人して着替えると部屋を出て食堂へと向かった。

 

 既にアルマはいつもの仮面を付けて、表情を隠している。

 

「・・・・・・・・・・・・ひどいです。あんな起こし方するなんて」

「いや、寝ている人の部屋に勝手に侵入するのはひどくないのかな?」

 

 不法侵入者の聖女に、レミリアはそう言って返す。

 

 そもそも、朝に弱い聖女と言うのは、果たして教団的に如何な物なのだろう? と思わないでもない。

 

 やがて、カウンターからトレーを受け取った2人は、空いているテーブルに行って朝食を取り始めた。

 

 一心に、朝食を口へと運ぶアルマを見ながら、レミリアは微笑を浮かべる。

 

 可愛いなあ、と思う。

 

 ずっと、「妹」としての立場にあったレミリアにとって、アルマの存在は何だか、いきなり現れた妹のように思えるのだった。

 

 そう言えば・・・・・・・・・・・・

 

 レミリアはふと、先の戦いでの事を思い出した。

 

 あの時、対峙したヒカルは、いったい何を言いたかったのだろう?

 

『待てレミリアッ そいつは俺の!!』

 

 あの時は、レミリア自身が慌てていた為、その先の事を聞く事ができなかった。

 

 しかし、親友の声が切実に迫っていたのだけは理解している。

 

 できれば、もう一度会って、ヒカルが何を言いたかったのか知りたかった。

 

 と、

 

「レミリア、そのサンドイッチ、食べないなら、わたくしにください」

 

 図々しい聖女様の発言が、レミリアの思考を遮った。

 

 苦笑する。

 

 まあ、今考えたところで、何か答えが出る訳でもない。頭の隅にでも留めておけばいいか。

 

 レミリアはそう思い、自分のサンドイッチが乗った皿をアルマに差し出す。

 

 敵襲を告げる警報が鳴り響いたのは、正にその時だった。

 

 

 

 

PHASE-36「時にはゆるい感じで」

 


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