機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-13「闇の踊り手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一斉に闇の彼方で瞬いた光が、次の瞬間には一気に伸びてきた。

 

 虚空を斬り裂き、岩礁をかみ砕いて進む閃光は、まるで光の蛇を想起させる。

 

 目標となった巨大な岩塊に迫った光は、しかし命中の直前、張り巡らされた光の壁によって阻まれる。

 

 だが、閃光はそこで止む事を知らない。

 

 再び虚空を斬り裂くように光が放たれる。

 

 まるで息を吐かせない事を狙っているかのように、次々と飛来してくる。

 

 プラント宇宙軍による、自由オーブ軍拠点アマノイワト総攻撃は、まずは艦隊による艦砲射撃から幕を上げた。

 

 降り注ぐ戦艦主砲による射撃は、しかし、これを見越すように張り巡らされた陽電子リフレクターに遮られ、アマノイワト本体には掠り傷一つ付けられないでいる。

 

「敵攻撃、第五波来ます!!」

「リフレクター強度、現在98パーセントを維持ッ シールド発生に問題無し!!」

「マーク10、ブラボーにも敵艦隊!! こちらを包囲する模様!!」

 

 次々ともたらされる報告に対し、臨時基地司令を兼任するラキヤ・シュナイゼル少将は指令室で腕組みをしながら聞き入っていた。

 

「ひとまずは、攻撃を防ぐ事には成功したか。けど、問題はここからだろうね」

 

 呟いてから、僅かに顔を顰める。

 

 ラキヤの頭の中では既に、次に敵が打って来るであろう手段が読めていた。

 

 攻撃が艦砲射撃だけで済む筈がない。こちらの動きを抑え込んだ上で、次はモビルスーツ隊を繰り出して上陸戦を仕掛けてくるはずだ。

 

 それに対し、こちらはいつまでも引き籠って穴熊を決め込んでいる訳にはいかない。陽電子リフレクターの展開には莫大な電力を必要とする。いくら、開発当時に比べてエネルギー効率や電力事情が向上しているとは言え、いつまでも展開しておく事はできないのだ。

 

 幸いなのは、リフレクターのおかげで収容している艦隊が、未だに無傷でいる事だろう。艦隊さえ無傷なら、脱出する手段は幾らでもある。

 

 だが、

 

 アマノイワトはもう使えない。たとえ今、一時的に守り切ったとしても、この場所がプラント軍に察知された以上、また再度の侵攻が行われるだろう。そうなれば、今度こそ持ち堪える事はできない。

 

 発見されれば終わり。秘密基地とはそう言う物だ。

 

 だが、たとえ負けるにしても、幾ばくかの時間は稼ぐ必要がある。その為の戦力は必要だった。

 

「それに・・・・・・・・・・・・」

 

 人知れず呟きながら、ラキヤは大和の事を思い浮かべる。

 

 ラキヤの娘の母艦でもある戦艦は、自由オーブ軍にとっては今や切り札と言っても過言ではない。何としても守り通さなくてはならなかった。

 

「全部隊に出撃待機を命じろ。同時に脱出の為の必要なシークエンスを実行。データは確実に消去。試作機の積み込みも忘れるな。物資は、詰み込めない分は全て爆破、焼却するように。データの消去が間に合わなければ、そっちも爆破して構わない」

 

 ラキヤは必要な作業を思い浮かべながら、矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

 敵に与える物は、少なければ少ないほどいい。それは軍事上の常識である。その為、回収可能な物は可能な限り回収し、後は基地ごと爆破する、というのがラキヤの基本方針だった。

 

 その為、いざと言う時に必要な手順は、末端に至るまで既に行き渡っている。後はマニュアルに従い、全てを実行するだけだった。

 

 その時、オペレーターが振り返った声を上げた。

 

「敵、モビルスーツ隊の発進を確認。数、約30!!」

 

 来たか、とラキヤは口の中で呟く。

 

 30機と言う機体数は、部隊単位で考えた場合、決して多いとは言えないが、それでも暗礁地帯の中で行動するには、逆に聊か多すぎる数のようにも思える。プラント軍もそこら辺は織り込み済みで精鋭を送り込んできているはず。油断はできなかった。

 

 とは言え、だからと言って悲観的にも捉えていない。

 

 自由オーブ軍の旗揚げ以来、こうなる事は想定の範囲内だ。その為の準備もとっくの昔に済ませてある。

 

「モビルスーツ隊発進開始。迎撃せよ」

 

 静かに命じるラキヤ。

 

 その口元には、不敵な笑みが刻まれる。

 

 敵はこちらを追い詰めたつもりだろうが、それが間違いである。奴らは、オーブの底力を何も判っていない。

 

 かつて幾度となく敗亡の危機にさらされながら、その度に生き延び這い上がってきたオーブは、たとえその身を穢されたとしても、魂まで傷付ける事は叶わないのだ。

 

 それをプラント軍は、今から思い知る事になるだろう。

 

「後を頼むよ」

 

 副官にそう言い置くと、ラキヤは足早に指令室を後にする。

 

 目指すは彼自身がいるべき戦場。守りたい物を守る為に、彼もまた剣を取って戦うつもりだった。

 

 

 

 

 

 飛び出すと同時に、目くるめく閃光が視界を埋めるのが分かった。

 

 同時に、背中の翼を広げて、ヒカルは最前線へと踊り出す。

 

「俺とアステル、レオスが前に出る。カノンは掩護を!!」

《判った!!》

《了解だよ!!》

 

 レオスとカノンから、勢い込んだような返事が返ってくる。

 

 アステルからは返事は無いが、それでもエターナルフリーダムの背後から追随してくるギルティジャスティスの姿を見れば、意図は充分に理解できた。

 

 それにしても、随分とギリギリのタイミングであったように思われる。

 

 大和の補給と整備も完了し、間も無く出発すると言う時に敵の襲撃を受けて緊急出撃。正直、あまりに出来過ぎなように思えてならなかった。

 

 しかし今は考えている余裕はない。一刻も早く行動を起こす必要があった。

 

 既にプラント軍もモビルスーツ隊を出撃させ、こちらへと差し向けてきている。その数は現在、アマノイワトに駐留している部隊数を上回っている。しかもこちらは、脱出する部隊を掩護すると言う任務もある。油断はできなかった。

 

「来るぞ!!」

 

 ヒカルが叫んだ瞬間、

 

 デブリの陰から湧き出すように、多数の機影が、スラスター噴射炎を引きながら姿を現した。

 

 飛び出したプラント軍の機体が、弧を描くように進路変更しながら、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。

 

 それを視認すると同時に、ヒカルは機体をフルバーストモードは移行させ、一斉攻撃を仕掛ける。

 

 迸る虹色の閃光。

 

 その様に、プラント軍の先頭に位置する部隊が、たたらを踏んで急停止を掛ける。

 

 プラント軍は自由オーブ軍側が迎撃行動を仕掛けるタイミングを使も損ねたのだろう。

 

 碌な反撃もできないうちに、先頭を飛んできた機体が、直撃を浴びる。

 

 更に別の1機もレールガンの直撃で頭部を吹き飛ばされ、フラフラと戦線離脱していく。

 

 それを奇禍として、戦端が開かれた。

 

 カノンのリアディスFは8基のアサルトドラグーンを射出すると、デブリから湧き出てくるハウンドドーガを狙い撃ちにする。

 

 カノンの援護射撃を受けながら、接近戦能力の高いアステルのギルティジャスティス、そしてレオスのリアディスノワールは、それぞれの武器を手にデブリを縫うようにして斬り込んで行く。

 

 その間にも、戦線を飛び越す形で、プラント軍艦隊によるアマノイワトへの攻撃は続く。

 

 今はまだリフレクターが健在で全ての攻撃は防ぎ止められているが、それを維持できる時間は確実に減ってきている。

 

 ヒカルもまたティルフィング対艦刀を抜き放つと、エターナルフリーダムが持つ12枚の蒼翼を羽ばたかせ、進撃しようとするプラント軍の前へ立ち塞がる。

 

 リリアに開発を依頼した新装備は、つい先日、完成こそしたものの、換装する時間が無かったため、今回エターナルフリーダムは元の装備のままでの出撃となっている。

 

 その事が、ヒカルにとっては一抹の不安要素と言って良かった。

 

 あの装備が完成し取り付けられていたら、今回のような戦闘でも十分に役に立ったと思えば尚更である。

 

 だが、今さら嘆いても始まらない。ヒカルには今ある装備で最善を尽くす事が求められていた。

 

 デブリ内部での戦闘は、砲撃武装よりも接近戦武装の方が有効である事を、ヒカルは長い戦いで学んでいた。

 

 デブリをよけながらの戦闘はどうしても視界が効かず、交戦は出合い頭の物となる場合が多い。その際、射撃武装をいちいち構えて照準を修正している余裕は無い場合が多い。

 

 だからこそ、接近戦用の武装が物を言う訳なのだ。

 

 しかしどうやら、プラント軍側の方では、その手のノウハウが伝わっていないのか、接近するエターナルフリーダムに対して、ライフルの銃口を向けようとする者が多い。

 

 それらをヒカルは、片っ端から斬り飛ばしていく。

 

 接近しようとしていたハウンドドーガの右足と右腕を、袈裟懸けに振るったティルフィングで斬り飛ばし、背後から接近しようとしていた別の機体を、振り向き様に腰から抜き放ったビームサーベルを一閃して頭部を斬り捨てる。

 

 対艦刀とビームサーベルと言う変則的な二刀流に構えると、エターナルフリーダム目がけて砲撃を仕掛けてくるハウンドドーガに急接近し、両手の剣を真っ向から振り下ろす。

 

 両肩を斬り飛ばされたハウンドドーガは、恐れおののいたようにその場で反転して逃走に移った。

 

 どうやらこいつらは、保安局の部隊であるらしい。機体を漆黒に塗装している事からも、それは明らかだった。

 

 交戦開始からしばらくして、ヒカルはその事に思い至った。

 

 手ごたえが無さ過ぎる。まるで人形を相手にしているかのようだ。

 

 旗揚げ以来、自由オーブ軍は保安局の部隊をいくつも撃破してきた。その殆どが技量の低い連中だったが、そうした二線級の部隊ですら、今や保安局は事欠き始めているのかもしれない。

 

 ティルフィングの長大な刃が旋回してハウンドドーガの首を斬り飛ばす。

 

 すかさず、向けられた砲火を高機動を発揮して回避。同時にヒカルはエターナルフリーダム12枚の蒼翼を羽ばたかせ、自身に砲門を向ける機体へ急接近すると、相手に回避する間も与えずに斬り捨てた。

 

 数はオーブ軍の方が大きく劣っているが、技量は圧倒的に勝っているようだ。

 

 アステルは全身刃とも言うべきギルティジャスティスを駆り、近付こうとする敵機を片っ端から斬り捨てている。

 

 両手のビームサーベル。両脚のビームブレイドは縦横に軌跡を描きながら、自信に近付く敵機を斬り裂く。

 

 レオスも同様で、デブリの陰に隠れながら襲撃を仕掛けると言うトリッキーな戦術を駆使して敵を壊乱させている。

 

 両手に装備したフラガラッハ対艦刀は、刃が短い分、取り回しは最良である。その為、こうしたデブリ内での戦闘では特に威力を発揮するのだ。

 

 そして、カノンのリアディスFは、装備した火砲を駆使して、各機を掩護している。

 

 少数で多数を制する戦い方なら、ザフト軍とオーブ軍が世界で最もノウハウを得ている。数の不利は、この場では大した戦力差にはなりえなかった。

 

 このまま、切り抜ける事ができるか?

 

 そう思った時だった。

 

 突如、デブリから飛び出す形で、2つの機影がエターナルフリーダムに向かって

真っ直ぐに接近してくるのが見えた。

 

「ッ!?」

 

 機体を振り返らせ、迎え撃とうとするヒカル。

 

 しかし次の瞬間、思わず目を剥いた。

 

 

 

 

 

 その頃、アマノイワト内部では、脱出の為の準備が整えられつつあった。

 

 格納庫の中の試作機は全て脱出用の艦船に詰め込まれ、同時にデータはバックアップを取った上で消去、更に、集積されている物資については、爆薬を仕掛けて爆破準備を整えつつある。

 

 施設についても、既に爆破準備は完了している。全員の脱出を待ってシークエンスを実行する予定だった。

 

「まったく・・・・・・・・・・・・」

 

 脱出を急ぐ者達の列に混じって、ミーアとヘルガの親子の姿もあった。

 

 彼女達は特にVIPであり、本来なら自由オーブ軍とは何のかかわりも無い一般人と言う事もあって、停泊している艦船の中では最も強力な存在、すなわち大和に乗艦して脱出する事になった。

 

 しかし、当のヘルガと言えば、全身から迸るような苛立ちを隠そうともせずに不満をまき散らしていた。

 

「何で、このアタシがこんな目に合わなくちゃいけないのよ!?」

 

 保安局に理不尽にも逮捕され、送られたコロニーでは凌辱されそうになり、敵である筈の自由オーブ軍に連れ去られ(ヘルガの中では「保護」ではなく、「拉致」と言う認識が強い)そして今度は追われるように脱出行と来た。正直、ヘルガならずとも不満をぶちまけたくなる気持ちもわかる。

 

「ヘルガ、いい加減にしなさい」

 

 そんな少女を、強く窘めたのは彼女の母親だった。

 

 ミーア自身、その昔、修羅場を潜り抜けた経験からか、この程度のピンチで度胸が揺らぐ事は無い。

 

 しかしやはりヘルガには、何もかもが初めての事である為、すぐに慣れろと言う方が無理があるだろう。ましてかつい先日まで、アイドルとして華やかな道を歩いていたのだ。そんなヘルガからすれば、今の状況は地獄に堕ちたにも等しかった。

 

 とは言え、母親の言葉には素直に従うらしく、不満を顔に出しながらも大和の艦内へと向かっていく。

 

 その間にもプラント軍の攻撃は系臆され、時折、自身のように床が揺れるのが判る。

 

「急いでくださいッ ここも、いつまでも保つとは限らないッ」

 

 自由オーブ軍政治委員のアランが、2人を大声で促す。

 

 直接的な戦闘力の無いアランだが、それでもこの状況でできる事はある。それは、ヘルガとミーアを守る事だ。

 

 一度は断れられた、ヘルガによる対プラント宣伝の件だが、その事が完全に立ち消えになったとはアランは思っていない。折を見れば、ヘルガの気持ちも変わる時が来るかもしれない。その時まで、ヘルガを守り通す必要がある。

 

 ヒカル達もまた、その為にこそ戦っているのだから。

 

 それに・・・・・・・・・・・・

 

 アランは思いを馳せる。

 

 今頃、「彼女」もまた、自分達を守る為に出撃している頃だろう。

 

 

 

 

 

 プラント軍の攻撃に追われるようにして、アマノイワトからは自由オーブ軍の艦船が離脱していく。

 

 大型の輸送船には機材や機体が積み込まれ、その周囲を護衛艦が取り巻く形で進んで行く。

 

 正面から侵攻してきた部隊に関しては、ヒカル達フリューゲル・ヴィント特別作戦班を中心とした迎撃部隊が防ぎ止めている。今の内に、反対側の港口を使って脱出するのだ。

 

 いかにも「夜逃げ」のようで気が引けるが、これも致し方なしと言ったところだろう。背に腹は代えていられないのだ。

 

 しかし、こちらが考えるような事は、当然ながら敵も考えて然るべき、と言うのはある意味軍事作戦上の常識である。

 

 先頭の輸送船が爆炎に包まれると同時に、自由オーブ軍側に緊張が走った。

 

 デブリの陰から躍り出てくる、複数の機影が、獲物を見付けた猛犬のように勇んで向かってくるのが見える。

 

 プラント軍の作戦は、本隊がアマノイワト正面から攻撃を仕掛けると同時に、別働隊が、その反対側の宙域に布陣し、脱出してくるであろう自由オーブ軍を捕捉、殲滅すると言う物だった。

 

 数で勝るプラント軍だからこそ可能となる戦術である。

 

 このままでは、自由オーブ軍は脱出する先から捕捉され、殲滅されてしまうだろう。

 

 しかし、基地正面に布陣したプラント軍本隊にも戦力を裂かなくてはならない現状、脱出部隊に対する護衛も最低戦力にならざるを得ない。

 

 接近してくるプラント軍を阻む者は誰もいない。

 

 そう思った次の瞬間、

 

 黄金の閃光が、駆け抜けた。

 

 今にも輸送船に取り付こうとしていたハウンドドーガ数機が、伸びてきた閃光に進路を阻まれ、踏鞴を踏むようにして後退を余儀なくされる。

 

 そんな彼等を追い払うように、2本のビームサーベルを構えた機体が立ち塞がった。

 

 眩いばかりの黄金の装甲を持つ機体は、2対のブレードアンテナの下からツインアイを光らせている。そして背中には鳥類を思わせる大きな翼を広げていた。

 

「ここは行かせない。私が相手よ」

 

 コックピットの中で、リィス・ヒビキは不退転の決意と共に呟く。

 

 ORB-01X「テンメイアカツキ」

 

 かつて、オーブ軍の旗機として活躍した名機アカツキを現代の技術でレストア、興かした機体である。

 

 その最大の特徴とも言うべきヤタノカガミ装甲は健在で、光学兵器であるならば戦艦の主砲であっても弾き返す事ができる。追加武装であるアマノハゴロモは、同じくヤタノカガミ装甲によって構成され、折り畳んだ状態では自機の正面を守る役割を果たし、展開状態では翼としての機能と同時に、左右の味方機を守る為の盾としても使用できる。

 

 まさに、何かを守り通す為に生み出された機体であると言える。

 

 その黄金の装甲は全ての物を守り抜く意思を表した、オーブと言う国の具現でもある。この機体を託されると言う事は即ち、オーブの未来を託される事に他ならない。

 

「行くわよ」

 

 静かな呟きと共に、リィスは黄金の光を引いて虚空を掛けた。

 

 プラント軍は、そのテンメイアカツキにめがけて、一斉に砲撃を浴びせる。

 

 機体が黄金である為、至極狙いやすいだろう。いくつかの砲撃が命中コースに軌跡を描く。

 

 しかし次の瞬間、命中した攻撃は全て明後日の方向へと弾かれる。ヤタノカガミは全ての光を撃ち返し、自らには掠り傷一つ負う事は無い。

 

 自分達の攻撃が明後日の方向に弾かれる異様な光景を見て、プラント軍の兵士達に動揺が走る。

 

 振るわれる黄金の剣閃。

 

 鋭い斬り上げによってハウンドドーガの首を飛ばし、更に返す刀で別の機体を腕を斬り飛ばす。

 

 勿論、装甲だけに自身の命運を託すリィスではない。

 

 テンメイアカツキを包囲しながら、攻撃を仕掛けてくるハウンドドーガ。

 

 対してリィスは、高機動を発揮して攻撃を回避。同時に、腰に装備した小型の対艦刀を抜き放つ。

 

 突撃銃を放ちながら接近してくる、3機のハウンドドーガ。

 

 次の瞬間、リィスは急旋回を掛けて斬り込んだ。

 

 と思ったら、一瞬にして対艦刀は倍近い長さに伸び、それまでは小剣程度の大きさだった剣が、一気に大剣のような姿となってしまった。

 

 ムラマサ改対艦刀は、伸縮自在型の対艦刀で、収縮モードでは取り回しのきく小剣として、そして伸長モードでは大剣として機能する。

 

 ブレードストライカーの主装備として使われていたムラマサ対艦刀を、リィス自身がアイデアを出して完成した武装である。対艦刀の長所である威力の維持と、取り回しの悪さと言う欠点の克服を追い求めた結果、リィスが出した結論が「間合いの切り替え」だった。

 

 黄金の軌跡と共に、袈裟懸けに斬り裂かれるハウンドドーガ。

 

 その残骸を蹴り飛ばすと、リィスはテンメイアカツキを駆って、更に敵陣へと斬り込んで行く。

 

 味方の数が少ない以上、防衛線を張り続けるのは無理がある。

 

 だからこそ、敢えて攻めに出る。

 

 敵を攪乱して、こちらに目を引き付ける事ができれば、味方が脱出するまでの時間を稼げるだろう。

 

「さて、あとはみんなが急いでくれれば、こっちが脱出する時間も稼げるんだけど」

 

 敵の攻撃をアマノハゴロモで防ぎながら、リィスは呟きを漏らす。

 

 操縦には自信があるリィスだが、それでも大軍相手に単機で戦線を維持し続けるのは難しい。

 

 何とか、こちらに余裕がある内に脱出作業を終わらせてほしい所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エターナルフリーダムに向かってくる2機の異様さは、一際目を引く物がある。

 

 1機はずんぐりした機体で、どこか水中用モビルスーツのゾノを連想させる。巨大な腕にはビームの鉤爪が装備され、その凶悪なフォルムを惜しげも無くさらしていた。巨大な腕と比して脚部は太く短い構造になっており、基本的に地上戦は想定していないように思える。

 

 もう1機の方は、ずんぐりとしたシルエットは1機目と似ているが、武装は大きく異なる。背中から長い首が伸び、獣の頭部のような武装が装備されている。ケルベロスウィザード呼ばれるバクゥ専用装備によく似ているが、頭部はより大型化し、むき出しの口には、牙状のビーム刃が不気味に並んでいる。

 

「あいつがボスの言ってたやつね、兄さん!!」

「ああ、間違いない、オーブの魔王。実力の程がどれほどか、見せて貰おうか」

 

 フレッド・リーブスとフィリア・リーブスの兄妹は嬉々として言葉を交わすと、エターナルフリーダム目がけて斬り込んで行く。

 

 2人は保安局所属部隊の中で、特にその実力を認められ、特別に機体を宛がわれていた。

 

 兄フレッドの駆る機体は、ZGMF-X3012A「テュポーン」。両腕を極限まで巨大化させ、同時に機構を最適化させる事で、接近戦能力をギリギリまで上げている。

 

 妹フィリアの駆るのはZGMF-X3012B「エキドナ」。かつてのケルベロスウィザードを大型化し、更に「鎌首」の量を倍の4本にした「ラドゥン多目的攻撃兵装」を背中に固定装備している事から、事実上、6本の腕があるに等しい外見をしている。攻撃力重視のテュポーンとは違い、こちらは手数で攻めるタイプのようにも見える。

 

 その2機が、エターナルフリーダムを挟み込むようにして対峙した。

 

「こいつらッ!?」

 

 その異様な外見に、一瞬にして警戒心を強めるヒカル。同時に2本のビームサーベルを抜いて構え、攻撃に備える。

 

 次の瞬間、仕掛けたのはフレッドのテュポーンだった。

 

 その巨大な両腕を振り回し、真っ向からエターナルフリーダムに殴り掛かってくる。

 

「さて、ボスですら苦戦するその力、我々に示してもらおうか!!」

 

 両手にビームクローを展開するテュポーン。

 

 その鉤爪がエターナルフリーダムに迫った。

 

 対抗するように、ヒカルもビームサーベルを繰り出す。

 

 ぶつかり合う両者。

 

 しかし次の瞬間、エターナルフリーダムのビームサーベルが、火花と共に刃を散らしてしまう。

 

 その様に、ヒカルは思わず目を剥いた。

 

「これはッ アンチビームコーティングか!?」

 

 驚きながらも、相手の装備の特性をヒカルは一瞬で看破する。

 

 しかし、一歩遅かった。

 

 光刃を散らしながら突き抜けたテュポーンの腕が、エターナルフリーダムを直撃する。

 

「グッ!?」

 

 襲い来る激震に耐えながら、ヒカルはどうにか姿勢を立て直す。

 

 テュポーンの腕にはアンチビームコーティングが施され、ビームを無効化する処理がされているのだ。ビームサーベルでの単純な斬り合いは、ヒカルの方が不利である。

 

 そこへ、動きを止めたのを見透かしたように、今度は背後からフィリアのエキドナが迫った。

 

「ぼうっとしている暇は無いわよッ そぉれ!!」

 

 両手のビームクローと、背中のビームファングを同時に繰り出して襲ってくるフィリア。

 

 それに対してヒカルは、ビーム刃をシールドで防ぎながら、どうにか後退して距離を置こうとする。

 

 だが、

 

「逃がさんよ!!」

 

 そんなヒカルの動きを読んだ様に、回り込んだフレッドのテュポーンが、機体胸部のハッチを開き、その中に格納されていた8基のビームダーツを一斉射出した。

 

 放たれたビーム刃のナイフが、一斉にエターナルフリーダムへと向かう。

 

 その攻撃に対し、機体を横滑りさせながら回避するヒカル。

 

 同時にエターナルフリーダムのバラエーナ・プラズマ収束砲を展開。牽制を兼ねた攻撃を仕掛ける。

 

 並みの機体なら一撃で破壊できるほどの威力を秘めたバラエーナの攻撃は、しかしテュポーンとエキドナが、正面にリフレクターを展開した為、用を成さずに散らされてしまった。

 

 その様を見て舌打ちを漏らすヒカル。

 

 以前戦った事がある、ユニウス教団軍のガーディアンと一緒だ。どうやら、防御面にかなり力を注いだ機体であるらしい。それでいて、攻撃力に関しても侮れない為、ガーディアンよりも数段厄介な存在と言える。

 

「・・・・・・これは、本格的にやばいかもな」

 

 吐き捨てるように呟く。

 

 遠隔攻撃はリフレクターに阻まれ、接近すればアンチビームコーティングを施した武装により、ビームサーベルもビームシールドも役に立たない。

 

 せめて、例の新装備が使えていたら、もう少し状況は変わったはずなのだが、それを言っても始まらないのが戦場である。

 

 攻め手に迷うヒカル。

 

 視線を巡らせれば、仲間達の様子を見る事ができる。

 

 アステルのギルティジャスティスは、エターナルフリーダム同様に最重要の攻撃目標と定められたらしく、10機近いハウンドドーガに囲まれて集中砲火を浴びている。

 

 勿論、その程度で怯むアステルではない。今も脚部のブレードで蹴り上げ、敵機を容赦なく斬り捨てている。

 

 レオスのリアディスノワールも、前後を敵に挟まれる形で拘束を受けている。こちらは向かってくる敵が少ないせいで今のところ持ち堪えている様子だが、それでも掩護を期待できる状況ではない。

 

 そしてカノンのリアディスFは、アステルとレオスを掩護するだけで精いっぱいの状況である。ヒカルはリーブス兄妹と交戦した結果、仲間達から距離が開きすぎていた。

 

 何とか、独力で切り抜けるしかない。

 

 そこへ今度はフィリアが再び攻撃を仕掛けて来た。

 

「逃がさないッ と!!」

 

 肩越しの2基と、腰回りの2基、合計4基のラドゥンからビームファングを繰り出し、エターナルフリーダム喰らい付いて来るエキドナ。

 

 対して、ヒカルはとっさにスクリーミングニンバスを展開し、自身に迫ったビームファングを直前で防ぎ止める。

 

「往生際が悪いわよ!!」

「まだだァ!!」

 

 動きを止めたエキドナに、ヒカルは至近距離からレールガンの斉射を浴びせて弾き飛ばし、その隙に距離を取る。

 

 その背後から迫る、もう1体の異形。

 

「動きを止めたな。ならば、これで終わりだ!!」

 

 フレッドの声と共に、背後からテュポーンの鉤爪がエターナルフリーダムに迫る。

 

 同時にドラグーンを射出してエターナルフリーダムを包囲、一斉攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかし命中する一瞬、ヒカルはヴォワチュール・リュミエールを展開。高速機動を発揮してテュポーンを引き離した。

 

 すかさず、フレッドとフィリアも追撃を掛けようとする。

 

 対してヒカルは、自身に向かってくるテュポーンとエキドナを見据えて、6門の砲を展開する。

 

「行けッ」

 

 ヒカルの短い叫びと共に、6連装フルバーストを放つエターナルフリーダム。

 

 対して、フレッドとフィリアは、互いの機体を寄せ合うようにして対峙する。

 

《兄さん!!》

「OKだッ やるぞフィリア!!」

 

 互いに頷くと同時に、テュポーンとエキドナは搭載する全火砲を解き放つ。

 

 互いの閃光が同時に伸び、そして中間地点でぶつかり合う。

 

 次の瞬間、対消滅による強烈な爆光が周囲を明るく照らし出した。

 

 

 

 

 

 テュポーンとエキドナが、エターナルフリーダムに襲い掛かる様子を、クーラン・フェイスは僅かに距離を置いた場所から眺めていた。

 

 本国での不本意な違反者狩りをやらされていたクーランは、久々の戦場の感覚に満足を覚えていた。

 

 アマノイワトの情報は、彼の上司であるPⅡから齎された物である。

 

 相変わらず謎の情報網を持つPⅡは、本来なら秘匿されているはずの自由オーブ軍の秘密拠点すら、まるで夕刊の記事を読むようなノリで見つけてしまうから侮れない。

 

 まあ、そのおかげでこうして前線復帰できているのだから、クーランとしては何も文句を言う気は無いのだが。

 

「リーブス兄妹。連繋時における相性の良さは相変わらずだな」

 

 交戦するテュポーンとエキドナを眺めながら、クーランは満足そうに頷く。

 

 フレッドとフィリアの兄妹は元々、保安局行動隊の中では特にクーランが目を掛けていた2人である。

 

 弱卒揃いで有名な保安局行動隊の中にあって、クーランは直率する部隊だけは常に精鋭を揃えている。その中でも2人の実力はずば抜けていると言って良かった。

 

 そんな2人に、テュポーン、エキドナと言う新型機を与え対「魔王」特殊部隊を編制、自分の指揮下に置いたのである。

 

 結果、2人はクーランの期待以上の働きを示し、あの魔王を相手にして、優勢に戦いを行っていた。

 

「それに比べてな・・・・・・・・・・・・」

 

 クーランは、視線を巡らせながら嘆息する。

 

 リーブス兄妹の活躍と比べて、他の保安局員の戦いぶりは不甲斐無いの一言に尽きた。今も、自由オーブ軍相手に足止めすらできていない有様だった。

 

「まあ、それも無理ないか・・・・・・」

 

 何しろ連中の殆どは・・・・・・・・・・・・

 

 そこまで考えて、クーランは思考を止める。どのみち、今考えても仕方がない事である。

 

「さて・・・・・・・・・・・・」

 

 改めて、クーランは視線を、12枚の蒼翼を羽ばたかせてエキドナからの攻撃を回避するエターナルフリーダムへと向けた。

 

 ヒカルは尚も、苦戦を続けている。

 

 リーブス兄妹の連携と、自身の攻撃の大半を無効化された状態での戦いである為、なかなか勝機を見いだせないのだ。

 

 普通に考えれば、あと数手で詰ませる事ができるはずなのだが・・・・・・

 

「お前が『あいつ』なら、この程度のピンチなんざ、物の数じゃねえだろ。そいつを、俺に証明して見せろや」

 

 どこか機体を掛けるような言葉でそう言うと、クーランは不敵な笑みを口元に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 リフレクターを解除した事で、プラント軍の攻撃はアマノイワト本体に及び始めていた。

 

 戦艦の主砲が着弾する度に、大型デブリを改装して建造された拠点には激震が走り、炎が区画を飲み込んで焼き尽くしていく。

 

 アマノイワトの命運は、もはや旦夕に迫っていると言って良かった。

 

 だが、そのような状況下でありながらも、脱出に必要な作業は粛々と進められていた。

 

 プラント軍の攻撃を受けて若干の被害を出しながらも、駐留していた部隊は次々と脱出。拠点放棄に必要な作業は完了していた。

 

 そんな中、最後まで港に残っていた大和が、ゆっくりと外へと這い出してきた。

 

 その巨体故に目立つ大和は、ただちにプラント軍の目を引く事となった。

 

 港正面に展開していたプラント軍艦隊が一斉に砲門を開き、大和に砲撃を浴びせて来た。

 

 対して大和もシュウジの指揮の下、艦を右に旋回させながら3基9門の主砲を旋回させ、果敢な反撃に転じた。

 

 モビルスーツのそれよりも数倍太い閃光が、虚空を押しのけるようにして伸びていく。

 

 たちまち、直撃を受けたローラシア級戦闘母艦が装甲を撃ち抜かれ、内部から膨張するように爆発する。

 

 ローラシア級はヤキン・ドゥーエ戦役の頃からザフト軍が使用しているベストセラー艦だが、量産を考慮して構造を簡略化している部分がある。その為、大和クラスの大型戦艦と本格的な砲撃戦を行うのは、明らかに不利だった。

 

 ローラシア級1隻を撃沈した大和は、更に砲門を、その前方を航行しているナスカ級へと向けて開く。

 

 対してローラシア級よりも船足の速いナスカ級は、巧みな緩急をつけた動きで大和の照準を狂わせる。

 

 その間にプラント軍の他の艦が大和へと砲撃を集中させる。

 

 たちまち、閃光が艦体を包み込むように発生し、艦内部に激震を生み出す。

 

 しかしそれでも、大和は重装甲で敵の攻撃を受けとめながら、果敢な反撃を繰り返す。

 

 やがて、戦艦同士の砲戦だけでは埒が明かないと判断したプラント軍は、次の手を打って来た。

 

 砲戦を続ける大和のブリッジで、センサーモニターを見詰めていたリザが顔を上げてシュウジを見た。

 

「敵モビルスーツ多数、敵艦の陰から来ます!!」

「対空戦闘、迎撃はじめ!!」

 

 リザの報告を受け、シュウジは素早く命じる。敵機に至近距離に取り付かれたら、如何に大和と言えども苦戦は免れない。

 

 対空砲が唸りを上げて撃ち放たれ、対空ミサイルがランチャーから射出される。

 

 たちまち、直撃を浴びて撃墜される機体が続出する。

 

 しかし、戦艦の火砲は威力が高い反面、どうしても機動力が落ちる。その隙を突いて、突入を図る機体が現れはじめた。

 

 ビームキャノンが艦体を掠め、ミサイルの直撃によって衝撃が起きる。

 

 そこへ更に、敵艦からの砲撃も加わって大和を攻め立てた。

 

 その様子を、カタパルトデッキに立つ機体のコックピットで、ラキヤ・シュナイゼルが静かに見つめている。

 

「さて・・・・・・・・・・・・」

 

 そっと、胸ポケットからサングラスを取出して目に掛ける。

 

 ちょっとした気分の切り替えと言うか、昔からやっている癖は、こういう時に役に立つ者だろう。

 

「行こうかッ」

 

 力強い呟きと共に、カタパルトデッキに灯が入った。

 

 既にシュウジには、脱出後の行動について指示を出してある。後は彼が、独自に最善の方法を探って行動するだろう。

 

 となれば、ラキヤの残る役割は一つ。大和が脱出するための血路を開く事のみだった。

 

 この機体に乗るのは本当に久しぶりだが、大丈夫。まだ勘は鈍っていない。むしろ、自分がいるべき場所へ帰って来たと言う安心感すらあった。

 

「ラキヤ・シュナイゼル、ヴァイスストーム、出る!!」

 

 射出すると同時に、機体は白を基調に青と赤が入ったトリコロールに染まった。

 

 同時に、ラキヤの中で、ひどく懐かしい感覚が蘇るようだった。

 

 かつてアステルが使っていたストームアーテルを修理し、更にラキヤ好みにチューンナップし直したのが、このヴァイスストームである。VPS装甲がかつての黒から、トリコロールに変わっているのも、その一環である。

 

 数十年ぶりに握る操縦桿の感覚は、驚くほどラキヤの掌に馴染む。

 

 地球連合軍の士官であった頃、ストームを駆って戦場を縦横に駆け巡ったラキヤにとって、この機体に乗る事は、古き友との再会のような物だった。

 

 そのラキヤの視線が、鋭く虚空を走る。

 

 プラント軍の方でもヴァイスストームの存在に気付いて砲火を集中させようとしてくるが、その動きは歴戦のパイロットであるラキヤからすればいかにも遅いと言わざるを得ない。

 

 大和に取り付こうとするハウンドドーガ2機を、ライフルモードのレーヴァテインで撃ち抜いて撃墜。更に、背中に負った炎の翼を羽ばたかせると、プラント軍の隊列へ急接近する。

 

 飛んでくる火線を、急加速を掛けて回避しながら、同時にレーヴァテイン複合兵装銃撃剣の銃身部分を伸長し対艦刀モードへとチェンジ、フルスイングに近い形で正面の敵機を斬り飛ばす。

 

 大和に迫るの当面の脅威を排除したラキヤは、戦艦を守るようにして正面に立ちはだかると、手にしたレーヴァテインの切っ先をプラント軍へと向けた。

 

「さて、お決まり文句で申し訳ないんだけど、死にたい人から前に出なよ」

 

 大剣を構えながら、不敵なセリフと共に立ちはだかるラキヤ。

 

 その様子に気圧されたかのように、プラント軍は大和に近付く事すらできないでいた。

 

 

 

 

 

 エキドナから繰り出されるバジリスクの攻撃を、ヒカルは後退しつつ回避。同時にビームライフル、バラエーナ・プラズマ収束砲、クスィフィアス・レールガンを展開、6連装フルバーストを仕掛ける。

 

 しかし、

 

「甘いわよッ!!」

 

 フルバーストモードへの移行からヒカルの意図に気付いたフィアナは、直前で機体を空上昇させて攻撃を回避。同時に、スラスターを全開まで吹かしてエターナルフリーダムへ迫る。

 

 肩越しと腰回り、4方向からラドゥンの首を伸ばし、エターナルフリーダムに食いつこうとするエキドナ。

 

 その牙が迫った。

 

 次の瞬間、

 

 ヒカルは抜き打ちに近い形で背中からティルフィング対艦刀を抜刀。エキドナに向けて叩き付ける。

 

「こんな物ッ!?」

 

 とっさに防御しようとするフィアナ。

 

 しかし、その前に大剣の刃は、エキドナの右肩から飛び出していたラドゥンの首を斬り飛ばした。

 

「このッ まだよ!!」

 

 とっさに体勢を立て直そうとするフィアナ。

 

 ラドゥンはまだ3基残っているし、エキドナ本体の戦闘力も健在である。戦闘は十分可能だった。

 

 残った砲門を開きながらエキドナを後退させるフィアナ。

 

 対抗するように、ヒカルもバラエーナを放って動きを牽制しつつ、もう1機の敵機、テュポーンに備えるように、ティルフィング対艦刀を構え直す。

 

 しかし次の瞬間だった。

 

 突如、宇宙空間で火山が爆発したような、巨大な閃光が躍った。

 

 目を転じれば、アマノイワトが巨大な炎に包まれているのが見える。

 

 脱出を完了した自由オーブ軍が、基地の各所に仕掛けた爆薬に点火したのだ。

 

 全てとはいかないまでも、予定通りの行動。

 

 敵に与える情報を可能な限り少なくする為の処置は、滞りなく実行された。ならば。もはや長居は無用である。

 

「みんな、撤退するぞ!!」

 

 言いながら、ヒカルは再びフルバーストを展開して牽制の射撃を仕掛ける。

 

 その間にまずアステルが先頭で退路を切り開き、続いてレオスとカノンも機体を翻す。

 

 行かせないとばかりに、フレッドとフィリアは追いすがるが、その前にエターナルフリーダムが立ち塞がる。

 

「どけェ!!」

 

 手にした大剣を振り払うように一閃。テュポーンとエキドナの進路を遮った。

 

「兄さん!!」

「クッ こいつッ!?」

 

 エターナルフリーダムの剣閃を回避した事で、動きに僅かな乱れを生じるフレッドとフィリア。

 

 対してヒカルにとっては、その僅かな乱れがあれば十分だった。

 

 急速に機体を反転させると、ヒカルはヴォワチュール・リュミエールとスクリーミングニンバスを展開し、機体を振る加速させる。

 

 背後からテュポーンとエキドナが砲撃を仕掛けて来るが、それらがエターナルフリーダムを捉える事は無い。

 

 やがて、12枚の蒼翼を広げた天使は、瞬く間に虚空の彼方へ飛び去り、見えなくなってしまう。

 

 後には、味方の手によって爆破されて炎を上げるアマノイワトの残骸が残るのみだった。

 

 

 

 

PHASE-13「闇の踊り手」      終わり

 




人物設定

フレッド・リーブス
コーディネイター
20歳     男

備考
プラント保安局所属の青年。クーラン・フェイス直属部隊の一員であり、保安局内ではずば抜けて高い操縦技術を持つ。性格は冷静沈着。飛び出しがちな妹の抑え役でもある。





フィリア・リーブス
コーディネイター
20歳      女

備考
フレッドの双子の妹。兄と違い機が強く好戦的。しかしパイロットとしての腕は兄と同等であり、兄妹が揃うと高い連携力を見せる。





機体設定

ORB-01X「テンメイアカツキ」

武装
ムラマサ改対艦刀×1
ビームライフル×1
ビームサーベル×2
アンチビームシールド×1
近接防御機関砲×2
アマノハゴロモ広角防御装甲×2

パイロット:リィス・ヒビキ

備考
かつてのオーブ軍旗機「アカツキ」の設計データを基に開発した機体。その特徴とも言うべきヤタノカガミ装甲に加えて、前後に稼働する翼型の追加装甲「アマノハゴロモ」により、強靭とも言える防御力を獲得。自機、および僚機への支援防御態勢は、正に鉄壁とも言える性能となった。





GAT-X119V「ヴァイスストーム」

武装
レーヴァテイン複合兵装銃撃剣×1
ビームガン×1
ビームサーベル×2
ビームシールド×2
アサルトドラグーン×6

パイロット:ラキヤ・シュナイゼル

備考
アステルが使っていたストームアーテルを修理し、ラキヤ専用に改修した機体。機動性をギリギリまで上げると同時に、未搭載だったドラグーンを装備して火力を向上させている。





ZGMF-X3012A「テュポーン」

武装
多目的攻撃アーム×2
大型ビームクロー×10
ビームキャノン×2
複列位相砲×2
4連装ビームダーツ射出機×2
アサルトドラグーン×8
小型リフレクター発生装置×3

パイロット:フレッド・リーブス

備考
プラント保安局が開発した特殊作戦機。特徴的な巨大なアームを装備し格闘戦に優れるほか、砲撃力、防御力にも秀でている。その特異な性能故に特殊作戦部隊(通称「対魔王戦部隊」)に配備される。





ZGMF-X3012B「エキドナ」

武装
多目的攻撃アーム×2
大型ビームクロー×10
ラドゥン多目的攻撃兵装×4
ビームファング×4
ビームキャノン×6
複列位相砲×2
4連装ビームダーツ射出機×2
小型リフレクター発生装置×3

パイロット::フィリア・リーブス

備考
テュポーンの兄弟機。こちらはケルベロスウィザードを強化改造した「ラドゥン多目的攻撃兵装」を主装備としており、より接近戦志向の高い機体となっている。テュポーンとの連携を重視して設計されている。

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