機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-24「決断の光」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月に増援を送る為に、プラント本国を発したザフト艦隊。

 

 彼等が月へと到着すれば、膠着した戦況を一気に覆す事も可能になった事だろう。

 

 仮に自由オーブ軍が奮戦をしたとしても、最終的には数の差に押し切られるのは目に見えている。

 

 正に、プラント軍の切り札とも言うべき増援艦隊。

 

 しかし、

 

 彼等が月に辿り着く事はついになかった。

 

 突如飛来した閃光が、先頭を行くナスカ級戦艦を貫き、爆炎の中へと叩き込んだ。

 

 それを奇禍とした強烈な砲撃を前に、護衛についていたモビルスーツが次々と討ち取られていく。

 

 何事か!?

 

 皆が一様に警戒心を高めた。

 

 次の瞬間、

 

 それは虚空を斬り裂くようにして現れた。

 

 深紅に燃える2対4枚の翼を広げた鋼鉄の堕天使は、彼等の行く手を阻んで大剣を振るう。

 

「ここは行かせない!!」

 

 肺から吹き出すが如く、シンは気を吐くと同時に4枚の翼を羽ばたかせてギャラクシーを走らせる。

 

 その圧倒的な加速力を、目視できる者はいない。

 

 何かが来る!?

 

 そう思った次の瞬間には大剣の刃が旋回し、機体を真っ二つにする。

 

 防御はできず、回避も許されない圧倒的な攻撃力と機動力は、まさに魔神の進撃とでも言うべきか。

 

 シンが駆け抜けた後には、斬り裂かれたモビルスーツの残骸のみが空しく転がっているのみであった。

 

 更に別の戦場では、縦横に駆け抜ける光が、瞬く間にプラント軍の護衛部隊の隊列を斬り裂いていく光景があった。

 

「子供達が頑張っているんでね。親父たちがここで気張らなと、立つ瀬無いでしょ!!」

 

 おどけた調子で叫びながら、ゼファーを駆るムウはドラグーンに攻撃命令を飛ばす。

 

 既に壮年の域に入ろうとしている鷹は、しかし若かりし頃から聊かの衰えも見せない技術の冴えを見せ付けて、目の前の敵を徹底的に打ち倒していく。

 

 どうにかムウの攻撃を掻い潜って、接近を試みる機体も存在する。

 

 しかし、そのような不遜な態度を、エンデュミオンの鷹は見逃さない。

 

 すかさず取って返したドラグーンによる砲撃を浴びせ、容赦なく撃墜していく。

 

 ヴァイスストームを駆るラキヤは、そのサングラス越しに自身の目指す敵を見据えると、鋭く斬り込んで行く。

 

「君達を月に行かせるわけにはいかないんだ。悪いけどね」

 

 静かな声と共にドラグーンを射出。同時に対艦刀モードのレーヴァテインを振るって斬り掛かる。

 

 ヴァイスストームの正面にいたハウンドドーガはその一撃で袈裟懸けに切り飛ばされ、ドラグーンの砲撃を受けた他の機体も、コックピットやエンジンを吹き飛ばされて炎を上げていく。

 

 かつての大戦で多くの功績を残し、今尚現役であり続ける最強のエース達を前に、如何にプラント軍の主力部隊と言えども、抗しきれるものではなかった。

 

 第二次月面蜂起に先立ち、出撃準備を完了した自由オーブ軍の主力艦隊だが、しかし準備完了した段階で、既に戦端は開かれる直前であった。

 

 このままでは、出撃しても決戦に間に合わない事は明白である。

 

 思案した自由オーブ軍の首脳部は、連合軍の後詰として、間接的な形で戦闘に寄与すると言う結論に達した。

 

 その時には既に、プラント本国から月へ向けて大規模な増援艦隊が出撃した事が察知している。これを叩き増援を阻止する事で、月の戦いを側面掩護しようと考えたのだ。

 

 少数精鋭による部隊編成を終えた自由オーブ軍艦隊は、根拠地を出て出撃。月とプラントの中間地点でザフト軍増援艦隊を捕捉する事に成功したのである。

 

 旗艦艦橋に座る女性は、メインスクリーンに映る戦闘状況をつぶさに見詰め、艦隊に指示を飛ばしている。

 

 若いころと変わらず、包容力のある美貌を宿した女性は、淀み無い手つきで艦隊を指揮している。

 

「司令、敵艦隊、左翼が突出しつつあります。こちらを包囲する模様!!」

「左翼に火力を集中。敵の頭を潰しつつ、こちらも回頭!!」

 

 マリュー・フラガ中将は、スクリーンとオペレーターから齎される情報を基に、艦隊の機動を組み立てていく。

 

 前線では彼女の夫を始め、オーブ軍の精鋭達が戦っている。

 

 ならば、それを支援する事が自分達の役割でもあった。

 

 かつては不沈艦と呼ばれた戦艦アークエンジェルを指揮し、数多くの困難な戦いを生き抜いてきた名指揮官の指揮ぶりは芸術的と称して良く、ザフト艦隊を一方的に撃ち減らしていく。

 

 と、

 

「アスカ一佐、突出します。敵艦隊に攻撃を仕掛ける模様!!」

 

 オーブ軍の機体の中で、シンのギャラクシーが最も高い機動性を誇っている。故に、誰よりも早く乱戦を抜け出して斬り込んだのだ。

 

「司令、このままではアスカ一佐が!!」

「大丈夫よ」

 

 オペレーターの心配を、マリューは微笑を交えて遮る。

 

 オペレーターは、突出する事でシンが集中砲火を浴びる事を懸念したのだろうが、シンに限ってその可能性はあり得ない。

 

 それは、20年来の戦友だからこそ言える事でもあった。

 

 果たして、

 

 マリューの読み通り、並み居る敵を斬り伏せ、あらゆる攻撃を回避して、シンの駆るギャラクシーはザフト艦隊の中枢へと迫ろうとしていた。

 

 掲げるドウジギリ対艦刀は怪しい輝きを秘め、多くの敵をその刃に賭けて来た事が伺える。

 

 凄まじい加速力で全ての攻撃をすり抜けて見せるギャラクシー。

 

 当然、コックピットに座すシンには強烈なGが掛かるが、シンは構わずフルブースとまで持っていく。

 

 ザンッ

 

 真空中ですら音が聞こえそうなほど強烈な斬り込みと共に、標的となったローラシア級戦闘母艦が真っ二つに切り裂かれた。

 

 そこでシンは、動きを止めずに機体をさらに加速させる。

 

 既にモビルスーツという守りを失っている艦隊は脆い。

 

 それは、ただ1機の特機に翻弄されている事からも明白であった。

 

 シンの赤い瞳が、1隻のナスカ級高速戦艦を見据える。

 

 その艦は、他の艦に守られるようにして艦隊の中央に位置し、まるでこちらを恐れるかのように、砲火を上げてきている。

 

「あれかッ!!」

 

 それが旗艦であると、一瞬で判断したシンは、炎の四翼を羽ばたかせて、急降下するように一気に突っ込んでいく。

 

 当然、ザフト艦隊もギャラクシーの接近に気付いて、可能な限りの迎撃砲火を上げて来る。

 

 しかし、シンはデスティニー級機動兵器の特色とも言うべき分身残像機能を展開、艦隊が打ち上げるあらゆる攻撃を回避して一気に間合いの中へと切り込んだ。

 

「これで、終わりだ!!」

 

 振り翳されるドウジギリ対艦刀。

 

 その剣閃を前にして、鈍重な戦艦が逃げられる道理はない。

 

 刃が一閃される。

 

 それで、全てが決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が、怒涛の如き大歓声を上げている。

 

 それは圧政からの解放を示す物であり、同時に彼等が自由を掴みとる為の戦いを始めた狼煙でもあった。

 

 ヒカルは、自然と顔を綻ばせる。

 

 無駄ではなかった。

 

 自分達が起こした行動は、彼等の胸にも届き、それが大きなうねりとなったのだ。

 

「どうだ、これが月の意志だ。この地に、お前達は不要って事だよ」

 

 対峙する2機、テュポーンとエキドナを操るリーブス兄妹に語りかける。

 

 この戦い、既に彼等の負けは確定したような物である。仮にここでの戦闘に勝利したとしても、彼等が月を取り戻す事は、もはやありえないだろう。

 

 勝負はあった。

 

 だが、

 

《キャハハハハハハハハハ!!》

 

 フィリアのけたたましい笑い声と共に、エキドナが鉤爪を掲げて襲い掛かってくる。

 

 既にラドゥン2基と両足を失っているエキドナだが、未だに戦う意思を捨てる気は無い様子である。

 

《バッカじゃないの!? バーカバーカ!! そんなの関係無いしー 全部ぶっ殺せばいいだけの話よ!!》

 

 叩き付けられる攻撃に対し、ヒカルは高周波振動ブレードを抜刀、右の鉤爪を斬り捨てる。

 

 そこへ、背後からドラグーンを飛ばしながら、テュポーンが突っ込んで来た。

 

《そう言う事だ、魔王よッ 貴様等の戯言に、我々が付き合わなくてはならない謂れはない!!》

 

 言いながら複列位相砲を斉射。同時にドラグーンからも攻撃を加える。

 

 対してヒカルは操縦桿を巧みに操って攻撃を回避すると同時に高周波振動ブレードを鞘に納め、代わってビームライフルを抜き放つ。

 

 自身に向かってくるドラグーンに対し、素早く射撃を加えてドラグーンを撃ち落とす。

 

 だが、その隙にテュポーンの本体が特攻を仕掛けて来た。

 

《君も我々と同じだよ、魔王!! 君は戦いの中でしか生きがいを見出す事ができないッ だからこそ、斧ような逆境を嬉々として受け入れているッ!!》

「違うッ 誰が!!」

《何も違わんよッ 君は我々の同類だッ だからこそ、今、この状況に胸躍らせている筈!!》

 

 フレッドの言葉が、否応なくヒカルの胸に突き刺さる。

 

 そんな事はない。

 

 そんな筈はない。

 

 万言を費やして否定する事はたやすい。

 

 しかし、それで自分の本質を語っていると、胸を張る事が果たして出きるだろうか?

 

 かつてヒカルは、自ら戦場に進む道を選んだ。

 

 この道を捨てる選択肢は、何度もあった。

 

 だが、ヒカルは楽になれる道を捨て、頑なに辛苦の道を選び続けた。

 

 それが果たして、本当に戦いを欲していなかったと言えようか?

 

《君もこっち側に来るのだなッ そうすれば楽になれる》

《キャハハハハッ 仲良くしましょ、魔王様!!》

 

 嘲笑する2人。

 

 対して、

 

「一緒に、すんじゃねえよ!!」

 

 叫ぶと同時にヒカルはエターナルフリーダムの全武装を展開、6連装フルバーストを解き放つ。

 

 一斉に放たれる閃光。

 

 対して、どうにかリフレクターを展開して防ごうとするリーブス兄妹だが、既にこれまでの戦闘で多くの発生器を破壊されており、防御もままならない有様である。

 

 エターナルフリーダムが放った光の矢を前に、残った四肢やスラスターが吹き飛ばされて月面へと落下していく。

 

《所詮、君は君の運命からのがれられんよッ》

《まったねー 魔王様―!!》

 

 捨て台詞とも取れるリーブス兄妹の言葉が、ヒカルの精神を否応なく削り取る。

 

 墜ちていく2機を見やりながら、ヒカルは自問自答する。

 

 果たして、本当に自分は戦いを欲していないと言えるだろうか?

 

 今のヒカルには、それを確かめるすべも自信も無い。

 

 武器を格納して、機体を反転させる。

 

 戦いはまだ続いている。

 

 ヒカルは味方のパルチザン掩護を再開すべく、その場から飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 損傷して戦闘不能に陥った仲間達の回収を味方に任せ、戦場に戻ってきたクーヤは、信じられない思いに捕らわれていた。

 

 月の全ての都市で起こった暴動は、プラント関連の施設を標的にして、更に拡大の様相を見せようとしている。

 

 判らない。

 

 クーヤには全く判らなかった。

 

 彼等はなぜ、こんな愚かしい事をしているのか?

 

 間もなく、世界は統一される。

 

 アンブレアス・グルックと言う空前絶後の偉大なる指導者の名のもとに、争いの無い平和と繁栄が約束された、光り輝く世界が訪れようとしている。

 

 だと言うのに、彼等はそんな崇高な理念に背くかのように反乱を起こしている。

 

 黙って待っていれば幸せになれると言うのに、なぜ彼等は苦難の道へ落ちようとするのか。

 

 堂々巡りを繰り返す思考は、やがて迷宮の如き螺旋を抜けて一つの答えを導き出す。

 

「・・・・・・・・・・・・アンタ達が」

 

 双眸が鋭く光り、不遜な者達を睨み付ける。

 

 パルチザン、そしてオーブ軍。

 

 奴等が善良なる月の市民達を惑わし、煽動する事で今回の事態を引き起こしたのだ。

 

 そうでなければ、このような大それた事態にはならなかったはず。

 

 全ては、奴らが悪い。

 

 奴等さえいなければ、このような事にはならなかったのだッ!!

 

 次の瞬間、

 

 クーヤのSEEDが弾けた。

 

「アンタ達なんかに、この世界は渡さない!!」

 

 言い放ちながら純白の8翼を広げ、一気に斬り掛かる。

 

 近付こうとする敵はビームキャノンやビームライフルで撃破。同時にスラスターは全開まで引き上げる。

 

 一直線に飛ぶクーヤ。

 

 パルチザン側も抵抗しようと砲撃を繰り返すが、あまりの加速力に照準が追いつかない有様である。

 

 そのクーヤのリバティが目指す先に、

 

 エバンスが駆る機体が存在した。

 

「まずいッ こいつに来られては!?」

 

 勝利を目前にした敵の強襲に、エバンスは愕然としながらも手にしたビームライフルで迎撃しようとする。

 

 だが、当たらない。

 

 クーヤの鋭い機動を前に、あらゆる攻撃が無意味と化す。

 

 その様子は、救援に駆け付けたヒカルの目にも見えていた。

 

 真っ直ぐに突き進むリバティ。

 

 その先に立つ、エバンスの機体。

 

「やめろ!!」

 

 ヒカルが叫ぶが、既に遅い。

 

 次の瞬間、リバティが振るった剣が、エバンス機の右腕を斬り飛ばす。

 

 とっさに、防御しようとするエバンス。

 

 しかし、それは不可能だった。

 

 コックピットに光刃が突き立てられる。

 

 それで、全てが完了した。

 

 今際の極

 

 そのような物があるなら、エバンスは今まさに、その瞬間にいるのだろう。

 

 彼の目には、プラントの放つ軛から解放され、皆が笑いながら行き来している月の光景が広がっている。

 

 ここまで来た。

 

 とうとう自分達は、ここまで来たんだ。

 

 そこへ、手を伸ばす。

 

 次の瞬間、

 

 エバンスの機体は、炎に包まれた。

 

 その光景を、一瞬遅く救援に駆け付けたヒカルは、呆然と見ていた。

 

「そんな・・・・・・・・・・・・」

 

 ヒカルの目の前で、エバンスの機体が炎に包まれていくのが見える。

 

 殆ど、会話らしい会話を交わした訳ではない。せいぜい、すれ違った時に挨拶をした程度だ。

 

 だが、彼がいかに月の解放を悲願とし、その目的の為に戦って来たかは知っている。

 

 そのエバンスが、

 

 最も喜びをかみしめるべき人物が、

 

 悲願達成を目の前にして、炎の中へと消えて行った。

 

 ヒカルは脳裏で、ぼんやりと考える。

 

 エバンスは、自分の身を悲しんだだろうか?

 

 それとも、月の解放を成し遂げる可能性を見る事が出来て満足できただろうか?

 

 今となっては、それすらわからない。

 

 だが、

 

 ヒカルの中で、ある種の想いが駆け廻ろうとしていた。

 

 父がテロリストだったと知り、ヒカルはひどく動揺した。

 

 そして、自分が戦いを欲しているのかもしれないと思い悩みもした。

 

 だが、

 

 その全てが、今の一瞬でどうでも良くなった。

 

 父はかつて、テロリストとして多くの命を奪ったかもしれない。

 

 だが、それがどうしたと言うのだ?

 

 確かに、自分は戦いを好み、戦いを欲しているのかもしれない。

 

 だが、それがどうしたと言うのだ?

 

 父はいかなる時も、己の信念を持って戦い続けた。それは、父の戦いを知らないヒカルであっても、多くの人間が父を湛えている事からも明らかだった。

 

 そして、自分が戦いを好んでいるかどうかについては、今さら思い煩う事すら愚の骨頂だろう。

 

 自分は祖国を取り戻すために戦い続けると決めた。

 

 ならば、そこに迷いをさしはさむ余地など、薄紙一枚分もありはしない。

 

 迷っている暇があるなら、戦わなくてはならないのだ。

 

 次の瞬間、

 

 ヒカルのSEEDが弾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先の改装の際、リリア・アスカはヒカルにこう告げた。

 

『いい、ヒカル。これは確かに、使いこなせれば強力な武器になるかもしれない。けど、それができるかどうかは、アンタ次第だからね』

『俺、次第?』

『そう。本来なら、私の一存でこんな事をするべきじゃないのかもしれない。けど、あんたのお父さんやお姉さんは、昔、これを使って世界を救った。だからきっと、アンタにも使いこなす事ができる。そう信じているから、アンタに託すの』

『父さんと、リィス姉が・・・・・・・・・・・・』

『忘れないで、ヒカル。アンタの前には、アンタのお父さんやお母さん、お姉さんをはじめとした多くの英雄達がいる。その人たちが、必ずアンタの力になってくれるはずだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時に、今まで眠っていたシステムが、エターナルフリーダムの中で機動する。

 

『ExSEED System Activation』

 

 その文字がコックピットを覆った瞬間、

 

 エターナルフリーダムの機体を、赤い閃光が包み込んだ。

 

「あれはッ!?」

 

 クーヤがその姿を認識した、

 

 次の瞬間、

 

 12枚の翼は一気に駆け抜ける。

 

 何が起きたのか、

 

 視覚はおろか、理解すら追いつけない。

 

 気が付けば、リバティの両腕は肩から斬り飛ばされていた。

 

「なッ!?」

 

 驚愕に目を見開くクーヤ。

 

 その目の前で、大剣を構え直したエターナルフリーダムが佇んでいる。

 

 相変わらず、機体を包み込む閃光は健在。

 

 圧倒的な姿と戦力でもって、クーヤを睨み付けていた。

 

「ヒッ」

 

 短く悲鳴を漏らすクーヤ。

 

 これまでどんな敵と対峙しても、決して戦意を切らす事が無かったディバイン・セイバーズのエースが、初めて仇敵を前にして恐怖を感じていた。

 

 そんなクーヤの機体を守るように、複数のザフト機がエターナルフリーダムに向かっていくのが見える。

 

 だが、それがどんなに無謀な事かは、他の誰よりもクーヤが良く判ってた。

 

「ダメだッ そいつには近付くな!!」

 

 叫んだ時には、既に遅かった。

 

 彼等の視界からエターナルフリーダムの姿が消えた。

 

 と思った次の瞬間、

 

 攻撃を行っていた機体が、全て四肢をバラバラに斬り裂かれて月面へと落下していく光景が見えた。

 

 後には、両手のパルマ・エスパーダを構えたエターナルフリーダムのみが、その場を全て睥睨するように圧倒している。

 

 一瞬、

 

 瞬きすら許されない一瞬で、ヒカルは自身に攻撃を仕掛けて来たザフト機全てを、掌のビームソードで斬って捨てたのだ。

 

「そんな・・・・・・・・・・・・」

 

 クーヤの心を、絶望が縛り付ける。

 

 一体どのような事をすれば、あれほどの戦闘力を発揮できると言うのか?

 

 クーヤは恐怖の為、逃げるのも忘れてエターナルフリーダムを見ている事しかできない。

 

 そんな彼女の目の前で、機体を振り返らせるヒカル。

 

「ヒッ!?」

 

 ツインアイに睨まれた瞬間、思わず悲鳴を上げるクーヤ。

 

 その時だった。

 

 突如、縦横に降り注ぐ閃光が、エターナルフリーダム目がけて複数の閃光が一斉に降り注いだ。

 

 とっさにビームシールドで攻撃を防ぐヒカル。

 

 その視界の先に、

 

 白銀の装甲と翼を持つ、流麗な機体が滞空していた。

 

 その美しくも凶悪な姿に、思わずヒカルは息を呑む。

 

 UOM-X01G「アフェクション」

 

 2年前、フロリダ会戦で猛威を振るった、ユニウス教団の聖女が駆る機体である。

 

 ミシェルの仇であり、ヒカル自身も煮え湯を飲まされた因縁深き相手が、舞台をこの月に移して姿を現したのだ。

 

 警戒するように、アフェクションに向き直るヒカル。

 

 しかし、聖女アルマは、ヒカルを無視するようにクーヤのリバティに向き直った。

 

《これまでです。ここは撤退してください》

「何を偉そうにッ 今まで静観していた癖に!!」

 

 食って掛かるクーヤ。

 

 今の今まで指一本動かさずに事態の推移を見守っていただけの奴等が、最後の最後でしゃしゃり出てきて賢しらな事をするのが、彼女には許せなかった。

 

 だが、対してアルマは平然とした調子で言葉を返す。

 

《異な事をおっしゃいますね。わたくし達は言われたとおり、後詰として待機していたまで。介入したのも、あなた方の危機を察知したからです。その件に関して非難を受ける謂れはございません》

「それは・・・・・・」

 

 クーヤは抗議しようとするが、そこから言葉が続かない。

 

 確かに、独断専行する形で彼女達に後詰を押し付けたのは、他ならぬクーヤ自身である。

 

 ならばアルマ達の行動には一点の非も無い。この結果は全て、クーヤの独走が招いた結果である。

 

 自分達の力と立場を過信し、敵の実力や他の仲間を過小評価した結果が、今回の体たらくである。そのせいで、参戦したプラント軍はディバイン・セイバーズ、保安局、ザフト、その全てが壊滅的な損害を被ってしまった。

 

 防衛戦力は壊滅、月の各都市は一斉蜂起した市民によって大混乱に陥り、頼みの綱である増援部隊も到着する気配はない。

 

 最早、彼女達の負けは確定したも同然であった。

 

「クッ!?」

 

 悔しげに唇をかむが、最早どうにもならない事は明々白々であった。

 

 損傷した機体で、これ以上戦場にとどまる事も出来なかった。

 

 屈辱をかみしめながら、機体を反転させるクーヤ。

 

 しかし、その瞳は、尚も戦場にとどまり続けるエターナルフリーダムに向けられる。

 

 今に見ていろ。

 

 お前達の悪逆非道な振る舞いが許されているのも今のうちだ。

 

 この屈辱は、必ず晴らしてみせる。

 

 議長の理想を実現し、世界を守るのは、他の誰でもない、自分達であるのだから。

 

 遠ざかっていく自身の「敵」を見据え、クーヤは改めてそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント軍本隊が撤退を開始した事で、他の戦線もまた、後退を始めていた。

 

 そんな中、レミリアとアステルは、互いに数度の激突を繰り返しながらも、遂に互いに決定打を与えるには至っていなかった。

 

 とは言え、レミリアはドラグーン3基を失い、アステルも機体の装甲があちこち破損しているのが見える。

 

 旧北米統一戦線のエース同士による激突が、他の追随を許さないほどに激しい物であった事は間違いない。

 

 今もまた、アステルは勝負をかけるべく、スラスター全開で斬りかかろうとしている。

 

 両手にビームサーベル、両足のビームブレードを構えたギルティジャスティスが、スパイラルデスティニーに斬りかかっていく。

 

 対抗するように、スパイラルデスティニーは、ウィンドエッジ・ビームブーメランを抜き放って投擲する。

 

 旋回しながら飛翔するビームブーメラン。

 

 その攻撃を、アステルはビームサーベルで斬り払い、尚も速度を緩めようとしない。

 

 ブーメランを投擲した事で、今のスパイラルデスティニーの手に武器は無い。

 

 行けるか!?

 

 そう判断した次の瞬間、

 

「ッ!?」

 

 とっさにある事に気付き、アステルは機体を上昇させる。

 

 そこへ、レミリアはパルマ・フィオキーナを振りかざした。

 

 一瞬早く回避運動を行った為に、直撃を免れるアステル。

 

 同時に、舌打ちしつつ脚部のビームブレードを繰り出す。

 

 しかし、体勢を崩した状態での蹴り出しに意味はなく、ギルティジャスティスの攻撃は、悠々と距離を取るスパイラルデスティニーを掠める事はなかった。

 

 両者、距離を置いた状態で、再び対峙する。

 

 決め手は、完全に欠いている。

 

 と、

 

《今日は悪いんだけど、この辺で失礼させてもらおうかな。みんなももう、帰るみたいだし》

 

 どこかあっけらかんとした調子で、レミリアは告げる。

 

 だが、当然の事ながらアステルはそれを見逃すはずもなく、斬りかかるタイミングを計るように、両手のビームサーベルを構え直す。

 

「俺が、それを許すと思うか?」

《全く思わないね。だから、ちょっとだけ箔付けしてあげるよ》

 

 そう言うと、レミリアは残っていた5基のドラグーンを射出する。

 

 身構えるアステル。

 

 ドラグーンが攻撃態勢に入ろうとする瞬間を見計らい、ビームライフルで迎撃しようとする。

 

 だが次の瞬間、

 

 あろう事か、全てのドラグーンが、5方向からギルティジャスティスに突っ込んできたのだ。

 

 これには、アステルも意表を突かれた。

 

 PS装甲にぶち当たり、圧壊と同時に内蔵していたエネルギーによる爆発を起こすドラグーン。

 

 その衝撃で、機体が激しく振動し、大きく吹き飛ばされる。

 

「チッ!?」

 

 舌打ちしながらアステルは、どうにか機体を制御して体勢を立て直す。

 

 しかし、

 

 その時にはすでに、スパイラルデスティニーの姿はどこにもなかった。

 

 やられた。

 

 ドラグーンを攻撃武装としてではなく、文字通り特攻武器として使用するとは。

 

 まさか、このような手段で離脱を図ってくるとは、アステルも思いもよらなかった。

 

 相手はレミリア。やはりと言うべきか、一筋縄ではいかなかった。

 

 とは言え、もはや追撃もままならない。アステルもギルティジャスティスも消耗が激しい身である。

 

 下手に追えば、却って藪蛇になる可能性もある。

 

「持ち越し、か」

 

 諦念に似た呟きと共に、アステルも武器を収める。

 

 どの道、月の市民に蜂起を促すという戦略的目的はすでに達している。敵が退くというのなら、こちらもこれ以上戦う意味はなかった。

 

 

 

 

 

 本来なら、この戦闘はもっと一方的に推移してもおかしくはなかった。

 

 だが、クーランの持つ獣じみた戦闘能力により、やや押され気味ながらも、状況はかろうじて拮抗したものとなっていた。

 

 とは言え、それもすでに限界に近い。

 

 ガルムドーガは片腕を失い、カリブルヌスも消失している。

 

 それと同時に、クーランの戦意も低下していた。

 

 既に味方の敗北が決まり、ここで戦う事に意味はなくなっている。

 

 性格は残忍その物で、戦う事に対して生きがいを持つクーランだが、こと「戦う」という事に関して、彼なりの哲学を持っている。

 

 彼にとって、犬死は死に方としては最低の部類に入る物だった。

 

《悪ィが、ここは退かせてもらうぜ》

「勝手な事をッ!!」

 

 追撃を掛けようとするターミナルのリーダー。彼等の機体はほぼ無傷に近く、途中から参戦した関係で消耗も少ない。戦闘続行は充分に可能であった。

 

 だが、その追撃を断つように、複数の機体がクーランのガルムドーガを援護する。

 

 とっさに剣を振るって複数の機体の戦闘力を奪うが、その間にクーランは安全圏へと離脱していく。

 

 こうなると、手出しする事は難しいと言わざるを得なかった。

 

《まあ、そう焦るなよ。お互い、この地獄の底で生き残った者同士、決着を付ける機会はいくらでもあるさ!!》

 

 そう言うと、クーランは部下を引き連れて退却して行く。

 

《じゃあなッ また会おうぜ「キラ」!!》

 

 捨て台詞と共に遠ざかっていくクーラン機。

 

 その様を嘆息しながら見送ると、手にしていた対艦刀を背部のハードポイントに納める。

 

 確かに、ここでこれ以上戦う事は無意味でしかなかった。

 

 それに「あの男」が生きていたと分かった以上、今後は今まで以上に慎重に動く必要があった。

 

「レイとルナマリアに連絡して。こちらも撤退するよ」

「え・・・・・・でも・・・・・・」

 

 青年の言葉に、後席の少女は躊躇うように言葉を濁らせる。

 

 分かっている。「あの2人」に会いたいのだろう。

 

 その思いは、青年もまた同じである。

 

 しかし、

 

「僕達の存在が公に晒される訳にはいかない。それはラクスにも誓った事でしょ」

「でも・・・・・・・・・・・・」

 

 後ろ髪を引かれる思いは、なかなか振り切れない。

 

 無理もない。彼等は2人にとって、掛け替えのない子供たちなのだから。

 

 だが青年は、心を鬼にし、断固とした調子で告げた。

 

「生きていれば、また必ず会えるから。だから、今は我慢して」

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

 声を悄然とさせたまま、

 

 後席の少女、エスト・ヒビキは、彼女の夫であり、秘密情報組織ターミナルのリーダー、キラ・ヒビキに頷きを返した。

 

 

 

 

 

PHASE-24「決断の光」      終わり

 




要素を詰め込み過ぎた。
気が付けば最終決戦並みのボリュームに(汗

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