機動戦士ガンダムSEED 永遠に飛翔する螺旋の翼   作:ファルクラム

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PHASE-24「嘆きの空へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルト・カーマインは暗澹たる気持ちを抱えながら、自分が率いる組織の実情を再確認していた。

 

 現状は、一言で言えば絶望的である。

 

 先のオーブ軍との戦いで、補給拠点として重要な役割を担っていたアンカレッジ基地を始め多くの戦力を失った北米統一戦線の継戦能力は、著しい後退を来していた。

 

 戦端を開いてから、わずか数日でここまで追い込まれるとは、流石に予想外だった。

 

 小規模ゲリラ組織の泣き所だろう。一国の軍隊が本気を出せば、こんな物だった。

 

「どうにもならん」

 

 クルトが吐き出すように言った言葉を、一同は意外な面持ちで眺めていた。

 

 クルトはこれまで、常に先頭に立って北米統一戦線を率いていた。弱小組織である北米統一戦線がここまで戦ってこれたのは、クルトの豪胆な性格と緻密な作戦指揮に拠る所が大きい。

 

 そのクルトが弱気な発言をするところを、一同は今日初めて聞いたのだ。

 

「何言ってんだクルト。俺達はまだ負けてないぞ」

「そうだ。今、暴れている連中を叩き潰す事ができれば、まだ!!」

 

 口々に声を上げるメンバー達。

 

 確かに、敗れたとは言え北米統一戦線の戦力は、尚も充実している。象徴とも言うべきスパイラルデスティニーとストームアーテルも健在である。対して大和隊は少数。真っ向から戦えば、まだ勝機はあるように思える。

 

 しかし、クルトの危惧はそこでは無かった。

 

「確かに、今いる連中だけなら、俺達だけで倒す事ができるだろう。だが、連中に勝ったとして、その次はどうする? たとえ勝てても、俺達はその時点で終わりだぞ」

 

 仮に勝ったとしても、統一戦線側も少なくない損害を被り、多くの兵士を失うだろう。だが、オーブ軍はたとえ部隊が壊滅したとしても、更に後方から別の部隊を持って来ればいいのに対し、統一戦線側には早期に戦力補充を行う当ては無い。

 

 国際テロネットワークを仲介役にすれば、戦力補充自体は不可能ではないのだが、それでは遅すぎる。恐らく、戦力が整う前にオーブ軍の再侵攻を受け、それで終わりだろう。

 

「結局、オーブ軍が来た時点で俺達は終わりだったって訳だ」

 

 嘆息気味に告げられたアステルの言葉は、辛辣だが的確だった。

 

 少数とは言え一国家が運用する精鋭部隊が相手では、ゲリラ組織の戦力では如何ともしがたかった。

 

 クルトやアステルの発言の正しさを認めざるを得ない一同は、俯いて口を閉じるしかなかった。

 

「それでクルト、これからどうするの?」

 

 尋ねたのはイリアだ。

 

 先の戦いでは、ヒカルが駆るセレスティ相手に今一歩の所まで追い詰められた彼女だったが、妹の助けによって辛うじて生還を果たしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・皆にはつらい事だろうが」

 

 クルトは重々しく口を開いた。

 

「もはや、俺達の北米での闘争はこれまでのようだ。以後は身を隠しながら戦力を回復させる。これ以外に無いだろう」

 

 攻めても負け、守っても負け。それが確定した以上、残る手段は「逃げ」しかない。

 

 その言葉に、一部の幹部達は憤然と立ち上がろうとしたが、結局は何も言えず、再び座り直すしかなかった。

 

 もはや北米における抗争は難しいと判断せざるを得ない。

 

 だが、逃げるにしても、下手に逃げて追撃を喰らったりしたら、余計に損害を出しかねなかった。

 

「俺に、考えがある」

 

 そう言うとクルトは、自らの考えを披露した。

 

 

 

 

 

 続々と入ってくる情報を処理しながら、アンブレアス・グルックは、その全てに適切な指示を下して処理していく。

 

 今や地球圏最大の国家とも言うべき存在となったプラント。

 

 そのプラントの頂点に立つ最高評議会議長ともなれば、それは即ち世界の頂点に立つ事と同義でもある。

 

 当然、処理すべき案件も膨大な量に上る。

 

 しかし、だからこそ、大いなる責任とやりがいを感じるのだ。

 

 プラントをここまで大きくしたのは自分だと言う自負が、グルックにはある。

 

 ラクス・クラインが健在だったころは、軍縮や事業の縮小などが平然と行われる一方、他国の復興事業への支援は拡大していく一方だった。

 

 あれではプラントは、せっかく戦勝国になったと言うのに、その権利を放棄してやせ細る一方であった。

 

 権利は、行使してこそ意義があると言う事を、ラクス・クラインと彼女に連なる者達は全く理解していなかったのだ。

 

 だが自分は違う。

 

 自分なら、プラントをより大いなる高みへと誘う事ができる。誰もが夢見ながらなしえなかった、コーディネイターの理想郷を実現する事ができるのだ。

 

 その為の準備は、既に完了していた。

 

 グルックは、机の上の書類を一枚取り出した。

 

 書類は現状、最も憂慮すべき案件に関わる事だった。

 

「・・・・・・やはり、北米か」

 

 やや苦みを含んだ声で、呟きを漏らす。

 

 先の第1次フロリダ会戦において共和連合軍が敗れた結果、北米解放軍が勢いづく結果となってしまった。

 

 現在、ザフト軍は北上する解放軍を相手に、五大湖周辺で激しい攻防戦を繰り広げているが、状況は芳しいとは言えなかった。

 

 向こうは数が多いうえに勢いがある。ザフト軍も増援を送ってはいるが、今のところ戦線を維持するのに手いっぱいの状況だった。

 

 しかし、それももう、あと僅かの事だった。

 

「今は、つかの間の勝利に酔いしれているが良い。だが、最後に笑うのは、この私だ」

 

 北米解放軍は勢いに任せて、このままモントリオールに迫ろうとしている。

 

 だが、既に作戦の準備はできている。連中が良い気になっていられる時間は、間も無く終るだろう。

 

「かくして、君は北米を制して、また新たなる覇道へ一歩近づくと言う訳だ」

 

 笑みを含んだような揶揄する言葉に、グルックは僅かに顔を顰めながら応じる。

 

「よくも言う。白々しい」

「どうかした?」

 

 不機嫌さを隠そうともしないグルックに対し、声の主はわざとらしくおどけた調子で応じる。

 

「君だろう。あの宗教狂いの連中に次の作戦情報を漏らしたのは」

 

 グルックが言ったのは、先日会見したユニウス教団の教主アーガスと、その象徴たる聖女と呼ばれる少女の事だった。

 

 彼等はグルックに対し、来たる北米鎮定の際への軍事協力を申し出て来たのだが、本来なら最高軍事機密であるはずの作戦情報が外部に漏れる事はあり得ない。

 

 勿論、他の人間が漏らした可能性も否定できないが、数いる容疑者の中で最も怪しいのは、今話している声の主だった。

 

 対して、声の主はフッと笑みを漏らす。姿は見えないが、肩を竦めているであろう光景が、グルックには手に取るようにわかった。

 

「人聞きが悪いよ。僕は君が困っているだろうと思って協力しただけさ。何しろ、猫の手でも借りたい状況なんでしょ」

「・・・・・・ぬけぬけと」

 

 グルックとしては、自身の政権運営に協力する相手に対して利用価値を感じている一方、隙あればいつ裏切るとも知れない油断ならない相手であると認識している。

 

 利用価値がある内は結構。大いに利用してやるまでだが、同時にいつでも背中を刺されないように警戒しておく必要があった。

 

「そんな事より、今はもっと重要な事が他にあるんじゃない?」

「・・・・・・君に言われなくとも判っている」

 

 フンと不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、グルックは会話を打ち切った。

 

 北米に関する案件の中に、オーブ軍主力が北米への派遣を行うべく準備をしていると言う物があった。

 

 オーブは確かに、プラントにとっての同盟国であり、その強大な戦力は頼みになるだろう。

 

 だがしかし、同時にグルックにとっては目障りな存在となりつつあるのも事実だった。

 

「・・・・・・そろそろ、手を打つべき時かもしれないな、向こうの方にも」

 

 そう呟くグルックの目には、剣呑な鋭さが宿っているようだった。

 

「君は、作戦とは同時並行で、例の件を進めてくれ」

「例の・・・・・・ああ、あれね」

 

 グルックが言わんとしている事を了解し、声の主は頷きを返した。

 

 つい先日、グルックが長年にわたって探し求めて来た者の所在が判明したのだ。その奪還作戦の指揮に当たれと言う事だろう。

 

「必要な物は何でも使ってくれて構わない。何なら、私の子飼いの部隊も付けよう」

「それはありがたいかな。何しろ、向こうも一筋縄じゃいかないだろうし」

 

 そう言って声の主は笑う。

 

 全ての流れは、目の前の男、アンブレアス・グルックの描く通りに進もうとしている。そしてそれは、もう止めようの無いレベルに達していると言って良かった。

 

 世界が、再び動き出そうとしている。

 

 長年にわたって堰き止められてきた世界が、急激な濁流となって全てを押し流そうとしているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決着は、なるべく早期に付けた方が良いだろうな」

 

 一同を集めたブリーフィングで、ミシェルはそう言った。

 

 自分達の攻勢によって北米統一戦線を追い詰めつつある。その事は全員が自覚している事である。

 

 自分達は勝ちつつある。

 

 だが、まだ勝ってはいない。

 

 追い詰められた獣ほど凶暴になるように、追い込まれた北米統一戦線が何をしでかすか、誰も予想ができなかった。

 

 現在、北米統一戦線は残る戦力を、件のシャトル発着施設へ集結させている事は掴んでいる。

 

 施設を背景に最後の決戦を挑むのか? それとも戦力を宇宙へ脱出させるつもりなのか? それは判らない。

 

 一つ言えるのは、少なくともあと一回は、北米統一戦線と戦わなくてはならないと言う事だった。

 

「今度は小細工抜きだ。連中とは正面から決着を付けよう」

 

 ミシェルの言葉に、誰もが目を剥いた。まさか、そのような大胆な作戦案が提示されるとは思っていなかったのだ。

 

「しかし、統一戦線は、まだ充分な戦力を持っています。まともに戦ったら勝ち目は薄いんじゃ?」

「大丈夫だ」

 

 懸念の声を上げるレオスに対して、ミシェルは自信たっぷりに言い切った。

 

「統一戦線は今回、基地施設を守りながら戦うと言うハンデを抱えているのに対し、俺達は自由に動く事ができる。更に、前2回の戦いで俺達が奇策を使った事で、連中は今回も俺達の奇策を警戒する可能性がある。そこで正面から攻撃を仕掛ければ勝機は十分にあるだろう」

 

 ミシェルの言葉は、充分に説得力があるように思えた。

 

 戦力の低下した北米統一戦線が打って出る可能性は低い。戦いの主導権は、完全にオーブ軍が握っていると言って良かった。

 

 ミシェルの作戦説明を聞きながら、ヒカルは脳裏でレミリアの事を考えていた。

 

 あいつもきっと、最後まで抵抗する事をやめようとしないだろう。

 

 恐らく、今回が最後の戦いとなる。

 

 だが、もう手加減する事は許されない。レミリアも死にもの狂いで挑んでくるだろう。それに対して、実力的に彼女に劣るヒカルに、手を抜いて戦う余裕はなかった。

 

 最後に生き残るのは、ヒカルか? それともレミリアか?

 

 ヒカルの心には、悲壮とも言える覚悟が芽生えつつある。

 

 そんなヒカルの横顔を、カノンは憂色に満ちた瞳で眺めていた。

 

 

 

 

「ね、ヒカル」

 

 ブリーフィングが終わり部屋を出ると、追いかけてきたカノンが声を掛けてきた。

 

「ほんと、大丈夫?」

「大丈夫って、何がだよ?」

 

 怪訝な調子で、ヒカルが振り返ると、カノンは真剣な眼差しで見上げて来ていた。

 

 普段の姦しさが鳴りを潜めたような幼馴染の態度に、ヒカルは不審な思いを抱きつつもカノンの言葉を待った。

 

「レミルの事、ヒカル、まだ引きずってるんじゃないの?」

 

 その言葉に、ヒカルは軽い驚きを覚えた。

 

 カノンはレミル(レミリア)が女だと言う事を知らない。報告もしていないので、大和隊でその事を知っているのはヒカルだけである。

 

 だと言うのに、カノンは何かを感じてヒカルにそう尋ねてきたのかもしれない。だとしたら、「女の勘」などと言う馬鹿げた言葉も、あながち無碍にはできないだろう。

 

「ヒカル、あたしは真面目に!!」

「判ってるって」

 

 妙にニヤけていたのがばれたのだろう。食って掛かってくるカノンの頭をポンポンと軽く叩きながら、ヒカルは踵を返す。

 

「考えすぎだよ。あいつがまた立ちはだかるなら、今度こそ俺が倒す。それは約束するよ」

「ヒカル・・・・・・・・・・・・」

 

 背中を向けて去って行くヒカルを、カノンは呆然と眺めて見送る。

 

 やがて、ポツリと呟きを漏らした。

 

「・・・・・・違うの・・・・・・違うんだよ、ヒカル」

 

 士官学校時代、ヒカルとレミル(レミリア)が仲が良かったのを、カノンは間近で見てきている。

 

 そんな2人が争わなくてはならないと言う現状に、カノンは憂いを覚えずにはいられないのだ。

 

 だからもし、僅かでもヒカルに迷いがあるなら、出撃を辞退してもらおうと考えたのだ。

 

 しかし、ヒカルはそんなカノンの想いなど知らぬげに、友との決戦の場に赴こうとしている。

 

 それがカノンには、堪らなく悲しかった。

 

 だが、今回の戦いに赴くに当たって、カノンにも役割が与えられている。それは、ヒカルとレミル(レミリア)との戦いに決着を付ける上で、とても重要な物である。

 

 好むと好まざるとにかかわらず、少女もまた、戦いの流れの中に引きこまれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 接近する反応が、地平線上に複数のぼるのを、監視員は見逃さなかった。

 

 空中を高速向かってくる機影は、間違いなくオーブ軍の物である。

 

「まさか、正面から来るとはな・・・・・・」

 

 クルトは舌打ち交じりで呟きを漏らす。

 

 少数戦力のオーブ軍だからこそ、前2回同様に奇策を使ってくる。と考えていたのだが、そのもくろみを外された形である。

 

 だが、

 

「これで、俺達の勝ちだ」

 

 不敵に呟くと、背後に振り返った。

 

「シャトルの発進準備を急がせろ。連中は速い。あっという間に攻め込まれるぞ」

 

 作業を急ぐ必要があった。

 

 現在、レミリアとアステルが殿部隊を率いて出撃しているが、それとていつまでも持ち堪えられる訳ではない。

 

 クルトとイリアは、先の戦いで乗機を失っている為、出撃する事ができない。今は作業を進めつつ、レミリア達の健闘を祈るしかなかった。

 

 一方その頃、シャトル発着基地へと迫りつつあるオーブ軍の方でも、迎撃の為に接近しつつある北米統一戦線を捉えていた。

 

 その先頭を進んでくるのは炎の翼を羽ばたかせる2体の鉄騎。スパイラルデスティニーとストームアーテルだ。

 

《来たぞ。全員、対デスティニー戦用のシフトを展開しろ!!》

 

 ミシェルの命令が鋭く飛ぶ。

 

 事前の協議で、対スパイラルデスティニー用の戦術を、ミシェルを中心にして構築完了している。その役割分担に従い、各人は素早く動いた。

 

 ヒカルはF装備のセレスティを駆って前へと出ると、フルバーストモードへと移行、5つの砲門から閃光を撃ちだす。

 

 案の定と言うべきだろう。迫る閃光に対して、スパイラルデスティニーが前に出てビームシールドを展開、防御しにかかった。

 

 弾かれる閃光。

 

 セレスティからの先制の一撃を防いだレミリアは、同時に8基のアサルトドラグーンを射出し、大和隊の面々に攻撃を仕掛けようとする。

 

 だが、

 

「やらせねえぞ!!」

 

 次の瞬間、一気に距離を詰めたヒカルのセレスティが、抜き打ち気味にビームサーベルを抜刀、セレスティに斬り掛かる。

 

 今回、ヒカルの任務は、初手からスパイラルデスティニーとの対決となる。敵の最強戦力を押さえ、本隊の進撃を支援するのが目的だった。

 

「ヒカル!?」

 

 一瞬、振り翳されたセレスティの剣をビームシールドで防御するレミリア。

 

 刃と盾が激しく接触し、火花を散らす両者。

 

 次の瞬間、セレスティとスパイラルデスティニーは、同時に弾かれるように離れる。

 

 タイミングを合わせたかのように振り向いた瞬間、

 

 ビームライフルの銃口が、互いを指向する。

 

 交錯する閃光。

 

 セレスティのライフルが1丁であるのに対し、スパイラルデスティニーは2丁。単純な火力戦ではセレスティはスパイラルデスティニーに敵わない。

 

 だから、

 

「これで!!」

 

 再びビームサーベルを抜いて、ヒカルはスパイラルデスティニーへ斬り込んで行く。

 

 火力で敵わないなら、接近戦で勝機を見出すしかない。

 

 しかし、それはレミリアにも読まれていた。

 

「させないよ!!」

 

 レミリアは8基のアサルトドラグーン全てを引き戻して、自機の周辺に配置、40門の一斉砲撃をセレスティに仕掛ける。

 

 吐き出された閃光は、スパイラルデスティニーに斬り掛かろうとしていたセレスティの進路を塞ぐように射かけられる。

 

 その様子に、ヒカルは舌打ちしながら機体に急制動を掛ける。

 

 これには堪らず、攻撃を中断するしかなかった。

 

 その間にレミリアは、体勢を立て直すことに成功する。

 

 クスィフィアス改連装レールガン、3連装バラエーナ・プラズマ砲、ビームライフルを構え、更に周囲に展開したアサルトドラグーンを加え、52連装フルバーストを叩き付ける。

 

 その攻撃に対し、ヒカルはセレスティの双翼を羽ばたかせ、辛うじて回避する。

 

 同時に腰部のレールガンで牽制の射撃を仕掛けつつ、再び斬り込んで行く。

 

 迎え撃つように、スパイラルデスティニーのビームサーベルを抜いて構えるレミリア。

 

 次の瞬間、互いの剣は蒼穹で交錯した。

 

 

 

 

 

 セレスティとスパイラルデスティニーが戦闘を開始すると同時に、両軍の他のメンバー達も動き始めた。

 

 ストームアーテルを駆るアステルは、レミリアのスパイラルデスティニーを掩護すべく速度を上げる。

 

 だが、その前に深紅の装甲を持つリアディスが立ちふさがる。

 

「行かせないっての!!」

 

 ビームライフルを撃ち放つミシェル。

 

 その閃光を回避すると、アステルはストームアーテルを上昇させつつ、ライフルモードのレーヴァテインを構えてトリガーを絞る。

 

「邪魔をするな!!」

 

 低い声で言いながら、アステルはレーヴァテインのトリガーを引き絞る。

 

 上方から飛来する閃光。

 

 対して、ミシェルはリアディス・ツヴァイを地上すれすれに疾走させながら回避する。

 

「やっぱ、簡単には行かないよな。ならッ!!」

 

 叫ぶと同時に、リアディス・ツヴァイのスラスターを全開にして飛び上がるミシェル。

 

 同時に、背部に装備したムラマサ対艦刀を抜き放って切り込んでいく。元より、リアディス・ツヴァイは接近戦装備の機体である。距離を開けての戦闘はミシェルの本意ではなかった。

 

 対抗するように、アステルもレーヴァテインを対艦刀モードにして迎え撃つ。

 

 ストームアーテルの大剣が風を巻いて旋回し、リアディス・ツヴァイの双剣は鋭く奔る。

 

 しかし、互いの剣は互いを捉えず、ただ空気を攪拌するだけにとどまった。

 

「チッ」

「やるねえ!!」

 

 アステルは舌打ちを洩らし、ミシェルは冷や汗をかきながら軽口を叩く。

 

 その間にアステルは、左手にビームサーベルを抜いて二刀流に構えると同時に、スラスター出力を上げて距離を詰めに掛かる。

 

「来るかよ!!」

 

 突撃してくるストームアーテルを交戦的な瞳で見据えると、ミシェルはリアディス・ツヴァイの腰をグッと落として迎え撃つ姿勢を取る。

 

 レーヴァテインが、真っ向から振り下ろされる。

 

 対抗するように振り上げられるムラマサ。

 

 2本の対艦刀が刃を交えた瞬間、

 

 ムラマサの刀身は中途から折れ飛んだ。

 

 剣閃の鋭さは、アステルの方が上回っている様子だった。

 

 舌打ちするミシェル。

 

 対抗するように、アステルは好機を捉え追撃を掛ける。

 

 左手のビームサーベルを、切り上げるようにしてリアディス・ツヴァイへ振るう。

 

 しかし次の瞬間、

 

「させるかよォ!!」

 

 咆哮と共にミシェルは腕部に装備した対装甲実体剣を抜き放ち一閃する。

 

 刃と装甲が火花を散らす。

 

 VPS装甲相手に実体剣の効果は薄いが、しかしそれでも衝撃が中のパイロットを襲う事は避けられない。

 

「グッ!?」

 

 詰まる息を噛み殺しながら、どうにか姿勢を保つアステル。

 

 しかし、その間にミシェルはリアディス・ツヴァイの体勢を立て直して再びストームアーテルと対峙する姿勢を見せる。

 

 その姿を見て、舌打ちを漏らすアステル。

 

 自分とレミリアがそれぞれ拘束されている隙に、オーブ軍の侵攻を許してしまっている。

 

 その間に、防衛線を潜り抜けたイザヨイが、次々とシャトル発着基地へと迫っていた。

 

 それに対抗するように、複数のジェガンが砲火を集中させる。

 

「これ以上行かせるな!!」

「何としても死守するぞ!!」

 

 ジェガンのパイロット達が、手にしたビームカービンライフルやアグニで火線を集中させてくる。

 

 1機のイザヨイが、直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

 しかし、他の機体は防衛線を突破、基地への侵入を果たしていた。

 

 その中に、レオスのイザヨイもあった。

 

 レオスは機体を人型に変形させると、地面に着陸させ、手にしたビームライフルを撃ち放つ。

 

 たちまち、格納庫と思しき施設が爆炎を上げた。

 

 そこへ、ソードストライカーを装備したジェガンが、シュベルトゲベール対艦刀を構えて斬り掛かってくるのが見えた。

 

「んッ!!」

 

 吐く息を一瞬止めながら、抜き放ったビームサーベルを横なぎに振るうレオス。

 

 刀身が軽い分、動きはレオスの方が速い。

 

 次の瞬間、胴を薙ぎ払われたジェガンは爆炎を上げて四散する。

 

 その爆炎を背後に見ながら、レオスは更に基地の奥へと侵攻していく。

 

 北米統一戦線側の機体はほとんど見かける事は無い。どうやら、大半が前線に出るか、あるいは味方が撃破したらしかった。

 

 無人の野を行くように、レオスのイザヨイは基地内を進んで行く。

 

 やがて、その視界の中に、シャトルの発着場が飛び込んできた。

 

 しかし、その姿を見た瞬間、レオスは思わず息を呑んだ。

 

「これは・・・・・・・・・・・・」

 

 白煙を上げるシャトルが、発進準備を整えている。

 

 北米統一戦線は、初めからこの基地を守るつもりなど無かった。彼等は自分達の戦力を撃宙へ脱出させる為に時間稼ぎをしていたのだ。

 

「レオスより各機へ。発進準備中のシャトルを確認した!!」

 

 叫ぶと同時に、レオスもイザヨイを駆って飛び出していく。

 

 そこへ、護衛に残っていた最後のジェガンが応戦してくるのが見える。

 

 対抗するようにビームライフルを放つレオス。

 

 敵が脱出を目指しているのなら、それを許すわけにはいかなかった。

 

 

 

 

 

 その頃、セレスティとスパイラルデスティニーの激突も、白熱さを増しつつあった。

 

 追撃を掛けるセレスティに対して、スパイラルデスティニーは巧みに攻撃を回避しながら、隙を見て反撃に転じる戦いを繰り返している。

 

 両者、目まぐるしく位置を変えながら砲撃を繰り返している為、なかなか命中弾を得られない。

 

 だが、レミリアには作戦があった。

 

 ヒカルは笠に掛かって攻めているつもりだろうが、レミリアはその間、徐々にスロットルを絞って、互いの距離を気付かない程度に縮めている。

 

 そうしておいてセレスティを必中距離まで引きずり込み、フルバーストの一撃で仕留める。それがレミリアの考えだった。

 

 距離を詰めれば照準も正確さを増す。それなら、セレスティの戦闘力だけを奪う事も不可能ではないはず。

 

 両手両足を吹き飛ばした上で、推進器を破壊し、セレスティを戦闘不能に追い込む。それがレミリアの立てた作戦だった。

 

 その時、セレスティが速度を上げるのが見えた。恐らくヒカルは、一気に勝負を掛ける心算なのだ。

 

 レミリアの目が鋭く光る。

 

 仕掛けるなら今だった。

 

「行、け!!」

 

 翼にマウントした8基のアサルトドラグーンを射出するレミリア。そのままセレスティを包囲するように機動させる。

 

 その様子は、ヒカルの目にも見えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・レミリア、お前は確かに強いよ」

 

 8基のアサルトドラグーンが、セレスティへの包囲網を完成させるなか、ヒカルは真っ直ぐにセレスティをスパイラルデスティニーへ向かわせる。

 

「正直、今の俺じゃ、お前には敵わない。それは認めるよ」

 

 ドラグーンの砲門が光を帯びる。

 

「けどな!!」

 

 攻撃態勢に入ったドラグーン。

 

「俺にも、たった一つだけ、お前にアドバンテージがある!!」

 

 次の瞬間、

 

 突如、飛来したミサイルやビームが、攻撃配置に着いていたドラグーンを一斉に吹き飛ばした。

 

「なッ!?」

 

 驚くレミリア。

 

 今まさに、必殺の攻撃を繰り広げようとしていたドラグーンが、一瞬にして全て吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 その視界の先で、緑色の装甲を持つリアディス・ドライが全砲門を開いている姿があった。

 

「やらせないよ、レミル!!」

 

 鋭く奔るカノンの声。彼女が、ドラグーンを全て叩き落としたのだ。

 

「その声・・・・・・まさか、カノン!?」

 

 驚愕と共に、舌を打つレミリア。

 

 まさか、年下の友人である彼女まで、こうして戦場に来ているとは考えても見なかった事だった。

 

 だが、呆けている余裕は、レミリアには無い。

 

 必殺の一撃が回避された事で、一瞬だが無防備になってしまった。何とか体勢を立て直さなければ。

 

 そう思い、虚像を発生させながら距離を置こうとする。

 

 視覚をかく乱してしまえば、僅かでも時間は稼げるはず。

 

 しかし、そう思った次の瞬間、セレスティは幻像に惑わされる事なく、本物のスパイラルデスティニーめがけて突っ込んできた。

 

「逃がすかよ!!」

「ッ!?」

 

 息を呑むレミリア。

 

 セレスティが振るうビームサーベルの一閃を、後退する事で辛うじて回避する。

 

 しかし、逃げようとした方向へ、リアディス・ドライからの砲撃が降り注ぎ、回避ルートを限定されてしまう。

 

 これが、ヒカルの言う唯一のアドバンテージだ。

 

 確かにレミリアは最強の存在だ。ヒカル自身が認めた通り、1対1では勝機は限りなく薄い。

 

 しかしレミリアは、これまであまりにも、ヒカルに対して手の内を晒しすぎた。その為ヒカルは「対スパイラルデスティニー用」の戦術を、充分に構築する事ができたのだ。

 

 1対1で敵わないのなら、2人で掛かればいい。

 

 作戦を考えたのはヒカル自身である。

 

 ヒカルがフォワードで攻撃を担当し、カノンが後方で援護を担当する。そうしてレミリアが取れる選択肢を限局すれば、勝機はおのずと拡大すると言う物である。

 

 レミリアにとって状況が有利になれば、彼女はフルバーストを使って一気に決着を付けようとすると踏んでいたのだが、その読みも見事に的中していた。

 

 これで、ドラグーンを全て潰し、レミリアからオールレンジ攻撃を奪う事に成功した。あとはデスティニー本体のみである。

 

 追い詰められている。

 

 一方のレミリアも、そう感じずにはもいられなかった。

 

 まだまだ粗削りなようだが、ヒカルの技量は士官学校にいたころに比べて飛躍的に向上していた。

 

 まさか、性能に差がある機体で、ここまで自分が追い詰められるとは思っても見なかったのだ。

 

 しかし、

 

「だからって・・・・・・・・・・・・」

 

 言った瞬間、

 

「ボクも、ここで負ける訳には行かないんだ!!」

 

 レミリアのSEEDが発動する。

 

 次の瞬間、動きに鋭さを増すスパイラルデスティニー。

 

 一瞬にしてセレスティを振り切り、急降下する。

 

 同時に抜き放った2本のビームサーベル。

 

 目の前には、反応に追い付く事が出来ずに立ち尽くしているリアディス・ドライの姿がある。

 

「遅いよ、カノン!!」

「れ、レミル!!」

 

 尚も激しく攻撃し、カノンはスパイラルデスティニーの接近を阻もうとしてくるが、レミリアは余裕すら感じさせる動きで、全ての攻撃を回避してしまった。

 

 カノンの技量はヒカルに比べてだいぶ劣っている。その事をレミリアは既に見抜いていた。照準の速度も遅いし、機体の動きもセレスティに比べれば鋭さが足りない。

 

 その為、レミリアにとってカノンの攻撃を回避する事は容易だった。

 

 そして次の瞬間、スパイラルデスティニーは剣の間合いにリアディス・ドライを捉えた。

 

「あッ!?」

 

 恐怖にひきつるカノン。

 

 その一瞬の隙に、スパイラルデスティニーが振るったビームサーベルは、リアディス・ドライの両腕を肩から斬り落としてしまった。

 

「カノン!!」

 

 両腕を失い倒れるリアディス・ドライの姿を見て、思わず声を上げるヒカル。

 

 同時に、脳が焼き切れそうなほどに感情を爆発させる。

 

「レミリアァ!!」

 

 レミリアがカノンを傷付けた。その事実が、ヒカルの怒りに撃鉄を落とす。

 

 限界を超えてフル加速し、一気に斬り込んでいくセレスティ。

 

 対してレミリアも、スパイラルデスティニーを振り返らせて双剣を構え直す。

 

 斬撃を繰り出す両者。

 

 攻撃速度は、スパイラルデスティニーの方が速かった。

 

 振り下ろされた刃。

 

 対してヒカルも、シールドを掲げる事で辛うじて防御する事に成功する。

 

「ウォォォォォォ!!」

 

 咆哮と共に、スラスター出力を全開まで上げるヒカル。

 

 セレスティは突撃の勢いそのままに、シールドでスパイラルデスティニーを殴りつけてしまった。

 

「グッ!?」

 

 凄まじい物理衝撃をまともに受け、思わず息を詰まらせるレミリア。

 

 そこへ、ビームサーベルを振りかざしたセレスティが斬りかかってくるのが見えた。

 

「やらせ、ない!!」

 

 既に、ビームサーベルを振りかぶる時間は無い。

 

 そう判断したレミリアは、とっさにスパイラルデスティニーが把持しているビームサーベルをパージ、パルマ・フィオキーナ掌底ビーム砲を起動して叩きつける。

 

 交錯する一瞬。

 

 次の瞬間、セレスティの肩装甲が直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

 対してスパイラルデスティニーは無傷だ。

 

 すれ違う両者。

 

 振り返ったのは、スパイラルデスティニーが先だった。

 

 腰部の連装レールガンを展開し、砲撃を浴びせる。

 

 対して、シールドをかざして防御するヒカル。

 

 しかし、あまりの衝撃の前に、シールドが保たずに粉砕される。

 

 だが、

 

「ま、だまだァ!!」

 

 とっさにシールドの残骸をパージすると、ヒカルはビームライフル、バラエーナ・プラズマ収束砲、クスフィアス・レールガンを展開、5連装フルバーストをスパイラルデスティニーに浴びせる。

 

 その攻撃を、辛うじて回避するレミリア。

 

 否、とっさの事で回避が追い付かず、バラエーナの直撃を受けた左腕が吹き飛ばされた。

 

 バランスを崩すスパイラルデスティニー。

 

「そんなッ!?」

 

 コックピット内に鳴り響く部位欠損警報。

 

 まさか、自分がここまで追い込まれるとは思っていなかったレミリアは、驚愕で呻き声を上げる。

 

 そこへ、斬りかかってくるセレスティ。

 

「これで、とどめだ!!」

 

 ヒカルの咆哮と共に、振り翳されるビームサーベル。

 

 しかし次の瞬間、

 

 突如、両者の間に割り込んだ機体が、展開したビームシールドでセレスティに剣を受け止めた。

 

 漆黒の機体。ストームアーテルだ。

 

 ミシェルのリアディス・ツヴァイと戦闘を繰り広げていたアステルだったが、辛うじてその戦闘に勝利して駆け付けたのだ。

 

 敗れたミシェルはと言えば、自身は無事だったが機体は大きく損傷した為、後退するしかなかった。

 

「アステル!?」

《行け、レミリア!!》

 

 いつになく強い口調で、アステルは言葉を叩きつけてきた。

 

《ここは俺が引き受ける。お前は行け!!》

「で、でも!!」

《早くしろ!!》

 

 逡巡するレミリアを叱咤するように言うと、アステルはライフルモードのレーヴァテインでセレスティを牽制する。

 

 尚も逡巡を見せるレミリア。

 

 だが、セレスティと交戦を開始したストームアーテルを見て、機体を反転させる。

 

 アステルの言う通り、ここで倒れる訳にはいかないのだ。

 

 しかし、

 

「死なないで、アステル・・・・・・ヒカルも・・・・・・」

 

 尚も刃を交わし続ける男達にそっと告げると、レミリアはスラスターを吹かして飛び去って行った。

 

 そのスパイラルデスティニーの姿を見送ると、アステルは苦笑交じりにため息を吐いた。

 

「・・・・・・行ったか」

 

 まったく、世話の焼ける幼馴染を持つと苦労させられる。

 

 だが、これで良い。

 

 レミリアは北米統一戦線の象徴だ。彼女さえ生き残れば、まだまだ自分達は戦う事ができるのだから。

 

「・・・・・・・・・・・・さて」

 

 低い声で呟くと、再びセレスティへと向き直る。

 

 自分の役目は果たした。あとは、最後の時間稼ぎをするだけだった。

 

「来い、相手になってやる」

 

 レーヴァテインを構え直しながら、不敵に呟くアステル。

 

 あと一歩で大魚を逸したヒカルは、冷めぬ怒りの瞳をストームアーテルへと向けてきている。

 

 ヒカルとアステル。両者とも消耗の激しい身ではあるが、もう一戦交えない事には互いに退く事もできなかった。

 

 レーヴァテインを両手で把持して構えるストームアーテル。

 

 次の瞬間、ビームサーベルを構えたセレスティが斬り込んで来た。

 

 

 

 

 

 一方その頃、セレスティの追撃を振り切ったレミリアは、後ろ髪を引かれつつも、シャトルとの合流を急いでいた。

 

 向かってくるイザヨイをビームサーベルで斬り捨て、更に1機を蹴り飛ばす。

 

 ここに来るまでに、多くの物を犠牲にしてしまった。

 

 だからこそ、生き残らなくてはならない。

 

 シャトルの周辺では、1機のジェガンが最後の抵抗を行っているのが見える。

 

 しかし、勢いがオーブ軍の側にある以上、その抵抗もか細いものとならざるを得ない。

 

 その最後の1機が、直撃を浴びて吹き飛ばされた。

 

 レミリアの目から涙が零れる。

 

 みんな、レミリア達を逃がす為に、犠牲になっているのだ。

 

《早くして、レミリア!!》

 

 通信機から、イリアの声が聞こえてきた。彼女は今、シャトルのコックピットで発進準備を整えているはずだった。

 

 姉の声に応えるように、更にスピードを上げる。

 

 スパイラルデスティニーの存在に気付いたオーブ軍が攻撃を仕掛けて来るが、レミリアは虚像を混ぜた機動で冷静に回避、開いたハッチへと飛び込む。

 

 それを確認したクルトが、横のイリアに合図を送った。

 

「良いぞ、出せ!!」

 

 言い放つと同時に、シャトルはスラスターから盛大に噴射して飛び上がって行く。

 

 途端に、体を突き上げる衝撃が襲いかかってきて、一気に上昇を開始する。

 

 その衝撃をその身で受けながら、クルトは会心の笑みを浮かべていた。

 

 これで良い。

 

 オーブ軍との戦闘では負けっぱなしだった北米統一戦線だったが、最後の最後で勝利する事ができた。

 

 クルトは敗北を免れ得ないと悟った時点で、「勝つ為」ではなく「負けない為」の作戦展開を行った。その為の手段として、レミリア、アステルを含む残存戦力で抵抗を行いつつ、シャトル発着場の防衛に当たった。

 

 ただし、これはあくまで囮である。

 

 抵抗空しく部隊は壊滅。生き残った少数の戦力のみが、辛うじて宇宙へ脱出した。とオーブ軍は思うだろう。

 

 だが今頃、把握されていない西部の海岸拠点からは、北米統一戦線の構成員が、潜水艦アドミラル・ハルバートンで脱出を行っているはずだった。

 

 彼等は地上に残って戦力の再建に貢献すると同時に、いずれ行う大陸での捲土重来に際し再び参集してもらう事になる。

 

 北米といつ戦線は確かに破れた。戦力も壊滅状態に陥った。

 

 しかし、最も肝心な「魂」の部分は、生き残らせる事に成功したのだ。

 

 シャトルが上昇する衝撃は、格納庫内で機体を固定するスパイラルデスティニー、そのコックピットに座ったままのレミリアにも感じる事ができた。

 

 機体が上昇する毎に、北米大陸が、自分の故郷が遠ざかって行くのが分かる。

 

「・・・・・・ボクは、必ず帰ってくる・・・・・・ここに必ず」

 

 流れ出る涙を拭く事もせず、レミリアは震える声で呟く。

 

 やがて、急激に上昇するシャトルが、成層圏を突きぬけていく。

 

 後には、ただ呆然と見上げるオーブ軍がいるのみだった。

 

 

 

 

 

PHASE-24「嘆きの空へ」      終わり

 


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