機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-29「決意のSEED」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 並び立つ機体が一斉に武器を構える様は、神聖にして静謐。そして圧倒的と言うべきだった。

 

 重厚な装甲で通常サイズのモビルスーツよりも、やや大柄な外見が印象的な機体は、腰回りから足の膝部分までを覆う長めのスカートガードが特徴で、ふとすると大柄な僧兵が隊列を成しているようにも見える。

 

 UOM-04「ガーディアン」

 

 ユニウス教団が装備する主力機動兵器である。

 

 今まで秘密のベールに包まれ、一切が謎とされてきたユニウス教団の戦闘部隊が、今、一同の目の前に姿を現していた。

 

 ザフト、地球連合、オーブ、どの陣営の系列とも異なるデザインの機体は、戦場において異様な雰囲気を齎す。

 

 そして

 

 ユニウス教団軍の先頭に立つ白銀の機体は、他とは違い四肢やボディがほっそりとしており、逆に華奢な印象がある。

 

 背中にある6枚の翼があり、外見的にはガーディアンと一線を画しているが、スカート部分が長い事だけは、他の機体と一緒である。僧兵的な重厚感があるガーディアンとは異なり、どことなく女性的な印象を感じられるフォルムである。

 

 UOM-X01G「アフェクション」

 

 教団の象徴的存在、「聖女」と呼ばれる、教団の象徴とも言うべき少女専用として建造された機体である。

 

 性能は、5機のジェノサイドを一瞬にして屠って見せた事で、既に充分すぎるくらい証明できていた。

 

 そのアフェクションが、一同の見守る前で高々と振り上げる。

 

「・・・・・・何を、する気だ?」

 

 様子を伺っていたヒカルが、セレスティのコックピットで呻くように呟く。

 

 突如、現れたユニウス教団の部隊に、ヒカルもまた圧倒されてしまっていた1人だった。

 

 アフェクションの腕が、勢いよく振り下ろされる。

 

 次の瞬間、戦場が怒涛の如く動いた。

 

 整列したユニウス教団軍の兵士達は、雪崩を打つように北米解放軍の隊列へと襲い掛かる。

 

 慌てたように、砲門を開く解放軍。

 

 しかし、ガーディアンはその巨体からは想像もできない高い機動性を発揮して砲火を掻い潜ると、距離詰めると同時に攻撃を開始する。

 

 ガーディアンの手にしたビームライフルやビームバズーカが次々と火を噴く。

 

 直撃。

 

 成す術も無く吹き飛ばされる解放軍機。

 

 広がる動揺の中、ユニウス教団は進撃を続け、解放軍の隊列深くへ攻め込んで行く。

 

 放たれる砲火に絡め取られ、次々と炎に包まれる解放軍機。誰もが、突然現れた機体に翻弄され、成す術も無い状態だった。

 

 中には、反撃を試みる解放軍機もある。

 

 1機のグロリアスが勇敢にも教団軍の攻撃を掻い潜り、手にしたビームライフルを放ちながら接近して行くのが見える。

 

 そのビームが、1機のガーディアンを真正面から捉えた。

 

 しかし次の瞬間、命中したはずのビームは機体の正面で弾かれてしまった。

 

 逆にガーディアンが放つ攻撃は、容赦なく解放軍機を撃ち抜く。

 

 同様の光景は、そこら中で展開されていた。

 

 解放軍の攻撃は全くと言って良いほどガーディアンを傷付ける事はできないが、逆にガーディアンの攻撃はいとも簡単に解放軍機を直撃し破壊していく。

 

 よく見れば、攻撃を受ける直前、ガーディアンの前面に光の幕が展開しているのが見える。

 

 ガーディアンは、その最大の特徴として、機体胸部からビームシールドを展開する事ができるのだ。これにより、前から来る攻撃は大半を受け止める事ができるのである。

 

 一方的な展開が巻き起こる。

 

 圧倒的な攻防性能を誇るガーディアンの前に、北米解放軍の機体は無力に等しかった。

 

 そして、その中でも一際、群を抜いて暴れまわる機体がある。

 

 白銀の装甲を持つ美しい機体は、いっそ可憐とも思える姿で戦場を駆け廻る。

 

 聖女の駆るアフェクションだ。

 

 聖女はあえて解放軍の隊列の中へと飛び込むと、両手に装備したビームライフルを駆使して、次々と解放軍機を血祭りに上げていく。

 

 四方を取り囲んだ解放軍も、どうにかアフェクションを仕留めようと砲火を集中させるが、その全てに対し、聖女は圧倒的な機動力を発揮して回避していく。

 

 解放軍の攻撃は、直撃はおろか、掠める事すらできない。

 

 次の瞬間、聖女は動いた。

 

 翼と腰、脚部に装備していたアサルトドラグーンを射出する。

 

 機体同様、白銀の外装を持つドラグーンは、北米解放軍を包囲するように空中で展開した。

 

 同時にアフェクションの両手にあるビームライフル、両肩のビームキャノン、胸部のスプレットビームキャノンが展開される。

 

「・・・・・・リフレクト・フルバースト・・・・・・あなた方に、神の慈悲を」

 

 囁くような呟きが漏れた瞬間、

 

 閃光が、空を斬り裂いて迸った。

 

 駆け抜けた閃光が、空中に展開したドラグーンに命中する。

 

 次の瞬間、鏡に当たった光が反射するように、全ての閃光が乱反射を起こし、一斉に解放軍機へと襲い掛かる。

 

 リフレクトドラグーンと呼ばれるアフェクションの持つ12基の独立浮遊デバイスは、かつてオーブ軍が開発したヤタノカガミ装甲と同質の装甲で覆われており、自身に受けた光学兵装を反射する事ができる。

 

 勿論、1基に付き砲門が1門装備されている為、攻撃を行う事も可能。正に、攻防一体の万能兵器である。

 

 そして、プログラミングに従って空中に展開したリフレクトドラグーンに敢えてビーム当て乱反射を促すと、無限に広がる光の檻が広がり、内部に敵機を閉じ込める事が可能となる訳である。

 

 そこに、一切の慈悲は無い。

 

 否、あるいは逆に、聖女本人が言ったように慈悲に満ちた物であるのかもしれない。

 

 なぜなら、光の檻に閉じ込められた上で攻撃を受けた解放軍機は、1機の例外も無く一瞬にして焼き尽くされたからだ。

 

 中にいたパイロットの運命も語るまでも無い。痛みを感じる暇すらなかった事だろう。

 

「すげ・・・・・・・・・・」

 

 圧倒的な光景を目の当たりにして、ヒカルは呆然とした呟きを漏らす。

 

 今まで謎に包まれていたユニウス教団の圧倒的とも言える戦力を前に、言葉を失っている状態だった。

 

 と、

 

「おっとッ!?」

 

 突然、飛来した攻撃を前に、とっさにセレスティの蒼翼を翻して回避するヒカル。

 

 反撃に放ったビームライフルの一射が、攻撃したウィンダムの肩を撃ち抜いて吹き飛ばす。

 

「油断している場合じゃ、ないな」

 

 呟くと、ヒカルは味方と合流する為に機体を反転させる。

 

 戦いはまだ終わっていない。呆けている暇は、ヒカルには無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、解放軍の前線本部も、大混乱に見舞われていた。

 

 これまで殆ど実態らしい実態が見えていなかったユニウス教団。

 

 その教団が秘密のベールを脱いだ時、そこには圧倒的な戦力を誇る先頭集団が出現したのだ。

 

 オーギュストが切り札として用意していた8機のジェノサイドは既に撃破され、無残な躯の如き巨体を大地に転がしている。

 

 他にも、前線部隊がユニウス教団の集中攻撃を受け、短時間の内に壊滅寸前の損害を受けている。

 

 このままでは、戦線の崩壊も考えられる。

 

 一度、後退して体勢を立て直す必要があるだろう。

 

 次々と飛び込んでくる報告を聞きながら、オーギュストは冷静にそう考えていた。

 

 ただでさえ、ジェノサイド部隊が壊滅した事で兵達の士気も下降を辿っている。現状の体制を維持したまま戦ったとしても勝機は限りなく低いと言わざるを得なかった。

 

 どこか、後方の拠点まで後退して、そこで次の手立てを考えよう。

 

 そう、オーギュストが決断した。

 

 その時だった。

 

「観測班より報告ッ 軌道上にザフト軍の大艦隊を確認ッ どうやら降下揚陸作戦を仕掛けてくる模様!!」

 

 その報告に、オーギュストは驚いて出しかけた命令を引っ込めた。

 

 馬鹿な、と思う。

 

 ザフト軍が降下揚陸部隊を投入するの可能性は、限りなく低いと言うのが当初の解放軍上層部、オーギュストを含めた全員の見解だった。

 

 先の戦いでニーベルングの存在を知ったザフト軍が、危険な任務に降下揚陸部隊を作戦に投入する危険性は低いだろう、と。

 

 しかし現実に、フロリダ半島上空の軌道上にザフトの大艦隊が接近しつつある様子が映し出されていた。彼等は本気で降下揚陸部隊を降ろすつもりなのだ。

 

 その様子に、オーギュストはほくそ笑む。

 

 逆にこれはチャンスだ。降下揚陸部隊をニーベルングで焼き払えば、それは大きな戦果となる。そうすれば、崩れかかった解放軍の士気を盛り返す事も可能だった。

 

 そう言う意味では、敵に感謝すらしたい心境である。

 

「ザフト艦隊、降下軌道に乗りました!!」

 

 オペレーターの報告を聞き、オーギュストは勝利への確信と共に頷きを返した。

 

「全ニーベルング砲台に通達。敵部隊を射界に納め次第、全門砲撃開始。ザフト軍を薙ぎ払い、我が解放軍の武を世界に示せ!!」

 

 

 

 

 

 オーギュストの命令はただちにニーベルングを有する拠点全てに伝達され、準備がスムーズに行われる。

 

 山岳地や地下に偽装されたカバーが取り払われ、対空型の大量破壊兵器であるニーベルングが、その擂鉢状の姿を堂々と現わしていく。

 

 対空型という使用法を限定された武器ではあるが、その威力は絶大であり、その射線上に入れば、あらゆる物を焼き尽くす事が可能である。

 

《ニーベルング照射、一分前。作業員は危険区画より待避せよ。繰り返す・・・・・・》

 

 オペレーターのアナウンスが始まり、発射の最終フェイズが始まる。

 

 間もなく、ザフト軍の降下揚陸作戦が始まる。

 

 しかし次の瞬間には、全てが終わる事になる。

 

 宇宙から来るザフト兵達は、誰1人として地上に降り立つ事なく焼き尽くされる運命にあるのだ。

 

 北米解放軍に所属する誰もが、その未来予想図を疑っていなかった。

 

「ザフト艦隊、降下体勢に入ります!!」

「よし、ニーベルング発射準備!!」

 

 指揮官が発射の為の照準を合わせるよう指示を出した。

 

 次の瞬間、

 

「こッ これは!?」

「どうした!?」

 

 オペレーターの驚愕に満ちた声に、指揮官は思考を中断され顔を向ける。

 

 だが、追加の報告がなかなか上がってこない。いったい何が起きているのか?

 

 指揮官は焦れたように声を荒げる。

 

「報告をしろッ いったい何が・・・・・・」

「大型の熱源が、突然、軌道上に出現しました!!」

 

 突然の事態に、指揮所内は大混乱に陥ろうとしている。

 

 いったい、ザフト軍は何をしようとしているのか?

 

 指揮官が何かを命じようとした瞬間。

 

 光の奔流が、指揮所全体を包み込む。

 

 何が起きたのか、理解駅る者はただの1人も存在しない。

 

 ただ、自分達の意識が、膨大な光によって飲み込まれて行く事だけが、唯一認識できた。

 

 やがて、崩壊の時が訪れる。

 

 急速に膨れ上がった熱が基地全てを飲みこみ、そして焼き尽くしていった。

 

 

 

 

 

「ニーベルング、4番から22番まで信号途絶!! 基地からの通信も途絶えました!!」

 

 突然の事態に、オペレーター達の間にも動揺が広がっていく。

 

 いったい何が起きたと言うのか?

 

 あまりにも予想外の事態に、オーギュストもとっさに次の対応を取る事ができずに立ち尽くしていた。

 

 今にも降下しようとしているザフト軍部隊に対し、攻撃を開始しようとしていた対空掃射砲ニーベルング。

 

 解放軍が、全部で24基保有するニーベルングの大半が、一瞬にして破壊されてしまったのだ。

 

 映像で見ていた限りでは、天空から巨大な光の柱が降り注いできたように見えた。

 

 その光がニーベルングに命中した瞬間、全て焼き払われてしまったのだ。

 

 北米解放軍の切り札であり、フロリダ防衛の要とも言うべきニーベルング砲台群。

 

 そのニーベルングの守りが、殆ど一瞬にして失われてしまった。

 

 いったい、ザフト軍はどんな兵器を使ったのか? 複数あるニーベルングの大半、それも20基近い数を一撃で破壊してしまう兵器など尋常ではない。

 

 そこまで思考して、オーギュストは頭を振った。

 

 ザフト軍が何をやったのかは知らないが、いま重要なのは真相を究明する事ではない。

 

 こうしている間にも、共和連合軍の主力部隊は前進を続けている。更に、ニーベルングが失われた以上、敵は上からもやってくる。北米解放軍は今や、地上と宇宙から挟撃を受けようとしているのだ。

 

 オーギュストの決断は早かった。

 

 事この段に至った以上、もはや戦線を維持する事の意味はなかった。多くの兵を救い、更にシェムハザを守る為にも、速やかな戦線縮小こそが重要である。

 

 それは事実上、北米解放軍の敗北を意味している。

 

 しかし、事この段に至った以上、他に取りうる手段など存在しなかった。

 

「全部隊に通達。これより戦線を放棄して後退せよ。その後、ポイントM3にて合流し、部隊の再編を行え」

「いや、しかし司令!!」

 

 幕僚の一人が、オーギュストの命令に困惑したように言いつのった。

 

「撤退と申しましても、現状、我が軍は共和連合軍と交戦中です。今から撤退命令を出したりしたら、後退中に背後から追撃を受け、我が軍は壊滅しかねません!!」

「分かっている」

 

 幕僚の指摘に対し、オーギュストは頷きを返す。

 

 オーギュストとて、今この段階で撤退命令を出す事の危険は理解している。

 

「しかし、今撤退なければ、我が軍は敵に包囲されて全滅、そして解放軍は敗北し、我らの悲願である北米の解放は、より遠のく事になりかねない。そうなる前に、1人でも多くの兵を逃がすしかない」

 

 今のオーギュストに課せられた使命は2つ。1つはシェムハザの身の安全を確保する事。これは、護衛に就いているジーナに任せておけば問題はないだろう。

 

 もう1つは、解放軍の戦力を可能な限り維持する事だ。

 

 仮にシェムハザが生き残っても、指揮すべき兵がいなければ、北米解放の為の戦いを続ける事は出来ない。だから、たとえわずかでも戦力を残しておく必要があった。

 

 そして、その為の手段は、オーギュストには一つしかなかった。

 

「俺が部隊を率いて前線に立ち、共和連合軍の追撃を断つ。その間に可能な限り部隊を収容するんだ!!」

 

 そう命令を下すと、オーギュストは自身も出撃する為、司令部を足早に出て行く。

 

 そしてそれは、事実上、北米解放軍の敗北が確定した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は、完全に共和連合軍有利に傾いていた。

 

 ユニウス教団の参戦、そしてザフト軍新兵器によるニーベルング砲台群の壊滅と、その後に行われた降下揚陸作戦により、ジャクソンヴィルに展開している北米解放軍主力部隊は完全に包囲される形となった。

 

 更に、降下したザフト軍の別働隊は、フロリダ半島の内陸へさらなる侵攻を行う構えを見せている。

 

 長きにわたって北米解放軍が実効支配し、一切の侵攻を許さなかったフロリダ半島が今、共和連合軍の前に、ほぼ無防備にその姿を晒していた。

 

 もっとも、この事態に北米解放軍側も手をこまねいている訳ではない。

 

 ただちに前線の部隊を収容すると、その進路を南方へと向けさせて包囲網の解除を試みる一方、その撤退を援護すべく、一部の精鋭部隊が共和連合軍主力の前へ立ちはだかろうとしていた。

 

 ユニウス教団の部隊をはじめとして大軍を有する共和連合軍だったが、北米解放軍が今まで温存していた精鋭部隊の登場という事もあり、これまで以上の苦戦を強いられ、その前進も妨げられていた。

 

 ヒカルの駆るセレスティも、その砲火交わす最前線にいた。

 

 ジェノサイド部隊を壊滅させたヒカルは、その後いったん大和へ戻り、休養と補給を行った後、再び出撃してきていた。

 

 先の戦闘では接近戦用のS装備だったが、今度は砲撃戦用のF装備での出撃である。

 

 8枚の双翼を羽ばたかせて飛翔するセレスティ。

 

 その眼下には、ホバー装甲で追随するリアディス・ドライの姿もあった。

 

「カノン、俺が突っ込むから、お前は援護頼む!!」

《分かった!!》

 

 カノンの元気な声を聞きながら、ヒカルはスピードを上げる。

 

 そう言えば出撃の直前、リザが妙な事を言っていたのを思い出す。

 

 カノンの事を、ちゃんと守ってやれ、と。

 

 正直、ヒカルの目から見て、カノンの成長はかなりのスピードだと思う。愛機であるリアディス・ドライを充分に使いこなしているし、単独戦闘でも支援攻撃でも充分な戦果を挙げている。

 

 わざわざヒカルが守ってやる必要は無いと思うのだが。

 

 いったい、リザは何を言いたかったのか?

 

 首を傾げるヒカルだったが、思考するのもそこまでだった。

 

 視界の中で、複数の解放軍機が向かってくるのが見える。

 

 流石は、今まで温存されていた精鋭部隊だけあり、なかなかの粘り強さを見せている様子だ。圧倒的な戦闘力を見せつけたユニウス教団も手を焼いている様子で、一時的にせよ共和連合軍の進撃は停滞している。

 

 その真っ只中に、ヒカルとカノンは飛び込んでいった。

 

「行くぞ、カノンッ!!」

《オッケー、いつでも!!》

 

 カノンの返事を聞くと同時に、ヒカルはセレスティのビームライフル、バラエーナ・プラズマ収束砲、クスフィアス・レールガンを展開、5連装フルバーストを解き放つ。

 

 同時にカノンも、リアディス・ドライの持つ全武装を展開、一斉に撃ち放った。

 

 とたんに、接近しようとしていたグロリアスやウィンダムが吹き飛ばされる。

 

 更にヒカルは、フルバースト状態を維持したまま、全砲門で速射を仕掛ける。

 

 弾幕に近い砲撃の嵐を受け、接近を図ろうとする解放軍機は次々と破壊、爆炎を上げていく。

 

 だが、それでも解放軍の兵士達は、仲間の屍を乗り越えてやってくる。

 

「こいつら・・・・・・・・・・・・」

 

 その様子を見つめ、ヒカルはうめき声を上げる。

 

 彼等も必死だ。

 

 既に解放軍にとって負けが確定しつつある戦いだが、それでも尚、自分達が信じる物の為に戦おうとしている。

 

 たとえ今日、自分の命が失われようとも、明日、祖国が解放されるなら本望。

 

 そんな思いが、爆散する機体から伝わってくるようだった。

 

 レミリアの時もそうだったが、味方は味方なりに、敵は敵なりに想いを背負って戦っている。だからこそ、自分達は相対しなければならない。

 

「どうしてだ・・・・・・」

 

 尚もトリガーを引きながら、ヒカルは自問してみる。

 

「何で、ここまでして戦う?」

 

 戦うべき時には戦わなくてはならない。それはヒカルにも分かる。

 

 だが、既に解放軍にとって、この戦いは無意味な物になりつつある。戦線は崩壊し、もはや奇跡が起こったとしても、状況が逆転する事などあり得ないだろう。だと言うのに、尚も向かってくる彼等の思考が、ヒカルには全くと言って良い程理解できなかった。

 

 その時、

 

《ヒカルッ 上!!》

 

 カノンからの警告に、ヒカルはカメラを上に振り仰ぐ。

 

 そこには、黄色の翼を翻して急降下してくるレイダー級機動兵器の姿があった。

 

「あいつッ!?」

 

 放たれたビームキャノンとツォーンの攻撃を、ヒカルはとっさに後退して回避、同時にビームライフルで応戦する。

 

 対してゲルプレイダーを駆るオーギュストは、命中の直前で回避すると、ゲルプレイダーを人型に変形させてセレスティと対峙する。

 

「やはりいたか、《羽根付き》!! 今日こそ貴様を、狩る!!」

 

 言い放つと同時に、手にしたミョルニル2基を放ってくる。

 

 時間差を置いて向かってくる2つの鉄球。

 

 それをヒカルは、機体を上昇させて回避する。

 

 同時にヒカルは、セレスティ腰部のレールガンを展開、ゲルプレイダーに対して牽制の射撃を仕掛ける。

 

 レールガンの砲撃を回避する運動を取るレイダー。

 

「こいつも、まだ来るってのか!!」

 

 それに対してヒカルは、腰からビームサーベルを抜き放って斬りかかっていく。

 

 対抗するようにオーギュストも、シュベルトゲベール2本を構える。

 

「喰らえ!!」

 

 ヒカルの叫びと同時に、ビームサーベルを袈裟がけに振り下ろすセレスティ。

 

 その剣閃は、しかしゲルプレイダーがとっさに後退した為、空を切る。

 

「速いなッ だが、まだ甘い!!」

 

 言いながらオーギュストは、ビームキャノンでセレスティの動きを牽制する。

 

 ゲルプレイダーからの攻撃を、横滑りしながら回避するヒカル。

 

 しかし、オーギュストはその瞬間を見逃さず、スラスターを全開にして追撃、剣の間合いまで斬り込んできた。

 

「もらった!!」

 

 振り下ろされるシュベルトゲベール。

 

 その斬撃は、一瞬早く動いたセレスティのシールドと接触して火花を散らす。

 

「負けるか、よ!!」

 

 8枚の蒼翼を広げ、セレスティのスラスターが全開まで吹かされる。

 

 そのまま押し返そうとするヒカル。

 

 しかし、先に動いたのはオーギュストだった。

 

「やらせんぞ!!」

 

 ヒカルが力押しを掛けてきたのを見越し、ほとんどゼロの距離から蹴りを繰り出し、セレスティを弾き飛ばすオーギュスト。

 

 衝撃でバランスを崩して、錐揉みするセレスティ。

 

「ウワァ!?」

 

 ヒカルはどうにかバランスを取り戻そうと、躍起になって操縦桿を動かす。

 

 しかし、セレスティが安定を取り戻す前に、オーギュストは砲撃態勢を整えてしまった。

 

「これで終わりだなッ 《羽根付き》!!」

 

 全ての砲門を一斉に開こうとするオーギュスト。

 

 ゲルプレイダーの持つ全武装が火を噴こうとした。

 

 しかし次の瞬間、

 

「ヒカルは、やらせない!!」

 

 凛とした声と共に、地上からレイダーめがけて砲撃が襲いかかった。

 

 その攻撃に対しオーギュストは舌打ちしつつ攻撃を諦め、後退して回避する。

 

 ヒカルの窮地を見たカノンが、援護射撃を行ったのだ。

 

 回避行動を取るゲルプレイダーに対し、尚も執拗な攻撃を繰り返すカノン。

 

「おのれッ よくも邪魔を!!」

 

 その様子に、オーギュストは激高して、翼の向きを変える。

 

 そのままゲルプレイダーを駆って急降下、シュベルトゲベールを抜き放つと、地上で砲撃を行っているリアディス・ドライに向けて斬り込んでいく。

 

 リアディス・ドライに迫る刃。

 

 だが、

 

「させるか、よ!!」

 

 一瞬早く、両者の間に割って入ったセレスティが、横薙ぎにビームサーベルを振るってレイダーの接近を拒んだ。

 

《ヒカル!!》

「サンキュー、カノンッ 助かったぜ!!」

 

 ヒカルは安堵のため息をつきながら、幼馴染の少女に礼を述べる。

 

 本当に、危ういところを助けてもらい、カノンには感謝である。

 

 ここにいたり、ヒカルは確信していた。

 

 やはり、リザは間違っていた。

 

 ヒカルとカノンの関係は、どちらか一方が他方を守ると言う、一方通行な関係ではない。

 

 互いが互いを助け合い、足りない部分を補って戦う。そんな相互的な関係こそが、ヒカルとカノンには望ましい。

 

 ヒカルも、カノンも、未だに未熟な存在である。1人では決して敵わない強大な敵も数多い。

 

 しかし、どんな強大な敵であったとしても、2人で力を合わせて戦えば、決して敵わない事はないと思った。

 

 ヒカルは、尚も斬り込むタイミングをはかっているゲルプレイダーに目を向ける。

 

「カノン、あいつに勝つぞ。援護頼む!!」

《任せて!!》

 

 頷き合う、ヒカルとカノン。

 

 2人は同時に動いた。

 

 セレスティはビームサーベルを抜いて切り込み、それを援護するように、リアディス・ドライが砲撃を開始する。

 

 対してオーギュストは、ゲルプレイダーのミョルニルを回転させ、そのチェーン部分をシールドにしてリアディスからの砲撃を防御する。

 

 そこへ斬り込んでくるセレスティ。

 

 振るわれる光刃に対し、オーギュストは後退しながらシュベルトゲベールを抜き放ち、迎え撃つ体勢を取る。

 

「逃がすか!!」

 

 吼えるヒカル。

 

 後退するゲルプレイダーを見逃さず、更に一歩踏み込んで斬りかかる。

 

 袈裟懸けに振るわれるビームサーベル。

 

「ぬッ!?」

 

 一瞬、驚きの表情を見せるオーギュスト。

 

 セレスティの剣は、ゲルプレイダーの胸部装甲を僅かに削って通り過ぎた。

 

 僅かだが、ヒカルの踏込が浅かったのだ。

 

「やるなッ だがまだ甘い!!」

 

 言いながら距離を置くオーギュスト。同時にレイダー頭部のツォーンで牽制の砲撃を仕掛ける。

 

 その攻撃を、僅かに機体を傾ける事で回避するヒカル。そのせいで、僅かに動きを鈍らせる。

 

 オーギュストは、更に追撃を仕掛けようとする。このまま一気に押し込んでしまおうと言う腹積もりだ。

 

 しかしそこで、機体周囲に無数の爆炎が躍った。

 

「なにッ!?」

 

 驚くオーギュスト。

 

 ヒカルを援護すべくカノンは、リアディス・ドライに残っていた全ミサイルを発射したのだ。

 

 ミサイルは全て、近接信管をセットされて発射している。命中による直接的なダメージではなく、近接爆発の衝撃波によって、オーギュストに隙を作り出すと同時に、爆炎によって一瞬でも視界を塞ぐ事が目的だった。

 

 バランスを崩す、ゲルプレイダー。

 

 そこへ、ビームサーベルを構えてセレスティが斬り込んできた。

 

「どうしてだ!!」

 

 一閃する刃。

 

 セレスティの鋭い一撃が、ゲルプレイダーのシュベルトゲベールを一本叩き折る。

 

 更に、ヒカルは刃を返して斬りかかる。

 

「どうして、あんた達はまだ戦おうとする!!」

 

 ヒカルは自身が抱いた疑問を、剣と共に相手へとぶつける。

 

 戦いその物を否定する気はない。主義主張が違えば、互いに剣を交えなくてはならない時だってあるだろう。

 

 しかし、既に負けの見えた戦いに尚も固執する敵パイロットの思考が、ヒカルには全く理解できなかった。

 

 意外な事に、

 

《驚いたな》

 

 答えが返って来た。

 

《動きから察するに、若いパイロットだろうとは思っていたが、声からすると、君はまだ子供じゃないか》

「それが、どうした!?」

 

 付き放つと同時に、ビームライフルで牽制の射撃を仕掛けるヒカル。

 

 対抗するように、オーギュストも両手のビームガンをセレスティに放ってくる。

 

 互いにビームを放ちながら旋回する、セレスティとゲルプレイダー。

 

 放つ攻撃は、相手を直撃する事は無い。

 

《子供が戦場に出て戦争ごっこか。共和連合も随分、酔狂な事をやるものだな》

「関係あるのかよ!!」

 

 セレスティが振り翳すビームサーベルを、オーギュストは機体を上昇させて回避。同時にビームキャノンで反撃する。

 

 対してヒカルは、レイダーからの攻撃をシールドで防御、更に距離を詰めようとする。

 

「この戦いはもう終わったようなものだッ なのに、なぜアンタはまだ、無意味に戦おうとする!!」

《意味ならある!!》

 

 ヒカルの剣閃を振り払い、オーギュストは叫ぶ。

 

《私は、北米解放という大義の為に戦っているッ その為ならば、この命など惜しくはない!!》

「ッ!?」

 

 振るわれたシュベルトゲベールの一撃を、ヒカルはシールドをかざして防御する。

 

《逆に問おう少年ッ 君は一体、何の為に今、戦っているッ? 君の戦いに意味はあるのか!?》

「それは・・・・・・・・・・・・」

 

 オーギュストの問いに、ヒカルは言葉を詰まらせる。

 

 何のために、自分は戦っているか?

 

 そう聞かれれば、確かに、ヒカルは自分が何のために戦場に立っているのか考えた事はなかった。

 

 勿論、友人や仲間、カノン達を守りたいと言う思いはヒカルの中にある。しかし、それはヒカルが戦う理由にはなっても、戦場に立って敵を倒す理由にはならない。

 

 戦場で戦う以上、求められる大義。それがヒカルの中では決定的に欠落している。

 

 それを見透かしたかのように、オーギュストは攻勢を仕掛けてくる。

 

《大義も知らず、理想も知らない!! そんな子供が戦場に立つ事の、何と愚かしい事か!!》

「くっ!?」

 

 放たれる砲撃を、辛うじて回避するヒカル。

 

 オーギュストは尚も、攻撃の手を緩めようとしない。

 

《私は、この北米を解放する為ならば、いかなる手段も厭わないッ たとえ、この身が滅びようとも、祖国を取り戻すまで戦いをやめるつもりはない!!》

 

 真っ向から振り下ろされる大剣。

 

 その剣閃は、

 

 セレスティが振り上げた光刃によって、真っ向から斬り飛ばされた。

 

「なにっ!?」

 

 驚愕するオーギュスト。

 

 それに対して、ヒカルはビームサーベルを振り切り、大きく腕を上げた状態のまま滞空している。

 

「・・・・・・・・・・・・それが、あんたの掲げる大義かよ?」

《何?》

 

 静かに問いかけるヒカルに対して、オーギュストは訝るように動きを止める。

 

 そんなオーギュストに対し、ヒカルは不自然なくらい押し殺した声で語る。

 

「国を取り戻す為なら、どんな手段でも使う。その為なら全てが許される。あんた、それを本気で思っているのかよ?」

《無論だ。北米を解放する為なら、全てが肯定されて然るべきだ!! なぜなら、それこそが我らの悲願なのだから!!》

 

 自信に満ちた声で言い放つオーギュスト。

 

 次の瞬間、

 

 ヒカルは眦を釣り上げた。

 

「だけどッ アンタの言う大義で血を流すのはアンタじゃないッ アンタ以外の力の無い奴らだ!!」

「ッ!?」

 

 ヒカルの言葉に、オーギュストは一瞬言葉を詰まらせた。

 

 この時、ヒカルの脳裏にはレオスとリザが思い浮かべられていた。

 

 北米解放軍の作戦で住む場所を追われたレオスとリザ。

 

 オーギュストの掲げる「大義」とやらが、死血山河の上に空しく翻っているように、ヒカルには見えた。

 

《大義無き人は家畜と同じだッ 人は大義があってこそ、生きて行く事ができる!!》

「綺麗事をぬかすな!! 結局アンタ達は、そうやって自分達を自己正当化したいだけだろうが!!」

 

 放たれたミョルニルを、翼を翻して回避するヒカル。

 

 更に、もう一方のミョルニルがセレスティに迫る。

 

 次の瞬間、

 

 光速で振るわれたビームサーベルが、ミョルニルを繋ぐチェーンを両断してしまった。

 

「ヌッ!?」

 

 驚愕しつつ、体勢を立て直そうとするオーギュスト。

 

 それに対して、ヒカルは、静かに言い募る。

 

「あんた、さっき言ったよな。俺は何のために戦うのかって」

 

 眦を上げるヒカル。

 

「俺はアンタみたいなやつらを止める為に戦い続けるッ それが、俺の戦いだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒカルのSEEDが弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その気迫の前に、オーギュストは明らかに気圧され、とっさに後退しようとする。

 

 しかし、それは叶わなかった。

 

 ゲルプレイダーの逃げ道を塞ぐように、カノンのリアディス・ドライが、空間を薙ぎ払うように砲撃を浴びせたのだ。

 

 動きを止めるオーギュスト。

 

 その間に、ヒカルは攻撃準備を整える。

 

 フルバーストモードへ移行するセレスティ。

 

 その5つの砲門が、容赦なく解放される。

 

 それに対して、オーギュストができる抵抗は、もはや何も無かった。

 

 ゲルプレイダーの頭部が、腕が、足が、翼が吹き飛ばされていく。

 

 全ての戦う力を奪われ、大地へと落下していく黄色の翼。

 

 その様を、勝者となった蒼翼の天使は、静かに見下ろしていた。

 

 

 

 

 

PHASE-29「決意のSEED」      終わり

 


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