機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼 作:ファルクラム
1
カノンが運転してきた武装運搬車両にセレスティを横付けすると、早速作業に取り掛かった。
着陸状態では4対8枚の翼は折り畳まれている為、まるで羽を休める鳥のような姿になっている。
専用の作業機械を搭載した運搬車は、内部からアームを伸ばして次々とセレスティに武装を取り付けていく。
「機体各部のコネクタに、アタッチメント方式で武装を取り付ける、か。確かにストライカーパックとかよりも効率は良いかもしれないけど、稼働時間は短くならないか?」
「今はデュートリオン送電装置とかもあるし、大出力のエンジンがあるなら、わざわざ追加バッテリーとかも必要無いしね。それなら武装だけの換装の方が比較的簡単にできるだろうって事よ」
ヒカルの言葉に、リィスは相槌を打つように返事をする。
姉弟としては久方ぶりの再会となる2人だったが、今は悠長に話している時間が無いのも現状だった。
こうしている間にも、北米統一戦線の攻撃は続けられている。その為、一刻も早い戦線復帰が急務である。
しかし、ここで問題が発生した。何あろう、セレスティとヒカル、カノンの事である。
セレスティはロールアウト前の新型機であり、当然、その存在は軍機の塊である。たとえ士官候補生とは言え、勝手に触れていい代物ではない。
本来なら、対象は即時に拘束して査問委員会へ出廷させる必要がある。
しかし、リィスにとっては非常に頭が痛い事に、拘束しなければならない「対象」2人が、共にリィスにとって縁の深い人物たちであったと言う事だ。
勿論、関係者だからと言って手心を加えたり、依怙贔屓をする事は許されない。リィスとて、根本においてその考えを変える気は無い。
無いのだが・・・・・・・・・・・・
やはり、弟とその幼馴染を査問委員会の場に引きずり出すのは、何とも気の重い話である。
それに、もう一つ重要な問題が残されている。セレスティ自体の事だ。
2人をこの場で拘束するとなると当然、その間セレスティは、この場に置きっぱなしと言う事になる。
そうなると統一戦線の攻撃で破壊されるか、最悪、セレスティまで鹵獲される可能性もある。
スパイラルデスティニーが敵に奪われた以上、今やセレスティは唯一の希望と言って良い。
代替のパイロット呼んでいる暇も無い。
考え抜いた末にリィスが出した結論は、セレスティはこのままヒカルに操縦させ、安全圏まで自分が監視(と言う名の護衛)していくと言う方法だった。
その際、カノンの方はリアディス・アインのコックピットに乗せてリィスが連れて行く事にした。
更に、セレスティはこのままでは、機動力以外は通常の量産型と変わらない貧弱な武装しか持っていない。そこで、ラボに残っていた武装の中から比較的無事な物を引っ張り出して使う事にしたのだ。
コックピットに入ったヒカルは、シートに座って機体を立ち上げていく。
セレスティのコンセプトは、先程の会話にあった通り、機体各部に設けられたコネクトに、武装をアタッチメント方式で取り付ける事ができる事にある。これにより、ストライカーパック、ウィザード、シルエットと言った各種換装系の機体よりも幅広い戦場で活躍する事ができると言われている。
それをリィスから聞いて、ヒカルは成程と納得していた。どうも初期武装が少なすぎると思っていたら、そう言う事だったのだ。
やがて、武装の換装も終えたセレスティが、ヒカルの操縦の元でゆっくりと立ち上がる。
先程までのノーマルの状態と違い、肩には追加装甲が設けられ、更に背部には大型対艦刀を背負っているのが見える。
若干機動力を犠牲にして接近戦を強化した形態である。他にもいくつもの武装バリエーションがあるが、リィスはあえて、なるべく省電力で稼働させる事ができる接近戦用の武装を使用する事にしたのだ。
「どう、ヒカル、いけそう?」
《ああ、何とかなりそうだよ》
スピーカーからは、ヒカルの声が響いて来る。流石にマニュアル無しで一度操縦しているだけの事はあり、かなり手際が良い。
これも血筋のなせる技なのだろうか、とリィスはちょっとだけ考えた。
「じゃあ、私の誘導についてきて。カノンは私の機体で連れて行くから」
《判った。頼むリィス姉!!》
答えながら、ヒカルは上空を警戒するように、カメラアイを振り仰ぐ。
既に、いつ敵の攻撃が来てもおかしくはない状態である。警戒はし過ぎて損をすると言う事は無い。
「さ、カノン。ついてきて。一緒に連れて行ってあげるから」
「うん、お願いリィちゃん!!」
手招きするリィスに、カノンは元気よく頷いて後に続く。
その時だった。
《接近反応!! リィス姉ッ カノンッ 気を付けろ!!》
鋭く発せられる、ヒカルからの警告。
次の瞬間、死神のうなり声にも似た風切り音が、リィスとカノンの耳にも届いてきた。
2
その頃、オアフ島の地下では、巨大な影が、ゆっくりと動き出そうとしていた。
まだ水を張っていないドッグに横たわる巨大な影は、さながら目覚めの時を待つ大海獣を思わせる威容を誇っている。
長大な艦首に、滑らかに隆起するような艦橋ブロック。そして大出力による高速航行を可能とする巨大なエンジン。
想像を絶するような巨大戦艦の姿が、そこにはあった。
その艦橋にある艦長席では痩身の艦長が、目深に被った帽子の下で目をつぶり、腕組みをしたまま報告を聞き入っている。
「ハワイ基地、地上施設はほぼ壊滅状態です!!」
「北米統一戦線部隊、Dエリアへ移動中。このままでは民間居住区に到達されます!!」
「ヒビキ大尉、リアディス・アインより入電。《セレスティの確保に成功。これより帰投する。尚、その際、士官候補生2名を伴う》との事!!」
報告を聞きながらも、艦長は身じろぎしない。
状況は最悪の更に下を行こうとしている。特にまずいのは、統一戦線の部隊が民間居住区へ迫っている事だ。
事態は一刻を争う。このままでは民間人が戦闘に巻き込まれる可能性がある。それだけは何としても避けなくてはならない。
北米統一戦線は今のところ、軍事施設以外を目標にした事は無いと言われている。しかし、それでも何が起こるか判らないのが戦場だ。万が一、流れ弾が居住区の方に1発でも飛んで行けば、それだけで大参事は免れなかった。
眦を上げる艦長。
既に駐留していた共和連合軍の部隊は壊滅状態に等しい。ハワイ基地司令部も、早急な状況の立て直しは不可能だろう。
ならば、こちらから取れる手段は限られていた。
「全艦に通達。本艦はこれより出航準備に入る。既に地上では戦闘が展開され、尚も敵軍の猛攻が続いている。本艦も出航すれば、すぐに戦闘になるだろう。しかし各位、恐れずに自分の仕事をしてもらいたい」
短い演説を終えると、艦長は再びシートに座り直して、オペレーターに目配せを送る。
それに対して合図を受けたオペレーターも頷きを返すと、正面に向き直った。
「出航用意!! サブエンジン始動!!」
艦長の声に弾かれるように、ブリッジクルー達は動き出す。
サブエンジンの回転と共に、出力は向上、徐々にエネルギーが艦内各部署へと行き渡る。
「サブエンジン、定格起動を確認。出力安定!!」
「コンジットオンライン、バイパス繋げ!!」
「バイパス、繋ぎます!! エネルギー回路、メインエンジンへ!!」
急速に各部署の回路がオンラインとなり、待機状態だった艦内に灯が燈っていく。
「ドッグ、注水開始」
低く命じられる艦長の声。
それに伴い、艦内からの操作でドッグ内の弁が開かれて海水が流入していく。
海水は艦艇を浸し、甲板を覆って艦橋にまで上がってくる。
「注水率、100パーセントを確認!!」
「船体ロック、外せ!!」
ドッグ内が海水に満たされると同時に、船体を拘束していた最終ロックが外され、僅かに浮き上がるような感覚が来る。
これにより、この戦艦は全ての拘束から解き放たれた事になる。
「メインエンジン、エネルギー臨界!!」
「エンジン始動!!」
唸り声がさらに強くなる。
サブエンジンよりも大きなメインエンジンに灯が入った事で、艦の出航に必要なエネルギーが回り始めたのだ。
「ドッグ注水率、100パーセント確認!!」
「ゲート開け!!」
艦前方のメインゲートが開かれ、その先には魚も泳ぐ海底の光景が広がる。
出航準備完了。発進可能。
その様を受け、
艦長はゆっくりと、顔を上げた。
作戦は成功した。
共和連合軍が開発した新型機動兵器を奪取する目的でハワイまでやって来た北米統一戦線。
この時の為に、一年前から工作員を潜入させ、実行の時を待っていたのだ。
そして彼等は成し遂げた。
共和連合が開発したスパイラルデスティニーの奪取に成功した。あとは撤退するだけである。
少数戦力で奇襲を掛けてきた北米統一戦線にとって、行動の素早さはそのまま生命線に直結する。一撃当てて一瞬で離脱する。時間を掛ければ掛けるほど、彼等の不利は確実な物となる。
本来なら、用が済んだらさっさと帰るに越した事は無い。
しかし、そうはならなかった。
今しも撤退しようとしている彼等の前に、極上とも言える獲物が出現した。
共和連合軍がスパイラルデスティニーとともに開発した、もう1機の機動兵器。これを奪取する事ができれば、自分達の戦力がさらにアップする事は間違いなかい。
そう考えた2機のジェガンは、地上に佇んでいるセレスティに対して攻撃を仕掛けてきたのだ。
ジェガンのパイロット達は獲物を見つけて群がる狼のように進路を変えて、セレスティに向かっていく。
急降下しながらビームカービンライフルを放ってくるジェガン。
それに対して、セレスティを操縦するヒカルは、シールドを掲げて防御に徹している。
カメラを足元には、リィスがカノンを庇うようにして胸に抱いた状態で蹲っているのが見える。
本来ならリィスも、すぐに機体に戻って反撃したいところである。しかし、不意に戦闘が始まった為、駐機してあるリアディスに戻れなくなってしまったのだ。
「このままじゃ・・・・・・・・・・・・」
焦慮がヒカルの口を突く。
防御に徹する事しかできないセレスティに対し、容赦なく攻撃を仕掛けてくるジェガン。
このままでは如何に最新鋭機とは言え、実力を発揮する事ができずに撃破される。そうなれば、足元にいるリィスとカノンの運命も確定するだろう。
「俺は・・・・・・・・・・・・」
飛んできたビームを、シールドのラミネートが弾く。
その光景を、苦しい眼差しでヒカルは見詰める。
「俺は・・・・・・・・・・・・」
少年の脳裏に浮かぶのは、幼い日に見た凄惨な光景。
爆発によって巻き起こった炎。
周囲に散らばる無数の死体。
そして、
巻き込まれ、炎の中に消えた、掛け替えの無い・・・・・・妹。
俺はまた・・・・・・・・・・・・
大事な人を、失うのか?
何もできずに?
次の瞬間、
ヒカルは眦を上げた。
「そんなのはダメだ。絶対に!!」
言い放つと同時にセレスティの右手を肩に回すと、ハードポイントからウィンドエッジ・ビームブーメランを抜き放つ。
機体を大きくひねりながら投擲。
急旋回しながら飛翔するブーメラン。
次の瞬間、ジェガン1機の装甲を斜めに切り裂き内部のエンジンを破壊、爆散させる。
思いがけない反撃により仲間の死にざまを見たもう1機のジェガンは、一瞬動きを止める。
その一瞬の隙が、完全に命取りになった。
ヒカルは8枚の蒼翼を広げてスラスターを全開、セレスティを一気に空中に飛び上がらせる。
ジェガンのパイロットも、すぐに対応しようとシールドとライフルを掲げる。
しかし、セレスティの速度には敵わない。
接近。同時に背部からティルフィング対艦刀を抜刀するセレスティ。
袈裟懸けの一閃。
長大な刃がジェガンの肩に食い込み、一気に斬り下げられる。
統一戦線兵士は反撃どころか、対応する暇すらなかった。
斜めに真っ二つにされたジェガンは、そのまま空中で二つの爆炎を迸らせて四散する。
後には、大剣を振り切った状態のセレスティが、美しい蒼翼を広げた状態で滞空しているのみだった。
そのコックピット内部で、ヒカルは荒い息をとめどなく吐き出している。
人を、殺した、初めて。
操縦桿を握り締めたヒカルの手が、緊張で汗ばんでいるのが分かる。
モビルスーツの手を介してではあるが、まるで本当に人を斬った感触が残っているかのようだった。
チラッと、地上にカメラアイを向けると、そこには不安げな表情でセレスティを見上げているリィスとカノンの姿があった。
ヒカルは操縦桿を握ったまま、ホッとため息をついた。2人が無事だったのは幸いだった。
しかし、
事が終わったことを認識した瞬間、ヒカルは自分の心に言いようのない重しが乗せられたような気がして息を詰まらせた。
目に浮かぶのは、爆炎を上げながら散華した2機のジェガンである。
カノンとリィスを守る為に無我夢中に機体を操った結果、ヒカルは2人もの人間の命を奪ってしまったのだ。
「・・・・・・これが・・・・・・戦争」
込み上げる苦い物を噛みしめるように、ヒカルは呟く。
もし自分が軍人としてやっていくなら、これからもこんな事を続けて行かなくてはいけないのだ。
その過程で慣れていくのか、それともプレッシャーに耐えかねて潰れてしまうのか、果たして・・・・・・
その時だった。
接近警報と同時に、ロックオン警報がコックピット内に響き渡る。
「新手ッ 速い!?」
ヒカルがシールドを掲げるのと、相手の攻撃が着弾するのはほぼ同時だった。
敵のビーム攻撃をシールドで防ぎながら、改めてティルフィングを構え直すヒカル。
その姿を、ストームアーテルを駆るアステル・フェイサーは、冷ややかな双眸で見詰めていた。
「共和連合軍の新型か」
低く抑えたような口調で言いながら、ライフルモードのレーヴァテインのトリガーを絞る。
迸るビーム。
その一撃をシールドで防ぎながら、ヒカルは斬り込む距離を測ろうとする。
そうはさせじと、スラスターをいっぱいまで吹かし、高速で機動しながらライフルモードのレーヴァテインを連射するアステル。
しかし、速力ならセレスティもストームに負けていない。旋回しながら接近を図ろうとするセレスティを、アステルの攻撃はなかなか捕捉できないでいる。
互いに旋回しながら、間合いを計っているセレスティとストーム。
「・・・・・・動きが素早いな・・・・・・ならば!!」
低い声で囁くと同時に、アステルはストームの左腕を持ち上げて、ビームガンによる攻撃を行う。
レーヴァテインに比べればビームガンは威力がだいぶ劣るものの、その分チャージサイクルによって、より速い連射が可能となっている。
その特性を活かし、セレスティを追い詰めていくアステル。
一方のヒカルは、連続して襲い掛かってくるストームの攻撃を前に、徐々に回避パターンが限定されていくのが分かった。
「クソッ このままじゃ!?」
苦しげに言葉を吐くヒカル。
ついにセレスティは、速射力の高いストームの攻撃を前に、完全に動きを止めて防御に回ってしまった。
ベテランパイロットであるなら次の一手を見据え、攻撃の一瞬の隙を突いて機動力で突破する手段を選んだだろう。
あるいは、シールドを掲げて強引に距離を詰めるのも有りである。そうすれば、アステルは嫌でも牽制攻撃をやめ、接近戦に応じざるを得なくなる。
しかし悲しいかな。今日の今日まで士官候補生に過ぎなかったヒカルに、そこまでとっさの対応を選ぶ事はできなかった。
シールドを掲げたまま、動きを止めたセレスティ。
そこへアステルは、レーヴァテインを対艦刀モードにして斬り掛かっていく。
刃の出力をいっぱいまで上げる。これなら、シールドの上からでもダメージを与える事ができるはず。
そう考えたアステルの意志に従い、大剣を振り翳すストームアーテル。
しかし、その攻撃は突如として強制的に中断される事になる。
横合いから放たれた複数のビームが、空中に立ち尽くしているセレスティを守るように、ストームに射かけられたのだ。
「何ッ!?」
振り返るアステル。
そこには、自分に向かって飛翔してくる青い機体の姿があった。
リィスはヒカルが孤軍奮闘している隙に、カノンを連れてリアディスに戻り援護に駆け付けたのだ。
リアディス・アインから放たれるビームを、アステルはビームシールドを展開しながら防御する。
「流石に、これでは不利も否めないか・・・・・・」
低い呟きを放つアステル。
操縦には自信があるアステルでも、共和連合軍の新型2機を相手に戦えるとは思っていない。
その間に、体勢を立て直したセレスティも、ティルフィング対艦刀を構えているのが見える。
状況はアステルにとって1対2と、やや不利となりつつある。
しかし、それでも尚、引き下がるつもりはなかった。
2機を同時に相手にするべく、慎重に距離を取りながらレーヴァテインを構えるアステル。
まさに、その時だった。
突如、視界の彼方にある海面に、巨大な水柱が打ち立てられた。
「何ッ!?」
これには、アステルも驚いて声を上げる。
その視界の先では、立ち上った水柱を割るように、黒々とした物が海面下から姿を表そうとしていた。
一瞬、クジラか何かかと思ったが、違う。その物体は、推定でもクジラのゆうに10倍以上の巨体がある事が分かった。
高い艦橋に、艦全体をハリネズミのように覆う砲塔群。
戦艦だ。
それも、かなり巨大な。
「艦首回頭、面舵30。主砲、1番、2番、攻撃準備」
その巨大戦艦の艦橋で、艦長の低い声が命令となって飛ぶ。
カーディナル戦役の終結から16年。
戦艦の技術に関しては低速重防御の大型戦艦よりも、高速の中・小型戦艦が主流となっていた。
その理由としては、戦場にいち早く部隊を展開させる機動性が求められたが故である。1隻の大型戦艦よりも、小型で高速の戦艦2隻の方が好まれるようになったのである。
しかし近年、テロ組織の巨大、凶悪化に伴い、戦艦もより強力な物が求められるようになった。
ようは大型戦艦のネックと言えば速力だけであり、それさえクリアすれば問題は何も無いと言う事になる。
より多くの兵力を、素早く戦場へ送り込む上では、小型戦艦を2隻動かすよりも、大型戦艦1隻の方が効率もコストも良いという事である。
上記のような理由により小型高速戦艦よりも大型高速戦艦が再び主流となり始めた訳である。
その為、オーブもまた、自国製の巨大戦艦を建造すると同時に、この艦の復活を決定した。
かつて、ヤキン・ドゥーエ、ユニウス、カーディナルと言った三大戦役を戦い抜き、常にオーブ軍の象徴的な存在としてあり続けた1隻の巨大戦艦。
最後の戦いとなったエンドレス戦では、敵要塞艦に対して見事な艦砲射撃を成し遂げた後、壮絶な爆沈を遂げた宇宙戦艦。
その名は、戦艦大和
オーブの旧主である国の、旧国名から取った栄光ある艦名。
まさに、国を守り外敵を打ち払う誇りある船の為に用意された名前である。
その大和の艦橋で、艦長はゆっくりと眦を上げていた。
シュウジ・トウゴウ三佐。
かつてヤキン・ドゥーエ戦役の折に初代戦艦大和を指揮し、その後、オーブ宇宙軍創設にも関わったジュウロウ・トウゴウの孫にあたる青年は、かつて偉大なる祖父が指揮したのと同名の艦を指揮し、今、戦場に立っていた。
大和は右に旋回しながら、主砲は左へと旋回。照準はセレスティ、リアディスと対峙しているストームアーテルへと向けられる。
「照準良し!!」
「エネルギー臨界!!」
「敵機、本艦主砲の軸線上に乗りました!!」
旋回した2基6門の主砲が、まっすぐにストームアーテルを捉えた。
次の瞬間、
「撃てェ!!」
シュウジの声と共に、6門の主砲が咆哮する。
迸る閃光。
モビルスーツの火力を遥かに上回る砲撃は、大気を切り裂いて迸る。
狙われたストーム。
「チッ!?」
迫る閃光を前にして、アステルは舌打ちすると同時に機体を傾けるようにして降下。
それとほぼ同時に、ストームの頭上を閃光が駆け抜けて行った。
間一髪。判断が後、コンマ何秒か遅かったら直撃を受けていたかも知れなかった。
「・・・・・・・・・・・・これまでか」
アステルは低い声で呟いた。
敵部隊に加えて、戦艦まで出てこられたのではアステルの勝機はかなり薄いと言わざるを得ない。このままズルズルと戦闘を継続していては、最悪の場合、離脱も難しくなる可能性があった。
決断すると、行動は素早かった。
機体の踵を返し、スラスターを全開にして離脱しに掛かる。
共和連合軍は追撃するようにストームの背後から砲撃を浴びせてくるが、ストームを捕捉する物は一発もない。
悠々と撤退して行く北米統一戦線。
そして、戦力的に壊滅状態の共和連合軍にそれを追撃するだけの力は残っておらず、ただ呆然と見送る以外に取るべき手段も無かった。
こうして、北米統一戦線によるスパイラルデスティニー強奪から始まった一連のハワイの戦闘は、終結したのだった。
深い闇。
一寸先すら見通す事ができないような闇の中で、
くぐもった笑いが、静かに木霊していた。
「・・・・・・・・・・・・ハワイにおける共和連合軍は壊滅、北米統一戦線は剣を得て勢いが増した訳だ」
妙に張りがありながら、それでいて不自然に抑揚を欠いたようなその声は、幼い子供のようにも、それでいて熟年の老人のようにも聞こえる。
いずれにせよ、闇の中にあって姿が見えない為、何者であるか判別する事ができない。
「・・・・・・いよいよ面白くなってきたじゃないか、僕達の世界も」
再び、くぐもった笑いが響き渡る。
どこまでも続く闇に溶けるように、陰々として、
深く、沈み込みながら・・・・・・・・・・・・
PHASE-04「闇の微笑」 終わり
《人物設定》
シュウジ・トウゴウ
ナチュラル
29歳 男
戦艦大和艦長
備考
共和連合軍三佐。オーブ宇宙軍の創始者、ジュウロウ・トウゴウ元帥の孫にあたる人物。実直な性格で、どこか冷徹な印象を受けやすい。
《機体設定》
セレスティS
武装
ビームライフル×1
アクイラ・ビームサーベル×2
ティルフィング対艦刀×1
ウィンドエッジ・ビームブーメラン×2
アンチビームシールド×1
ピクウス機関砲×2
備考
セレスティの接近戦武装形態。大型対艦刀ティルフィングを装備する等、かなり高い接近戦能力を誇る。
大和
225センチ3連装高エネルギー収束火線砲ゴットフリート×3
110センチ3連装リニアカノン・バリアント改×2
12・5ミリ対空自動バルカン砲塔システム×32
艦尾大型5連装ミサイルランチャー×6
魚雷発射管×12
陽電子破城砲グロスローエングリン×1
艦長:シュウジ・トウゴウ
備考
オーブ軍が建造した巨大戦艦。近年、高速中型戦艦が主流になっている中、大規模化する紛争への新たなる対応が迫られた共和連合は、それまでの路線を捨てて「大型高速戦艦建造計画」を推進した。その第一号となるのが本艦である。かつての大型戦艦群に匹敵する巨体でありながら、小型護衛艦並みの機動性を有している事から、攻防走のバランスが取れた新世代型の戦艦である。