機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-21「崩れた大樹」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《・・・・・・繰り返します。先程、東アジア共和国の外務省を通じて発表された内容によりますと、「我が国は制式にユーラシア連邦との同盟関係を解消すると同時に、地球連合からの脱退を宣言する」との事であり、これは同時に今次紛争において、東アジア共和国が局外中立を宣言したに等しく、また同時に・・・・・・・・・・・・》

 

 モニターの中でアナウンサーが興奮してしゃべるのと反比例するように、会議室に座る誰もが、言葉を発する事無く、水を打ったように静まり返っていった。

 

 東アジア共和国が、ユーラシア連邦との同盟関係を解消し、プラントとの単独講和に踏み切ったと言うニュースは、電光の速さで地球圏を駆け巡った。

 

『今次大戦は、東アジアにとって聊かのかかわりも無く、また、他国の領土を守る為に我が国の有意ある若者を戦場に送り続ける訳にはいかない』

 

 それが、東アジア共和国政府の公式発表である。

 

 一見すると、もっともらしい事を言っているように見える。確かに、地球連合にとって主要な戦線は東欧から、現在は中欧付近にまで進出している。端的に言って、東アジア共和国は完全に蚊帳の外であり、ただユーラシアとの同盟関係に従って派兵しているに過ぎない。つまりは、殆ど自分達にはかかわりの無い、他人の庭の戦いと言う事になる。

 

 そう考えれば「戦場における無意味な損耗を避ける」と言う言い分も判らない事は無い。

 

 しかし、戦線は地球連合の有利に進んでおり、このまま行けばジブラルタルまで攻め込む事も時間の問題であろうとさえ言われていた。

 

 その矢先での、電撃的な離反劇である。裏が無いと思う方が無理がある。要するに今、現時点で、東アジア共和国が地球連合を脱退する理由は、全く無いと言って良かった。

 

 恐らくプラント政府は、内々に水面下で東アジア共和国政府と交渉を行い、今回の事態における下準備をしていたのだ。

 

 地球連合軍は戦略的には有利に進めてきた戦況を、言わば政略レベルでひっくり返された形であった。

 

 しかしこれは、自由オーブ軍にとっても由々しき事態である。

 

 ユーラシア連邦と東アジア共和国は大西洋連邦が崩壊した後、地球連合の言わば「両輪」として存在していた。

 

 カーディナル戦役が終結した後も、地球連合と言う組織が存続し得た理由は、その両輪が倒壊寸前の屋台骨をどうにか支え、回転し続けて来た事が大きい。

 

 だが、その片割れが、ついに脱落した。そして片輪だけで組織は維持できない。

 

 戦局が、

 

 否、歴史が、大きく動こうとしている。

 

 地球連合崩壊。

 

 それは、朽ちた巨木が倒壊する様を思わせた。

 

 約20年に渡って世界を二分し続け、幾度も世界を掌中に収める直前まで行った巨大組織が今、その歴史に幕を閉じ、過去と言う名の巨大な図書館の中へ、その存在を移そうとしていた。

 

「これは・・・・・・あまり良い状況とは言えないな」

 

 苦い表情をしたまま、シュウジは呟きを漏らす。

 

 会議室の中には彼の他にも、オーブ側からリィス、アラン、クルトが、パルチザンからはエバンスとダービットが、それぞれ顔を見せている。

 

 今回の東アジア共和国による地球連合脱退劇は、単なる政変の域にとどまらない。

 

 これまでプラント軍、分けても戦線の主力となるザフト軍は、地球軍に比べて決して多いとは言えない戦力を東欧地方に張り付かせる事で、辛うじて戦線を維持してきていた。

 

 しかし今、東アジア共和国が脱落し、ユーラシア一国のみでは脅威とは言えなくなった以上、プラント軍には余剰兵力が生じる事になる。

 

 その余剰兵力をどこに振り分けるか? 言うまでも無く自由オーブ軍討伐に差し向けられる事だろう。

 

 時間は、あまり残されていないと考えるべきだった。

 

 勿論、ザフト軍がすぐに再編成を終えて、対オーブ戦線に投入されるわけではない。負傷者の治療や機体の修理、部隊の再編、宇宙への移動には相応の時間がかかる筈。

 

 しかし最低限、それまでの間に月を解放、宇宙ステーション・アシハラを奪回して、本国奪還に向けて王手をかけておく必要がある。圧倒的な戦力差を前に、叩き潰される事になるだろう。

 

 だが、その第一歩目で、既に躓きかけているのが現状である。

 

 既にオーブ・パルチザン連合軍の方でも、プラント本国を発した増援部隊が月に向かっている事は察知している。

 

 物理的な戦力差を覆す事は事実上不可能である。

 

 だからこそ、その実情を踏まえて作戦立案を行ったのだが。

 

「ラクレス。作戦の準備はどうなっている?」

「8割がた完了している。現状でも、決行できない事は無い」

 

 シュウジの質問に、エバンスは資料に目を通しながら答えた。

 

 既にシュウジやリィス、アランはパルチザン上層部と協議を重ねて、第二次月面蜂起の根幹となる作戦立案を完了し、その為に必要な根回しも着々と進めている所であった。

 

 パルチザンの特性を活かした一大作戦である。この作戦が成功すれば、戦力比など微々たる問題でしかなくなるだろう。

 

 だが同時に賭けの要素も強く、危険を伴う作戦でもあった。

 

「非常に厳しいが、我々には他に方法が残されていない。我が軍主力の出撃準備が整ったとの報告も入っているが、それよりも先に敵の増援部隊が到着する方が早いだろう」

 

 シュウジは淡々と、状況を皆に説明する。

 

 指揮官の動揺は、全軍に波及する。

 

 指揮官は指揮官として戦場に立った以上、己の全てを捨てて作戦成功にまい進しなくてはならないのだ。

 

 そのシュウジの、冷静な頭脳が告げている。

 

 敵の増援が到着する前に、戦況に片を付ける必要がある。その為に仕掛けるタイミングは、今しかなかった。

 

 

 

 

 

 一方、プラント軍の方も、パルチザンがコペルニクス周辺に戦力を集中させていると言う情報を得て俄かに動きを活発化させていた。

 

 プトレマイオス基地には大量の物資が運び込まれて、集積されていく。その規模はパルチザンの比ではない。

 

 決戦への緊張が高まる中、しかし基地内にはどこか緊張の欠いた空気が流れていた。

 

 東欧戦線に多数の兵力抽出を余儀なくされたプラント軍だが、それでもオーブ・パルチザン連合軍に比べれば、兵力は3倍近い開きある。まともに戦えば、負ける事はまずありえないだろう。

 

 加えて、数日後には本国を発した増援部隊も合流する事になっている。そうなればより、勝利が確定的になる事は間違いない。

 

 多くの兵士達が、戦況について楽観視するのも無理からぬことであった。

 

 作戦としては、戦力の大半をプトレマイオス基地近辺に配置して戦力を集中させ、攻め寄せてくるオーブとパルチザンを迎え撃つと言う物だった。

 

 こちらからコペルニクス方面に攻め込む案も検討されたが、敵の別働隊が迂回路を使ってプトレマイオス基地へ攻め込んでくる可能性もあるとして却下された。

 

 プラント軍が最も警戒するのは、パルチザンやオーブ軍がゲリラ戦を仕掛けて消耗を誘ってくる事である。何と言っても、地の利はパルチザン側にある。下手な手を打てば、思わぬ事で足元を掬われないとも限らなかった。

 

 基地周辺に戦力を集中すれば、敵はゲリラ戦を仕掛ける余地も無くなり、否が応でも正面から相対せざるを得なくなる。そして、正面からの戦いなら、数に勝るプラント軍に分があった。

 

 その作戦会議が行われている席上で、気を吐いている少女がいた。

 

 クーヤである。

 

 彼女は居並ぶ基地の幕僚や、他の部隊の隊長達を前にして言い放った。

 

「先鋒は、我々が勤めさせていただきます」

 

 と。

 

 これには驚き、憤慨する者も多かった。

 

 クーヤ達の実力の高さは認めるが、彼女達はこの月では新参者の若輩に過ぎない。そんな連中に好き勝手にやられたのでは、面子も沽券もあった物ではない。

 

 しかし、彼女達は議長直属の特別親衛隊ディバイン・セイバーズである。いわば精鋭中の精鋭であり、プラント軍全命令権の上位に位置している。言ってしまえば、クーヤは月に駐留するプラント軍の中で、最高権力を持っていると言っても過言ではない。

 

 結局のところ、彼女の主張を受け入れた陣形の組み替えを行うよりほかに無かった。

 

 先鋒はディバイン・セイバーズ第4戦隊が務め、ザフト軍、保安局、そしてユニウス教団軍は、後詰として待機する。と言う方針に確定された。

 

 だが、当然の事ながら、クーヤの強硬な態度は外部のみならず内部からも疑問の声が上がるのを避けられなかった。

 

 会議を終えて部屋を出たクーヤを、カレン、フェルド、イレスと言った仲間達が追いかけて呼び止めた。

 

「おい、待てよクーヤ」

 

 大柄なフェルドが追いつくと、少女の肩に手を置いて引き留める。

 

 ややあって追いついてきたカレンとイレスも加わり、クーヤに詰め寄った。

 

「あのさクーヤ。逸る気は判らないでもないけど、どうしたのよ、あんな強引なやり方、アンタらしくないよ?」

「ナンセンスだ。あんな事をすれば、こちらの足並みが乱れる事になりかねないぞ」

 

 彼等は皆、これまでクーヤをリーダーとして認め、その下で共に協力して戦ってきた。

 

 彼等の中ではクーヤに対する絶対の信頼があり、クーヤもまた、彼等の信頼を裏切った事は無かった。

 

 だが、そんな彼等でも、クーヤが何を考えてあのような態度に出たのか測りかねているのだ。

 

「・・・・・・みんな、私達は何?」

 

 そんな3人に対し、逆にクーヤの方が問いかけるように、静かな声で言った。

 

「私達は、プラント軍の中で最高の栄誉と忠誠を持ったディバイン・セイバーズでしょ。そんな私達に課せられた使命は、議長に刃を向ける下賤な輩を倒し、議長の理想である地球圏の統一を成し遂げる事にある筈。それができるのは、他でもない、私達だけなんだから」

 

 それは、ディバイン・セイバーズなら、入隊した際に誰もが叩き込まれる誓いであり。

 

 議長を守り、議長を助け、議長の剣となりて、議長に刃向う全てを撃ち滅ぼす。

 

 それこそが、ディバイン・セイバーズの在り方であり、絶対に曲げる事の無い魂の誓いでもある。

 

「魔王を倒し、この月を平定するのは、私達でなくてはならない。それはみんなにも判っている事でしょう?」

「それは、まあ・・・・・・」

「クーヤの言うとおりだよね」

 

 断定するようなクーヤの言葉に、カレン達もそれぞれ頷きを返す。

 

 多少の程度の差こそあれ、親衛隊員として「英才教育」を受けた彼等は、「議長の理想実現の為に尽くす」と言う方針が叩きこまれているのだ。

 

 だからこそ、彼女達もまた、クーヤの言葉に一理以上の物を感じていた。

 

「議長が歩む栄光の道を切り開くのは、私達よ。得体の知れない保安局の隊長や、ましてかテロリスト上がりの薄汚い女なんかじゃない」

 

 そう呟くクーヤの脳裏には、先日、増援として本国からやって来たレミリア・バニッシュの事が思い浮かべられていた。

 

 テロリスト時代のレミリアと交戦した経験を持つクーヤは、常に彼女の事を敵意の眼差しで眺めている。ましてかこれまでのレミリアは、議長直属戦力として特別な位置づけをされ、単独での行動が許可されていた。その事が、クーヤには「自分達を差し置いて、議長に特別扱いされている」ように見えていた。

 

 冗談ではない。議長に最大の忠誠を誓っている自分達では無く、あのようなテロリスト上がりの女が特別扱いされるなど、あってはならない事である。

 

 勿論、真実は違う。実際にはレミリアには「特別」な事など何一つ無く、姉を人質に取られて戦場に立つ事を強要されているに過ぎない。単独行動を許可されているのも、これまで立場上、部隊単位に組み込む事ができなかったからに他ならない。

 

 だが、それはクーヤの預かり知らない事であったし、仮に知ったとしても、まつ毛の先程も同情を寄せる事はあり得なかっただろうが。

 

 だからこそ、手柄を立てる必要がある。

 

 邪魔者を完全に排除した状態で、誰にも(それこそグルック本人にも)文句のつけようがない手柄を立て、その上で自分達の存在を大々的にアピールする。

 

 そうすればグルックも、あんな女などよりも、自分達の方がいかに有用であるか理解するだろう。

 

 プラントを、ひいては議長を守るのは、自分たちなのだ。

 

 その思いを、クーヤは新たにして、決戦の地へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッチが開き、視界が開ける。

 

 視界の中に広がる虚空の彼方から、降り注ぐ星の光が視界に飛び込んでくる。

 

 何度目かは、既に判らないこの光景を前に、ヒカルは高ぶる気持ちを深呼吸で落ち着かせる。

 

 コックピットに座し、握ったグリップの感触を確かめると、大きく息を吸い込んだ。

 

「ヒカル・ヒビキ、エターナルフリーダム行きます!!」

 

 コールと同時に、機体は虚空へと射出される。

 

 PS装甲に灯が入り、白と蒼のカラーリングに染め上げられる。

 

 広げられる6対12枚の翼が羽ばたいた瞬間、エターナルフリーダムは一気に加速を開始した。

 

 オーブ・パルチザン連合軍の行動開始により、一触即発だった戦況がついに開かれた。

 

 後に「第二次月面蜂起」と呼ばれる事になる戦いの火蓋は、自由オーブ軍が、プラント軍の集結するプトレマイオス基地へ正面から攻撃を仕掛ける事で始まった。

 

 元より、オーブ軍に取れる選択肢は限られている。プラント本国からの増援が迫っている以上、時間を掛けた作戦を行う訳にはいかない。

 

 ならば一騎当千の実力を持つエース達の存在に賭けて、正面突破で基地を壊滅に追いやる以外に無かった。

 

 プトレマイオス基地を目指して飛翔するエターナルフリーダムの背後からは、パルチザンの部隊が追随してくる。彼等こそが、この戦いの主役となる訳だが、いかんせん、その戦力は正しく「微力」と称して良いほどに少ない。

 

 結局のところ、ヒカル達の働き如何に月の命運は掛かっていると言っても過言ではなかった。

 

 その時、エターナルフリーダムのセンサーが、前方から接近してくる反応を捉えた。

 

「来たか・・・・・・」

 

 ヒカルの視界の中で、白い翼を広げた深紅の装甲を持つ機体が向かってくるのが見える。

 

 リバティ

 

 ディバイン・セイバーズの正式装備機である。

 

 武装の形態を見極める。

 

 砲撃戦使用の機体が1機、長大な刀を装備した機体が1機、ドラグーン装備機が1機、高機動戦闘型が1機。

 

 間違いない。コキュートスで交戦した部隊だ。

 

 一方のクーヤ達もまた、自分達に向けて真っ直ぐに飛翔してくるエターナルフリーダムの姿を認識していた。

 

 クーヤは、その口元に僅かな微笑を浮かべる。

 

 好都合だ。魔王が先頭を切って突っ込んでくるなら、一気にその首級を上げてやるまでである。

 

「あいつをやるわよッ フォーメーション!!」

《《《了解!!》》》

 

 クーヤの指示に従い、4機のリバティは螺旋を描くような軌道を取りながらエターナルフリーダムへ接近。同時にビームライフルを放つ。

 

 捻り込むような軌道でかく乱しながら接近してくるクーヤ達の攻撃は、ヒカルの視覚を撹乱する。

 

「ッ!?」

 

 ヒカルは両手のビームライフルを構えて、迎え撃つようにして放つ。

 

 しかし、螺旋の動きをするクーヤ達の動きに、ヒカルの照準は追いつかない。

 

 放たれるビームは全て空を切り、虚空を薙ぐだけにとどまる。

 

 動きを止めるエターナルフリーダム。

 

 その隙を逃さず、イレスはドラグーンを一斉射出する。

 

 ヒカルもその動きに気付き、とっさに射撃を諦めて機体を後退させようとする。

 

 しかし、その時には既に、イレスの攻撃態勢は整っていた。

 

「僕の計算通りだッ 死ね、魔王!!」

 

 展開されたドラグーンが、エターナルフリーダムを包囲すると、一斉に攻撃を仕掛ける。

 

 縦横に放たれるドラグーンに対し、とっさに機体を上昇させるヒカル。

 

 軌跡を交錯させながら迸る閃光を足下に見て、ヒカルは機体の体勢を立て直す。

 

 そこへ、今度はフェルド機が斬機刀をかざして斬り込んできた。

 

「おらっ 喰らいやがれ!!」

 

 湾曲した優美な刃が、エターナルフリーダムめがけて虚空を旋回する。

 

 対してヒカルは、とっさに右手で腰から高周波振動ブレードを抜き放ち、対抗するように振るった。

 

 激突する互いの刃。

 

 ヒカルとフェルドが、飛び散る火花に一瞬目をくらました瞬間、衝撃が両者を後方に押し出して強制的に距離を開く。

 

 その時、頭上から迫る反応に、ヒカルはとっさに上を振り仰ぐ。

 

 そこには、全武装を展開して砲撃態勢に入っているカレン機の姿があった。

 

「動きを止めさえすれば、こっちの物よ!!」

 

 言い放つと同時に、カレンは全武装を解放してフルバースト射撃を仕掛ける。

 

 だが、

 

 一斉に放たれた閃光は、その前に立ちはだかった黄金の翼に遮られ、全て明後日の方向へと逸らされてしまった。

 

 リィスのテンメイアカツキである。

 

 カノンが負傷で出撃できない関係から、今回リィスは、愛機を駆って前線に出ていた。

 

 正直、敵がいきなるディバイン・セイバーズを先鋒として投入して来た事は、完全に想像外の事であったが、しかしそれでも、やる事に変わりは無い。

 

 是が非でもここを突破しない事には、オーブ・パルチザン連合軍に勝機は無かった。

 

「連携が高いのなら、それを崩せば良い。簡単な話よ!!」

 

 アマノハゴロモを最大展開する事で弟の窮地を救ったリィスは、ムラマサ改対艦刀を抜いて大剣モードにすると、フル加速でカレンのリバティへ斬りかかる。

 

 テンメイアカツキの鋭い斬り込み。

 

 対してカレンは、素早く砲撃武装を格納すると、逆噴射で機体を後退させて回避する。

 

「金ピカな装甲ッ!? そんなに自分を誇示したい訳!?」

 

 言いながら、連装レールガンを放ち、テンメイアカツキの動きを牽制しようとする。

 

 いかにヤタノカガミ装甲でも、実体弾による攻撃は防げない。

 

 やむなく、回避行動を取るリィス。

 

 その影響で、体勢を僅かに崩すテンメイアカツキ。

 

 その隙を逃さず、カレンは再びフルバーストモードに移行して一斉射撃を仕掛けた。

 

 放たれる強烈な閃光に、回避スペースは一気に狭められる。

 

 やむなく、リィスはシールドを掲げて防御を選択する。

 

 着弾の衝撃で、大きく後退するテンメイアカツキ。そのコックピットで、リィスは舌打ちする。

 

「さすがに、簡単にはやらせてくれないか!!」

 

 冷や汗交じりに呟きながら、再びムラマサ改を構え直す。

 

 相手はプラント軍最高の精鋭部隊。他の有象無象のように、簡単に倒せたら何の苦労も無い。

 

 だからこそ、自分達が何としても連中を排除する必要があるのだ。

 

 ムラマサ改を振り翳して、斬り込んで行くリィス。

 

 対抗するように、カレンも全火砲を展開して迎え撃った。

 

 

 

 

 放たれる縦横の砲撃。

 

 閃光の檻と称すべき光景は、その内部に閉じ込めた物一切を補殺する強烈な牙となる。

 

 漆黒の空間を彩る光の旋律。

 

 しかし、その内部に取り込まれた赤い機体は、その全ての軌跡を見切るようにして回避を続ける。

 

 アステルはギルティジャスティスを駆って前に出ると、自身の前に立ちはだかるイレスのリバティと対峙していた。

 

 接近戦主体の機体であるジャスティスで敵と戦うには、ある程度距離を詰める必要がある。

 

 その事を分かっているからこそ、イレスはなるべく距離を置いた状態で討ち取ろうと、ドラグーンによる遠距離射撃を仕掛けているのだ。

 

 だが、当のアステルは、機体を最小限に動かしながら、ぎりぎり紙一重のところでイレスの攻撃を回避し続けていた。

 

「ナンセンスだな!!」

 

 イレスは叫びながら、さらに攻勢を強める。

 

「ただかわしているだけじゃ、僕は倒せないぞ!!」

 

 リバティ本体の武装も加わり、更に包囲網を強化しに掛かるイレス。

 

 しかし次の瞬間、イレスが機体の操作に注意を向けた事で、僅かにドラグーンのコントロールが甘くなる。

 

 普通の相手であれば、気付く事すら不可能な僅かな綻び。

 

 しかし、その隙をアステルは見逃さなかった。

 

 腰のラックからビームダーツを抜くと、サイドスローの要領で投擲。攻撃位置に着くのがコンマ数秒遅れたドラグーンを見事に貫く。

 

 更にアステルはビームライフルを抜いて斉射。慌てて攻撃態勢に入ろうとしていたドラグーン2機を、更に撃ち落とす。

 

「クソッ こいつ、生意気な!!」

 

 焦って、攻撃の手を強めようとするイレス。

 

 だが、確実に薄くなった包囲網を、アステルは易々と突破すると、ギルティジャスティスの両手にビームサーベルを構えて斬りかかった。

 

 振るわれる斬撃。

 

 それをイレスは、辛うじて展開の間にあったビームシールドで防御する。

 

 追い込んでいた筈の状況が、一瞬で追い込まれている。

 

 その事に、イレスは歯噛みする。

 

「僕の計算を上回ったつもりかッ 生意気な!!」

 

 どうにか、距離を開いて自分に有利な間合いを確保しようとするイレス。

 

 しかし、それを許すアステルではない。

 

 離れようとするイレス機にピタリと張り付くように移動しながら、構えたビームサーベルを振るう。

 

「そうそう、都合の良い戦い方ができるとは思わない事だ」

 

 自身の剣を鋭く振るいながら、アステルは低い声で呟いた。

 

 

 

 

 

 クーヤのリバティが鋭い斬り込みを掛け、エターナルフリーダムへと襲い掛かる。

 

 迫る光刃は、しかし、それよりも一瞬早く、ヒカルが機体を後退させたために空振りに終わる。

 

 同時にヒカルはビームライフルでクーヤの動きを牽制しつつ、反撃の一手を模索する。

 

 そこへ、

 

「オッシャァッ 貰ったぜ魔王!!」

 

 威勢のいい掛け声と共に、斬機刀を振り翳したフェルドのリバティが斬り掛かる。

 

 その湾曲した刃の一閃は、しかし標的を捉える事は無い。

 

 ヒカルは斬撃の軌跡を読み切ると、機体を僅かに傾かせて回避。同時にカウンター気味に蹴りを繰り出してフェルド機を弾き飛ばす。

 

「おわッ!?」

 

 姿勢制御を失いバランスを崩すフェルド。

 

 そこへ狙いをすまし、ヒカルはビームライフルのトリガーに指を掛ける。

 

 しかし、その銃口が閃光を発する事は無かった。

 

 その前に、クーヤがビームライフルとビームキャノンを放ち、ヒカルの動きを妨害しつつ距離を詰めて来たのだ。

 

「アンタの相手は私よッ よそ見なんてさせない!!」

 

 振るわれる剣閃。

 

 対抗するように、ヒカルもビームサーベルを抜き放って斬り込む。

 

 互いの剣をシールドで弾き、離れると同時に抜き放ったライフルを斉射する。

 

「「クッ!!」」

 

 両者、致命傷無し。

 

 互いのしぶとさに、舌打ちするヒカルとクーヤ。

 

 そこへ更に、体勢を立て直したフェルドのリバティも加わってエターナルフリーダムを包囲しにかかる。

 

「2対1、か」

 

 自身に向かってくる2機を真っ向から見据え、ヒカルは12枚の蒼翼を広げる。

 

 次の瞬間、エターナルフリーダムは比類無い加速力を発揮して、一気に2機を引き離す。

 

 慌てたようにクーヤとフェルドが追撃の砲火を放つが、その何れもがエターナルフリーダムを捉える事は無かった。

 

 砲火が途切れる。

 

 その一瞬を逃さず、ヒカルは機体を振り返らせると同時に全砲門を展開、6連装フルバーストを仕掛ける。

 

 虹を思わせるような一斉射撃を前に、砲撃力で劣るクーヤとフェルドは、回避に専念せざるを得なくなる。

 

 対してヒカルが放つ砲撃は、更に鋭さを増して虚空を奔っていた。

 

 

 

 

 

 一方その頃、

 

 戦闘を開始した大和隊とディバイン・セイバーズの様子を、クーラン達は後方から高みの見物を決め込んでいた。

 

 元々、先鋒となる事を言いだしたのはクーヤ本人である。ならば、彼女達のお手並み拝見と言った所である。

 

 モニターの中で目まぐるしく軌跡が動き、閃光が迸る様が映し出される。

 

 だが、

 

「・・・・・・フンっ」

 

 モニターを見ていたクーランが、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「どうかしましたか、ボス?」

 

 フレッドがいぶかしむように、クーランに尋ねる。

 

 戦闘時には苛烈な戦いぶりを見せる一方で、言動には常に思慮深さを見せるフレッドは、クーランの態度から、何か不満に思っている事があると察していた。

 

 案の定と言うべきか、クーランは不機嫌さを滲ませた声で返す。

 

「どうもこうもあるかよッ 偉そうにほざいて出て行ったと思ったら、あの小娘共。随分と手こずってるじゃねえか」

 

 クーランの目から見ても、ディバイン・セイバーズの苦戦ぶりは目に余る物があった。

 

 プラント軍最強を自負しながら苦戦していると言う状況もさることながら、大口を叩いて自分達を遠ざけておきながら、ろくに戦果を上げられずにいる状況がまた、苛立たしかった。

 

「ならさ、あたし等も行っちゃう?」

 

 フィリアが、まるでせかすような口調でクーランに言い寄る。

 

 彼女もまた、留め置かれている現状に対して不満を抱いている様子。何かきっかけがあれば、猟犬の如く飛び出して行く事だろう。

 

 そんな彼等の様子を、レミリアは少し離れた場所で見ていた。

 

 随分と、アクの強い連中である。

 

 レミリア自身、彼等との友誼を期待している訳ではないが、こんな連中の中に放り込まれて、正直戦っていく自信が揺れそうである。

 

 まったく、何の因果でこんな部隊に配属されてしまったのか。レミリアは己の運命を嘆かずにはいられなかった。

 

 ふと、視線をチラッと、泳がせる。

 

 そこで目が合った仮面の少女が、そっと手を振ってくるのが見えた。

 

 釣られるように、レミリアも手を振りかえす。

 

 聖女、アルマとはあれから何度か話す機会があり、すっかり打ち解ける事ができた。プラント軍の中にあって、常に孤独であり続けたレミリアにとって、アルマの存在が唯一のオアシスと言って良かった。

 

 流石に、こんな人目がある所で同盟軍の代表と私的な会話を交わす訳にはいかないが、それでも彼女が共に戦ってくれると言うだけで、レミリアの気持ちは随分と軽くなっていた。

 

「まあ、良いだろ」

 

 そんな事を考えていると、クーランは思考を打ち切るように言った。

 

「どのみち、連中があのザマじゃ、俺等の出番も近いはずだ。お前等もそろそろ準備しておけよ」

 

 元より、全てをディバイン・セイバーズに委ねる心算はクーランには無い。連中が当てにならないと言うなら、締めは自分達でやるしかなかった。

 

 その言葉を受けて、レミリアは握る拳に力を込める。

 

 いよいよだ。

 

 モニターの中では、今も彼女の親友が戦っている。

 

 その親友と、ついに同じ戦場に立つ事になる。かつてと同じように、異なる陣営の立場として。

 

 身を翻して歩き出す。

 

 既に彼女の中では、答は決まっている。

 

 何を守るべきか、優先すべきは何か、

 

 姉を守り、戦い続けると決めた時点で、レミリアは己の決断をゆるがせる事は無かった。

 

 

 

 

 

PHASE-21「崩れた大樹」    終わり

 


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