機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-22「獣の嘲笑」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流星の如く降り注ぐ砲撃を、クーヤとフェルドは互いにビームシールドを展開しながら防御する。

 

 火力に勝るヒカルは、2人を寄せ付けまいとするかのように砲撃の嵐を浴びせ掛ける。

 

 フリーダム級機動兵器の面目躍如と言うべきか、圧倒的と評して良い砲撃を前に、2機のリバティは完全に動きを縫いとめられている。

 

《クソッ これじゃ埒が明かねえぜ!!》

「あ、フェルド!!」

 

 クーヤの制止も聞かず、斬機刀を振り翳して斬り込むフェルド。

 

 防御に徹して閉じ籠るよりも、逆転の一手に賭けて斬り込む気なのだ。

 

 フェルドは巧みに機体を操り、飛び来る閃光を回避しながら距離を詰めていく。

 

 流石と言うべきだろう。その巧みな機体裁きによって直撃は一切無い。精鋭部隊の面目躍如である。

 

 行けるかッ?

 

 クーヤが固唾を呑んで見守る中、フェルドはエターナルフリーダムの正面に占位し、斬機刀を振り上げる。

 

《貰ったぜ!! これで終わりだ魔王!!》

 

 意気上げるフェルド。

 

 だが、

 

 ヒカルはフェルドが機動から攻撃に移る、一瞬のタイミングを見逃さなかった。

 

 ヒカルは無言のまま、モニターの中で攻撃モーションを取るリバティを睨み付ける。

 

 接近する事で、照準は正確さを増している。更にフェルドは攻撃に意識がシフトしている為、とっさの回避行動は取れない。

 

 相手がエースである時点で、闇雲な砲撃が意味を成さない事は明らかである。だからヒカルは、必中距離まで引き付けて撃つ事にしたのだ。

 

 フェルドはヒカルの張った罠に、まんまと嵌った形である。

 

 もはや、回避も防御も間に合わないのは明白である。

 

《く、そが・・・・・・》

 

 自分の現状を認識し、悔しそうに呟くフェルド。

 

 しかしその時には、全てが遅かった。

 

 放たれる6連装フルバースト。

 

 その一撃が、フェルドのリバティの両腕、両足、頭部を一瞬で吹き飛ばした。

 

「フェルド!!」

 

 クーヤが声を上げる中、完全に戦闘力を失ったフェルドの機体は、月の低重力に引かれて落下していく。

 

 彼の安否は判らない。

 

 しかし、確認している余裕も無かった。

 

 フェルドを倒したヒカルはと言えば、今度はクーヤに狙いを定めて向かってくる。

 

 その姿に、敵愾心を激しく燃やすクーヤ。

 

「よくもッ フェルドを!!」

 

 激昂しながら抜き放った光刃を振り翳して、エターナルフリーダムに斬り掛かって行くクーヤ。

 

 迎え撃つヒカルもまた、ティルフィング対艦刀を抜刀して構えた。

 

 

 

 

 

 カレン機は、黄金の翼を広げて迫るテンメイアカツキに対し強烈な砲撃を浴びせかける。

 

 対してリィスは、ビーム攻撃を装甲で弾きながら接近。ライフルによる反撃の砲火を浴びせる。

 

 互いの砲撃が交差する中、リィスはなるべく、カレン機の上方に占位するような位置取りに心がけて戦っていた。

 

 フリーダム級機動兵器の特徴として、プラズマ砲を肩に、レールガンを腰に装備すると言う形を取っている。つまり、腰のレールガンの射角は正面から下方をカバーする物であり、上方は狙いにくい訳である。

 

 その事が判っているからこそ、リィスは上方に位置取りしてプラズマ砲をヤタノカガミで弾きながら接近する戦術を取っている。

 

 そのようなリィスの動きを、カレンは苛立たしげな眼差しで睨み付ける。

 

「やりにくいわねッ この金ピカ!!」

 

 放つ攻撃は、全て装甲で弾かれるか、あるいは機動力で回避されてしまう。

 

 遠距離からの砲撃では埒が明かないと判断したカレンは、ビームサーベルを抜いて斬り掛かって行く。

 

 袈裟懸けに振るわれる光刃を、リィスはシールドで防御しつつ、小剣モードのムラマサ改を鋭く抜いて、横なぎに振るう。

 

 間合いの切り替えは、このような時に効力を発する。

 

 この剣のおかげでリィスは、接近戦において高いアドバンテージを獲得するに至っていた。

 

 リィスの剣閃は、カレン機の胸部装甲を僅かに抉り取る。

 

 とっさに、連装レールガンを跳ね上げ、至近距離から砲撃を加えようとするカレン。

 

 しかし、

 

「狙い通りね!!」

 

 その動きを先読みしたリィスは、鋭い蹴り上げでカレンのリバティを弾き飛ばした。

 

 強烈な衝撃に、思わず息を詰まらせるカレン。

 

 同時に放たれた4発の砲弾は、リバティが機体をのけぞらせたせいで、明後日の方向へと飛んでいく。

 

 まずい、早く体勢を戻さないと。

 

 そう思った時には既に、リィスはカレンの動きを先読みするように動いていた。

 

 放たれるテンメイアカツキのビームライフルが、リバティの右翼を吹き飛ばす。

 

「このッ!!」

 

 崩れるバランスの中、それでもどうにか攻撃を続行しようと、距離を開けに掛かるカレン。

 

 しかし、それは悪手である。

 

 カレンが充分に距離を開ける前に、リィスは攻撃を再開。放たれたライフルの一撃が、リバティの左足を吹き飛ばす。

 

 バランスを欠いた状態で、それでも尚、放たれる砲撃。

 

 しかし、照準が甘くなった状態では、砲撃を命中させる事は至難である。

 

 リィスはすり抜けるようにして全ての攻撃を回避しつつ、速度を緩めずに距離を詰めると、右手にムラマサ改、左手にビームサーベルを装備する。

 

「やばっ!?」

 

 顔を引きつらせるカレン。

 

 次の瞬間、間近に迫ったテンメイアカツキの剣が、リバティの両肩を斬り飛ばしてしまった。

 

 

 

 

 

 最後のビームダーツを抜き放つと、アステルは鋭い手つきで投擲。今にも攻撃態勢に入ろうとしていたドラグーンを破壊する。

 

 アステルとイレスの攻防は、当初こそ手数に勝るイレスが押していく形で推移していたが、アステルは自身を包囲するドラグーンを、隙を見ては破壊すると言うカウンター攻撃を繰り返す事で、包囲網にほころびを作り、徐々に裂け目を広げて行った。

 

 既にイレスが保持するドラグーンの数は3基にまで減っている。最早、包囲攻撃など望める状況ではない。

 

「まだだッ まだ、これから!!」

 

 尚もイレスは諦めず、3基のドラグーンを飛ばしてギルティジャスティスに挑む。

 

 既に計算など論外な展開であるが、それを考えている余裕すら、今のイレスには無かった。

 

 対して、逆にアステルは冷静さを保ちながら機体を操り、自信に向かってくるドラグーンの攻撃を的確に回避していく。

 

 その眼差しが、鋭くリバティを射すくめる。

 

「諦めない姿勢は嫌いじゃないが・・・・・・」

 

 冷たく言い捨てながらビームライフルを斉射。更に1機のドラグーンを攻撃開始前に破壊する。

 

 残る2基が諦めずに攻撃を仕掛けて来るが、10基のドラグーンでも仕留めきれなかったアステルを、たった2基で仕留められるはずもない。

 

 全ての攻撃を回避するアステル。同時に、今度はこっちの番だとばかりに背中のリフターを射出。イレス機を包囲するように背後へと移動させる。

 

「クソッ!?」

 

 状況不利と判断したイレスは、とっさに機体を後退させようとする。

 

 しかし、それよりもアステルの動きの方が早かった。

 

 回り込んだリフターの砲撃が、イレスのリバティを背後から捕捉する。

 

 ビームによる一撃が、イレス機の左翼を容赦なく吹き飛ばした。

 

 機動力が低下するリバティ。

 

 焦ったイレスは、どうにか機体を制御しようと躍起になる。

 

 そこへ、アステルは斬り込んだ。

 

 振りかざされるビームサーベルが、容赦なく振り下ろされる。

 

 とっさに機体を傾けて回避しようとするイレス。

 

 しかし、遅い。

 

 アステルの剣はリバティの左足と左腕を同時に斬り落とした。

 

 

 

 

 

「そんな・・・・・・・・・・・・」

 

 エターナルフリーダムが振り下ろした大剣を振り払いながら距離を置くクーヤ。

 

 しかし同時に、視線はカメラが捉えた仲間達の惨状に向けられる。

 

 手足を捥がれて月面に横たわるフェルド、両腕を失いながらも、残った火器を駆使してどうにか戦おうとしているカレン、手足を1本ずつ失い逃げ回る事しかできないでいるイレス。

 

 無惨としか言いようがない光景である。

 

 そんな馬鹿な。

 

 精鋭である自分達が、

 

 プラントで最高の技術と忠誠を持つ自分達が、薄汚いテロリスト達を相手にこうまで追い込まれるなど、

 

「あって良いはずが!!」

 

 叫びながらスラスターを全開にするクーヤ。ビームサーベルを振り翳してエターナルフリーダムへ迫る。

 

 奴等はテロリスト。所詮は世界に何の貢献を残す事もできず、ただ破壊と悲劇のみを撒き散らす堕落した存在。

 

 それに対して、自分達は輝かしい栄光と矜持を持ったプラントの精鋭だ。

 

 その自分達が、こんな所で負ける筈が無い!!

 

 接近と同時にビームサーベルを横なぎに振るうクーヤ。

 

 対してヒカルはクーヤの剣を上昇して回避。同時に機体を旋回させると、勢いに任せてティルフィングを振るう。

 

 迫る長大な刃。

 

 対してクーヤは、とっさに回避する事ができず、やむなくビームシールドを展開して防御する。

 

 接触する刃と盾が火花を散らす。

 

 次の瞬間、押し出されるようにリバティの機体が後方に弾かれる。大剣の振り下ろされた勢いに、スラスターの出力が拮抗しきれなかったのだ。

 

 凄まじい衝撃と共に、錐揉み状態になって月面へと落ちていくクーヤ機。

 

 しかし墜落の直前、どうにか姿勢を戻してスラスターを噴射、落着だけはどうにか免れる。

 

「クッ」

 

 舌打ちしながら振り仰ぐ先では、エターナルフリーダムが12枚の翼を雄々しく広げて、悠然と見下ろしている姿が見える。

 

 その姿に、クーヤの苛立たしさは否が応でも増していく。

 

 仕留めきれない。

 

 どうしても、倒せない。

 

 負の想いが、螺旋のように頭の中で渦巻いているのが判る。

 

 魔王などと呼ばれていい気になっているだけのテロリストが、正義の軍である自分達に逆らい、尚且つ圧倒している状況など、あってはならない事である。

 

 地に這いつくばり、無様に逃げ回るのは本来、奴等であるべきなのに。

 

 平伏して、自分達に許しを請うべきは本来、奴等であるべきなのに。

 

 ままならない状況に、歯を噛み鳴らすクーヤ。

 

 その時だった。

 

 そんなクーヤ機の頭上を追い越す形で、複数の機体が飛び去って行くのが見える。

 

 異形とも言える3機のモビルスーツ。

 

 更に、その後から炎の翼を広げた美しい機体も続く。

 

 保安局特別作戦部隊の連中だった。

 

《お前等はとっとと後退しろ。邪魔だ》

 

 通信機からは、クーランの冷たい声が響いて来る。そしてそれは同時に、クーヤにとっては敗北宣告でもあった。

 

「待って、まだ!!」

 

 まだ戦える!! 自分達はまだ負けていない!!

 

 武威を示し、議長の剣として戦うといかった自分達が、ここで終わる訳にはいかない。そんな屈辱を甘んじて受ける訳にはいかない。

 

 だが、現実に仲間は傷つき、クーヤもまた魔王を倒すには至っていない。

 

 自分から先鋒を引き受けておきながら、この体たらくである。クーヤの言葉は、負けが確定した戦いに拘泥して駄々をこねているような物だった。

 

《テメェじゃ役不足だよ。もっとレベルを上げて出直してくるんだな》

 

 魔王を倒すにはレベルが足らない。

 

 まるでゲームになぞらえたような嘲弄に、クーヤは悔しさで唇を噛みしめる。

 

 その視線は、再度の交戦体制に入ろうとしているエターナルフリーダムへと向けられていた。

 

「・・・・・・・・・・・・全部、あいつがッ」

 

 憎しみの籠った視線は、それだけでエターナルフリーダムを焼き尽くしてしまいそうな勢いで睨み付けている。

 

 あいつが余計な抵抗などせずに、自分に討たれていれば、こんな屈辱を受ける事にはならなかったのだ。

 

 今に見ていろ。

 

 心の中で呟きを漏らす。

 

 魔王も、保安局の連中も、テロリスト上がりの女も、問題ではない。

 

 自分達だ。

 

 自分達こそが議長の理想を実現し、世界を平和に導く為の唯一無二の存在なのだ!!

 

 その事を、いつか必ず思知らせてやる、とクーヤは改めて誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クーランは、月面で呆然と佇むクーヤのリバティを、侮蔑に満ちた目で追い越していく。

 

《フッ 無様だな》

《精鋭部隊のくせに、だっさ~い!! なっさけな~い!!》

 

 リーブス兄妹が、あからさまに嘲弄を込めた声で話しているのがスピーカーから聞こえてくる。

 

 しかし、本来なら窘めるべき立場にある筈のクーランは、彼等の言動に対して特に何も言おうとはしない。

 

 クーランもまた、リーブス兄妹と全く同じ心境であった。

 

 連中は健闘した。

 

 しかし、ただそれだけの話だった。

 

 結局のところ、彼等がやった事は何にもならない。ただ、悪戯に時間と戦力を消耗させただけに過ぎない。

 

 ただ、クーランにはそれで充分な話だった。初めから、手柄をディバイン・セイバーズに譲る気は彼には無い。

 

 大和隊の面々は、皆、ディバイン・セイバーズとの戦闘でバラバラになっている。今なら、充分に各個撃破できるはずである。

 

 それと同時に、クーランは彼等の後方に待機しているパルチザンの部隊にも目を付けた。

 

「フレッド、フィリア、お前等はあの有象無象共の相手をしてやれ。どうせ革命とやらに命を賭けている連中だ。望み通り派手にぶっ殺して、奴らの腸を街中に並べてやれ!!」

《了解した》

《殲滅戦っ 面白そう!!》

 

 勇んで飛び出していくフレッドとフィリア。

 

 次いで、クーランはレミリアに目を向けた。

 

「お前は俺に着いて来い。敵のエースどもを引き付けるぞ」

《・・・・・・了解》

 

 低い声で返事を返すレミリア。

 

 そんな彼女の心境を見透かしたように、クーランは笑みを浮かべる。

 

「残念だが、お前の相手は愛しい魔王様じゃない。変な手心加えられたんじゃ敵わんからな」

《そんなッ ボクは別に!!》

 

 言い募ろうとするレミリアを無視して、クーランは機体を加速させる。

 

「言い訳だったら、仕事をやってからほざくんだな。そらッ お前のお相手が向かって来てるぞ」

《ッ!?》

 

 息を呑むレミリア。

 

 そんな彼女の機体に、リフターを背負った深紅の機体が向かっていくのが見える。

 

 間違いなく、かつてのジャスティスの後継機だ。クーランにとっても、聊かの因縁がある機体である。

 

 まあ、何だかんだで、向こうは任せておいて問題は無いだろう。

 

「さて・・・・・・・・・・・・」

 

 クーランは改めて、自分に向かってくる蒼と白の装甲を持つ機体に目を向ける。

 

「相手になってやるぜッ おら来いよ、魔王様!!」

 

 言い放つと同時に、スラスターを全開まで引き上げた。

 

 

 

 

 

 1機のガルムドーガが、自分に向かってくるのがヒカルにも見えた。

 

 だが、その姿には、思わず唖然としてしまった。

 

 ガルムドーガの大ぶりな手には、今まで見た事も無いような装備がある。

 

 例えるなら棍棒、否、金棒だろうか?

 

 言ってみれば巨大な鉄の塊である。

 

 見るからに無骨であり、それ以上でも以下でもない。

 

「何だ、あいつは!?」

 

 叫びながら、6連装フルバーストを解き放ち、一斉発射するヒカル。

 

 しかし、クーランは機体を上昇させてエターナルフリーダムの攻撃を回避すると、勢いそのままに金棒を振り翳して殴り掛かってきた。

 

「クッ!?」

 

 その異様な姿に圧倒されながらも、ヒカルは両腰から高周波振動ブレードを抜刀。刃を交差させて迎え撃つ。

 

 激突する剣と鎚。

 

 互いに火花を散らしながら、至近距離で睨みあう。

 

《よう、また会ったな、魔王様!!》

「お前はッ!?」

 

 息を呑むヒカル。

 

 その声の主が、プトレマイオス基地で対峙した、あのPⅡの傍らにいた男だとすぐに判る。

 

《相変わらず、絶好調な暴れっぷりじゃねえかッ パパと同じ大量殺人鬼になる決心はもうOKかよ!?》

「うるさいッ!!」

 

 ヒカルは叫びながら、両腕を振り抜いてガルムドーガを弾く。

 

 同時にスラスターを吹かして追撃。両手の剣を鋭く振り抜く。

 

 刀身は短いが、高速振動させる事でビームサーベルにも匹敵するほどの切れ味が持たされている。

 

 だが、

 

《どうしたッ 動きが鈍ってるぜ、魔王様!!》

 

 ヒカルの攻撃を沈み込むような機動で回避したクーランは、手にした戦槌カリブルヌスをエターナルフリーダムへ叩き付ける。

 

 一瞬の事で、防御が追いつかないヒカル。

 

 直撃の瞬間、一瞬意識が飛ぶほどの衝撃に襲われた。

 

 並みの機体なら、その一撃で全壊レベルに叩き潰されている所である。エターナルフリーダムが無事なのは偏に、PS装甲の恩恵に他ならない。

 

《そんなんじゃパパには追いつけないぜッ 奴なら、瞬きする間に5人は殺ってるだろうからなァ!!》

「ッ!?」

 

 クーランの嘲弄が、ヒカルの精神を容赦なく摩耗させる。

 

 一度始まった動揺は留めようが無く、水が布を浸すようにヒカルの心を侵していくのが判った。

 

 動きが鈍る。

 

 勘が精彩を欠く。

 

 ヒカルはどうにか立て直そうと躍起になるが、どうしても本来の調子に戻らない。

 

 そこへ、クーランは容赦無く追い込んでくる。

 

《そらそら、アンヨはお上手かってな!!》

 

 専用のビームライフルを構え、嬲るように攻撃するクーランに対し、ヒカルはどうにか体勢を戻し、ビームシールドで防御する。

 

 振り切ったつもりでいた。

 

 父の事を知って、それで尚、自分を保つように意識した。

 

 だが駄目だった。

 

 普段は良くても、こうして少しでも揺さ振りを掛けられれば、どうしても動揺してしまう。

 

 そこをクーランは、容赦なく突いてきた。

 

《おらよッ これで終まいにしな!!》

 

 そう言い放つと、ビームライフルの照準を再度合わせるクーラン。

 

 閃光が、無防備に立ち尽くすエターナルフリーダム目がけて放たれる。

 

 これで終わり?

 

 本当に?

 

 迫る閃光を眺めながら、そう思った次の瞬間、

 

 黄金の光が、閃光遮るようにして羽ばたき、クーランの攻撃を明後日の方向へと弾き飛ばした。

 

 割って入ったテンメイアカツキが、手にしたビームライフルでガルムドーガの動きをけん制しつつ、強制的に後退を促す。

 

「リィス姉・・・・・・」

 

 自分を助けた姉の機体を、ヒカルは呆然とした表情のまま眺める。

 

 ヒカルの窮状を見て取ったリィスは、とっさに割って入って弟を守ったのだ。

 

 テンメイアカツキの翼、アマノハゴロモを広げ、リィスは威嚇するようにクーランのガルムドーガを見る。

 

《ヒカル、ここは私が引き受ける。あんたはパルチザンの援護に向かって。プラント軍の本隊が向かったせいで、向こうも苦戦しているみたいだから》

「けどッ・・・・・・・・・・・・」

 

 リィスの命令に対し、言い募ろうとするヒカル。

 

 父の事を悪く言われ、その存在まで穢された事、何より、その相手に対して一言も言い返せなかった事が、ヒカルには悔しかった。

 

 どうにかやり返したい。

 

 このままじゃ終わりたくない。

 

 いっそ子供じみた感情が、ヒカルの中でぐるぐると渦巻いている。

 

 だが、有無を言わせる気はリィスには無かった。

 

 彼女の目から見ても、ヒカルが目の前に男とやり合うには危険に思えたのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・判った」

 

 尚も悔しさを滲ませた声で、姉の指示に従うヒカル。

 

 だが、自身が頭に血が上りすぎている事は、ヒカルも自覚している事である。

 

 クールダウンを早急にやらない事には、思わぬところでミスを誘発する危険性があった。

 

 テンメイアカツキの肩越しに、反転していくエターナルフリーダムを見ながら、クーランは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

《何だ、今度は親玉の登場かよ》

 

 勝負に水を差された事が気に食わなかった。

 

 が、そこはそれ、すぐに意識を目の前の派手な機体へと切り替えてカリブルヌスを構え直す。

 

 相手が誰であろうと、楽しく戦争ができれば、彼は文句は無かった。

 

 

 

 

 

 赤い翼を羽ばたかせて斬り込むスパイラルデスティニーは、両手に構えたミストルティン対艦刀を交差するように振り翳す。

 

 迎え撃つギルティジャスティスもまた、両手にビームサーベルを構える。

 

 遠距離での迎撃は、初めから考慮に入れていない。

 

 アステルはかつて、レミリアのスパイラルデスティニーと共に戦った事がある関係から、あの機体の特性は良く理解している。

 

 分身残像機能がある以上、遠距離攻撃は視覚を攪乱され、却って状況を悪化させる要因になりやすい。

 

 それよりも、距離を詰めて探知能力を上げた方が戦えると判断したのだ。

 

 互いの剣をシールドで弾き、返す刀を回避すると同時に、スラスターを噴射して距離を取る。

 

 レミリアは後退しながらアサルトドラグーンを射出。ギルティジャスティスに向けて差し向ける。

 

 放たれる合計40門の砲撃は、しかし高機動を発揮して回避するギルティジャスティスを捉えるには至らない。

 

 逆に、包囲網をすり抜けるようにして斬り込みを掛けようとするアステル。

 

 対抗するように、レミリアはスパイラルデスティニー本体に搭載している火砲を全て展開して、ギルティジャスティスに対し真っ向から砲撃を浴びせる。

 

「チッ!?」

 

 舌打ちするアステル。これでは流石に、防御に回らざるを得ない。

 

 とっさにビームシールドを展開するアステル。

 

 しかし着弾の瞬間、強烈な威力に押し流されるように、ギルティジャスティスは大きく後退を余儀なくされる。

 

 これには、流石のアステルも息を呑まざるを得ない。

 

 味方であった時はあれほど頼もしかった機体だが、敵に回ればこれ程厄介だったとは。

 

 ギルティジャスティスが守りに入った隙に、ドラグーンを回収するレミリア。

 

 だが、レミリアはそこで動きを止め、何かを観察するようにギルティジャスティスをジッと見詰めている。

 

 これ幸いと、斬り込みを掛けるアステル。

 

 振るわれるサーベルの一閃を、レミリアはシールドで防御。火花が激しく飛び散って視界を遮る。

 

 と、

 

《その機体、もしかして、アステル?》

「・・・・・・・・・・・・」

 

 不意の問いかけに、アステルは無言のまま動きを止める。

 

 まさか、いきなり自分の事を言い当てて来るとは思っていなかった為、流石に虚を突かれた思いであった。

 

《ねえ、アステルなんでしょ?》

「・・・・・・・・・・・・よく判ったな」

 

 再度の問いかけに、アステルは低い声で応じた。

 

 互いに一旦離れ、距離を置いて向かい合う。

 

 かつてはともに戦場を駆けた戦友同士が、今や異なる陣営となった2人が、互いに剣を向けて対峙していた。

 

《判るよ。だって、君の動きは何度も見ているもん》

 

 成程。アステルがレミリアの特性を理解して戦術を組んだように、レミリアもまた、機体の動きからアステルである事を察知したのだ。

 

《てか、何でアステル、オーブ軍に?》

「それはこっちのセリフだ」

 

 お互い、北米を脱出した後に色々ありすぎて、何があったかなど一言で言い表せる物ではなかった。

 

《アステル、ボクは・・・・・・》

「敵と慣れ合う気は無い」

 

 言い募ろうとするレミリアの言葉を遮り、アステルはビームサーベルを構え直す。

 

 出撃前にヒカルに語った通り、相手が誰であろうと逡巡を加える気はアステルには無い。それが、たとえ相手が幼馴染であってもである。

 

 そんなアステルの様子に、レミリアは奇妙な可笑しさを感じて含み笑いを浮かべる。

 

《相変わらず素っ気ないね、君は》

 

 笑みを交えたレミリアの声に、アステルは僅かに目を細める。

 

 あるいは、相手がアステルと判った時点で、こうなる事はあるいはレミリアにも予測できていたのかもしれない。

 

 アステルの合理的かつ呵責の無い性格を、この世でレミリア程理解している人間は他にいないだろうから。

 

 合わせるように、レミリアも再びミストルティンを抜いて構え直す。

 

 互いの存在を知りながら、かつての友が剣を向け合う状況は悲劇的でありながら、どこか舞台の一場面を思わせる壮麗さがある。

 

 次の瞬間、両者は同時に駆けた。

 

 

 

 

 

 リィスはムラマサ改対艦刀を鋭く横なぎに一閃しながら、逃げようとするガルムドーガを追撃する。

 

 対してクーランはカリブルヌスを振るいながらテンメイアカツキの剣を弾き、同時に片のビームガトリングと腰のビームキャノンを放つ。

 

 迸る閃光は、しかし命中した瞬間には、全て明後日の方向へと逸らされてしまう。

 

 ヤタノカガミ装甲を前にしては、並みの光学兵器はこけおどし以上の物にはならない。

 

 その事を理解したクーランは、顔に凄然と笑みを浮かべる。

 

「ハッ なら、やり方を考えるまでの話よ!!」

 

 言い放つと、カリブルヌスを両手で構えて、テンメイアカツキへと斬り込んで行くクーラン。

 

 リィスもまた、大剣モードのムラマサ改を構えて迎え撃つ。

 

 振りかざされる大剣と戦槌。

 

 双方、激突を繰り返すたびに衝撃が操縦桿を通して、互いの体にまで伝わってくるようだった。

 

 リィスは激突の衝撃を逆用して後退。間合いを取りつつ、ビームライフルを構える。

 

 自身に有利な遠距離からの攻撃で仕留めようと考えたのだ。

 

 だが、

 

 守りに入ったリィスの思考を、クーランは敏感に感じ取り、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 テンメイアカツキがビームライフルを発射するのと、ガルムドーガが腰のハンドグレネードを掴んで投擲するタイミングは、ほぼ同時だった。

 

 ライフルの射線に重なるように投擲されたハンドグレネードは、光線に貫かれて爆発。大量の爆炎をまき散らす。

 

「そんな物で、何しようってのよ!!」

 

 とっさに、照準を合わせ直そうとするリィス。

 

 しかし次の瞬間、

 

 爆炎を突く形で、カリブルヌスを構えたガルムドーガが姿を現した。

 

「なかなかやるようだが、俺の相手じゃなかったなァ!!」

 

 クーランはハンドグレネードの爆炎を煙幕代わりに使う事で、リィスが目論んだ遠距離攻撃を封じ、その隙に距離を詰めたのだ。

 

「ッ!?」

 

 息を呑むリィス。

 

 すぐさま、腰のビームサーベルを抜刀して迎え撃つ。

 

 しかし、サーベルの光刃は、アンチビームコーティングを施した戦槌を透過してしまった。

 

 巨大な戦槌が、黄金の装甲を正面から直撃する。

 

「グッ!?」

 

 息を呑むリィス。

 

 同時にテンメイアカツキは、機体のバランスを崩す。

 

 大してガルムドーガは、素早く体勢を戻して追撃の態勢を整える。

 

「これで、終わりだ」

 

 低く呟くクーラン。

 

 同時に、ガルムドーガの手に握られたビームトマホークが、無防備なテンメイアカツキへと迫った。

 

 

 

 

 

PHASE-22「獣の嘲笑」      終わり

 


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