機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-16「セブンスラッシュ・シックスファイア」

 

 

 

 喧騒に湧くレジャー施設から脱出する事に成功したアシュレイは、足早に地下通路を掛けながら、己に降りかかった運命に苛立ちをぶつけていた。

 

「クソッ クソッ クソォッ!!」

 

 いったい、なぜこのような事になったのか?

 

 プラント軍の攻撃で追い詰められた自分達にとって、今回の作戦が一発逆転を狙える最後の賭けだったと言うのに。

 

 国際テロネットワークから、ヘルガ・キャンベルがお忍びでコペルニクスに来訪していると言う情報を得た宇宙解放戦線は、彼女を人質にしてプラントから身代金をせしめる計画を立てた。

 

 普通の一般人なら、仮に人質に取ったとしてもプラント政府が動く事は無いだろう。せいぜい「政治的な判断」とやらで黙殺されるのがオチだ。

 

 しかし今回は違う。相手は世界的にも有名なVIPである。だからこそ、プラント側としても要求に対して無視はできないだろうと思ったのだ。

 

 それが汚い、などと思う事は無い。全ては悪逆非道なプラントを撃ち倒し、世の乱れを正す為。その為なら多少の犠牲は許容してしかるべきだった。

 

 だが、作戦は失敗した。まさか、あのような護衛がヘルガ・キャンベルに着いているとは思わなかった。

 

 おかげで自分達は、まるでヒーロー映画の間抜けな悪役のような役割を演じさせられる羽目になってしまった。

 

 とんだ道化である。

 

 このままでは収まりがつかない。受けた恥を、何としても雪がないと。

 

 男の中で暴走が始まる。

 

 今やアシュレイの存在はブレーキの壊れた自動車に等しく、ただ己の思い通りにならぬ物全てを叩き壊さねば気が済まなかった。

 

 プラントに、ヘルガ・キャンベルに、月に、この世界に、自分達の怒りを叩き付けてやらない事には、全てを終える事はできなかった。

 

「聞こえるか!!」

 

 通信機に向かって怒鳴り付ける。

 

「今すぐ、全部隊に出撃を命じろッ 俺もすぐそっちへ行く!!」

 

 通信を切ると、アシュレイは口元に酷薄な笑みを浮かべた。

 

 奴等は自分達の計画を止めた事で、全てが終わったとでも思っているだろうが、それがトン度も無い間違いであったことを、間も無く思い知る事になるだろう。

 

 切り札は一枚だけではない。

 

 勿論、穏便に事を済ませる事ができれば何の問題も無かったのだが、それは最早潰えた。ならば、セカンドプランを持って事に当たるしかない。

 

 全ては月の解放を行うため、コペルニクスには消滅してもらうしかない。

 

 アシュレイには最早、己の論理が破綻している事にすら気付かぬほど余裕がなくなっていた。

 

「燃やしてやるッ 何もかもを!!」

 

 まるで何かに取りつかれたように叫ぶアシュレイ。

 

 その表情には、これから起こる事への暗い愉悦が見え隠れしていた。

 

 

 

 

 

 人の目を避けるように、3人の少女は足早に移動しながら、雑踏の中へと溶け込んでいた。

 

 逃げる人々に紛れるようにしてしまえば、後は一般人と見分ける事は不可能だろう。

 

 と、

 

「うー・・・・・・」

 

 その中の1人、カノン・シュナイゼルは不満そうに唸り声を上げた。その頬は先ほどから真っ赤に染まって入り、羞恥心で熱を帯びているのは明らかだった。

 

「ザッチの馬鹿、変態、痴漢、痴女」

「いや、この場合、痴女はノンちゃんの方なんじゃないかな?」

 

 罵られていたリザは、そう言って肩を竦める。

 

 すると、カノンはますます顔を赤くして縮こまってしまった。普段は活発さを売りにしている少女からすれば、珍しい反応である。

 

 無理も無い。

 

 あんな衆人環視の中で強制ストリップショーをやらされて恥ずかしくない筈が無い。

 

 無論、そうした行為に快感を覚える人間も世の中に入るだろうが、カノンはまだ、そのレベルには達していない。と言うか達したくも無かった。

 

 何より、

 

「ヒカルにまで見られちゃったじゃないのさ!!」

 

 幼馴染であり、カノンが思いを寄せる少年にまで、トップレス姿をバッチリ見られてしまっている。

 

 恥ずかしかった。

 

 これからいったい、どんな顔でヒカルと顔を合わせればいいのか?

 

 そんなカノンに対し、リザはカラカラと笑いながら言った。

 

「大丈夫大丈夫。むしろ、ヒカル君も喜んでんじゃないかな? 好感度は上がってるって」

 

 確かに、トップレスのカノンを見て、ヒカルもどこか照れたような仕草をしていたのは覚えている。

 

 しかし、

 

「こんなんで好感度上げられても・・・・・・」

 

 商売女じゃないんだから、カノンとしてはもう少しまっとうな手段に訴えたいところである。

 

 とは言え、彼女の友人の考えは別にあるようで、

 

「ダメダメ、ノンちゃんはヘタレなんだから。これくらい強引にやらないと」

「・・・・・・誰がヘタレか」

 

 失礼な物言いに抗議するが、その声にはどこか精彩を欠いている。どうやら彼女自身、思うところが無いでもないらしい。

 

 とは言え、今のやり取りをカノンの母親であるアリスが聞いたら、恐らく苦笑してしまうだろう。まさか、娘まで昔の自分と同じ呼び名(ヘタレ)で呼ばれる事になるとは思っても見なかっただろう。

 

 と、そこでカノンは、後ろからついて来るヘルガが、先程から黙り込んでいる事が気になって振り返った。

 

 この場にはカノン、リザ、ヘルガの3人しかいない。ヒカルとレオスは、追っ手の目を誤魔化す為に別行動を取っていた。

 

 そんな中で、ある意味自分以上に快活さを持つ少女が黙っている事に首をかしげた。

 

「どうかした、ヘルガ?」

「う、うん・・・・・・・・・・・・」

 

 それっきり、ヘルガは再び黙り込む。

 

 顔を見合わせるカノンとリザ。ヘルガが示す態度の意味が分からなかった。

 

 と、そこでカノンは、ヘルガが僅かに体を震わせている事に気付いた。唇も良く見れば血色を失って青褪め、目は虚ろに彷徨っている。

 

 今さらながら、ヘルガは自分を襲った恐怖に打ちのめされているのだ。

 

 銃口を突きつけられ、拉致されそうになった。下手をすれば、激昂したテロリストに撃ち殺されていた可能性すらあった。

 

 一般人のヘルガにとって、まさに恐怖の瞬間だっただろう。

 

 だが彼女は戦った。逃げなかった。そして、見事に勝ったのだ。それだけで賞賛に値するだろう。

 

 カノンはヘルガに歩み寄ると、そっと抱き寄せる。

 

 カノンの方がヘルガよりも頭一つ分以上背が低い。それでも、少し無理矢理に抱え込むようにして、カノンはヘルガの頭を抱え込んだ。

 

「大丈夫・・・・・・もう大丈夫だよ。全部、終わったから」

 

 優しく語りかけるカノン。

 

 そんなカノンの温もりに包まれながら、

 

 ヘルガは安堵の嗚咽を、静かに漏らしていた。

 

 

 

 

 

 現場となったレジャー施設周辺では、避難してきた人々でごった返し、まっすぐ歩く事すら困難な有様である。

 

 そのような中で、他とは違う一団が、保安局員たちに交じる形で存在していた。

 

「応援に行けって言われて来て見れば・・・・・・・・・・・・」

 

 現場の喧騒を見て、クーヤ・シルスカは呆れ気味に呟いた。

 

「もう終わっているじゃないのよ」

 

 徒労に終わってしまった事態に、あからさまな嘆息を漏らす。

 

 アマノイワトでの戦いから数日。その前のコキュートス・コロニーでの戦いで整備と補給が終わっていなかった為、戦いには参加できなかったクーヤ達だが、その後命令を受け逃げた自由オーブ軍を追撃して月までやって来ていた。

 

 自由オーブ軍。特に、その中心戦力と思われる「魔王」がいる部隊が月近海に逃げ込んだと言う情報は、軍上層部から齎されている。因縁深い相手とあって、クーヤとしても勇んで月までやって来た次第であった。

 

 しかしそんな折、テロリストがレジャー区画で暴れていると言う報せを受けて駆け付けたのだった。

 

 もっとも、クーヤ達が到着した時には既に、事件は解決したテロリスト達は全員捕縛された後だった為、プラント自慢の精鋭部隊に出番は一切無かったのだが。

 

「これじゃ拍子抜けよ。いったい何のために来たんだか」

「まあまあ、楽に済んで良かったじゃん」

 

 相棒のカレン・トレイシアが、そう言って肩を竦めるのが見えた。

 

 ため息を吐くクーヤ。

 

 カレンのこうしたお気楽な様子は、時々本気で羨ましくなる時があった。

 

 今もクーヤ達の目の前で、捕縛されたテロリストが保安局の護送車輌へと移されようとしている。その多くが負傷しているようだが、不思議な事に、死体を入れた袋が搬出されて来る事は無かった。

 

 どうやらテロリスト達は全員、生きたまま捕縛されたらしい。

 

 クーヤはそこに違和感を覚えた。

 

 保安局が介入した以上、このような事態は決してありえない。テロリストは全員、裁判無しで射殺されるだろうし、下手をすれば一般人に死傷者が出てもおかしくは無い。それでも保安局側は「僅かな犠牲で違法者を排除し、平和と威信を守る事ができた」と強弁するだろう。恐らく一般人の犠牲者にしても「テロリストの非道な攻撃による犠牲者」として処理される事になる。

 

 だから、死者が1人もいないと言う事が、クーヤには奇異に感じられたのだった。

 

 と、その時だった。

 

 突然、反対側から歩いてきた人物と、クーヤは肩がぶつかってしまった。

 

 どうやら、お互いに余所を向いていたせいで、相手の存在に気が付かなかったようである。

 

 相手はとっさにクーヤを避けようとしたが、つい間に合わずにぶつかってしまった。

 

「あ、すみません、よそ見してたもんで」

「あ、いえ、俺の方こそ、急いでたから・・・・・・」

 

 そう言って、お互いに頭を下げる。

 

 相手はクーヤと同い年くらいか、そうでかったら、少し下くらいの年齢の少年だった。

 

 きっと彼も、今回のテロに巻き込まれたのだろう。よく見れば顔が緊張しているように怖がっている。無理も無い。テロにあった人間の反応など、こんな物だった。

 

「大丈夫? 怪我とかは?」

「はい、これくらいなら、何ともありませんから」

 

 気遣うクーヤに対して、少年は苦笑しながら答える。何と言うか、どこかしら微妙な表情をしているように見えるのは気のせいだろうか?

 

 だが、今のクーヤは、それ以上に苦にする事無く少年に笑いかけた。

 

「とにかく、まだテロリスト達が潜伏しているかもしれないから、気を付けて帰りなさい。なるべく人通りの多い場所を通ってね」

「はい、ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げると、少年は踵を返し立ち去って行く。すぐにその背中は、雑踏に紛れて見えなくなってしまった。

 

 その背中を、クーヤは見送る。

 

 と、

 

「おやおや、逆ナンですか。クーヤも隅に置けないね~ お姉さんは悲しいわ」

「ブホッ!? ぎゃ、逆ナ・・・て、何言ってんのよアンタは!!」

 

 とんでもない事を言い始めるカレンに食って掛かるクーヤ。

 

 そんな風に友人と馬鹿なやり取りをしている内に、クーヤの中で、先程の少年の事は忘れ去られていった。

 

 

 

 

 

 一方のヒカルは、足早に人ごみを縫いながら歩いていた。

 

 深い雑踏の中に紛れ込んでから、冷や汗交じりの溜息を吐き出す。

 

 その間にも足は止めない。あくまでも自然を装う足取りを保ったまま、周囲の風景に溶け込むように歩き続ける。

 

 2年間の放浪の中で、モビルスーツの操縦や対人戦闘の技術以外にも様々な技術を身に着けたが、この歩方もその一つである。おかげで潜入や追跡の依頼を受けた時には大いに役に立った。

 

 先程、プラント軍士官の女性とぶつかった時は内心で焦ったが、慌てている様子を辛うじて見せなかった為、どうやらさして怪しまれる事も無かったようだ。

 

 ヒカルは今、レオスやカノン達とは別れ、それぞれ別々に大和への帰還を急いでいた。

 

 5人で動けば却って目立つ。それよりも男2人が別々に行動する事で、保安局や宇宙解放戦線の残党の目を晦ませることができるはず。ヘルガの直接護衛が2人になるのは不安だが、カノンとリザならうまくやってくれるだろう。

 

 それにしても・・・・・・

 

 ヒカルの脳裏では、先程バッチリ見てしまった、カノンの艶姿が思い浮かべられている。

 

 水着のトップス奪われ、あられもない姿になったカノン。

 

 随分と、育ったものである。

 

 前々から大きいとは思っていたが、実物は予想以上だった。

 

 ツンとした張りがあり、それでいて触れば柔らかそうな感じ。その頂点には、恥ずかしげなピンク色の突起が揺れていた。

 

 ぶっちゃけ「触ってみたい」とか思ってしまった事は、本人には永久に内緒にしておこう、と思った。

 

 次の瞬間、

 

 突然、ポケットに入れておいた携帯電話が着信を告げ、ヒカルは思わず肩を震わせた。

 

「な、ななな何でもない!! へ、変な事なんて考えてないぞ!!」

《ハァ? あんた何言ってんのよ?》

「へ? リィス姉?」

 

 相手はリィスからだった。どうやら、ヒカル達の様子が気になって連絡を寄越したらしかった。

 

《とにかく無事なのね? カノン達は?》

「ああ、みんな無事だよ。ちょっとヤバかったけど、どうにか切り抜けた」

 

 色々と、あとで報告しなくてはいけないが、取りあえず手短に状況と皆の無事だけは伝えておく。

 

 だが、対するリィスは、何やら深刻そうな声で告げてきた。

 

《ヒカル。悪いんだけどアンタ、すぐに大和に戻ってきて。ちょっと、まずい事態になったわ》

 

 リィスの言葉に、ヒカルの眼差しが鋭く細められる。

 

 何かが起きている。

 

 その事だけは、姉の口振りだけでも察する事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雑多な機種のバリエーションによって構成された一団のモビルスーツ群は、怒涛とも言える勢いで迫っていた。

 

 構成する機体の種類は実に雑多で、ジンやシグー、ゲイツ、月面仕様に改装されたバクゥと言った旧ザフト軍の機体から、ダガーやウィンダムと言った連合系の機体。果てはオーブ系のアストレイやムラサメまでいる。

 

 要するに、形振り構わずに何でもかんでも集めた結果がこれなのだろう。

 

 だが、数は馬鹿に出来ない。視界に入るだけでも100機以上。統制こそ取れていないものの、勢力としては小国の軍隊を凌駕する数だ。

 

 そんな彼等の中央には、異様なシルエットを持つゲルググの姿もあった。

 

 機体は間違いなくゲルググである。シャープな印象の頭部も、対照的に重厚さを感じさせるボディも、間違いなくゲルググの物だ

 

 だが、背部に装備している武装が、ある種のアンバランスを見る者に与えていた。

 

 武装は巨大な対艦刀に、同程度の砲身を持つビームキャノンがそれぞれ2基ずつ。そして、それを挟み込むように炎の翼が広げられている。

 

 デスティニーシルエットと呼ばれるこの装備は、名機デスティニーの前身で合体分離機構を採用したインパルスの専用強化武装として開発された物である。

 

 フォース、ソード、ブラストの各シルエット機能を一つに纏めて強化した装備は、後のデスティニーを上回る程の攻撃力が与えられている。

 

 しかし、あまりにも重武装過ぎる事が仇となって、インパルスの精密な機体特性にはそぐわず、また燃費も最悪と言って良いほどに悪化した為、後に武装を最適化し性能を向上させたデスティニーが開発、戦線投入される事になったいわくつきの武装である。

 

 しかし、一部では問題部分を改良し、辛うじて実戦投入できるレベルにまで仕上げたデスティニーシルエットも存在した。そのうちの一つが、これである。

 

「愚者共め、目に物見せてやるぞ・・・・・・」

 

 ゲルググのコックピットで、アシュレイは唸るように呟いた。

 

 このゲルググは、以前、国際テロネットワークを介して手に入れた物だったが、アシュレイはこの性能を大変気に入り、以後は自分の愛機として長く乗り続けてきた。

 

 この機体によっていくつものプラント軍のモビルスーツや輸送船が犠牲になっている。

 

 だが、真に驚くべきは、ゲルググの存在ではなかった。

 

 その後方には、ミサイルランチャーと思しき大型連装射出機2基を両肩に装備したウィンダムが追随している。

 

 地球連合軍で旧来から使用されているモビルスーツ用の大型ミサイルランチャーだが、その内部に収められているミサイルの腹には、恐るべきマークが描かれていた。

 

「聞けッ コペルニクスの蒙昧なる住人達よ!!」

 

 アシュレイは、スピーカー越しに叫び声をあげる。

 

「諸君等は我らの崇高な理念を理解しようとせず、あまつさえ協力を拒むと言う、ひじょうに愚かしい選択をしたッ 我々の慈悲を否定し、唾を吐きかけるが行為を、諸君は平然と個なったのだ!! よって、正しい行動に対する間違った答えには、正しき罰を下さねばならないッ それこそが、この世界を維持する上で、必要不可欠な事なのだ!! その全ての責任は、我々を理解せずに否定した、諸君等コペルニクス市民にある!!」

 

 言ってから、ゲルググのカメラを後方のウィンダムへと向ける。

 

「我等はこれより、コペルニクス市に対する核攻撃を実行する。間違った選択をした諸君は、核が齎す正義の炎に焼かれる事によって浄化され、正しき道へと戻る事ができるのだッ 無論、君達の犠牲は無駄にはしないッ 我々は今日と言う日を固く胸に刻み、いつの日か必ず、悪逆非道なるプラントから月を解放すると誓うッ さらばだ!! 諸君の魂が永遠に、この月の礎たらんことを願う!!」

 

 一方的な演説を行うと、一方的に通信を切った。

 

 

 

 

 

 その演説は、レジャー施設で事後処理に当たっていたクーヤ達も見ていた。

 

「冗談じゃないわよ!!」

 

 クーヤは周囲も顧みずに感情を爆発させて、叫び声を上げる。

 

 何が崇高な目的だ!? 何が正当な報復だ!? 何が正義の炎だ!?

 

 被害妄想に取りつかれ、一方的な理屈を他者に押し付けているだけではないか。これだからテロリストは度し難いと言うのだ。

 

 グルック議長が掲げる統一と言う理想も理解せず、ただ幼稚な理想論で戦火を拡大し続ける奴等。

 

 ああいった連中がいるから、世界はいつまで経っても平和にならないのだ。

 

 何が月の解放は。今ある月の平和を乱しているのは、自分達自身だと言う事に、連中は全く気付いていない。

 

 クーヤは断じる。

 

 議長の作る世界に、あんな奴等は必要無い。

 

 存在を根底から消滅させ、汚名と共に歴史に刻んでやるべきだった。

 

 駆け出すクーヤ。

 

 それに追随して、カレンも足を早める。

 

「ちょっとクーヤ、どうする気よ!?」

「決まってるでしょ」

 

 回頭を省いて、叩き付けるように言葉を返す。

 

 コペルニクスの港にはアテナが停泊している。当然、その格納庫には、彼女達のリバティも詰まれている。

 

 プラント最強部隊であるディバインセイバーズが出撃すれば、数だけが取り柄の「野党集団」など物の数ではない。

 

 しかし、

 

 クーヤよりも幾何かは冷静さを保っているカレンは、頭の中で素早く計算する。

 

 既にコペルニクスの至近まで迫っている宇宙解放戦線に対し、自分達は艦に戻るまでには相応の時間がかかる。

 

 果たしてミサイル発射の阻止限界点までに、こちらの体制を整える事ができるかどうか。微妙な所であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれッ」

《了解!!》

 

 アシュレイの短い命令と共に、核ミサイル搭載型のウィンダムが前へと出る。

 

 この核ミサイルも、国際テロネットワークを通じて入手した物である。Nジャマーキャンセラーを搭載した旧型のミサイルだが、それでも都市一つを壊滅させるには充分な威力がある。

 

 否、壊滅させる必要は、そもそも無い。少し外壁に穴を開けてやれば、後は連鎖的な崩壊を起こすのは目に見えている。要するに、23年前に起こった「血のバレンタイン事件」の再現である。

 

 頭に浮かんだ自分の考えに、アシュレイは陶酔したような笑みを浮かべる。

 

 歴史的な故事と、自身がこれから行う作戦イメージが重なり合い(ヒカルの言葉を借りれば)酔っているのだ。

 

 いっそ、今日が2月14日(バレンタイン)でないのが、残念なくらいだった。

 

 だが、アシュレイにとっては、それは些事に過ぎない。ようは自分自身が歴史を作り出すと言う事自体が、重要なのだった。

 

「今日と言う日は歴史に刻まれ、我々は栄光と共に語り継がれるであろう」

 

 身にあふれる昂揚感と共に、アシュレイは呟く。

 

 やがて彼が見ている前で、大軍から突出する形で、ウィンダムはミサイルの発射位置へと到達する。

 

 目の前には、無抵抗なコペルニクスがあるのみ。

 

 後はミサイルを発射するだけ。それだけで、歴史は正され、自分達の崇高な理念は達成される。

 

 今日の犠牲を無駄にせず、自分達はプラントに対し聖戦を挑む事になるだろう。

 

 そう思った次の瞬間、

 

 突如、

 

 虹を思わせる強烈な閃光が飛来し、今にもミサイル発射体勢に入っていたウィンダムの四肢を一緒くたに吹き飛ばした。

 

「何ッ!?」

 

 目を剥くアシュレイ。

 

 ウィンダムはバランスを保てず、月の低重力に引かれて落下していく。

 

 当然だが、ミサイル発射は不可能。またも、彼等の作戦は水際で防がれたのである。

 

 砲撃は更に続き、後方で待機していた宇宙解放戦線の機体が、次々と撃破されていく。

 

 頭部を吹き飛ばされるザク、両腕を破壊されるジン、脚部を失うグフが続出する。

 

「何が起こっている!?」

 

 陶酔を一瞬にして破られ、狼狽した叫びを発するアシュレイ。

 

 そんな彼等の前に、

 

 6対12枚の蒼翼を広げた、美しいモビルスーツが立ちはだかった。

 

 エターナルフリーダムである。その装備した6門の砲を縦横に駆使し、徹底した砲撃で宇宙解放戦線を狙い撃ちにしている。

 

 リィスから報せを受けたヒカルは、大急ぎで大和へと戻り、エターナルフリーダムを駆って宇宙解放戦線撃滅の為に出撃したのだ。

 

 そのエターナルフリーダムだが、記憶にあるシルエットよりも、若干異なっている。

 

 と言っても変わっているのは2カ所のみで、大きな変化とは言い難い。

 

 腰横のレールガンは若干大型化し、銃身が少し膨らんでいるように見える。その後部には、剣の柄のような把手が突き出ていた。ちょうど折り畳んだ状態では、把手が上に来る形である。

 

 また、両腕の形状も若干違っていた。

 

「容赦はしない。それだけの事を、お前等はしようとしたんだからな」

 

 静かに言い放つと、ヒカルは仕掛けた。

 

 フルバーストモードを解除すると、ビームライフル2丁を構えて突撃する。

 

 いくらかの機体が反撃の砲火を放ってくるが、照準が甘ければ弾幕も荒い。ヴォワチュール・リュミエールを使うまでも無く、ヒカルにとっては豆鉄砲以下の脅威でしかなかった。

 

 必中距離まで飛び込むと、居並ぶ宇宙解放戦線の機体へと射かけていく。

 

 たちまち、頭部や腕を吹き飛ばされ、戦闘力を失う機体が出る。

 

 地上に目を向ければ、バクゥが砲火を上げながら向かってくるのが見える。

 

 対抗するようにヒカルは、機体を後退させて砲撃を回避。同時にエターナルフリーダムのレールガンを展開して、地上を疾走するバクゥを砲撃する。

 

 回避行動を取ろうとするバクゥ。

 

 しかし、

 

「それも、計算済み!!」

 

 ヒカルは予めバクゥの回避行動パターンを予測して、先回りするように砲撃したのだ。

 

 頭部を破壊されたバクゥが動きを止め、足を吹き飛ばされた機体はつんのめって、月面にクラッシュする。

 

 そこへ、4機のグフが砲火を上げながら向かってくるのが見えた。

 

 他の部隊が寄せ集めの烏合の衆と言った印象があるのに対し、そいつらの動きは統制が取れているように見える。

 

 どうやら、アシュレイ・グローブ直属の部隊であるらしい。恐らく宇宙解放戦線にとっては、虎の子の精鋭なのだろう。

 

「いい機会だ」

 

 ヒカルは笑みを浮かべて機体を操作する。

 

 このエターナルフリーダムは、ヒカルの要望に合わせて、リリア・アスカがカスタマイズを施している。その新装備を試すチャンスだと思った。

 

 ヒカルはビームライフルを腰裏のハードポイントに戻すと、折り畳まれたレールガンを砲身後部から突き出すように増設された柄手に手をやった。

 

 次の瞬間、引き抜かれたエターナルフリーダムの手には、細身の剣2本がそれぞれ握られていた。

 

 新しいレールガンは、砲身が二重構造になっており、砲身上部に並走する形で実体剣の鞘が増設されているのだ。

 

 引き抜かれた剣が、微細な振動を放つ。

 

 かつて、ヘリオポリスで開発された6機のG兵器、所謂「Xナンバー」の内、GAT-X109「シルフィード」のメインウェポンだった高周波振動ブレードの進化版である。

 

 旧型よりも小型で取り回しやすくなり、更に鞘内で充電を行う事で手持ち状態でも起動が可能となっている為、遥かに使い勝手が良くなっている。

 

 刀身としては5メートル超程度。決して長いとは言えない。

 

 だが、

 

 接近し、エターナルフリーダムに斬り掛かろうとしていた4機のグフ。

 

 対してヒカルは、両手の剣を高速で振るう。

 

 紙よりも簡単に、正面に迫ったグフの両肩が斬り飛ばされた。

 

 ヒカルはそこで、動きを止めない。

 

 残った3機のグフに対して剣を振るい、次々と斬り捨ててしまう。

 

 実体剣である事を除けば、その切れ味はビームサーベルにも匹敵する。

 

 あっという間に、4機のグフを無力化してしまったヒカル。無論、大破させた機体は1機も無い。全て無力化に留めてあった。

 

「おのれェェェッ!!」

 

 自軍にもたらされた惨状に、アシュレイは火を噴かんばかりの怒りを見せる。

 

 デスティニーシルエットを装備したゲルググは、炎の翼を羽ばたかせてエターナルフリーダムへと突撃していく。

 

 ビーム突撃銃を斉射するゲルググ。その攻撃を、ヒカルがシールドで防御している内にビームキャノンを展開して砲撃を行う。

 

 砲撃を、ビームシールドで弾くヒカル。

 

 その間に、アシュレイは距離を詰めると同時に吼えた。

 

《我らの聖戦の邪魔をするな!!》

 

 ビームキャノンを放つアシュレイ。

 

 その閃光を、12翼を羽ばたかせてひらりと回避するエターナルフリーダム。

 

「邪魔だって!?」

 

 回避行動を取りながら、ヒカルは叫び返す。

 

「お前等、自分が何をやろうとしているのか、本当に判ってるのかよ!?」

《無論だ!!》

 

 アシュレイは、一点の迷いも無く言い返す。

 

《我々は、この月を、そして世界をプラントの軛から解放する為に戦っている。故に、我らの戦いは聖戦なのだッ それを邪魔すると言うなら、貴様は奴等に与する悪でしかない!!》

 

 エクスカリバー対艦刀を抜き放ち、真っ向から斬り込むゲルググ。

 

《そして、悪はここで倒れるべきだ!!》

 

 対してヒカルは、大ぶりな剣閃を後退しながら回避。同時にレールガンで砲撃を仕掛ける。

 

 だが、アシュレイもさる物。すぐにシールドを掲げてエターナルフリーダムの砲撃を防御する。

 

「それが何で、核で攻撃する事になるんだ!?」

 

 ビームサーベルを抜いて斬り込むヒカル。

 

 アシュレイもまた、対艦刀を振りかぶる。

 

《我らの正義を受け入れない者はすべからく悪だッ 悪は滅ぼさなくてはならない!!》

 

 斬り結ぶ両者。

 

 エターナルフリーダムは12翼を広げて距離を開き、ゲルググは炎の翼を羽ばたかせて追随する。

 

《よって、絶対的善である我らの行いは、全てにおいて肯定されるべきなのだ!!》

 

 振り下ろされる大剣。

 

 それに対して、

 

「ざけんな!!」

 

 怒りと共に叫ぶヒカル。同時にエターナルフリーダムの左腕が、高々と振り上げられた。

 

 その掌から発振されるビームサーベル。

 

 パルマ・エスパーダ掌底ビームソード。

 

 デスティニー級機動兵器の主力兵装であるパルマ・フィオキーナのビームサーベル版である。オリジナルに比べて瞬発的な威力では劣るものの、高い汎用性と攻撃範囲を誇っている。

 

 その一撃が、エクスカリバー対艦刀の刀身を叩き折った。

 

「クッ!?」

 

 後退を掛けるアシュレイ。

 

 しかし、ヒカルはヴォワチュール・リュミエールを起動し、逃がさないとばかりに距離を詰めた。

 

 とっさに突撃銃で反撃しようとするアシュレイ。

 

 しかし、ヒカルの超加速を前に、照準が追いつかない。

 

 逆にビームライフルで、ゲルググの右足を吹き飛ばされる。

 

「核を撃って、多くの月の人々を殺して!!」

 

 尚も逃げようとするゲルググを、高速で追撃するエターナルフリーダム。

 

「それで月の解放だって? ふざけるな!!」

 

 放たれたビームキャノンの攻撃を捻り込みながら回避。すれ違う一瞬で抜き放った高周波振動ブレードの一閃が、その砲身を斬り落とす。

 

 見上げるようにして振り仰ぐゲルググ。

 

 アシュレイの反応は、ヒカルからすればあまりに遅い。

 

「アンタ達はただ、自分のミスを帳消しにしたいだけだろうが!!」

 

 作戦失敗と言うミスを消す為に、核まで持ち出した奴等。

 

 それを誤魔化す為に、大義だ報復だ聖戦だと喚いているような奴等。

 

 こんな奴等の為に失われていい命なんて、一つとしてありはしない。

 

 レールガンを放つヒカル。

 

 その一撃で、ゲルググの両翼が吹き飛ばされる。

 

 更にヒカルは、背中からティルフィング対艦刀を抜き放ち、一気に急降下する。

 

「そんな事は、酒場の隅ででも叫んでろ!!」

 

 最後の抵抗とばかりに、アシュレイも残ったエクスカリバーを抜き放つ。

 

 交差する両者。

 

 次の瞬間、

 

 ゲルググの手にあったエクスカリバーは根元から折られ、機体の右腕と右足も、同時に斬り飛ばされていた。

 

 更にヒカルは、トドメとばかりにパルマ・エスパーダを発振すると、ゲルググの頭部を斬り飛ばす。

 

 全ての戦闘力を奪われたゲルググは、物言わぬ残骸となって月面へと落下していく。

 

 その光景を見届けると、ヒカルは大きく息を吐き出した。

 

 

 

 

 

PHASE-16「セブンスラッシュ・シックスファイア」      終わり

 




機体設定

エターナルフリーダム強化案

武装
ティルフィング対艦刀×1
アクイラ・ビームサーベル×2
高出力ビームライフル×2
クスィフィアス改複合レールガン×2
バラエーナ・プラズマ収束砲×2
ビームシールド×2
スクリーミングニンバス改×1
近接防御機関砲×2
高周波振動ブレード×2
パルマ・フィオキーナ掌底ビームソード×2


パイロット:ヒカル・ヒビキ

備考
ヒカルの要望に伴い、エターナル計画推進者で整備主任でもあるリリア・アスカが、武装の追加を行った状態。腕部は隠し武器兼接近戦武装であるパルマ・エスパーダに換装。更にレールガンは二重構造とし、改良されて取り回しが格段に向上した高周波振動ブレード搭載した。砲身上部は高周波振動ブレードの鞘になっており、これは同時に充電器の役割も担っている。この為、ブレードは手持ち状態でも起動できるようになった。
当初リリアは、ヒカルに対してドラグーン装備を提案したが、ヒカル自身がこれを拒否した。その為、フリーダム級機動兵器にしてはありえない程、接近戦に比重を置いた機体に仕上がった。
なお、エターナルフリーダムの推進システムはヴォワチュール・リュミエールとスクリーミングニンバスを用いた特殊な物である為、武装追加による機動力低下は、無視しても良いレベルにとどまっている。

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