機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼 作:ファルクラム
1
《貴自治区へ我がプラントに対する破壊工作を行ったテロリストが逃げ込んだ疑いがある事が判明した。よって、我が軍は全プラント軍を代表して貴自治区へ以下の要求をする物である。
1、テロリストの即時引き渡し
2、1が受け入れられない場合、調査の為に貴自治区への軍派遣の許可
以上の事が受け入れられない場合、プラントはスカンジナビア中立自治区をテロ支援団体と認定し攻撃を開始せざるを得ず、その場合の全責任は、テロリストを受け入れた貴自治区が負う物である。
賢明なる判断が下されん事を》
高圧的な内容が、電文で一方的な要求のみが伝えられてきた。
同時に、境界線付近にはプラント軍が展開を開始した旨が、監視部隊によって自治区本部へともたらされた。
「何だよ、これ・・・・・・」
電文を呼んで、ヒカルは沸々と湧き上がる怒りを隠しきれなかった。
自分達をテロリスト呼ばわりしている事はどうでもいい。他人がどう思おうが、今さら気にしないし、自分自身で「そうではない」と強く言い切れるほど、胸を張れる立場だとは思ってもいない。
だが、ヒカルが怒りを覚えているのは、そんな些事ではなかった。
先に北米解放軍がスカンジナビアに侵攻しようとしていた時、プラント軍は何もできずに、ただ指をくわえていただけである。
それが、いざヒカル達の活躍によって北米解放軍が撤退すると、まるでそれを待っていたかのように、我が物顔で姿を現して要求ばかりを突きつけるやり口は、傲慢と言うほかに無い。
「これじゃあ、解放軍の奴等と一緒じゃないか!!」
不当な要求を一方的に押し付けてくるやり方は、北米解放軍もプラント軍も一緒である。ようはそれを、非合法にやっているか合法的にやっているかの差でしかない。
「だが、今はそんな事を言っている場合じゃない」
冷静な口調で、カガリは甥をいさめる。
合法非合法を問う前に、現実的な脅威としてプラント軍が指呼の間に迫りつつあるのは事実だ。それをどうにかしない内に正当性を主張する事は時間の無駄でしかない。
「カガリさんの言う通りよ。まずは勝ってから、今後の事を考えましょう」
部隊長のリィスが、話題を建設的な方向に向け直す。
話は既に、政略、戦略的なレベルを超えて、戦術的なレベルにまで落ち込んでいる。即ち「如何にしてプラント軍を迎え撃つか」が重要な話題だった。
勿論、ここでヒカル達が投降する事はできない。そして、スカンジナビアにプラント軍の侵入を許す事も論外である。
つまり、戦って勝つ以外に、活路を見い出す事はできない。
戦略的に道を狭められたヒカル達にとって、それが取り得る唯一の選択肢だった。
「討って出る。それしか無いだろう」
低い声でアステルは告げた。
現状、スカンジナビア側の戦力は、ヒカル達を除けば微々たる物でしかない。プラント軍の精鋭とぶつかれば、一瞬と保たないだろう。
国内に陣を構えて迎え撃つ作戦は取れない。それをやるには、膨大な兵力が必要になるが、今のスカンジナビアの保有戦力では到底不可能な話である。
逃げる事も出来ない。仮にヒカル達が逃げ、スカンジナビア側が「テロリストは国外に逃亡した」と発表したとしても、プラント軍がそれを鵜呑みにする保障は無い。何しろ、大軍を率いて国境付近に押しかけてくるような連中だ。むしろそれを口実にして「テロリストがスカンジナビア国内に潜伏している可能性有り」と称し、強引に越境してくることは容易に想像できた。
相手は今や、地球圏最大の国家に属する軍隊である。非合法に強引な手法を用いたとしても、後で幾らでも正当化する事ができる。例えば「スカンジナビアはテロリストの支援を行った為、やむを得ざる措置としてプラント軍による制圧作戦を行った」と言ってしまえば、それが真実として通ってしまうのだ。
防衛も逃亡もダメとなると、残る手段は機動力を活かしてゲリラ戦をする以外に無かった。
機動力の高いエターナルフリーダム、ギルティジャスティス、テンメイアカツキが敢えて討って出る事で敵軍の目をスカンジナビアから逸らすのだ。
3機が「潜伏していたテロリスト」としてプラント軍に向かえば、敵はそれに対応せざるを得なくなるし、少なくとも侵攻の大義名分を失う事になる。
それで取りあえずは、スカンジナビアの安全は確保できるはずだった。
後の問題があるとすれば、討って出る3人。ヒカル、アステル、リィスが、この状況を切り抜けられるかどうかに掛かっている。
「やるしか、ないだろ」
ヒカルは低い声で決意も顕に呟く。
既に状況は、「できる・できない」を論じる段階ではない。残された道を進む以外、ヒカル達に活路は無かった。
ヒカルは、カガリへと向き直る。
「叔母さん。俺達は行きます。けど、もし帰って来る事が出来たら・・・・・・」
「ああ、判ってる」
皆まで言わなくて良い、という感じに、カガリは甥の言葉を制する。
祖国奪還の為に、カガリに協力してほしいとヒカルは言っているのだ。
正直まだ、カガリは今の自分に何ができるのか判らない。
しかし、こうしてオーブの為に戦ってくれている者達がいるならば、自分もまた彼等の力になってやりたかった。
2
一方、旧サンクトペテロブルグまで侵攻し、スカンジナビア侵攻の機を伺っているプラント軍は、スカンジナビアほどには緊迫した様子は見られなかった。
彼等は当初、ユーラシアを追われた北米解放軍を討伐する事を目指していたのだったが、スカンジナビアに自由オーブ軍の部隊が駐留している事を知り、急遽、目標を変更して進路をスカンジナビアへと向けたのである。
現状のスカンジナビアに、ろくな戦力が残されていないのはプラント側にも判っている。大軍でもって圧力を加えれば、否応なく彼等が従わざるを得ないのは火を見るよりも明らかであった。
プラント軍も、決して万全の状態ではない。先の東欧戦線の影響が色濃く残っており、急いで再編成した部隊を差し向けたのだ。
数にして、機動兵器180機。地上戦艦5隻。これが、混乱状態にあるプラント軍が抽出できるギリギリの戦力であった。
ただし、これに予期していなかった援軍が加わる事になった。
50機から成る機動兵器を率いて援軍に駆け付けたのは、同盟軍であるユニウス教団であった。
これらの戦力を用いて、プラント軍はムルマンスク侵攻の構えを見せている。
「成程な。誰が来たのかと思っていたら」
クーラン、クライブ・ラオスは、先行偵察機が撮影した、先の自由オーブ軍と北米解放軍との戦闘画像を見ながら、面白そうに鼻を鳴らした。
その画像の中で、12枚の蒼翼を広げた機体が、長大な対艦刀を構えて斬り込もうとしている様子が映し出されている。
とは言え、撮影できたのはこれ1枚のみ。後は殆ど、シルエットがブレまくっており、機体を特定する事は難しい。それだけ、対象となる機体の機動速度がずば抜けている事が伺えた。
「つくづく、縁があるようで何よりだよ、魔王様」
クライブは呟きながら、サディスティックな笑みを浮かべる。
実際、ヒカル・ヒビキの存在を、クライブはいたく気に入っていた。特に、昔のキラを見るような青臭さが良い。そう言うのを見ていると、あらゆる手段を用いて嬲り者にしてやりたくなるのだ。
「ねえ、ボス~ まだなの~?」
ソファーに座った足をぶらぶらと振り回しながら、フィリア・リーブスがダレたような口調で言い募る。
特別作戦部隊は今回、プラント軍の先鋒として布陣している。いざ開戦となった時には、真っ先に敵に突っ込んで行ける立場である。
それ故に、血の気の多いフィリアとしては、機が逸って仕方が無いのだろう。
「落ち着け。面倒なのは判るが、こういう事は建前も大事なんだよ」
「えー・・・・・・・・・・・・」
フィリアは不満そうに口を尖らせる。
筋金入りのバトルジャンキーにとって、戦場を前にして待機していると言うのは、来ぬ得なく苛立たしい事なのだろう。まるで、おあずけを喰らった犬のようである。
「良いじゃんか、別に。スカンジナビアなんて、どうせゴミクズの残りみたいな連中なんだから。アタシ1人で全部吹き飛ばしてやるわよ」
その言葉に、クライブは苦笑を漏らす。
確かに、フィリアの言うとおり、スカンジナビアの戦力は物の数に入らない。戦えば一瞬で勝負を決する事ができるだろう。
だが、相手は吹けば飛ぶような蟻以下の存在とは言え、一応は公的に認められている自治体である。いかにテロリストが潜伏しているとは言え、無理に力攻めすれば、プラントは非難の矢面に立たされることになる。
更に言えば、世間の非難を浴びてまで欲しがるほど、スカンジナビアと言う土地にメリットは無い。国土の半分以上は未だに汚染区域に指定されているため人が住む事もできず、主な生産産業も壊滅状態にある。つまりどう考えても、力攻めはリスクの方が高いのだ。
今回の派兵は、あくまでもテロリスト達のあぶり出しにある。それ以外の事は二の次に考えられていた。
「まあ、そう急くなよ。どうせ、あんまり時間はかからないだろうぜ」
そう言って、クライブはリラックスするように体を伸ばす。
どうせ、「魔王とその取り巻き共」は、筋金入りのお人よしだ。恐らく連中は、スカンジナビアを戦火に巻き込まないようにする為、討って出る選択肢を取るだろう。つまり、何もしなくても向こうから、わざわざ不利な状況に飛び込んできてくれるのだ。
そこを叩き潰してやれば良いだけの話だった。
出撃準備を終えたレミリアは、格納庫の端に腰掛けて、CDプレイヤーを聞き入っていた。
曲目は相変わらず、ラクス・クラインのヒット曲アルバムだ。出撃前に緊張した気分を落ち着かせるには、やはりこれが一番である。
ふと考える。
自分はなぜ、こんなにもラクス・クラインに惹かれるのだろうか、と。
レミリアは勿論、ラクス・クラインに直接会った事など無い。親友のヒカルなどは、生前の彼女と知己があったそうだが、生憎、レミリアのこれまでの人生は、そんな世界的な有名人と交わる機会は無かった。
本当に、自分でもどうしてなのか判らない。
しかし、レミリアの心の中では確かに、ラクスと言う存在に強く惹かれているのは間違いなかった。
と、その時だった。
「あッ!?」
いきなりヘッドホンが頭からスポッと取り上げられ、思わず声を上げるレミリア。
尚も止まらない音楽がシャカシャカという雑音を立てる方向に振り返ると、最近ようやく見慣れてきた仮面顔が目の前に立っていた。
「ちょ、アルマ、いきなり何するの!?」
「それはこっちのセリフです。レミリアってば、わたくしが何度声を掛けても、まったく反応しないんですから」
呆れ顔で言い募るアルマ。
だからって、いきなりヘッドホンを取る事も無いだろうに。
レミリアはプレイヤーの電源を落としながら、口の中で不平を漏らす。
これまでの短い付き合いからも、目の前の仮面少女が、見かけの清楚さを裏切り、随分とアグレッシブな性格をしているのはレミリアにも把握できていた。それ故、時々こうして突飛な行動に出る事に関しては諦念を覚えつつあるのだが。
「それで、どうかしたの? また聞く?」
そう言って、レミリアはヘッドホンをアルマの方に差し出す。
だが、予想に反して、アルマはレミリアに首を振って見せた。
「いえ、そうではなくて、ちょっと、レミリアにお尋ねしたい事がありまして」
「ん、良いけど、何?」
レミリアはアルマに、横に座るように促しながら尋ねる。
教団などと言う閉鎖的な空間にいるせいか、アルマは思っている以上に世間の情報に飢えている面がある。それ故、興味を持った事について、あれこれとレミリアに尋ねる事が多い。今回もそんなところなのだろうと思っていたレミリア。
だが、レミリアの横に腰を下ろしたアルマが尋ねたのは、予想とは反する事だった。
「レミリアは、オーブ軍の『魔王』と言う存在をご存知ですか?」
「ヘッ 魔王・・・・・・って、ヒカルの事?」
ヒカルが何やら、「オーブの魔王」とか、分不相応な異名で呼ばれている事は、レミリアも知っていたが、その事がアルマの口から出た事が意外だった。
そう言えば、噂ではアルマは何度かヒカルと交戦した経験もあるとか。その関係で気になる事でもあるのかもしれない。
「ま、実際の話、ヒカルは魔王って柄じゃないんだけどね」
そう言って、レミリアは含み笑いを漏らす。
実際の彼を知っている身としては、「あのヒカル」が、「魔王」などと呼ばれていると知った日には、思わず笑ってしまったくらいである。
そんなレミリアを、アルマは怪訝そうな面持ちで見詰める。
「レミリアは、魔王・・・・・・その、ヒカルと言う人物をご存じなのですか?」
「う、うん・・・・・・まあね・・・・・・」
そう言って、レミリアは力無く笑う。
かつての親友であり、レミリアが裏切った相手。
本来なら、罵られ、侮蔑されてもおかしくは無い。実際、一度は掴み掛られてもいるし、何度も剣を交えている。
しかし、それでもあの時、プトレマイオス基地で再会した時、ヒカルはレミリアに手を差し伸べてくれた。
今でも思い出す。
自分に、真っ直ぐに手を差し伸べるヒカル。
その姿は凛々しく、まるで本当に、レミリアをこの生き地獄から救ってくれるのでは、とさえ思えた。
だが、レミリアは、ヒカルの手を振り払った。他ならぬレミリア自身の手で。
姉を裏切る事はできない。この世でたった1人の、レミリアの姉なのだから。
レミリアがヒカルと共に歩む事は、決して許されない事なのだ。
「良い奴だよ。とってもね。一緒にいて、とても気分が良くなる感じがした。魔王(笑)とか呼ばれてるけどね」
つい、想像してしまう。ヒカルと共にいる事が出来たら、レミリアはどんなに幸せだった事だろう。
それが、叶わぬ事であると判っていながら。
「好きなのですか?」
「判んない」
アルマの質問に対し、レミリアは自嘲しながらあいまいな答えを返す。
勿論、好きか嫌いかで言えば、ヒカルの事は好きだ。
だが、アルマが聞いているのはLikeではなくLoveの方である。そして、今レミリアが考えている「好き」とはLikeの方だった。
あくまで友達としてなら、レミリアはヒカルの事が好きである。しかし、自分がヒカルを「異性」としてどう見ているのか判らなくなってしまうのだった。
次の戦い、情報では既に「魔王」の存在が確認されている。つまり、ヒカルが出てくるのだ。
自身の感情の如何とは別に、対決の時は否応無く迫っている事を、レミリアは自覚せざるを得なかった。
出撃の準備を終え、格納庫へと向かおうとしたヒカルはふと、窓から見える光景に足を止めた。
自治区代表事務所の、さして広くも無い庭には今、多数のテントが設置され、サンクトペテルブルクのある南方から逃れてきた人々でごった返していた。
勿論、極寒のムルマンスクでは、暖を確保できないとすぐに凍えてしまう。
職員たちが備蓄してあった燃料を配って歩き、更にはテントの補強を手伝ったりしていた。
痛ましい光景である。
彼等は皆、難民となって、このムルマンスクに逃げてきた人々だった。
「彼等は、ここよりほかに行くあての無い者達だ」
声がした方向に振り返ると、沈痛な表情のフィリップが歩いてくるところだった。
フィリップは今、難民たちの支援に奔走している。
先程の燃料供給もそうだが、他にも食料や日常必需品の確保、仮設住居の建設など、やる事は山のようにあった。
「ヒカル、私はかつて、君のご両親に助けられた事があった」
「えッ!?」
フィリップの言葉に、ヒカルは思わず振り返った。
フィリップはスカンジナビア王国が崩壊したばかりの頃、カガリの伝手でオーブに身を寄せていた事がある。
ちょうどその頃、ヒカルとルーチェを妊娠していたエストと交流を持つ機会があったのである。
「君の母上は、何というか独特の人でね。話していると、励まされているんだか、貶されているんだか、よく判らなくなる時が多かったよ」
「ああ、それは・・・・・・」
苦笑しながら話すフィリップに、ヒカルもまた釣られるように笑みを浮かべた。
一部からは「天然KY」などと言われていた母の言動が、どこか世間ずれしていたのは確かだ。
恐らく、エストに完全に調子を合わせる事が出来た人物は、キラやカガリ、ラクスと言った一部の者達だけだっただろう。
「だが、君の母上の叱咤があったからこそ、私はここまで這い上がって来れたとも言える」
フィリップは、自分よりも二回りも年下の少年に向き直ると、深々と頭を下げた。
「その私が、彼女の息子に、今一度お願いしたい。どうか、この国と、この国に住む人々を守ってほしい。無力な私に代わって」
かつて、王太子時代には決して見せなかったような態度である。
それに対し、ヒカルもまた、自身の責任の重さを噛みしめて頭を下げるのだった。
3
雪原を彩るように閃光が迸る。
それを奇禍としたように、戦闘が開始された。
当初の予定通り、スカンジナビア領から打って出る形で先制攻撃を仕掛けたフリューゲル・ヴィント特別作戦班の3人は、それぞれ、リィスが戦線正面、ヒカルが右翼、アステルが左翼に分かれる形で、それぞれ戦闘を開始した。
相手は230機以上の大部隊。
対して、こちらは3機。
絶望的という言葉すら霞んでしまう、まさに必敗の状況である。
それでも、ヒカル達は僅かな希望を掛けて攻勢に打って出た。
立ち上る雪煙を割って、エターナルフリーダムの鮮やかな蒼翼が姿を現す。
プラント軍が、その姿を認識した瞬間、
既にヒカルは、攻撃準備を終えていた。
迸る6連装フルバースト。
たちまち、上空を飛んでいたプラント軍の機体は直撃を受け、戦闘力を喪失して後退を余儀なくされる。
それでも、敵の数は多い。ヒカルの視界の中にいる物だけでも10は下らない。
「チッ」
舌打ちするヒカル。
元より、数の不利は承知した上での出撃である。しかも、戦いはまだ始まったばかり。絶望している暇は無かった。
砲火を向けながら向かってくるプラント軍。
リューンと呼ばれる細いシルエットを持つ機体は、プラント軍が最近になって戦線投入した空専用の機体であり、バビやディンの系譜に繋がるモビルスーツである。
武装はシンプルで、ビームライフル2丁と、手首から発振するタイプのビームソード2基。武装を減らして機動力を上げたシンプルな構造である。
3機のリューンが、エターナルフリーダムを標的と見据え、攻撃を仕掛けてくる。
その姿を、冷静に見据えるヒカル。
次の瞬間、ヒカルはレールガンに増設された鞘から高周波振動ブレードを抜刀すると、鋭く斬線を描く。
すれ違った直後、3機のリューンは全て、腕や頭部を斬り飛ばされて戦闘不能に陥っていた。
更に、ヒカルはそこで動きを止めない。
ブレードを鞘に戻すと、代わりにビームライフルを抜き、機体を上昇させる。
追撃の砲火を上げるプラント軍を尻目に高度を上げると、ヒカルは機体を翻らせ、再びフルバーストの構えを取る。
向かってくるプラント軍機。
対してヒカルは、躊躇する事無くトリガーを引き絞った。
雪原を、獣のような姿をした物が疾走している。
しかし実際に目にするそれは、本来の獣の何十倍もの巨躯を誇り、その全てを金属の装甲で鎧っている。
ガルゥ
ザフト軍の伝統とも言うべき、四足獣型機動兵器。その最新型である。
ユニウス戦役時に開発されたガイアのデータを基に、可変機構を排除。その代り背部や脚部に大小のブースターを設置して機動力を上げ、背部には旋回式の武装コネクタを装備。ビームサーベルは口部両脇とスタビライザー先端の各4基を持ち、両脚部にはビームクローも備えている。
四足獣型の極限まで、武装と機動力を上げた形である。
このガルゥとリューンは、本来なら東欧戦線に投入される予定であったが、充分な数が量産される前に戦線が悪化した為、ジブラルタルに長い間とどめ置かれ、実戦に参加する機会が無かった。
それが今、テロリスト討伐と言う大義名分を得て戦場に姿を現していた。
ガルゥ部隊が向かう先には、赤い甲冑を纏った機体が、刃を構えて待ち受ける。
「次々と新型を出してくるのは結構な事だが・・・・・・」
アステルはギルティジャスティスをわずかに上昇させると同時に、脚部のビームブレードを展開して蹴り出す。
鼻っ面に刃を喰らったガルゥが、真っ二つになって爆発する。
トンボを切るように上昇を掛けたギルティジャスティスに対し、ガルゥ4機が旋回しながら砲撃を集中しようとしてくる。
対してアステルは、空中で踊るような機動を見せて攻撃を回避しながらビームライフルを抜き放って斉射。ガルゥに対して牽制射撃を仕掛ける。
その攻撃を前に、動きを鈍らせるガルゥ。
その隙に、アステルは両手のビームサーベルを抜いて斬り掛かった。
低空に舞い降りるギルティジャスティス。
そこへ、1機のガルゥが、スラスターを噴射して襲い掛かる。
前肢のビームクローを振り翳すガルゥ。
しかし、
「遅いッ」
アステルは素早い一閃で、ガルゥの前足を叩き斬る。
そのまま、勢いを殺さず、距離を詰めに掛かるアステル。
ギルティジャスティスが放つ鋭い蹴りを腹に受けたガルゥは、仰向けになる形で地面へと落下する。
そこへ、アステルはすかさず機体を急降下させると、逆手に持ったビームサーベルを深々と突き刺した。
初見となるプラント軍の新型を、苦も無く倒したアステル。
しかし、尚も味方の屍を乗り越えるようにして、次々と敵がギルティジャスティスに向かってくる。
対して、アステルもまた、剣を構え直して斬り込んで行った。
一斉に放たれる砲撃は、しかし黄金の装甲を貫くには至らない。
太陽に手を伸ばさんとする者は自らが焼かれると言う故事を再現するかのように、迸る閃光はそっくりそのまま、撃った機体自らを焼き尽くす。
リィスの駆るテンメイアカツキは、あらゆる攻撃をヤタノカガミ装甲で弾きながら強引に突撃、手にしたムラマサ改対艦刀を振り翳す。
袈裟懸けに放たれる大剣の一閃は、タダの一撃で、今にも攻撃しようとしていたハウンドドーガを斬り捨て、返す刀で、背後から忍び寄ろうとしていた敵を斬り捨てた。
あらゆる攻撃はヤタノカガミ装甲と、同質の素材で作られたアマノハゴロモに弾かれて用を成さない。
逆に、リィスが放つ的確な砲撃を受け、撃墜する機体が相次ぐ。
「2人は・・・・・・まだ無事ね」
センサーに映る、エターナルフリーダムとギルティジャスティスの反応を確認しながら、リィスは安堵の息を吐く。
200機以上の敵を、たった3機で相手取る。
かつて無い程に苛酷な戦況の中とあっては、ただ個々人の奮戦に期待する以外に無い。
不用意に近付き、トマホークを振り上げるハウンドドーガ。
対してリィスは、振り向く事無くムラマサ改を一閃して叩き斬る。
そんなリィスの視界の中で、次々と敵機が向かってくるのが見える。
「・・・・・・良いだろう」
上等だ。やってやろうではないか。こちらは、守るべき大切な物を背負っているのだ。ここで退くわけにはいかない。
リィスは向かってくる敵機を真っ直ぐに睨み付けると、果敢に斬り込んで行った。
PHASE―32「ただ抗い続ける故に」 終わり
機体設定
AMF―201「リューン」
武装
ビームソード×2
ビームライフル×2
武装用コネクタ×4
備考
プラントが投入した、新型航空機動兵器。AMF-101「ディン」の流れを組む機体であり、シルエットは同時期の他の機体と比べて、かなり華奢なフレームをしている。その分、機動性は高い。重量軽減の為、基本武装は最小限にとどめられている。
TMF/902「ガルゥ」
武装
ビームキャノン×4
ビームサーベル×4
ビームクロー×2
旋回式コネクタ×1
備考
TMF/802「バクゥ」以来、ザフト軍の伝統とも言うべき四足獣型機動兵器の最新型。機動力と攻撃力は極限まで高められている。スラスターが可能な限り増設されており、跳躍力はほぼバクゥの倍近くまで強化、疑似的ながら空中戦も可能となっている。